ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア(映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』とは1997年公開のドイツのロードムービー映画である。監督はトーマス・ヤーン。製作・脚本・主演のティル・シュヴァイガーはモスクワ国際映画祭で最優秀主演男優賞を受賞した。余命わずかなマーチンとルディが、死ぬ前に海を見ようと、ギャングの車を盗み海を目指すストーリーである。道中犯罪や騒動を巻き起こし、ギャングや警察に追われる身になるもなんとか逃れ、たどり着いた海を二人は眺めるのであった。

『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』の概要

『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』とは、1997年公開のドイツのロードムービー映画である。監督はトーマス・ヤーン。マーチン役のティル・シュヴァイガーはこの映画で、製作、脚本(監督のトーマス・ヤーンと共に脚本を製作)主演を務め、モスクワ国際映画祭では最優秀主演男優賞を受賞した。
エンディングに流れる曲は、タイトルと同名である『Knockin' on Heaven's Door(天国への扉)』である。ボブ・ディランの名曲をドイツのバンドSelig(ゼーリッヒ)がカバーしたものである。

たまたま同じ列車に乗りあわせたマーチン(演:ティル・シュヴァイガー)とルディ(演:ヤン・ヨーゼフ・リーファース)は行き先も同じ病院であった。マーチンもルディも検査を受け、余命宣告をされる。しかも病室が同室であったことから、話をし始めるのであった。院内の冷蔵庫から偶然見つけたテキーラを二人で飲みながら、「海を見たことがない」と言うルディにマーチンは「天国では海の話をするのが流行りだ」と言う。ひょんなことから出会った二人は酔った勢いで病院を抜け出して海を目指すことになる。たまたま病院に来ていたギャングのヘンク(演:ティエリー・ファン・ヴェルフェーケ)とアブドゥル(演:モーリッツ・ブライプトロイ)が乗っていた車(ベンツ)をマーチンとルディは盗み、海に行こうとするが道中ギャングの車の中で見つけた銃を使って銀行強盗をしたり、発砲事件を起こす。ギャングから盗んだベンツのトランクには大金の入ったかばんが入っていた事から、マーチンとルディはギャングや警察に追われる事になってしまう。大金を手にしたマーチンとルディは自分の願い事を1つ叶える事に成功するが、やがてギャングたちに捕まる。ギャングに殺されかけた時に、大物ギャングのボスであるカーチスは余命いくばくもない二人が海に行きたがっていることを知り、マーチンとルディを逃がす。
海にたどり着いたマーチンとルディはただ黙って海を見つめていた。やがて倒れ込んだマーチンは動かなくなったが、ルディはただ海を見つめているだけだったのだ。
見どころとしては、余命わずかな男二人の友情物語という重くなりがちなテーマを扱いながらも、憎めないデコボココンビであるギャングや間抜けな警察官などの面白いキャラクターが登場しコメディタッチに描かれている。また、ギャングの大物ボスの男気ある言動やマーチンとルディの友情に胸が熱くなるシーンも盛りだくさんである。笑えて泣ける映画である。

『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』のあらすじ・ストーリー

マーチンとルディの出会い

年配のギャングであるヘンク(演:ティエリー・ファン・ヴェルフェーケ)は、仲間のアブドゥル(演:モーリッツ・ブライプトロイ)にジョークを交えた話をしているが、ヘンクのジョークはアブドゥルには全く通じずギクシャクした会話をしていた。ヘンクがベルギー人でアブドゥルがアラビア人であるからか年代が違うからなのか噛み合わない二人は、フランキー(演:フープ・シュターペル)からボスであるカーチス(演:ルトガー・ハウアー)に車(ベンツ)とキーを渡す仕事を頼まれる。余程大事なベンツであるのか、フランキーはベンツから目を離さない様ヘンクやアブドゥルに念を押すのであった。
一方、列車の向い合わせの席にマーチン(演:ティル・シュヴァイガー)とルディ(演:ヤン・ヨーゼフ・リーファース)が座っていた。列車内は禁煙にも関わらずマーチンは煙草を吸っていた。
偶然にもマーチンとルディの行き先は同じ病院であり、二人とも検査に来ていた。マーチンはテニスボール大の脳腫瘍で、ルディは自分の父親の死因と同じ骨肉腫で余命宣告を受けた。二人は末期病棟の同室となる。マーチンはベットの上で煙草を吸い看護婦にセクハラめいた言葉をかけていた。
全くタイプの違ったマーチンとルディだったが同じ末期患者同士話をする。その時、壁に掛けられた十字架が落下し備え付けの冷蔵庫に当たる。その衝撃で冷蔵庫の扉が開き、中にはテキーラが入っていた。二人はテキーラを美味しく飲もうと院内のキッチンに行くと、レモンと塩を見つける。
時を同じくして、カーチスに渡すベンツを運転していたアブドゥルはスケボーに乗っていた少年を跳ねてしまう。少年は無事だったものの、足を痛めた為病院へ連れて行くようにヘンクとアブドゥルにうったえる。仕方なく二人は少年を病院に連れて行くことにした。

