罪か癒しか?『火の鳥』各編の女性キャラ抜粋

手塚治虫氏未完の大作『火の鳥』。永遠の命、愛、名誉。種々の欲望入り乱れるこの物語を、火の鳥同様に彩る女性陣をまとめました。
おとき
美しい羽衣を見つけた漁師に、それは自分のものだと言ったのがおとき。返してもらう代わりに三年間という約束で妻となりました。夫は元々優しい気性なので、「そんなに大事な羽衣なら隠しておこう」と保管を申し出、おときのためウナギをとって来るなどしてくれます。やがておときは女の子を産みますが、いい所に嫁がせようとする夫に猛反対。そこに、戦のため夫を連れて行こうと侍がやってきます。おときは夫を連れて行かせないために羽衣を差し出しますが、夫は「お前の大事な物だろう」と取返しに向かうのでした。

おときは『望郷編』COM版にも登場、コムを産んだとされていますが、「核戦争の影響」という点で抗議を受けたそうです。
いくら待っても夫は帰らず。ここでおときの正体が明らかになります。おときは未来人でした。核戦争でほぼ人類は死に絶え、絶望したおときの前に現れたのが火の鳥。「歴史を変えないことを条件に平和で美しかった時代に送る、帰りたくなったらいつでも帰れる」との約束でした。しかし、図らずも夫を持ち子供までもうけてしまいます。娘を殺そうとしますが、それもできず。娘と共に元の時代へ帰るのでした。矢を受け傷だらけになった夫が戻ったのは、その直後。夫は「目印」として、庭の木の根元に羽衣を埋めました。
『太陽編』
【ストーリー】壬申の乱よりもさらに前、時代で言えば飛鳥時代と未来世界が交錯するという構成。飛鳥時代の主人公は顔の皮をはがされて代わりにオオカミの皮をつけられた青年(クチイヌ、もしくは犬上宿禰。本名はハリマだがクチイヌと記す)。未来世界での主人公は「光」という宗教団体が幅を利かせる世界でのシャドー(光の信者でない者。地下で暮らしている)の殺し屋坂東スグル。スグルは優秀な殺し屋だが、奇妙な頭痛に悩まされており、クチイヌの夢をしばしば見ることになる。クチイヌはクチイヌで、仏教伝来に伴う仏と神の戦い、そして人間同士の権力闘争に巻き込まれる。未来世界は21世紀。
【火の鳥の関わり】飛鳥時代にて、鳥人間のような姿で登場。怪我を負った妖怪や神の一族たちを『異形編』の八百比丘尼の元に案内した。未来世界では光教団の崇拝対象となっている。ラストで、クチイヌ並びにマリモを祝福するように現れた。
おばば

クチイヌを助け、「クチイヌ」の呼び名を与えた老婆。薬剤の調合に長けています。当初は好奇心からクチイヌを助けますが、次第に彼に対し母親のような感情を抱くのでした。
マリモ
狗族(くぞく。オオカミの神というか精霊のような存在)の長の娘。怪我の治療をクチイヌに施されたことで恋仲になります。しかしお互いに戦いがあり、婚約こそしたものの、クチイヌが人間の顔を取り戻し狗族の記憶を失ったことで結ばれず。父から「いずれ人間に生まれ変わる」と予言を受け、「一体どんな人間になるのだろうか」と思い馳せるのでした。1000年以上の時を経て小沼ヨドミという女性に転生。詳しくは後述。

人型もとりますが、人間の前ではオオカミの姿です。
十市媛
大友皇子の妻。父は大海人皇子。言動が幼く「馬鹿姫」に見られがちですが、それは夫を遠ざけるための演技。実際はこの結婚が政略結婚、自分が人質であることを認知し、好意を寄せたクチイヌを匿い逃がすなど聡明。しかし夫にすべて露見し殺されます。それでも、クチイヌのことは口を割りませんでした。「何も知りません」と馬鹿姫の演技を続けたまま。

イノリ
スグルと同じシャドーの一員。スグルに好意を寄せており、「戻ったら結婚しよう」などとのたまう方。自爆作戦を決行したスグルを見送りました。一説では、クチイヌを助けたオババの生まれ変わり。

