海獣の子供(漫画・劇場アニメ)のネタバレ解説・考察まとめ

『海獣の子供』とは、海を巡る神話を題材にしたファンタジー物語であり、五十嵐大介による初の長編漫画作品、また漫画原作の同名アニメーション映画である。漫画は、小学館が発行する漫画雑誌『月刊IKKI』にて2006年2月号から2011年11月号まで連載された。映画は渡辺歩が監督し、主人公・安海琉花の声優を芦田愛菜が務め、2019年に公開された。主人公の中学生・琉花が、ジュゴンに育てられた子供・海と空と関わるうちに、自然界の海を巡る現実とは思えないような体験に巻き込まれていくひと夏の物語となっている。

『海獣の子供』の概要

『海獣の子供』とは、小学館が発行する漫画雑誌『月刊IKKI』にて2006年2月号から2011年11月号まで連載された、五十嵐大介による漫画作品である。コミックでは全5巻に及ぶ長編で、五十嵐にとっては初の長編作品となった。2009年度には、第38回日本漫画家協会賞において大賞の次席にあたる優秀賞を受賞する。また、同じく2009年度に第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門にて、大賞の次席にあたる優秀賞を受賞している。
2019年6月には漫画『海獣の子供』を基にした、劇場アニメーション映画が公開される。監督は、これまで多くのアニメ映画に関わって来た渡辺歩で、主人公・安海琉花の声優は芦田愛菜が務めた。164スクリーンにて上映され、興行収入は4億5000万円を記録した。公開されたばかりの2019年6月8、9日には映画週末興行成績、全国映画動員ランキングで5位を記録し、翌週2019年6月15日、16日には同ランキングにて8位となった。正式な全体の観客動員数は公表されていない。2019年に第74回毎日映画コンクールにてアニメーション映画賞を受賞した。また、同じく2019年に第23回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門において、最高賞となる大賞を受賞している。
中学生の安海琉花は、夏休み早々、楽しみにしていた部活の出入り禁止を先生に言い渡され、家にも学校にも居場所のなさを感じていた。夏休みの暇を持て余していた琉花に、父親である正明は、働いている水族館で保護している、ジュゴンに育てられたという少年・海の面倒を見るように頼む。海には一緒にジュゴンに育てられた少年・空という兄弟がいて、琉花は海と空の相手をするため、夏休みの間、水族館に通うことになった。海と空と関わるうちに、自然界の海を巡る現実とは思えないような体験に、琉花も巻き込まれていくひと夏の物語となっている。

『海獣の子供』のあらすじ・ストーリー

琉花と海の出会い

江ノ倉水族館で再会した海(左)と琉花(右)

主人公の安海琉花は、ハンドボール部に所属する中学生だ。夏休み直前、部活の練習中にわざと琉花を転ばせた同級生がいた。腹が立った琉花は、仕返しにわざと同級生にぶつかって怪我をさせてしまい、救急車が来る騒動になってしまう。琉花も足を怪我していたが、先生は琉花を怪我させた同級生のことは注意せずに、琉花にだけ夏休みの部活禁止を言い渡す。

部活だけが夏休みの楽しみだった琉花は、家に帰る気持ちにもなれず、ふと思いついて電車で2,3時間ほどかかる東京に行くことにする。
海が見えそうな汐留に行ってみるが、辿り着いた頃には夜になってしまう。琉花が「綺麗だけど、オモチャみたい」と思いながら、公園の高台で海を見てぼーっとしていると、1人の小さな色黒の男の子・海が琉花の側にやって来る。海は琉花のほうを見ながら「東京の海ってなんか、壊れたオモチャみたい」と琉花が思ったことと同じことを口にし、琉花は自分の気持ちが読まれたようで驚く。海は、そのまま高台から夜の海中へ飛び込んでしまう。高い場所から海中へ飛び込んだことにびっくりした琉花は、海を心配し、助けるために階段を見つけて海の近くへと降りる。海は、海中から琉花に手を振っていた。海を助けるため、琉花は手を伸ばすが、怪我をした足が痛くて引っ張り上げることが出来ない。すると海は、琉花が足を怪我していることを言い当て、琉花はまた自分の気持ちを読まれたことに驚く。海中から出てきた海に、琉花は持っていたタオルを渡すと、タオルの匂いを嗅ぎながら海は「懐かしい匂いがする」と言う。初めて会うはずなのに、「懐かしい」と言われたり、琉花の気持ちを言い当てたりする海に、琉花は不思議な気持ちになり「なんかヘンな子」と思う。海は、琉花のほうを振り向きながら「僕は海。君は?」と自己紹介をする。自己紹介をする海の腕の一部が光っているのを琉花は見つけ、「水族館の幽霊と一緒だ」と思う。琉花は小さい頃、父親である正明の勤務する水族館で、魚が光に包まれて消えてしまうのを目撃した。誰も信じてくれなかったが、その光景を忘れることが出来ず、琉花は「水族館の幽霊」と呼んでいたのだ。

