金色のコルダ3 AnotherSky(ゲーム)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『金色のコルダ3 AnotherSky』とは、株式会社コーエーテクモゲームスから発売された女性向け恋愛シミュレーションゲーム『金色のコルダ3』のIFストーリーを描いたタイトル。
季節は夏。ヴァイオリニストの主人公は自分の音楽を見つけるため各学校に転校し、それぞれのメンバーと全国学生音楽コンクール アンサンブル部門での優勝を目指す。
『金色のコルダ3』でライバルとして登場したキャラクターたちと仲間になり、彼らと共に過ごしながら、音楽と恋愛が盛りだくさんの青春恋愛ストーリーを楽しむことができる。

東金とクルージングを楽しむ主人公

主人公は東金に「お前は演奏を怖がっている」と指摘される。
東金は主人公の過去を知っていた。
彼は入部のときの資料で、主人公が小さい頃コンクール荒らしだったことを知っていた。
そして今の主人公の演奏を聞き、主人公が自分の演奏に苦しんでいることを見抜いていたのだ。
主人公は今の自分の演奏に自信がなく、人前での演奏に対しネガティブになっていた。
東金はそんな主人公に「ビクビク緊張しても良い演奏にはならない。演奏には人を惹きつけるような魅力である花が重要。お前の演奏の花を探せ、考えろ」と告げる。
花とは魅力、観客に感動を与える力だ。
東金はさらに続ける。
「お前が輝いていた時代に持っていた花はとうの昔に散っている。新たな花を見つけるためには、諦めず進み続ける覚悟が必要だ。真の花を得るためには並大抵の努力ではだめだ」と言う彼の厳しい言葉に、主人公は胸を打たれたのだった。
そして主人公は自分の花を見つけるべく、毎日飽きるほどに練習を重ねる。
自分の花を咲かせることを目標に励んでいる主人公に、東金は満足そうだ。
頑張る主人公に東金はアドバイスをくれたり、能やクラシックコンサートの公演に連れてってくれたりと、主人公に刺激を与えヒントを与え続けてくれた。
そんな毎日の成果で、主人公の演奏は少しずつ成長し始めていた。
東金はそんな主人公の演奏を認め、ついに神南アンサンブルメンバーに加えることにしたのだった。

主人公は東金に、海へクルージング誘われる。
東金は船舶免許を持っているらしい。
彼の運転する船の上は、海風が心地よく、波を切る感覚も気持ちいい。
東金は遠くに見える神戸港を見ながら、主人公へ「あそこにオペラハウスを立てる夢がある」と打ち明ける。
東金は、音楽の敷居の高さを変えたいと考えていた。
聞けばすごいとわかるのに、高尚な芸術として簡単には手が届かないものとイメージがあるクラシック。
クラシックはまた歴史があるばかりに、敷居が高くなってしまっているというのだ。
敷居が高い、ゆえに新しい人が足を運ばない、そしてすばらしさを実感してもらえない。
東金はそのすばらしさを知ってもらうきっかけを作るために、1つの都市に1つの劇場を作り、生活の中に音楽を溶け込ませて行きたいという。
彼は「音楽が退屈だなんて誰にも言わせない。一生忘れられないような本物の感動を音楽で与えたい」と主人公に熱く話してくれた。
東金の夢の話を聞き、主人公もその夢を実現させる一員になりたいと言う。
彼はそんな主人公に「こんな夢物語を真面目に聞くなんてお前もどうかしてるな」と笑いながら、「でもこの船に一緒に乗るのにふさわしい女だ。俺は夢で終わらせるつもりはないぞ」と肩を強く組んだのだった。

父の話題が出た途端東金は機嫌悪く様子を変える。
彼と父とはクラシックに対する考え方が正反対だった。
東金の父はクラシック原理主義者、これまで受け継がれてきたクラシック音楽を純粋な形でも持っていこうと思っている立場。
しかし東金自身は観客が楽しめるならアレンジも何でもありの信念のもと演奏している。
ゆえに東金は父とは一生かかってもわかりあえないと考えているのだ。
東金は「あいつに認められるような音楽は俺がやりたい音楽じゃない。親父は自分の中にあるルールから外れたものは一切認めない、自分勝手で人の意見に耳を傾けない最低な男だ」と吐き捨てていた。

主人公と東金は、とあるコンサートに訪れていた。
今回のコンサートは、あらゆるジャンルの音楽や楽器を作品に取り込んだ面白いコンサートだった。
2人がコンサートを楽しんでいると、そこへ東金の父が現れる。
彼は楽しんでいる東金を愚かだと言い、今日のコンサートを聞く価値がなかったと言う。
その言葉に怒る東金、2人は言い合いになる。
東金は父にうんざりしていた。
自身の母が倒れたときも、仕事優先で家に戻ってこなかった。
セミファイナルのときも、星奏学院メンバーの気持ちを考えず冷たい言葉を浴びせつづけた。
「人の気持ちを考えたことがあるのか?」と訴える東金に、父は「お前にとっての音楽は遊びの一環でしかないように見える。派手なパフォーマンス自分勝手なアレンジ、そんなものに頼っていては演奏能力がないと自ら言っているようなもの。遊びでないと言うなら正当なクラシックで勝負してみるが良い」と挑発し去っていく。
父の背中を見送りながら、東金は悔しそうな表情をしながらも言い返さなかったのだった。

芹沢に急用を頼まれ、主人公は東金の家まで届け物をしにやってきた。
大きな門かなり遠くに邸宅らしき建物が見える、東金の家は大豪邸だった。
執事に案内され東金の元へ辿り着き届け物を渡した主人公は、ついでに家の中を案内してもらう。
広い部屋に通されると、壁には無数のいくつものヴァイオリンが飾られていた。
ヴァイオリンは東金の父の趣味で、高価なものがたくさん並んでいる。
そんなヴァイオリンを眺めながら、東金は昔話をしてくれた。
昔、東金は父にヴァイオリンを教わっていた。
家族全員が揃った夕食後、暖炉の前で演奏披露すると、自分のへたくそな演奏だったがみんな笑顔になってくれてそれが嬉しかったというのだ。
「自分の演奏で誰かが喜んでくれるあれが、俺の音楽の原点かもな」と東金は寂しそうに笑ったのだった。

今日は神南のライブの日だ。
会場は超満員、演奏に熱狂するファンたち。
観客に直接音楽を届けるられるライブが東金は一番好きなようだ。
彼のテンションは高く、機嫌も良さそうだ。
ライブが終わりアンコール前、興奮冷めやらない東金の元に1通のメールが届き、彼の顔色が変わる。
それはなんと彼の父が倒れて病院に運ばれたという連絡だった。
大したことじゃないと気にしないふりをする東金に、周りのメンバーがすぐ病院に行けと説得する。
勢いにおされた東金は主人公と共にしぶしぶ病院へ向かう。
病院につき、東金の父は病室にお見舞いに来た東金の顔を見るなり、ステージを放り出してきたことを怒った。
そして「演奏者失格だ、お前にとっての音楽はただの遊びだ」と彼を糾弾する。
何を引き換えにしてもステージを捨てない、それが東金の父の理想だった。
しかし東金はそれを聞き、「俺はあんたの望むような演奏家にはなれない。自分の心を捨ててステージに立つなんてできない。それが甘いなら俺にはステージに立つ資格なんてない」と言い、病室を出て行ってしまう。
病室に取り残される主人公は、父に「東金の音楽は遊びでは無い」と訴えるも、「これであいつも少し目が冷めただろう、君も帰れ」と諭される。
しかし主人公はその言葉に怒り、「目を覚ますのはあなたの方だ!」と今度開催する真のファイナルのチケットを叩きつけ病室を出た。

東金に先日の病室のことを聞かれ、主人公はチケットを渡したことを伝える。
彼は父は見に来ないだろうと諦めきっている。
そんな彼に主人公は「東金は父親に自分の音楽を認めさせようとしているが、そんな気持ちで演奏して欲しくない」と伝える。
主人公は東金にはただ自分らしい演奏を楽しんでほしいと思ったのだ。
主人公の言葉を受け、「お前が言ったことでなきゃ放っておくところだが、後は俺が自分の中で考える」と言葉を受け取ってくれたのだった。
その後東金はどこか考えこむ事が増えた。
主人公が心配になり声をかけると、「励ましてくれるなら大歓迎だぜ。例えばキスとか?」と彼にからかわれてしまう。
その言葉通り主人公が彼の頬にキスすると、不意打ちに頬を染める東金。
「本気で俺のものにしたくなってきた」といつもの彼のように笑ってくれたのだった。

真のファイナル当日、客席には東金の父の姿があった。
東金はアンコールで、父に向けて、父を喜ばすために演奏を始めた。
それは幼いころ父に教えてもらった父が好きだと言っていた曲だった。
1人の観客のための音楽を奏でるのは自分らしくないが、主人公が自分自身を変えたように、東金も自分を変えてみたくなったのだ。
演奏は今までの東金とは違う、だが東金でなければできない演奏だった。
東金は父に実力を認めさせたいという意固地な気持ちがいつのまにか消えていた。
そして父に向けて、音楽と言うものを教えてくれた人に向けて、音楽を聞いてくれる人のために、そしてここにいる人たちすべてに向けて心をこめて演奏をしたのだった。
その曲を聴き、東金の父は涙をこぼしたのだった。

演奏会後、主人公を探して東金が現れる。
そして主人公に「お前がいなければあの曲をステージに弾くことなんてなかった。でも気持ちを伝えられた気がする」と感謝した。
そして彼は「お前にも伝えたい気持ちがある」と言い、「お前が好きだ。俺をお前のただ1人の特別な存在にしてくれないか」と主人公に告白してくれたのだった。

後日、東金と主人公は東金の父主催のパーティーに招待されていた。
今日2人はこのステージで演奏することになっていた。
「気に入られたな」と笑う東金は緊張する主人公に、「俺と2人で弾くんだから怖がる必要なんてない。お前の演奏には誰にも恥じることのない美しい花がある。お前は艶やかな花だ、心奪われずにはいられないさ」と励ましてくれる。
そして彼は「ステージの外のお前は俺だけが独占したい。お前が好きだ、俺の恋人。お前のすべてを俺にくれよ」と情熱的に抱きしめてくれたのだった。

土岐 蓬生(とき ほうせい)

