【推しの子】(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

【推しの子】とは、『週刊ヤングジャンプ』にて、2020年4月より連載を開始した、『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』の赤坂アカ(あかさかあか)が原作を担当し、横槍メンゴ(よこやりめんご)が作画を担当している、芸能界を舞台にしたサスペンス漫画。主人公が彼の「推し」であったアイドルの子供に転生するも、母であるアイドルを殺害され、殺害の秘密を握っている可能性の高い正体不明の父親を捜すために芸能界に切り込んでいく姿を描く。芸能界やインターネットの闇を現在の視点から描く切り口が魅力である。

【推しの子】の概要

【推しの子】とは、『週刊ヤングジャンプ』にて、『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』の赤坂アカ(あかさかあか)が原作を担当し、『クズの本懐』の横槍メンゴ(よこやりめんご)が作画を担当している、2020年4月より連載を開始した、芸能界を舞台にしたサスペンス漫画である。2021年8月26日時点で累計発行部数200万部を突破しており、「次にくるマンガ大賞2021」のコミックス部門で1位を受賞した。
主人公が彼の「推し」であったアイドルの子供に転生するも、母であるそのアイドルを殺害され、殺害の秘密を握っている可能性の高い正体不明の父親を捜すために芸能界に切り込んでいく姿を描く。転生というファンタジー要素と芸能界という現実の要素をうまくミックスし、芸能界やインターネットの闇を描く独自の切り口が魅力となっている。
原作の赤坂は『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』の連載中に本作を開始しており、作画は横槍の担当とはいえ異例の"2作品同時週刊連載"となっている。

【推しの子】のあらすじ・ストーリー

プロローグ

宮崎の片隅で産婦人科医をしていたゴローは、アイドルグループ「B小町」の絶対的センターである16歳の最推しアイドル・アイの突然の活動休止に落胆していた。だがその日患者としてやってきたのは、当のアイだった。推しのアイドルの妊娠という事態に落ち込みつつも、「アイドルはやめない、子供が生まれても公表しない。嘘でできたアイドルという偶像を、全力で披露し続けたい。母としての幸せとアイドルとしての幸せ、欲張りだからどっちも欲しい」と眩しく笑うアイに、彼女の子供を絶対に無事に生ませるとゴローは決意する。
だがアイの出産予定日、病院からいったん帰宅しようとしたゴローは、途中の暗い山道で見知らぬ男に「あんた 星野アイ(ほしのアイ)の担当医?」と問いかけられる。安全のためアイは受診時偽名を使っており、星野という名字も公開していない。「関係者か」とゴローに問われ、逃げた男をゴローは追う。だが男を見失うなり、ゴローは背後から突き落とされた。その結果死亡してしまったゴローだが、目が覚めるとアイの子供である星野愛久愛海(ほしのあくあまりん)、通称アクアに転生していたのだった。

アクアと双子の妹である星野瑠美衣(ほしのるびい)、通称ルビーは、対外的にはアイが所属する苺プロダクションの社長、斎藤壱護(さいとういちご)の子供ということで、アイの仕事中は彼の妻である斎藤ミヤコ(さいとうミヤコ)が面倒を見ていた。疲れて転寝したミヤコの横で、復帰したアイの舞台をテレビで楽しむアクアだったが、眠っていたルビーは起きるなり「Nステもう始まってるじゃん! どうして起こしてくれなかったの!?」と怒った。アクア同様、ルビーも転生者であり、前世からアイのガチオタだったのだ。
そしてルビーには演技の才能があった。子育て疲れにキレて双子のことを週刊誌にばらまこうとしたミヤコを、「慎め。我はアマテラスの化身、汝らの言うところの神であるぞ」と演技だけで圧倒し、「自分たちをきちんと育てればイケメン俳優とも再婚できる」と押し切ったのだ。「将来は女優だな」と言うアクアに、「将来なんて、考えたこともなかった」とルビーはぼやく。
前世のルビーは難病を煩い12歳で亡くなった、さりなという少女だった。彼女は病室からアイを推し、来世はこんな顔に生まれたいと夢を見ていた。その時研修で来ていたゴローに出会い恋をして「結婚して」と頼み、「16歳になったら考えてやる」と言われていた。彼女の影響で、ゴローはアイを推していたのだ。転生前に出会っていた事実を、二人は知らない。

