リウーを待ちながら(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『リウーを待ちながら』とは、朱戸アオにより『イブニング』にて2017年から2018年まで連載された全3巻の医療サスペンス漫画である。主人公の玉木涼穂は富士の見える町、横走市にある病院で働く内科医である。ある日、駐屯している自衛隊員が吐血し昏倒したことから始まり、同じ症状の患者が相次いで死亡する。病院には患者が詰めかけ、抗生剤は不足していく。原因はわからないまま事態は悪化の一途をたどり横走市は封鎖されてしまう。静かに死にゆく街で懸命に生きようとする人々の姿を描く物語である。

医者最後の日

医療は限界を迎え、医者やスタッフの中にも来なくなるものが出始めていた。川島田も現れず玉木が探していると、感染エリアにも拘らず防護服なしでたたずむ川島田を見つける。川島田は玉木に発熱したので家にある赤ワインを持ってきてほしいと願った。そして川島田はワインを楽しみ亡くなったのだった。川島田が行うはずだった現状報告や支援要請のリモート取材に玉木が選ばれたが玉木は断った。玉木は若い女だから選ばれたとか苦手なことを押し付けられたことに怒りを感じていた。イライラする玉木を見た原神は気晴らしに自衛隊病院まで車で送って行って欲しいと言った。鬱憤をぶつけるように荒い運転をする玉木は原神に「努力に報いを求めて何が悪いんだ。なんで頑張っているのに何もよくならないのか」と愚痴る。原神はあまりにも荒い運転に吐きそうになって車を止めさせた。玉井は少しだけすっきりして、まだやれることがあるとリモートの取材を受けることにした。
玉木は自分たちがまだ頑張っている事、支援が必要な事を伝えたのだった。

この世で会いましょう

横走の市民に板野という男がいた。新婚で妻の幸花を亡くしてしまい、幸花の死を受け入れられず、幸花を探して徘徊していた。どれだけ探しても幸花は見つからず、板野は道端で座り込んでしまった。そこへ潤月が通りかかり、心配して声をかける。幸花の死んだ現実と幸花の生きている妄想の間で苦しむ板野に潤月は自分も母親の姿を見た気がすると言って死んだ母に謝りたかったのにちゃんとお別れができなかったから勘違いかもしれないけどと言った。それを聞いた板野は家に帰り幸花のいない現実を受け入れようとしていた。すると家のチャイムが鳴り外へ出るとたくさんの人が行列をなして歩いていた。行列の中に幸花がいた気がした板野は幸花を追いかけ引き留めた。
そして幸花に最後の時に言えなかった今までの感謝を伝えた。板野は幸花の笑顔を見て幸花の死を受け入れることができたのだった。

越境者

自衛隊内では横走市の外へ脱走する者とそれを仲介する者がいると話題になっている頃、仁杉は地元で肝臓がんの手術をする母親を心配していた。病院での支援をしている最中母親の手術をしている病院から緊急の連絡が入り、母親が危篤状態だと言われる。二杉は横走市から出て母親に会いに行きたいと駒野に申し出るが、どんな事情があっても横走市から出ることは許されなかった。
どうしようもない現実に仁杉が打ちのめされていると、ここから出たいなら駐車場に来るように声をかけてきた人物がいた。仁杉はいてもたってもいられず駐車場に急ぐとそこには車に乗ったカルロスが待っていた。たまたま見かけた玉木は変な組み合わせだと思ってその場を後にしたが、その後駒野が仁杉を探しているのを知りカルロスと一緒にいたことを伝える。仁杉とカルロスは自衛隊演習地を越えて外に出ようとしていた。カルロスの密輸を手伝う外の人間を待ったが現れず、仁杉は一人で外へ行こうと走る。走りながら仁杉は母親がいつも自分の味方をしていてくれたこと思い出していた。そこへ母親の病院から電話が入り、母親が蘇生措置を受けていると聞かされ、心拍が戻らないので蘇生措置を中断すると言われる。死亡確認は家族が病院についてからすると言われたが仁杉はそちらには行けないから死亡確認してくれと泣きながら言ったのだった。

