童夢(大友克洋)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『童夢』とは、大友克洋が雑誌『アクションデラックス特別増刊』(双葉社)に1980年から1981年にかけて計4回にわたって連載したSF作品である。不可解な不審死が多発する団地を舞台に、団地に引っ越してきた超能力者の少女悦子(えつこ)が、影で事件を引き起こす同じ超能力者の老人チョウさんとサイキックバトルを繰り広げる。
緻密な描き込みと迫力のあるサイキックバトル描写など、後の大友の代表作『AKIRA』の原型とも言える。

日向ぼっこをしていたチョウさんは、赤ん坊を超能力でベランダへ連れ出し「まっかなトマトになっちゃいな」と無邪気に突き落とす。しかし、これを見た悦子は超能力で地面に激突寸前だった赤ん坊を救う。赤ん坊を救った後、悦子はベンチにいるチョウさんに近づき「何がトマトよ。あんなコトしたら赤ちゃんが死んじゃうでしょ。なんていたずらっ子なのかしら」と非難する。悦子がチョウさんを「いたずらっ子」と表現している時点で、彼の本質が「大人」ではなく「子供」だと見抜いているのが分かる。

野々村 典子「子供よ 子供に気を付けなさい」

堤団地で起こる連続不審死事件や怪現象から、高山は霊能力者の野々村典子に相談する。興味を持った野々村典子は高山と共に団地を訪れるも、尋常じゃない雰囲気に気がついて「私一人では手に負えない。これからもっと犠牲者が増える」と怯えてしまう。そして、高山に「子供よ。子供に気を付けなさい」と忠告する。

ヨッちゃんの怒り

チョウさんからピストルをもらったひろしの父は、そのピストルで他の子供やヨッちゃんに怪我を負わせた挙句息子のひろしを射殺してしまう。親友ひろしの死ぬ瞬間を目の当たりにしたヨッちゃんは激しい怒りで立ち上がり、怪我をしているにも関わらずひろしの父を凄まじい怪力で叩きのめす。

悦子とチョウさんの戦いを見つめる子供達

物語の中盤、悦子はチョウさんと直接対峙してサイキックバトルを繰り広げる。追いかけてくる悦子を超能力で攻撃するチョウさんだったが、この時ベランダに出た団地中の子供達が悦子と共に自分を睨みつける光景に青ざめる。終盤でも、悦子とチョウさんによるサイキックバトルに子供達が反応している。

悦子の超能力で壁にめり込むチョウさん

チョウさんは悪戯で団地の部屋という部屋にある栓を抜き、その結果火災を引き起こしてしまう。しかし、自分のやったことが分かっておらず子供のように笑いながら勝ち誇るチョウさんに悦子は怒りを爆発させる。悦子は超能力を暴走させてしまい、その力はチョウさんを上回る。超能力によって壁が破壊される描写や壁にめり込むチョウさんの服が捻れている描写が細かい。

高山「あっ………あれは殺された子供のことじゃなかったのか?」

取調室で子供のように無邪気に遊ぶチョウさんの姿に、高山は野々村典子の忠告にあった「子供に気を付けなさい」の言葉を思い出す。高山は当初文字通りの意味で捉えていたが、「子供」の正体がチョウさんだと気が付く。「子供」の正体に気がついた高山は「あっ………あれは殺された子供のことじゃなかったのか?」と青ざめる。

それぞれ違う場所でサイキックバトルを繰り広げる悦子とチョウさん

団地内の別々の場所でサイキックバトルを展開する悦子とチョウさん

終盤、悦子は一人堤団地を訪れチョウさんとの最後の対決をする。この時悦子はチョウさんの前に直接現れず、団地内の公園にあるブランコに座りチョウさんとサイキックバトルを展開する。二人のサイキックバトルに井戸端会議をする大人達は気が付かなかったが、団地で遊んでいた子供達はサイキックバトルを察してその視線は二人に注がれる。チョウさんを監視していた高山も、何かが起きていることを察する。そしてサイキックバトルは決着し、チョウさんは死亡、悦子は団地を去るという結末で終わる。