病院内のキッチンでは、マーチンとルディがテキーラを飲んでいた。会話の中でルディは「海を見たことがない」とマーチンに言う。マーチンは「天国で流行っていることは、海を話題にすることで壮大な美しさを語り合う事だ」と言い、海を知らなければ天国に行った時に会話に入れずのけ者になると言うのだ。酔った勢いで二人は病院を抜け出し海を見に行くことを決めたのであった。
マーチンとルディは駐車場に行き、たまたまドアが開いていたベンツに乗り込む。このベンツは少年を病院に連れて来ていたヘンクとアブドゥルが乗っていたベンツであった。
ヘンクとアブドゥルは、フランクの命令を遂行しなければならない焦りと、タメ口をきく生意気な少年の態度にとうとうキレ、少年と医療スタッフたちを銃で脅しその場を後にした。
車にキーがあった為ベンツを走らせ始めたマーチンだったが出口がわからず、ルディは丁度駐車場に戻って来たヘンクとアブドゥルに出口を聞く。ヘンクはまさか自分たちが乗っていたベンツだとは思わず、二人に出口を教えてしまう。

逃走するマーチンとルディ

ベンツを盗んだ翌朝、車を止めてマーチンは車内から見つけた銃で遊んでいた。そこに目覚めたルディがやってくる。ルディは昨晩の記憶がなく、マーチンと一緒に車を盗んだと知り恐ろしくなって海に行くのをためらう。マーチンは「怖いことないさ」と言い再び海を目指すことにした。
道中立ち寄ったガソリンスタンドで、ガソリンを入れたがガソリン代を持っていなかった。ガソリン代がない事をガソリンスタンドの店主に素直に話したマーチンだったが、銃を床に落としてしまったことから、銃で店主を脅す羽目となる。途中店主の友人である警察官がやってくるも、ガソリンスタンドの店主から店番を頼まれたふりをして、うまく乗り切ったマーチンとルディは店の金を奪って逃走した。
うまく逃げられたマーチンとルディ。しかし病院から抜け出した為、2人ともパジャマ姿に裸足であった。その為洋服を買いに店に立ち寄るものの、気に入ったスーツを買うには奪った金では足らず、マーチンは店にルディを残し一人で銀行に向かった。銀行を襲い7万5千マルクを手に入れたマーチンは、銀行の防犯カメラに名前を名乗ったりふざけてみせたりしてから銀行を後にした。
マーチンはルディを待たせている店まで歩いている途中で、偶然ヘンクとアブドゥルにぶつかるのだが、お互いに全く気が付かない。車を盗まれ、移動手段を失ったヘンクとアブドゥルは車泥棒を探すためにも車が必要であった。立ち寄った中古車店のベンツは高くて金が足らなかった為、ハンクとアブドゥルは銀行を襲って金を手に入れようとしていたのだ。しかし一足遅く、既にマーチンがお金を奪った後であった。しかも銀行の通報で駆け付けた警察官と、鉢合わせ撃ち合いになるヘンクとアブドゥル。
一方金を手に入れ、無事洋服を買ったマーチンとルディは再び海を目指して車に乗る。道中マーチンが発作を起こし、薬を飲み事なきを得た。
その頃警察署では、防犯カメラからマーチンの素性を調べていた。しかし薬物使用歴も犯罪歴も全くないマーチンが、なぜ大胆な犯罪を犯したのか刑事のケラー(演:ラルフ・ケアフォート)もケラーの上司であるシュナイダー(演:レオナルド・ランシンク)も理解できずにいた。
その後、家宅捜索でマーチンの家を訪れたシュナイダーとケラーは、病院の検査結果の紙を見つけるのであった。

