ぼくたちは勉強ができない(ぼく勉)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ぼくたちは勉強ができない』とは、 筒井大志が2017年より『週刊少年ジャンプ』で連載中の漫画である。2019年には第1期・第2期とアニメ化もされた。主人公で凡人出の秀才・唯我成幸が、得意分野では天賦の才能の恵まれるも、希望する進路に必要な科目はとことん苦手な、緒方理珠・古橋文乃・武元うるか、3人の教育係に任命され奮闘する。一ノ瀬学園OGで浪人生の小美浪あすみと、一ノ瀬学園教師で理珠と文乃の初代教育係でもある桐須真冬も巻き込み、5人のヒロインと大学合格を目指していく学園ラブコメディー。

『ぼくたちは勉強ができない』の概要

『ぼくたちは勉強ができない(略称:ぼく勉)』とは、 筒井大志により『週刊少年ジャンプ』で2017年10号から連載開始されたラブコメディー漫画である。2019年4月から第1期アニメ放送がスタート(全13話)。2019年10月から第2期(全13話)が放送された。シリーズ累計発行部数は2020年6月時点(17巻発売時点)で370万部を突破している。各話の表示は「問○」とされており、サブタイトルに必ず[x]が入っている。
受験勉強をテーマとして、高校3年生の1年間を中心に物語が展開する。
直接的な性描写は少なく、入浴シーンやコメディータッチな描写が多いことも特徴である。

一ノ瀬学園3年生で主人公の唯我成幸が、大学の学費免除となる特別VIP推薦を得る代わりに、学園長から一つの条件を出される。数学と物理の天才、緒方理珠。現代文、古文、漢文を得意とする才媛、古橋文乃。成幸の中学からの知り合いでスポーツ特待生、武元うるか。この3人の教育係となり、それぞれを志望大学に合格させる。それが成幸に言い渡された条件だった。
しかし、理系の理珠は文系大学、文系の文乃は理系大学への進学を志望。うるかはスポーツ推薦で英語試験が必須と3人とも苦手分野で受験を余儀なくされる。成幸は、得意分野は天才だが苦手分野はとことん絶望的な成績の3人に加えて、予備校で出会った一ノ瀬学園OGで理科(生物・物理)が苦手な、小美浪あすみの勉強も教えることとなる。
成幸は一ノ瀬学園教師である桐須真冬との指導方針に対する確執も乗り越えながら教育係を続けていく。

基本構成として、各話毎に一人のヒロインを話の中心に据えた一話完結型のストーリーとなっている。5人のヒロインからサブキャラクターまでしっかりと描き分ける画力の高さや、ヒロイン全員に対して満遍なくストーリーを展開するなど、作者の実力が詰まった作品となっている。
問150で完結(うるかルート「白銀の漆黒人魚姫編」)を迎えた。
最終回の最終ページ後に、問69を分岐点とし、他の4人のヒロイン全員とのパラレルストーリー(ぼくたちは勉強ができないRoute:if)を描くという、週刊少年ジャンプ本誌ではあまり例のないマルチエンディング方式が発表された。
Route:ifで描かれるストーリーの順番は、理珠ルート「機械仕掛けの親指姫編」、文乃ルート「文学の森の眠り姫編」、あすみルート「明日の夜の小妖精編」、真冬ルート「薄氷の女王編」である。

『ぼくたちは勉強ができない』のあらすじ・ストーリー

教育係と3人の才媛

一ノ瀬学園3年生の唯我成幸(ゆいが なりゆき)は、貧しい家庭の手助けとなるよう大学の学費免除となる特別VIP推薦を目指して日々勉強に励んでいた。そんなある日、学長に呼び出された成幸は、理系の天才・緒方理珠(おがた りず)と文系の天才・古橋文乃(ふるはし ふみの)の教育係を依頼される。それが特別VIP推薦の条件だというのだ。
万年2位の自分があの天才2人に何を教えればいいのかと首を傾げる成幸だが、実は理球は文系、文乃は理系の大学への進学を希望しており、互いに自分の得意分野以外は壊滅的に苦手という状態にあった。最初は「自分の得意分野を活かした進路に変更した方がいいのでは」と考える成幸だったが、理球と文乃がそれぞれの進路に抱く熱い思いを知り、また「できないヤツのことを分かってやれる男になれ」という亡き父の言葉を思い出したこともあり、2人にとことん付き合う覚悟を決める。

