新しい靴を買わなくちゃ(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『新しい靴を買わなくちゃ』とは、北川悦吏子が原作・脚本・監督すべてを担当した日本の恋愛映画である。世界的な音楽家である坂本龍一が音楽監督、映像作家の岩井俊二がプロデュースを手がけたことで話題となった。妹のパリ旅行に付き添ってきたカメラマンのセンと、パリ在住の日本人アオイが一足の靴をきっかけに出会う3日間のラブストーリーを描いた作品。ロマンチックな物語展開はもちろん、舞台となったパリの美しい風景と繊細な音楽、瀟洒な台詞もこの作品の魅力である。

『新しい靴を買わなくちゃ』の概要

『新しい靴を買わなくちゃ』とは、2012年に公開された日本の恋愛映画である。監督・脚本・原作を北川悦吏子が担当する。北川悦吏子は、大ヒットテレビドラマ『ロング・バケーション』や『オレンジデイズ』などを手がけた人気脚本家である。音楽監督は坂本龍一。映画『ラストエンペラー』においてアカデミー作曲賞を受賞した経歴を持つ、世界的音楽家である。プロデュースは、『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』など数々の映像作品を手掛けてきた岩井俊二が担当した。
キャストは、中山美穂、向井理、桐谷美玲、綾野剛といった人気俳優が名を連ね、大きな話題となった。
物語はパリを舞台に繰り広げられる3日間の恋愛模様を描く。妹のスズメと一緒にパリへ来たカメラマンのセン。到着早々スズメに別行動をすると宣言され、セーヌ川で置いてけぼりにされる。そこで一足の靴をきっかけにパリ在住の日本人アオイに出会い、次第に惹かれていく。物語展開は波乱万丈なものではないが、話が進むにつれて見えてくる登場人物の心の傷は、共感と感動を呼ぶ。一見明るく見えるアオイはつらい過去を乗り越えきれず、気さくで優しいセンも仕事に悩みを持ち、二人とも立ち止まっていた。恋愛映画でありながら、一つの出会いを通して心の中に変化が起こり、とどまっていた場所から歩き始める姿を映し出す再生の物語でもある。

『新しい靴を買わなくちゃ』のあらすじ・ストーリー

センとアオイの出会い

アオイ(画面右側)の靴を直すセン(画面左側)

パリにやってきたカメラマンのセンと妹のスズメ。物語はタクシーの中から始まる。スズメが「写真撮ろうよ」とセンに提案し、セーヌ川沿いにタクシーを停め、センがノートルダム聖堂とスズメの写真を撮る。スズメがせっかくだから一眼レフカメラで撮ってほしいとお願いし、センはしぶしぶ三脚を組み立てる。その間に、スズメはタクシーのトランクからセンのキャリーケースを出し、タクシーに乗り込む。運転手に走り出すよう指示し、センの前を通る。スズメを乗せたタクシーが動き始めたことに気づいたセンは、驚き、唖然とする。スズメはタクシーの窓から顔を出し、「ここからは別行動ってことでよろしく」と言って去ってしまう。取り残されたセンは、「ふざけんなよ!」と憤る。
アオイは、セーヌ川沿いを携帯電話でクライアントと話しながら歩いている。電話を切った途端、何かを踏んで転んでしまう。それを見たセンは「大丈夫ですか?」と声をかける。足下を見ると、アオイが履いていたパンプスのヒール部分が折れてしまっていた。そして、アオイが踏んだものはセンの落としたパスポートだった。アオイが踏んで転んだため、パスポートはびりびりに破けている。アオイは、大使館の場所を書いたメモと自分の名刺をセンに渡す。アオイは日本人向けにフリーペーパーを作っているフランス在住の日本人だった。
センは、持っていた接着剤で折れたヒール部分とパンプスを応急処置として貼りつける。その時にアオイのパリで一番好きな場所はどこか聞く。アオイは思いついたが、「いや…大した場所じゃないです」と答えない。応急処置で直った靴を履いたアオイは喜び、二人は別れる。

