鬼哭街 -The Cyber Slayer-(ゲーム)のネタバレ解説・考察まとめ

『鬼哭街 -The Cyber Slayer-』とは2002年3月29日にニトロプラスから発売された武侠小説を下地にした18禁ノベルアドベンチャーゲームである。脚本を『Fate/Zero』を手掛けた虚淵玄が務める。2011年にはレーティングを15歳以上推奨に下げたリメイクバージョンが発売される。主人公・孔濤羅が最愛の妹である孔瑞麗が惨殺された挙句に意識を5分割されてガイノイドに移植されてしまったことから殺した者たちへの復讐と妹の意識の統合をするために奔走する物語になっている。

『鬼哭街 -The Cyber Slayer-』の概要

『鬼哭街 -The Cyber Slayer-』(きこくがい ザ サイバー スレイヤー)は2002年3月29日にニトロプラスから発売された武侠小説を下地にしたPC専用18禁デジタルノベルである。脚本を『Fate/Zero』を手掛けた虚淵玄が務めた。
2011年5月にリメイク版が発売された。発売に際してタイトルを『サイバーパンク武侠片「鬼哭街」』に変更。また、レーティングを18歳以上作品から15歳以上推奨に下げて、それに伴って一部描写の変更がおこなわれた。他にもキャラクターボイスをフルボイスで採用、グラフィックをすべて塗り直し・ブラッシュアップ、背景、演出、3Dモデル、映像のフルリメイク、同社作品『装甲悪鬼村正』で使われていた縦書き表示レイアウトの採用、解像度を1024x768のワイドスケールに変更、新規イメージソング「Soul For The Sword」を追加した。

物語として純粋に楽しんでほしいという制作側の意図で物語を分岐させる選択肢が排除されていることからゲームとしては異色の作品になっている。そのため、厳密にはゲームではない。

舞台は近未来の上海で、そこは青雲幇(チンワンパン)という組織が牛耳っていた。サイバネティクス技術が発展したことにより組織の構成員はサイボーグ化しており超人的な力を身に着けていた。そんな青雲幇で生身の体を貫く暗殺者である主人公・孔濤羅(コン タオロー)は1年前に組織に裏切られマカオにて殺されかける。一命を取り止めた濤羅が1年ぶりに上海に戻ると、かつての義侠にあふれた組織は見る影もなくなっていた。また自身の最愛の妹が組織幹部の人間たちに殺され、さらにはその魂を5分割にされガイノイド(自動人形)に分割転写されてしまていった。濤羅は組織幹部たちへの復讐と妹の魂の再統合のために戦うことになる。

メディアミックスでドラマCDと小説が発売されている。

変更後のタイトルである武侠とは中華圏における時代劇&武芸モノのことを指す。基本的には剣術、体術といった肉体を鍛え駆使する「外功」、内力を駆使し肉体や武器を強化したり治療したりする「内功」と、この2つを合わせた武術でもって、武林(武術会)を渡り歩き、色々面倒事に巻き込まれながら斬った張ったするというものが多い。本作ではこれにサイバーパンクというSF要素が絡んだものとなっている。

『鬼哭街 -The Cyber Slayer-』のあらすじ・ストーリー

第1章「鬼哭雨夜」

近未来の上海は犯罪都市として名を馳せていた。そして、その上海は犯罪組織である青雲幇(チンワンパン)によって牛耳られていた。サイバネティクス技術の実用化によって肉体を機械(サイボーグ)化することで、超人的な身体機能を持つようになった人間が横行していた。

上海にて女衒を営んでいる樟 賈寶(ジャン・ジャボウ)は所有するガイノイド・媽祖(マーチェ)と戯れていた。戯れと言ってもサイボーグ化して鋼鉄の重装甲サイバーアームとなっている樟の腕で触れられて媽祖は痛みに喘いでいた。しかし、媽祖は普通の人間ではなかったため乱暴な手つきにも身体が傷つくことはなかった。樟はこの腕を使い数多の敵を倒してきたことで女衒の元締めという地位を得た。そのことからついたあだ名が「金剛六臂」であり武林では名が知れていた。そして、樟は上海を牛耳る組織である青雲幇の一員であり、腕っぷしの強さから幹部まで上り詰めた男である。
そんな樟が所有する媽祖は普通のガイノイド(機械でできた自動人形)とは違った。そして、その違いを知る人間は樟を含めて6人のみであった。樟は媽祖を手に入れた当初はここまで傾倒すると思っていなかった。すぐに飽きてしまうだろうと踏んでいたのに1年も凌辱して遊んでいた。媽祖の目には作り物ではない本物の感情と取れる色を宿しており、製作者に言わせればその色は哀しみだろうという。樟はその目の色を見ると1年前に仲間と共に犯して殺したとある少女を思い出さずにはいられなかった。その時の記念品という扱いで貰ったのが媽祖であった。

