『脇役の分際』語り手が脇役。今に始まったことじゃないけれど?

衝撃作です。ライトノベルの部類に入るんでしょうけど、発信元はウェブ小説の投稿サイト。高校生編、大学生編がありますが、ともに超おすすめ。語り手を務めるのは、盛沢久実さん。しかし彼女は「脇役」です。

あらすじ・ストーリー

盛沢久実という少女が通うのは、エスカレーター進学もできる大学の附属高校。で、同じ学校に「異世界」に行き来する生徒会長やら、魔女っ娘やら、戦隊ヒーローのメンバーやらが通っているのです。漫画のキャラが実体化、異世界へ飛ばされる、なんて事態も起こりますが、語り手の盛沢さんは常に「脇役」。何故って、主役は先に挙げた面々だから。しかしいつも彼らの騒動に巻き込まれてしまうのです…。

いっそ作家になったらどうでしょうか盛沢さん。本好きですし。

語り手が脇役

別段珍しいことでもないかもしれません。芥川龍之介の『地獄変』だって主人公は絵師の良秀ですし、『月と六ペンス』でも語り手の作家は主人公というにはちょっと「キャラが弱い」感じもします。

『地獄変』はいろんな意味で怖い…。

しかーし、盛沢さんは違います。他キャラも十分濃いんですが、盛沢さんには単なる語り手としてではない部分があるのです。自分の趣味や、ちょっとした将来の夢、卒業時別の大学に行くことを「誰も悲しんでくれない」状況を憂えたりしているのです。つまり、ちゃんと自分の状況を語っているんですね。観察こそすれ傍観者というわけではないのがこの作品の特徴。そう、「脇役」と言ってはいますが、それは「私をこれ以上巻き込まないで!」という一種の願望のようなもの。盛沢さん、しっかり「主役」です。

異世界に飛ばされたって、吸血鬼(女性)に目を着けられたって普通に日常をエンジョイできてるなんて、物語補正があるにしても心臓が強いにもほどがあります。単に鍛えられているのかもしれませんが。現実世界でも、悪事や面倒に遭いたいなんて人はそうそういないですもんね。それでも何とか。どうにかこうにか生きている。「日常」を誇張したのがこちらの作品、というわけです。

この作品を読んで思ったこと

読書の大切さですかね。冗談でもからかいでもなく、書籍化されるほどのものを書く方はそれなりに勉強、読書を積んでいるものです。この作品にしたってそう。随所で作者猫田蘭さんの読書量をうかがい知ることができます。文章力は猫田さんの才能プラス、読書量の賜物。そしてたくさん本を読んだからこそできる「逆転の発想」。多分猫田さんの思惑とは違うかもしれませんが、読書を好きでない方にまず読んでほしいです。普通に面白いですし、文章の緩急にも感心します。

えどまち
えどまち
@edono78

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