シークレット・ミッション(韓国映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『シークレット・ミッション』とは、2014年に日本で公開された韓国のアクション映画である。監督はチャン・チョルスで、韓国のインターネットポータルサイト「ダウム」に掲載されたウェブ漫画を原作にしている。北朝鮮の軍人であるウォン・リュファンは、秘密特殊任務のため韓国へスパイとして潜入する。しかし指令を待つうちに、北朝鮮上層部の都合で秘密特殊部隊の存在を隠蔽するため、リュファンたちに自決命令が下されてしまう。この作品は国の思惑や家族愛、コメディとシリアスが複雑に絡み合った目の離せない物語となっている。

『シークレット・ミッション』の概要

『シークレット・ミッション』とは、2013年6月5日に韓国で、日本では2014年10月11日に公開されたアクション映画である。韓国企業カカオが運営するインターネットポータルサイト「ダウム」で連載されたウェブ漫画を原作としており、監督はチャン・チョルスが務めた。主演は『星から来たあなた』に出演したキム・スヒョン、『グッド・ドクター』のパク・ギウン、『花ざかりの君たちへ』のイ・ヒョヌで、その脇を『追跡者THE CHASER』のソン・ヒョンジュや『宿命』のパク・ヘスクなど豪華俳優陣が固める。この作品により、キム・スヒョンが「第50回大鐘賞新人俳優賞」、「第50回百想芸術大賞 映画部門男性新人演技賞」を受賞した。

北朝鮮の軍人であるウォン・リュファンは、秘密特殊任務のため韓国ソウルにある町にスパイとして潜入することになる。わざと愚鈍な青年ドングを演じるリュファンだったが、同じ北朝鮮のスパイであるリ・ヘランやリ・ヘジンと町で暮らしていくうち、「スパイではなく平凡に暮らしたい」と思うようになる。そんな時、北朝鮮ではリュファンたちが所属する5446秘密特殊部隊の存在を隠ぺいする決定がされ、リュファンたちには自決命令が下される。

この作品はリュファン演じるドングや町の人々のコミカルさを描きつつも、国と国の衝突に翻弄される若者や家族の姿がシリアスに描かれる物語となっている。

『シークレット・ミッション』のあらすじ・ストーリー

ウォン・リュファンとドング

ドングを演じるリュファン

北朝鮮のピバ岬から、9年間スパイとして育てられたウォン・リュファン少佐が一人旅立つ。リュファンは北朝鮮の5446秘密特殊部隊所属の班長で、スパイとして韓国に潜入する任務が与えられていた。教官であるキム・テウォン大佐は祖国統一を果たして再び会うことを誓い、リュファンを送り出す。

その二年後、リュファンが潜入しているソウルの小さな町では、リュファンがわざとドングという愚鈍な青年を演じて子供たちに罵られていた。リュファンが住み込みで働くスーパーの店主であるチョン・スニムや、その息子のチョン・ドゥソクもリュファンがバカな青年だと信じて疑わない。他にもこの町には美人で有名なOLのユン・ユランとその弟のユン・ユジュン、賃貸業をしていてコ老人と呼ばれるコ・フィスン、コ老人が持つ家に住むランなどが暮らしている。そして町に来る郵便配達員は、リュファンと同じ5446秘密特殊部隊員であるソ・サングである。サングはソウルに来てすでに16年が経っており、すっかり韓国での暮らしに溶け込んでいた。リュファンはそんなサングの様子もあって、自分は北朝鮮から忘れ去られているのではないかと焦燥感を覚える。

平凡な生活を送るリュファンの前に、5446秘密特殊部隊でリュファンと同じく班長を勤めていたリ・ヘランが現れる。ヘランもソウルでスパイ行為をするべく、ミュージシャンに扮して北朝鮮からやってきたのだった。

新たなスパイ

韓国の警察官であるソ・スヒョクは、脱北者である男から5446秘密特殊部隊の情報を手に入れる。5446秘密特殊部隊とは、ヘランの父であるリ・ヒショクが16年前に作った部隊で、北朝鮮の支配政党である朝鮮労働党の幹部すら知らないとされる組織だと言う。しかし情報を告げた男は5446秘密特殊部隊のスナイパーにより、スヒョクの目の前で射殺されてしまう。韓国警察はスヒョクを代表にした5446秘密特殊部隊対策チームを結成し、リュファンたちのようなスパイの所在を追うことになった。