前任の教育係である桐須真冬(きりす まふゆ)を始めとして、教師たちからも匙を投げられていた理珠と文乃は、自分たちに本気で向き合おうとしてくれる成幸のことを信頼するようになる。あくまで「2人とも素晴らしい才能の持ち主なのだから、それぞれの得意分野を活かした進路を選ばせるべきだ」との姿勢を崩さない真冬から理珠と文乃を守りつつ、成幸は悪戦苦闘しながら勉強会を重ね、彼女たちの夢を応援していく。
その後、水泳の特待生としての大学進学を目指す武元うるか(たけもと うるか)も成幸の勉強会に参加することとなる。成幸とは同じ中学校に通っていたうるかは、当初は勉強を嫌がって逃げ回るも、理珠と文乃が勉強会に参加していることを知ると一転して真面目に顔を出すようになる。実はうるかは中学生だった頃から成幸に恋をしており、その彼と理珠や文乃が急激に親しくなっていることに焦りを感じたのだった。

氷の女と小さな先輩

本人たちの熱意と、成幸がそれぞれに合わせて考えたカリキュラムのお陰で、理珠、文乃、うるかの苦手分野の成績は徐々に向上していく。一方、真摯に自分たちに向き合ってくれる成幸に対しての信頼は、3人の中で徐々に彼に対する恋心へと成長。他人の感情にも自分の感情にも疎い理珠はその気持ちがなんなのか分からず困惑し、うるかは文乃に成幸とどうやって仲良くなればいいのか相談し、その文乃は理珠の想いも知ってしまったことから誰の応援をすればいいのか悩み、受験勉強に集中しなければならないという事情も手伝い、4人の関係は恋愛に発展する一歩手前で足踏みを続ける。
一方、成幸はなおも理珠や文乃の進路について衝突を重ねる真冬が、その冷徹な態度とは裏腹に心の底から生徒のことを思う優しい教師であることを知る。真冬はかつて生徒の夢を応援するあまり、不得意分野を選ばせて受験に失敗させてしまった過去を持ち、その後悔から「同じ失敗を繰り返すわけにはいかない」と考え、彼女たちから憎まれることも覚悟で理珠や文乃の進路に口を出し続けていたのである。真冬の本心を知った成幸は、彼女と理珠たちとの間に生じたわだかまりも解消できないかと心を砕いていく。

理珠たちの成績が上がっていることに気を良くした学長は、成幸自身の学力アップのために予備校の夏期講習に通うことを勧める。費用は学長が払ってくれると聞いてこれに参加した成幸は、そこで小日向あすみという小柄な少女と出会う。あすみは一ノ瀬学園のOGで、バイトしながら受験勉強に励む浪人生だった。親に反対されながらも独力で医者を目指すあすみの姿に感銘を受けた成幸は、そのあすみから頼まれたこともあり、彼女にも勉強を教えることとなる。

自身の中に芽生えた成幸への想いに戸惑いながら“人の心の動き”について学び、今まで自分を支えてくれていた人々の想いを改めて知っていく理珠。
中学の頃から抱き続けていた成幸への恋心を、当時のことを振り返りながら確かめ、一歩ずつ彼との距離を近づけていくうるか。
理珠とうるかの間に立たされて戸惑う一方、進路を巡ってこじれていた父との仲を絶対的な味方となって取り持ってくれた成幸への慕情に溺れていく文乃。
父・宗二郎(そうじろう)に咄嗟に「恋人だ」と説明してしまったことから成幸とたびたび関わることとなり、彼の優しさに救われながら、その恋愛模様を付かず離れず眺めて冷やかすあすみ。
嫌われ役を演じてでも生徒のために尽くす教師、過去の挫折と失敗と後悔に悩み続ける大人になり切れない大人、そして私生活ではとことんポンコツという今まで知られていなかった一面を少しずつ晒して、いつしか成幸との特別な絆を強くしていく真冬。