雨の中を歩く濤羅と幼年型ガイノイド

夜の雨の中、歩く人影が2つ。1つは黒い外套に身を包んだ男・孔 濤羅(コン・タオロー)、もう1つは華奢な矮躯の幼年型ガイノイドであった。濤羅は左手に武器である倭刀を持ち、右手には鈴のついた銀の腕輪が握られていた。濤羅は雨の中、目的の人間がいる場所にたどり着いた。そこは、樟の営む女衒であった。訪れた濤羅の身なりが乞食のようで樟は訝るが、武器を幼年型ガイノイドに預けてきた濤羅は非武装であり、またサイボーグ化を施していないまっさらな生身人間であったこと、前金で全額を払うということで中に入れることにした。もし、濤羅が不審な動きをすれば、室内に備え付けられたマイクロウェーブ銃により骨髄液まで沸騰させて殺すことが可能であること、樟自身の腕っぷしがあれば問題ないと判断したのだ。
樟がからかうように「人形が好きなのか」と聞くと、濤羅は樟の所有するガイノイドの話を持ち掛けた。樟が媽祖を呼ぶと媽祖が濤羅の前に現れる。媽祖の歩み方は遊女のそれではない素人女性の歩み方であったことに濤羅が気づき、プログラムでは表現することのできない自然な挙措の再現を評価したことで、樟の濤羅に対する警戒は薄れた。濤羅が入店時に青雲幇の紹介状を樟に提示していたことも警戒を解く要因になっていた。
濤羅に対する警戒を解いた樟はスクリプトで書くだけでは表現のできない媽祖の人間味を見せるために媽祖をその剛腕で痛めつけようとする。寸前で樟は手を止めたが、媽祖の顔には機械が抱くはずもない恐怖という感情が浮かんでいた。濤羅は魂魄転写と呼ばれる禁忌の技法が媽祖に施されていることを見抜き、樟に指摘する。魂魄転写とは生きた人間の脳から意識(魂)を無理やりデータとして抽出して、ガイノイドに組み込む技法のことである。これは母体である人間に苦痛を与え、またこれにより廃人化してしまうことから禁忌の技法とされていた。媽祖の母体となった人間は100パーセントの意識を吸い出され、そのなかから20パーセントを媽祖に組み込まれていた。樟は魂魄転写という違法かつ倫理の欠いた所業を施された媽祖を見ても動揺する素振りを見せない濤羅に言い知れぬ不安を感じていた。樟は濤羅が最初から媽祖に施されていた魂魄転写のことも樟のことも知っているのではないかと思い、それを尋ねる。樟は昔にした改造手術の影響で人の顔の区別がつかなくなる視覚障害を負っていた。そのため、濤羅が昔に会ったことのある人間なのか判断がつかなかったのだ。しかし、濤羅は樟の言葉に気を悪くする素振りも見せずに媽祖に話しかけていた。

懐かしむように媽祖に話しかける濤羅の姿に樟はさらに不安を煽られていく。不意に停電が起こり、樟のセキュリティーが無効化されてしまった。焦る樟をよそに濤羅の倭刀を手に持った幼年型ガイノイドが入ってきた。困惑する樟は状況から停電の原因と幼年型ガイノイドの持ち主が濤羅であると気付く。濤羅は幽鬼のように薄ら寒い笑みを浮かべながら樟に「自身の音声記録を消したのは、2度と会うことがないと踏んだからか」と問う。そこでようやく樟は濤羅の正体に気が付いた。樟は以前に青雲幇の他の幹部と手を組んで濤羅を殺害していた。そして、2度と会うことはないと踏み、記録を消去していたために気づくことができなかったのだ。しかし、濤羅は生き延びて復讐のためにやってきた。濤羅は幼年型ガイノイドから倭刀を受け取り樟に向けた。
樟は自慢のサイバーアームで濤羅の猛攻を仕掛けるが、濤羅が圧されることなく右手に持った倭刀1本でいなしていく。左手は緩やかに広げられており、樟はその左手に触れられないように警戒する。なんとか、濤羅を圧そうと樟は剛腕での猛攻を続けるが不意にその腕を切り落とされてしまう。内家の使い手である濤羅が氣を練ることでたったの倭刀1本で樟の剛腕を切りとしたのだ。樟は負けるはずのないと思っていた剛腕が切り落とされたという現実が呑み込めずに呆然として床に膝をつく。そんな樟の後ろから延髄に濤羅が左手を当てる。濤羅は内家拳法家であり、気功術の達人であった。そんな濤羅の左手は内家拳法家の秘奥義である電磁発頸を放つことができる。この電磁発頸は電磁パルスを放出する技であるためサイボーグである樟が食らってしまえば、命はない。死の縁に立った樟は「濤羅の妹を殺したのは自身ではない。謝る」と命乞いじみたことをするが、濤羅は「妹を殺したのは樟だけではないことを心得ている」と応える。そして、他の者も樟の後を追うと告げて樟を殺害した。そして、濤羅は主人の死に怯える媽祖に優しく声をかけ歩み寄り胴と頭部を切り離して頭部を持ち去った。

樟と濤羅の戦闘の騒音に近隣住民が上海を取り仕切る組織である青雲幇に通報して、構成員が来るであろうことを予見していた濤羅は幼年型ガイノイドと媽祖の頭部を持ち追手の来ない場所へと逃亡していた。追手が来ないことに安堵した濤羅の身体に激痛が走る。電磁発頸という人体の機能を逸脱した気功の運用により身体の内部を損傷していたのだ。濤羅は心を静めて内息を整えて、気脈を落ち着かせることで痛みを鎮静化させると、次いで魂魄転写を受けたメモリーが内蔵されている媽祖の頭部と幼年型ガイノイドの頭部をPDAを使い繋ぐ。濤羅がPDAを使い媽祖の内蔵メモリを幼年型ガイノイドに転送する。転送が完了すると先ほどまで一言も発さずに能面のような表情していた幼年型ガイノイドが、濤羅の顔を見つめ困惑するようなしぐさを見せた。それは、媽祖が見せた人間の感情と同じものであることに濤羅は気づいた。そして、その感情を表している人間が自身が大事にしていた妹の気配であることにも気づいた。媽祖に入っていたのは濤羅の妹、瑞麗の物であったのだ。殺されてさらに魂を無理矢理脳から引っぺがされガイノイドに転写されてしまった妹の姿に濤羅は声を殺して慟哭した。