『童夢』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

作者の試行錯誤の果てに誕生した『童夢』

本作の発想は、大友がアシスタント達と映画『エクソシスト』や大林宣彦監督の『HOUSE』を観て強い衝撃を受けたことから「次は幽霊屋敷もののホラーをやろう」という話になったのがきっかけだったという。「日本の幽霊屋敷とはどこか?」と話しあっていた頃、モデルになった団地で当時飛び降り自殺が多発していたため団地を舞台にしたホラーものになった。
主役の超能力者に悦子とチョウさんという「子供」と「老人」を置いたことについて、作者の大友は次のように述べている。
「子どもと老人というのは、社会に参加していない存在……社会・経済などを動かしている大人ではない存在の、若い方と老いた方、両端の二人を戦わせようと考えました。”日本の幽霊屋敷=団地”では、異常な数の自殺があったことが気になりました。そこまで多いのには、何か理由があるのではないか。そこには不思議な力を持つお爺さんが居てそうやっていたずらに人を殺している。そこにさらに不思議な能力を持つ女の子が引っ越してきて戦いを始める。(中略)そして、チョウさんは普段、ニコニコ笑って日向ぼっこしているお爺さんであることもポイントです。怪物というのは身体が大きくて牙やしっぽが生えてる異形のものではなく、普通の姿で隣に居たりする方が怖いのです。」
大友はもっと話を広げることも考えたが、元々映画を意識して単行本1冊にまとめてみたかったこともあり、ページの配分や物語の起伏の作り方についてかなり意識して制作している。また「目に見えない力」をどのように表現するか色々試行錯誤しており、結果『童夢』は大友の様々な試みが詰まった作品となった。

主人公「悦子」のモデル

yakionigiri39
yakionigiri39
@toritani39

Related Articles関連記事

AKIRA(アキラ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

AKIRA(アキラ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

AKIRAとは1982年~1990年に連載された大友克洋によるマンガ作品、および1988年劇場アニメ版作品のことである。新型爆弾により崩壊した東京地区に住む主人公・金田は、事故をきっかけに超能力に目覚めた親友の鉄雄と共に軍が秘密裏に研究する超能力者を巡る抗争に巻き込まれる。軍が極秘に封印していた最強の超能力者「アキラ」の封印を解き世界征服を試みる鉄雄の暴走を止めるため、金田は仲間たちと協力し戦う。

Read Article

スプリガン(SPRIGGAN)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

スプリガン(SPRIGGAN)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『スプリガン』とは、超古代文明の残した数々の超常的な遺産と、それを巡る熾烈な戦いを描いた、たかしげ宙(原作)、皆川亮二(作画)による漫画作品。80年代から90年代にかけてブームとなったオカルト趣味の影響を受けており、それを痛快な娯楽作品へと昇華させた傑作として国内外で高く評価されている。 世界をも滅ぼしかねない、超古代文明の遺産「オーパーツ」。それを守護するための秘密組織アーカムに、御神苗優という少年が所属していた。オーパーツを狙う組織や国家に、優は仲間たちと共に立ち向かっていく。

Read Article

AKIRA(アキラ)のバイクまとめ

AKIRA(アキラ)のバイクまとめ

『AKIRA(アキラ)』とは、大友克洋による近未来SF漫画、および1988年に公開された劇場公開作品。新型爆弾によって崩壊した近未来の東京を舞台に、事故をきっかけに超能力に目覚めたことで軍の秘密実験に巻き込まれた鉄雄の暴走と、彼を止めようとする親友の金田の冒険を描く。 主人公の少年たちが暴走族ということで、アニメ映画版、原作漫画版ともに多くのバイクが登場する。特に金田の真っ赤なバイクは『AKIRA』のアイコンとして、世界中で愛されている。

Read Article

AKIRA(アキラ)の兵器・メカテクノロジーまとめ

AKIRA(アキラ)の兵器・メカテクノロジーまとめ

『AKIRA(アキラ)』とは、大友克洋による近未来SF漫画、および1988年に公開された劇場公開作品。新型爆弾によって崩壊した近未来の東京を舞台に、事故をきっかけに超能力に目覚めたことで軍の秘密実験に巻き込まれた鉄雄の暴走と、彼を止めようとする親友の金田の冒険を描く。 作中には近未来SFならではの兵器やメカテクノロジーが数多く登場する。

Read Article

マンガ「童夢」とは

マンガ「童夢」とは

「童夢」とは、大友克洋が1980年から1981年に4回に分けて発表したマンガです。 大友克洋といえば、アニメ映画で話題になった「AKIRA」の原作者ですね。 大友克洋の作品特有の執拗なまでに書き込まれた背景、登場人物のリアルな造形は、それより前に流行っていた、デフォルメされた作品に多大な影響を与え、リアルな造形のキャラを描く作家が増えました。

Read Article

【AKIRA予言】2020年東京オリンピック中止、伝染病、第三次世界大戦【次は何が起きる?】

【AKIRA予言】2020年東京オリンピック中止、伝染病、第三次世界大戦【次は何が起きる?】

大ヒットマンガ・アニメ作品の『AKIRA』では2020年の東京オリンピックが予言されていたと過去話題になっていました。さらに伝染病や第三次世界大戦、クラウン(コロナ)など他の予言も現実になりつつあるのでは、と話題になっています。Twitterで話題になっているAKIRAに関するツイートをまとめました。

