だんだらごはん(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『だんだらごはん』とは、殿ヶ谷美由記によって、2015年から『pixivコミック×講談社ARIA』にて連載されている青春ストーリー漫画である。
江戸時代に実在した新選組の歴史を軸に、隊士の等身大の青春を描いている。激動の時代を生き抜いた新選組について、当時の食文化という新しい視点から描かれた作品である。
物語は斎藤一と沖田総司を中心に、2人の出会いや新選組結成前の様子からじっくりと描かれている。

沖田総司「僕はこの居場所とみんなを守るために戦いたい ここにいるみんなが大好きだから」

京で新しく浪士組を結成するための嘆願書に、自分の名を連ねた理由を聞かれた時の沖田の言葉。沖田は斎藤と京で再会した当初、清河の裏切りなどを経て浪士組を続けていくことに漠然とした不安を抱いていた。それを覚えていた斎藤は、「みんなが書いたから」という理由で嘆願書に名を連ねた沖田に「あんなに不安がっていたのにそれでいいのか」と問いかける。それに対して沖田は、江戸を出てから様々なことを経験し、周りの人間が変わっていってしまうのではという恐怖を感じていたことを告白する。しかしその後、京に残る選択をし再起を誓う近藤を見て、その不安や恐怖は解消し「僕たちは僕たちのままでいられる」と思いなおしたと話した。そして「みんなが書いたから」という理由だけでなく、「この居場所とみんなを守るために戦いたい ここにいるみんなが大好きだから」という理由で名前を書いたのだと改めた。
沖田はこれまで、近藤を始めとした試衛館の面々が大好きであるが故に、その人々に合わせて行動をする節があった。その沖田が、自分の意思で決めたことだと発言する貴重なシーンである。試衛館を離れてから、自分たちの未来に不安を抱えていた彼が、自分が浪士組として戦う意味を見つけた瞬間でもある。

斎藤一「俺のことを必要だと言ってくれる人がいて 貴方様にまでそう言って頂けて 頑張れない自分はもっと嫌だ だから戦います 自分とも 貴方様のためにも」

会津藩主の松平から、京を守るために共に戦ってほしいと言われ、斎藤が返した言葉。浪士組として松平と面会する前に、互いの身分を知らぬまま町中で接触していた斎藤は、宴席を抜け出し2人きりで話す機会を設けられる。斎藤のことを「世間の狂乱に踊らされず、自分を見つめ自分の悩みと向き合える”ふつう”の感覚を持った人」と評価している松平に対して、斎藤は「人間の器が小さいだけ」という自己評価を下していた。それでも松平は、斎藤を始めとした浪士組を信頼し、将軍を守るために共に戦いたいと願う。それを聞いた斎藤は、自分のことばかり考える小さな人間である自分が嫌いだったことを明かす。しかし、試衛館の仲間たちと松平の言葉に応えられない自分はもっと嫌いだと告げた。そのうえで松平の願いに「だから戦います 自分とも 貴方様のためにも」と返答した。
松平と共に戦うだけでなく、斎藤が自分自身と向き合うことも決意したセリフである。劣等感を抱えて生きてきた斎藤が、試衛館の面々や松平の言葉に後押ししてもらい、浪士組としての一歩を踏み出したシーンでもある。

沖田総司「何があってもお汁粉はお汁粉 どんなことが起きても変わらないんですね」

殿内を始末した後、近藤、土方、斎藤と共に食事をしていた沖田の言葉。土方と沖田は殿内の暗殺を実行したが、2人を探しに来た近藤と斎藤に偶然その場を目撃されてしまう。ひとまず暗殺の現場から離れて食事処に入り、土方は何か注文するようにと斎藤に指示する。土方から、殿内が近藤に毒を盛ろうとしていたことを明かされ、その場に居合わせた4人は暗殺する以外の方法がなかったと結論付けた。4人で食事をしに来ただけという体にし、斎藤が注文した料理を食べ始めると、沖田は甘い物が苦手な斎藤がお汁粉を注文していたことに気付く。斎藤は「好きな物でもあった方がちょっとは落ち着くかと思って」と話し、甘い物が好きな沖田を思いやっての注文だったことを明かした。それを聞いた沖田はお汁粉を口にし、「お汁粉の味がする」と当たり前のことを呟き、他の3人を困惑させる。当の沖田は3人の視線は気にせず、「何があってもお汁粉はお汁粉 どんなことが起きても変わらないんですね」と安心したように話すのだった。
初めて人殺しを経験した沖田が、慣れ親しんだ好物を食べることで、落ち着いたことを表す言葉である。これを聞いた斎藤は「変わらずにいてほしいと沖田くんが望んだように聞こえた」としている。激動の日々を送る沖田の、自分の大切な人々は変わらないでいてほしいと願う気持ちが込められている言葉でもある。

山南敬助「僕だって いつ終わるかは自分で決めたいよ」

長州派の志士だと思われる者たちに襲撃された際、山南が土方に向かって放った言葉。襲い掛かってくる相手の「新選組にはここで終わってもらう」という言葉と、山南が新選組を解散させた方が良いと提案したことが重なり、土方は腹を立てていた。「山南さんに言われんのも腹立つけど お前らは論外なんだよ」と反論しながら相手を返り討ちにした土方は、背後から斬りかかろうとしていたもう1人の敵に気付くことに遅れてしまう。一方右腕を負傷していた山南はそれにいち早く気付き、左腕を使い刀を投げつけることで応戦した。山南に下がっているように促す土方だったが、山南は新選組が終わるという話に絡めて「僕だって いつ終わるかは自分で決めたいよ」と告げ刀を握り直した。
怪我の影響で、体が思うようにならない山南自身の「終わり」と、不安定な状況が続く新選組という組織の「終わり」の2つの意味を含ませている言葉である。新選組に強い拘りを持つ土方を「新選組という夢に酔っている」と評価している山南だが、同時に「僕もそんな風に酔えたらよかった」と羨ましさも感じている。新選組の解散を提案しながらも、心のどこかでは新選組の存続を願っている山南の心の葛藤が分かるシーンでもある。

『だんだらごはん』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

沖田総司の年齢には諸説あり

史実の沖田総司の年齢は、1842年生まれと1844年生まれの2通りの説がある。本作では斎藤、藤堂と同じ年齢である1844年生まれの説が採用されている。

パロディ漫画も描かれる番外編

『だんだらごはん』は数話ごとに番外編が掲載されている。登場人物の幼少期など本編と関係のあるものだけでなく、学園や警察設定のパロディ漫画、ドラマCDのアテレコ現場のレポートなど様々な内容で描かれている。

新選組関連の施設との関係

土方歳三資料館は、土方歳三の遺品などの展示を行う資料館である。土方歳三の子孫でもある館長は、音声プラットフォーム『Voicy』にてチャンネル開設しており、2021年にその配信内で『だんだらごはん』を紹介した。単行本が発売される度に資料館に新刊が送られ、それを配信で紹介するなどの交流もされている。
その他にも井上源三郎資料館や佐藤彦五郎資料館など、新選組と関わりのある施設と作者の殿ヶ谷が交流している様子がTwitterを通して確認することができる。

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