30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい(チェリまほ)のネタバレ解説・考察まとめ

『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい(チェリまほ)』とは、豊田悠のボーイズラブのラブコメディ漫画。スクエアエニックスpixivより単行本となった。2020年ドラマ化。地味で内気なサラリーマン安達は童貞のまま30歳になった日から、触った人の心の声が聞こえるようになる。偶然エレベーターの中でイケメン同期黒沢の心の声を聞くと、自分への恋心だった。安達はどう受けとめるのか。ピュアで一途な恋が感動を呼んだ。全ての人に優しい世界。ボーイズラブの枠を超えたと絶賛されたラブコメディである。

ある日、安達は部長から長崎への転勤を打診される。昇進ともいえる話だった。安達は、衝撃を隠せない。その日は黒沢とライブに行く予定だった。転勤の話が気になる安達は仕事でミスをして残業になった。黒沢にライブにはいけなくなった、と謝る安達だが、転勤の件は言いだせなかった。その残業のあと、安達は転勤を断れるのか先輩社員の朝比奈に相談するのだった。先輩からは、出張として長崎へ行ってから決めてはと提案される。安達は、その提案を受け、長崎の店舗を見に行くことにした。黒沢を傷つけてしまうかもしれない。ふたりの心が離れてしまうかもしれない。安達は、黒沢に触れていないと心の声は聞こえないから、不安で仕方なかった。そして、転勤を迷っている自分の気持ちを説明する自信もなかった。
翌日、黒沢は会社で、安達の転勤の話を朝比奈から聞いてしまった。転勤の話もショックだが、それを自分が安達から聞いていないことがもっとつらい。その夜やっと、安達と話すことができた。しかし、何の相談もなく、安達が転勤を断ろうとしていることを知り、黒沢は感情的になってしまった。「せめて一言相談してくれたって。俺たち付きあってるんじゃないのか」と黒沢は責めるような言葉を安達にぶつけてしまった。悲しみと怒りの心の声を知って、安達は何も言えなかった。「言葉にしてくれないとわからない」と言って黒沢は帰ってしまった。
安達は、柘植に相談することにした。柘植は安達に「本気なんだろう、お前もあの黒沢ってやつも」と指摘する。安達は、本気だからこそうまく話せない。どうすれば、勇気をだして、黒沢に自分の想いを伝えることができるだろうか。
長崎への出張の前に、安達は、黒沢への手紙を書いた。初めてのラブレターだ。そして、その手紙を会社の黒沢のデスクの引き出しに入れておいた。その手紙には、転勤のことを相談すべきなのに、言い出せなかったことを謝罪する言葉がしたためられていた。また安達は、口では恥ずかしくて言い出せない「離れるのが不安になるくらい、黒沢のことを本当に好き」という気持ちも手紙に書いた。
長崎で仕事をしながら、安達はあることに気づいた。こんなに前向きに仕事に打ちこんでいるのは、黒沢と親しくなったからで、それを会社は評価してくれている。目の前に新しいチャンスがあり、それに真剣に向き合っていこうと安達は考え始める。
一方、安達を問い詰めたことを黒沢は、反省していた。デスクの引き出しにこっそり置かれた安達からのラブレターを発見した黒沢は、それを読んですぐ長崎へと向かうのだった。安達の恋心が黒沢に届いた。

ふたりだけの夜

長崎に着いた黒沢は、安達を出張先のオフィス前で待っていた。安達との恋愛が、完璧を装っていた自分を変えたことを黒沢は感じていた。仕事が終わり、ホテルに向かう安達は、雨の中濡れながら自分を待っていた黒沢をみて驚いた。ふたりは、お互いの体調をいたわる。
黒沢は、手紙以上のことを求めている。不安なのだ。自分の気持ちを一生懸命に、言葉にして、伝える安達だったが、それだけでは足りないことに気づいた。「俺の心に触れてほしい」と自分から唇をよせる安達に、黒沢は冷静さを失う。大事にしたいと思う反面、安達と深い関係になることをずっと望んでいたのだから。安達は好きにしていい、と黒沢に言うのだった。