彼女たち5人とそれぞれに交流しながら、成幸もまたその夢を追う様に、誰かのために一生懸命になる様に影響を受け、「自分も夢を追いたい、“誰かに何かを教える”道を追求していきたい」というそれまで思いもしなかった“教師”という進路を意識していく。

後夜祭のジンクス

成幸たちの勉強会が着実に成果を出しつつある中、文化祭の時期が近づいてくる。高校最後の文化祭にそれぞれが心躍らせると同時に、生徒たちの間で学園に伝わるジンクスが話題となる。それは「文化祭最終日に行われる後夜祭で、最初の花火が打ち上げられる時に手を触れ合っていたカップルは必ず結ばれる」というもので、過去に多くの実例がある代物だった。
後夜祭と言う特別な場所で“手を触れ合っている”ということは、その時点でかなり親しい間柄であり、そのままうまくいったカップルの話が残っただけだろうと分析して成幸と理珠がまるで気にしない一方、うるかは「このジンクスの通りに成幸と後夜祭を過ごしたい」と期待に胸膨らませ、文乃は「成幸は誰と後夜祭を過ごすのだろうか、あのジンクスの通りにその時の相手が彼と結ばれるのだろうか」と落ち着かない。そしてやってきた文化祭当日、あすみがいつものように冷やかしに現れ、生徒たちだけで羽目を外し過ぎないか真冬が見張りにやってくる。

頼み過ぎたうどんの処理に追われたり、演劇の手伝いに駆り出されたり、楽しくも慌ただしい文化祭が終わった後、成幸の前に理珠たち5人がやってくる。実は彼女たちが成幸に特別な想いを抱いていることは、それぞれの友人や部活の仲間にはとっくに感づかれており、「ジンクスを利用して成幸との交際がうまくいくよう取り図ってあげよう」と全員が密かに計画していたのだった。
しかし互いの思惑に気付いたそれぞれが焦った結果、成幸は理珠、文乃、うるか、あすみ、真冬にまとめて押し倒され、“その内の誰か”の手を借りて起き上がったところで後夜祭の開始を告げる花火が上がる。果たしてこの時成幸が触れていたのが誰の手であったのかは曖昧なまま、彼らの物語は続いていく。

白銀の漆黒人魚姫編:うるかルート

後夜祭で成幸を助け起こしたのが、うるかだった場合の物語。
成幸に勉強を見てもらったことで、苦手だった英語を克服したうるかは、水泳でも目覚ましい活躍を続けていた。ついには海外留学の話まで持ち上がるも、それを受けることはうるかと成幸の別離をも意味していた。「恋い慕う成幸と別れたくない」と思う一方、「“教師”という夢を追い始めた成幸と対等の存在であるために、自分の夢も諦めたくない」との相反する感情に悩んだうるかは、結局後者の道を選択。理珠や文乃という最高の友人たちがきっと成幸を幸せにしてくれると信じ、彼に自分の想いと別れを告げて海外の大学へと進むことを決意する。

しかし、共に様々なことを学びながら中学の頃の想いを確かめてきた成幸もまた、うるかのことを愛するようになっていた。それを察した理珠や文乃は自らの想いに決着をつけ、成幸をうるかの下へと送り出す。あすみや真冬もまたこれを手伝い、ギリギリで旅立つ直前のうるかの前にやってきた成幸は、彼女に自分の想いを打ち明ける。夢のために諦めたはずの恋心が報われたことに、うるかは涙を流しながら喜ぶ。
その後成幸はうるかと順調に遠距離恋愛を続け、彼女が久しぶりに日本に帰ってきた際にプロポーズする。中学生の頃から育んできた恋が実った幸せを噛み締めながら、うるかはそれを了承するのだった。