熱を測ってもらうふりをして手を引き、主人公を抱き込む土岐

土岐は常にひょうひょうとしており、主人公をからかってくる男だった。
部室に寝転がっている土岐を主人公を心配すると、熱を測ってもらうふりをして手を引いて抱き込んだり。
そんな土岐のペースに振り回されながらも、主人公は彼と一緒に過ごす時間が増えていった。

ある日の練習後、主人公が土岐に帰宅を誘われ着いていくとそこには彼の車があった。
実は土岐は一年留年しており、彼は昨年車の免許を取ったのだという。
車で家まで送ってもらう途中、土岐から主人公についていろいろ質問される。
なぜ今転入してきたのか、一人暮らしなのかと聞き出そうとする土岐に、主人公はいつもの仕返しで「秘密です」といじわるする。
すると土岐は面白そうに主人公のことにより興味をもったようだった。

別の日、2人は土岐の車で明石海峡大橋に来ていた。
神戸と淡路を結ぶ世界一長い吊り橋で、床には海上47mのガラス張りの床がある。
「吊橋効果で俺と恋に落ちたりせぇへんかな」とからかう土岐に、冗談でジャンプする、主人公が「自分は土岐一緒なら構わない」と返すと、土岐はおかしそうに笑ってくれた。
主人公は土岐と冗談で交わす会話が楽しいと思うようになっていたのだった。

主人公は土岐から散歩に誘われ、2人で港さん橋に向かう。
橋の海風は涼しく、すがすがしくて気持ち良い。
遠くに汽笛を鳴らす船の姿を見ながら、土岐が「あの船みたいに遠いところに行きたいな」と漏らす。
そして彼は主人公に「このまま一緒に遠くへ駆け落ちでもせぇへん?」とからかう。
また土岐の冗談だと思いすぐ了承する主人公に、土岐は苦笑いする。
そこで彼は自分の両親のことを話してくれた。
実は土岐の両親は駆け落ち夫婦だそうだ。
幸せそうな両親を見て、彼は小さい頃から手に手を取る愛に憧れているという。
しかし彼はこの歳になってリアルに想像するとめんどくさい、そしてそんな大変なこと俺にはできないと思うともいう。
「すべてを捨てても結ばれたいと思いを究極の純愛、そんな恋ができるんだったら幸せだと思う」と言う土岐に、主人公もそう思える位の恋をしたいと返す。
真剣に返事をした主人公に、いつもの調子に戻った土岐は「その相手が俺やったら嬉しいのに。あんたが俺の運命の相手やったりしてな」と意地悪そうに微笑んだのだった。

星奏学院の菩提樹寮には古い楽器が保管されており、その中に三味線があった。
土岐が三味線を弾けるというので、主人公は彼に三味線を聞かせてほしいと頼む。
土岐はまずお気に入りの曲を弾いてくれた。
彼が三味線を弾けるのは彼は祖父の影響だという。
昔は体が弱く学校を休みがちだった土岐は学校に馴染めず、でも祖父はそれを咎めたりせず遊びに連れ出してくれた。
両親は祖父に結婚を反対されて駆け落ちした、それぐらい厳しい人なのに、土岐のずる休みには厳しい事は言わず、なじみの芸妓さんに会ってそこで三味線も教えてもらったという。
「せっかくやし三味線弾いてみる?」と土岐に主人公が了承すると、土岐の膝の上に引き寄せられてしまう。
恥ずかしそうにする主人公に、「俺もこうやって教わった。まさに手取り足取りやな」と意地悪く笑う土岐。
彼に両手をとられて主人公は三味線の弾き方を教えてもらった。

8月21日は土岐の誕生日だ。
主人公は土岐と一緒に彼の誕生日プレゼントを買いにショッピングへ出かける。
土岐に何が欲しいか聞くと、「主人公が良い」と言う。
いつもの冗談だとスルーした主人公は、よさげな腕時計を見つけて彼におすすめするが、彼は苦笑いする。
土岐は今つけている腕時計に思い入れがあるようだ。
彼の腕時計は、祖父が健康に時間を重ねていけるようにとプレゼントしてくれたものらしい。
結局彼の誕生日プレゼントが決まらなかったが、「一緒にいて自分のために一生懸命になってくれているだけで最高。あんたの愛があれば他には何もいらん」と土岐は喜んでくれたのだった。

神南のライブは満員で、当日券を求めてファンが並んでいるほどの盛況ぶりだ。
急遽2部制にして当日券を出すことにしたのだが、やる気の東金と反面、土岐は疲れている様子。
主人公がライブ直前まで寝ていた土岐を起こすと、彼に触れた手が熱かった気がした。
ライブは無事終わったが、土岐の様子がおかしく、主人公は彼に駆け寄る。
ファンに囲まれている彼の手を取って連れ出し楽屋に戻った。
彼は今日腕時計をしていなかった、主人公は彼は具合が悪い時は腕時計を外していることに気づいていたのだ。
「絶対バレないと思ってたのに」という土岐を寝かせ、主人公はそっとそばに寄り添う。
そんな主人公に彼は「あんたはヴァイオリンが1番で外に目を向けることなんてないと思っていた。俺のことになんて本当は関心ないと思ってたが、でも違ったみたいでそれが嬉しい」と弱々しくほほ笑む。

寮に帰っても土岐と連絡が取れない。
東金曰くたまにこういうことがあるそうだが、主人公は心配になり探しに出かけることにした。
まずは寮の中、男子棟には女子は入れないため、庭から土岐の部屋を眺めると明かりがついている。
土岐の部屋の窓の下に立ち、彼に届くように祈るような思いで何度も名前を呼ぶと、彼は主人公に気づき窓を開けてくれる。
土岐はどこかしんどそうだ。
「中からちゃんと入っておいで」という土岐のお誘いにのり、主人公は部屋へ向かう。
土岐は見るからに具合が悪いそうで、だるいと言いベッドに横になっていた。
彼は弱っている自分を誰にも見せたくなく、具合が悪いときは1人になるようにしているという。
しかし土岐は主人公の手をとり「弱っているときは会いたくなかった。でも主人公が自分のことを心配してくれているかもとも期待していた。そして俺のところに来てくれた、都合の良い夢かなぁ」とどこか夢心地で微笑む。
土岐の呼吸が苦しそうで、主人公はそっと彼の額に触れる。
気持ちよさそうにする土岐は、主人公に子供の頃のことを話してくれた。
彼の小さい頃は病弱で寝ていることが多かった。
そうやって寝ていると、目を閉じたら自分は二度と朝を迎えられないかもと怖かった。
でもそのうち慣れてきて、死んだらその時はその時。そう思って生きてきた。
しかし彼は今は死にたくないという。
「主人公のそばにいて、ずっとこうしていられたらいいのにと思っている」と言いながら土岐は寝入ってしまったのだった。

翌日、すっかり元気になった土岐からお礼のメールが届く。
メールの最後に「君がため 惜しからざりし 命さえ 長くもがなと 思ひけるかな」という一文が。
意味が気になり主人公が土岐に聞くと、今の自分の気持ちだと言われてしまう。
それは「君の為ならば惜しくは無い、そう思っていた命でも、思いが通じたら死にたくないと思うようになった」という歌だった。
土岐は「誰かの為なんて強い恋心は俺には縁がない。どうせ人はいつか死ぬし、恋や愛のために生きるなんてと思っていたが、今はその気持ちがわかる。好きな人のために好きな人のそばで一緒に生きていきたい」と言い、彼は気持ちを主人公に告白してくれたのだった。

演奏会後、主人公は土岐と落ち合っていた。
土岐はいつもの調子で「俺の運命の相手は恥ずかしがり屋なのか一回も気持ち聞かせてくれてないわ」と意地悪く笑う。
そんな彼に主人公が素直に「好きです」と伝えると、彼はとても幸せそうに笑い「俺も好き。愛しいあんたのために生きていきたい。あんたに出会って俺の世界は色と熱を帯びた」と伝えてくれた。
そして彼は「幸せが俺の手の中にあることが信じられへん。はかなく消えてしまいそうで怖い、だから抱きしめて確かめさせて」と言い、主人公を抱き寄せたのだった。

芹沢 睦(せりざわ むつみ)

甲斐甲斐しく主人公に靴を履かせてくれる芹沢

主人公と芹沢は、東金に命じられたデュオアンサンブル演奏のため、共に練習していた。
練習だけでなく、楽曲の解釈の相談したり、コンサートを聞きに行ったりと、だんだんと2人一緒に過ごすことが多くなっていった。
その中で主人公は芹沢が結構な世話焼きであることを知る。
休憩中に紅茶を淹れてくれたり、外での練習中は熱中症を心配しミネラルウォーターの差し入れてくれたり、日傘を貸してくれたり。
主人公は芹沢の面倒見の良さに感謝し、芹沢もまたつねに一生懸命な主人公の努力を認め始めていたのだった。

主人公は、芹沢が東金に用事を申し付けられている場面に遭遇する。
今回彼が東金から頼まれたのは、ファンサービスのためのライブをするライブ会場の手配だった。
「東金からの無茶ぶりはもう慣れてしまった」と言う芹沢、彼がこれからホールやライブハウスに片っ端から声をかけると言うので主人公は彼を手伝いたいと申し出る。
最初は遠慮する芹沢も、主人公が再三申し出ると呆れながらも了承してくれた。
後日、芹沢が電話をかけるリストをまとめていた。
目を付けている会場から見積もりを出してもらい、これから電話をかけて値引き交渉をするという。
主人公は約束通り、リストを手分けして片っ端から電話をかけていく。
思っている以上に大変な作業で、主人公は芹沢はいつもこんな大変な作業をひとりでしてるのかと尊敬した。
また芹沢も、主人公が手伝ってくれたことに感謝し心強いと喜んでくれた。

芹沢が菩提樹寮(りんでんほーる)の食堂の電球を取り替えている。
お世話になっている寮母さんに頼まれたようだ。
食堂の電球を全て変えるという彼に、主人公は先日と同じように手伝いたいと申し出る。
芹沢は主人公に感謝し、2人で雑談をしながら楽しく作業を進められた。
電球交換が終わり、お礼に芹沢が淹れてくれた紅茶を飲みながら、芹沢は主人公のことがよく分からないと打ち明けてくれた。
神南高校は富裕層の子息子女が集まる学校だ。
そんな中過ごしてきた彼は、自分の知っている尽くされて喜ぶ神南の女子と、進んで手伝ってくれる主人公との違いに戸惑っていたのだ。
しかし彼は、音楽やそれ以外にも一生懸命に取り組み、手伝いを申し出てくれる彼女に好感を持っていた。
芹沢は主人公に「お人好しすぎるところ厄介ごとに首を突っ込みがちなところは心配だけど、あなたは俺の仲間のようですね」と笑ってくれた。