マーチンとルディの願い事

道中、マーチンとルディはベンツのトランクから100万マルクの入ったかばんを見つける。大金が手に入った二人は豪勢なホテルに宿泊することにした。マーチンとルディはひとしきりはしゃぎ、リッチな時間を過ごした後、叶えたい願いを紙に書き出すことにした。ルディは8個、マーチンは20個書いたのだが、余命宣告を受けている二人に時間はあまり残されていない事を悟ったマーチンは一つだけにしようと言うのだった。マーチンは母親にキャデラックのフリートウッドという車をプレゼントする事に決まる。歌手のプレスリーの大ファンである母親に、プレスリーが自分の母親に贈った車と同じ車をプレゼントしたかったと言うマーチン。
マーチンは子供の頃、泣いている母を見た時からそう思っていたことをルディに話した。ルディはといえば、二人の女と寝るという願い事に決まった。
そんな中、再び頭を抱えて苦しみだすマーチン。慌ててマーチンに薬を飲ませたルディだったが、マーチンの死期が近い事は明らかだった。

翌朝、ルディがホテルのベランダから下を見ると数台のパトカーが駐車場に止まっており、中から警官が降りてくるのを見て慌てて逃げようとする。駐車場にはヘンクとアブドゥルの姿もあった。
ホテルの廊下で警官と鉢合わせしたマーチンとルディ。二人の警官に銃を向けられたマーチンはとっさに機転を利かし、ルディに銃口を向け「人質を殺すぞ!」と警官を脅した。
人質を取られ身動きの取れない二人の警官の制服を奪い、マーチンとルディは奪った制服を着て警官に成りすまし見事に駐車場まで辿り着くが、ベンツの前にはヘンクとアブドゥルがいた。マーチンとルディを警官だと思っているヘンクとアブドゥルをうまくかわしてマーチンとルディはパトカーで逃走するのだった。
ベンツを取り戻したヘンクとアブドゥルはフランキーの元に戻る。フランキーが喜んだのも束の間、トランクの中のかばんが無いと怒り狂い出すのだった。ヘンクとアブドゥルはかばんの事など知らず、ただ車とキーを渡すだけだと聞いていたのだ。ましてやかばんの中身がギャングのボスであるマーカスに返す100万マルクが入っていたとは思いもしなかったのである。

追い詰められるマーチンとルディ

マーチンとルディは警官の制服から洋服へ着替えた。町の壁に描かれた海を眺め、想いを馳せるのだった。しかし再びマーチンは発作を起こして倒れてしまう。マーチンが飲んでいる薬がなかった為近くの薬局へ薬を買いに行くルディだったが、処方箋がなければ渡せないと薬剤師に言われてしまう。何としてもマーチンを助けたいルディは、薬剤師を脅す為に薬棚めがけて発砲したのだった。程なくしてこの騒ぎにより、パトカーがやってくる。薬で回復したマーチンとルディはトルコカフェに立てこもった。カフェの中には数人の客と店員がいた。カフェの周りには報道関係者たちが集まっていた。マーチンはルディに銃口を向け、再び人質をとったかのように見せながら店を出て、路上に止まっている車に乗って逃走した。
マーチンとルディの乗った車を何台ものパトカーが追跡していた。トウモロコシ畑に囲まれた一本道まで出たところで、道の先を塞ぐように車を止め銃を構えたヘンクやアブドゥル、仲間のギャングが待ち構えていた。前にはギャングたち、後ろはパトカーと完全に囲まれてしまったマーチンとルディだったが道のわきに広がる広大なトウモロコシ畑に突っ込み逃走した。ギャングがマーチンとルディが乗る車に発砲したことから警官はギャングに発砲。ギャングと警官の激しい撃ち合いに発展してしまう。
畑を突っ切り、うまく逃げられたと思ったマーチンとルディだったが車が崖から転落してしまう。
暫くして崖から落ちて横転した車の元に、ヘリに乗ったケラーとシュナイダーがやってくるが、車の中は既にもぬけの殻であった。何故か段々と大きな事件に発展している事を、楽しんでいるようにしか思えない部下のケラーにシュナイダーは少しうんざりしていた。
一方逃げ延びたマーチンは、見知らぬ男の車に乗り込むと自分が今ニュースになっている男だと伝える。怯える男にマーチンは、銀行に8万マルク、ガソリンスタンドに3000マルクを返して来て欲しいと頼むのであった。