機械仕掛けの親指姫編:理珠ルート

後夜祭で成幸を助け起こしたのが、理珠だった場合の物語。
文化祭の後、成幸への恋心をはっきりと自覚した理珠は、彼に「男女が結ばれるとはどういうことか」と尋ねる。女の子と交際した経験が無い成幸がこれに答えられずにいると、理珠は「自分にはまだ人の心の機微がよく分からない」と感じ、それでも成幸との距離を縮めたい一心で「成幸が自分のことを好きになるかどうかで“後夜祭のジンクスが本当か否か”を見極める」というゲームを持ちかける。済し崩し的にゲームを受けることとなった成幸だがその決着はつかず、彼と理珠の関係は“友達以上恋人未満”という曖昧な形のまま卒業後も続いていく。

それぞれが大学に通うようになってからも交流を続けていた2人の関係は、理珠の親友である関城紗和子(せきじょう さわこ)の存在によって動き出す。紗和子もまた理系の天才少女だったが、その恵まれた才能を持て余した彼女の両親は離婚寸前の状態にあった。紗和子はこれを「仕方のないこと」と受け入れようとしていたが、内心では彼女が幼い頃のような仲の良い家族に戻ってくれることを望んでいた。これを見抜いた理珠が、自分たちで関城家の家族関係を修復しようと成幸に提案したのである。
成幸はこれを快く引き受け、彼らの尽力で紗和子の両親は離婚の危機を回避する。喜ぶ紗和子と彼女の両親を前に、成幸が「自分の父はもう死んでしまっている」ことを強く意識して寂寥を持て余していると、理珠が彼の手を握り締める。

「私がいます、これからずっとあなたの寂しさを拭い続けます」
その言葉は、成幸が己の中に秘めようとした苦悩を理珠が見抜いたことを、「他人の心の動きなんてどうやって推し量ればいいのか分からない」と繰り返し語っていた彼女がそれを理解できるようになったことを表していた。苦しい時、悲しい時、気付けばいつも自分の隣にいて支えてくれる理珠のことを、いつしか“誰よりも大切な愛しい存在”だと認識するようになっていたことに気付いた成幸は、ゲームは自分の負けだと言って理珠に告白する。
紗和子や理珠の家族に祝福され、互いの想いを確かめ合った成幸と理珠は、2人の思い出の公園で唇を重ねるのだった。

文学の森の眠り姫編:文乃ルート

後夜祭で成幸を助け起こしたのが、文乃だった場合の物語。
理珠の成幸への想いと、うるかが抱く成幸への恋心を知ってその板挟みに悩む中、自分もまた成幸を慕うようになってしまい苦しむ文乃。大切な友人である理珠のこともうるかのことも裏切りたくないが、成幸を愛しく思う気持ちは際限なく膨らみ続ける。どうすればいいのか分からないままセンター試験の日を迎えた彼女は、子犬を助けようとして倒れかけた成幸を咄嗟に庇い、代わりに自分が階段から落ちて足を挫いてしまう。試験自体はなんとか受けられたものの、しばらくの間は松葉杖が必要な状態となり、これに責任を感じた成幸が双方の保護者の許可を取った上で古橋家に日参するようになる。

罪悪感を覚えつつ、「成幸は親切心で自分を助けに来てくれているわけだから、これは理珠やうるかへの裏切りにはならない」と自分自身に言い訳しながら、恋い慕う成幸を独占できる幸せに溺れる文乃。「この幸せをもう少しだけ味わいたい」という想いに逆らえなかった彼女は、怪我が完治した後もそれを周囲の人々には秘密にして、成幸に優しくしてもらえる日々を謳歌する。しかし「なんとかうまく誤魔化そう」とする内に、うるかが成幸に告白する現場に鉢合わせ、慌ててそこから逃げ出したために“とっくに怪我が完治している”ことも友人一同に知られることとなってしまう。
足のことを黙っていたバチが当たったのか。うるかの告白はうまくいったのだろうか。ずっと騙されていたことを知った成幸やうるかたちは自分のことを嫌いになったのではないか。果てしない自己嫌悪と恋の終わりを感じて、それを「自業自得だ」と自分だけで抱えて嘆く文乃。どうしてそんなに苦しそうな顔をするのかと理珠に問われた文乃は、「大切な友達を裏切り続けている人間が、どうやって自分のことを好きになればいいのか」と己の葛藤を打ち明ける。それに対し、理珠は「“友達のために”と自分を犠牲にした側とされた側、本当にかわいそうなのはどちらなのでしょうか」と彼女ならではの言葉を返す。