Read Article

アニメ・漫画に出てくる、見ているだけでよだれが出てくる美味しそうな食べ物たち

アニメ・漫画に出てくる、見ているだけでよだれが出てくる美味しそうな食べ物たち

アニメ・漫画で度々登場するのが、食べ物のシーン。しかし食べ物は現実、色のグラデーションや光の吸収率や反射率などがまちまちで、絵として表現するのは至難の技なのです。けれども、そんな中でもその独特な食べ物たちを極めて美味しそうに書いたアニメや漫画があるのです。今回はそんなシーンにこだわって、たくさんの美味しそうな食べ物をまとめてみました。

Read Article

【ドラマ】2014年版「GTO」のあらすじ・キャスト・ネタバレ・感想まとめ!大ヒット作の続編にファン大歓喜!

【ドラマ】2014年版「GTO」のあらすじ・キャスト・ネタバレ・感想まとめ!大ヒット作の続編にファン大歓喜!

元暴走族のリーダーという経歴を持つ高校教師「鬼塚英吉」と、問題児だらけの生徒達との交流を描いたドラマ『GTO』。1998年に反町隆史主演で放送されると、主題歌も含め瞬く間に大ヒット作品となった。2012年には「EXILE」AKIRAの主演によってリメイクされ、さらに2年後の2014年には、舞台を湘南に変えて『GTO』の第2シーズンがスタートしたのである。本記事では2014年版『GTO』のあらすじ・ストーリー、キャスト、ネタバレありの感想などをまとめた。

Read Article

ドラマGTO、秋も鬼暴れスペシャルに出演していたキャスト情報まとめ【桐谷美玲ほか】

ドラマGTO、秋も鬼暴れスペシャルに出演していたキャスト情報まとめ【桐谷美玲ほか】

2012年に「EXILE」のAKIRA主演で放送が開始されたドラマ『GTO』。1998年に放送された反町隆史主演の『GTO』をリメイクしたものであるが、オリジナルストーリーのスペシャル版が数本放映されている。本記事では『GTO 秋も鬼暴れスペシャル』に出演していたキャストの情報をまとめて紹介する。

Read Article

【君の名は。】ジャンルいろいろ!大人が楽しめる最高に面白いアニメまとめ【AKIRA】

【君の名は。】ジャンルいろいろ!大人が楽しめる最高に面白いアニメまとめ【AKIRA】

アニメといえば、一昔前は「子どもが観るもの」というイメージがありましたよね。ところが、今では子どもよりもむしろ大人のほうがアニメに夢中になっている印象を受けます。この記事では、そんな大人たちが楽しめる最高に面白いアニメについてまとめました。いろんなジャンルのものを紹介しているので、まずは興味のあるもの・好きなものから観ていくのがオススメですよ!

Read Article

【BLEACH】ハリウッドでリメイク・実写映画化される予定の日本の作品まとめ【AKIRA】

【BLEACH】ハリウッドでリメイク・実写映画化される予定の日本の作品まとめ【AKIRA】

漫画・アニメやゲームなどの作品の数々。これらは今や日本を代表する文化になり、国内だけではなく海外からも高く評価されています。その影響を受け、ハリウッドでのリメイクや実写映画化が決まった作品があるので、この記事でまとめました。実際のところ実現するかどうかはわかりませんが、まぁその日が来るまで気長に待ってみましょう!

Read Article

【AKIRA】名作アニメ映画7選!レンタルしてでも見たい大人でも楽しめる作品ばかり!【パプリカ】

【AKIRA】名作アニメ映画7選!レンタルしてでも見たい大人でも楽しめる作品ばかり!【パプリカ】

子供だけでなく、大人も楽しめる名作アニメ映画を7作品紹介する。サイバーパンクの元祖と言われる名作「AKIRA」、原作漫画も人気な「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」、狂った世界観が話題を呼んだ「パプリカ」など、思わずレンタルしたくなる作品ばかりとなっている。

Read Article

世界が認めた日本の傑作映画・アニメまとめ!ハリウッドでリメイクされた傑作ばかり!

世界が認めた日本の傑作映画・アニメまとめ!ハリウッドでリメイクされた傑作ばかり!

世界中で高く評価される日本のアニメや映画。一部の熱狂的なマニアに支持されるコアな作品がある一方、ハリウッドが実写映画化することで新たなファンを獲得することもあります。2010年代から『ゴジラ』や『オール・ユー・ニード・イズ・キル』などの大作がハリウッド版でリメイクされて話題になりました。ここでは、2017年に公開された日本の映画や漫画のリメイク映画を紹介します。

Read Article

目次 - Contents