何事もなかったように夜遅くに帰宅した琉花は、翌日、母親である加奈子に「部活に行く」と嘘をつき家を出た。琉花は、毎日ビールばかり飲んで過ごしており、何かと口うるさい加奈子に心を閉ざしていた。琉花はその足で病院に向かい、足の怪我の治療をしてもらう。病院の帰り道に部活の様子をこっそり見に行った琉花だったが、何事もなかったように過ごす他の部員たちを見て居場所のなさを感じてしまう。
部活を見た後、琉花は正明の勤務する江ノ倉水族館へ自転車で向かった。琉花は正明に「もうすぐ閉館だから待っててくれ」と言われ、水族館の大水槽を見て時間をつぶすことにした。大水槽の中を見ると、なんと昨日東京で会った海が泳いでいた。びっくりする琉花に、後ろからジム・キューザックが「君たちは知り合いかい?」と話し掛ける。ジムは海の保護者であり、海が海中で育ったことを琉花に話す。正明もやって来て、「海は、たぶん生まれてすぐから2~3歳くらいまで海の中で生活していた。だから極端に肌が乾燥に弱くてね、水の中のほうが調子がいい。色々と事情があって、水族館で預かっているんだ」と琉花に説明する。「海の中でってどういうこと?」と琉花が言うと、ジムが「彼は10年前にフィリピンの沖合で、ジュゴンの群れを一緒にいるところ、もう1人の少年と一緒に発見された。彼らはおそらく、ジュゴンに育てられたんだ」と話す。10年前に東南アジアのとある離島で、人間なのに海獣・ジュゴンに育てられた怪物として捕らえられていた海と空を助け出したのが始まりだった。ジムの伝統航海術の先生であるデデという女性が「海獣の子供が見つかった」いう噂を聞きつけ、海の子供について研究していたジムに空と海を保護させたのだ。呪術師でもあるデデは「空と海は何か大きな渦の中心になる存在だ」と言い、ジムに空と海を引き合わせた。
海の子供とは海から来た子供とも呼ばれており、海と空のように海中で育った子供のことを指す。海の子供については世界中で様々な目撃情報があった。海と空のように、捕えられて不気味な怪物として扱われる事例もあれば、海洋研究者や漁をする人間などがアシカやジュゴンと一緒にいる赤ちゃんを単純に目撃するという事例もあった。古くから漁で生計を立てるなど、海に深いかかわりのある島などでは、触れてはいけない神秘的な存在として海の子供が逸話や神話になっていることもあった。

水族館の帰り道、琉花は、正明から「部活の同級生を怪我させたことについて、学校から連絡があった」と話をされた。琉花の言い分には耳を貸さず、トラブルを起こしたことだけを注意する正明の言う事を、琉花は素直に聞くことが出来ない。それどころか琉花と加奈子から逃げて、別居している正明に対して、「自分は逃げたくせに」という気持ちまでわいてきてしまった。

隕石の落下

隕石の落下を一緒に見る琉花(左)と海(右)

父親にも母親にも心を開けず、学校にも居場所がない琉花は、孤独を感じていた。
翌日も、家にも居場所がなく部活にも行けない琉花は、とりあえず学校に行って誰もいない教室で考え事をしていた。すると、海が突然やって来て「琉花!見つけた!」と言って教室に入ってくる。海は「人魂が来るんだ。琉花と一緒に見ようと思って」と言う。琉花は人魂とは何かを尋ねると、海は「光って空を飛ぶヤツ」と答える。説明を聞いても良く分からなかったが、居場所のない琉花は、ひとまず海に付いて行くことにする。
歩きながら海は「琉花は僕たちと同じニオイがする。同じモノを見たり、同じコトを考えたりする人のニオイ」と言う。琉花は「同じモノって?」と尋ねると、海は「それが知りたいんだ、僕も」と答える。琉花と海は、近くの海岸まで辿り着いた。海は「防波堤の先まで歩いて行こう」と言う。防波堤に座りながら、人魂が来るのを待っていると、辺りは暗くなって来た。
琉花はだんだんと「もしかしたら、からかわれているのかも」と考え始め帰ろうとした時、海が「来たよ!」と大きな声で叫ぶ。すると、とても大きな流れ星のようなものが空を飛んでいくのが見えた。思わず見とれて心を奪われた琉花は、興奮して海に「なんで来るのが分かったのか」と尋ねる。海は「人魂が見つけてほしいって言ってたから。あんなに強く光るなんて、きっとみんなに見てほしかったんだ。虫だって動物だって見つけてほしいから光るんでしょ」と答える。その言葉で、琉花は「私は、海くんに学校で見つけてもらって嬉しかったんだ。私は誰かに見つけてほしかったんだ」と気付く。
翌日の新聞では、昨日の人魂が「隕石落下か」という見出しで大きく取り上げられた。どうやら、海が人魂と呼んでいた光は、小笠原諸島のほうへ落下した隕石のようだった。

翌日、江ノ倉水族館では、魚や動物たちの夜鳴きがひどかったことが話題になっていた。昨日の隕石落下の影響があったようだった。
琉花は、また水族館を訪れ、海を探していた。水槽の中を探したが、見当たらなかったため、琉花は職員の部屋へ向かう。すると、ちょうどジムが流していた、ザトウクジラが歌うソングの録音が琉花の耳に入って来た。その瞬間、琉花は衝撃を受け、脳裏には昨日海と一緒に見た隕石が浮かんでくる。琉花は自分でも予期していなかった自分の反応に驚き、固まってしまう。
その時、正明が琉花に気付き声をかけるが、琉花は正明との会話はそこそこに、「海を探しに行く」と言うジムにそそくさと付いて行ってしまう。