「同じ土俵で並び立ち、時には戦い合える存在をこそ、友達と呼ぶのだと思います」
自分のことを友達だと思ってくれるのなら戦ってほしい、そんなに苦しそうな顔をしてまで“友達のために”と己の気持ちを抑えないでほしい。そんな理珠の激励を受けて、文乃は成幸に告白することを決意する。その足で宣戦布告するためにうるかの家を訪れた文乃は、彼女から「うるかの告白は断られた」こと、「成幸が本当に好きなのは文乃である」こと、「うるかの告白を断ったことで成幸は罪悪感を抱えてしまったらしく、自分の想いを文乃に言い出せずにいる」ことを教えられる。理珠と同様に、うるかからも「遠慮は無用」だと背中を押された文乃は、かつて2人で星を見上げた、成幸の待つ思い出の丘へと向かう。
必死で我慢してきた思いの丈を打ち明ける文乃に、「自分もお前のことが好きだ」と告げる成幸。好きな人に思い切り好きと言える喜びに、好きな人に好きだと言ってもらえる嬉しさに、子供のように泣きじゃくる文乃の手を取って、成幸は「これから先、俺がずっと側で古橋を支え続けるよ」と告げる。長い擦れ違いと遠回りの末、文乃と成幸はついに思い通わせて交際をスタートさせるのだった。

明日の夜の小妖精編:あすみルート

後夜祭で成幸を助け起こしたのが、あすみだった場合の物語。
「医者になって宗二郎の診療所を継ぐ」という夢を一心不乱に追う様に感銘を受け、“診療所の閉鎖”という形でその夢が失われるかもしれないという絶望に涙する姿を懸命に支える内に、成幸はあすみを1人の女性として意識し、強く惹かれるようになっていた。受験後に意を決して彼女を遊園地に誘うも、あすみはこれを「これから入学の準備で忙しいし、誰か他のヤツと行ってくれ」とどこか寂しそうな顔で断り、そのまま会う機会も消滅。成幸の想いは宙ぶらりんのまま数年の月日が流れる。

しかし新任教師となって赴任した離島で、成幸は駆け出しの医者として島唯一の診療所を任される立場となったあすみと奇跡的な再会を果たす。すぐに初めて会った頃のような気安い間柄となり、当時と変わらぬ付かず離れずの位置で成幸をからかってくるあすみ。しかしあすみへの恋心をずっと持ち続けていた成幸は、明確に拒絶もせず、といって近づくと逃げていく彼女の本心がつかめずに思い悩む。
そんな折、島に宗二郎が来訪。「娘とその彼氏に会いに来た」と語る彼の前で、成幸たちは再び“恋人のふり”をすることとなる。ちょうどこの時、島が嵐に見舞われ、足止めを食うこととなった宗二郎から、成幸は思ってもいなかったことを告げられる。彼は成幸とあすみが本当は交際していないことをとっくに見抜いており、さらにはあすみが成幸との距離を必死で近づけまいとするのは重大な理由があるというのだ。