第2章「機拳功剣」

青雲幇の当代寨主である李天遠 (レイ・ティェンユェン)は寝室にて老いから体を満足に動かすこともできずベッドで天寿を待つだけの状態であった。そこに副寨主である劉豪軍(リュウ・ホージュン)が現れる。豪軍は李に濤羅が戻ったことと濤羅に樟が倒されてしまったことを報告した。李は濤羅は豪軍と他幹部の手によって1年前にマカオで死んだという話を豪軍に聞いて、それを信じていた。しかし、実際には濤羅が生きていたという事実を豪軍のあだ名である「鬼眼麗人」にある鬼眼をもってしても見抜けなかったことを悪意を持って笑った。
李は豪軍の奸計に屈せずに、戻ってきた濤羅を真の功夫であると称える。そして、李は嫌っている豪軍を面と向かって罵倒する。罵倒されたにも関わらず豪軍は怒ることもなく冷ややかな憫笑を浮かべる。李は病床についてしまったために自身が管理しきれていない現在の豪軍が仕切る青雲幇は昔のような好漢侠客の風を吹かせていたころとは程遠い義も仁も失われた亡者の群れであると酷評した。そして、李の先代から受け継がれてきた義侠の精神を貶め、組織を悪鬼羅刹の巣窟にしたことの報いを受ける時が来たのだと豪軍に告げる。豪軍は悪鬼と言われたことに嘆息を漏らす。そして、「自身にも慈悲の心はある」と言い、生きながらに朽ちていく老人である李が大事にしていた組織が汚され崩れていく様をただ見ることしかできない屈辱を思えば哀れであると評した。豪軍の評した言葉に怒りを覚えた李の顔が怒気に染まる中、豪軍は哀れな李に「慈悲として引導を渡す」と言うと李をこの世から葬った。李に取り付けられた生命維持装置のアラートを聞きつけた医者がやってきて何事かと戸惑う中、豪軍自身が殺したとは語らず、下手人が忍び込んで李を殺害したことにした。さらに豪軍は医者に混乱を招く恐れがあることから李の死は一旦伏せておけと命じてその場を去った。

場所は浦東の金融貿易区。豪軍は上海電脳義肢公司ビルの最上階から眼下に広がる夜通し輝くイルミネーションを見下ろす。浦東は金融文化を担う次世代モデル都市として恥じぬ発展ぶりを見せているが、上海の旧市街の方は対極的に暗く静まり返っている。その暗闇の中に濤羅が潜んでいるのだろうと想い馳せる。そして、胸にある憎悪と殺意を膨らませた。そうしていると、部屋の主であるビルの取締役社長であり「網絡蠱毒」のあだ名で知られる男呉榮成(ン・ウィンシン)が豪軍に声をかけてくる。呉は青雲幇の香主を務める豪軍の腹心の1人である。呉と豪軍の話の中心は豪軍が1年前に引導を渡したはずの濤羅が生きていたというものである。そして、濤羅の殺害とその妹である瑞麗殺害に関与した人物が集まるのを待っていた。話しているうちにその人物たちはやってきた。

1人目は「百綜手」のあだ名で知られる男斌偉信 (ビン・ワイソン)。幇会内では盟証と呼ばれる参謀役を務めており、豪軍の補佐役をしている。2人目は「羅刹太后」のあだ名で知られる女朱笑嫣(チュウ・シャオヤン)。幇会内では陪堂と呼ばれる幇内部でのトラブルに対処する仕置き役の香主である。朱は現在樟の死の調査中で忙しいと豪軍と呉に噛みつく。呉がその樟殺しの犯人の名前を上げようとしたところで豪軍が遮り朱に調査の進捗を問うた。朱が調査の進捗内容を語るとみなまで聞かずに豪軍は割り込んで朱の調査は無駄骨あったと告げる。さらに李が亡くなったことを告げた。驚く朱と斌に呉が李の寝室に設置されていた監視カメラの映像を見せる。その映像には濤羅が李を殺害する姿が記録されていた。濤羅殺しに関与していた朱と斌は濤羅が生きていたことに驚愕した。そして、なぜ李を殺したのかという話になると、呉は1年前に豪軍が濤羅を殺そうとしたときには豪軍は青雲幇の香主であったことから、青雲幇の構成員であった濤羅は組織自体に裏切られたと思い、他組織に寝返ったのではないかとの憶測をたてる。斌は李を殺す前に樟を殺したのはなぜだと疑問を口にすると、豪軍は濤羅が生きて戻ったらすることは瑞麗の消息を尋ねることであり、そこで瑞麗の死んだ顛末を知れば復讐を企ててもおかしくはないと話す。さらに豪軍は「左道鉗子」のあだ名で知られる謝逸達 (ツェ・イーター) という男の行方が分からなくなっていると続けた。
謝は瑞麗が死後に深くかかわった人物であり、濤羅の手にかかりすべてを話してしまったという可能性があった。瑞麗の仇討ちに際して狙いやすいのは樟であったために最初の標的になったのだろうと豪軍は語る。豪軍は斌に濤羅に賞金を懸けてフリーランスの賞金稼ぎを雇うように指示をして、朱には樟殺しの犯人である濤羅の仕置きを命じてその場は解散した。

一方、上海の旧市街である南市、敦仁里にある打ち捨てられた関帝廟をアジトにして濤羅は潜伏していた。そこで、濤羅は瑞麗の意識の欠片が入った幼年型ガイノイドの身体を丁寧に拭いてやっていた。今までこんなことをしたことはなかったが、今は媽祖から転送された瑞麗の魂が入っている故の行動であった。濤羅は幼年型ガイノイドを瑞麗と呼び身体を拭きながら幼き日の兄妹の記憶を思い出し、それを語り聞かせる。しかし、それに幼年型ガイノイドが返事をすることはない。濤羅は鈴のついた銀の腕輪を取り出して瑞麗の腕に着けた。この腕輪は瑞麗に誕生日に送ったものであった。それでもうつろな眼差しをするガイノイドの姿に最愛の妹の最期、そして死後まで凌辱されたことを想い濤羅は涙した。そして、濤羅は倭刀を手に持ち、悲しみを怒りへと変えて2度と誰にも瑞麗に触れさせはしない、そして瑞麗をこのような目に合わせた人物たちを地獄へ叩き落とし、バラバラにされてしまった意識をすべて取り戻すと誓った。