スグルの姉
光教団が出来上がり、人類が「光」と「シャドー」に分けられた時光教団の一員と恋仲だったためシャドーに「落ちずに済んだ」人物。しかし脅迫されてとはいえ弟に協力することもしばしば。弟を庇うため階段から転落して夫の気を引くなど、それなりにシャドー送りにしたことに罪悪感を持っていた模様。最終的にはスグルのことが夫にばれて殺されます。この辺媛と同じですが、生まれ変わり、なんでしょうか(十市媛の生まれ変わり説はあるが、二度も夫に殺されることに対し同情的な意見も)。
小沼ヨドミ
光の一員と思われましたが、どうやらシャドーだった模様。シャドーの「更生施設(つまり、洗脳施設)」でスグルと再会。殺害を違う程彼を恨んでいました。それでも熱心な看護を受ける中でお互い行為を抱いていることを口にします。光の教祖でさえ飲んでいない火の鳥の血を飲んだのか、銃を額で打ち抜かれても焼かれても生き延び、光教団の教祖を焼き殺すに至りました。彼女こそマリモの生まれ変わりであり、頭部がオオカミに変身したスグルと再会。共に前世の記憶を取り戻して、権力とも争いとも無縁の世界へ向かうのでした。

まとめ
Related Articles関連記事
火の鳥(手塚治虫)のネタバレ解説まとめ
漫画界の巨匠、手塚治虫の描く壮大な物語が『火の鳥』だ。その血を飲むと永遠の命が得られる伝説の鳥である「火の鳥」。この伝説の鳥を巡り、古代から未来へ、未来から古代へ。またミクロからマクロへ、マクロからミクロへと想像を絶するスケールで世界が流転する。文明の進化と衰退、科学の罪、生命進化、人間の心と、「火の鳥」を狂言回しに、あらゆる要素を紡ぎ、手塚治虫が読者へ送る「究極の物語」だ。
Read Article
火の鳥の名言・名セリフまとめ
『火の鳥』はあの『鉄腕アトム』を生み出した漫画界の巨匠、手塚治虫による『火の鳥(不死鳥)』を題材とした長編漫画である。日本の漫画文化を代表する作品の一つ。仏教の「六道輪廻」の考え方を軸に「死と再生」を主なテーマとした壮大なストーリーとなっている。 全12編ともなる独立したストーリーの舞台が過去と未来を行き来する独特な構成や、宗教思想と漫画の融合が当時画期的であり、現在でも数々の作品に影響を与え続けている。 この記事では、生命の本質や人間の業を説くような火の鳥の名セリフの数々を紹介する。
Read Article
その姿は遠い過去か、近い未来か…?『火の鳥 未来編』まとめ
手塚治虫作品の代表格として頻繁に語られる作品・『火の鳥』。シリーズごと様々な時代の話があるこの作品の中、"最初にも最後にも置ける"、一風変わった立ち位置に在る未来編についてまとめました。
Read Article
ブラック・ジャック(BLACK JACK)のネタバレ解説まとめ
ブラック・ジャック(BLACK JACK)は、手塚治虫の代表漫画作品の1つ。黒いマント姿につぎはぎの顔の天才無免許医師が、法外な治療費と引き換えに多くの怪我や難病を治療していく人間ドラマ。1973年~1979年に「週刊少年チャンピオン」にて連載され、連載終了後も読み切り作品が掲載された。さらに、他の漫画家の執筆による作品も数多くあり、医療漫画のパイオニアにして、金字塔と言われる。
Read Article
三つ目がとおる(アニメ・漫画)のネタバレ解説まとめ
『三つ目がとおる』とは、手塚治虫による漫画及び、それを原作とするアニメ作品である。無邪気な性格の中学生、写楽保介は古代種族三つ目族最後の生き残り。額の絆創膏を剥がすと第三の目と共に超知能、超能力を操る冷酷な人格が現れ悪魔のプリンスと化す。写楽は世界征服を目論む一方で、時にクラスメイトの和登さんらと共に古代遺跡絡みの陰謀に巻き込まれる。オカルトブームの中、人気を博し第1回講談社漫画賞を受賞。漫画の神と呼ばれた作者の没後初のアニメ化作品でもある。
Read Article
ブッダ(アニメ・漫画)のネタバレ解説まとめ
「ブッダ」とは、漫画家・手塚治虫が手がけた、仏教を生み出した釈迦こと「ブッダ」の物語についての漫画作品である。少年漫画雑誌「希望の友」(潮出版社)にて、1972年〜1982年まで連載された。後のブッダである主人公「ゴータマ・シッダルタ」が苦悩しつつ仏教をどのように悟ったのかを描き出している。実在の人物と手塚治虫自身の創作の人物が入り混じっているも、2000万部を超える売り上げを記録し、非常に評価されている作品である。
