沙耶の唄(ゲーム)のネタバレ解説・考察まとめ

『沙耶の唄』とは2003年12月にゲーム会社ニトロプラスにより発売されたPC専用アダルトゲームである。主人公・匂坂郁紀はある時事故にあったことから生死の境をさまよい、奇跡的に助かったものの郁紀は五感のすべてが事故前とは大きく変わってしまった。景色は豚の内臓をぶちまけた様なものになり、人間は奇妙な肉塊に見えてしまい発狂しそうな生活の中で、唯一人間の姿をしている美少女・沙耶に出会ったことで郁紀は沙耶に惹かれて共に生活を送ることになった。
脚本を『魔法少女まどか☆マギカ』の虚淵玄が務める。

郁紀は昔に読んだ漫画を思い出した。その漫画は主人公の男が事故で人が石くれに、ロボットが美女に見えてしまうようになったという内容であった。物語の結末は、恋を成就させるために男が人をやめるというものであった。郁紀はその漫画の内容から、歪んだ世界で美しく見える沙耶は、実際には違う姿をしていることに気づいた。さらに、鈴見の遺体を見て、以前に自身が美味しいと食べた果肉が人肉であったことにも気づいた。それでも、郁紀は沙耶を愛しており、人としての倫理観を捨てて共にいることを選んだ。共にいることを選んだ郁紀に沙耶は戸惑う。そんな沙耶に郁紀は先ほど遮られてしまった「愛している」という言葉を紡ぐ。沙耶は郁紀からの言葉に歓喜して涙を流した。2人は落ち着いた後に鈴見の遺体を冷蔵庫にしまい、鈴見の家で死んでいた妻と娘を鈴見の家の冷蔵庫に保存食として冷蔵庫にしまった。
落ち着いてから郁紀は沙耶に奥涯宅から持ってきた3枚の写真を見せると、そのうちの1枚に見覚えがあると関心を示した。その写真の木々に囲まれた森の中の一軒家を写したものであった。沙耶曰く写真に写っているのは人が寄り付かないような場所にある奥涯の別荘だという。郁紀は奥涯の手がかりを探しに別荘へ赴くことを決めたが、沙耶は自身を愛してくれる郁紀がいるから奥涯の捜索はしなくていいのだという。しかし、郁紀は沙耶のことを詳しく知っているだろう奥涯に会い、沙耶のことを詳しく聞きたいために会いたいからと、別荘へ行くと譲らなかった。

謎の人物からの誘い

ある日、耕司は大学での講義をすべて終えて、暇を持て余しているところに郁紀から相談ごとがあるから駐車場に来てほしいと電話を受けた。今までの郁紀の態度を考えれば奇妙な行動であり、耕司は郁紀の真意を訝しんだ。郁紀が心を開てくれたのかと思いつつも一抹の不安をぬぐうことはできなかった。駐車場に行くと郁紀が待っており、郁紀は耕司に自身が奥涯について調べていることを話し、その奥涯について調べるのが1人では難しいから手伝ってほしいという。郁紀の表情は以前とは違い余裕があり、微笑んですらいた。耕司にはこの郁紀の変わりようが好ましくないものだと直感的に感じていた。耕司は郁紀の真意を探ろうとするが、郁紀の真意は見えないまま郁紀に言われるがまま車を走らせることとなった。場所は沙耶が見覚えのある場所と言っていた写真に写っていた栃木県の某所であった。
一方、瑶は1人で昼食をとっていた。親友であった青海が消え、恋していた郁紀には嫌われ、耕司も食事の場に来ないという孤独に悩んでいた。そんな時、瑶の携帯にメールが来た。差出人の名前は青海となっており、瑶は驚きの声を上げて、内容を見た。内容は郁紀について興味があるなら誰にも内緒で郁紀の家に来いとのことであった。内容はとても青海が書いたものとは思えなかったが、青海なのか確認するメールを返信した。しかし、そのメールに対する返信は会った時にすべて話すから誰にも内緒で来いだった。瑶は得体のしれない者からのメールに怯えながらも郁紀の家へ行くことを決めた。