夜更けに自室でくつろぐ豪軍の元に呉が訪ねてきた。呉は豪軍に1つのフラッシュメモリを渡す。それは、豪軍が李を殺害している様が記録された映像であった。呉は李の死の真相を知っており、さらに映像に編集を施すことで豪軍の姿を濤羅に見せていたのだ。つまり、豪軍の共犯者であったのだ。豪軍がここへ訪ねてきた理由を呉に問うと、呉は1体のガイノイドを持ってきていた。それは呉の元に修理に出された豪軍所有のガイノイドであった。呉は豪軍所有のガイノイドを見たら濤羅がどんな顔を見せるのかと冷笑する。豪軍も同じように冷笑を浮かべる。豪軍所有のガイノイドも濤羅の瑞麗から意識を魂魄転写された1体であった。

同日夜、朱は濤羅の居場所が掴めないことに腸が煮えくり返る思いであった。その思いを発散するために自身が所有するガイノイドであるベネトナシュを呼び寄せる。朱はそのガイノイドを瑞麗と呼ぶ。このガイノイドも濤羅の妹瑞麗の意識が転写されていた。真正のサディストである朱は苛めながらベネトナシュに奉仕を強要させる。そのなかで、力加減を誤ってしまいベネトナシュの頸骨を折ってしまうが、既製品パーツでできているベネトナシュの替えはいくらでもできるため朱は気にしない。むしろ、壊れたベネトナシュの顔を見て瑞麗を殺したときの顔を思い出して悦に浸っていた。
しばらくして、階下から聞こえる配下の悲鳴に濤羅が正面から挑んできたことを悟った。やがて、朱の元に濤羅と幼年型ガイノイドが現れる。朱は濤羅の姿を認めると挑発するように先ほどもいだベネトナシュの頭部を投げつける。しかし、濤羅は朱のしたことに何も反応しないまま傍にいた幼年型ガイノイドにベネトナシュの頭部を預ける。そして、挑発してくる朱に濤羅は妹を奪ったことを朱の驕慢と命で釣り合いを取ると宣言する。先に手を出したのは朱であった。外家拳法家である朱は体をフルに使った攻撃を得意とする。朱の義手は樟のそれとは違い力が強いわけではないが代わりにスピードを誇る。そして、鷹の爪のように尖った指先は触れるものをすべて切り裂く鋭さを持っている。しかし、そのスピードと鋭い爪の攻撃を濤羅は避けて、朱の隙を見て反撃にでた。濤羅から後ろ回し蹴りを食らった朱の左の電子義眼が破損してしまったことで朱は逆上するが、濤羅は動じることなく朱の攻撃が自身に当たらないことを内家拳法家と外家拳法家の差であることを語る。煽られた朱は激情のまま自身の必殺技である高速で爪を振るう「一嘴双爪繚乱無」を放つ。しかし、朱の攻撃は濤羅にあたることなく濤羅によって腕を切り落とされてしまう。
腕を切り落とされた事実に怒りを露わにして、朱は自身の本来の得物である鞭を義手から伸ばす。朱がその取り出した鞭を音速を越える速度で振るい濤羅を襲う。しかし、濤羅はそれを倭刀で防ぎ、隙を見て反撃してもう片方の腕も切り落とした。

濤羅に蹴りを繰り出す朱

濤羅をすぐに倒せない事実は朱の驕慢を奪っていく。業を煮やした朱は鷹の嘶きのような声を上げて濤羅の頭上に飛び上がると濤羅目掛けて双脚で蹴りを繰り出す。しかし、濤羅が切りと落とした鞭を出したまま転がっていた朱の腕を振り回し、朱の足をからめとり姿勢制御を奪うと濤羅はサイボーグを殺す必殺技である電磁発勁を朱に当てた。これにより朱は絶命した。

濤羅は側にやってきた幼年型ガイノイドとベネトナシュの頭を繋ぎ意識の転送を行う準備をする。しかし、濤羅は自身が妹に会いたい一心で行っているこの行為に不安を覚えていた。それは瑞麗の意識を5分割にした挙句にガイノイドに魂魄転写した張本人である左道鉗子の「ある瓶の中にあった水を5つの瓶に分けた後に新しい瓶にすべてを入れなおした場合、それは最初の瓶と新しい瓶の中身は同じものなのか否か」という言葉が胸に残っているからである。しかし、すでに瑞麗のための器である幼年型ガイノイドには瑞麗の意識の断片が宿っている。後戻りできない事実に、濤羅は意識の転送を行った。転送が終わった幼年型ガイノイドはそれまでの機械然とした挙動とは違う生々しい動きを見せて濤羅を見上げると瑞麗のように「兄様」と濤羅を呼んだ。濤羅はその事実に驚愕し、歓喜し、そして畏れた。そして、幼年型ガイノイドは濤羅の記憶にある生前の瑞麗のように愛らしくはにかんだ。死人が戻らないことは天の理であることを理解しつつも、愛しい妹が戻ってきた事実に濤羅は涙した。そして、天の理を踏み外した自身は人の道を外れて鬼の道を踏み出したことを自覚した。そして、悪鬼外道のような笑いをこぼしながら残りの瑞麗の意識を集めるために動き出した。