ある日、サングに5446秘密特殊部隊から北朝鮮に戻るようにという命令が下った。しかしサングは北朝鮮から離れていた年月が長すぎたせいで韓国での生活を楽しんでおり、もう北朝鮮に戻る気はない。それを聞いたリュファンは無慈悲にも「今の貴様はまるで何も知らぬ南朝鮮の臆病な男だ」と、自決するように宣告する。そしてサングは次の日から姿を消したのだった。

リュファンのもとに、5446秘密特殊部隊から新たなスパイがやってくる。リ・ヘジンという男で、かつてリュファンの部下だった男だ。そしてリュファンはヘランから、韓国にいるスパイたちが「サケ」と呼ばれていることを聞く。故郷へ戻り産卵するサケのように、スパイとしての成果を挙げて北朝鮮に戻れという期待を込めて、こう呼ばれているようだ。しかしサケは生きて帰っても産卵が終われば死んでしまう運命であり、リュファンたち5446秘密特殊部隊の隊員も、サケのように死から逃れられないことを暗に告げていた。それでも自分が任務を全うすることで北朝鮮が母親を守ってくれるなら命くらい差し出す、とリュファンは覚悟を新たにするのだった。

一方その頃、ヘジンは尊敬するリュファンが自分のことを覚えてくれていたことに嬉しさを感じていた。ヘジンは高校生として町で暮らし始めたが、スニムの店でチンピラが暴れる事件が起こる。リュファンとヘジンは協力してチンピラを退治するが、母を助けようとしたドゥソクがケガを負う。それでもドゥソクは「心配するな、家族の面倒は俺がみる。俺を信じていればいい」とリュファンを家族の一員として考え、頼もしい姿を見せるのだった。

その後も町で暮らし続けていたリュファンは、迷子になっていた町の子供を助けたり、ランが7年前に産んだという子供の話を聞くなど順調に町の住人として溶け込んでいた。そんな時、リュファンやヘラン、ヘジンと町の人々で集まって食事をすることになった。町に来て日の浅いヘジンは、戸惑いながらもその時を楽しむ。リュファンも楽しそうな表情でいたが、心の中では「自分が変わりそうなのが怖い」とスパイとしての自分とドングとしての自分のはざまで揺れ動くのだった。

自決命令

北朝鮮では、韓国との関係緩和を望む声が大きくなっていた。そのため、スパイとして韓国に潜伏している5446秘密特殊部隊の存在が明らかになるとヘランの父の立場が悪くなってしまう。そこで5446秘密特殊部隊の記録は全て抹消し、スパイたちは裏切り者として処分することが決まった。

そしてリュファンをはじめ韓国にいる5446秘密特殊部隊の隊員の元に、総員自決するようにとの命令が下る。韓国にいるスパイたちが次々と自決していく中、リュファンは未だ自決に踏み切れないでいた。そんなリュファンに、北朝鮮から自決を促す監視者たちが襲い掛かる。警察官のヒショクも北朝鮮の動きを感じ取り、リュファンの元にたどり着く。結局監視者と警察からリュファンを逃がすために奮闘したヘジンがヒショクに捕らえられ、ヒショクはその身体からマイクロチップを抉り出す。ヒショクの調査により、これまで自決したスパイたちの身体には位置情報などがわかるマイクロチップが埋め込まれていることがわかっていたのだ。マイクロチップの情報をたどり、リュファンやヘランの元には北朝鮮からテウォンをはじめとする監視者が次々と送り込まれることになる。

リュファンとヘランは監視者の手が町の人々にまで及ぶのを恐れ、身なりを整えて町を離れることを決意する。リュファンがいなくなることを感じ取ったスニムは、リュファンに「交通費にするように」と通帳を渡す。これまでバカな青年を演じていたリュファンの本当の姿と対峙したスニムは、密かに心配そうな視線を送るのだった。

平凡な家庭に生まれて暮らしたい

テウォンに詰め寄るリュファン

ソウルのはずれにある廃墟で、リュファンとヘランは北朝鮮から来たテウォンと対峙していた。テウォンは2人に自決を促すが、リュファンは母の無事が確認できないと命令に従うことは出来ないと返す。しかしテウォンがそれに返答することはなかった。そこにサングが現れ、実はサングは元々5446秘密特殊部隊の創設に反対していたソ・ヨングクという政治哲学者で、リュファンたちスパイが周りの環境によってどのように変質するかを調査するために韓国に送られていたという。サングはリュファンたちを「ただの怪物で失敗作」とし、スパイの家族は全員収監されていることを明かす。さらにスパイたちに自決命令が下った今、その家族も無事ではいられないと言う。それを聞いたリュファンは呆然自失となる。そして騒ぎを聞きつけたスヒョクと共に来ていたヘジン、ヘランに何とか屋上まで連れていかれるのだった。