郁紀の家へ来た瑶は漂う異臭にすら怯えながらも、郁紀の家の呼び鈴を鳴らした。そうすると瑶の携帯にメールが届き、内容は鍵が開いているから入ってこいであった。得体の知れない何かに監視されている感じに恐怖を感じて涙を流しながら郁紀の家へ足を踏み入れた。瑶が玄関に入ると見覚えのある靴があった。それは青海の靴であった。瑶は青海がここにいるはずがないと思いつつも、確認するために青海の携帯に電話を掛けた。2階から青海の携帯の着信音が聞こえた。しばらく着信音はなったがやがて何者かが電話を切った。青海の携帯を使って自身をここまで誘導した奇妙な人物に瑶は意を決して呼びかけるが返事はない。瑶は着信音が聞こえた2階へ上がった。

恐怖に涙する瑶

瑶は恐怖のあまりに涙を流しながら、謎の人物が青海であるかもしれないというわずかな希望にしがみつきながら青海の名前を呼んだ。震える足で寝室へと足を踏み入れた瑶を得体の知れないモノが襲ってきた。絶叫して暴れる瑶を羽交い絞めにして体を弄り回されるが、少しすると解放された。瑶を襲ったモノは部屋の隅の暗がりに潜み、瑶を監視していた。瑶はその気配を感じながらも、そちらを見ようとは思えなかった。恐怖している瑶の携帯に新たにメールが届き、内容から自身を襲ったモノとメールの主が同一人物であることが分かった。瑶は恐怖のあまりにその場で蹲り泣いた。その姿を見て襲ってきたモノは嘲り笑った。そして、瑶の身体に絡みつくとその身体を蹂躙していった。瑶の耳に「殺しはしない。死ぬまで愛してあげるから」という声を最後に瑶は精神崩壊を起こした。

奥涯別荘にて

郁紀と耕司は奥涯の別荘に着いた。別荘は手入れされていなかったがために、廃屋同然の姿になっていた。郁紀は施錠されていた扉を蹴破って中へと入り、家探しを始めた。耕司は気が進まなかったが、郁紀と同じように家探しを始めた。しかし、耕司は家具や調度品は必要最低限で、部屋によっては家具もないような別荘に物色は無意味なのではと思っていた。別荘内にある生活の痕跡はトイレ、浴槽、台所、ベッドのみであった。そのため、収穫が少なそうな屋内ではなく、庭を調べようと耕司は外へ出た。すると、玄関ポーチの横に半地下にめり込む形で粗末な扉があることに気づき、蹴破って見てみると、地下へ続く階段が現れた。中へ入るが、そこには貯蔵庫とボイラーのみで特に収穫はなかった。
耕司は他になにかないかと散策していると滑車も鶴瓶縄もない古井戸を見つけた。深さは10メートルほどで泥水が溜まっていた。耕司は古井戸の縁に寄りかかり、人の出入りのないこの別荘は何かを隠すための場所なのではないのかという考えに至った。そして、奥涯について情報を持っていそうな涼子に連絡を取ろうとするが、留守番電話サービスへと繋がってしまい涼子と話すことはできなかった。耕司は留守番電話サービスに郁紀と共に奥涯の別荘にきたこと、住所、この別荘が本当に奥涯の物件なのか調べたい旨をメッセージに残した。続いて、何も告げずに出かけてった自身を心配しているだろう瑶へ電話をする。瑶の電話に繋がるとすすり泣く瑶の声が聞こえてきて、ただ事ではない雰囲気に耕司は慌てる。
瑶は怪物に襲われたこと、襲われてから体が腐っていき肌が崩れ耳が取れてしまったと話す。耕司は必死に瑶へ話しかけるが、瑶の気道に詰まった何かを吐き出している音だけが携帯から聞こえてくる。その異常事態に夢中になっていたために、郁紀が近くに来ていることに耕司は気づかなかった。耕司は郁紀に持っていた携帯電話を叩き落とされ、さらに古井戸へと落とされてしまった。古井戸の外から郁紀の笑い声と共にバッテリーを抜かれた携帯電話が落とされてきた。下に溜まっていた泥水のおかげで耕司は無傷であったが、古井戸から抜け出そうにも指をかける場所もなく、独力で出るのは不可能な状態であった。耕司は親友であった郁紀に殺されなければならない道理がわからずに混乱する。耕司がなぜ殺そうとするのか問うと、郁紀は「いつか耕司が自身の邪魔をする存在になりうる可能性があったから」と言う。耕司はその場から去る郁紀に必死に声をかけたが郁紀がその言葉を聞くことはなかった。