第3章「恩讐追想」

本編開始の少し前、とある町の裏路地にて違法サイバネ医師をしている謝の元を濤羅が訪れてきた。濤羅は殺気を放ちながら謝と対峙する。それは、濤羅の最愛の妹瑞麗が謝の元に連れられていったという情報を聞いていたからである。謝はかつては学会で権威を誇る脳神経学者であったが、魂魄転写という倫理を欠いた研究に粘着してしまったことことから学会を追放された人間であった。追放されたあとは違法の医者をしながら魂魄転写の研究を続けていたのだ。そのため、瑞麗が謝の元へ連れていかれたと聞いた濤羅は怒りと絶望を味わった。
濤羅が「瑞麗に何をしたのか」と謝に問うと謝は豪軍ら幹部によって依頼を受け、瑞麗を拷問した挙句に魂魄転写を施したことを説明した。濤羅が怒りに震えている中、謝は瑞麗はまだ生きていると告げた。「瑞麗の肉体は滅んだ(死んだ)が魂はいまだ生きており、5分割された魂を再結合させればあるいは」という謝に「できるのか」と濤羅が問う。謝は「あくまで実験の話であり、実際に出来るかはわからない」とこたえる。しかし、並みの学者ではなく、かつては脳神経学の分野では権威を誇っていた謝の話は濤羅も知っていた。瑞麗の生存の可能性にわずかな希望と謝の行いにたいする怒り、混乱とがない交ぜになるが、濤羅は謝の言う魂の再結合という話に乗ることにした。
濤羅が豪軍たち幹部らの持つガイノイドたちを回収して瑞麗の魂を救い出すことを決めた。そして。謝は濤羅に預けたいと1体の瑞麗の魂の再結合のために特別な器として幼年型ガイノイドを渡した。濤羅は幼年型ガイノイドを連れて幹部らのガイノイドを回収しに向かった。

時は戻り現在。呉は媽祖の首とベネトナシュの首をテーブルの上へと乗せた。2個の共通点は意識が吸い出されたことにより脱魂燃焼(レイスバーン)という現象で起こる超高温により溶け出していたことであった。これにより、濤羅の目的は自身たち幹部らに対する意趣返しだけではなくガイノイドの中身であるとその場にいた斌と豪軍に説明する。樟に続き朱までもが後れを取った事実が街に広まっていることから組織の面子を守るためにも早々の決着を斌が望む。しかし、豪軍は濤羅の使う技を熟知しており、体内を巡る氣を練り使う電磁発勁は身体に強い負担を強いることを知っていることからインターバルを置かずに樟と朱、さらには斌の雇った賞金目当ての賞金稼ぎたちとの連戦で文字通り命を削っている濤羅ならば放っておけば、豪軍たちのところに来る頃には半死半生の状態であろうから問題ないと斌を説得する。呉と斌は今までの豪軍であれば早々に濤羅を処理しようとするはずなのにそれをしないことに豪軍の真意が読めずに苛立ちを覚える。しかし、次期寨主である豪軍に強く出ることはできないため引き下がり、指示に従うことにした。

一方、濤羅と幼年型ガイノイドはとある人物との待ち合わせのために海へ来ていた。瑞麗の魂を2つ宿した幼年型ガイノイドは感情を取り戻し、拙いながらも喋るようになっていた。語彙に乏しく喋りもたどたどしいため子供の頃の妹の姿を濤羅は思い出していた。

「蘭陵王」を踊る幼年型ガイノイド

浜辺で拾った金属チューブをバチに見立て「蘭陵王」の舞を踊る幼年型ガイノイドは生前の瑞麗そのものであった。在りし日の幸せな記憶を思い出し濤羅は涙する。仇は残り3人。度重なる電磁発勁の使用により内傷を負い、濤羅の身体はボロボロであったが、爛漫と踊り笑う幼年型ガイノイドの姿に元通りに戻して見せると誓いを立てた。
不意に人の視線を感じた濤羅が振り向くとそこには中年男が立っていた。中年男の名はミハイル・スチュグレフ 。秦賢(チン・シェン)という偽名を使い東洋人に偽装しているロシアンマフィアの男であり、濤羅の待ち合わせの相手であった。ミハイルが青雲幇に致命傷を与えるために上海をうろついていたことを知っていた濤羅は呉を殺すために呉のいる青雲幇の屋台骨である上海電脳義肢公司を潰す作戦への協力を仰いだ。呉は濤羅の襲撃に備えて万全のセキュリティがある社内に籠っていたために倭刀のみで攻めることが難しい状況であった。そこで、ロシアンマフィアのもつ金と兵隊を使いたいというのが濤羅の考えであった。濤羅は代わりに情報と必要な機材調達のルートを提供すると言うことで話がついた。

第4章「浦東地獄変」

上海電脳義肢公司社内。社長室の奥の休憩室を改造して作ったデザイン工房にて呉は自身が所有するガイノイドであるペトルーシュカにメイクを施していた。施しながら考えることは豪軍の真意についてであった。李を暗殺して寨主の座を奪い、瑞麗の仇討ちに現れた濤羅に罪を着せるという一挙両得の案を成し遂げたのに、最後の詰めである濤羅抹殺を豪軍はしない。そのことに呉は苛立ちを覚えているが、豪軍が行動しない限りいくら考えても無駄であった。そんななか、呉の元に斌が雇った賞金稼ぎの元(ユン)兄弟がやってきた。双子であり兄は家英(カーイン)、弟は尚英(ソーイン)。2人あわせて「元氏双侠」と呼ばれているサイボーグたちで青雲幇内でも有名な人物たちであった。元兄弟は斌からの命令により呉を守るように言われてきたという。
斌が呉と豪軍の繋がりを疑ったために牽制しようとしているのだろうと踏んで呉は苛立ちを覚える。呉は元兄弟に社内に留まることは許したが、工房からは追い出し再びペトルーシュカと2人きりになる。社内に留まることだけは呉から許された元兄弟は濤羅が来るのを待つことにした。