遺されたものたち

玉木の記者会見によって世界中から医者や支援が集まってきていた。医師団の中にシモーヌと言う女性がおり、玉木の父親とはいろいろな国で一緒に活動したと言って懐かしんだ。
アパートで一人暮らす潤月は夜中に隣から赤ちゃんの泣き声とせき込む声を聴いて心配になり声をかけたが隣の住人は放っておいてくれと潤月を拒んだ。次の日の朝、泣き止まない赤ちゃんの泣き声に気づいた潤月はもう一度隣の部屋に声を掛けに言ったが返事はなかった。心配した潤月は自撮り棒と携帯を使ってベランダから隣の部屋を撮影すると、隣の部屋の住人が倒れていた。潤月はすぎに救急車を呼んだが混み合っていて繋がらず、カルロスや玉木も電話に出なかった。だんだん小さくなっていく赤ちゃんの声に潤月は隣の部屋に行くことを決意した。何とか部屋にたどり着き赤ちゃんを抱きあげると、赤ちゃんは泣き声をあげ無事が確認できた。安心したのもつかの間、泣き出した赤ちゃんが手を振り回して潤月のマスクを取ってしまったのだった。

排斥と隔離

原神は伝手を辿って横走からの脱走者のリストを手に入れていた。もしも感染者が横走から出ていたら大変なことになる。原神はリストを東京にいる助手に送り、医療機関を受診した者を探させることにした。
その頃、潤月は濃厚接触者リストに入ったことで原神が提案した隔離セット配布の第一号となっていた。潤月には5日分の食糧と日用品が入った箱が渡され、家に隔離されることになる。隔離セットはまだ導入されたばかりでモニターとしての意味合いもあった。潤月はコウタに心配をかけないように濃厚接触者になったことを黙っていた。潤月は一人になると不安と恐怖で泣き出してしまったのだった。
横走からの脱走者の中で1名だけ医療機関を受診した者がいた。ナカマルエリカという女性だと分かり、助手は急いで家に向かったが、脱走者のリストが公表されてしまいマスコミが集まって入れなくなっていた。

助手はマスコミを解散させるため防護服に着替えてナカマルの家に入った。ナカマルは少し風邪気味で病院を受診したがもう治ったと言ったが助手は念のため検査をしたいと話した。だがナカマルは仕事があり隔離されると困ると言ってきかない。それにナカマルは横走の外の人間が何もしてくれなかったのに何で自分が外の人間の為に何かしなくてはいけないのかと怒っていた。そして怒りのままに助手を追い出したのだった。そして助手がいなくなり外出したナカマルはマスコミに追いかけられていた。人ごみに入ると追いかけてくるマスコミによって横走からの脱走者だとばれてしまい邪険にされ、押し合いになる。信号待ちの人の中でナカマルはペストの感染を怖がった人々に道路に押し出され轢かれてしまったのだった。
一方、潤月の家にはカルロスと玉木がお見舞いに来ていた。ドアは開けられなかったがカルロスのくれた差し入れを食べながら話す時間は潤月にとってとても楽しいものだった。だが次の日、潤月は発熱し感染区域へ入院することになったのだった。

光もなく少女は

感染者となった潤月は感染区域に入院することになった。感染区域は一度持ち込んだものは外に持ち出せないことになっていた。退院後に返却されるがもしも潤月が無くなってしまった場合は家族に返却される。母親が無くなり、父親も離婚していて家族とは言えない関係になっていた。潤月はどうせ返却される相手もいないと思い大切なものは持ち込むことにした。これからどうなるのか不安で泣きそうになる潤月のもとに玉木が頑張ろうと声をかけに来た。