プロポーズみたい

安達は魔法使いを卒業した。もう、心の声は聞こえない。

ついに結ばれた安達と黒沢。幸せいっぱいの朝を迎えた。安達は、心の声が聞こえないことに驚く。魔法の力がなくなっていた。戸惑いながらも「魔法なんてなくたって黒沢となら大丈夫」と思える安達。いつの間にか、自分で直接気持ちを伝えることができるようになっていた。
出張から帰った安達は、黒沢のマンションに向かう。そして、ゆっくりと食事しながら長崎や仕事の話をして、転勤する決意を告げた。黒沢は賛成した。「帰ってきたら、一緒に住まないか」黒沢の言葉に「プロポーズみたいだな」と安達はうっかり返事をする。「もっと、かっこよく、プロポーズしたかった。やりなおしたい」と、黒沢は主張する。安達はそんな黒沢に、もうサプライズはいらないと告げた。その後、安達は黒沢から指輪をプレゼントされて、受けとった。安達の左手の薬指にはめたシンプルなお揃いの指輪に、黒沢は口づける。ふたりが愛を誓いあった瞬間だった。

いつか紹介できたら

長崎で仕事に打ちこむ安達だが、疲れてネガティブ思考に陥っていた。

安達は転勤の話を受け入れた。長崎に引っ越す作業を柘植が手伝う。安達には弟がいる。その弟が来る予定だったが、子供が発熱して来れなくなったのだ。黒沢とつきあいはじめて、成長してきた安達をみて柘植は、自分の恋愛にも向き合っていこう、と思うのだった。そして、安達は長崎へ旅立った。
黒沢に贈られた指輪をつけて、忙しくすごす安達。しかし、本社から配属されたリーダーという肩書には、どんなに頑張ってもふさわしくないと思ってしまう。自分に自信がもてない。魔法もなく、黒沢がいないからだろうか。スケジュールの都合や黒沢の風邪などで、しばらくふたりは逢っていなかった。
ある日、黒沢が予告なしに長崎にやってくる。ふたりは愛を確かめあう。恥ずかしがりの安達が左手の薬指に指輪をしてくれた、と黒沢は喜んだ。遠距離恋愛になってもお互いの気持ちは変わらない。それなのに、ふたりは不安定な関係だと感じていた。確かなものが欲しい。安達は、自分と黒沢は何を求めているのか、考えていた。
一方、安達の実家では、弟が長崎の兄から送られた写真を見ている。職場の人たちと新店をオープンさせた記念の写真だ。安達の指に光る指輪を見て、家族は期待に胸をふくらませる。安達の母は、「大切な人がいるのならいつか紹介してほしいわね」とつぶやくのだった。

ドラマ版

魔法使いとイケメン同期

初めて二人で残業して、会社から帰る場面。マフラーを巻きながら「ホント、いいやつだ。仕事も丁寧にこなす。周りの人のことを考えてる。そんなところが、俺は」ここで途切れた。安達は感動して、無言になっている。

毎日が、退屈な人生の繰り返し。主人公安達の人生は職場とアパートの往復だった。会社でも大人しく地味な存在だ。安達は童貞のまま30歳の誕生日を迎えたとたん、触った人の心の声が聞こえることに驚く。30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい、という都市伝説は本当なのか。安達は魔法使いになっても、その力を悪用しない。なるべく人に触らないよう努めていた。ある日職場のエレベーターの中でイケメン同期黒沢の心の声を聞いてしまう。安達は、黒沢が自分に恋をしているとは信じられなかったので普通に同期らしくふるまうのだった。その夜、安達は先輩の浦部から、仕事を押しつけられて残業になる。浦部の心の声が聞こえてしまい、断れなかったのだ。安達の役にたちたい黒沢は、手伝いを申し出る。安達と黒沢が会社を出ると、すっかり夜が更けていた。黒沢は、寒そうな安達に自分のマフラーを巻いた。心の声が聞こえる。「ホント、いいやつだ。仕事も丁寧にこなす。周りの人のことを考えてる。そんなところが、俺は」と聞こえた。そこで手が離れて声はとぎれた。