ジムは琉花と一緒に海を探して水族館の中を回りながら、琉花に職員の部屋で聞いていたザトウクジラのソングについて話をする。海の中では空気中よりずっと早く音を伝えるので、ザトウクジラは、歌をうたって何キロも離れた仲間と会話をしている。クジラの歌はとても複雑な情報の波で、まだ人間にはすべてを解明出来ているわけではなく、もしかすると見た風景や感情をそのままの形で共有し合っているということもあり得るそうだ。
ロマンのあるクジラの歌の話を聞きながら、琉花はジムの体のあちこちに彫られている刺青が気になっていた。すると、ジムは「この刺青は、私が滞在したいろいろな土地の伝統的なタトゥーなんだ」と説明する。そして、ジムは「とある島で聞いた、星のうたの本当の意味が知りたくて、世界中を旅して回っているんだ」と続ける。琉花とジムが館内を探しても海は見当たらなかった。ジムは「海と一緒に発見されたもう一人の少年・空の見舞いに行く」と言う。空は海よりも肌が弱く、病院に入院していた。

ジムを見送った後、正明に呼ばれた琉花は「部活の代わりに海たちの相手をしてやってくれ」と正明に頼まれる。海に関心のあった琉花は、素直に嬉しい感情を出すことが出来ず、ふてくされた顔で海たちの面倒を見ることを引き受けた。
水族館の帰り道、考え事をしながら海辺を歩いていると、見たことのない男の子が座っているのを見つける。直感で「空くんではないか」と思った琉花だったが、声を掛けるより先に男の子に話し掛けられる。琉花の思った通り、男の子は空だった。海がどこへ行ったのか心配している琉花に、空は「君が海を心配してくれるのは有難いけど、君なんかより海のほうがずっと強いし、君にしてもらう事は何もないよ」と言い放つ。琉花は人懐っこい海とは反対に、生意気な空にとまどいつつ、「こんなところで何をしているのか」と空に尋ねる。すると空は「今まで聞いたことのないソングが聴こえるんだ」と答える。その言葉に、さきほどジムが聞かせてくれたザトウクジラのソングを思い出した琉花は、「ソングってクジラの?さっき録音を聴いた時、あの隕石が頭に浮かんできた。それと…何かのお祝い?赤ちゃんみたいな…」とソングから脳裏に思い浮かんだものを、思い切って空に話してみる。しかし、空は「だから?」とそっけない返事をするだけだった。琉花は帰ってしまったが、空は内心、海と同じように「琉花は自分たちと同じニオイがする」と思うのだった。
琉花が帰ってしまった後、海が空のもとへ戻ってきた。沖合に出て、海中の様子を見てきた海は、魚たちが集まって来たことを空に伝える。海と空は、何かを調べている様子だった。

海の幽霊

溺れる琉花(上)を助ける空(左下)と海(右下)

翌日の江ノ倉水族館では、世界中で水族館の魚が突然消える現象が起きていることが話題になっていた。何の前触れもなく、突然魚が消えてしまう原因は、全く分かっていなかった。

琉花は海たちの相手をするために、また江ノ倉水族館に来ていた。今日からは昨日病院を退院した空も一緒に水族館で生活をする。琉花は、海と空と一緒に水族館の職員に館内の案内をしてもらっていた。すると、案内をしていた職員の元に「加奈子さんが来た」という一本の電話が入る。加奈子に見つかってあれこれと言われたくない琉花は、電話の内容を聞いて急いで逃げ出してしまう。海と空も琉花と一緒に付いて来る。海は「隠れるのに良い場所を知っている」と言う。加奈子は、実は江ノ倉水族館にもともと勤めていた。館内のことはよく知っているため、分かりやすいところに隠れてもすぐに見つかってしまう。海が琉花と空を案内したのは、水族館の裏に泊めてある水族館所有の小さな船だった。

空が見様見真似で運転してみると、何とか船を動かすことが出来た。海と空は「このままクジラを見に行こう」と意気揚々と沖のほうへ向かうが、途中で船が壊れて動かなくなってしまう。空は具合が悪くなり、体調を戻すために海中へ飛び込む。海中で育った空は、水で冷やしていないと皮膚がやけどのようになってしまい、皮膚呼吸が出来なくなってしまうのだ。海は、海中に何か生き物が来ていることに気付き、「琉花もおいでよ」と言いながら空の後を追って、海中へ飛び込む。「深い海に潜るのが怖い」という気持ちもあったが、好奇心のほうが勝った琉花は、船につないだ紐を持ちながら海中へ飛び込んでみた。
すると、ジンベエザメの群れが勢いよく泳いでくるところだった。ジンベエザメの身体には、白斑があり、その模様が光っているのが見えた。ジンベエザメの光景に思わず見とれる琉花だったが、ジンベエザメの泳ぐ勢いに紐を手から放してしまい、流されてしまう。すると、もっと奥へ潜っていた海と空が急いで泳いできて、琉花を助けてくれる。

琉花と海、空は船の上に上がり、上からジンベエザメの群れを見ていると、ジンベエザメの群れの後ろを多数の魚たちが追いかけているのが見えた。魚たちの様子を見ながら琉花が「ジンベエザメの模様が光って、まるで水族館の幽霊みたい…」とつぶやく。海が「水族館の幽霊?」と聞くと、琉花は「ずっと前に光になって魚が消えるところを見たの」と話す。海はとても驚いた顔をしながら「そうか。琉花も見たんだね。僕たちも海で、魚の模様が光って、消えてなくなるのを見たんだよ。それで、僕たちはジムと一緒に世界中探して調べているんだ。そのニオイをたどって。それに、僕たちもそう呼んでたよ。海の幽霊」と答える。一度は船の近くからいなくなってしまったジンベエザメの群れだったが、船の近くに戻ってきたことを確認すると、海はまた海中へ飛び込む。飛び込むのを躊躇している琉花に、空は「そうか。溺れて怖くなったよな。船室にでも籠ってれば」と言いながら、続けて海中へ飛び込んでしまう。残された琉花は、空が口にした「船室」にピンと来て、船室にあったライフジャケットを身に着けて海に飛び込む。

