殺し屋1(漫画・映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『殺し屋1(いち)』とは日本のバイオレンスアクション漫画である。原作は山本英夫で1998年から週刊ヤングサンデーに掲載されていた。過激な暴力表現が特徴であり、2001年に三池崇史監督で実写映画化された時にはあまりにも激しい暴力シーンのため、性描写以外では初のRー18指定となった。元いじめられっ子の主人公「城石一(イチ)」は謎の男(ジジイ)のマインドコントロールによって凄腕の殺し屋に仕立て上げられていた。新宿歌舞伎町にある「ヤクザマンション」を中心にした暴力団との攻防・混沌を描く問題作。

『殺し屋 1』の概要

『殺し屋1』とは山本英夫原作のバイオレンスアクション漫画である。週刊ヤングサンデーに1998年の12号から2001年18号まで掲載されており、単行本全10巻の累計発行部数は約500万部。過激すぎる暴力表現が特徴で、一巻がAmazonのkindleストアで無料配信になった際にはアダルト本として分けられていた。(現在は終了)
2001年には三池崇史監督によって実写映画化された。その際本作のあまりにも激しい暴力シーンを考慮してR-18に指定されており、性描写以外のバイオレンス映画として初めてのR-18となった。
映画の主演は垣原役に浅野忠信、イチ役に大森南朋でキャッチコピーは「愛はかなりイタイ」である。
本作は新宿歌舞伎町を舞台に、そこにある住人の八割が暴力団関係者という集合住宅通称「ヤクザマンション」を中心に広がるストーリーだ。
謎の男ジジイは組などの組織から破門されたハグレ者を集め、ヤクザマンションで一番危険な武闘派暴力団「安生組」の壊滅を計画していた。ジジイは自信がマインドコントロールで殺人兵器に仕立てた元いじめられっ子の「イチ」を使い組長の安生芳雄を殺害、3億円の強奪に成功した。
イチは普段は大人しく気弱な性格だが、いじめを受けたトラウマを思い出すと子供のように泣きじゃくりながら相手を惨殺する「泣き虫の殺し屋」だった。
安生組の若頭・垣原芳雄は組長を殺した殺した犯人を暴力と拷問を駆使して捜索していた。犯人がジジイ一派と「殺し屋イチ」の仕業だと知り、垣原は安生を殺害したイチに復讐することを誓った。
イチの残虐さに恐れ慄く住人は次々ヤクザマンションを後にする。しかし真性マゾヒストの垣原はイチの残虐性にどんどん惹かれていく。イチもまた、人が痛めつけられるところを見て興奮する真性サディストであった。
いつしか垣原はイチとの対決を心待ちにしていくのだった。

『殺し屋1』のあらすじ・ストーリー

泣き虫の殺し屋

新宿歌舞伎町に入居者の8割が暴力団関係者の集合住宅、通称「ヤクザマンション」があった。そのヤクザマンションの前で、ジジィと呼ばれている小柄で初老の男が、昇(のぼる)、井上(いのうえ)、龍(りゅう)という仲間たちにある計画を話している。マンションの13階に住んでいる、「安生(あんじょう)組」の組長・安生芳雄(あんじょうよしお)を殺害して現金を奪うという計画だ。イチという殺し屋がマンションの部屋で安生を殺し、ジジィたちが死体の後始末と金の持ち出しを行う、という手筈だった。
ジジィの携帯電話にイチから着信が入ると、イチは泣きじゃくりながら仕事が終わったことを伝えてきた。ジジィと3人組が安生の部屋に入ると中は血みどろで、鋭利な刃物で惨殺された男女の死体が転がっていた。龍が血だらけの部屋の中に精液が落ちているのを見つける。イチはいつも殺しの仕事の後、現場に精液を残すのだった。龍は「イチってとんでもない変態ね…」と呟く。
その後、イチはジジィと夕食の席を囲む。人を殺してしまったと落ち込むイチをジジィは励ます。イチは子どもの頃に学校でいじめを受けていた過去があり、自分をいじめた人間やただ見ていた人間に復讐すると決めていた。その決意をジジィの言葉で思い出したイチは元気を取り戻す。
ジジィたちはヤクザが支配している歌舞伎町でヤクザを相手に金を奪って儲ける気でいた。そのために多くのヤクザが平和に暮らしているヤクザマンションをぐちゃぐちゃにしようというのがジジィの狙いだった。

残虐なマゾヒスト

安生(あんじょう)組では若頭の垣原雅雄(かきはら まさお)を筆頭に、組長と大金が消えた事件を追い始めた。垣原は残虐で部下にも敵にも決して容赦しない性格で恐れられながら、当人は徹底したマゾヒストという性格だった。
垣原は部下の「組長はもう消されちまってるだろう」という言葉に肩を震わせて涙を流す。安生の「ケンカ一本、暴力に生きてきた生き様」に惚れ込んでいた垣原は、安生が生きていると信じたかったのだ。垣原は新宿中何人殺してでも安生の行方を追い、犯人を生け捕りにしてなぶり殺すと決意する。