主人公は星奏学院の報道部に所属する支倉 仁亜(はせくら にあ)から、頼まれごとをされる。
彼女の頼み事は、7年前のコンクールに出ていた資料を探しており、神南の管弦楽部ならその資料を保管しているのではないか、あれば貸してくれないかという内容だった。
主人公はさっそく神南の管弦楽部の部室へ向かう。
部室で過去の全国学生音楽コンクールの資料を探していると、芹沢がやってくる。
彼は探し物をしている主人公を心配し、ここになければ市立図書館にあるかも、と提案してくれた。
そして借りていた本を返しに行くつもりだという芹沢に同行し、主人公は図書館へ向かう。
しかしその途中、芹沢は東金に頼み事をされてしまい、主人公は芹沢と別れ一人で図書館へ向かったのだった。
市立図書館には、ニアから頼まれていた資料が存在していた。
資料を開くと、小学生ピアノ部門受賞者の欄に「芹沢 睦」と見慣れた名前がある。
しかしその写真に映るのはひらひらのドレスを着た女の子だった。
主人公が混乱していると、遅れてやってきた芹沢が資料を開いている主人公を見つけ、苦々しい顔をする。
どうやらドレスを着ていた女の子は幼い頃の芹沢で間違いないようだ。
彼は、「その格好は母の趣味で母にどうしてもお願いだと頼まれて着たものだ。好きでそんな格好したわけじゃない」と苦々しい表情で話す。
芹沢は服装のこと以上に、親に流されたばかりの過去を主人公に知られたくなかったのだ。
彼がピアノを始めたのだって、親が望むから仕方なくレッスンに行ったことがきっかけだった。
芹沢は「ピアノなんて女子が引くもの、男が引くものじゃない。俺はピアノなんか好きじゃない」と思いながらも、母に頼まれて断れずに流され、そしてここまできてしまったのだという。
芹沢は昔から誰かに頼まれたり人に望まれたら断ることができない性分だった。
彼はそんな自分に嫌気がさしており、「親の言いなりで馬鹿みたいでしょう?今だって言われた通り管弦楽部の雑用係りだ」と自分を卑下して言葉を主人公に吐く。

主人公の元へ、芹沢から「柔道部に出向くため、練習に遅れる」といったメールが届く。
どうやら芹沢は柔道部の特別稽古に参加しているらしく、気になった主人公は様子を見に行くことにした。
柔道部につくと、芹沢は柔道部の部長と対戦しており、彼は体格の大きな部長を鮮やかに1本背負い投げ決めていた。
常に紳士的な態度をとる、彼の意外な一面だった。
主人公に気が付いた芹沢は、「稽古に誘われて練習より優先してしまった。久しぶりに柔道がやりたくて」と謝る。
しかし、主人公はそんな芹沢が優しいと伝える。
面倒そうな態度をとる彼だが、人に頼まれたら最後までやりきる性格だ。
主人公は彼に「そんな芹沢の優しさが好きだ」と告げる。
彼は驚きながらも嬉しそうにして、「あなたはまるでそれがごく自然なことみたいに困ってる人に親切にする。あなたのその素直さ、純粋さをいいように利用されないか不安ですよ」と笑ってくれた。

真のファイナル後、芹沢からアンコールを一緒に演奏しないかと誘われる。
芹沢は2人で弾きたい曲があると言う。
主人公と芹沢は2人でステージに上がる。
主人公のヴァイオリンと芹沢のピアノの音色が重なり、ステージに広がり、2人の心が触れ合い満たされていく。
そこで芹沢は初めて、自分はピアノが弾けてこんなに幸福だと実感したのだった。

演奏会後、主人公と芹沢はこの夏一緒に過ごした時間を思い返していた。
2人は気づけば一緒に過ごしていた。
芹沢は先ほどの演奏で感じたことを主人公に打ち明ける。
彼は「今まで自分のことが嫌いで、ピアノが好きなことも認められなかった。でもあなたと一緒に演奏して音色を重ねて、ピアノを続けていたのは強制されたからではなくピアノが好きだと気づいた」と話してくれた。
そして芹沢は、ずっと前から分かっていたのに認めるのに時間がかかったという、主人公に対する想いを告げてくれたのだった。

如月 律(きさらぎ りつ)

律がゲスト出演するコンサートで、オペラの真似事をする主人公と律

2年ぶりの再会を懐かしむ主人公と律。
律は主人公が元気にヴァイオリンを続けていると知りほっとしていた。
一緒にヴァイオリン教室に通っていたとき、主人公がスランプに陥っていたことを心配していたのだ。
主人公は律と約束した「ファイナルのステージの上で再会しよう」を励みにしてきた。
再開した2人はまた、お互いコンクールの決勝戦でまた会おうと約束したのだった。

主人公は、これから病院に向かう律に遭遇する。
律の所属する星奏学院オーケストラ部の顧問の先生が入院しており、彼は今からお見舞いに行くという。
主人公も誘われ、律と一緒に病院に向かう。
先生の具合は良さそうで、順調に回復すればコンクールの応援にも行けそうだと言う先生の言葉に律は喜ぶ。
実は律は顧問の先生に恩を感じていた。
彼は昨年の全国学生音楽コンクールのヴァイオリンソロ部門への出場を、怪我のため断念した。
その時落ち込む律を支え、アンサンブル参加を勧めてくれたのが顧問の先生で、先生は律の恩師とも言える人なのだ。
律は「先生のために今年のコンクールは負けられない。必ず優勝の証である銀のトロフィーを手にする」と強く決意していたのだった。

律はヴァイオリン好きが高じて、工房でヴァイオリン作りもしているらしい。
また主人公の祖父がヴァイオリン職人なのもあり、彼は祖父からメンテナンス・調整について教えてもらい道具も譲ってもらったという。
主人公は律から、製作途中のヴァイオリンが形になったと聞き、実物を見せてもらうため彼の寮の部屋へ向かう。
しかし寮は規則で男子と女子との行き来は禁止されている。
律と主人公は見つからないようにこっそりと部屋へ向かった。
律の部屋にはヴァイオリンの制作道具が所狭しと置かれており、彼の作っているヴァイオリンを見せてもらい、主人公は感動する。
ヴァイオリンの作り方を話す律はとても楽しそうだ。
2人で過ごしていると、突然律の部屋に東金が訪ねてくる。
思わず声を出しそうになる主人公を律は彼の布団の中に引き込み、自分も一緒に布団の中に潜り込む。
あわやと言ったところで東金が部屋に入ってくるが、律は主人公がバレないようにそのまま布団の中から受け答えをする。
東金は怪しみながらも用事を済ませ出て行き、しばらくして2人は布団から顔を出す。
「見つからずに済んで良かったな」と微笑む律だが、主人公は彼にベッドに引き込まれたドキドキで胸がいっぱいだった。

主人公は練習に行き詰まっていた。
そんな主人公を見て、律が気晴らしに海に誘ってくれる。
2人で海へ行き、夏の海を2人で思いっきり楽しんだ。
今度は逆に律から気晴らしに良い場所を教えてほしいと言われ、主人公は横浜のショッピングモールを提案する。
2人でショッピングをしたりゲームセンターで遊んだりして過ごしていると、コンクールを見に来ていたファンに声をかけられる。
律の演奏を絶賛するファンから「よかったら今何か弾いてもらえないか」と頼まれ、2人はその場で合奏をすることに。
曲は2人が小さい頃から一緒に弾いていたものを演奏することにした。
一緒に演奏するのは久しぶりだったが、体が覚えており、昔と変わらず気持ちよく合奏するができた。
2人の素晴らしいハーモニーに次第にギャラリーが集まり始める。
ギャラリーの期待に応えもう1曲、もう1曲と演奏を重ねていると、突然律の手に痛みが走り、彼は手からヴァイオリンを落としてしまう。
そして落ちた衝撃で、彼のヴァイオリンの部品が割れてしまった。
律のヴァイオリンは主人公の祖父からもらった彼の大事なものだ。
律は大切なヴァイオリンを自分が壊してしまったことに大きなショックを受ける。

後日、律から先日のことを謝られるが、主人公は沈んだ様子の律が心配だった。
主人公が彼に傷んだ手は大丈夫だったか聞くと、これから病院へ行って検査の結果を聞きに行くという。
主人公は律と共に病院へ向かった。
病院の待合で、律は主人公にこれまで詳しく話してこなかった怪我をした手のこと話してくれた。
律が昨年のコンクールで怪我をしたのは、左の手首だった。
彼は手首を痛めたあと、完治を待てず医者の忠告を聞かずにヴァイオリンの練習を再開し、痛む手首をかばいながら弾く癖をつけてしまった。
そして気づいたら手首に慢性的な腱鞘炎を抱えていたという。
名前を呼ばれたため、話は中断し律は診察室へ。
その後診察室から出てきた律から聞いたのは、彼の左手はもう治らないということだった。
日常生活や普段バイオリンを弾く事は可能だが、長時間の演奏には耐えられず、ヴァイオリン奏者としては未来がないという。
律が演奏家になれないという事実に主人公は青ざめ、何か手伝えないかと彼に聞くが、律は首を横に振る。
彼は「治療もリハビリもできる事はこの1年ずっとやってきた。それでも元には戻らない。手遅れだった」と言うのだ。
自分のことなのに、どこか他人事のように淡々と状況を話している律。
冷静に見える彼の態度だが、彼はいつかこんな日が来るのではないかと不安で、でもどこかで覚悟していたという。
「一年間不安を抱えつづけ恐れていたが、その恐れていたものが現実になり、その恐怖からは解放された。だから却ってほっとしているのかもしれないな」と言う律に、主人公は「手の事はしばらく誰にも言わないで欲しい。気持ちの整理がついたら自分から話す」と頼まれてしまう。