すると、今度は模様がさらに光っているジンベエザメの群れが目に飛び込んできた。近づいてみると、様々な種類の魚、亀、マンタなどがジンベエザメの元に集まり、ジンベエザメの光を食べている様子が見えた。ジンベエザメのいるさらに奥のほうで空が泳いでいるのが見え、空の足がジンベエザメと同じように光っており、その光を食べようと魚たちが空を追いかけているのが分かった。空が魚たちに追われていることに気付いた海は、すぐに空を助けにさらに奥へ潜る。海と空はそのまま、どんどん沖の方へ泳いで行ってしまった。琉花は、突然のことに動けずにその場にいることしかできず、後々、救助船に助けられたのだった。海と空は、その日の夜に半島を回り込んだ反対側の砂浜に倒れているのが見つかった。

ジムが空と海を守る理由

ジムの枕元に現れた子供が変身したクジラ

海と空は、体力の消耗が激しく、また病院にしばらく入院することになった。琉花も丸一日熱を出して寝込んでしまった。熱にうなされながら、夢の中で琉花はジンベエザメの光を食べてしまう夢をみた。

熱が下がった琉花は、加奈子にずっと口うるさく勝手に船で沖へ出たことを怒られていた。口答えしながら、「水族館に自転車を取りに行くだけだ」と言って家を飛び出す。一方、病院に入院した空は、ジムに付き添われながら「足が発光した」と言う琉花と海の証言から検査を受けていた。しかし科学的な検査では、体の差異は海の生活への適応によるもので空はあくまでも「人間」であり、皮膚組織にも発光現象の因子は発見できなかった。検査をした医師はジムに「神話や伝説の中に出てくる、怪物や超人、ましてや神々なんてものとは、関わりがあるとは思えません」と告げる。
空が検査している間、病室にいた海は看護師の隙を見て病院を抜け出していた。途中、琉花の気配を感じて海辺に立ち寄った海は、海辺に出来た人だかりの中で琉花を見つける。海辺に、深海に住むメガマウスというサメの一種が打ち上がっており、珍しい魚に人が集まって来ていたのだ。琉花も海を見つけると、ちょうどその時、メガマウスの調査にやって来た正明達がやって来た。正明の話では、このメガマウスだけでなく、ここ2、3日珍しい深海魚が漁船の網にかかっているらしく、巷では「大地震の前触れか」と気味悪がられているらしい。するとその話を聞いた海は「違うよ、見に来たんだ。そうじゃなかったら食べに来た。あの光るジンベエザメに群がってたのと同じだよ。また新しく誰かが光になっちゃうんだ」と言う。海は、「先日琉花と見た光るジンベエザメが魚たちに食べられてしまった光景がまた起こる」と言っていた。海は「次に発光して食べられるのは空なのではないか」と心配していることが、琉花には分かった。正明の車で水族館に連れて来られた琉花と海だったが、その日の琉花は自転車を持ってそのまま帰宅した。

また翌日、琉花が朝早くに海で一人シュノーケルの練習をしていると、ジムがやって来た。琉花がシュノーケルを練習していた浜辺は、ほとんど人が来ることのない穴場で、ジムも毎朝仕事の前に泳ぎに来ていたのだ。琉花はジムからシュノーケルを教えてもらうことになった。海の中を見ていると、いつもより魚が多いことが分かった。ちょうど琉花が海から上がろうとしたところ、海辺で何かの背びれが見えた。どうやらジュゴンのようだった。ジムと琉花は一緒にその足で江ノ倉水族館に行った。一方、江ノ倉水族館の周りの海辺にはたくさんの深海魚・リュウグウノツカイが浜辺に打ち上げられているのが見つかっていた。リュウグウノツカイにジュゴンまで、普段は見かけない魚たちが続々見つかっていることが水族館では話題になっていた。職員の1人が「深海から、北から南から、水界あげてこの辺りに集まってきてるみたいだな」とつぶやく。話をしながら、海は浮かない顔をする。浮かない顔の海を見て、琉花は「みんな海くんと空くんを見に来たのかな。それとも食べに来た?」と1人考える。ちょうどその時、水族館に「空が病院からいなくなった」という連絡が入る。

空が病院から居なくなってから、3日が経っていた。海は毎日、浜辺に行っては感覚を研ぎ澄ませて空の行方を探していた。そんな海と空を、琉花は人一倍心配していた。心配して元気のない琉花に、ジムは「なぜ海の子供である空と海を研究しているのか」について話をする。

