チ。ー地球の運動についてー(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『チ。ー地球の運動についてー』とは、魚豊が2020年から2022年に『ビッグコミックスピリッツ』で連載していた漫画だ。宇宙は地球を中心に回っている「天動説」が信じられていた15世紀に、その説を覆す「地動説」を証明しようと命がけで研究する人々を描いたフィクション作品である。2021年のマンガ大賞では2位、2022年の手塚治虫文化賞ではマンガ大賞を受賞。その他にも数々の賞にランクインし、メディアでも取り上げられるなどして話題となった。

『チ。ー地球の運動についてー』の概要

『チ。ー地球の運動についてー』とは、魚豊によって『ビックコミックスピリッツ』の2020年42・43合併号から2022年20号で連載された漫画である。2021年には、「マンガ大賞」で第2位、「次にくるマンガ大賞2021コミックス部門」で第10位、「このマンガがすごい!2022オトコ編」で第2位、「このマンガがすごい!芸人楽屋編」で第6位、「THE BEST MANGA 2022 このマンガを読め!」で第6位にランクイン。2022年には、「漫道コバヤシ漫画大賞2021」でグランプリ、「全国書店員が選んだおすすめコミック2022」で第5位、「マンガ大賞」で第5位にランクインした。また、同年4月の第46回「講談社漫画賞」では総合部門の最終候補まで残り、同月の「第26回手塚治虫文化賞」ではマンガ大賞を受賞した。

宇宙は地球を中心に回っている「天動説」が信じられていた15世紀に、その説を覆す「地動説」を証明しようと命がけで研究する人々を描いたフィクション作品である。「地動説」は異端の思想としてC教に厳しく取り締まられており、異端者は火あぶりに処される危険があった。しかし、先人たちの思いと「地動説」を決して絶やさないという強い信念を持って、フベルト、ラファウ、オクジー、バデーニ、ヨレンタ、ドゥラカなどの主人公が代わる代わる受け継いでいく。彼らが「地動説」のために命をかける理由はそれぞれにあるが、共通していることは自分が信じたことに熱中して貫き通す姿勢だ。魚豊が作品の題材に関してインタビューを受けた際は「「自分がこれをやりたい」という気持ちに逆らえない人たちの姿を描きたい」と言っている。

「変えよう」というのはちょっと違うかもしれません。どちらかといえば、「自分が“これだ”と思ったことを貫く人たちの物語」ですね。とにかく『チ。』という作品では、「世界」が突然立ちはだかってこようとも、「自分がこれをやりたい」という気持ちに逆らえない人たちの姿を描きたいんです。ただそれは、何を選ぶかによって大変危険にもなりうる姿勢だと思いますので、その危うさも内包して意識的に描けたらなと思います。

出典: realsound.jp

『チ。ー地球の運動についてー』のあらすじ・ストーリー

第1章

15世紀前期、P王国ではC教が力を持っていた。C教の教えに背く行動をしたものは、異端者として捕まり、最悪の場合火あぶりの刑にされる。それは日常的に起こっていた。異端審問官のノヴァクは司教の指示で宇宙論について厳しく取り締まっており、容赦ない拷問をしていた。C教は、宇宙は地球を中心に回っている天動説を信じていたため、それに背く研究をしている者は異端者と見なされるのだ。
ラファウは12歳で大学入学が決まり、周囲からは神童ともてはやされていた。ある日、ラファウは学者のフベルトに出会う。フベルトは異端と見なされて捕まるが、研究を続けるために改心したふりをして解放されたばかりだった。ラファウはフベルトから地球は自転と公転をしているという地動説について教えられ、天体観測を手伝うことになる。しかし、ノヴァクに目を付けられラファウの部屋から研究の痕跡を見つけられてしまう。そして、ノヴァクに詰め寄られたラファウを庇い、フベルトは火あぶりにされてしまった。ラファウはフベルトから渡されたネックレスに記されている暗号をたどり、山に隠された石箱を見つける。石箱の中には地動説についての書類があり、ラファウはそれを元に研究を続けた。しかし、ラファウはノヴァクから疑念を持たれ続けており、ノヴァクに脅された義父のポトツキによって密告されてしまう。ラファウは捕まってしまうが、研究書類の隠し場所をめぐって拷問される前に牢屋の中で毒を飲んで自殺する。