ホテル案内と食事

レストランで食事をした後のセンとアオイ

大使館でパスポートの手続きを終えたセンは、アオイに「パスポートどうにかなりそうです」と留守電メッセージを残す。ホテルに行こうとタクシーに乗り込むが、ホテル名が書いてある紙をスズメが持っていることに気づく。宿泊先がわからないセンはスズメに電話するがつながらない。その後アオイから折り返し電話があり事情を話すと、ホテル情報からホテルの名前がわかるかもしれない、と調べてくれることになった。
アオイからホテル名がわかったとセンに連絡が入る。しかしそのホテルの名前はフランス語で長く難解なものだった。センがいる場所から歩いて行ける距離だと分かったアオイは、電話で道案内をすることを提案する。アオイは、凱旋門がある広場は上から見ると星形に見えることから「星の広場」と呼ばれていることや、シャンゼリゼ通りが世界一美しい通りといわれていることなど、案内をしながらその場所にまつわることも話し、センは笑顔でホテルに向かう。
センがホテルに到着すると、アオイがロビーで待っていた。センはお礼もかねてアオイを夕食に誘う。
夕食ではアオイの仕事の話をする。アオイは自分が作ったフリーペーパーをセンに見せ、「今日も取材だったんです」と言う。「なんの取材ですか?あ、おいしいレストランとか?」とセンが聞くと、アオイは「イースターの卵」と答え、取材で撮った写真を見せる。アオイの仕事の話を通して、二人は次第に打ち解けていく。レストランを出た後バーに行き、センの妹スズメの話題になる。幼いころから、センがそばにいると勝率がいいと信じているスズメ。今回のパリ旅行でも、なにか勝負をしようとしているのだろうと、センは話す。
バーを出ると、アオイはすっかり酔っぱらっていてまともに歩けない状態だったため、センがタクシーでアオイの自宅まで送ることに。アオイをアパートに送ったあとホテルに戻ろうとするも、長くわかりづらいホテル名をどうしても思い出せないセン。アパートに戻ってアオイに聞くが、泥酔状態のアオイの口からはなにも出てこない。そしてアオイは玄関で寝てしまい、センは途方に暮れる。

スズメとカンゴ

カンゴ(画面右)にクイズを出すスズメ(画面左)

一方、スズメは恋人のカンゴの家を訪れていた。半年前、絵を描くためにパリにやってきたカンゴ。突然のスズメの訪問に驚きつつも歓迎する。
カンゴの部屋には多くの作品があり、その中から新作の絵をスズメに見せる。それは、スズメの知らない女性の裸婦像だった。「なんで裸なの!?」とスズメは怒り、カンゴがなだめる。
久しぶりに会った二人は、幸せな時間を過ごす。カンゴが目を閉じ、スズメがカンゴの手を自分の体に触れさせ「ここはどこでしょう?」とクイズを出す。「全然わからないよ」というカンゴに「ここは心です」と答えるスズメ。二人は笑顔になる。

朝食とアオイの秘密

朝食のコーヒーを淹れるセン

翌朝、アオイは自宅のソファで目覚める。前日のことを思い出せないまま洗面所に行くと、「すみません道に迷ってしまいました。指一本触れてません」というメモとバスタブで眠るセンの姿があった。それを見たアオイは、昨晩センが自分を送ってくれたが帰れなくなったことに気づいた。
家のピアノでモーツァルトのメヌエットを弾くアオイ。その音をセンはねむりながら聞く。
センが目覚めて、アオイと一緒に朝食をとる。そこで、アオイが昔飼っていた猫のことを話す。メヌエットが好きな猫だったが、3年前の今頃(イースターの頃)いなくなってしまったという話だ。アオイは、メヌエットを弾けばまたその猫が帰ってくるかもしれないと思いながら、ピアノに向かっていた。
その日、アオイのアパートの地下を仕事場として使っているウェディングドレス・デザイナーのジョアンヌが来る。センはジョアンヌの仕事場を見せてもらい、写真を撮らせてもらう。そこで、ジョアンヌはセンをアオイの古い友人と勘違いして、アオイが子どもを亡くしていたことを話してしまう。
その日の夜は、ジョアンヌの家でイースターのパーティーをすることになっていた。センも誘われ、アオイとジョアンヌと一緒にキッシュを焼く。花束を買いに出たアオイが帰ると、ジョアンヌからセンは帰ったと伝えられた。電話がかかって来て、急いで出ていったそうだ。アオイは驚き、寂しい気持ちになる。
一方、スズメはカンゴと親密な時間を過ごす。しかし、少しずつ二人の間にある溝が浮き彫りになってくる。カンゴはパリに来てから、スズメに電話を全くかけていなかった。そのことをスズメに言われるも、カンゴは明るくごまかす。