新しい家族

郁紀は耕司を殺したという事実に爽快感を味わっていた。誰の目に触れないこの場所は邪魔者になるであろう耕司を屠るのにうってつけであると、住所を見た時から考えていたことであった。郁紀は沙耶との生活を脅かす人物として耕司以外に瑶も含めていた。郁紀は帰路につきながら瑶の始末をする手立てを考えていた。しかし、さしたる妙案が浮かばないまま自宅へと着いてしまった。帰ったことを告げると沙耶が笑顔で郁紀を出迎えた。沙耶は帰ってきた郁紀に「郁紀をびっくりさせる準備をしている」と言う。そして、その準備が整ったとして、郁紀に目を閉じさせて2階の部屋へ向かう。その道中にどこかからか聞こえてくる音に沙耶が誰かを家に上げたのだと気付いた。そして、その声がすすり泣きだと気付いた時に郁紀は驚愕した。人の感情を表した声を聞きとれるのは沙耶の物だけであったはずだからである。驚きながらも沙耶の言う通りについて行き部屋に入り、沙耶の言う通りに目を開ける。そこには全裸で胎児の様に蹲る瑶の姿があった。瑶は郁紀の目にもしっかりと人間の姿に見えていた。沙耶は「瑶が郁紀に対して好意を持っていることを知ったために郁紀にかわいがってもらえるように瑶の身体を作り替えた」と言う。沙耶は瑶を自身と同類の身体にしたのだ。そのため、郁紀の目を通しても人の体に見えるのだ。郁紀は沙耶が人間ではないことに納得していたが、それだけではなく人間を超越した存在であることに驚きを隠せなかった。沙耶は「家族を欲していた郁紀のために家族として瑶を改造してプレゼントしたかった」と言う。
郁紀は瑶の始末が思わぬ形で解決ができたことに安堵した。郁紀は沙耶と共に瑶をペットとして扱うことに決まった。
郁紀は友人だった2人を殺し、さらに自身に好意を寄せていた人間を廃人にした挙句にペットととしたにも関わらず、安らかな眠りに落ちようとしていることに自身はかつての自身とは違うことを改めて感じていた。そして、これから先、沙耶とはどこまで行くのか、どんな風に変わっていくのかということに郁紀は想い馳せた。

井戸の奥の秘密の部屋

耕司は古井戸の中で死を目前にして走馬灯を見ていたところに、耕司の残した留守番電話サービスのメッセージを聞いた涼子がやってきた。涼子は病院で見せていたような物腰柔らかな姿から一変して能面のような硬い表情に鋭い眼光をしていた。それでも、涼子は瀕死の状態になっている耕司を古井戸から助け出した。耕司は「警察に連絡をしたのか」と聞くと、涼子は冷笑を浮かべながら警察ごときでは解決できる問題ではないとした。そして、耕司が落ちた古井戸の中を調べていると、一部が隠し扉になっていることに気づき、2人は奥へと進んでいった。