40年前、ジムは、とある島に住んでいた。ジムが住んでいたその島には、「星の 星々の 海は産み親 人は乳房 天は遊び場」という、死者が道に迷わないための死者送りの歌「星のうた」が伝わっていた。捕鯨をして食料を確保していた島民は、海に出る時に船出の歌として星のうたを歌っていた。捕鯨を会得したかったジムは、5年も島に住み続けて島民の信頼を得、漁にも一緒に連れて行ってもらい、いよいよクジラに銛を刺す役割を任されるまでになった。いざジムがクジラに銛を刺す時、ジムはクジラと目が合ったような気がした。無事に捕鯨は終わり、クジラを島の浜辺に持って帰ってくると、ジムや島民は沖合で浜辺を見つめる1人の子供を発見する。子供を見た島民は口々に星のうたを歌い始める。ジムは子供の正体と、子供に星のうたを歌う理由を島民に尋ねる。島民は「彼はクジラの王が死んだときに、王の最期を見届けに来ると言われている。彼はこの島を作った者だとも伝えられている。海で生まれたと言われる彼に、この世ならぬ場所に連れて行かれないために歌うのだ」と答えた。島民みんなでクジラを解体し終わると、子供はどこかへ消えてしまっていた。
クジラを解体した夜、ジムは自分の家で1人で寝ていると、海にいた子供が枕元にいることに気付く。ジムは子供に「君はこの世のものではないのか」と尋ねると、子供は「私はお前に興味を持ったから銛を受け取った。目が合って、心が見えたぞ」と答えながらクジラに姿を変えた。翌朝、目覚めたジムは「昨夜の子供との会話や見た光景は夢だったか」と思ったが、子供が自分の家に居付いており、現実だったことを悟る。浜辺を歩いている時には、足跡もつくため、「肉体があるということは人間なのでは」とジムは思う。しかし、ジムの家に居付いた子供を見た島民は「俺が小さい頃に見た時から姿は変わっていない。おそらく彼はこの世とあの世の間にいるのだ。この世ならざるものとは、仲良くなってはいけない」とジムに忠告をする。島民の忠告を無視し、ジムは子供に色々なことを教え、一緒に暮らしていくうちに仲良くなっていく。
ある日、ジムは子供と一緒に水中ライトを持って夜の漁に出掛ける。ジムは、子供に水中ライトを使って潜ってみるように勧めた。子供が海の中で水平にライトを持つと、剣のような鋭い口をした魚・ダツが光を目掛けて突進し、子供はダツに胸を突かれてしまう。ダツに突かれると大人でも命はない。急いで浜辺に子供を連れて帰ったジムだったが、時すでに遅く、子供の身体は溶けて浜辺に消えてしまった。子供が溶けて消えた日から、島は不漁が続いた。島民は、不漁の原因は子供が死んでしまったことだと信じており、ジムは居心地が悪くなって、島を出ることになった。それ以来、ジムは「なぜ子供を守れなかったのか」と後悔し、子供の正体を知りたいと考えるようになった。そして、星のうたと似たような歌や神話、言い伝えがある島々をジムは旅して回ったのだった。
ジムの話を聞き終わった琉花は「海くんと空くんも、ジムが島で会った子供と仲間なのか」と尋ねるが、ジムは「分からない。分かっているのは海も空も海からやって来たということだけだ」と答えた。

海を守りたいという琉花の気持ち

台風の中自転車を漕ぐ琉花

翌日琉花は、加奈子に「行っても役に立たない」と言われつつ、家に迎えに来た正明に連れられて、また水族館へ行く。館内を探しても海が見つからなかったため、浜辺に行くと海は海水に浸かって倒れていた。海が息をしていないことに驚いた琉花は急いで海を陸へ上げ、海の心臓が動いているか確認する。すると、ずっと深いところに落ちていくような小さな心臓の音が聞こえた。海が生きていることに安心した矢先、すぐに海は目を開け「空くんの気配がしないんだ」と言う。「一緒に探して」と言う海に腕を引っ張られながら一緒に海の沖合へと進む琉花は、海の手を握り「小さなこの海くんの命を守らなきゃ」と思うのだった。海は赤ちゃんのうなり声のような音を出しながら、空を必死に探していた。その様子を見て、琉花は「人間じゃないみたいだ」と思う。
台風が近づいているため、海はだんだん荒れ模様になってきて、雨もどしゃ降りとなってきた。琉花と海に、通りかかったジムの研究の相棒であるジャン・ルイが2人に陸にあがるように声をかける。最近、深海魚が海辺に現れたり、水族館の魚が消えたりする現象が起きていることから、ちょうど海外から日本にやって来たところだった。ちょうどその時、雷が鳴り響いた。陸に上がった海と琉花だったが、海は陸に上がってもなお、荒れ狂う海に向かって声を上げ続ける。空が全く応答しないことにショックを受けた海は「こんなことは今まで一度もなかった。空くんはこの世界のどこにもいないんだ」と言う。琉花は海の頭をたたき「そんなこと分からないでしょ。とにかく探しに行ってみよう」と海を元気づける。

その後、海と琉花は江ノ倉水族館に戻る。琉花は正明に「今から空くんを探しに行く」と訴えるが、水族館も閉鎖するほど激しい台風が近づいていた。正明から「これ以上トラブルを増やさないでくれ」と言われた琉花は家に帰ることになってしまう。水族館職員に車で家まで送ってもらった琉花だったが、帰宅してからも加奈子に「あんたには何も出来ないんだから」と家で大人しくするように言われる。ふてくされて自室にこもる琉花は、やはり海と空のことが気になって居ても立っても居られず、大雨と暴風の中家を飛び出して行ってしまう。
琉花は海辺を目指して進むが、暴風に吹き飛ばされてしまう。吹き飛ばされた瞬間近辺の海では見かけないタツノオトシゴのような生き物が風と一緒に飛んできたことに驚いた琉花は、降りしきる雨がしょっぱく、海水であることに気付く。ちょうどその時、崖の下の海沿いに立つ海を見つけた琉花は「危ないよ」と言いながら、急な崖を降りて海の元へ行こうとする。崖が急すぎて琉花は転んでしまうが、いつの間にか側に来ていた海に腕をつかまれ、助けられる。安全なところへ移動した琉花と海は、腰掛けながら話をする。海は「こっちに空くんが近づいている気がしたんだ。琉花もそう思ったんなら間違いないね。来てくれてありがとう」と琉花に言うと、目の前にまた見かけない魚がたくさん降って来た。魚に驚く琉花に、海は「僕が生まれた海の魚だよ。台風が連れてきた」と言う。海は「この風は僕が生まれた海の空気、生まれた海の潮の味だ。この台風は僕と空くんと同じ南の海で生まれた兄弟なんだ。たくさんの潮を超えて、空くんを連れ戻してくれたのかもしれない」と話すと、ぴょんぴょんと嬉しそうに雨の中を飛び跳ねた。喜ぶ海を見ながら、琉花は一層「海を守ることが、自分のやらなくてはいけないことだ」という思いを強くするのだった。