成幸の父は宗二郎とは友人の間柄で、同時に彼の診療所の患者だった。病に倒れた際、友人の腕を信じて手術を依頼した成幸の父に、宗二郎は「残念だがうちの診療所には十分な設備がない」とこれを断り、期待に応えられないことを悔やみながら大きな病院を紹介。しかしその手術は失敗し、成幸の父は帰らぬ人となってしまう。
大学受験が終わった直後、あすみは偶然このことを知ってしまい、「これからどんな顔で成幸に会えばいいんだ」と絶望。町の小さな診療所に大がかりな手術を行う設備があるわけもなく、仕方のない決断であり、このことは成幸の父も納得していた。しかしなんと言い繕おうと、あすみが幼い頃から追い続け、成幸が必死で応援して手の届くところにまで導いてくれた“あすみの夢”そのものである宗二郎の診療所は、彼の大切な家族を救えなかったのだ。その罪悪感と虚無感に押し潰されたあすみは、“自分は成幸とこれ以上親しくなってはならない”と結論して距離を取り、同時に捨てようとしても捨てられない成幸への強い想いのために彼を忘れることも離れることもできずにいたのである。

直後、嵐が本格的に島へと上陸。あすみと落ち着いて話すこともできないまま、桟橋に取り残された生徒を救おうとした成幸は、大波に飲み込まれて瓦礫に体を打ち付け、内臓を損傷。適切な処置を施さなければ出血が止まらずに死に至る大怪我を負ってしまう。宗二郎も腕の骨を折ってしまい、本土からの救援も望めない中、あすみはぶっつけ本番で成幸の手術に臨む。
人の体を切る恐怖に、愛する者の命を自分が手にする戦慄に怯えるあすみは、片腕しか使えない状態ながら助手として立ち会った宗二郎に「自分たちは恋人ではない」と泣き言のように打ち明ける。しかし宗二郎はそんなことは分かっていると返した上で、自身が成幸のことを好意と敬意を抱くに足る青年だと感じている旨を伝え、「お前はどうなんだ、彼は恋人という嘘に利用するためだけの存在だったのか」と娘に問う。あすみがそれをはっきり否定すると、宗二郎は「ならば“自分と成幸が恋人だ”という嘘が、ずっと嘘のままになるかどうかはまだ分からない」と言って、娘を優しく激励する。

尊敬する宗二郎に見守られながら、あすみは生まれて初めての手術を成功させ、成幸の命を救う。麻酔から覚めた成幸は、ベッドの傍らでずっと彼を見守っていたあすみに、捨てられなかった遊園地のチケットを渡しながら改めて告白。その言葉に、あすみは「自分から言うつもりだったのに」と狼狽しながら泣き崩れ、本当はずっと成幸のことが好きだったことを明かし、自分でよければ本当の恋人にしてくださいと言葉を返すのだった。

薄氷の女王編:真冬ルート

後夜祭で成幸を助け起こしたのが、真冬だった場合の物語。
高校を卒業して数年、新任教師となった成幸は、母校の一ノ瀬学園に赴任していた。真冬は相変わらずここで教師をしており、新任の成幸の教育係を担当することとなる。数年の時を経て再会した真冬は、その冷徹な言動も、文武両道の才媛っぷりも、生徒想いなところも、私生活ではとことんポンコツで汚部屋住まいであるところもまったく変わっていなかった。同じタイミングで引っ越した先で事実上の“お隣さん”となった2人は、普段の生活でも様々に交流していく。
一方、真冬は親族から結婚を勧められる年齢に差し掛かっており、これを煩わしく感じた彼女に頼まれて、成幸は婚約者を演じることとなる。自分の事情で振り回して申し訳ないと謝罪する真冬に、成幸は「迷惑だなんて思わない、学生だった頃からずっと真冬先生のことが好きだった」と正直な想いを打ち明ける。

真冬はこれに困惑し、「卒業したとはいえ生徒だった相手からの好意は受け取れない」と告白を拒絶するも、成幸は諦めない。実のところ、成幸の存在は真冬の親族の間でも少なくない人間がその人柄も含めて知ることとなっており、彼らの大半は2人の仲を応援していた。アプローチを続ける成幸を重ねて拒もうとする真冬だったが、彼に女性の影が見え隠れするたびに動揺するようになり、自分の本心が分からなくなっていく。
改めて告白してきた成幸に、真冬は「他人と親しくなるのが怖い」という自分のトラウマを打ち明ける。かつてフィギュアスケートの有力選手だった真冬は、その練習に明け暮れるあまり友人を作れず、“普通の高校生活”にどうしようもなく憧れる一方でクラスの輪の中に溶け込めないでいた。他人とどうやって仲良くなればいいのか分からない、親しくしようとして拒絶されたらと思うと踏み出せない。そう言う真冬に手を差し伸べ、成幸は彼女の悩みに丁寧に付き合っていく。