律はひどく落ち込んでいた。
全国学生音楽コンクールのセミファイナルでの敗退、ヴァイオリンの故障、一生治らない自分の腕の怪我。
とくにヴァイオリンの故障には心を痛めており、壊れた部品は直せず、ヴァイオリンが今までと同じ音を出せなくなってしまったことに絶望を感じていた。
律の手から大切なものが次々と零れ落ち、彼は自分の大事なものを次々と失ってしまったのだ。
主人公はヴァイオリンを手にしたまま立ち尽くす律に声をかけるが、彼は「俺はもう終わってしまったんだな」とつぶやく。
そのまま立ち去っていこうとする律の背中を主人公が追いかけようとしたが、「こんな自分をお前に見せたくない。頼むからついてこないでくれ」と彼に叫ばれてしまう。
こんなに激情を表す律は見たのは初めてだった。
背中を向けたまま律は話し出す。
「演奏家としての未来が無い今の俺が、ヴァイオリンを弾くことに何の意味がある?自分はこれまで毎日ヴァイオリンに触れていた。それが自分の日常で全てだった。だがそんな日々がもう二度と来ない。ヴァイオリンに触れるのが怖い、失った未来を目の前に突きつけられるのが怖い。音楽を見出せない俺は、壊れてしまったヴァイオリンと同じだ」と律は涙をこぼした。
コンクールにも敗退し、ファイナルのステージで会うという主人公との約束も違えてしまった。
そのことにも律は深く心を痛めていた。

主人公は深く落ち込んでいた律を心配していた。
そんなとき、律の弟の如月 響也(きさらぎ きょうや)から律が帰ってこないと連絡が入る。
彼は頼んでいた壊れたヴァイオリンの修理を中断して引き取った後、行方が分からないという。
主人公は心配になり方々を探してみるが律が見つからない。
そこへ同じ神南高校の芹沢 睦(せりざわ むつみ)が律を見たと言うので行き先を聞くと、バスに乗って行ったという。
バスの行き先には覚えがあった、それは2人で行った海だった。
主人公は律の後を追うように急いで海へ向かう。
律は壊れたヴァイオリンとともに海を眺めていた。
音楽を失った律は自分が存在する意味を見失い、どこにも居場所がないと思っていた。
そして彼は気づけばこの海に来ていたのだ。
そんな律を見つけた主人公は大声で彼の名前を呼び、駆け寄り、そして彼の背中に抱きつく。
律は「俺には何も残ってない。演奏家としての手も、生涯の友と決めたヴァイオリンも、お前との約束も全て失ってしまった」と泣く。
主人公はただ何も言わず律を抱きしめる。
そして深い悲しみの中にいる彼に、主人公は律の持つ壊れたヴァイオリンの修理を頼む。
そして彼に「自分がこのヴァイオリンでファイナルステージに立って演奏する」と約束する。
主人公は律のヴァイオリンで、主人公と律が交わした約束を果たそうとする。
ヴァイオリンの修理という道を示され、律は音楽と共に生きる可能性に気づく。
そして彼は主人公に、ヴァイオリンをファイナルの朝までに修復してみせると約束してくれたのだった。

いよいよ今日は全国大会ファイナルの日だ。
主人公と律が約束した、ファイナルのステージに立つ日だ。
主人公は律から、約束していた律のヴァイオリンを受け取る。
ヴァイオリンは無事に修復できていた。
彼は客席で見守ってくれているという。
主人公は彼の心と一緒にステージの上に立ち、見事ファイナルで優勝したのだった。

ファイナルの後、主人公と律は顧問の先生の家へ向かっていた。
先生はセミファイナルで体調を崩していたが、その後回復し退院できたのだ。
先生に会い、律はコンクールのファイナルの結果を話し、そしてファイナルで主人公が律のヴァイオリンを使ったことも話した。
先生に話す律は、どこか晴れ晴れとした表情をしていた。
彼は主人公がヴァイオリンの修復を勧めてくれたおかげで、様々な音楽との関わり方に気づいたというのだ。
先生は律が立ち直れたこと、そして大事なものを手に入れたことを喜んでくれた。
帰り道、律に誘われて寄り道をして2人で話すことにした。
律は、「先生に言われた手に入れた大事なものとは、お前が俺に与えてくれた音楽と共にある未来と希望だ。主人公がいなければこんなふうに明るい気持ちで未来を思い描くことができなかった」と主人公に感謝を伝える。
そして「大切な幼なじみで音楽を愛する同士のように思っていたが、実はそれだけの存在ではないことに気づいた」と彼の気持ちを伝えてくれた。

律から、彼が一から作っていたヴァイオリンが完成したとの連絡が入った。
主人公は彼から「初めて弾く音は最初にお前に聞いてほしい」と頼まれ、彼の元に向かう。
律が早速生まれたてのヴァイオリンを弾いてみる。
音は未熟で職人には到底及ばないが、彼の左手の影響も受けずに最後まで弾ききることができた。
主人公は感動し、律は「主人公が信じてくれたから弾けるようになった」とほほ笑む。
つづけて彼は「このヴァイオリンのように、未熟だが高みを極めることだけが音楽ではないと気づいた。たとえ演奏家じゃなくても音楽と関わっていける、そういう未来もある」と話してくれる。
彼は悲しみから抜け出し、新たな道へ一歩を踏み出していた。

真のファイナルは大成功、観客も大喜びだ。
アンコールを要求する声に、律は主人公を「アンコールを一緒に演奏しよう」と誘う。
律に手を引かれ主人公はステージに向かう。
「何度もお前に支えられて手を引いてもらったのは俺の方だった。最後ぐらいは俺が引っ張る側になりたい」と笑う彼の手を主人公は握り返す。
2人の気持ちが通じ合った瞬間だった。
ついさっきまで2人はライバル同士だった、そんな2人が今は手に手を取ってステージに上がっている。
この夏の出来事全て、主人公と律、2人を結び合わせるためにあったようなものだった。
2人が演奏したのは、小さい頃から一緒に練習した曲だった。
律の奏でる音楽は主人公への愛が音となって溢れてきたもの。
そして重なる音のひとつひとつが2人が重ねてきた年月の結晶だった。
2人が演奏する音色は、ホールに響き渡り多くの感動を呼び起こし、拍手に包まれたのだった。

演奏会後、主人公は律と落ち合っていた。
律はさっきの演奏で2人の心が重なった気がしたと告げる。
そして彼は主人公に言えなかった気持ちを改めて言葉にさせてくれと言い、「俺の恋人になってほしい。誰にも渡したくない。お前のことが好きなんだ」と告白してくれた。

榊 大地(さかき だいち)

主人公を、落ちてきた荷物からかばってくれる大地

主人公が神戸の街を歩いていると、横浜にいるはずの榊 大地(さかき だいち)とばったり出会う。
横浜では顔を合わせた瞬間、「可愛い子に会えて嬉しい」や「君と仲良くしたいな」などのナンパなことを口にする大地だが、今日はなんだか居心地が悪そうだ。
主人公は彼から「ここで俺を見たことは秘密にしてほしい」と頼まれ、誰にも言わないと誓う。

練習するための楽譜を探していた主人公に、大地が星奏学院オーケストラ部の部室に誘ってくれる。
部室には楽譜がいっぱい並んでいる。
主人公が棚に手を伸ばした瞬間、地震が起き、棚の上から落ちてきた荷物から主人公を大地がかばってくれた。
揺れが収まり、大地はなんともないと言うが念のため保健室に向かう。
そこには榊の同級生である保健委員の女子生徒がおり、手当てを申し出てくれる。
手当の間、大地と彼女はフレンドリーな雰囲気だ。
彼女もオーケストラ部の部員で、コンクールに出る主人公と大地の2人を応援してくれた。
しかし主人公は大地と彼女の親し気な関係が気になるのだった。

その後、主人公は大地から一曲の楽譜をプレゼントされる。
それは大地が先日から弾いていた曲で、渡された楽譜は使い込まれており、主人公は彼の練習量に感心する。
大地は高校に入ってからヴィオラを弾き始めたが、今やアンサンブルメンバーの一員だ。
しかし彼は自分の演奏経験が浅さや、実力の低さを痛感しており、彼なりに精一杯練習していたのだ。
大地はオーケストラ部に入った当初は、音楽科所属の周りとの格差や、自分の理想とは程遠い音に毎日現実を突き付けられて自分の演奏に引け目を感じていたが、全国優勝したいという夢は持ち続けていた。
そして彼のその夢を律だけはそれを疑わず信じてくれていたという。
「君と俺は全国大会に出る、そして頂点を取る」という律の言葉に大地は励まされてきた。
そんな思い出を話しながら、「いつか君ともこの曲を一緒に聞けたらいいな」と言う大地に、主人公は頑張って練習すると返事をした。

その後、主人公は大地からプレゼントされた楽曲をマスターし、彼に合奏を申し込む。
大地は短期間ですごく弾き込んでいる主人公に驚く。
彼は主人公の苦労を心配したが、主人公は「頑張ったのは大地と約束したからだ」と伝える。
大地は、主人公が忙しいコンクールの練習の中、自分との約束のために頑張って練習してくれたことに心打たれる。
そして彼は自分の言葉を信じ実現してくれた主人公の誠実さに、少しずつ気持ちが傾いていくのだった。

主人公は大地から「誰に邪魔されない2人きりになれる場所に行こう」と誘われ、2人で練習室へ向かう。
そこで彼から、神戸で交わした約束を守っているか確認される。
主人公は約束通り誰にも話していなかった。
そう伝えると彼は主人公感謝し、なぜ秘密にしなければいけなかったのかを話してくれた。
大地が神戸にいたのは、昨年律怪我の原因となった事故を調べていたからだった。
律は昨年、全国学生音楽コンクールのヴァイオリンソロ部門で階段から転落し手首を痛めた。
自分の不注意からの事故だと主張する律だが、大地は信じられなかったというのだ。
律は事故の様子を詳しく話してくれず、彼は律が何かを隠していると思っているという。
そこで、大地自ら単身で神戸に乗り込み調べていたというのだ。
大地は主人公に「神南大学のコンサートホールに入って調べたいことがあるから協力してほしい」と頼む。
そのホールは昨年のコンクールの会場で、彼はその場所に行き、あの日あの場所で何があったのかどうしても知りたいというのだ。
「なぜそんなにこだわるのか」と聞く主人公に、「強いて言うなら俺の音楽のためだ」と彼は言う。
律は怪我を庇う様に演奏するクセがついてしまい、手首に慢性的な腱鞘炎を抱えてしまっていた。
律の怪我を励ましたいが、怪我とたたかえるの本人だけで、大地は見守ることしかできない自分がはがゆいというのだ。
大地が星奏学院に入学したのは、入学試験日に聞いた律の演奏がきっかけだった。
彼は、そんな律の身に何がおこったのか、なぜ事故が起こったのか、事実を明らかにして、自分自身納得したいし前に進みたいと考えていたのだ。
事故現場である神南大学のコンサートホールは関係者しか入れない。
神南高校所属の主人公に力を貸してほしいと懇願する大地に、主人公は協力を約束する。
感謝する大地。
彼は今まで誰にも協力を求めず1人で調査してきたが、先日の主人公の誠実さを身にしみて、秘密を打ち明けてもいいと思ったという。
主人公と大地、2人だけの計画を立てることになった。