いじめられっ子のサディスト

イチは夜な夜ないじめられていた頃の夢を見ては泣きながら目を覚ます日々を送っていた。働いている海鉄機工でも仕事仲間に疎まれ、通っている空手道場でも馬鹿にされていた。同上で対戦相手と向き合っていると相手が自分をいじめた人間の顔にダブって見え、必要以上に叩きのめしてしまう。そのときのイチは涙をこらえながら激しく勃起していた。
風俗店では同棲している男に暴力を振るわれている女性、セーラを指名して、生々しい傷跡に興奮するのだった。

抗争

ジジィはヤクザ同士を潰し合わせるため、垣原に嘘の情報を流して安生組と船鬼組を対立させる。どちらもヤクザマンションに住む構成員が多い組だ。垣原は馴染みのキャバ嬢・カレンにも協力させて情報を集めていく。
垣原は船鬼組の幹部を捕えて拷問にかけた。途中で船鬼組の組長が乗り込んできてジジィの嘘がばれてしまったが、ジジィは既に逃げた後だった。
船鬼組の組長がヤクザマンションで発砲したことで本格的な抗争が始まる。ジジィは船鬼組の恨みに大金がつくと踏んでいた。

拷問

垣原はカレンの協力で情報を集め、ジジィの配下である井上の身元を突き止める。
垣原に追い詰められた井上は拷問され、安生組の組長が既に死んでいること、そして安生を殺したのが「イチ」という殺し屋であることを喋ってしまう。井上は垣原に殺された。
一方ジジィは船鬼組と強引に交渉して、安生組を潰す仕事を3億円で請け負うことに成功する。祝いに飲みに行こうと井上に電話をかけると垣原が出る。ジジィは臆さずに垣原を挑発した。安生組を潰す直接の仕事はイチが行うことになる。
イチは相変わらずいじめられる夢を見ていた。いじめられるイチを庇った立花という女子生徒が標的にされ、男子生徒に強姦されていた。立花はイチに助けを求めるが、イチは泣きながら見ているだけだった。目を覚ましたイチはかつての立花とセーラが重なる。
イチは仕事の後に工場に残り、職場の機械を使って殺しの仕事に使う武器の調整をした。鋭い刃物が踵から飛び出る殺人シューズだ。イチはそれを使って殺し屋の仕事をするのだ。
イチは仕事の装備に着替えると、セーラの自宅に向かう。そこでセーラに暴力をふるっている彼氏と対峙するが、怯えて大泣きする。そして殺人シューズで男をズタズタにして殺害する。帰ってきたセーラがイチの所業を恐れて拒絶すると、イチは裏切られたと感じて大いに傷つき、泣きながらセーラを殺す。一連の殺人によってイチは射精していた。その晩、イチは悪夢を見ることなく爆睡する。
垣原は部下を新宿中に走らせてジジィを探させながら、死んだ安生を思って泣きながら自慰をしていた。その間にジジィは船鬼組から金を受け取り、垣原を組から孤立させて組ごと潰す算段をつける。ジジィはイチを呼び寄せた。

攻防

垣原はジジィの策略によって安生組から孤立させられるが、暴力と恐怖で部下を従えて「垣原組」として独自に動き始める。垣原は情け容赦のない暴力によって、新宿で存在感を示した。
垣原は町中のヤクザを暴行、拷問しながらカレンを呼び出し、ジジィの捜索を依頼する。ジジィに激しい憎しみを燃やしながら、垣原はターゲットをめった切りにする暴力性を持つ殺し屋「イチ」が自分を狙っているという状況に興奮を覚えていた。
ジジィはイチに垣原組の下っ端を殺すように命じる。ジジィはターゲットの男たちがイチをいじめた少年たちに似ていると思い込ませ、イチを殺しにのめり込ませる。イチはジジィの思惑通り、ターゲットと対峙しながら過去を思い出して大泣きし、男たちを惨殺した。
その後、垣原は無惨に殺されている部下たちを発見する。部屋は一面血の海と化しており、部下たちはバラバラだった。それを見た垣原は興奮して股間を膨らませる。
イチはコインランドリーで、垣原の部下のひとり、金子と知り合う。穏やかで包容力のある金子とイチは徐々に親しくなっていく。金子はイチと同様にいじめられっ子だった過去を持っていた。組での地位は決して高くなく、いざというときに真っ先に突っ込んでいく鉄砲玉のような役割だった。イチはそんな金子にほのかな憧れを抱くのだった。

