ホモ・サピエンスの涙(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ホモ・サピエンスの涙』とは、2019年に制作された、スウェーデンのドラマ映画である。監督脚本はロイ・アンダーソンである。全33シーンをワンシーンワンカットで撮影し、ほぼアナログ手法を使ってスタジオで撮影された。ヴェネチア国際映画祭では、銀獅子賞を獲得した。
時代や年齢、性別も様々な人々の人生を淡々とシュールに描いた作品である。話に繋がりは無く、断片的シーンの連続である。
絵画のような美しいシーンの数々と、絶望と希望を繰り返す人間の滑稽な姿が魅力である。

『ホモ・サピエンスの涙』の概要

古い友人に無視され続ける男

『ホモ・サピエンスの涙』とは、2019年製作のスウェーデンのドラマ映画である。監督脚本はロイ・アンダーソン、出演はマッティン・サーネル、タティアーナ・デローナイ、アンデシュ・ヘルストルムなどである。
ヴェネチア国際映画祭では銀獅子賞、ゴールデン・ビートル賞ではセットデザイン賞、ヨーロッパ映画賞では視覚効果賞を受賞している。
映画レビューサイトFilmarksでは3.6/5、映画.comでは3.2/5、Yahoo!映画では3/5と、評価も高い。
絵画を見ているようなシーンの数々は、ほぼCGを使わず巨大なスタジオにセットを組み、アナログな手法にて撮影された。全33シーンを、ワンシーンワンカットで撮影されているのもこの映画の特徴である。
内容については、時代や年齢性別の違う様々な人々の人生を、淡々と描く群像劇である。断片的なシーンの連続である為、意味についてはみる人の判断に委ねられる映画である。
登場人物も個性的で、神への信仰を失った牧師や、何年かぶりに会った友人に無視され続ける男など様々な人間が登場する。
映像の美しさや、人間たちの絶望や悲劇、希望や幸せなどをシュールに描き、思わず笑ってしまう可笑しみが魅力である。

『ホモ・サピエンスの涙』のあらすじ・ストーリー

切ないホモ・サピエンスたち

ワインをこぼすウエイター(左)

抱き合いながら空を飛んでいる男女。

夫婦らしき中年の男女が、高台のベンチに座ってのどかな街の様子を眺めている。不意に女が「もう九月ね」と言う。男は「うん」とだけ答えるのだった。

中年の男は、美味しい食事を作って妻を驚かせようと、両手いっぱいの食材を持っていた。男は不意に立ち止まると、「聞いてくれ」と映画を観ている私たち(観客)に話しかけるのだった。男の話では、先週の金曜日に学生時代の友人で、何年も会っていなかったスヴァルケル・オルゾンに偶然会ったのだと言う。男は「やぁ、スヴァルケル。久しぶりだな、元気か?」と声をかけたのに、無視されたのだ。男はスヴァルケルを傷つけて、まだ恨まれていたのだと言う事を後になって思い出した。すると偶然にもまたスヴァルケルと出会う。男はスヴァルケルに声をかけたが、また無視をされてしまうのであった。

レストランでは、客である初老の男が新聞を読んでいる。初老のウエイターは、ワインを開けて客のグラスに注ぐのだった。客はワインを味わい頷く。どうやらワインの味に満足している様である。ウエイターは再び置かれたグラスにワインを注ぐのだが、延々と注ぎグラスからワインが溢れ出るのであった。白いテーブルクロスは真っ赤になり、慌ててふきんでワインを拭くウエイターであったが、拭けば拭くほどワインの汚れは広がるばかりであった。ウエイターは、ぼんやり別のことを考えていたせいで、ワインをこぼしてしまったのである。

広報の責任者である女は、窓の前に立ち外を眺めている。一瞬後ろ向きで外を眺めている女が、こちらの方へ振り向くのだが不満げな表情をしていた。女は、恥じると言う事がまるでわからないらしいが、その理由などは謎である。

パジャマ姿の中年男は、銀行を信用しておらず貯めたお金を、ベッドの間に隠していた。寝る前にお金を確認すると明かりを消して横になるが、落ち着かない様子であった。確認してもなお、隠したお金が気になっているのである。

悲しきホモ・サピエンスたち

巨大な十字架を背負わされる男

巨大な十字架を背負い、坂道を歩く牧師。牧師は群衆に取り囲まれ「はりつけだ!」と叫ばれながらムチを打たれ、蹴られ棒で叩かれている。十字架を背負った牧師はよたつき、何度も地面に膝をついては立ち上がらされ、歩かされる。牧師は「私の何が悪かった?」と、悲痛な思いを口にするのだった。しかしこれは、牧師の夢であった。手に釘を打たれた悪夢を見て目を覚ます牧師。隣で眠っている妻も目を覚まし、取り乱している男に水を飲ませて落ち着かせる。男は怯えながらも再び横になった。