主人公は大地と例の調査についての相談をすることになった。
その結果、大地が神南高校の生徒のふりをして乗り込むのが1番手っ取り早いということになる。
神南高校の生徒のふりをするには、神南高校の制服が必要だ。
主人公の制服を貸すわけにもいかず、同じアンサンブルを組んでいるメンバーに頼んでみることにした。
しかし東金はデザインの違う制服を着ているし、芹沢は背格好が合わない。
大地はしぶしぶ自分の苦手とする土岐に相談することにした。
土岐の元へ行き、「何も聞かずに制服を貸してくれ」と頼む大地。
中々了承しない土岐に主人公も頼み込む。
すると彼は主人公に免じて替えの制服を一式貸してくれた。
これで準備は整った。
「俺1人じゃ絶対に無理だった、君がいたからだ」と感謝する大地。
その時、土岐が大地の胸ポケットに入っていた写真に気づき取り出す。
そこにはなぜかあの保健室で会ったオケ部の女子生徒が写っていた。
なぜ彼女の写真を持っているのか、主人公は疑問に思いながらも怖気付き聞けなかったのだった。

いよいよ作戦の決行日。
大地は土岐に借りた制服へ着替え、2人は怪しまれることなくホールへ入ることができた。
そして現場である階段を見に行くことに。
律が怪我をした階段は決して急な傾斜でもなく、間違って転ぶことなどあまりなさそうだ。
そこへホールの警備員がやって来たので、事故のことをさりげなく聞いてみる。
すると警備員はあの日の事故の目撃者だったようで、詳しく話してくれた。
警備員は倒れていた生徒を介抱していたが、事故の直前、階段から走り去っていた女子生徒がいたという。
すかさず大地が写真を取り出し警備員に見せる。
見せたのはあの女子生徒が写った写真だ。
「あなたが見たのはこの写真の生徒ではないですか?」と大地が聞くと、警備員はこの子に間違いないと言う。
事故の瞬間、彼女は現場にいたのだ。
2人は警備員にお礼を言いその場を立ち去る。

大地は女子生徒が律の事故に関係しているんじゃないかと疑っていたのだ。
彼女の写真は聞き取り調査に使うため持ち歩いていたのだった。
疑い始めたきっかけは小さな違和感だった。
大地の実家は病院をしており、現在の律の腕も診ているのは大地の父だ。
そんな大地に、事故の直後、彼女から「如月くんの腕はきっと治るのよね」と電話がきたという。
あの時、事故の直後、律が怪我をしたのが腕だと言う事さえ誰も知らなかった。
そして彼女は会場に来てなかったはず。
そこから1年間、大地はずっと彼女に疑問を持ち続けていたのだ。
女子生徒は律のことを心から尊敬しているように見えたし、大地は彼女を信じたい気持ちもあった。
それでも大地は真実を明らかにしたかったのだ。
主人公は大地から「女子生徒が事故現場にいたと言う証言を得た、真実に近づけたのは君のおかげだ。ありがとう」と感謝される。
しかし真相を知るには直接彼女に聞くしかない。
彼女は現場に行ったことをこれまでずっと隠していた。
何か策が必要だ、とアイデアが浮かぶまで調査は中止することになった。

後日、主人公は大地から呼び出される。
律に怪我の事を調査していたことがバレたというのだ。
律と大地が待つオケ部の部室へ着くと、2人は言い争っていた。
律は「調査をやめろ」と言い、大地は納得ができないようだ。
真相を暴けば人を傷つけ、オケ部の害となるという律は未だに犯人をかばい、あれは俺の不注意だと言い張る。
しかし大地は「お前の大事な体を傷つけ、お前の音楽を奪った人間を俺は許せない。お前は憎くないのか?」と引き下がらない。
しかし律は「憎んでもこの手は元に戻らない。あの事故は終わったことで、蒸し返すのはやめてくれ」と一刀両断する。
律の演奏は大地の憧れだった。
律の手から彼の音楽が失われたことが許せない、憎しみを捨てられないのは俺だけか、と落ち込む大地。
主人公が「自分も同じ気持ちだ」と彼のそばにそっと寄りそうと、彼は「君がいてくれてよかった」と微笑んでくれた。
そんな2人を、部室の外からあの女子生徒が覗き見していたのだった。

主人公宛に大地から「練習後、屋上に来てほしい」とメールが届く。
主人公が屋上に向かうと、そこで待っていたのは大地ではなく、大地が疑いをかけていた女子生徒だった。
大地からだと思っていた呼び出しメールは、実は彼女が大地の目を盗んで彼の携帯から送ったものだったのだ。
不敵に笑う女子生徒、主人公は何の用かと聞く。
女子生徒は「律の事故についてどんな証拠をつかんでいるのか教えろ」と迫ってくるが、主人公は拒否する。
すると女子生徒は屋上のフェンス近くまで主人公を追い詰め、「あなたの演奏者としての未来も潰すわよ」と脅す。
そこにメールに気づいた大地が現れ、彼女を怒る。
すべて知っているような大地に、女子生徒は観念して真実を話し始める。
実は彼女は、律のヴァイオリンソロ部門のコンクールを応援しに会場へ行っていた。
そこで律が楽屋で留学の話を持ちかけられており、そしてうなずいたと言うのだ。
彼女はオーケストラ部で全国優勝狙おうと言っていたのに、留学の書類を受け取った律を裏切ったと感じ、衝動のまま律の背中を押したという。
その話を聞きショックを受ける大地。
そんな彼に向かって女子生徒は「自分とあなたは同じ。オーケストラ部の如月律にこだわり、自分の夢の象徴を傷つけられた恨みをずっと持ち続けているような人間だ」と批判する。
自分もその場にいたら彼女と同じことをしてしまっていたのだろうかととっさに言い返せない大地。
とっさに「自分に幻滅したか」と主人公に聞く大地に、主人公は「それでも大地が好きだ」と伝えると、その言葉に彼は目を覚ます。
「勝手に人に期待して逆恨みして憎んで、なぜそんな人を庇えるの?」と糾弾する女子生徒。
大地は「主人公には自分の無様な姿も見られており、弱くて醜い面も知っている」と返す。
彼は、主人公は自分のことを好きで、だからこそすべて受け入れてくれていると主張したのだ。
女子生徒は律に片思いしていた。
だからこそ好きだったオーケストラ部部長の律、自分の理想の律じゃなくなることを受け入れられなかったのだ。
「でも大事な手を傷つけた女として一生彼に憎まれ続ける、心に残ることができる」と笑う彼女に、それは無理だと大地が一刀両断する。
「律は事故の犯人が女子生徒だと知っていたが、告発もせず真相を隠し、憎しみに心奪われたりはしなかった。君は何をしたとしても人の心を奪うことができないよ」というと女子生徒は悔しげな顔をしたのだった。

事件の真相は解明した後、主人公は大地から海に行こうと誘われる。
「今まで学校の中で内緒話ばかりしていたから、開けた場所に行こう」という彼と共に、主人公は静かな夕暮れの海を歩く。
大地から、あの女子生徒は星奏学院を去ることにしたらしいと教えられる。
彼女は律に謝罪の手紙を渡し転校するらしい。
そして大地は律に怒られたらしい。
律はいつかは留学も思念に入れていたがそれはコンクール後の話で、コンクールの会場で留学の話を断るつもりだったという。
大地は、女子生徒の言葉に動揺した自分が情けないと反省し、事件の真相を明らかにした主人公にあらためてお礼を言ってくれた。
「君の協力がなければ真実にたどり着けず、あの女子生徒の言いなりにもなっていたかも。憎しみや執念から救ってくれたのは君だ。君がそばにいて信じてくれたから踏みとどまることができた」と言い、彼から「まっすぐで優しい君が好きだ」と告白される。

真のファイナルで、主人公は大地から一緒にアンコールを弾かないかと誘われる。
合奏するのはあの大地からもらった楽譜の曲だ。
2人でステージに上がり、2人のヴァイオリンとヴィオラが心地よく響き合う。
大地は、主人公の側に立っていれば自分はこれからもまっすぐまっすぐ音楽と向き合えると確信したのだった。

ファイナル後、帰ろうとする主人公に大地が駆け寄り、主人公が神戸に帰る前にどうしても話したいことがあると言う。
そして彼は主人公に「俺にとって君はこの夏最高の相棒だった。君と一緒に経験した全てがかけがえのない思い出で、この夏が終わっても決して忘れない」と伝える。
そしてつづけて、「君を愛してる。何よりも大切な存在だ。だからどうか俺の恋人になってくれないか?」と告白してくれたのだった。

冥加 玲士(みょうが れいじ)

主人公と冥加のマエストロフィールドが重なっていく

転校初日、理事長室を出た主人公は冥加に話しかけるも、彼の視線は氷より冷たい。
彼は7年前に主人公と何かあったようだが、主人公は覚えていなかった。
彼はそんな主人公を鼻で笑い、「俺は貴様を忘れたことなどなかった」と睨みつける。
彼は主人公につけられた傷が7年ものあいだ癒えることがなかったというのだ。
彼は主人公に「さっさとここから消え失せろ」と言い放ち去っていった。