銃を取り出す涼子

涼子は通路を歩きながら奥涯が通路の奥にいるだろうと思い、着ていたコートから水平ニ連式銃身、しかも銃身を切り詰めた違法カスタムの猟銃を取り出した。耕司がそれを見て驚いていると涼子に奥涯を最初に殺しておけば郁紀達はこんな悲惨なことに巻き込まれずに済んだかもしれないと謝罪をされた。耕司は涼子の言動に事態は自身の手の離れたところまで転がっていくのを感じていた。涼子はこれから自身のすることは郁紀達に起きている悲惨な出来事を終わらせるためのものであるから、何をしようとも口を出すなと耕司に釘をさした。
通路の奥へとたどり着くと、そこには扉があった。扉を蹴破り中へ入るとそこは、手術室のような部屋であった。しかし、手術室には不釣り合いな奇妙な意匠を施した小像や釣り鏡、稀覯書めいた本などがあった。戸惑う耕司に涼子はまじまじと見るなと注意して、奥涯が書いた奇妙な図形やラテン語をハンディカムで記録した後スプレーで塗り潰していった。涼子がその作業を見ながら耕司は奥涯について尋ねた。涼子は室内に奥涯の遺体があったことを耕司に告げた。遺体の手には回転拳銃が握られたいたことから自決したのだと耕司は理解した。一歩間違えれば耕司も奥涯の様に人知れずにミイラ化していたのだろうと考えながら、疲労から気を失った。

耕司が目を覚ますと奥涯の別荘のベッドの上であった。そばでは涼子が手術室から持ってきたであろう資料の類を読んでいた。涼子は資料を読みながら耕司に「沙耶という名前に心当たりはないか」と聞いてきた。耕司は「聞き覚えの無い名前だ」と答える。涼子は沙耶は奥涯の研究の核にあたるものであり、郁紀が沙耶と深くかかわっているようなら郁紀は引き返せないところまできているだろうという。耕司が涼子に郁紀をどうするのか聞くと涼子は奥涯を殺し損ねて後悔したために2度と同じ思いをするまいと郁紀を殺すことを決めていた。
涼子は資料に目を通して何か得心がいったかのような素振りを見せて耕司の方へ向いて警告として「すべてを忘れろ」と言った。しかし、耕司は涼子の警告を無視して助けを求めていた瑶を助けるために東京へ帰ることにした。涼子は1度殺されかかった耕司に2度と殺されるなよと護身用として奥涯が自決に使った回転拳銃を放って渡した。あまりにも暴力的なそれに耕司は使うときがあるとすれば結末が破滅の時だけであると感じていた。そして、耕司は瑶を助けて郁紀にも生きたまま罪を償わせるつもりでいたが、本能的に郁紀を危険であると判断した耕司は拳銃をポケットにしまった。

沙耶という生物と親友の所業

耕司は自身の車に戻り、予備で持っていた携帯で郁紀に電話を掛けた。郁紀は驚きと怒りを含んだ声で通話にでた。耕司は古井戸に隠し扉があり、その奥で奥涯に会ったことを告げた。そして、沙耶が何者であるかもわかり、それらをすべてバラしてやると真実と嘘を混ぜながら郁紀にハッタリをかました。郁紀の怒りに我を忘れている声に耕司は間違いなく郁紀が沙耶と深くかかわっていることを理解した。耕司は郁紀に青海と瑶を無事に返せば郁紀と沙耶には関わらないと宣言した。郁紀は「青海のことは知らない」と言い、「瑶は瑶自身が戻りたがるかわからない」と言った。耕司は郁紀の発言に瑶はまだ生きていることに確証を得て安堵した。耕司は瑶の解放を条件に沙耶についての資料を破棄すると告げるが、郁紀は先に資料を破棄することを望んだ。耕司はこれ以上の問答はハッタリがバレてしまう可能性があることから、いったん電話を切って東京へ帰ることにした。
通話が切れた後の郁紀は危機感を感じていたが、それを冷静に受け止めて家族として迎え入れた瑶と沙耶を家長としての責任を果たすために守ることを決めた。沙耶に耕司が生きていたことを告げると怯えるでもなくただ呆気に取られている様子であった。郁紀は沙耶に家を放棄して別の場所に移送しようと提案する。沙耶は名残惜しそうな態度を示しつつもその提案を受け入れる。郁紀は鈴見の車を拝借して逃げることを決めて、そして追ってくるであろう耕司を迎え撃つために武器を手に入れることにした。