第2章

10年後、代闘士のオクジーとグラスは異端者の輸送警備をしていた。死後天国に行くことだけを希望としている2人に異端者は「この星は天国よりも美しい。根拠は、山の中腹に隠された石箱の中だ」と言う。話に感化されたグラスは異端者を解放し、石箱まで案内するように言い逃亡を試みるが、前を走っていた異端審問官のノヴァクに見つかり攻撃を受ける。異端者はオクジーを庇い、その際にネックレスを渡して死ぬ。それはフベルトからラファウに渡されたネックレスだった。そして、なんとか逃げきったオクジーとグラスは山の中で石箱を見つける。中の書類について全てを理解はできなかったが、現状を状況を変えられる内容だと思ったグラスは、以前惑星について話したことがある修道士のバデーニを訪ねることにする。しかし村へ向かっている途中、橋が崩れてグラスだけが死んでしまう。

オクジーはグラスの意思を継ぎ、バデーニのもとを訪れる。石箱の書類をみたバデーニは研究の開始を決意し、オクジーには手伝いをさせる。そして、より詳しい記録を持つ人の協力を求めて街へ出てピャスト伯の元で働くヨレンタと出会う。ピャスト伯は宇宙論の大家であり今の天動説を超える完璧な天動説の証明に人生を捧げている。そして完璧な天動説の証明以上に真理を重んじている人物でもあった。はじめは拒否していたピャスト伯だったが、地動説が真理と察して涙ながらに資料室の鍵をバデーニに渡す。
数ヶ月後、バデーニはピャスト伯から受け継いだ資料を基に地動説を完成させた。オクジーは地動説と出会ってからのことを書き起こした。そして3人がそれぞれこれから進む道について話していた時、ヨレンタの父であるノヴァクが現れる。オクジーは以前ノヴァクと対峙した時に覆面をしていたのでバレずにすんだが、2人を怪しんだノヴァクは研究室を調べる。そこでオクジーが異端者から受け取ったネックレスを見られてしまう。危険を察知したバデーニとオクジーはすぐに村を出る準備にとりかかるが、あと一歩のところで捕まってしまい拷問を受ける。そして、容赦ない拷問の末、隠していた石箱のありかを教え、2人は処刑されることが決まる。すべて終わったかのように思えたが、バデーニは予防線としてオクジーの文章を貧困層の人々の体に刻み、同僚のクラボフスキに文章の復元を託していた。文章が復元されるかは運次第であったが、2人は期待を胸に処刑される。

後日、ヨレンタが拷問にかけられる。それはノヴァクのことを良く思っていない助任司祭のアントニがノヴァクを排除し自分の力を大きくするためだった。しかしC教のやり方に疑問を持っていた新人審問官がアントニの思惑を知り、ヨレンタを逃がす。それを知ったアントニは新人審問官を火あぶりにして、ノヴァクには娘が異端だったので処刑されたと伝える。
一方、バデーニの同僚クラボフスキのもとではバデーニが張っていた予防線が作動し始める。

第3章

25年後。異端解放戦線に所属するシュミット、フライ、レヴァンドロフスキはある本の回収のためC教を攻撃していた。回収後、基地である納屋へ戻る途中にアントニ司教率いるC教の集団と遭遇したため、本を空き家に隠して待避する。そこでは人身売買が行われようとしていた。何も知らず叔父に連れられてきた移動民族の少女ドゥラカはシュミットたちが隠した本を見つける。これを売れば金になると思った矢先、アントニ司教と対面する。そこでドゥラカは叔父よってC教に売られそうになっていることを知るが、頭が良く口が達者だったのでアントニ司教にその知性を気に入られる。教会で話をすることになり、ドゥラカが手に持っていた本をC教の人に渡そうとした時、シュミットたちが本を取り返しに来る。アントニ司祭は待避し、ドゥラカはその場に残された。そこで本を渡すよう言われたドゥラカは自分の目的を果たすため本を燃やし、本の内容は自分が記憶していると言う。シュミットたちはしょうがなくドゥラカを組織長のもとへ連れて行く。道中、シュミットたちの目的は本の出版と知る。そして、ドゥラカは異端解放戦線の組織長であるヨレンタと対面する。ヨレンタはドゥラカに、あの本は古い友人が書いた本だったと言って地動説に出会ってからの自分の信念を話す。ヨレンタの言葉はドゥラカに響き、その後の行動に影響を与える。ドゥラカが暗記していた本の内容をヨレンタが書き写し、それを印刷機がある次の目的地まで運ぶことになる。
その頃、ヨレンタが処刑されたと思い酒浸りになっていた元異端審問官のノヴァクは、奪われた本について調査している異端審問官のアッシュに協力を頼まれる。「地動説を打ち殺す」と再び立ち上がったノヴァクは、騎士団を引き連れてヨレンタ達が身を隠す納屋へ襲撃に向かう。ヨレンタは仲間を逃し、自ら囮になる。ヨレンタとノヴァクが対峙した瞬間、ヨレンタは用意していた火薬に火をつけ納屋ごと自爆する。

