ツルネ ―風舞高校弓道部―(ラノベ・アニメ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ツルネ ―風舞高校弓道部―』とは、綾野ことこの部活青春小説。『夜多の森弓道場』というタイトルで、第7回京都アニメーション大賞小説部門審査員特別賞を受賞している。テレビアニメは2018年10月から2019年1月までNHK総合テレビにて放送された。鳴宮湊は中学最後の弓道部の大会で「あること」を理由に試合で負け、もう弓道はしないと心に決めていた。しかし、「夜多の森弓道場」で凄腕の射手滝川雅貴と知り合い再び弓道をすることになり、風舞高校弓道部に入部する。

『ツルネ ―風舞高校弓道部―』の概要

『ツルネ ―風舞高校弓道部―』は綾野ことこによる部活青春小説。 KAエスマ文庫より2016年12月に刊行された。『夜多の森弓道場』というタイトルで、第7回京都アニメーション大賞小説部門審査員特別賞を受賞している。テレビアニメは2018年10月から2019年1月までNHK総合テレビにて放送された。
鳴宮湊は中学最後の弓道部の大会で「あること」を理由に試合で負け、もう二度と弓道はしないと心に決めていた。そんな湊に、もう一度弓を引いて欲しい幼馴染で同じく弓道をしていた竹早静弥と湊は高校の入学式当日、ひょんなことから小学校時代の同級生である山之内遼平と再会する。そして、遼平から弓道部顧問の森岡富男先生を紹介された。先生は長らく部員のいなかった弓道部の道場へ三人は案内し、入部を促すも湊だけやんわりと断る。しかし、「夜多の森弓道場」で凄腕の射手滝川雅貴と知り合い再び弓道と向き合うことを決心し、風舞高校弓道部に入部する。

『ツルネ ―風舞高校弓道部―』のあらすじ・ストーリー

弓道との再会と新しい出会い

鳴宮湊(なるみやみなと)は高校入学式当日の朝、近所に住む幼馴染の竹早静弥(たけはやせいや)に出くわす。二人は中学で同じ弓道部に所属していた。しかし、湊は中学最後の大会で起きた「あること」をきっかけに高校ではもう弓道をしないと決め、家から近い風舞高校へ進学する。そんな湊を心配していた静弥は、湊と同じ風舞高校に通うことにしていた。入学式当日小学校時代の同級生である山之内遼平(やまのうちりょうへい)に出会い、遼平に弓道部顧問の森岡富男(トミー)先生を紹介される。そのまま三人はトミー先生に長らく部員のいなかった弓道部の道場を案内され、勧誘を受ける。静弥と中学時代に弓道を少ししていた遼平は満更でもなさそうだが、湊は母親が亡くなって家事をしているという理由でその誘いをやんわり断る。

後日、湊を待ち伏せしていた遼平により弓道部の説明会へ強引に連れて行かれる。道場には既に道着を着た経験者の白菊乃愛(しらぎくのあ)、妹尾梨可(せのおりか)、花沢ゆうな(はなざわゆうな)、小野木海斗(おのぎかいと)、如月七緒(きさらぎななお)がいた。説明会が始まると、トミー先生が湊へ一度試しに弓を引いてみて欲しいと頼む。湊は拒むが、周囲の期待の眼差しから弓を放った。しかし湊の矢が的に当たることはなかった。湊は「早気(はやけ)」といわれる弓道の中の病であり、弓を引く「引き分け」の動作後にある待ちの動作「会」が行えなくなってしまっていた。精神的要因も考えられるため治すことが難しいが、しばらく弓に触れていなかった湊には期待もあった。しかし以前の射と変わらず、気持ちを落とす。帰り道、やけになって自転車を漕いでいた湊は弓が的に当たる音を聞く。音につられて訪れた夜多神社にある「夜多の森弓道場」で滝川雅貴(たきがわまさき)と名乗る男と出会う。湊は弓を引いてみるように促されて、自身が早気であることを彼に話した。すると、雅貴も過去に早気に苦しんだことを話し出した。湊にとっては美しかった射も「まだまだだ」と語る雅貴は、「弓は仲間と引くもんだ」と呟いた。湊はその後、弓道部に入部届を出す。