涼子は耕司が去った後も奥涯の残した資料の解読をしていた。その資料には「彼」の知識欲は貪欲で学習率が高いこと、「彼」の意識は希薄であり人類とは精神構造が違うこと、「彼」は奥涯を質問攻めにしても自身への質問には答えることができなかったなどが記されていた。また「彼」はこちら側の宇宙に実体化した直後に精神活動を始めており、自身の故郷の情報は持っていなかった。これらのことから奥涯は「彼」への興味が尽きることはなかった。資料にはしばらく奥涯と「彼」の蜜月の記録は続いて行った。そして、「彼」は生物の精子を胎内に吸収したいという本能的衝動を持っており、「彼」はそのことから「雄の精子を必要とする存在」であると規定して自身を「雌」と主張した。そのため「彼」は「彼女」という呼称に変わり、やがて沙耶という名前を得た。沙耶は知識を貪るだけの生物から感情を示していくようになっていった。そして、沙耶は体内に取り込んだ生物を作り替える能力を持っていることが記されていた。狂人の妄想のようなそれらを真っ当な人間であれば信じることはないが、涼子は奥涯から以前に迷惑極まりない怪奇な目にあわされているためにそれらを真面目に読んでいた。

耕司は東京に帰りつき、郁紀の家へとやってきた。家の中へ侵入して中を散策してみるが、誰もいなかった。耕司は家の中に充満する異臭に郁紀がどんな暮らしをしていたのか調べるために異臭の元である台所を訪れる。台所に訪れた耕司は側にあった冷蔵庫に手をかける。冷凍庫には何かの肉塊が入っており、続いて冷蔵庫を見ると人間の内臓と手首がチルドに収められていた。その手の持ち主は耕司の恋人である青海のものであった。耕司は郁紀と決着をつけることを決めて携帯電話に手を伸ばした。

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沙耶に元の暮らしに戻りたいか聞かれた郁紀は深く考えることもなく「戻りたい」と答える。沙耶は郁紀の答えを聞くと哀しむような安堵するような微笑を浮かべた。その笑みを見た郁紀は沙耶をどうしようもなく傷つけたかのような気がした。郁紀が先ほど言いかけた言葉を紡ごうとすると沙耶にキスで口を封じられてしまった。そのうち、郁紀の意識はぼやけていき、「おやすみなさい」と囁く沙耶の声が聞こえる。郁紀は沙耶に一言「愛している」と告げようとするが、その言葉を口にすることなく郁紀は意識を手放した。