ヨレンタのおかげで印刷機を用意した仲間の元へ辿り着いたシュミット達であったが、フライの裏切りによってまたもやノヴァク率いる騎士団が襲撃にやってくる。死闘の末ドゥラカだけが逃げ切り、目的のアントニ司教のもとへ辿り着く。アントニ司祭はドゥラカの説得によって「地動説が異端かどうかは時の権力者の裁量によって決まる」としたが、そこへ追ってきたノヴァクが現れた。ドゥラカ側に立つアントニ司教のまさかの態度にノヴァクはたじろぎ、ノヴァクは汚れ仕事をさせられていただけだと言われる。その話を捻じ曲げようとしたノヴァクはアントニ司教を殺し、ドゥラカも殺そうと建物に火をつけた。ドゥラカはノヴァクに刺されるがそのナイフをノヴァクに差し返して建物から逃げる。炎に囲まれた教会の中でノヴァクは自分が悪役だったことを悟り命つきる。

1470年ポーランド王国の都市部ではアルベルトという少年がパン屋の手伝いをしていた。そして、そこの親方に大学へ行かせてもらえることになる。迷った挙句、大学進学を決意した時、街の人の会話で「地球の運動について」の本の話を聞く。のちにアルベルトは教師となりコペルニクスに教鞭を執ることになるのだった。

『チ。ー地球の運動についてー』の登場人物・キャラクター

第1章

ラファウ

12歳にして大学に合格した神童。孤児として産まれたが、義父ポトツキのもとで養子として育った。しかしフベルトと出会い、禁忌とされている地動説の研究に没頭するようになる。フベルトが自分を庇って処刑された後も、残された資料とフベルトの思いを引き継ぐ。これまでのラファウは愛という感情は無駄なものと考えていた。しかし、地動説を通して受け取った感動を絶やさぬよう行動にでた時、その狂気とも言える行動こそが愛だと理解する。

フベルト

地動説を研究したことにより捕まっていたが、「やり残したこと」があるため反省したふりをして釈放された。偶然出会ったラファウに地動説について教え、「天文をやれ」と助言する。山に隠した石箱の中に研究資料を納め、地動説はおそらく証明できないが自分でこの資料を燃やす勇気がないので燃やしてほしいといった内容の手紙を残した。異端と疑われたラファウを庇って火あぶりの刑を宣言される。しかし、自分の研究や思いをラファウに託すことができ、晴れやかな表情で「やり残したことは済んだ」という言葉を残した。

ポトツキ

ラファウの義父。地動説の研究をして捕まった過去があるが息子のラファウには隠しており、C教に忠実な修道士として振る舞っている。地動説の研究で捕まっていたフベルトは教え子で、釈放された時に引き取る。天文を学びたがっているラファウに対して神学を学ぶように強く言う一方で、家には天文の資料がたくさんあり、研究からは離れていながらも強い興味を隠していることが垣間見える。

ノヴァク

元傭兵の異端審問官。いつも気だるい様子を見せているが、異端の疑いがある人に対しては涼しい顔で容赦ない拷問をする。聖職者は出家して独身であるのが通常だが、ノヴァクは出家せず娘もおり、司教に腕を買われて特例で任務を行っている。司教の指示に従って宇宙論の研究を厳しく取り締まっており、長い間地動説は悪と信じて異端者を追う。

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