主人公が響也と七海と談笑していると、廊下の向こうから冥加と御影が歩いてくる。
二人は学園の経営の話をしているようだ。
主人公はすれ違い際に冥加に挨拶してみるが、彼に無視されてしまう。
転入初日のあの会話以降、冥加と話すことはなかった。
主人公は彼ともっと仲良くなりたいのだが、響也は冥加が苦手なようで顔をゆがめて文句を言う。
すると響也の一言が気に障った氷渡が寄ってきて、冥加をこけにしたような響也の暴言を撤回しろと怒る。
氷渡が「冥加部長はこの横浜天音において唯一絶対の神聖なお方だ」と言い、七海もそれに同調する。
二人のあまりの剣幕におされた響也が謝罪をすると、「次はないぞ」と言い氷渡が、そして続いて七海も去ってしまった。
まるでここは冥加の王国だ。
彼の支配者たるカリスマ性、この学園の生徒の冥加に対する心酔っぷりに呆然とする主人公と響也だった。

学園内で電話している御影を見かける。
彼女は彼女自身の仕事と冥加の秘書業務とで大変そうだ。
良いことを思いついたという顔した彼女から、主人公は「冥加の秘書の仕事をアルバイトしてみない?」と頼まれる。
曰く、彼は知らない人間をそばに置きたがらないらしい。
彼女に頼まれたのは細々とした仕事で、冥加の目の届かないところをフォローし、彼の負担を減らす仕事だった。
主人公は疲れている御影をほおって置けず、冥加の秘書の仕事を引き受ける。
そして主人公はさっそく理事長室へ向かった。
主人公が中に入るも、仕事に集中している冥加はモニターから目をあげようともせず、主人公を御影だと勘違いして仕事の指示を出す。
それに主人公が返答すると驚き顔を上げ、主人公をみとめた彼は顔を歪める。
主人公が「自分が秘書代行だ」と伝えると、彼は御影に文句を言うべく電話をかける。
同時に理事長室にかかってきた電話を主人公が取り次ぎ、冥加宛の伝言をメモにまとめ渡した。
秘書代行の仕事の一歩目だ。
電話が終わった冥加は納得がいっていないようで、「秘書代行などではなくヴァイオリンの練習をしろ」と呆れられてしまった。

しかし主人公は懲りずに翌日も、その翌日も理事長室に向かい秘書代行として働いた。
冥加に頼まれる仕事は膨大で、やってもやっても終わらないが、絶対冥加に認めさせてみせると半ば意地のように仕事を続けたのだった。
ある日冥加宛の書類を受け取った主人公は理事長室へ向かう。
彼に書類を手渡すと珍しく礼を言われ、ついでにコーヒーを淹れるようと頼まれる。
また彼から「今日の夕方俺は不在だ」と自らのスケジュールを伝えられる。
「名ばかりとはいえ秘書代行だろう」と言う冥加は、毎日仕事を頑張っている主人公のことをようやく認めてくれたのだった。

主人公がコンビニに立ち寄ると、店内でうろつくピンク髪の少女を見かける。
目的の食材が見つかないという彼女に主人公は声をかけ、彼女の手伝いをする。
仲良くなった彼女一緒に帰ることになり、主人公の住処であるマンションまで歩いていると、なんと彼女も同じマンションに住んでいるという。
そして彼女から、自分は天音学園の中等部の冥加 枝織(みょうが しおり)だと自己紹介される。
そこへ冥加が迎えに出てきて彼女の名と呼ぶ。
なんと彼女は冥加の妹だったのだ。
冥加は主人公に一瞥をくれると、妹を急かすようにエレベーターに乗せ去っていった。

翌日、主人公はマンションのエントランスで枝織に出会う。
彼女は昨日のお礼と、主人公が兄の因縁の相手だと知った上で主人公に頼み事をしてきた。
枝織は悲しそうな顔で、「7年前に兄は変わった。あなたの音色に心奪われ、あなたの優しさに傷付けられた。あなたへの憎しみこそが今まで兄を支えてきたが、私は兄が幸せには見えない」と語る。
そして主人公は彼女から「どうか兄に勝って、兄を救ってほしい」と懇願されてしまう。

主人公が朝から理事長室へ向かうと、ソファにもたれるようにして冥加が寝入っていた。
彼の眠りは深いようで、主人公が近づいても目を覚まさない。
テーブルの上には書類があり、彼はどうやら徹夜していたようだ。
主人公は冥加を起こさないように気をつけながら彼の隣に腰掛けると、冥加の体がこちらに傾き、主人公の太ももに頭を乗せて膝枕の体勢になる。
主人公は疲れた顔の彼の頭を撫でてみた。
2人の間にはしばし穏やかな時間がすぎていったのだった。
しばらくして起きた冥加のため、主人公はコーヒーを入れる。
冥加のそばに居続けたことで、主人公はすっかり秘書代行が身についていたのだった。

昼休み、主人公は冥加から横浜天音のセキュリティをすべてパスできるマスターキーを預けられる。
主人公は次の用事のために部屋を出ていきたいのだが、預かったマスターキーを持ったままいなくなるのは気が引ける。
そこへ御影が現れ、困っている主人公を見て「私が冥加が帰ってくるまでマスターキーを見ていてあげる」と申し出る。
彼女のその言葉を信頼し、主人公はマスターキーを机の上に置きその場を後にしてしまった。
しかしその後、御影はアレクセイのため、マスターキーを使ってセキュリティパスコードを解除したのだった。

本格的に横浜天音の権限は理事長に移ったようだ。
冥加は自分たちを残すため膝をついてくれた。
主人公はそんな冥加のためになんとしてもファイナルで勝って優勝したいという気持ちを強くしたのだった。
一方冥加はアレクセイが許せず、「奴には必ず吠え面をかかせてやる」と横浜天音を奪い返すつもりのようだ。
冥加は次の手を講じてあるという。
アレクセイが理事長として直接運営している函館天音、その函館天音に勝った星奏学院をファイナルで降ろすことで、冥加が率いる横浜天音の有能さを証明するというのだ。
そして理事会の連中をこちらの味方につけ、アレクセイを追い出す算段だ。
彼と共に、コンクールファイナルで必ず横浜天音をこの手に取り戻す、とさらに強く決意したのだった。

主人公は御影とばったり出くわす。
主人公は勝手にマスターキーをコピーし、理事長側についた御影のことを信じられず警戒する。
彼女は「もう企んではいない」と苦笑いし、アレクセイの理想を教えてくれた。
主人公たちが函館天音で見た妖精、彼らはモンドと呼ばれ、彼らの住む妖精の国があるという。
人間は一部の例外を除いて妖精の国へはいけないのだが、アレクセイはかつて一度だけ妖精の国に行ったというのだ。
そして彼はもう一度妖精の国へ行くため、命と引き換えても構わないと手をつくしているのだという。
御影は「それが本当かどうかわからないが…。そのために彼は有能な演奏家を集め、マエストロフィールドの種を集め、妖精の魔法の力を集めているのよ」と教えてくれたのだった。

冥加に横浜天音を取り戻すため、主人公は必死に練習していた。
そこへ冥加が現れ、「そんなに秘書ごっこが楽しかったのか?」とからかう。
主人公はその問いにイエスと返す。
冥加は、自分のために必死になっている主人公をまぶしいものを見るかのように目を細める。
冥加は運命を奇妙だと思っていた。
かつて7年前のコンクールで競い合い自分にとって恨みの対象で宿敵だった主人公と、こんな風に手を携えるようになるとは思わなかったのだ。
冥加は頑張る主人公に、「オレはお前のほんとうの音色を知っている。この手から奏でられる音楽がかつてのような輝きを、それ以上の力を取り戻すことがオレの望みだ」と告げる。
冥加はあの7年前のコンクールで聞いた主人公のヴァイオリンの音をもう一度聴きたいと願っていたのだ。
彼は「お前のヴァイオリンの音色が再びオレを狂わせても構わない。7年前からオレの心の全てはお前に囚われ続けている。」と主人公に告げ、「お前のヴァイオリンの音を思わない日はない。ファイナルでの演奏楽しみにしている」とエールを送ってくれた。

ファイナルでの演奏で、美しいマエストロフィールドを展開した主人公。
主人公と冥加の二つのヴァイオリンの音が競い合うかのように高めあい、最上の音楽へと上り詰めていた。
昔よりも輝きを増した主人公の演奏に、冥加は自分はこの瞬間をずっと夢見ていたと感じていた。
「ずっとお前に会いたかった。オレの魂を支配するお前の音色から逃れたかった。でもまたこの時間を待ち望んでもいた。
憎くて憎くて愛しいオレの運命の人(ファムファタル)。この俺の愛があることを知ってくれ」と彼は主人公への愛を自覚する。
アレクセイもまた、主人公のマエストロフィールドに包まれ、感動に打ち震えていた。
彼には妖精の国が、モンドへの扉が見えていたのだ。
演奏終了後、客席からはアレクセイの姿が忽然と消えており、その後彼の姿を見た者はいなかった。

コンクールの祝賀会終わり、天音の理事から連絡があり、横浜天音が冥加の手に戻ったという。
喜ぶ主人公に、冥加は気持ちを告げる。
「オレはお前をずっと憎んできたと思い込んでいたからどう接したらいいかわからない。愛おしいと認めてしまえば拒絶されるのが怖くなる。しかし誰にも渡したくない、愛して欲しいと願ってしまう。お前に向ける感情が憎悪だけだと思っていたときのほうが楽だ」と彼は苦しそうだ。
そして「叶わない願いに振り回されるのには慣れている」と言う冥加に、主人公は「叶わない願いじゃない」と返事をする。
「いいのか?オレは独占欲の強い男だぞ」と言う冥加。
彼は「この出会いと再会が奇跡なら、未来を共にするという奇跡もありうるか。この命が尽きるまでオレのヴァイオリンはお前のことを、オレがどれだけ愛おしく思っているか歌い続けるだろう」と主人公の手に誓いのキスをしてくれたのだった。

天宮 静(あまみや せい)

空港で天宮に抱きつく主人公

屋上庭園で、天宮がきらきら星変奏曲をピアノを弾いている。
完璧に聞こえるメロディだが、彼としてはまだ完成していない演奏なのだという。
自分の演奏は技術的な面は問題ない、しかし人間的な部分で欠陥品なのだという。
天宮が主人公に唐突に「君は恋というものがどういうものか知ってる?」と聞く。
天宮は天音学園の理事長であるアレクセイに、「君の演奏は魂に響いてこない。艶も情念もないまるで人形の音楽で聞く価値がない。キミの音楽からは恋が感じられない」と言われたという。
自分の演奏に足りないのは恋だという彼は、恋がどういうものなの知りたいのだという。
そして主人公は天宮から、今後恋を知るために実験しようと提案される。