かつて学生だった頃、真冬は後夜祭で迷子の子供を助けたことがあった。しかしそれは「クラスの輪に加わりたいけど怖い、逃げ出したい」という葛藤からの逃避として利用しただけで、迷子の子供まで使って欲してやまない絆から逃げ続ける自分の惨めさに、真冬は思わず涙する。「自分は一生一人で、“できない”自分を抱えて生きていくのか」と悲観する真冬に、その男の子は「父ちゃんは“できないヤツを分かってやれる男になれ”といつも言ってる。だから俺がお姉さんと一生一緒にいてあげる」と笑顔を向ける。その男の子こそが幼い頃の成幸で、あの時の言葉を今も守ろうとしてくれているのだと気づいた真冬は、いつしか抱いていた彼への恋心をようやく自覚する。
成幸とは歳も離れていて、元生徒で、彼の幸せを願うなら潔く身を引くべきなのではないか。そう思う一方、成幸が自分以外の女性と親し気に話しているのを見るや、無意識に彼を引き留めようとしてしまう。恋心を自覚してなお思い悩む真冬だったが、周囲にせっつかれる形で成幸とデートに赴き、そこでようやく自分でも止められないほど想いが膨らんでいることを知る。一度袖にしておいて虫のいい話だけどと言いながら「君が好き」とはっきり口にする真冬を、成幸は自分も同じ気持ちだと言葉を返しながら抱き締める。

しばしの時を経て、成幸と真冬は結婚。一緒に素敵な家族を作っていこうと語らう中、「世界一幸せ」だと真冬は微笑む。そんな彼女に見惚れつつ、成幸は「世界二だと思いますよ(=自分の方が幸せだ)」と、溢れるほどの幸せを噛み締めながら言葉を返すのだった。

route 6/5

文化祭も終わり、成幸はいつものように文乃、理珠、うるかの勉強を見ていた。そこに出前を届けに来たあすみや、彼女を追いかけてきた真冬も現れ、ふと後夜祭の話題が持ち上がる。
あの時、「成幸と“後夜祭のジンクス”の当事者にしてやろう」とそれぞれの友人や家族が同時に動いて人雪崩が起きた結果、文乃、理珠、うるか、あすみ、真冬の五人だけでなく、いばらの会、紗和子、水泳部の面々、春美や水希までもが成幸に触れた状態で最初の花火が打ち上がったのである。彼女たちの下敷きになった成幸はその衝撃で目を回すも、そこで自分の両親が後夜祭のジンクスの最初の当事者であるという夢を見る。

「“できる”と信じ続けている限り “できない”はいつだって “できる”までの途中なんだ」
夢の中でそう語っていた父のことを想起しつつ、「あんな形ではジンクスも無効だろう」と成幸が冷静に分析する一方、五人の女の子たちはそれぞれに羞恥と困惑に無言で悶える。実は、彼女たち一人一人が、“異常に生々しい夢”という形で「自分と成幸が恋仲になる世界(=それぞれの個別ルート)」を体験していたのである。
それは本当に夢なのか、あるいはこれから彼女たちが辿る未来なのか、曖昧なままその日の勉強会は進んでいく。“できる”と信じ続けている限り、“これからのこと”なんてどうにでもできる。夢の中で父・輝明が口にしていた言葉を胸に、成幸は今日も、これからも、「できないヤツ」の隣で一歩ずつ歩んでいくのだった。

『ぼくたちは勉強ができない』の登場人物・キャラクター

主要登場人物

唯我 成幸(ゆいが なりゆき)

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