B小町のミニライブを、ミヤコを焚き付けアクアとルビーは見に行くことになる。大人しくしているようにと言われた双子だったが、始まると前世から染みついたオタ芸をベビーカーの上で思いきり披露してしまっていた。「笑い方が人間らしくないから好きじゃない」とSNSで言われて落ち込んでいたアイだったが、そんな双子を見て「うちの子きゃわ~~~!!!」と心からの笑顔を見せた。双子の様子とアイの笑顔はSNSで21万リツイートと200万再生を記録し、アイはこの笑い方が受けるのだと覚えた。

1年が経ち、1歳になった双子は歩き回っていても不審に思われない程度には成長していた。アイの初ドラマの現場に、双子はまたミヤコに連れてきてもらっていた。そんな中、アクアは偶然廊下で遭遇したドラマの監督、五反田泰志(ごたんだたいし)に「騒がしくしたら叩き出すからな」と言われ、咄嗟に「あっ、いえ我々赤ん坊ですがそのような粗相はしないよう努めますので!!」と流暢に返すばかりかアイの売り込みまでしてしまい、「これほど早熟な子供は初めて見た」と興味を持たれ名詞を渡される。
仕事を振るならアイの方にしてほしいと思うアクアだったが、撮られたドラマの実際の映像を見ると、アイの出番はほとんどカットされていた。主演女優を「可愛すぎる女優」として売り出していたのに、隣にいたアイがあまりにもカメラの意識の仕方が上手く、可愛く映りすぎたのだ。五反田にその説明を受け、納得いかないと怒るアクアだったが、代わりにと五反田はアクアも出ることを条件に、アイに映画の仕事を振るのだった。

映画撮影の現場に向かったアクアとルビーは、「10秒で泣ける天才子役」と呼ばれる有馬かな(ありまかな)に出会う。スタッフにも横柄で高飛車なかなに、アイを侮辱され双子は怒り狂う。
撮影が始まった。アクアとかなは同じ場面に出演し、気味の悪い子供を演じることになっていた。さすがの演技力を発揮するかなの隣で、これと同じことをしても演技力が全く及ばない以上ひどいことになると判断したアクアは、「演じなくとも自分は十分気味が悪い」から五反田が自分を採用したのだと考え、通常通りに振舞う。

年齢を考えると異常な「いつも通り」の姿でカメラの前に立つアクア。

特にNGが出ることもなかったそのシーンの撮影後、かなは撮り直しを要求する。自分の演技がアクアに全く及んでいなかったと泣きながら、撮り直したいと訴えたのだ。そんなかなを宥める横で、アクアが演出の意図を読んだことを五反田は褒める。演出家が喉から手が出るほど欲しがるのは、言語化できない意図まで読み取れる役者だ。「お前はすごい演技より、ぴったりの演技ができる役者になれ」と言う五反田に、アクアは役者になる気は別にないんだけどと思いながら、こうして芸能界に片足を突っ込んだ。

2年経ち、双子は3歳になっていた。2年前の映画は何かの賞にノミネートされ、その映画がきっかけかどうかは不明なものの、もうすぐ20歳になるアイも「絶賛売り出し中のアイドルタレント」という立ち位置を確立していた。B小町自体も引きずられるように人気が出た結果、ついに東京ドームでのライブが開けるまでになっていた。
だがライブ当日、つい先週引っ越したばかりのアイの家のチャイムが鳴った。玄関に出たアイは、かつてゴローを殺害した過激なファンに刺されてしまう。刺された瞬間、アクアは廊下の扉を開けて刺されたアイを見てしまった。「子供がいるなんて裏切だ、嘘つきだ、散々ファンのことを好きだと言っておいて全部嘘っぱちじゃないか」と叫ぶファンに、アイは思う。施設で育てられたアイは、元々人を愛するということがよくわからなかった。それでも「嘘でも愛してるは言っていい。嘘でも言い続けていたら本当の愛になるかもしれない」とスカウト時に言われ、アイドルを始めたのだ。だから自分が腹を痛めて産んだ双子たちにも、言った瞬間嘘だと自覚してしまうのが怖くて一度も「愛している」と告げたことはなかった。「君達のことを愛せてたかはわからないけど、愛したいと思いながら、愛の歌を歌って来たよ」と笑うアイは、刺してきた目の前のファンの名を呼び、「君にもらった星の砂も飾ってあるよ」と告げた。耐えかねた犯人は逃げ出し、アクアは救急車を呼ぶも間に合わなかった。アイは「多分これ無理だあ」とアクアに告げ、廊下の扉に寄りかかってアクアを抱きしめる。気付いたルビーも「何が起きてるの!?」と扉を叩くが、扉が開くことはなかった。