翌日から天宮と主人公の恋の実験が始まった。
2人でベンチに座り、ゆっくりと髪に触れたり。
別の日に海に行き、一緒に砂浜で山を作って遊びはしゃいだり。
恋には程遠いながらも2人は距離を縮め、少しずつ絆を深めていった。

天宮が、主人公に自分の出演するコンサートのチケットをくれた。
主人公は天宮のために花束を用意し会場へ向かう。
コンサートでの天宮の演奏はすばらしかった。
主人公は楽屋の天宮の元へ向かい花束を渡すと天宮は戸惑いながらもサプライズに喜んでくれた。
帰り道、2人で帰っていると天宮は主人公「僕のピアノは熱狂を生まない、人の心に語りかけられない。それはぼくの欠点だ。恋こそが僕にかけてるものだと、僕の師であるアレクセイは言った。先生の言葉は正しい。僕の音楽には恋のような人生を狂わす激情がない」と打ち明ける。
天宮は小さい頃の記憶がなく、気づいたらアレクセイが集めた子供たちとともにリラの家にいたという。
彼にとってアレクセイは師であり親であり、何者にも変えられない絶対的な存在なのだ。
そんな彼が言うことだから、自分の演奏に足りないのは恋で間違いないと天宮は言うのだ。
天宮は自分のピアノのため、執着や理性を失うほどの恋情を欲していた。
「でも恋をするならキミのような人がいいな」と笑う彼と一緒に帰っていると、まるで主人公と天宮はすでに恋人同士のように見えたのだった。

天宮は手の中にある花を眺めながら、なんとなく自分に恋が芽生えてる気がしていた。
先日のコンサート以降も、主人公と2人で過ごす時間はどんどん増えていった。
主人公が熱を出した天宮の看病をしたり。
お礼に2人でショッピングモールへ買い物にいったり。
天宮は主人公と共に過ごすことで自分の心の変化を感じたのだ。
彼の手の中の花は、出かけたときに主人公と手に入れたものだった。
天宮は大事そうに花を胸元に刺し、ピアノの演奏を始める。
彼がピアノを弾くと指が軽く、音も弾んで天へ登っていくようだった。
軽やかなピアノの音からははずむようなときめきが感じられる気がした。
天宮は演奏に上手く影響していることに喜びながらも、この恋の実験を終わりを寂しさを感じ、主人公ともうしばらく一緒にいたいとも思ったのだった。
天宮が演奏しているところへ、突然アレクセイが現れ「すばらしい幸福の音だ。君の音楽を解き放つ最後の鍵を見つけたんだね」と演奏を褒める。
アレクセイは彼は胸元の花をうばい、天宮は思わず演奏を止め立ち上がる。
そんな彼を気にせずアレクセイは「なんのために恋をしたか思い出しなさい。君のピアノは生まれ変わった、私のオケに入れたい」と厳しく言い放つ。
しかし天宮は「もうあなたに従うつもりはない」とアレクセイを拒否する。
リラの家で天宮はアレクセイのお気に入りだったが、冥加が来てから彼は冥加に鞍替えし天宮を捨てた。
自分は用済みのはずだ、と主張する天宮。
反抗的な天宮の態度にアレクセイは、「私の手を跳ね除けるなら敵だ。君には選ぶ余地はない。即刻函館天音学園に戻りなさい。転入手続きは済ませておく」と言って去っていった。
天宮は結局抵抗できない自分に嫌気が差していた。
彼は「結局僕は結局先生の持ち物か。先生の意思に抗うことすらできない、ただの人形なのか」と落ち込んでしまった。

主人公が屋上庭園にいると、また上から紙飛行機が降ってきた。
まるで転校初日の出来事のようだ。
前のように顔をあげると、やはり天宮の姿があり、主人公は彼のそばに向かう。
天宮はまた紙飛行機を飛ばすが、温室のガラスにぶつかってひらひら舞い落ちてしまう。
「ここは広い空とは違う。飛べる場所は限られてるよな…」と寂しそうな目をする彼に、主人公はそっと天宮の手に触れた。
すると天宮が突然「もしも僕がアンサンブルにいなくなったらどうする?」と主人公に聞く。
どう言うことか主人公が詳しく聞こうとすると、御影が理事長の呼び出しだと言って天宮を呼びに来た。
天宮はぎこちない笑顔を浮かべ去っていき、その後主人公の元へ戻ってこなかった。

帰宅した主人公は天宮のことが気になり、彼に電話をかける。
主人公からの着信に天宮は気づくが、電話をとらず、携帯をにぎりしめ懺悔のようにつぶやく。
「僕をいらないと言ったあの人が僕のピアノを求め函館天音に戻ってくるようにいった。函館に行けば僕は君の敵、アンサンブルを捨てた裏切り者だ。君の声が聞きたい、なにもかも話してしまいたい。それなのに怖い。誰に憎まれてもいい、でも主人公にだけは嫌われたくない」と彼は涙をこぼしたのだった。

セミファイナル演奏後、天音学園の勝利を聞いた天宮は、メンバーに「さよなら」と言って帰っていった。
主人公はどこか天宮の様子が気になった。
彼の後を追うと、外に御影と天宮が並び、車の迎えを待っていた。
主人公が天宮に駆け寄ると、「僕はこれから函館天音に行く。君といられるのは今日で最後だ」と言い、彼の目からは無意識に涙が溢れ落ちる。
主人公と離れがたい様子の天宮を、御影が無理やり車に乗せ発進してしまう。
主人公は思わず車を追おうとするが、御影に「天宮くんは先生に認められて成功への道が開かれようとしている。彼は演奏家としての確実な未来が約束されているの、祝福してあげて」と制される。
しかしアレクセイに従うことが天宮の幸福だと、主人公はどうしても思えなかった。
「彼が幸せかどうか誰が決めるの?あなたは天宮くんの一生を一時の感情で台無しにするつもり?」と続ける御影に「後悔したとしてももう一度話したい!」と主人公は天宮の行き先を教えてくれと頼み込む。
結局御影が折れて、天宮が乗る飛行機の出発時刻とターミナルを教えてくれる。
御影に礼を言うと主人公は空港に向かって駆け出した。
天宮が函館に行ってしまえば、二度と彼と心を重ねられない。
今が最後のチャンスだと主人公は走り続けたのだった。

天宮は空港にアレクセイといた。
アレクセイは天宮に許可をとらず、函館に寄ってこのまま世界をめぐるのだと今後の進路を全て決めていた。
アレクセイは恋をしようとも、忠実な自分の人形である天宮を求めていたのだ。
天宮は函館に行きたくないと強く思い、主人公の名前を強く念じていた。
主人公は空港について、人混みの中で天宮の姿を見つけ天宮の名前を呼び、彼に勢いよく抱きつく。
天宮は信じられない様子、しかし主人公を強く抱きしめ決意し、アレクセイに「函館には行かない」と宣言する。
「君は私の手元から飛び立つつもりか?やめておけ、すぐ翼が折れるぞ」というアレクセイの言葉にも意を変えない。
いつものように冷静になれというアレクセイ。
しかし天宮は「たしかに僕らしくはないけどずっと変わりたかった。こんな風に自分を突き動かすような恋を求めていた。先生の言う通り恋が僕を変えた。もうあなたの人形には戻れない」とアレクセイに挑戦状をたたきつけた。
主人公は天宮の手をぎゅっと握る。
そしてアレクセイの返事を聞かないまま踵をかえし、2人で横浜天音へ戻ったのだった。

天宮は前にコンサートをした楽団の公演にまた誘われているという。
今度の公演ではソロで演奏する時間がもらえそうと嬉しそうにする彼に主人公も嬉しくなる。
コンサートに出演する天宮とともに会場へ向かうと、楽団員から、「申し訳ないが今日の君の出演をキャンセルさせてほしい。君を出演させられない」と理由は話せないと断られてしまう。
「なぜ?」と詰め寄る主人公を天宮が制し、その場を去ろうとする。
その彼の後ろ姿を見て、楽団員から「マエストロに謝罪すべきだ」と声がかかる。
出演キャンセルはアレクセイの差金だったのだ。
しかし天宮は最初から分かっていたと気にせず、「僕は先生に敵対する存在になった。先生はこの日本国内での影響力は大きい。やっぱりクラシック音楽界から締め出されてしまったね」と悲しそうに笑う。
いつものように平然を装う彼だが、主人公はそうじゃないことは気づいていた。
「平気なわけじゃない、本当は怖い。でもこうやって飛び立ったことを後悔してはいない、翼は折れるかもしれないけど、でも従うだけじゃない自分になれた。生き残るためには結果を残すしかない」と天宮は言い、天宮を使ってくれる人が現れるようにまずはコンクールを優勝しようと2人で決意したのだった。

天宮がコンサートで弾くはずだった曲を演奏している。
降板させられステージで弾くことは叶わなかった曲だ。
降板のことを思い出すと主人公はまた腹が立ってきた。
しかし天宮は笑いとばし、主人公に一緒にサボろうと提案する。
2人で息抜きに散策しに外へ。
手を繋ぎ、顔を赤らめ、ステージに上がる時より緊張してきたなんて言う天宮を茶化しながら2人で喫茶店に入る。
その喫茶店にはピアノがあり、天宮が「ピアノを弾かせてもらっていいですか?」と店長に聞くと「ぜひ!」と言われる。
天宮はコンサートで弾くはずだった曲を演奏した。
演奏はすばらしく、店の客は天宮の演奏に感動し拍手を送る。
とくに女の子がはしゃい「もう一曲弾いて!」とリクエストしたため、彼は今度はきらきら星変奏曲を演奏する。
ピアノを弾く天宮はどこか幸せそうな表情を浮かべていた。
演奏が終わると店内はさらに大きな拍手に包まれた。
天宮は「僕のピアノでみんな笑ってた。あんなに喜んでもらえるとは思わなかったな」とうれしそうにしている。
そして「演奏して喜んでもらえるっていいね」と主人公に微笑んでくれた。

主人公と天宮が2人で練習をしていると、側で聞いていたおばあさんが涙をこぼしていた。
話を聞くと、天宮のピアノを聞いて涙が溢れたという。
「僕のピアノで?」と天宮は呆然としている。
「信じられない、僕のピアノであの人は涙を流した。僕の音楽が人の心を動かした」と天宮の目にも涙がにじんでいる。
主人公も嬉しくて泣けてくる。
そんな主人公を天宮は抱きしめ、「君が僕を変えた。君と恋をしたから僕の音楽は変わった。僕の音楽は君を恋する気持ちでできてる」と感謝したのだった。

