ホモ・サピエンスの涙(映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ホモ・サピエンスの涙』とは、2019年に制作された、スウェーデンのドラマ映画である。監督脚本はロイ・アンダーソンである。全33シーンをワンシーンワンカットで撮影し、ほぼアナログ手法を使ってスタジオで撮影された。ヴェネチア国際映画祭では、銀獅子賞を獲得した。
時代や年齢、性別も様々な人々の人生を淡々とシュールに描いた作品である。話に繋がりは無く、断片的シーンの連続である。
絵画のような美しいシーンの数々と、絶望と希望を繰り返す人間の滑稽な姿が魅力である。

込み合うバスの中で「自分の望みがわからない」と大泣きする男が乗っている。男は、不安を他の乗客にもらす。独り言であったこの悩みを、男が他の乗客に訴える事で、ちょっとした乗客同士の言い争いに発展する。男を情けないとなじった乗客の言葉によって、男を擁護する発言をする乗客も現れる。滑稽なシーンだが、他人の為に言い争う所に人間のちょっとした優しさを感じるシーンでもある。同じバスにのっていても乗客の目的地はバラバラである。人生においても地球という同じ乗り物に乗ってはいるが、人生の目的も目指す所も個々に違っている。望みや目的を失った男を、同じ乗客として優しく受け入れる所にホッとさせられるシーンである。

嫉妬から女を殴るシーン

女につかみかかり抑えられる男

魚屋の前で女が男と楽しそうに話をしていた事に嫉妬した男が、女に何度も殴りかかるシーンである。暴力が激しくなると周りの客たちが止めに入るのだが、止めては男が落ち着くと解放し、また男が女に向っていくとまた止めるのである。悲惨な状況ではあるものの、見ている側は思わず笑ってしまうコントの様なシーンである。しかも男はいきなり「俺の愛を知ってるだろう」と殴った女に言うと、女は「知ってるわ」とだけ答える。周りのお客たちや魚屋の店員たちの、淡々とした動きや表情がシュールで不謹慎な笑いを誘う名シーンである。

『ホモ・サピエンスの涙』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

アナログ手法に拘った、撮影方法

雨の中、娘の靴紐を結ぶ父親

監督のロイ・アンダーソンの撮影方法は、CGをほぼ使わずアナログ手法を使う事で有名である。巨大なスタジオにセットを組み、模型や手書きのマットペイント(背景画)を多用している。撮影が行われた巨大スタジオはストックホルムの中心部にあり、「studio24」と呼ばれている。因みに製作スタジオである「studio24」は、監督のロイ・アンダーソンが所有している。2つの防音スタジオに編集室、1つの音声編集スタジオとサウンドミックススタジオがある。何千もの衣装ストックと、セットが揃っている。
例えば雨のシーンもスタジオで撮影されており、180メートルのプラスチックパイプに1万5千個の極小の穴をあけて作られた、手作りの雨装置である。また、空を飛んでいるカップルのシーンは、下に広がる都市全体が巨大なセットになっている。このシーンに使われたケルンの街の模型は、1/200の縮尺で建てるのに一か月かかっている。
こうして作られた本作の、数々の美しいシーンは画家であるマルク・シャガールをはじめ、イリヤ・レーピン、オットー・ディックスなどの絵画からインスピレーションを受けていると、監督は公言している。

ロイ・アンダーソン監督が伝えたかった事

楽し気に踊る若い女性たち

インタビューでロイ・アンダーソン監督は、「人生と言うのは悲劇的なものと、希望に満ちたものが織り成すものである」と、この映画で伝えたかったと語っている。常に存在の美しさ、生の美しさを強調したいがそのためにはコントラストが必要である。悪い一面や残酷な一面を見せなければならないとも語っている。音楽や物語、色味も含め悲哀に満ちたシーンが多い中、明るい曲にのって踊り出す三人の若い女性たちの楽し気なシーンとのコントラストに希望を見出す人も多い筈である。また、これまでのロイ・アンダーソン監督作品に無かったナレーションが今作には取り入れられている。このことに関しては、話を前に進める事や観客の興味を引くという大きなポイントを意識しているという。今回の登場人物は、様々な年代層の人なので別の年代層の観客には、ピンとこない可能性もある。だから解説が必要となると思いナレーションを取り入れたと語った。

『ホモ・サピエンスの涙』の主題歌・挿入歌

挿入歌:ザ・デルタ・リズム・ボーイズ「Tre trallande jäntor」

劇中、ユーモアたっぷりに、人間の絶望や悲劇が描かれている部分が多い。この曲にのって若い女の子たちが踊るシーンは、沢山のエピソードとシーンの中でも明るく希望に満ちたシーンの一つである。
陽気な三人娘が、カフェのテラスから聞こえてくるこのメロディにのって踊り出すというシーンである。テラスで食事をしている客たちも、彼女たちの楽しげな姿に注目し拍手を送るのである。彼女たちの登場と、鼻歌交じりの三人娘がやって来るという楽し気な歌詞の内容とが、シンクロしている部分も注目するところである。

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