弓道部に入部することになった湊を海斗は認めず、幼馴染の七緒はそんな海斗を宥める。湊と海斗の関係が悪いことを気にかけていた遼平の悩みに気付いた七緒が声をかけると、「俺は弓道部が好きで、部員がバラバラなのが嫌なんだ」と勢いよく言う。七緒は誰も知らない湊の朝練に海斗を遭遇させ、弓道への湊の真剣な思いを見てもらおうと考える。湊の弓道への真剣さを目の当たりにした海斗は、「まだ湊を信用はしていない」と遼平に言うが、「仲間のためにそこまで熱くなるお前の言うことは信じる」と湊の入部を認めた。

下僕合宿とかつてのチームメイト

部員の揃った弓道部に、新しいコーチとして雅貴がトミー先生によって紹介された。突然の登場に驚くメンバーの中で、湊と海斗だけは嬉しそうに「雅さん」と呼んだ。練習が始まってしばらく経った頃、雅貴から模擬試合の提案があった。雅貴とこの日は腰の調子が良かったトミー先生も加わっての5対5である。男子チーム対女子混合チームで、勝った方は負けた方を顎で使える下僕権が与えられた。全体の流れを決める大役の1番手「大前(おおまえ)」は七緒が、遼平が選んだのは2番手の「二的(にてき)」、真ん中の「中」は湊、4番手の「四的(よんてき)」は静弥、最後の「落(おち)」は海斗が務めた。結果は男子チームの惨敗で、揃いの下僕Tシャツを着て草むしりに励む。雅貴から次の提案として夜多神社での3日間合宿をあげる。

合宿の内容は模擬試合で下僕になった男子たちには過酷なものだった。ろくに練習もできない状況に不満を漏らす男子へ雅貴は買い出しを頼む。メモの内容で料理に詳しい海斗と湊、七緒はスーパーに行き、遼平と静弥はホームセンターに行くよう要領のいい七緒が決める。七緒は湊に「海斗がここまで人を嫌うことはないのだ」と言って、被っていた帽子を見せながら海斗の優しさを話し出した。その帽子は野球好きな七緒のために、海斗が専門ショップにわざわざ買いに行った誕生日プレゼントだった。二人は似たもの同士だと笑う七緒を見て、湊も海斗に歩み寄ろうと思う。帰り道、七緒の被っていた帽子が川に落ちて流されてしまう。咄嗟に川に入る湊だが、帽子を掴んだと同時に下に落ちそうになる。すると背後から海斗の手が伸び、湊の腕を掴むも一緒にこけてずぶ濡れになってしまった。買い出しの中でお互いの良さを見つけることができた海斗と湊は心の距離が近付いた。

合宿後に大会に向けて練習に熱が入る風舞弓道部では、上手い弓引きの代名詞でもある弓返り(ゆがえり)をさせたい海斗がそのコツを雅貴に聞く。弓返りは弦から手を放した際、弓が手の内を軸に回転し弦が手の甲側へ回転することをいう。しかし、意識しすぎると力んで逆に正しい射ができない海斗に、「結果ではなく過程に集中しろ」と弓返りが美しい射の過程から生まれることを伝えた。試合前だが、約1週間中間テストのため部活は中止になってしまう。テスト休みで練習のない雅貴をトミー先生が飲みに誘った。その席で雅貴は、風舞高校のコーチを引き受けた理由を話す。師匠であった雅貴の亡き祖父は一流の弓引きだったが、師匠としては難しい人間で正しい射が何かを雅貴は教わることはなかった。そのため、自分がコーチをすることで祖父に「復讐」するのだと雅貴はトミー先生に伝える。一方、強豪桐先高校も大会の出場選手の選抜試合が行われた。湊と静弥のかつてのチームメイトである藤原愁(ふじわらしゅう)、別名「貴公子」も参加していた。美しく、正確な射の愁は1年生とはいえ桐先高校弓道部でも群を抜いて上手く、文句を言う者もいた。しかし、愁は動揺せず凛と構えて弓を引き、選抜メンバーに選ばれる。

団体戦予選

湊は大会当日、愁との出会いを思い出す。小学生の頃、母親と見に行った弓道に興味を持った湊は、道場を自分で探し回った。見つけた道場には年配の女性師匠とその弟子として愁が稽古をしており、そこで2人は出会ったのである。湊は、久しぶりに道着を着て愁に会えるため身が引き締まる思いだった。そして、その日の女子の個人戦と海斗、七緒の個人戦までの待機の時間に会場入りした桐先高校に遭遇する。「あの子可愛い」とふざける七緒の声が聞こえ、双子が話しかけてきた。彼らは桐先高校の1年生で、選抜メンバーに選ばれた菅原千一(すがわらせんいち)と万次(まんじ)だと自ら名乗り、中学校の時は愁と同じチームだが大会で早気になった湊を馬鹿にする。そこへ愁もやってきて、湊が今日の個人戦に出ないことを残念がり、「明日の団体戦が楽しみだ」と言う。最後に愁は、湊の耳元で「また戻ってきてくれると思っていた」と、湊の射を楽しみにしていることを告げて去っていった。その後行われた個人戦では、海斗が愁に対抗意識を燃やしていたが、まともな射をすることができなかったため悔しさを顔に滲ませる。