コンクールファイナル、始まる前にアレクセイがバックステージ来ていた。
激励に来たという彼は、天宮に「思ったより元気そうだね」と皮肉げに笑う。
先日のコンサート降板を示唆しているようだ。
しかし天宮はアレクセイを恨んでなんかいないと告げる。
「あなたは僕に音楽を教えてくれた。そして恋をすればいいとも教えてくれた。僕の人生を大きく変えた。僕をピアノを与えてくれたこと、出会ったことに僕は感謝している」と天宮は言い、アレクセイの目をしっかり見たまま「18年間ありがとうございました」と決別の意を示してその場を去った。

ファイナル優勝の発表の次は、市民賞の発表だ。
市民賞とは、来場している一般方々の投票で選出されるもっとも会場中に支持された演奏家に送られる賞だ。
本年度の市民賞に、天宮の名前が呼ばれる。
彼は審査員から「おめでとう、皆の心に響く素晴らしい演奏だった」と褒められ、記念の盾を贈られる。
「僕が普通の人に支持された?」と呆然とする天宮。
その後の受賞者のエキシビジョン演奏で、彼はきらきら星変奏曲を演奏した。
「こんな高揚した気分でピアノを弾くのは初めてだ。この音色で人の心を動かすことができる、喜んでくれる人がいる、ピアノを弾くことができる、なんて嬉しいことだろう」と彼はピアノを弾けることを心から楽しみ、感謝することができていたのだった。

祝賀会、主人公と天宮の2人は寄り添って過ごしていた。
彼は「たくさんの人たちのためにピアノを弾いた初めてだった」と話し、演奏を喜んでくれる人のためにステージに立つことの幸せさを主人公に語った。
そして、雨宮は自分をこんなふうに変えたのは君だと感謝する。
「僕の演奏を1番聞かせたかったのは君だ。僕のピアノは君への恋心で変わった。この先なにがあるか分からないけどキミがいるから怖くない」と微笑み、「ずっと僕の隣にいてくれる?強い風が吹く空を一緒に飛んでくれる?」と言う彼に、主人公はもちろんと返事を返す。
天宮は主人公の手を握り、「僕は君が好き。君にずっと恋してる」と囁いてくれた。

七海 宗介(ななみ そうすけ)

のびのびと自分の演奏をする七海

七海は元気がない。
彼は練習しようと山下公園に来たが、人が多くてやめようと思ったらしい。
「楽しそうな人たちに俺のチェロの音なんか興醒めだろうか…」と腰が引ける七海に、主人公は「一緒に練習しよう」と誘い、2人で一緒に演奏する。
周りの人たちから拍手をもらい喜んでもらえたことに少しだけ笑顔を見せる七海だが、自分のチェロの演奏はまだ全然だめだと落ち込んでしまった。

七海には目標があった。
いつか冥加と一緒にステージに立ちたいという夢だ。
そして七海が自分を卑下し、演奏がダメだと思い込んでいる理由も冥加にあった。
七海は憧れの天音学園に入学し、憧れの冥加に指導してもらったが、彼の厳しい言葉にすっかり自信をなくしてしまっていたのだ。
しかし彼は冥加に恥じないように一生懸命がんばろうともしていたし、主人公もそんな彼を応援していた。
そんなとき、七海は幼馴染の水嶋 悠人(みずしま はると)、通称ハルと再会する。
ハルは星奏学院のオーケストラ部に所属しており、今度の全国学生音楽コンクールにアンサンブルメンバーとして出場するという。
「選んでくれた部長の期待に応えてみせる」と意気込んでいるハル。
七海はハルを見て「自分は部長である冥加からそんな風に評価してもらえるなんて想像できない。自信がない」と弱音を吐く。
ハルは七海の変貌に驚いていた。
ハルが知る七海はいつも強気で、自分の努力に自信を持っていて、常ににこやかで明るい性格だったからだ。
七海は天音に入ったことで、自分の明るさや強気がなくなっていたのだ。
自分の演奏を卑下しつづける七海に、ハルがついに怒る。
「萎縮していたらお前らしい明るく朗らかな音なんか出ない!自分の音を信じろ!」というハルの言葉も届かず、七海はそれすらも否定して去ってしまう。

七海は屋上庭園で演奏していた。
するとそこへアレクセイがやって来て、「温かい魅力的な音色だね」と七海の演奏を褒める。
そして彼は「手助けに良いものをあげよう」と光り輝く種を取り出した。
アレクセイはこの種を、美しき花を咲かせる希望の種だという。
「使ってみればわかる」と言うアレクセイに、七海は種を無理やり胸に押し込まれて気絶してしまう。
アレクセイは横たわる七海を横目に上機嫌で去って行った。

七海が演奏している。
今日の七海の演奏は自信がにじみでて、えもいわれぬ迫力すら感じられる。
まるで昨日とは別人のようだ。
主人公は七海に今の演奏がどうだったか聞かれたが、主人公は音色が突然変わった奇妙さを感じていた。
しかし七海自身はすごく調子が良いと喜んでいる。
自信に満ちあふれた様子の七海に、主人公が何があったのか聞くと、彼はアレクセイに力を貸してもらったという。
「理事長先生がダメなオレを変えてくれた。ファイナルで絶対勝つ」と彼は力強い宣言をするが、彼の急激な変化に主人公は不安を覚えたのだった。

主人公は氷渡と練習していた。
2人はとにかく楽曲を弾き込み、身体に覚え込ませるのが上達への近道だ、とお互いの弱点を指摘し合い練習し競い合っていた。
そこへ七海が現れ、2人の演奏を聞き、「結構仕上がってたけどまだ練習するのか?」と驚く。
七海は最近新しい曲ばかり練習しようとしていた。
すぐ上手く弾けるようになるため、弾きこんで練習することかどなくなっていたのだ。
七海は自分の力をおごっていた。
しかしひたすらに練習する主人公の姿を見て、七海は胸が苦しく居心地悪さを感じていた。
七海も、少し前までは曲が仕上がるまで何度も練習して悩んだり喜んだり笑いあったりしていた。
理事長のおかげですごい演奏できて自信がもてたのに、自分で努力して難しい曲に挑戦してる主人公たちを見て、七海は罪悪感を感じ始めたのだった。

ハルが成長した七海の演奏褒めていた。
ハルは七海の努力を褒めるが、七海は顔色が悪い。
自分の演奏が変わったのは、頑張ったからではなく理事長にもらった力だと気づいていたからだ。
心配になった主人公が七海の相談に乗ると、彼から「もし自分が欲しいと思うものがあって、そのために頑張ってきたけど上手くいかない。そんなとき誰かがこっそり力をくれるって言ったらどうしますか?」と問われる。
主人公は悩むが、自分の気持ちを伝える。
七海は納得したように、「そうですよね、そうやってズルして手に入れても幸せになれないですよね」と自分に言い聞かせるようにつぶやく。
彼にとってハルは一番のライバルだった、そんなハルにさえも実力だといわんばかりに嘘をついてしまった。
ハルは上を目指して自分の力で努力しているのに自分は違う、七海は自分は間違ってたと後悔したのだ。
そして七海は主人公に信じてもらえないかもしれないが、と前置きし、「今のオレの演奏はオレの実力じゃない。理事長からマエストロフィールドの種をもらって音が変わったんです」と打ち明けてくれた。
七海は自分は思い上がっていたことを自覚した。
「こんな卑怯な方法でチェロを弾いていた自分が情けない。成長に近道なんかない、自分で頑張るしかないのに」と涙ぐむ七海。
そんな彼に、主人公は大丈夫だよと励ます。
主人公に励まされ、七海は「先輩といても恥ずかしくない自分でいたい。ちゃんとチェロと向き合う」と目に強い光を取り戻していた。

主人公に七海からメールが届く。
彼は理事長に会いに行ってマエストロフィールドの種を返すという。
今から屋上に向かうという彼を見守るため、主人公も同行することにした。
屋上庭園に着くとアレクセイは歓迎し、「キミの演奏は素晴らしくなった」と七海を褒める。
しかし七海はぎゅっと拳を握り、アレクセイへマエストロフィールドの種を返したいと告げる。
「なぜ?君が望んだ能力だろう?」というアレクセイに、七海は「これはオレ自身の能力じゃない。自分の力で音楽を奏でていることにならない卑怯者だ。種を取り除いてほしい」と頼む。
黙るアレクセイに向かって、彼はつづけて「オレは己の力だけでステージに上がりたい。この夏の大会に挑む全ての参加者の前に立っても恥ずかしくない自分でいたい。アンサンブルの仲間とオレのチェロを裏切るようなことはできない」と宣言する。
すると七海の体からタネが弾き出され、彼はそれをアレクセイに突き返した。
「オレは自分の可能性を信じている、オレは自分の音楽とむきあっていく。あなたに与えられなくても目指す未来は自分でつかみとります」と強い意志でアレクセイに向かい合う七海は、主人公とともにその場から立ち去った。

翌日、七海はすっきりとした顔をしている。
彼は種を返せて本当によかったと喜び、主人公に前よりももっとチェロが好きになったと話してくれた。
主人公は七海に演奏を聴いて欲しいと言われ了承する。
彼の演奏は種の力を借りていたころの演奏には遠く及ばない、しかし彼はでもこれでいいと思えていた。
彼は「オレ自身が頑張るしかないと自覚した。
そう思えたのは主人公のおかげだ」と話してくれた。
胸にとどけと心のこもった彼の演奏に主人公は感動したのだった。

祝賀会後、主人公は七海と落ち会っていた。
顔を赤らめ緊張している七海から、「あなたと出会ってたくさん助けてもらって同じ時間を過ごして、あなたのことが好きになりました。
1人の男として、あなたのこと誰にも渡したくない。オレがあなたの一番になりたい。あなたのことが好きです、おれの彼女になってください!」と告白される。
喜びうなずく主人公。七海も飛び上がるように喜ぶ。
彼は「オレはまだ頼りないかもしれないけど、でもオレの全部であなたのこと大切にします。あなたのことが大好きだから」と誓ってくれたのだった。

氷渡 貴史(ひど たかふみ)

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