店先の植木にジョーロで水をやる若い女。女は水をやり終えると次は、霧吹きで葉に水を吹きかけている。通りかかった若い男は他の店のショーウィンドウを見る振りをして、女をみていた。

精神科の診察室で、牧師の男は精神科医の男に相談をしていた。牧師は繰り返しみる悪夢に悩んでいた。牧師は、悪夢のせいで神の存在が信じられなくなったというのだ。しかし精神科医は苦しむ牧師に「神はいないのでは?生きている事に満足してもいいだろう」とアドバイスをし、来週また来るように牧師に言うのであった。

地雷を踏んでしまい、両足を失った男がマンドリンを演奏している。男は両足を失った事が悲しくて仕方がなかった。男の前を通り過ぎて行く人たちは、興味を示す事もなく通り過ぎていく。

赤ちゃんとその父親の写真を、撮っている高齢の女。どうやら女は赤ちゃんの祖母で男の母親である。次々とポーズをとらせながらシャッターをきる女。赤ちゃんの母親らしき女が不機嫌そうに傍で立っているが、女は構う事なく赤ちゃんと男を撮り続けるのだった。

牧師は教会のミサに使うワインを、棚から取り出していた。牧師は集まった信者たちの目を盗み、ワインをラッパ飲みしている。神を信じられなくなった牧師は「おお神よ、何故私を見捨てたもうた?」と言いながら、信者たちの元へと千鳥足で向かうのであった。牧師は信仰を失っていたのだ。

中年の夫婦が、戦死した息子の墓を参っていた。墓の周りを綺麗にして、花を供えた。父親は息子トミーの墓に向って、恩着せがましい位に墓をいつも綺麗にしている事や、毎日トミーを思っている事を伝えるのだった。

愛するホモ・サピエンスたち

駅のホームのベンチに座る孤独な女

ケルンの街の空を、抱き合いながら飛んでいる男女。空は雲がかかり灰色であった。男女は今や廃墟と化した街の上空を飛んでいる。

駅に到着した列車から、降りる人々。父親を待つ娘と母は、列車から降りて来た父を見つけると抱きしめ合っている。そんな中一人列車を降りて来た女は、自分を待っている人はいないと思い寂しくなった。ベンチに座りぼんやりとしていた。空はどんより曇っている。暫くすると男が女の方へ駆け寄って来る。男は女に「おーい、もしもし」と声を描けると、男は女を抱きしめた。男は女をなだめる様に優しく背中をさすると、女の荷物を持ち二人はその場を去っていくのだった。

高級クラブでは、ムーディーな曲、ビリー・ホリディの「All Of Me」が流れている。ソファには男と女が座って居る。女はどうしようもなくシャンパンが好きな女であった。隣に座って居る男は女にシャンパンをついでやり、女はそれを飲んでいる。男と女の間に会話はないが、男はひたすらシャンパンを飲む女をじっと見ているのだった。

カフェのテーブル席に一人座って居る女。カフェに男が入って来ると、男は店内を見回し女に「リーサ・ラーションさん?」と尋ねるのだが、人違いであった。男は道を間違えたのだった。しかも女は一人ではなく男連れであった。

銃を持つ兵士たちに連行されてくる男。男は一本の太い木の棒が立っている場所まで連れてこられると、棒に縛り付けられる。縛られた男は「やめてくれ」と、何度も命乞いをする。兵士たちは助けを乞い続ける男の元から去っていく。

カフェのテラス沿いの道を、三人の女が歩いてくる。店内からは陽気な曲が流れている。女たちは足を止め、曲に合わせて踊り出すのだった。テラス席で食事をしていたお客たちは、陽気なダンスに拍手を送るのだった。

ベビーカーをおしている若い母親は、ハイヒールのかかとが取れて困っていた。取り敢えずベンチに座ると、隣で新聞を読んでいる中年をじっと見つめるが、中年はみないふりで何もしてくれない。女は助けを諦めると、いきなりハイヒールを両方脱ぐと裸足で歩き出すのであった。

荒れた部屋で胸から血を流している少女と、少女を抱きかかえて泣いている男。男は手にナイフを持って泣いている。部屋の入口には、女と男が立ってその様子を見ている。ナイフを持った男は、家族の名誉を守ろうとしたが、今は悔やんで泣いているのだった。しかし、家族の名誉とは何のことであるかは、謎のままであった。

魚屋の前で、女に話しかける男。男は「奴と話が弾んでいたな」と女に言ったかと思うと、急に大きな声でもう一度同じことを言った。周りの客も魚屋の店員も、男に注目した。男は女を何度も殴りだし、見ていた客たちが止めに入る。それでもつかみかかろうとする男は、客たちに抑えられる。男は女に「俺の愛は知ってるだろう」と言い、女は「知ってるわ」と答えるのであった。

