ツルネ ―風舞高校弓道部―(ラノベ・アニメ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ツルネ ―風舞高校弓道部―』とは、綾野ことこの部活青春小説。『夜多の森弓道場』というタイトルで、第7回京都アニメーション大賞小説部門審査員特別賞を受賞している。テレビアニメは2018年10月から2019年1月までNHK総合テレビにて放送された。鳴宮湊は中学最後の弓道部の大会で「あること」を理由に試合で負け、もう弓道はしないと心に決めていた。しかし、「夜多の森弓道場」で凄腕の射手滝川雅貴と知り合い再び弓道をすることになり、風舞高校弓道部に入部する。

愁に静弥の弓は湊への執着だと言われ、雅貴にも弓が好きかどうかを問われていた静弥は自分が弓を引く理由を見失い、弓道をやめようとまで考えていた。そんな静弥に湊は「今度は俺が待つから」と静弥が弓道をしに戻ってくれることを待っていると伝えた。それは、湊が母親を亡くして弓道への意欲をなくしていた時や早気になって弓道から離れようとしていた時に、静弥が待っていてくれたからである。湊が大好きな弓道を続けているのは静弥がいるからで、静弥と一緒に弓を引くことが幼少期から湊の弓道だった。そんな湊の言葉を聞いて、せっかく弓道に連れ戻した湊を待たせられないと静弥はまた弓道に向かうことにする。2人が話している歩道橋の静弥側からちょうど湊と母親が事故に遭った駅前が見え、夕日とともにその事故の場所を背中に「静弥を待つ」と言う湊は眩しく、強く静弥の目に映るシーンでもある。

静弥「もう湊の手を引くことも、待っていてくれるのを待つのもやめた。並んで歩く」

愁に自身がこれからどう弓道をしていくのかを話す静弥。左から静弥、愁。

決勝戦で風舞高校と桐先高校が戦う直前。待機場所に向かう静弥に「まだ湊を追いかける気かい」と話しかける愁に、静弥は「もう湊の手を引くことも、待っていてくれるのを待つのもやめた。並んで歩く」と真っ直ぐ前を見て断言した。静弥にとっての弓道は湊と一緒だからこそ始まったものであり、続いていくものであると静弥の気持ちは以前よりも明確だった。

指導者として悩む雅貴

出典: tsurune.com

自分の発言を悔いる雅貴。

自分にとっての弓道が何かわからなくなっていた静弥に、雅貴が言ったのが「弓道は好きか」という言葉だった。静弥はそれに対してわからないと答え、「滝川さん。あなたが嫌いです」と冷たく返した。湊が早気から弓道に戻ってきたのは、どんなに苦しくても弓を引きたい気持ちがあったからであり、練習中も調子が出なくて悩んでいる様子の静弥もきっと弓道への気持ちは同じだろうという雅貴の考えからだった。この発言をして、静弥に嫌いだと言われてから雅貴は、昔師匠である祖父から似たことを言われてひどく悩んだことを思い出した。背景で雨が降り頻る弓道場での沈んだ表情の静弥と、指導者としての壁にぶつかる雅貴の心情がよく現れているシーンでもある。

七緒「だから俺はこの先も、かっちゃんを引っ掻き回して、引っ張っていく。そのために今、俺はここにいて、今弓を引いてるんだ」

怒りっぽくて言葉がきつく、顔も怖い海斗の従兄弟である七緒は、彼の不器用な優しさや意外な繊細さをよく知っていた。満足いく射ができなくて一人自分に腹を立てる海斗に、わざと逆撫でするような言葉を言って怒らせる七緒に湊が話しかけると、七緒は引っ掻き回さないと海斗には隙が生まれないと語り始めた。人付き合いが苦手で、一人で悶々と考え込んでしまう海斗が少しでも自分以外に心許せる仲間や味方を作ることができたらと、七緒は海斗が自分で作ってしまう壁をわざと壊しにいく。そして、「だから俺はこの先も、かっちゃんを引っ掻き回して、引っ張っていく。そのために今、俺はここにいて、今弓を引いてるんだ」と弓道をしている理由を話した。誰かのための弓道という湊にはなかった考え方に触れ、湊は七緒は的の向こうに見えているものがあって、それが七緒の者を支えているんだと言う。湊は、それが七緒の強さに繋がっているんだと晴れやかな表情で七緒に伝えた。

『ツルネ ―風舞高校弓道部―』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

「静」と「動」にこだわったアニメーション

本作の監督である山村卓也監督は実際に、高校の弓道の試合に足を運び現場の空気感を実感した。会場での弓を引く側とそれを見る側の集中力が生み出す「静」をアニメでは大切にしていきたいと語っており、特に弓を引く際の所作の美しさを表現するためにアニメーターには日々弓道の映像を見てもらっていると話した。「動」は男子高校生たちの他愛の無い日常や、馬鹿騒ぎのことだと監督は続け、会場に高校生弓道を見に行った際も会場の外と試合で彼らの「静」と「動」を感じたという。また、騒いでいるシーンではわざと遠目から描いており、視聴者には彼らの日常を覗き見している気分を味わってほしいという思いのもと工夫してつくられている。

「静」と「動」を感じる声

キャスティングはオーディションで行われ、プロフィールと名前は伏せて声質と演技で決められた。選出の決め手は、オンとオフのセリフを使った感情の切り替えで、湊役の上村は静弥の役でオーディションを受けたが優しい声の中に強い芯を見出され湊役に決まった。高校生たちの騒がしい日常と、真剣に弓道に向かう際の違いを声でも繊細に表現している。

強くて不安定な雅貴の演技

雅貴を演じる浅沼晋太郎の演技について海斗役の石川は、「湊たちよりは年上だけど、まだ23歳という不安定な部分も抱えている絶妙な心の揺れの表現がすごい」と語る。美しく完璧な射で見る者を魅了するため、弓引きとして的前にたつ雅貴は人間離れしたようにも見えるが、弓道部員たちの前や弓道について悩む人間らしい姿もきちんと描かれているのがこの作品の魅力である。

『ツルネ ―風舞高校弓道部―』の主題歌・挿入歌

OP(オープニング):ラックライフ『Naru』

ED(エンディング):ChouCho『オレンジ色』

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