目を覚ますと、まず最初に感じたのは鈴見の死体から発せられる腐臭であった。ここは慣れ親しんだ郁紀の家であった。おぞましい光景はどこにもなく、懐かしいごく普通の景色であった。郁紀は沙耶の姿を探して家の中をうろつくが、どこにも沙耶の姿はなかった。
郁紀は警察に電話をすると、久しぶりの沙耶以外の人の声に涙が出るほどの懐かしさを感じた。しかし、郁紀は鈴見、そして鈴見の家族と青海の殺人および死体棄損という罪状で逮捕されてしまった。郁紀は警察の取り調べに対して鈴見の家族と青海は殺害していないと正直に答えたが警察は信用してくれなかった。しかし、精神科の医師により郁紀は罪を償うことが出来る状態ではないとして留置所ではなく、精神病院へ入ることが決まった。郁紀は周りの「沙耶という少女はいなかった」という言葉に、周りの人間の世界に沙耶が存在していなくても、自身の世界にが沙耶はいたと考えていた。そして、郁紀しかいないこの病室なら沙耶の声を聞いてもいいんじゃないかと思っていた。
それから、郁紀は沙耶を待ち続けた。待ち続けていたある夜に廊下を何かが這いずる音が聞こえた。郁紀はその這いずる何かが沙耶であることを確信しており、声をかける。扉の奥からは戸惑う雰囲気が伝わってくる。声を聞かせてほしいと郁紀は頼むが、沙耶は扉の隙間から携帯電話を寄越した。その画面には自身の声は変に聞こえるから嫌だという旨が書かれていた。郁紀は沙耶の恥ずかしがっている行動に笑みをこぼすと、そんなことは気にならないと言って、携帯電話を沙耶に返す。しかし、沙耶は郁紀が覚えている姿でいたいとして、姿を見せることも声を出すことも拒否した。

郁紀は薄々感じていた歪んだおぞましい世界でただ1人美しかった沙耶は歪んでいない正常な世界ではきっと違う姿なのだろうと確信した。郁紀はあの日郁紀が沙耶に言おうとして保留になっていたことを覚えているかと聞く。沙耶もそのことは覚えていた。郁紀は直接言うことに気恥ずかしさを感じて沙耶にならい携帯電話に「愛している」と入力する。そして、携帯電話を沙耶へと返すと扉の外で沙耶が涙しているのが郁紀に伝わった。
郁紀は元に戻りたい気持ちが確かにあった。しかし、その願いを捨てて沙耶と手を取り合って進むことも構わなかったという郁紀の本心を沙耶は理解しつつ、あの日「愛している」という言葉を聞こうとしなかったのだ。その一言を聞けば後戻りできなくなってしまうことを沙耶はわかっていたのだ。沙耶は郁紀のすべてを奪いつくすことが、郁紀はすべてを擲つことが出来なかったために、2人で生きるという幸せを手にすることが叶わなかった。

沙耶と会話する郁紀

郁紀は沙耶に今後はどうするのか聞くと、沙耶は奥涯の行方を捜して、自身がいた元の場所に還る方法を探すという。郁紀はその沙耶の行動を応援する。沙耶は道を決めて、郁紀はそれを祝福したことで別れが決まった。郁紀は自身はいつまでもここにいるから、いつでも来ていいと声をかけた。沙耶は「ありがとう。さよなら」と携帯に打ち込み、それを見た郁紀は携帯を沙耶に返してさようならを告げた。沙耶は返事をするように扉をぺたぺたと優しく叩くと、這いずる音をさせながら去っていった。そして、郁紀は独り取り残された。

それからの日々はいまだに還ることが出来ていないかもしれない沙耶が孤独に挫けそうになってしまいそうになったときに郁紀の元へ訪れる日を郁紀はいつまでも待ち続けた。

ED2

電話をとった耕司は涼子に電話をした。耕司は涼子に郁紀の家を調べた結果、郁紀が殺人を犯し、さらには遺体を食べていたと知らせた。涼子は耕司に自身が行くまで動くなと命じた。それは、沙耶の資料を読み、沙耶が一筋縄でいくような相手ではないことをわかっていたからだ。涼子は夜半には東京に戻ると耕司に告げて電話を切った。涼子は沙耶に関する資料の暗号解読をしていたが、すべて終わらせることはできないだろうとして沙耶の能力と弱点に絞って解読をすることにした。