最期に双子に愛を告げるアイ。

アイは双子が大きくなったらしたかった夢を色々と告げ、アクアを抱きしめたまま扉に触れて「愛してる」と告げた。「ああよかった。これは絶対、嘘じゃない」その言葉を最後に、アイは絶命する。
アイが殺傷され、犯人は自殺した。双子は既に戸籍を斎藤夫妻に移していたため存在が明るみに出ることはなく、ミヤコが「君達さえよかったら、本当にうちの子になりませんか」と双子を引き取った。ルビーは自分も母のようなアイドルになれるだろうかと傷が癒えるそぶりを見せていたが、二度目の人生がこんな形になりアクアは生きる気力を失いかけていた。だが何故あのファンがアイの住所を知っていたのか、遡ると何故アイの出産を知っていたのか。情報提供者がいる、いるとしたら自分たちの父親だと感づいたアクアは、父親を必ず見つけ出して自分の手で殺すと決意した。

芸能界編

十数年の時が経った。苺プロダクションの社長は失踪し、ミヤコが後を継いだものの、センターを失ったB小町は既に解散していた。現在苺プロダクションにアイドル部門はない。成長したルビーはアイドルを目指すも、アイと同じ轍を踏ませたくないアクアの手で密かにオーディションを辞退させられていた。だがルビーが評判のよくない地下アイドルグループのスカウトを受け乗り気になっていたため、アクアはミヤコと二人で止められないと判断し、ミヤコは十数年ぶりに苺プロにアイドルグループを立ち上げるから、そこに入るようルビーに告げた。

アイの死後、五反田監督の元で映画製作の手伝いをしていたアクアはルビーと共に、芸能科の存在する陽東高校を受験する。何本か五反田監督の作品に役者として出演し、自分にはアイやルビーのような特別な才能はないと諦め、裏方で十分だと考えたアクアは普通科を受験した。その受験直後、最近テレビでもほとんど姿を見なくなったカナに再会する。
現在彼女が主演を務める名作漫画『今日は甘口で』、通称『今日あま』のドラマに出ないかと誘われ断るアクアだったが、プロデューサーが鏑木勝也(かぶらぎまさや)だと聞き、承諾する。その名前はアイが妊娠以前に使っていた私用スマホの連絡先一覧に残っており、自分とルビーの父親の可能性があったからだ。
遺伝子上のつながりがある以上、鏑木の髪の毛の一本でも確保できればDNAの検査ができる。それを目当てに潜り込む気しかなかったアクアだったが、既に放映されていた『今日あま』をルビー、ミヤコと共に見て絶句する。演出はしっかりしているが、原作に出ていないオリジナルキャラクターが大量に出演しており、ストーリーの展開も大幅に違う。