天国の扉

マーチンとルディは中古車販売店で、キャデラックを買う。そして二人はキャデラックをマーチンの母親に届けに行くのだった。しかし中古車販売店の店主から通報を受けた警察は、先回りしてマーチンの家の傍で待機していた。
母親の元にキャデラックを届けたマーチンと母親は抱きしめ合うが、直ぐに警官がマーチンを取り囲んだ。ルディはマーチンに「海はやめよう。いつか行ける」と言って諦めさせようとしたが、「それまでに死んでしまう」と言いマーチンはその場に倒れる。再び発作が起こったのである。ルディは警官に救急車を呼ぶように言い、自分も友だちだから同乗すると言うのだった。ルディを人質だと思っている警官はルディの言動が理解できないが、ストックホルム症候群だろうとルディを不憫に思った。そして救急車に見張りの警官を同乗させ、ルディも一緒に救急車に乗る事を許した。しかしマーチンが倒れたのは芝居であった。マーチンとルディは救急車から救急隊員や警官を下ろし、電柱に縛り上げて救急車を乗っ取って逃走するのであった。
マーチンとルディが向かった先は売春宿であった。マーチンは母親にキャデラックをプレゼントする願いを叶えたので、次はルディが願いを叶えようとしていた。ルディの願いは二人の女と寝る事であった。ルディは二人の女を選び女たちを連れ、別室に向かおうとしていた時ヘンクとアブドゥルに姿を見られる。この売春宿はフランキーの店であり、たまたま今回の一件の罰としてヘンクとアブドゥルは、店の手伝いをやらされていたのである。
あっけなく捕まったマーチンとルディは、フランキーの元に連れて行かれる。盗んだ金を全て使い切ったと知り、フランキーやヘンク、アブドゥルはマーチンとルディに銃を向けて殺そうとする。だが死期の近い二人は全く動じない。フランキーたちは二人から余命わずかだと聞かされ、殺すのをためらってしまう。
そこにボスであるカーチスがやって来る。カーチスは二人の事をニュースで知っており、余命わずかな身で何がしたいのかを問う。
マーチンは海に行きたいと言い、ルディは海に行った事が無い事を伝えると、カーチスは「じゃ行け、急がないと間に合わんぞ」と言って二人を逃がしてやるのだった。そしてカーチスはフランキーに天国では皆が話すと言う海や夕陽の素晴らしさについて聞かせてやるのだった。

海に辿り着いたマーチンとルディ。マーチンは死期を悟った様に、ルディに「話があるんだ」と言い出したが、マーチンとずっと一緒にいたルディはマーチンの言いたいことはわかっていた。ルディは、笑顔で「何も怖くないさ」ともうじき天国に旅立とうとしているマーチンに言うのだった。
酒を飲み煙草を吸いながら、無言で砂浜に座り込んだマーチンは海を見つめながら倒れて動かなくなる。その隣でルディはじっと海を見つめるのであった。

『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』の登場人物・キャラクター

マーチン・ブレスト(演:ティル・シュヴァイガー)

盗んだギャングの車から銃を見つけたマーチン

テニスボール大の脳腫瘍を抱え、余命宣告を受けた男。
煙草や酒を好み、女性の扱いもうまい。
行動力があり破天荒な反面、ロマンチストな一面も持ち合わせる。
母親思いで、母親が大ファンであったエルビス・プレスリーが母親に贈った車(キャデラック)を子供の頃からプレゼントしようと思っていた。

ルディ・ウルリツァー(演:ヤン・ヨーゼフ・リーファース)

人質のふりをするルディ(右)

自分の父親の死因と同じ骨肉腫で、余命宣告を受けた男。
保守的で臆病な性格ではあるものの、マーチンを助ける為に銃を発砲するなど大胆な一面も持つ。
産まれてから一度も海を見たことがない為、海を見たいと思っている。

ヘンク(演:ティエリー・ファン・ヴェルフェーケ)

車を盗まれ、徒歩で移動するヘンク(右)

フランキーの部下で、いつもアブドゥルとコンビを組んでいるギャングの下っ端である。
アブドゥルとは相性が良くないが、キレやすいアブドゥルをうまく抑えている。
間抜けな一面を持っており、憎めない人物である。
ベルギー人である。

アブドゥル(演:モーリッツ・ブライプトロイ)

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