黒沢は、終電を逃した安達を自宅マンションに泊まらないかと誘う。安達は泊めてもらうことにしたが、自分に好意をもっている男の住居に上がりこんでもいいのか、迷う。うっかり黒沢に触れてしまった安達は、黒沢の脳内で自分を美化した妄想シーンが繰りひろげられることを知った。黒沢は安達への恋心を隠して優しく接する。

翌日、安達は前日の書類はひとりでやった仕事なのか、と浦部に問い詰められる。黒沢と残業して作成したことを報告すると、良くできているのは黒沢のおかげだと言われてしまう。黒沢はそれを聞いて安達の能力をわかってもらおうと説明するのだった。「俺は、安達の仕事を信頼しているんです」と黒沢が浦部に言った。自分を見てくれる、人間として認めてくれることを安達は嬉しく思うが、恋愛には踏み出せない。大学時代に女子達が、経験のない安達は重い、と話しているのを聞いてしまったのだ。
一方で黒沢は、7年間安達に片思いしていた。ずっと眼中になかった自分に安達が興味を持ち始めたことに気づき、少しずつ距離を詰めてくる。「俺は同期のままでいい」と思っていたのに。安達は迷った末、いろいろ助けてもらったから「飯でも」と黒沢を追いかけて申し出る。黒沢は初めての誘いに驚きのあまりかたまってしまう。今までの安達にはあり得ないことだった。黒沢は喜んで、安達と食事に行こうとしたのだが、そこに後輩の六角が来てしまい、実現しなかった。安達と黒沢はしぶしぶ宴会に参加した。安達は、黒沢の好意に誠実に応えたい、と感じていた。

心の距離

「いやじゃなかったよ、おまえのキス」「それ、どういう意味かわかってるの?」二人の距離が近くなっていく。

藤崎は道でぶつかった見知らぬ若者二人に、難癖をつけられる。そのとき、一緒にいたのは安達だった。藤崎を連れ去ろうとする若者二人に、たった一人で立ち向かう安達だった。もちろん喧嘩などできるはずもなく、殴られる寸前に、黒沢が助けに入る。

宴会で安達と黒沢は、王様ゲームを強要され、二人はキスをする羽目になってしまった。黒沢は、震える安達を見て、おでこにそっとキスをした。「ごめん」という黒沢の心の声を安達は聞いた。黒沢は安達に嫌われたと思い、ビルの屋上で一人落ち込む。安達はそんな黒沢が心配で、屋上にやってくる。安達はペットボトルの水を渡した。「ごめん、好きになって」と黒沢の心の声がまた聞こえる。黒沢には笑顔でいてほしいと思った安達は、「いやじゃなかったよ、おまえのキス」と告げた。驚く黒沢は、距離を詰めてきた。「それ、どういう意味か、わかってるの?」と、黒沢は安達にたずねた。キスが初めてと黒沢に打ち明けた安達は、自分の心に戸惑っていた。二人の唇が近くなっていく。その時、安達の電話が鳴る。親友の柘植だった。その電話が終わると、黒沢はまた距離を詰めてくる。二人の唇が今度こそ重なる直前、六角がやってきた。宴会が終了するため、二人を探していたのだ。二人は何もなかったようにふるまうのだった。黒沢が自分を好きだという、そして、自分はキスされてもいいと思う、などの恋愛ごとに慣れていない安達は、ゆっくり考える時間がほしい。この夜から、安達はとりあえず逃げることにした。黒沢になるべく、会社で会わないよう気をつけるのだった。しかし、黒沢はいつも安達の力になりたいと思っていた。
また六角はこの宴会で安達の優しさを知った。実は六角はたばこの空気が苦手であることを内緒にしていたが、心の声で安達にばれていた。安達は六角に買い物を頼むふりをして、外の空気にあたることができるように取りはからってあげたのだ。