とある倉庫の中。濤羅は青雲幇の末端構成員である染力為 (リャン・リクウァイ) という若者と共にいた。濤羅と梁は以前に面識があり、梁は濤羅を慕っていたたことから濤羅の上海電脳義肢公司襲撃の手助けをしてくれることになったのだ。梁は2枚のメモリーカードと襲撃用の複数のアサルトギアと呼ばれる兵器を用意していた。メモリーカードの1枚は呉が昔に作った網絡蠱毒というコンピュータウイルスを梁の友人がリライトしたものである。網絡蠱毒は最初は防御プログラムであるが、防御が崩された途端に殺人ワームと化す代物であった。ネットワークが普及している上海ではネットに大打撃があたることは死を意味する。2人が物のやり取りをしているとミハイルがやってきた。やってきたミハイルがロシア語で挨拶をすると驚いた梁が何か言葉を発する前に濤羅が梁の意識を失わせた後に殺害した。これは梁の口から濤羅がロシアマフィアと繋がりがあることを外部に漏らさないためであった。
ミハイルは自身と同じように東洋人の姿に擬態したロシア人を連れてきて梁が用意したアサルトギアの起動準備に入った。そして、ミハイルは完全義体化ボディに使う脳ポッド(究極にコンパクト化した生きた人間)を取り出した。脳ポッドはミーシャという人間であり、軍用機に詳しい人物であった。ミーシャが球体のオブジェを見ると三七型重機動甲装と呼ばれる軍用のアサルトギアであり、機動力と火力に優れていることから今回の襲撃に使うにはピッタリであると評した。
ミハイルがミーシャの脳をアサルトギアにセットすると球体であったアサルトギアの内部が開き折りたたまれていた四肢が展開した。起動確認を終えたことで作戦開始は半日後となった。

半日後。濤羅は幼年型ガイノイド(以降ガイノイド瑞麗)をアジトに潜伏させ上海電脳義肢公司襲撃のために動く。濤羅はミハイルと共に浦東の上海電脳義肢公司を目指し移動していた。浦東では空中を走る車、SVが一般的であり空にはそれ専用の誘導路があり、それを交通管理局により厳しく管理されている。5体のアサルトギアを乗せたSVは浦東に着くと手動運転から交通管理局によって自動運転に強制的に切り替えられる。再度、手動運転に切り替えるためには梁が用意した自動運転の強制解除プラグラムを収めたメモリーカードが必要であり、濤羅はSVの運転手にそれを渡した。
目的地が近づいてきたために濤羅も襲撃の準備を始める。濤羅がカービン銃と使い捨ての鉤撃ち銃を点検していると運転手が目的地が見えたことを告げる。自動音声によるアポイントメントの確認が入るが、そんなことお構いなしに運転手は自動運転強制解除プログラムを起動して手動運転に切り替えると上海電脳義肢公司ビルに向かい突進する。ミハイルの合図で5体のアサルトギアが機動、開いたハッチから転がり出て地上100メートルの位置からミサイルのような速度で上海電脳義肢公司のビルに突撃した。ビル内が阿鼻叫喚の地獄絵図になっているであろうなか、ミハイルがこの場からの離脱をしようとする。しかし、濤羅は手に持った銃でミハイルを脅し、ビルに接近しながら高度を取るように要求した。自動運転を強制解除したことによる道交法違反に加えて、ビルへの襲撃を考えればミハイルはSVが警察に撃ち墜とされる前に早々に撤退したかったが、狭い機内で銃を撃たれてしまえば乗ってる全員が助からないことから運転手は濤羅の要求をきいた。
ビルの40階付近まで来ると、濤羅は開いたままのハッチの側に近づき鉤撃ち銃を構え、ミハイルに別れを告げてビルの壁面へと撃った。そして、鉤についているワイヤーの張力のままに濤羅は空中へ投げ出される。その姿にミハイルが怒りを露わにして銃を濤羅に向けて撃つ。濤羅は以前にミハイルの弟を青雲幇の仕事で殺しており、ミハイルはその引導を渡すつもりでいたのだ。しかし、ミハイルの弾丸が濤羅にあたることなく2人は離れた。濤羅はビルの窓ガラスをカービン銃で破壊してビル内に侵入した。呉を目指して濤羅は動く。数人の警備員を倒して、呉のいるであろう55階の社長室を目指す。

呉は社長室にて自身の会社に与えられた損害を見ていた。アサルトギアによる物理的な破壊に加え、社内のコンピューターに注入されたコンピュータウイルスにより、社内の機密情報が外に漏らされ、重要なデータは二束三文で売り飛ばされ、暴落の一途を辿る株を交わされるなどの甚大な被害を受けていた。そのせいで、上海電脳義肢公司の株価は暴落してしまい企業としての命脈は絶たれたも同然であった。
しかし、呉からすれば社長の椅子は拾い物に等しい物で、惜しくない損失であった。呉が気になるのは濤羅が侵入してきた形跡であった。呉はペトルーシュカを連れて濤羅から逃げるために社内から出ることにした。脱出するための出口へ向かうためにエレベーターに乗っていると濤羅が襲撃してきた。呉は咄嗟に手に構えていた拳銃をペトルーシュカの頭に当てて、瑞麗の意識を人質にとる。動けない濤羅とにらみ合いしばし続いた後にエレベーターが目的地に着いて、呉はペトルーシュカを連れて逃亡用のSVがおいてある駐車場にたどり着く。呉はペトルーシュカを通路の真ん中に立たせる。銃口はペトルーシュカの頭に向けたままであった。濤羅もエレベーターから降りてペトルーシュカを挟んで呉の前に立つ。そして、呉がペトルーシュカに話しかけると途端にペトルーシュカが苦しみだす。悶え苦しむペトルーシュカに濤羅が咄嗟に駆け寄る。瑞麗の意識を心配して声を掛けようとした瞬間に濤羅の喉元を刃が奔った。濤羅は咄嗟に後ろに下がったことで切られるのは免れたが、その刃の元を辿ると驚愕した。
ペトルーシュカの右肩が裂けて、そこから細長い椀節が伸びておりその先端に鎌がつくという蟷螂のような姿になっていた。更に左肩も同様の姿になったことで、ペトルーシュカが戦闘用に改造を施されたのを濤羅は悟った。ペトルーシュカが2つの鎌で濤羅を襲う中、呉の姿は消えていた。呉を逃がすまいと襲ってくるペトルーシュカの鎌を1本切り落とすと悲痛な叫び声をペトルーシュカがあげる。瑞麗を彷彿とさせる声に濤羅は怯む。その間もペトルーシュカは苦悶の声を上げながら濤羅を襲う。