アングラードの登場と空の失踪

隕石を口移した時の空(右)と琉花(左)

ちょうど同じ時、空が入院した病院では、突然ベッドの上にびしょ濡れの空が魚と共に戻ってきていた。ドスンという何かが落ちる音を聞いて驚いた看護師が、空の病室をのぞくと、そこには海水でびしょびしょの空がいた。慌てた看護師は、ナースコールで助けを呼ぶが、なかなか人が来ない。そんな時、「ジムに頼まれてきた」と言うプロフェッサー・アングラードが病室にやって来て、看護師に「ここは僕に任せて、人手を呼んできて」と言う。看護師が病室を出て行くと、アングラードは空を連れて病院を抜け出してしまう。

プロフェッサー・アングラードは、ジムの元相棒で若き天才学者だ。今はジムとは違うスポンサーである、ある財団に資金援助をしてもらいながら、ジムと同じく海の子供について調べている。アングラードは空に「病院を抜け出してどこに行っていたのか」を尋ねる。素直に答えない空に、アングラードは「小笠原。例の隕石だろ」と言う。そして、インドネシアの影絵劇の中には「宇宙支配神が大海に精液をこぼすと巨大な羅刹になった」という民間伝承について、「宇宙支配神の精液が隕石のことではないかと思った」とアングラードは続けた。それを聞いた空は観念したように、体内に入れて保管していた隕石を口から出して見せる。空は「俺はクジラに乗って行ったんだよ。小笠原まで」と言い「そしたらこれを欲しがるやつが多くてね」と答える。空が言う「隕石を欲しがるやつら」とは、空や海と同じような海の子供のことだった。隕石を手に入れられなかった子供たちは、ある浜辺で10代前半の子供と見られる遺体として30体ほど見つかった。彼らはもともと体の一部がなかったかのように変形しているものも多く、まるで受精が適わなかった卵巣の黄体が退縮し白体になったように、卵巣の白体に似た形をしていたそうだ。彼らは隕石の落下水域から流れてきた可能性が高いとみられていた。

同じ日、江ノ倉水族館では、白斑のあるサメシノノメサカタザメの模様が光り、魚たちが光を食べて、サメが消えてしまうという現象が起きていた。その現象を正明を含む3人ほどの職員たちの目の前で起こった。原因の調査が進められることになった。

その翌日、アングラードはジムに「空を預かっている」と電話で連絡をした。「空が自ら望んでアングラードの元に行った」と聞いたジムは、もう時間がそんなに残されていないことを悟って空の研究を急いで進めることにした。なんとか空の発光現象を抑えて空が死なない方法を模索しようとしたためだった。空は、ジムたちと初めて会った頃から、自分の身体の異変に少しずつ気付いていた。いずれ、空と海の身体にはどんなものかは分からないが大きな変化が起こり、それを乗り越えられなければ海と空は死ぬだろうことが分かっていた。「このままでは自分はそれを乗り越えられない」と思った空は、ジムに自分たちが生き残る可能性を民間伝承から神話、現代医学まであらゆる可能性を探るように頼んでいた。ジムは昔海の子供を死なせてしまった経験から、とても慎重に実験を進めていたが、空はそれを「生ぬるい」と感じている節があった。いよいよ体が変化し始めて時間があまりないと思った空は、アングラードを通じて、これまで関わってこなかった空たちを実験台程度にしか思わない人間にもコンタクトを取ろうとしていた。それだけ切羽詰まった状況だということが、ジムには分かったのだ。