部屋に少女と、少年がいる。本を読んでいた少年は、熱力学について小難しい話を始めるが、少女は全く興味がなさそうである。「数百万年の時を超えて再び巡り会う時は、君はジャガイモかもしれないし、トマトかもしれない」と言う少年に「ならトマトがいいわ」とつまらなさそうに答える少女であった。きっと少年は少女に対する愛情を伝えたかったのだろうが、話がややこしくて伝わらなかったのである。

愛しきホモ・サピエンスたち

ヒトラー(左)と将校たち

世界征服の野望が、今や砕けようとしていたヒトラーと、将校三人。部屋の外からは爆音が聞こえ、音がするたび天井が少しずつ崩れている。敗北を悟っている将校三人は、疲れ果てた様子でただ天井が崩れはしないかと、上を見上げるばかりであった。勢いを無くしたヒトラーは、頼りなく「シーク・ハイル(勝利万歳)」と言っているが、誰もヒトラーを相手にはしないのであった。

込み合うバスの中で、中年の男が泣いている。男は「自分の望みがわからない」と隣に座って居る女に泣きながら訴えるが、無視される。男は逆隣の男に泣きながら同じことを訴えていると、「哀れな奴め」と逆隣のさらに隣の男に言われるのだった。泣いている男を可哀想に思ったのか、無視をした女が「何よ、泣くことも許されないの?」と呟くのだった。しかしその言葉に「構わんさ、だが家で泣けばいい。何故ここで泣く?」とごもっともな言葉が返って来るのであった。泣いていた男は、更に大きな声で泣き始めるのであった。

雨の中娘の靴紐を結び、ずぶ濡れになっている父親。誕生日に会に向かう途中で、どしゃ降りの雨にあってしまったのだ。

精神科の診療所に、約束も無しに入って来る牧師。「信仰を失ったんです」と言いながら受付の女に、先生と話したいと迫って来る牧師であった。女は診療時間が終わっている為、今から診察は無理な事を牧師に伝えるが、聞き入れようとしない牧師だった。すると帰り支度をした精神科医が、診察室から出てくる。精神科医がいくら牧師に診察を断っても、牧師はしつこく診察を頼むのであった。帰りのバスの時間が近づいていた精神科医は、受付の女と一緒に牧師をドアまで押して行き外に追い出す。カギを閉めても牧師は諦めようとはせず、ドアの外から深刻な状態であることを訴え続けるのであった。

歯科の治療室で、患者の男の虫歯の治療をしていた歯科医の男。患者は麻酔が怖いからと、麻酔を断るが麻酔なしでの治療に耐えられず、痛いと何度も歯科医に訴える。麻酔を断っておいて、痛みを訴える患者に嫌気がして、歯科医は治療室を出て行ってしまうのだった。

雪の舞う夜のバーで、歯科医は憂鬱そうに酒を飲んでいる。一人の客が、店内の客に「すべてが素晴らしいよな?」と尋ね歩くが誰もが、適当な返事しかしない。歯科医も他の客と同じように、適当な返事を返すのだった。バーの人々は外の雪をガラス越しに眺めているのだった。

吹雪の中で、戦いに敗れた軍隊が捕虜収容所に向って歩いている。シベリアの地を歩いている列は、永遠と続いていた。

妻の為に料理を作っている男と、椅子に座って料理を待つ妻。男は学生時代の友人スヴァルケル・オルゾンに二回もばったり会ったのに、二回とも無視されたことをまだ根に持っていた。男はスヴァルケルが、博士号を取り自分より凄くなっている事が気に食わなかった。妻は男を慰めるが、男の機嫌はなおる事もなく「なぜか癪に障る」と言うのだ。妻は男がなぜスヴァルケルにそんなに拘るのか理解できなかった。男は妻にただ癪に障るとだけ答えるのであった。

道の端に一台の車が止まっている。辺りは畑ばかりである。男は車から降りると、ボンネットを開けてエンジンを見ている。どうやらエンストしたらしい。人気もない長く続く一本道で、エンジンの様子をただただじっと見続ける男であった。

『ホモ・サピエンスの涙』の登場人物・キャラクター

牧師(演:マッティン・サーネル)

隠れてワインを飲む牧師

神に仕える牧師でありながら、悪夢を見るようになってから神への信仰を失った男。神はいないのでは?という考えにとりつかれ悩んでいる。悩みは深刻であり、精神科医に相談に行くほどである。しかし頼みの綱である精神科医には「生きてる事に満足してもいいだろう」と言われてしまう。日が経つごとに深刻さは増し、遂には教会のミサの最中に信者の目を盗んでワインをラッパ飲みしてしまう程、正気を失いつつある。

空を飛ぶ女性(演:タティアーナ・デローナイ)

空を飛ぶ男女

空爆により廃墟と化したケルンの街の空を、男と抱き合い飛んでいる女。霊魂なのか神なのか謎の人物である。

空を飛ぶ男性(演:アンデシュ・ヘルストルム)

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