ドラマ『今日は甘口で』の俳優の棒読み。

更に言うなら役者の演技が皆ひどい。全六話構成の三話まで放映された現段階で、既に酷評されていた。状況自体も悲惨だが、カナはもっと演技が上手ではなかったかと、ルビーは訝しがる。
その奇妙な状況を、後日アクアに会ったカナはこう説明した。このドラマはこれから売り出したいイケメンモデルを女性層に売り込むためのものであり、演技は二の次である。なのでその中でカナが全力で演技をしたら、作品が作品として成立しなくなる。上手い演技をすればいい作品になるわけじゃない、せめて「観れる」作品にするためなら下手くそな演技もする。過去の彼女とはかけ離れた発言だが、カナはかつての自分を反省していた。かつて自分がよければいい演技をして他人を蔑ろにし続けたから、旬が過ぎたら周囲からあっという間に人がいなくなったのだ。「役者に必要なのはコミュ力よ」と笑うカナは、アクアに「私と一緒にいい作品を作って」と頼み込んだ。
撮影日は雨だった。アクアの役はストーカーであり、本来その役をやるはずだった男が嫌がって降板したため急遽アクアをねじ込むことができたのだ。実際演じるアクアを見て、「ずっと努力してきた人の演技って感じがして、私は好き」とカナは言う。カナは子役としての旬を過ぎて以降、稽古だけは続けてきたが全く売れない時代が続いていた。「それが今回、十年ぶりの主役という形で努力を評価されたのが嬉しい」と笑うカナは、同じ業界でずっともがいてきた人間が自分以外にもいたことが嬉しかったのだ。だがそれはカナの勘違いだった。鏑木は知名度があり、フリーになってただ同然のギャラで使えるカナが便利だったから主役に据えただけだったのだ。それを偶然聞きつけたアクアは、世の中はそんなものだと思いながらも鏑木の吸っていた煙草を回収し、「せっかくだから滅茶苦茶やって帰るか」と呟いた。
アクアはずっと五反田の元で演出の勉強をしていた。『今日あま』は演出をやっている人間なら知らない方がもぐりだと呼ばれる、演出面でも優れた作品なのだ。アクアはかなの相手役である鳴嶋メルト(なるしまめると)の顔を小声で関して挑発して役通りの怒りの演技を引き出し、音、カメラの方向、照明の当たり方などを計算し、原作通りの空気を作り上げた。「それでも、光はあるから」と主人公が泣く原作最大の見せ場、そのシーンをカナに全力で演じさせるためだ。アクアの狙いを読み取ったカナは、望んでいた通りの全力でそのシーンを演じきった。その時カナは、アクアに恋をした。
『今日あま』は最終回のみは評価されたものの、大きな話題になる事もなく終わった。

打ち上げパーティーで原作者に感謝され、涙をこぼすかな。

だが打ち上げパーティーには多くの人が集まっている。これだけ多くの人間が関わっていたのだと実感するアクアの隣で、かなは原作者の吉祥寺頼子(きちじょうじよりこ)に、「この作品は有馬さんの演技に支えられていたと思います ありがとうございます」と礼を言われて涙を流す。一方遺伝子を調べた結果父親ではないと判明した鏑木に、アクアは「アイに似ている」と声をかけられた。鏑木はアイとよく一緒に仕事をしていて、いい営業先を紹介したり彼女が内緒で誰かに会うときいい店を紹介したりなど、仕事以外でも世話をしていたのだ。その話を聞きたがるアクアに、交換条件と言って鏑木は「恋愛リアリティーショーに興味はないか」と告げた。

ルビーは無事に陽東高校芸能科に入学したものの、未だアイドルとして活動できておらず肩身の狭い思いをしていた。だが一人ではアイドルグループとしては活動できない。そこでアクアは、カナをアイドルとして引っ張りこむことを提案する。アイドルにならないかとルビーに誘われ、カナは内心では冷静にありえないだろうと判断していた。若手役者枠から新陳代謝があまりに激しい若手アイドル枠に行くのは危険すぎる。だが同時にルビーに、かつて一度一緒に仕事をしたアイに似たものを感じてもいた。売れるべくして売れたアイと、「芸能人」としての嗅覚が同じものを感じさせる。それでも自分はそれほど可愛くないしと断ろうとしたカナだったが、「有馬はそこらのアイドルよりずっと可愛い。有馬になら妹を任せられる、アイドルをやってくれ」とアクアに説得され、結局引き受けてしまうのだった。

恋愛リアリティーショー編

芸能活動をしている6人の高校生が週末いろんなイベントを通じて交流を深め、恋愛関係になったりならなかったりする様を楽しむ恋愛リアリティーショー、『今からガチ恋♡始めます』、通称『今ガチ』にアクアは出演することになる。撮影ノウハウは既に確立されており、出演者たちは自由に会話して構わないが定点カメラのアングルに気を付けること、カメラマンが寄った時には可能ならその時していた会話を要約した会話をするよう要請されていた。台本はないが演出はあり、ディレクターの発言を指示と取るかアドバイスと取るかは人それぞれである。
番組は進行するにつれ、ファッションモデルの鷲見ゆき(すみゆき)とダンサーの熊野ノブユキ(くまのノブユキ)、二人の関係に嫉妬を見せるバンドマンの森本ケンゴ(もりもとケンゴ)の三角関係が中心になりつつあった。