武器を展開して蜘蛛のような姿になったペトルーシュカ

さらにペトルーシュカは武器を展開していきその姿は最初の可憐さを失い、蜘蛛のような姿になっていた。ペトルーシュカの猛攻を交わしていると1台のSVが濤羅目掛けて走ってきた。濤羅は轢かれないようにSVのボンネットの風防に乗り上げて回避する。呉が乗っているかと思われたが、そのSVは囮で無人であった。濤羅はSVのボンネットに身を預けたまま空へ投げ出され、管制局のコントロール通りに誘導路へと合流すべく動かされる。そして、あとから呉の乗ったSVも飛び出してきて誘導路に乗っていく。呉は下り車線に、濤羅は上り車線に乗せられたことから、呉は濤羅から逃げ切れることに勝ちを確信した。しかし、濤羅は空中を走るSVの屋根を飛び移りながら呉の乗るSVを追いかけ始めた。その濤羅の姿に呉は驚きを隠せなかった。呉は自身の乗るSVに載せていたペトルーシュカを出し、迎撃させる。呉は人間の範疇を越えた行動を起こす濤羅に恐怖を覚えていた。ただ逃げるだけでは安心していられないことを悟った呉は濤羅を殺すことを決めた。

呉は自身が作ったコンピュータウイルス網絡蠱毒を使い誘導路を走るSVをハッキングして意のままに操り、ペトルーシュカと戦闘する濤羅を翻弄する。濤羅は長引けば自身の身が持たないことから躊躇っていたペトルーシュカを壊すことを決めて迫る。苦痛が少ないように首を狙おうとしたが、それを察したペトルーシュカは泣き叫びながら瑞麗の意識が入った頭部を差し出すように前へ向けた。濤羅が攻撃の手を止めて、内家の技でペトルーシュカの乗るSVの制御を壊し、ペトルーシュカと距離をおく。濤羅は自身が足場として使っていたSVの運転席に座り、梁が用意していた改造済みの網絡蠱毒を入れる。網絡蠱毒はSVを管理権を持っていた呉のシステムに入り込み、呉のところまでやってくる。呉は咄嗟に自身とSVの神経をつないでいたケーブルを抜いて逃げようとするが、間に合わず呉の脳神経の奥深くに網絡蠱毒が入り込む。呉が呆然としていると網絡蠱毒が牙を剥き呉に想像を絶する激痛を与え絶命させた。
濤羅が3人目の仇を討ったことに安堵するのも束の間、主を失くしてもなお動くペトルーシュカの襲撃を食らった。しかし、濤羅はそれを返り討ちにしてペトルーシュカの胴と頭を分断することに成功した。

第5章「驟雨血風」

呉との戦いを終えてアジトに戻ってきた濤羅はペトルーシュカに入っていた瑞麗の意識をガイノイド瑞麗に転送した。3つの意識が入ったガイノイド瑞麗は幼子のような舌ったらずな喋りはそのままであるが、今までのような幼子のような無邪気なはしゃぎ様はなりを潜めた。代わりに思慮を取り戻したのか、生前の瑞麗の近い様子へとなった。そして、豪軍のことを思い出したことで、豪軍の名を口にする。濤羅は豪軍を思い出したガイノイド瑞麗に豪軍がなぜ瑞麗を殺して意識を5分割したのか手がかりを探そうと問いかけるが、ガイノイド瑞麗はまだそこまでを思い出してはいなかったことで追及は止めた。
濤羅は1年前に豪軍に斬られたことを思い出していた。瑞麗の婚約者であった豪軍は濤羅の義弟にあたる。瑞麗が生きていた頃は濤羅と豪軍の仲は悪いということはなく、むしろ同じ流派の武門を収める兄弟弟子として仲が良かった。だというのに、自身の妻を凌辱して殺し、さらには義兄を斬るという所業に出たのはなぜなのかと濤羅を悩ませた。しかし、どのような理由があろうとも、愛しい妹を惨殺し、死後までを辱めた事実は変わらないことから、濤羅は何があっても豪軍たちを許す気はなかった。
濤羅は目の前で兄をからかうように小悪魔的に笑うガイノイド瑞麗の姿にわずかな不安を覚えた。そんな笑い方する瑞麗を知らなかったためである。生前と同じ妹を取り戻すために人生をかけている濤羅だが、果たして自身は妹をどこまで知っているのか不安になったのだ。濤羅が知っているのはあくまで妹の一部にすぎず、すべてを知らない濤羅はすべての意識を統合した妹を生前とまったく同じ人物であると判断できるのかどうかわからなかった。濤羅はガイノイド瑞麗に「本当にお前は瑞麗なのか」と問いたいという気持ちが沸き上がる。そう問うか悩んでいるとアジトの外に襲撃者たちが現れたことで中断することになった。襲撃者たちは斌が雇った賞金稼ぎで、名の知れたサイボーグ化された外家拳法家たちであった。濤羅ガイノイド瑞麗を片腕に抱えたまま相手することになった。