団体戦の組は桐先高校と同じで、緊張の面持ちで道場に入り動作にうつる風舞高校はどこかぎこちない様子だった。桐先高校の大前を務めるのは予選2位通過の桐先高校弓道部部長で、初っ端から的を射抜いた。少し遅れて弓を引いた海斗は外す。その後、桐先高校の二的と中である菅原兄弟は早打ちで会が短い。それに動揺してペースを崩す二的の遼平。落ちの湊の早気も相変わらずで、風舞高校の1巡目は終わった。2巡目の順番が回ってきた時、突然遼平の弦が切れてしまう。出番が終わり、控えの場所まで戻ってきた風舞メンバーの顔は暗く、「俺のせいだ」と言い出した遼平を慰める静弥に続けて「俺たち、てめぇで勝手に失敗したんだ」と海斗は言った。

会場の人気のない雑木林で、海斗は一人悶々とその日のことについて考えていた。そこへ七緒がやってきて、「もっと気楽にやろうよ」と声を掛ける。それを聞いて海斗は「自分は本気で弓を引いており、なんとなくでやっているお前とは違うのだ」と声を荒げる。そして海斗は「頭を冷やしてくる」と言ってその場を離れた。その様子を見ていた湊は「湊はどうして弓を引いているの」と七緒に聞かれて、幼少期に今は亡き母親と一緒に見に行った弓道の会で聞いた「弦音(つるね)」が脳裏に蘇る。

再び団体戦へとのぞむ風舞高校のメンバーの顔はすっきりしており、真っ直ぐ的を見ている。湊も自分自身に「勝とうとするな」と言い聞かせ、七緒に言われた弓を引く意味を自らに問いながら矢を放った。湊の僅かに伸びた会の時間から、弾かれたように的に向う矢は美しく、見る者を魅せる射だった。試合が終わり、予選通過ギリギリの成績だったため、結果の張り出しを固唾を飲んで待っていた風舞メンバーに遼平の歓声が届く。帰り道、湊の前に愁が現れ「俺はもっと高みが見たい。お前が必要なんだ」と伝える。「今の俺にできる最高の射を見せる」と答える湊に嬉しそうな愁だが、湊が去った後近くでそれを聞いていた静弥に「もう湊に付いていくこともできない」と言う。動揺する静弥に愁は「君は弓を愛していないから」と呟いて、その場を去った。

それぞれの弓道への想い

本戦前の練習中、早気でも前向きな言葉を言う湊に静弥は昔を思い出す。湊のお腹には交通事故の傷があり、それは湊の母親が事故で亡くなった日にできたものだった。「弓道をやりたい」と湊が伝えようとした日で、静弥にも「静弥と弓道ができたら楽しいと思うんだ」と語っていた。事故の後の病室で意気消沈する湊に、静弥は「湊と僕は桐先に行って弓を引くんだ。絶対に」と力強く言う。その言葉に救われた湊は桐先中学校に進学し、2人は静弥が言ったように一緒に弓道をすることができたのだ。

愁から言われた一言に悩む静弥は練習でもミスを連発する。雅貴が「お前、弓道は好きか」と静弥に聞くが、それがさらに静弥を追い込んでしまった。その言葉は雅貴が祖父に言われて嫌な言葉だったことを後になって思い出し、後悔する。後日、風舞のメンバーは必勝祈願に神社へ行くがそこに静弥の姿はない。帰り道で静弥を見つけた湊は静弥に近づくが、静弥は弓は引かないと言いかける。そんな静弥に湊は「今度は俺が待つ」と告げたが、その真剣さに負けた静弥が「待たせるわけにはいかない」とスッキリした顔で立ち上がった。練習に復帰した静弥は、以前よりも正直な気持ちを周囲に打ち明けるようになる。