適当にキャラを作っていたアクア。

やり過ごせれば十分と適当に軽いキャラを作っていたアクアと、自分の番組への導線を引くことを目的で出演したユーチューバー兼インフルエンサーのMEMちょ(めむちょ)は目立たずとも問題ない、とのスタンスでいられたが、問題はもう一人の出演者、女優の黒川あかね(くろかわあかね)だった。生真面目なあかねは、自分が番組内で目立たないせいで事務所の所長にマネージャーが怒られたこと、エゴサした際「あかねはいてもいなくても同じ」と言われていたのをきっかけに、ゆきからノブユキを奪う悪女ムーブを始める。これができれば間違いなく目立つし、キャラも立つとディレクターに言われたのだ。
頑張らないと、頑張らないとと繰り返しながら悪女ムーブに挑むあかねだったが、どうにも目立てない。そんな中、撮影前にゆきにデコネイルを施してもらった後、ノブユキに寄りかかったゆきの腕を振り払おうとしたあかねの爪は、ゆきの頬を傷付けてしまった。モデルであるゆきの頬から出血させてしまったことに動揺して平謝りするあかねの背を、「大丈夫だから落ち着いて!」とゆきは抱く。ゆきは自分が一番目立つように動くの自体は譲れないが、努力家のあかねのことは好きだし、あかねも強くて優しいゆきのことが好きだった。当事者の間ではそれで済んだことだったのだが、謝罪のシーンが流れなかったのも手伝い、インターネット上で大炎上してしまう。
すべての叩きを真面目に受け止めてしまったあかねは、もう疲れたと台風の中ふらふらと外に出て歩道橋から飛び降りようとする。それを止めたのは、あかねがいないとMEMちょに言われ彼女を探し回っていたアクアだった。連絡を受けた今ガチメンバーがあかねを心配して駆けつける中、アクアはあかねにこのまま出演を続けるのかと問い、あかねは「逃げたくない」と言った。今ガチのメンバーも当然これを受け入れるが、アクアは煽った番組サイドにも、好き勝手言うネットの連中にも腹を立てていた。
そこでアクアが立てたのが、あかねの自殺未遂を報道に流して注目を集め、『あかねを悪役にしたら面白い』という番組サイドの演出とは違う、出演者目線の『今ガチ』をSNSで流そうという計画だった。MEMちょが撮っていた写真や動画を使い、ケンゴが曲を提供し、アクアが『これが自分たちから見た今ガチだ』という演出意図で編集する。ユキの提案でユキがあかねを抱きしめたシーンの映像も番組サイドを説得して借り受け、なんとか動画は完成した。

出演者目線の『今ガチ』動画と、編集に疲れ果てたアクア。

あかねも交え皆で仲良くしている動画がバズったことで、炎上騒ぎはひとまずの終息を見せる。
あかねが今ガチに復帰するにあたり、あかねは少しキャラを作った方がいいとMEMちょが提案する。素のキャラのまま叩かれるのはダメージが大きい。場の流れでアクア好みの女、つまりアイのようなキャラを演じてみようという話になり、あかねはアクアへの恩返しのためにも、アイを演じたら喜んでくれるだろうかとアイのキャラづくりを始めた。そして復帰したあかねはまさしく、「B小町のアイ」そのものだった。あかねは元々、一流の役者しかいないと言われる劇団ララライに所属する、徹底した下調べに基づく役作りとそれを完璧に演じ切る演技力で知られた天才女優だったのだ。アイそのものとしか思えないカリスマ性と視線の誘因力に、アクアは赤面と動揺を隠せない。その動揺ぶりに「付き合うのがありかなしかで言われたら、あり」とあかねも満更ではない様子を見せる。番組内では、ゆきとノブユキのカップリングに加えてアクアとあかねも人気を博し始めた。
自分があかね本人に惹かれているのか、それとも星野アイの幻影を見ているのか。かなと話して後者だと自分の感情に整理をつけたアクアだったが、アイに隠し子がいることまでプロファイリングだけで見抜き、アイの大体の生き方や好みの男はわかると思う、と言ったあかねは手放しがたかった。今後も付き合いを続けるため、アクアは番組の最後にあかねにキスして「交際」を始める。あかねもアクアが自分を恋愛対象として見ていないことには気付いていたが、アクアの「女優としてのあかねには興味がある」との言葉が嬉しかったので、番組終了後も仕事として彼氏彼女を続けることになった。
打ち上げからの帰宅時、偶然MEMちょと二人きりになったアクアは、MEMちょがアイドル志望だったことを聞かされる。ルビーとかなのグループ名は「B小町」を使うことにこそ決まったものの、まだyoutubeで活動しているのみにとどまっていた。そこでアクアはMEMちょを新生B小町のメンバーに誘う。MEMちょが大幅に年齢を鯖読みしていた事実はあったものの、それを問題なくルビーとかなが受け入れたことで、新生B小町も正式なスタートを迎えた。