海は空がいなくなったショックから声も出なくなってしまい、水族館で大人しく過ごしていた。海を心配した琉花は、「空くんを連れ戻しに行こうよ」と海を励ます。海は声が出ない代わりに、琉花の顔に手を近づけた。すると、「空くんのところに行きたい」という海の気持ちが不思議に伝わって来た。琉花は、海を連れて空を探しに出かけることになった。海が感じるままに、空を探しに出かけると、とある浜辺でアングラードと一緒にいる空を発見することが出来た。海は一目散に海中にいる空の元へ泳いで行ってしまった。
アングラードは「なんだ、もう見つかっちゃったのか」と言いながら、琉花に話し掛ける。アングラードは琉花に「君が海を連れてきた。というより海が君を連れてきた。君は、海には気を付けたほうがいい。一応、警告はした」と言う。琉花は意味が分からず、ぽかんとするだけだった。ちょうどその時、海と空が海中から上がって来た。海は琉花に「泳ぎを教える」と海中から手招きをする。琉花は海の元へ急いで向かう。代わりに陸に上がって来た空に、アングラードは「琉花は海が引っ張り込んだって?よく君が許したね」と言う。空は「俺たちをめぐる状況に大きな変化がなくなって久しいから」と答える。アングラードは「君はそれでずっと苛立ってたわけだ。だから新しい要素を加えて動かそうとしてた。水族館に移ったのも、ジムのところを離れたのもそのため?」と空に尋ねる。空は「琉花ははじめて海が加えた新しい要素なんだ。そしたら動き出した」と答えた。続けて、アングラードが車の中で話していたインドネシアの民間伝承について「なあ、空。仮に隕石が精子だとすると、『海から来た巨大な羅刹』は何を指すんだ?」と聞くと、空は「もうすぐわかるよ」とだけ答えた。
浜辺はプライベートビーチみたいなもので、ほとんど人の来ない浜辺だった。アングラードが友人から借りたという別荘に、その日みんなで泊まることになった。海と空が夕食になる魚を海に取りに行っている間、アングラードと琉花は火をおこす準備をしていた。アングラードは琉花に「君はもしかしたら、水の中でも陸上と変わらずに物が見えるの?」と尋ねる。すると琉花は「はい」と答える。アングラードは「普通はね、水と空気では光の屈折率が違うから、水の中ではぼんやりとしか見えないものなんだけど」と言いながら、琉花に視力を尋ねた。琉花は「2.0で測ればもっと上だと言われた」と答える。アングラードによれば、「東南アジアには裸眼で水中で漁をしている部族が数グループあり、水中視力が良いのは訓練ではなく、遺伝なのだ」と言う。そして、実はアングラードも水中視力が良いということから、「海と空、琉花、アングラードは、さかのぼればどこかで血がつながっているかもしれない」と話す。そして、「君は水と特別親しくなれる才能を持って生まれた。今まで違和感を感じなかった?まわりの人にうまく溶け込めなかったり…本当は海に生まれるはずだったのに、陸に生まれてしまった」とアングラードは続ける。アングラードの話を聞いた琉花は「私が海くんと空くんと会ったのは偶然ではないのかもしれない」と思うのだった。

その日の夜、別荘で寝ていた琉花は、目が覚めると、隣に寝ている海がうなされていた。アングラードと空が見当たらず、海の容態を知らせるために琉花は浜辺に急いだ。浜辺には空だけがいた。琉花が空に、海がうなされていることを伝える。空は「体が変化しているんだ。俺もそうだった。そっとしておくのがいいんだ」と言う。アングラードは沖に出ていた。浜辺ではウミガメが産卵していた。意外にも「ウミガメの産卵を見るのが初めてだ」と言う空と琉花は、ウミガメの様子を観察していた。すると空が、「この亀、知ってる人だ。ずっと遠い南の海にいた頃、俺たちの群れと一緒に泳いでいた」と言う。琉花は「この人、ここに来るの初めてじゃないかな。本当は別のところに行きたかったけど、そこの浜辺がなくなっちゃって、それでここを探してきた」と言うと、空は驚いた顔で琉花を見る。琉花は、海の生き物同士しか分からない亀の気持ちを言い当てたのだった。「そんな気がしただけだ」と言う琉花に、空は突然、琉花に何かを口移しする。びっくりして口移しされたものを飲み込んでしまった琉花に、「隕石。あんたに預けることにした」と空は言う。そして、空は「アングラードは他所から役割を押し付けられるのが嫌な観察者。ジムは世界で一番俺たちを理解しようと努力してくれる人。お前だけだ、役割が決まっていないのは。もし、海のためにその隕石が必要になったら、腹を割いて渡してやって」と言い、海中へ向かって歩き出した。

琉花がふと足元を見ると、浜辺中にカニや虫などの生き物が群がっていて、空を追いかけていた。空の身体はあちこちが発光していた。空は「どうやら本当に時間切れだ。よく見ておいて、海の時に少しでも、データに…」とつぶやきながら、どんどん沖へ進んでしまう。琉花は慌てて「空くん!」と呼びながら、後を追うが、まったく追いつかない。その時、琉花の視界が突然変わった。不思議なことに、空の視線が琉花に見えるようになった。ものすごいスピードで泳ぐ空の手や体はどんどん光に包まれて、海底からは聞いたことのない「ばーん」という大きな音がした。やがて空はサメや魚たちに食い尽くされてしまった。琉花はショックで大声をあげた。アングラードは、沖で大きな音だけが聴こえ、何かが起こったことを察した。

琉花と海の船出

船上で考えごとをするアングラード

琉花は、空の視線を借りて見た光景にショックを受け、熱を出して入院していた。
退院してからも熱は引かず自宅で安静にしていたが、空がいなくなってから1週間が経った頃、琉花はまた加奈子の目を盗んで家から居なくなっていた。加奈子は正明に電話して確認するが、水族館にもいない。

琉花は、アングラードのもとを訪れていた。アングラードは、「海くんと空くんのことをもっと知りたい。私は行かないといけない」と言う琉花と、声が戻った海を連れて船を出した。船に乗ってからも琉花は微熱が続いており、時々突然意識をなくしたり、帆の上に登ってしまうなど普段と違う行動も見受けられたりした。不思議に思った海が、寝ている琉花に近づくと、魂の半分が深い海の底にいることが分かった。海はアングラードに「連れ戻してくるよ」と言って、海中に潜る。琉花の魂を見つけた海が、一緒に海面に上がってくると同時に、これまで不安定だった琉花の意識がはっきりと戻った。アングラードは琉花に「おかえり。この1週間のこと、思い出せるかな」と尋ねる。琉花は「空くんの体が光って、私は一緒に沖に連れて行かれました。空くんは、昔見たジンベエザメのように光になる前に、光が萎んで真っ暗になって、魚やクジラに食べられました」と話す。「食べられた?確かに?」と言うアングラードに、「私はずっと海の底で見ていました。でも、私はここに、ヨットに乗って来たのか、海の中を来たのか、分からない。夢だったってこと?」と琉花は答える。アングラードが「魂だけが肉体を離れて旅をしたとか、『魂落とし』を体験した人に僕も何人か会ったことがある。半分ずつの君が別々に体験したことが、元のひとりに合わさって、二重の記憶に酔ってしまっているんだと思う」と言うと、海は「一人じゃない。ひとりと半分」と言う。琉花も「耳の側でずっと声が聞こえる。『次は海くんの番だ』って空くんの声が」と話す。