Read Article
PLUTO(プルートウ)のネタバレ解説まとめ
『PLUTO』とは、手塚治虫の作品「鉄腕アトム」の中のエピソード「史上最大のロボット」を原作とした浦沢直樹の漫画作品。 舞台は人間とロボットが共存する世界。世界最高水準の能力を持つ7体のロボットが、次々と何者かに破壊される事件が起きる。7体のロボットの1人・ドイツ刑事ロボットのゲジヒトは、一連の事件に深く関わっているとされる謎のロボット「プルートウ」の正体に迫っていく。
Read Article
神の手を持つ男 ブラック・ジャックの生い立ちと謎について考察まとめ
手塚治虫の漫画『ブラック・ジャック』。一話完結の作品の中に完璧な人間ドラマを描きだす手塚治虫は間違いなく天才だったといえるでしょう。漫画を読んだことのない人はもちろん、ある人にとってもブラック・ジャックは謎の多い人物です。今回は間黒男がいかにして伝説の無免許医ブラック・ジャックになったのか、ブラック・ジャックとはいったい何者なのか、その本性に迫ります。
Read Article
闇にひそむ者らの咆哮、『バンパイヤ』
普段は人間の姿をしているが、ふとした時に異形へと変身を果たしてしまう種族・バンパイヤ。手塚作品の特徴の一つである、メタモルフォーゼを取り上げた代表的な作品の一つです。
Read Article
いつの時代も面白い!テレビアニメ『ブラック・ジャックシリーズ』
どうも。最近話題になっている「ヤング ブラック・ジャック」効果で再びB・Jブームが到来した筆者です。子供の頃に何気なく見ていたストーリーは、今改めて見ると中々に感慨深いものがあったりします。という事で今回は、テレビで連続放送されていたB・J各シリーズを1話無料動画と合わせてご紹介。
Read Article
ぐるなびにて連載のエッセイ漫画【田中圭一のペンと箸-漫画家の好物-】をご存知ですか?
田中圭一先生と言えば、漫画界の巨匠・手塚治虫先生の絵柄で下ネタギャグな作風を確立したパイオニア。その田中先生が現在webサイト「ぐるなび」にて、漫画家ご本人とそのご家族にまつわる“食”にスポットを当てたエッセイ漫画を連載しており、これが大変おもしろい!ですのでこちらでは、田中先生の作品を通して、ご自身も漫画家や他分野で活躍されているご家族も紹介させて頂きます。
Read Article
手塚治虫の名作『ブラックジャック』の集大成! 『ブラックジャック大全集』
手塚治虫の名作が最も美しく甦る。 『ブラックジャック』は過去、秋田書店等で何度か単行本化されているが未収録作品がいくつかある。 しかし本書は、過去の単行本化された中で未収録作品が3話と一番少ない。 なお、この3話(「指」・「植物人間」・「快楽の座」)は手塚プロダクションの意向により今後も掲載されることはないため、この『ブラックジャック大全集』が〈完全版〉と言えるだろう。
Read Article
[このキャラどっかで見たかも!]スターシステムのあるマンガまとめ
マンガを読んでいて、自分の思入れのあるキャラが同じ作者の違う作品に出ていたらテンションあがりますよね。 そこでそんな「スターシステム」が使われている作品をまとめました。
Read Article
何でも治せる手腕と心。『ブラック・ジャック』に登場した「人間以外の患者」たち
漫画の神にして医学博士、手塚治虫の遺した医療漫画『ブラック・ジャック』。どんな難病、怪我も手術で治してしまえる手腕を持つ彼のこと、人間以外の動物や、果ては無機物も治療してるんです。
Read Article
【ブラック・ジャック】記念すべき第1話「 医者はどこだ!」のネタバレと感想
「鉄腕アトム」や「火の鳥」「ジャングル大帝」などの名作を世に生み出した手塚治虫先生。そんな彼の作品の中で「医療漫画の傑作」と言われ、現在でも高い支持を集めているのが「ブラック・ジャック」です。今回は2004年に発売された新装版の特徴を踏まえながら、第1巻収録話についてまとめていきます。(※参考画像なし)
Read Article
天才音楽家・ベートーヴェンを独自の解釈で描く…!!
言わずと知れた天才音楽家・ベートーヴェン。彼の半生をある男の数奇な運命と絡めて描く、『ルードウィヒ・B』と言う作品について紹介します。
Read Article