郁紀は自宅を破棄して沙耶が奥涯宅に住んでいた頃に近場にあった廃墟を根城とした。その廃墟に沙耶たちを置いて郁紀は町へと行き武器として薪割り用の斧を購入した。生きていた耕司を頃合いを見計らって仕留めるためである。郁紀はやがて来るだろう耕司を殺す算段を沙耶と交わした。
一方、耕司は涼子と東京のファミレスにて再会した。耕司は涼子に「沙耶についての調べ物が終わったのか」と聞くと、進んではいるが確信に至るまではいっていないという。涼子は耕司に再度この件から手を引けと警告するが、耕司は引かなかった。耕司は奥涯について尋ねると、奥涯はT大の機材を無断で使い沙耶を調べようとしたことでバイオハザードを発生させてしまい大学内のネズミとかつてはネズミであったであろう何かを涼子を含めた大学の職員で駆除することになった。大学の職員は奥涯のやらかしたことの究明を行わなかったが、涼子だけは事の究明に動いた。その結果、奥涯が何をしていたのか、奥涯がかかわっていた連中、唆した連中について突き止めた。このことで涼子はこの世の理性というものがいかにタガの弛んだものか理解してしまい、それ以降は銃を抱いてしか眠ることができなくなったという。耕司は涼子から奥涯の書いた沙耶に関する資料を渡され目を通すが、あまりにも突拍子のない、ともすれば三文SF小説のような内容に戸惑う。涼子は耕司に資料の内容を信じるのか聞かれると、疑う理由はとっくの昔に見失ったと告げた。涼子は沙耶を倒す「切り札」としてステンレス製の魔法瓶を取り出した。耕司は涼子の話にも奥涯の資料にも沙耶についていけないと言い、郁紀を殺せればそれでいいとした。結果、涼子は沙耶を、耕司は郁紀を殺すことになった。
耕司は決着をつけるために郁紀に電話をする。郁紀は沙耶に関する資料を渡せば代わりに瑶を解放するという取引きを持ち出し、耕司はそれに応じた。郁紀は耕司に1人で待ち合わせ場所に来るようにと要求したため涼子は耕司の車のトランクに身を隠すことにした。

耕司が郁紀の待つ廃墟に着くと、中に入れと郁紀から告げられた。中に入ると湿った音が聞こえてきた。さらに何かの声も聞こえてきた。とある部屋に入るとすすり泣くような声が聞こえ、耕司は声をかける。すすり泣いていた者は声掛けに反応して耕司の名前を呼んだ。耕司は直感的に瑶だと思った。瑶は耕司に殺してくれと懇願しながら湿った音を立てて這いずり回る。ライトで瑶を照らすと、かつての姿とはかけ離れたおぞましい姿に耕司は叫びながら涼子から貰った銃を乱射した。4発の銃弾を貰ったにもかかわらず、死ぬことのできなかった瑶は耕司に覆いかぶさる。耕司は恐怖から近くに転がっていた鉄パイプを無我夢中で掴み、瑶を殴打した。何度となく殴打を繰り返すと、やがて瑶は動きを止めた。そして、背後に感じた気配に振り返ると斧を構えた郁紀が襲ってきた。耕司は鉄パイプで応戦する。喧嘩慣れしていない郁紀を圧倒して耕司が郁紀に鉄パイプで止めを刺そうとすると足元に沙耶が絡みつき引き倒された。
郁紀が沙耶の名を呼んだことで、耕司は足元に絡むのが沙耶だとわかった。しかし、それがわかったところで首に巻き付き絞め殺さんとしてくる沙耶を止めるすべがない。耕司が意識を失いかけたときに涼子がやってきて銃で沙耶を撃った。沙耶が叫び耕司から離れると、涼子は「切り札」である魔法瓶を耕司に投げ渡して、沙耶にかけろと指示した。郁紀は突然現れた涼子を睨みつける。耕司はそれを気に留めずに魔法瓶の中身を沙耶にぶちまけた。中身はマイナス196度の液体窒素であった。液体窒素をかけられた沙耶は苦しみ悶える。涼子にとって悪夢の象徴ともいえる沙耶が苦しんでいる姿は理性のタガを外してしまうのに十分であり、けたたましく笑う。郁紀が怒りを滲ませながら涼子に斧を持って迫る。涼子がもう1度発砲しようとしたが、弾薬の保存状態が悪く不発に終わってしまう。涼子が次弾を装填している隙に郁紀が斧を涼子の左肩に振り下ろす。斧が胸半ばまで到達したが、涼子は笑みをこぼしながら装填が終わった銃を沙耶に向ける。