ファーストステージ編

B小町の楽曲を使い、ルビーとMEMちょ、カナの三人はダンスの練習を始めた。だが元々アイドルオタクだったルビーとMEMちょの情熱にカナは付いていけず、アクアとあかねがキスをして交際を始めたことに感情がついていかないまま、アクアにもきつい態度を取ってしまう日々が続いていた。
そんな中、B小町は今ガチのプロデューサーのコネで、ジャパンアイドルフェス、通称JIFという大きな舞台に参加することになる。誰がセンターをやるかという話し合いになり、センターをやりたがるルビーとMEMちょとは対照的に、カナは嫌がった。子役を干されて以降いろんなジャンルに手を出しては人気が出なかったのがトラウマになっているのだ。「人から好かれるのは、アンタ達みたいに素直で可愛い子なのよ。私みたいに面倒でひねくれた女じゃなくてね」というカナだったが、一番歌が上手いのはカナだった。かつてカナはCDを出して売れなかったことがあったが、それでも何枚か出すうちに必死に練習を重ねていたのだ。ルビーとMEMちょが思った以上に歌が下手だったこともあり、本当にやりたくないと内心では思いながらもカナはセンターを引き受ける。
ダンスのクオリティを上げるため、同じ苺プロに所属しており一度コラボ動画を撮ったこともある大人気ユーチューバー、ぴえヨンが3人の体力づくりとダンスの特訓に付き合い始めた。夢が叶うとあって疲れ果てている中でもよりよいアレンジをしようと楽し気に話し合うルビーやMEMちょをよそに、カナはまだ落ち込んでいた。それを今のカナをよく見ていたぴえヨンに励まされ、カナの心は揺れる。アクアなんてやめてこっちにしようかなと思うカナだったが、今のぴえヨンの中身はアクアだった。今のカナは自分の言葉を聞いてくれないと判断し、ぴえヨンに頼んで被り物を借りていたのだ。
ステージ前日、眠れないと騒ぐルビーとMEMちょに徹夜はよくないと叱るカナだったが、たまたま起き出した際にぴえヨンのマスクの下がアクアであるのを見てしまった。彼女は優しくしてくれたのもただ自分を動かすためだけの嘘だったのか、と混乱し、一睡もできないまま朝を迎えてしまう。
睡眠不足の中、大量のアイドルたちが狭い空間にひしめきあって一斉に準備する地獄絵図に、かなは動揺する。CDが売れなかった際の周囲のスタッフの失望のまなざし、もう自分にできる仕事はないと言う事務所、「かなは一人でも大丈夫でしょう?」と祖父の介護のために自分を置いて地元に戻った母の姿やオワコンと叩くネットの書き込みなどを思い出し、「私はいらない?」と呟いた絶望を思い出してしまう。芸歴が長い自分が二人を引っ張らなければ、あんな思いを2人にさせてなるものかと必死に奮い立つも緊張に震えるかなだったが、ルビーに「新人アイドルなんだから、私たちは失敗して当たり前。楽しく挑もう!」と言われ、二人と同じ新人アイドルなのだ、という意識で舞台に立つ。
メンバーのサイリウムの色はルビーがアイと同じ赤、MEMちょは黄色、かなは白を選んだ。客層の前方は黄色のライトが大半、赤いライトも思った以上に目立つ、とかなは分析する。ファンではないただ見ているだけの客すら笑顔と天性のカリスマ性で惹きつけていくルビーが、かなは羨ましかった。ルビーもMEMちょも、今の姿を皆に求められている。かなの今を欲しいと言ってくれる人はいない。「誰か私を見て、必要だと言って、頑張ったねと褒めて 誰か 私はここに居ていいと言って」と願ったかなの目に入ったのは、白い光だった。白だけでなく赤と黄色のサイリウムを持ったアクアだ。アクアは真顔で三本のサイリウムを振りつつオタ芸を披露し、周囲の客をドン引きさせている。

アクアの推しの子になってやる、と決意するかな。

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