その夜、琉花と海が寝てしまった後で、アングラードは、一人で考えごとをしていた。琉花の「魂落とし」など、現実では考えられないようなことが起きており、これがどういう意味を持つのかについて思いを馳せていた。考えごとをするとき、手回しオルゴールに向かってアングラードは、独り言を言う。
その声と音を聞いて、琉花が起きて来た。アングラードは、琉花に話をする。「空がアングラードのもとに来たのは、ジムが空との約束を破って、海が体を壊した時に、胃の内容物や血液を空にだまって調べてしまったことだ」とアングラードは言う。空は一番海が大事で、ジムにとっては空が一番大事であることから、2人はすれ違ってしまった。そして、海のゲノム解析で、ジムやジムの仲間は大きなことを見逃していた。海の体内にいるバクテリアは、人間の身体にいるバクテリア・ヘリコバクターと同じとジムたちは判断したが、実はヘリコバクターの祖先にあたる「化学合成バクテリア」だった。このバクテリアは、硫化水素の化学反応エネルギーで成長し、太陽光が全く届かない深海の生態系で生物と共生していた。生物たちは化学合成バクテリアの作る有機物を吸収して生きている。つまり、太陽の光合成に100%依存している生態系とは全く異なる生態系である。そして、海底の生態系は、この星で最初に生まれた生態系に似ていると考えられている。「海底の生態系の起源となるバクテリアが海の体内にいたなんて、とってもスリリングだろ」とアングラードは話す。さらに「海の体内のバクテリアは眠った状態で体内に居て、かつて活動したことがあるのか、それとも来るべき時を待っているのか、ますます興味が沸いてくる。こんな話を聞くと、考えずにはいられないだろう?空や海は彼らは本当はどこから来たのか」と続ける。このバクテリアは、クジラの死体が腐敗する過程で硫化水素が発生するため、クジラの死体の周りにも発生する。アングラードの話を聞き、琉花は「きっと海くんや空くんは、きそういう場所から来た。海底に横たわる巨大なクジラの死体や、2億年前の旅の末に海底が地球に飲み込まれていく海溝や、そんな深い遠い場所からあの子たちは来たんだ」と思うのだった。
翌日、アングラードはオキゴンドウの群れを海と琉花に見せるため、船を走らせた。しかし、琉花と海は、アングラードが目を離したすきに、海の中へ飛び込んでしまう。

一方琉花がいなくなったのは「ただの家出だ」と思っていた正明だったが、その日のうちに帰ってこなかったことで、加奈子と共に琉花の行方を心配していた。ジムもいなくなってしまった海の行方を探していると、どうやらアングラードが琉花と海を連れて、船を出したことが分かった。
ジムは、話をするため加奈子を連れて江ノ倉水族館にやって来る。ジムは、正明と加奈子に琉花はアングラードと一緒にいることを伝え、「なぜ琉花まで連れて行ったのか調べた」と話す。そして、ジムは「加奈子は九浦の海女の家系だね」と加奈子に尋ねる。すると、加奈子は「あの人たちとは縁を切ってる」と言い、正明は「加奈子の母親は大海女の家系の生まれで、本当は跡を継ぐ予定だった」と話す。ジムは「琉花にも海に特別に深く関わる事の出来る素質があったのだろう。心当たりがあるのでは?」と加奈子に問いかける。加奈子は下を向いて黙ってしまう。実は、加奈子は高校生まで海女として海に潜っていたが、海に潜るたび、誰かが「加奈子、加奈子」と自分の名前を呼ぶのが聴こえていた。しかし、海女を継がずに東京に行こうと心に決めた後に海に入ると「加奈子」と呼ぶ声はぱったり聞こえなくなった。代わりに一度だけ「るか」と呼ぶ声が聞こえたのだった。そのため、加奈子は琉花が海に関わることを案じており、琉花が帰ってこないのも「琉花が自分の身代わりになったのではないか」と心配していた。
ジムは、アングラードが支援を受けている団体と、ジムが関わっている団体が同じ人物に近づくために競争しているような状況であることを話す。ジムは、人間の中に火や風、川、空などが描かれた不思議な絵を取り出した。それを見た加奈子は「世界地図だ。大海女が持っていた箱に書かれていたのと一緒だ」と言う。それは、世界各地の創世神話に必ず出てくる「原人」の絵だった。原初の水から原人が生まれ、それが世界の元となるという神話が各地に残されていた。原人から世界のすべての生命が生まれるという神話だ。ジムは、海から来た子供である海や空も「もしかすると原人である可能性がある」と考えていたのだった。その話を聞いた正明は、「神話に一定の事実や直感による真理が含まれている可能性があることは認めるが、実際にその原人というのがいるというのとは別の話だろ?」と言う。すると、ジムは「数年前に言った南極での調査で、創世神話の描写にもっと注意を向けるべきだという証明のようなものを見てしまった」と話す。

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