負傷しながら沙耶を撃ち抜く涼子

郁紀が制止の叫び声をあげるが、涼子は沙耶に向けて発砲した。銃弾は液体窒素で凍っていた沙耶の身体を吹き飛ばした。いかに再生能力に長けている沙耶であろうと塞げる傷ではなく、間違いなく致命傷であった。沙耶は弱弱しい声を上げながら死の痙攣に震える。その姿を見る郁紀は感情がすべて抜け落ちたような状態であり、郁紀を殺そうとしていた耕司ですら殺すほどの価値もないと思えるほどに、郁紀には何も残っていなかった。
郁紀は涼子の遺体から引き抜いた斧を自身の頭部に向けて振り下ろして息絶えた。あまりに凄惨な光景に耕司が唖然としていると、瀕死の沙耶がゆっくり郁紀の遺体へと進む。耕司は漠然と沙耶が郁紀の遺体に到達してしまえば自身の負けだと感じて、手に持っていた鉄パイプで沙耶の進行を止めようと何度も殴打する。それでも、沙耶の歩みが止まることはない。郁紀の遺体にたどり着いた沙耶は愛おしそうに自身の触手で郁紀の肩を、頬を撫でて息絶えた。その光景に沙耶が死ぬまで郁紀を手放さずに繋がっていたことに、耕司は恋人も友人も親友も何も取り戻すことができなかったと悟った。

毎年行っているスキーに青海がスケートもできる場所を選びたいと提案する。虫食いのように噛み千切られた青海の姿は随分痩せたように見えると耕司は思った。青海の提案を郁紀が笑って受け止める。しかし、頭部が真っ二つになった郁紀の表情はうかがえない。郁紀が続けてジョークを飛ばすと、青海と瑶が笑う。朗らかに笑う瑶の姿に郁紀と恋仲になって幸せなのだろうと耕司は思った。耕司は郁紀や青海と違い普段通りの瑶の姿に疑問を抱き、それを瑶に質問する。瑶は笑いながら耕司と違う姿になっていたのは昔のことであり、今では耕司も自身たちと同じ仲間ではないかと笑う。耕司が瑶の言葉に自身の身体を確認すれば、そこにはおよそ人間のものとは思えない蠢いている触手があった。
耕司が自室のベッドで目を覚ますと先ほどの悪夢のせいなのか、寝汗でぐっしょりと濡れていた。落ち着くために煙草を吸おうとしていると、ダイニングテーブルに座りコーヒーを啜る斬殺死体になり果てた涼子が声をかけてくる。その声掛けに気さくに答えながら涼子の向かいの席に腰を下ろす。これが幻覚であることを耕司は理解していた。凄惨な目にあった耕司は毒に冒されたかのように毎晩狂気的な悪夢に魘され、幻覚とおしゃべりをしていた。それでも、生前の涼子を真似て人前では普通の人間として振舞っていた。やがて、幻覚が終わり、ようやく正気を取り戻した耕司は煙草を吸う。奥涯の残した三文SF小説のような手記は戯言ではなく、沙耶という怪物は確かにいて、その眷属もまだどこかの宇宙に存在している。その事実を知った耕司は、他の何も知らない人間たちのように無知で無垢な幸福を噛み締めることは不可能であった。耕司は生前の涼子が言った「どんなに世界が底抜けに滅茶苦茶になっていこうと、悲鳴を上げて逃げ回る以外の選択肢がある」という言葉を身に刻んでおり、銃を抱いてしか眠れなくなった涼子同様に奥涯が残した拳銃に1発の弾を込めて洗面所の薬棚の後ろに隠した。

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