リュファンは屋上でテウォンに母を保護することを頼むが、テウォンはそれに応じない。それどころか「私情に振り回されるな。祖国のために共に逝こう」と返す。それを聞いたヘランは「そんなことはどうでもいい。人生なんてカッコよく生きて死ぬだけだ」と言い、爆弾を取り出したテウォンにとびかかって一緒に屋上から落ち、爆死する。父の愛人の子だったヘランは、5446秘密特殊部隊に自決命令が下ったことで、実質父に捨てられた状況だった。それでも友であるリュファンのため、自身の矜持を守るためにテウォンと共に死んだのだった。

韓国警察はスヒョクの制止を聞かず、リュファンとヘジンを危険因子と判断し逮捕しようとする。しかしリュファンは呆然自失のまま動けない。ふとスニムから受け取った通帳の中身を見ると、「息子の結婚資金」という名目でリュファンのために大金が貯められていた。それを見たリュファンは「戻りたい。こんな風に生きたい」と町の人々に想いを馳せて泣き崩れる。リュファンを守るヘジンと韓国警察との銃撃戦になり、ヘジンは銃弾を浴びて倒れてしまう。ようやく我に返ったリュファンはヘジンを抱きとめ、2人でビルの屋上から落下してしまうのだった。

まだ自決命令が出る前のこと、リュファンとヘラン、ヘジンは3人で「生まれ変わったらどんな人生を歩みたいか」と話していた。リュファンは「平凡な家庭に生まれて暮らす人」と答え、ヘランとヘジンも笑顔でそれに同意する。

リュファンたちの一件から月日がたち、町には雪が降り積もっていた。リュファンの身を案じるスニムが家族写真をふと手に取ると、その裏にはリュファンの字で「母さん、元気でいて」という一文が刻まれているのだった。

『シークレット・ミッション』の登場人物・キャラクター

主要人物

ウォン・リュファン(演:キム・スヒョン)

北朝鮮で極秘裏に結成された、5446秘密特殊部隊の一員。体術や銃の扱いのみならず様々な分野に精通する、5446秘密特殊部隊の中でもエリート中のエリート。部隊の中では1つの班を指揮する班長をつとめる。韓国のソウルにある小さな町に派遣され、そこで「ドング」という愚鈍な青年を演じつつ指令を待つ日々を送る。心の中では町の住人を見下しながらも次第に町に馴染み、そこに住む人々を大切に思い始める。特に雇い主のスニムに対しては、実の母親と重ねている描写が見られる。祖国と母のためにどんな指令も受け入れる覚悟だったが、母の生死が不明になったため生きる目的を失う。

リ・ヘラン(演:パク・ギウン)

北朝鮮で極秘裏に結成された、5446秘密特殊部隊の一員。部隊の中では1つの班を指揮する班長をつとめる。5446秘密特殊部隊を創設したリ・ヒショクの息子だが、愛人の息子であるため父からはないがしろに扱われている。ソウルにはミュージシャンとして潜入することになり、数々のオーディションを受けている。お調子者を演じているがその実は人情にあふれた性格で、5446秘密特殊部隊隊員の家族を極秘に逃がすなどの工作をしていた。自身の班のメンバーの中にはそんなヘランに心酔する者もおり、部下には尊敬されている。

リ・ヘジン(演:イ・ヒョヌ)

北朝鮮で極秘裏に結成された、5446秘密特殊部隊の一員。部隊の中では1つの班を指揮する班長をつとめる。幼い頃からリュファンのことを尊敬しており、久しぶりに再会したリュファンが自分のことを覚えてくれていたことで顔が緩むのを抑えられなかった。何かと邪魔な人物を殺したがり、そのたびにリュファンに優しくたしなまれている。祖国を裏切ることになったとしてもリュファンが自決せずに逃げおおせることを望んでおり、テウォンや韓国警察からリュファンを守り続ける。

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@kamick2014

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