兄弟

垣原は九州から兄弟分の二郎と三郎を呼び寄せた。彼らはかつて垣原と同じ組に所属していた双子で、垣原に劣らない残虐性と、瞬時に怒りを爆発させる気の短さ、女性相手でも非情な暴力を振るう危険性を持っていた。
垣原と二郎・三郎はジジィの部下の龍を追い詰める。龍の女を使って龍をおびき出し、女ともども拷問にかけ、アジトの場所を喋らせてふたりとも殺してしまう。垣原はイチの足取りが掴めなかったことをもどかしく思い、手がかりになったかもしれない龍と女を勝手に殺してしまった二郎と三郎の手にニードルを突き刺して叱責する。
龍がアジトの場所を喋ったことで昇が垣原たちに捕まった。垣原に拷問された昇だが、昇はイチの居場所を知らないので垣原の望む情報を喋ることはなかった。
ジジィは「イチによる平和の新宿(ハイキョ)計画」という手書きのノートを見ながら次の手を考えていた。
ジジィの指示を受けたイチは昇が捕らえられている部屋に侵入する。中には昇と二郎がいた。イチは再びいじめっ子と二郎をだぶらせて大泣きしながらも、二郎を殺害する。そして縛られていた昇も殺した。イチは満ち足りた表情で股間を扱いた。
昇の殺害はジジィの指示だった。

ラブコメディ

二郎が殺され、垣原のもとには三郎と金子だけが残った。垣原はイチの手が自分の身に迫っていることを実感し、恋する乙女のように期待に胸を高鳴らせる。
金子は決戦が近いことを悟り、イチに「自分に何かあったら息子のタケシのことを頼む」と伝える。金子は未だにイチの正体を知らなかった。
決戦を目前にしたジジィは垣原に電話をかけた。垣原はジジィの企みを、「まるでAVを見るように自分は参加せず、他人をコントロールできていると思い込んでいる」と非難する。するとジジィは「上質な恋愛ドラマに仕上げてきたつもりだぜ」と言い返す。「眠らない街・新宿で巻き起こる、笑いあり、涙ありのラブ&コメディだよ」、ジジィは一連の事件をそう表した。そしてジジィいわく「ヒロイン」の、イチに最後の指示を出した。
ヤクザマンションを舞台に、最後の戦いが始まった。イチは三郎を容易く殺し、初めて垣原と対峙する。いじめられていたときの感覚が蘇り泣きじゃくるイチを見て愕然とする垣原。しかし暴力にひとかけらの躊躇いも手加減もないイチを見ると、垣原は「待っていた…オマエみたいな変態を…」と呟いて恍惚とする。
そこに金子が現れ、イチに向かって発砲する。イチは防弾チョッキに銃弾を受け、その衝撃でまたいじめられていたときのことを思い出す。そして金子を「自分を裏切った友達」だと思い込み、泣きじゃくりながら殺害する。金子は「タケシを頼む」とイチに言い残すが、その言葉はイチには届かない。
イチは顔をグチャグチャにしながら垣原に挑みかかっていく。血なまぐさい攻防の末、イチの殺人シューズの蹴りで垣原は体の前面を縦に切られる。服が破れて裸になり、陰茎は縦に切断された。
その瞬間、垣原は陰部の激痛で我に返る。イチにどれだけ痛めつけられても快感を感じていた垣原は、初めて痛みを恐ろしく感じた。迫る死に心から恐怖した。垣原は全裸のままイチに背を向け、全力で逃げ始めた。「許さないゾ!」と泣きながら、イチがその後を追う。その様子を眺めていたジジィは「なんてロマンティックなんだ」と呟いた。
垣原はマンションの廊下の端まで追い詰められ、一か八か隣のビルに飛び移る。かろうじて片手で手すりに捕まってぶら下がった垣原を攻撃できるものを探したイチは、殺人シューズの片方を脱いで垣原に向けて投げつける。シューズは見事に垣原の手に直撃し、指を3本切り落とした。絶望した垣原は「ヤダよ~!」と叫ぶ。すると手摺の上に鳩が止まり、垣原の手の上に糞をした。垣原の2本の指が滑り、手摺を離れた。垣原は「お母さん…」と呟いて落下死した。

計画

事件から3年後、ジジィは電話で話をしていた。ジジィは相手にイチのことを報告し、イチが殺し屋として使い物にならなくなったと愚痴る。妄想を武器にしていたイチにとって、新宿には欲望がありすぎたのだという。ジジィが電話を切ると、その電話を受けていた「東京ハローひまわりテレフォン」という相談ダイヤルの担当者の女性は「ボケたジジィの相手は疲れる」と呆れていた。
ジジィは「タケシによる平和の新宿(ハイキョ)計画」という手書きのノートを眺めながら、次の計画を考えていた。
イチはすっかりあか抜け、キャバクラで遊ぶ今どきの若者になっていた。町で偶然、金子の息子のタケシに出会うが、血塗れのタケシはイチのことを覚えていなかった。
イチはキャバ嬢との約束をすっぽかされ、腹立ちまぎれに空き缶を蹴ると、通りがかりのヤクザにぶつけてしまう。イチは振り上げられた拳を前に大粒の涙を流すのだった。

『殺し屋1』の登場人物・キャラクター

はぐれ者グループ

イチ(演:大森 南朋/中学期:三浦 アキフミ)

4zyukko
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