豪雨の中、数十はいたであろうサイボーグたちから濤羅は逃げ切ることができた。しかし、逃げる際に内家拳法を使ったためにさらに内傷負い、濤羅の体が内側からボロボロになり、激痛からその場に蹲ってしまう。死が迫っていることを悟り、濤羅は残る仇2人を屠るまでは死ねないと気息を整え痛みをこらえようとする。ガイノイド瑞麗が濤羅の苦痛に気付き、その苦痛を包こむように頬を寄せる。その頬のぬくもりに濤羅は瑞麗を置いて死ぬわけにはいかないと誓う。内家拳法の使い過ぎで死にかけの濤羅の身にはあまりにもむなしい誓いであったが、折れそうな膝を再び立たせるには十分であった。残る仇を求めて動き出そうとした濤羅の元に元兄弟がやってきた。ガイノイド瑞麗を連れたまま相手することのできない相手だったため、濤羅は瑞麗を避難させて元兄弟と対峙した。双子ならではの息の合った猛攻を繰り出す元兄弟をなんとか倒し、死にかけの体を引きずりながら濤羅は瑞麗の元を目指す。瑞麗の顔を見た濤羅は気の緩みから喀血してしまい、その血に溺れそうになりながらも意識だけは手放さないようにしていた。地面に倒れ伏しているとガイノイド瑞麗が濤羅の頭を膝の上に乗せて「大丈夫」と優しく語りかけてくる。そして、ガイノイド瑞麗は濤羅に口づけをして、その口内を小さな舌で舐める。

艶然とした笑みを浮かべる瑞麗

思わぬ行動に濤羅が驚いていると、ガイノイド瑞麗は艶然とした笑みを浮かべていた。濤羅は自身の知っている瑞麗がこのような笑みをするのを見たことがないために困惑する。そして、ガイノイド瑞麗は「色んなことを思い出した」と言い、語り始める。それは媽祖、ベネトナシュ、ペトルーシュカであった頃の記憶であり、玩具にされ、壊され、犯されていた記憶である。それをガイノイド瑞麗は自身を壊すことで所有者たちが幸せであったと語り、濤羅にもそれをするように促し、濤羅の雄を刺激するように体に指を這わせた。その行動を止めるためにガイノイドのうなじにある強制シャットダウンのスイッチを濤羅は押した。電源が落ちてくたりとして動かなくなったガイノイド瑞麗のスイッチを再度押して起動させようと濤羅は思ったが、ガイノイドの中にいるのは本当に妹なのかという疑問が生じた。しかし、血を分けた兄弟だからこそわかる本質的な部分でガイノイドに入っているのが紛れもない妹であると確信を持たせる。それでも、先ほどのような妖艶な笑みを浮かべて誘惑してこようとした姿を思い出すと、妹ではないとも思えた。困惑しながら自身の知る妹の戻ってくれと濤羅は願った。

斌は自身が所有するガイノイドであるラースヤと共に豪軍の自室を訪れた。ラースヤも瑞麗の意識を魂魄転写されたガイノイドであった。斌は濤羅を倒す秘策として、呉のペトルーシュカのようにラースヤも武装させて濤羅をにぶつけるという案を豪軍に伝える。豪軍はその案にいい返事をしなかったが、斌はさらに濤羅の狙いはガイノイドの中身でありガイノイド自体を武器として使えば濤羅を倒すのに至れると説得を続ける。
更に、ラースヤだけではペトルーシュカの二の舞になることを懸念して豪軍のガイノイド瑞麗も使いたいと申し出る。しかし、豪軍は斌の申し出を断り、さらにラースヤに手荒な扱いをする斌に「ラースヤを預けておけはしない。おいて行け」と命令した。豪軍の態度に斌はガイノイドと青雲幇とどちらが大事なのかと怒声をあげる。しかし、豪軍はどちらもおもちゃだと言い放った。そんな豪軍の姿に気でも狂ったのかと斌は零す。豪軍は自身の妻を殺させ、バラバラにした男が正気であるはずはないと笑う。わななく斌は豪軍を倒すべく動く。斌は以前から豪軍の行動が青雲幇のトップにふさわしくないと考え、自身が組織のトップに立とうと考えていたのだ。斌が攻撃をしかけるも、サイボーグであれば使うことのできないはずの内家拳法家の使う内功を豪軍は使用して斌の攻撃をいなした。そして、驚き固まる斌を労わるような仕草で背中を叩き、自身が以前に所属していた内家拳法流派の裏奥義、電磁発勁を放って斌を倒した。
騒ぎがおさまった頃に謝が豪軍の自室を訪れた。謝は主を失くして怯えるラースヤの電源の落とし、豪軍のガイノイド瑞麗に繋ぐ準備を始める。青雲幇は寨主を失くし、副寨主である豪軍も組織を伸ばそうとは思っておらず、香主もいなくなり、さらには組織員は濤羅によって大半が倒されたことで組織としてもう終わりの状態であった。ここまでの状態になった原因は豪軍であり、自身の組織をここまで追い込んだのはすべては瑞麗のためであると豪軍は謝に語る。そして、濤羅が妹の復讐に狂い、血を流すことは瑞麗への捧げものであると続けた。豪軍の話を聞きながら謝はラースヤと豪軍の瑞麗を繋ぎ終わる。そして、ラースヤに入っていた意識は豪軍の瑞麗へと転送された。

濤羅は再起動した瑞麗を連れて豪軍邸にたどり着いた。瑞麗を裏庭に隠れさせ、自身は邸内に侵入した。豪軍の自室に着いた濤羅はそこにあるメモリーを抜かれたラースヤの残骸と斌の遺体を発見した。斌の遺体に外傷がないことから内功、電磁発勁により死亡したものと濤羅は思った。自身以外に電磁発勁を使えるのは同じ流派を学んだ豪軍だけであったがサイボーグ化に伴い使用不可になっていた。しかし、状況を見るかぎり部屋の主である豪軍がやったことは間違いないのだろうと濤羅は思い、さらに斌の遺体を見る。すると、斌の口の中いっぱいに桃色の花弁が詰められているに気づいた。濤羅はその桃色の花弁は豪軍が残したメッセージであると気付き、豪軍がいるであろう場所へと向かった。

第6章「愛憎之園」

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