まつりスペシャル(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『まつりスペシャル』とは2007年から2009年まで、集英社『ジャンプスクエア』で連載された青春漫画である。作者は神尾葉子。主人公の羽生まつり(はにゅう まつり)は女子高校生でありながら、覆面レスラーとして日々実家の「まごころプロレス」のリングにあがる。プロレスラーとしての顔は秘密にしているが、ある日クラスメイトの重松荒太(しげまつ あらた)に正体がバレてしまう。少女漫画要素の「恋愛」と、少年漫画要素の「格闘技」を織り交ぜた作品である。かつ神尾が初めて少年漫画として連載した漫画だ。

『まつりスペシャル』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

羽生まつり「いまあたしの力は何のためにあるのかと問われたら迷わずに答える。好きな人を守るためにあると」

カラオケボックスで、学年一可愛い女の子が、諸角にフラレた腹いせに元ボクサーがいる不良連中をつかい、諸角をボコボコにする計画を偶然聞いたまつり。夜の11時に学校に諸角を呼び出している。それを聞いたまつりは、一緒にいた重松に先に帰るように言う。重松は「行くのか。羽生、男の俺から見ても諸角渉って奴はクソだぞ。おまえはアホか?」とまつりを引き止めようとする。まつりは自分でも分かっていた。重松が正しくて、まつりは間違っていてアホである。なぜなら、さんざん今までまつりは諸角にひどいことを言われてきたからだ。目障りだと言わんばかりの目でまつりを睨む諸角を思い出した。そんな諸角が、不良たちにボコボコにされて、地面を這いつくばればいいとも思ったまつり。だが、やっぱりほっとけなかった。まつりは覚悟を決め、学校に向かって走り出す。その時心のなかで「いまあたしの力は何のためにあるのかと問われたら迷わずに答える。好きな人を守るためにあると」と言った。まつりの正義感の強さと、心から諸角のことを思っていることが表現された名セリフである。

前野美々「あたしはプロレス好きだからお客さんをがっかりさせたくないの」

美々のプロ意識の高さが読み取れる言葉。自棄になり、試合を放棄したまつりの代わりに美々がまごころプロレスのリングに立つことになった。「あたしはプロレス好きだからお客さんをがっかりさせたくないの」という美々はプロレスの仕事に誇りを持っていて、客のことも大事に考えている。色気で勝負するのではなく、美々が本気プロレスと向き合っていることが読み取れて、美々のかっこよさが垣間見える言葉である。

父がまつりを迎えに行く場面

試合を無断で放棄したまつりを、父は引っ叩いて「プロとしてあるまじき行為だ。もうまごころプロレスのレスラーじゃない」と言い放った。そんな父に「最初からやりたくなんてなかった。プロレスなんて好きじゃない」とまつりは言い始めた。そして父を睨みながら「まごころプロレスのレスラーじゃない?望むところよ。お母さんに出て行かれて、こんな弱小プロレス団体いつまでも経営して、もっと現実を見たら!?あたしの方から辞めてやるわよっ」と言い切った。そのまままつりは、まごころプロレスから出て行った。雨が降ってきて、まつりはずぶ濡れになりながら、自分がしたことを深く反省した。お客を裏切ったことの重大さに気が付いたのである。そして父にひどいことを言ったことを反省した。まつりはまるで迷子になった幼子のように、一人ベンチに座っていた。まつりの頭には、まつりが幼い頃迷子になりかけた時の記憶が蘇る。父は「いいか、まつり、迷ったらそこから動くな。俺が必ずお前を迎えにいく」とまつりに言った父の大きな背中を思い出す。重松が雨の中、駅まで着いたちょうどその時まつりに傘を差し伸べる人がいた。まつりの父だ。「…ったくおまえは。ほんとにでかくなっても変わんねえな。いつまでも俺が探しに来ると思うなよ」と言う声にまつりは父を見上げた。「帰るぞ」と言う父にまつりは涙を流しながら「お父さん、ごめんね」と謝った。父はどこまでも愛情深く、まつりのことを大事に思っている。親子の絆が丁寧に描かれた名場面である。

羽生まつり「重松、あんた本気で闘うあたしを見たいって前に言ってたよね。観せてあげる」

カズン・みちるにパイプ椅子で殴られたまつりは、一時立てなくなる。だが、まつりの脳裏に「美しい技で勝て。それがまごころスピリッツだ」と言った父の言葉がよみがえる。誰も応援してくれない中で、重松だけがまつりに声援を送り続けていた。そんな重松に向かって「重松、あんた本気で闘うあたしを見たいって前に言ってたよね。観せてあげる」とまつりは立ち上がったのである。その姿は、美しい猛獣のようで、まつりに見えない力が備わったような雰囲気が漂う。言葉からも、描写からもまつりの勇姿が伝わる名場面である。

『まつりスペシャル』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

元レスラーとの縁

1981年に、全日本プロレスでデビューした三沢光晴(みさわ みつはる)という選手がいた。三沢は2代目タイガーマスクにもなり、全日本プロレスでトップレスラーとして活躍した。その後、2000年にプロレスリング・ノアを旗揚げしている。作者の神尾は、そんな三沢の大ファンであった。「三沢さんには華があり、リングに立つだけで会場が明るくなる。タイガーマスクをやっていたからかもしれないが、私にとっては『正義の味方』みたいなイメージがある」と神尾は語っており、三沢のファンであることを公言している。縁がつながり、『まつりスペシャル』第3巻の帯には三沢の「まごころプロレスは最高の団体だ!」というメッセージが寄稿されている。この時神尾は感激し、同巻のあとがきに三沢への愛を語る漫画が掲載している。漫画では三沢の似顔絵を描き、「元気を出そう!!とい思う時いつもプロレス観に行ったりしてました。一度、ある方のつてで、日本武道館でお会いしたのですが、そこに笑顔の三沢さんがいました。テンパり過ぎてなに話したか覚えてない…」と神尾は書いている。
しかし、まつりスペシャル第3巻が発売された2009年6月4日からわずか9日後の6月13日、三沢は試合中の事故により亡くなった。訃報を知った神尾は衝撃を受け、しばらく仕事が手につかない状態になった。この時の悲しみを『まつりスペシャル』が連載されている『ジャンプスクエア』2009年8月号の、作者コメント欄に吐露している。また、最終巻である『まつりスペシャル』第4巻のあとがき漫画では、第3巻で三沢が帯コメントを書いてくれたことへの感謝の気持ちと、星になった三沢に思いを馳せる神尾の姿が描かれている。

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