【名作を紹介】野沢尚氏の「呼人」・不思議で優しい物語

サスペンスよりの作品で人気を博した野沢尚氏の作品を紹介。元々シナリオライターとして活躍していた同氏の個性が発揮されている「呼人」です。映画的な小説と言える作品で、伏線や場面転換など絶妙な構成が光ります。呼人とその友人たちが繰り広げる物語は最終的に大きなファンタジーへと進んでいきます。今回はネタバレ無しでご紹介をしてみたいと思います。

「呼人」のあらすじ・ストーリー

乱歩賞作家が現代の恐怖を描く、書下ろしエンターテインメント!
1985年・2010年12歳。
テロリズムの嵐が吹き荒れる世界で少年は永遠の命に閉じこめられた。
その日、少年は心も身体も成長を止めた。殺戮、紛争、血と暴力、そして愛と友情…。純粋な子どものまま生きていくことは、幸せなのか?

1985年、呼人は12歳だった。友人たちとともに未来は光り輝いていた。ところが呼人だけ身体も心も12歳のまま、決して成長しなかった。
「大人になるって、どういうことなんだろう?」
呼人は自分自身を見つけるため、赤ん坊のときに別れた母親探しの旅に出た。

出典: nozawahisashi.jp

12歳のまま成長が止まってしまった呼人を中心に物語は進んでいきます。潤、厚介、小春、両親である妙子、悠仁という彼を取り巻く人物と共に呼人は成長が止まったまま生きていくことになります。周りは大人になってしまってもいつまでもあの頃と変わらない姿の呼人の姿が年代が進む中で語られていきます。

成長していく友人たちが遭遇する事件の中から呼人の出生の秘密が少しづつ紐解かれていきます。
自分の本当の母親、父親、そしてなぜ自分は12歳で成長を止めることになったのか、呼人はその謎を突き止めるために行動を開始するのです。

そこで判明する事実と呼人が背負う運命とは?

感想

この物語は学生運動やテロという人々の争い、国際情勢も合わせて語られており、現実世界にも起こる可能性のあるものとして
ある意味ではリアリティも感じられます。
いわゆる勧善懲悪、泣ける物語、といったものとは明らかに一線を画している物語なんです。

いつまでも終わって欲しくない少年時代と大人になっていくことで分かってしまう世界のリアリティ。
呼人だけがそれとは無縁のまま、実感のないまま過ごしていくことは果たして幸せなのか?
自分は決して追いつくことができない友人たちとどう向き合っていくのか?

そういった呼人自身の感情と、学生運動やテロというものが非常にリアルに組み合わさった物語だと思います。

この物語のラストでは、幸せのひとつの形が描かれていますが、呼人にとってそれは幸せなのか?
野沢氏が書いたこの物語は今まで読んできたどんなものとも違う読後感を味あわせてもらえました。
これまでも何度も読み返しているのですが、年を重ねるごとに違った印象を受ける物語です。

作者・野沢尚とは?

野沢 尚(のざわ ひさし、1960年5月7日 - 2004年6月28日)は、日本の脚本家・推理小説家である。愛知県名古屋市出身。愛知県立昭和高等学校、日本大学芸術学部映画学科卒業。テレビドラマの脚本で高い評価を受ける一方、ミステリー小説にも幅を広げた。北野武の映画監督デビュー作の脚本を手掛けたことでも知られている。1998年、『眠れる森』『結婚前夜』で第17回向田邦子賞受賞。

出典: ja.wikipedia.org

略歴
1983年 『V・マドンナ大戦争』で第9回城戸賞準入賞。
1997年 小説『破線のマリス』で第43回江戸川乱歩賞を受賞。
1997年 小説『恋愛時代』で第4回島清恋愛文学賞を受賞。
1999年 脚本『眠れる森』『結婚前夜』で第17回向田邦子賞を最年少(当時)で受賞。
2001年 小説『深紅』で第22回吉川英治文学新人賞を受賞。
2002年 『反乱のボヤージュ』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。
2004年 事務所マンションで首吊り自殺。44歳没。

出典: ja.wikipedia.org

残念ながら命を断ってしまった野沢氏ですが、小説家として数々の傑作を残しています。
自殺した際には知人に「夢はいっぱいあるけど、失礼します」との遺書が残されたということですが、夢を上回るほどの
絶望感があったのでしょうか。
ファンとしては非常に残念です。

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