一方雅貴は弓引きとして祖父を知るべきだと考え、祖父の旧友に会いに行く。そこは愁と湊の師匠だった西園寺という女性の家で、湊が偶然居合わせた。早気になってから祖父と疎遠になっていた雅貴に西園寺はもう一人の旧友を紹介する。その旧友に会う日が大会前日になってしまうが、風舞メンバーは快く雅貴の背中を押した。しかし、当日になって雅貴は帰りに事故に遭ってしまう。動揺する風舞メンバーは試合でも変わらず、思うように弓が引けない。見かねた湊が自信を持つように皆に言うと、なんとかその後勝ち進んで決勝に進むことができた。

決勝

最後の相手は桐先高校だった。愁は湊との勝負を喜ぶ。どちらも一歩も譲らず試合は最後、落の湊と愁に任せられた。湊は雨上がりのように視界が晴れており、メンバーの様子もよくわかっていた。海斗の繊細で丁寧な射、遼平の思い切りのいい射、静弥の無駄がない整然とした射、七緒の柔らかく力みのない射。湊は仲間のために自分自身がそこにいることの意味を確かめながら、ゆっくりと弓を引き、美しい会から矢を放った。聞こえた湊の鋭い弦音に気を取られ、今大会中一度も外さなかった愁が外し、風舞高校が優勝する。

しばらくして、夜多の森弓道場を訪れた湊は雅貴に「世の中で起きることは、俺の早気だって、何か意味があるんだって」と言った。納得したように微笑んだ雅貴も祖父への気持ちに一つのケジメをつけていた。雅貴の射から生まれた弦音は、湊が初めて弓道に出会った時のものそのものだった。あの日、「このカーンて音何?」と興奮した様子で母親に聞く湊の隣には、学生だった頃の雅貴が立っていた。

『ツルネ ―風舞高校弓道部―』の登場人物・キャラクター

風舞高校弓道部

鳴宮 湊(なるみや みなと)

出典: tsurune.com

声:上村祐翔
風舞高校1年生で、弓道部員。弓道の腕前は師匠である西園寺も才能を感じるもので、同じ弟子として弓道をしていた天才の愁にも良きライバルとして一目置かれる。好きなことには一直線で、弓道や仲間に対してもいつも真剣に悩み、自分の意見を真っ直ぐ伝える。静弥とは幼馴染で親友。母親が亡くなってからは家事を引き受け、晩御飯を作ったりする家庭的な一面がある。母親と見た弓道の試合で聞いた弦音に魅せられて、小学生の時に弓道を始める。最初は親に内緒で弓道を習っており、愁とは同じ師匠から教えられていた。母親に弓道をやりたいと伝えようとした矢先に交通事故に遭い、母親は亡くなり自身も腹部に傷を負う。静弥に背中を押されて中学校では弓道部に入り、静弥と愁と一緒に切磋琢磨した。しかし、中学最後の試合で早気になってしまい、高校での弓道は諦めていたが雅貴との出会いによって弓道部に入部する。

竹早 静弥(たけはや せいや)

出典: tsurune.com

声:市川蒼
風舞高校1年生で、弓道部部長。弓道の腕前は湊や愁のような天才的なものはないが的中率は高く、湊は筆で線を引いたような無駄のない整然とした射だと評価している。冷静で物腰が柔らかく穏やかな口調だが、気に入らない人間には突かれると痛いところを会話でさりげなくついてくる毒っ気も持ち合わせている。また、自分は弓道が好きかどうか悩んだ際には自分なりの答えが見つかった後、弓道部員たちに今まで見せていなかった姿を見せたりと心を許している。小学校時代に湊と母親の事故を目撃しており、湊の感情や体調に人一倍敏感になっている。そのため、湊のことになると冷静さを欠く言動も多い。湊を追いかけて私立高校をやめて県立の風舞高校を受験し、早気の湊にもう一度弓道をしてほしいと願っていた。

山之内 遼平(やまのうち りょうへい)

出典: tsurune.com

声:鈴木崚汰
風舞高校1年生で、弓道部員。弓道の腕前は、ほとんど初心者ながら経験者のメンバーに十分ついていくくらいで、湊は思いっきりのいい射だと評価している。部内1身長が高く、明るく裏表のない素直な性格。大会の際には緊張や不安が表情や動きに良くあらわれていた。海斗と湊の仲があまりよくない時は、好きな人たちの仲が悪いのは嫌だと七緒に漏らしており「いい人」だと七緒に茶化される。湊と静弥とは小学校が同じだが、小学5年生の時に転校して高校でまた再会した。中学校の武道の授業で弓道に興味を持ったが、本格的に始めるのは高校になってからで、部員の中で一番経験が浅い。

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