センの苦悩

語り合うアオイとセン

夜、家でアオイがピアノを弾いていると、センが帰ってくる。大使館に行って渡航証の手続きをしていたそうだ。センは帰ってしまったと思っていたアオイはほっとする。センがいなくなり、なんとなく気が抜けてジョアンヌのパーティーに行かなかったアオイ。センに二人だけでパーティーをしようと提案する。
ほろ酔い状態になったセンは、ピアノを弾きながら自分のことを語り始める。もともとセンはバンドでギターを担当していた。あるときギターをカメラに持ち替えて写真を撮るようになった。センが撮った写真はコンクールに入選し、就職せずプロのカメラマンになることを決めた。自分にしか撮れない写真を撮って、写真集を出したり個展を開いたりするのが夢だった。しかし、現実はそう甘くなく、仕事もお金もなかったためもやしばかり食べていた。そんな中、女性ミュージシャンのグラビアを撮ったことがきっかけで、さまざまな女優やミュージシャンから仕事が入るようになった。懸命にクライアントの期待に応えていたセンだが、気が付いたら写真を撮るよりも顔の修正ばかりやっていた。いつの間にか、クライアントに媚び売り言いなりになっていたのだ。このパリ旅行はあくまでスズメの付き添いだが、こんな仕事は辞めてやろうという気持ちもあった。ところがパスポートが破れてしまったとき、最初に気にかかったのが仕事のことだった。センは夢に向かうことも逃げ出すこともできず、立ち止まったままになっていると感じていた。
センの話を聞いたアオイは「セン、また自分の写真撮れるよ。だって、もやし食べてがんばれた人は、またがんばれるよ」と言う。その言葉を聞いて、センの表情に光が差す。センは無言のままアオイの言葉をかみしめた。

アオイの苦悩

アオイがねむろうとしたら、センは玄関の近くで布団にくるまって横になっていた。アオイも布団にくるまって「真似していい?」とセンの隣に行く。
アオイは「私ね…」と言いかけて少し考え、「やっぱ話すのこわいや」と言う。センは、「俺聞くのこわくないよ」と言い、そこからアオイは少しずつ自分の話をする。
アオイは東京の美術大学を卒業した後、画廊に入った。そこでフランス人画家と出会い、結婚をする。しかし、その画家にはあちこちに他の女性がいたことが判明し、アオイはすでに妊娠していたが離婚した。1人で生んで育てる決意をしたアオイ。シオンと名付けたアオイの息子は、天使のようにかわいらしいかった。ある日、シオンは弱っている猫を拾ってきた。シオンが「飼おうよ、死んじゃうよ」とアオイに訴え、猫は家族の一員になった。その猫は、シオンが弾くモーツァルトのメヌエットが好きだった。愛らしく優しい心を持ったシオンとシオンのピアノで必ず帰ってくる猫と過ごす日々は幸せそのものだった。ところが、シオンは体が弱く5歳までしか生きられなかった。アオイは悲しみに打ちひしがれ、シオンがいなくなった時から、動けなくなっていた。
センは涙を流すアオイを抱きしめた。

パリで一番好きな場所へ

遊覧船に乗るアオイとセン

翌朝、センはアオイの取材についていく。洋菓子店でイースターの取材をした後、パンを食べながらアオイは、ヒール部分が折れてしまったパンプスを履いてきていることに気づき笑い出す。そして「新しい靴を買わなくちゃ」と言う。
センが「アオイのパリで一番好きなところに行きたい」と言い、二人は遊覧船に乗る。遊覧船は、恋人同士がくぐるときに願いごとを思うとかなうと言われる橋「ポン・マリー」に近づいていく。願い事がかなうのは恋人同士限定という言い伝えから、センは「じゃあ、恋人同士のふりをしますか」と言う。ポン・マリーの下をくぐったあと、アオイは「願いごと、何にした?」とセンに聞く。センは「秘密です」と言いつつも「もしかしたら同じこと考えているかもしれないですね」といたずらっぽく笑う。そして、つないだ手を「せっかくなんで、このままで」と言って握る。
その後、アオイがエッフェル塔を見て「ねぇ、あれ」と言う。アオイの一番好きなものはエッフェル塔だった。ありきたりで特別でもないが、どんな時でもそこにあるエッフェル塔にアオイは支えられてきたのだ。「俺もアオイさんのエッフェル塔になれたらいいのに」と言うセン。「明日帰る人がそんなこと言っちゃだめよ」と答えるアオイ。もうすぐ訪れる別れに寂しさをにじませる二人。アオイはエッフェル塔を見て「大丈夫よ。あたしにはこいつがいるから」と言う。

スズメの決意

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