玉木は潤月の為にも抗生剤の効いた頃の患者のリストを調べなおしていた。今いる患者の中には入院してから比較的長く生存していた人がいた。その患者は旧型のペストに感染し退院した患者だった。原神もそのことに気付きリスト化しているところだったが、リストが作れていない時期があり確かなことはわかっていなかった。今わかっているのは旧型ペストに感染したことのある新型ペストの患者は他の患者より少し長く生きるがその後死亡しているという事だ。ここからわかることは一度目の感染で多少の免疫が付くという事だった。
潤月はコウタに感染したことを話した。泣いて励ますコウタを元気づけるように潤月は平気なふりをして頑張ることを伝えて電話を切った。その後潤月の容態は悪化しもうだめかもと諦めかける。そこへ今まで東京にいて家族として何もしてくれなかった父親が現れる。父親は仕事を辞め病院で働くことにしたと言って今まで放っておいたことを謝った。強がって生きてきた潤月は父親の存在に安心した。潤月の容態はどんどん悪くなり心肺停止してしまう。潤月の意識は体を離れ花畑の広がる場所にいた。そこには母親らしき人がいて潤月はそちらに近寄ろうとしたがその人に突き飛ばされ意識が体に戻った。その後、潤月の意識は戻り、新型ペストから生還したのだった。

絶望の終わりに

隔離セットが普及してから新規感染者の数は半減し、流行はピークを越えた。原神は地道に旧型ペストに感染したと思われる患者の抗体検査をし、新型ペストと旧型ペストの両方の抗体を持った人を2人見つけていた。そして旧型ペストの抗体を持っていれば僅かだが生還する可能性がある事、新型ペストにかかる確率が低い事がわかった。カルロスのように旧型ペストに感染していたが、感染者としてカウントされていない抗体を持っている人の数は多いかもしれない。それを考えると、今回のアウトブレイクは思っていたよりも少ない死者数でかつ、早く終わるかもしれない。原神からの朗報を聞いた玉木は、何もできずにただ嵐が過ぎ去るのを見ていただけな気がして素直に喜べなかった。「それでも嵐の中で小屋ぐらいは建てた」と言って原神は玉木を元気づけたのだった。そして潤月の退院の日、玉木が濃厚接触者リストに入ったことがわかる。原神は発熱し感染者となっていた。
抗体の調査で沢山の人に会っていたことで感染したようだった。玉木は原神が旧型ペストの抗体を持っていればまだ助かる可能性はあると思ったが、原神は抗体を持っていなかった。原神が100%死ぬとわかってしまい玉木は泣いた。
玉木は治療をさせて欲しいと原神に言ったが防護服を着たままでは水も飲めなかった。原神は治療を断り、せめて玉木のシフトが終わるまで手を繋いでほしいと願って「死にたくない」と涙を流したのだった。

あなたのいない世界で

時は経ち、横走市の封鎖が解除された。みんなが日常を取り戻す中玉木は亡くなった原神の事を引きずっていた。原神は亡くなる前、玉木に大切なデータを全て送っていた。そして最後に、いつか取りに行って欲しいと言う言葉と共に玉木に向けてプレゼントを残していた。潤月は父親と共に東京へ引越し、カルロスはパラグアイに里帰り、玉木は「玉木医院」を開院した。新しい生活のスタートと共に玉木は原神の遺したプレゼントを取りに行くことにした。そこは横走中央病院の感染者が入院していたテントの辺りだった。掘り返すと原神の持っていたアルベールカミュの『ペスト』がビニールに入れられて埋まっていた。原神がなりたいと願い、来て欲しいと願った医者の出てくる本だ。
玉木は原神を思いひとしきり泣くと、未来へと歩き出したのだった。

『リウーを待ちながら』の登場人物・キャラクター

網走中央病院

玉木涼穂(たまきすずほ)

本作の主人公。網走中央病院の呼吸器内科で働く医師。周りには美人と言われるが、愛想がない。ずぼらな性格でオペ着をパジャマにしている。
父親の形見の車で病院に出勤しているが普段は遅刻ギリギリが多く、法定速度を守らないことも多い。鮎澤の弁当が大好き。
父親は医者でシエラレオネで亡くなった。子供の頃は父が助けに行く遠くの人が羨ましかった。

鮎澤朋子(あゆさわともこ)

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