ある日、自分を好きな黒沢にどう対処しようか、と安達はランチタイムにため息をついた。そのとき同じようにため息をつく藤崎に気づく。藤崎は上京してくる母親に、恋愛や結婚、お見合いの話をされるのが、憂鬱なのだ。同僚たちは安達が藤崎の彼氏のふりをすればいい、と提案する。安達も藤崎も困惑していた。浦部はそこに来て、安達と藤崎に買い物のための外出を頼む。買い出しに行き、会社にもどる途中、藤崎は男性二人組にぶつかってしまう。難癖をつけて藤崎を連れて行こうとする男性二人組から、藤崎を守ろうと、安達は立ち向かっていく。しかし安達は喧嘩などしたこともない。殴られる寸前に黒沢に助けられた。「安達に、触るな」という黒沢の心の声は、ひたすらに安達の無事を願っていた。安達の怪我に、黒沢は血相を変えて傷の手当をする。安達からみると完璧な黒沢だが、心の声はその逆だった。「しまった。安達のことになると余裕がなくなる」という黒沢の純粋な気持ちを知って、好感を持つ安達だった。
安達は藤崎にも、思いきって話してみた。藤崎の友人として安達は母親に会うし、いつも笑顔で仕事に取り組む藤崎について、話すことができると。じっとそれを聞いていた藤崎は、安達にまだ大丈夫だから、その必要はないと断った。

そして、安達と黒沢が、逆の立場になる日が来た。黒沢がピンチなのだ。取引先の社長が突然不機嫌になり、理由がわからない。安達は、心配そうに見ているが何もできない社員たちの中で、ひとりで社長に話しかけながら、触れるチャンスをうかがう。お茶をだしたが、触れることはできなかった。そのとき、安達の胸のペンが落ちた。それを社長が拾って安達を呼んだ。安達は社長に「ありがとうございます」と言いながらペンと社長の手を握った。やっと社長の心の声を聞いて安達は、モンブランというケーキが必要だとわかった。安達が走ってモンブランを買ってくると、問題は平和的に解決した。
職場のみんなが見守る中、安達が一人でとった行動は、彼は勇気があり、仲間思いだと証明するものだった。そして黒沢は安達の行動を笑顔で喜んでくれた。安達は黒沢に感謝されたことが嬉しくて、コピー機に隠れてガッツポーズする。そして六角は安達の行動から、彼を気配りストと呼んで尊敬するようになった。安達は、人の役に立つこと、黒沢を助けたことを素直に喜んだ。しかし、自分の力といってもそれは、魔法の力のことだった。

ある日安達は、雨の中黒沢が美女と歩くのを目撃して、ショックのあまり体調を崩してしまう。黒沢は退社する直前に安達に話しかけたのだが、そのときの安達の会話がおかしいと気づく。逃げ腰でも、誠実な安達のいつもの会話ではなかった。よく観察すると、風邪をひいて熱があるのかもしれない、と黒沢は心配した。そのとき、ふらっと安達が倒れそうになった。安達をタクシーに乗せてアパートにまで送りとどけよう、と黒沢は思った。そのタクシーに突然あの美女が乗り込んできた。美女とは、黒沢の姉だった。姉は、弟が泊まり込みで安達を看病することを提案する。黒沢は献身的に安達を看病する。
そして、翌日安達は元気になる。黒沢は、朝食を調理して安達に食べさせる。安達は、好きなだけ泊まっていいよ、と黒沢に告げた。黒沢は嬉しさを隠せない。「今日から安達とスイートライフ」とつぶやく黒沢の妄想を安達は魔法で見てしまう。ペアルックの部屋着を着て微笑む自分と黒沢だった。「やけどしないでね」と、黒沢はお手製のおかゆを差し出す。「もう、すでにやけどしそうです」と安達は心でつぶやくのだった。その日、二人きりが気まずい安達は、六角の、三人でたこ焼きパーティーをするという提案を受け入れてしまう。六角は、ダンスの世界を諦めて就職したという複雑な気持ちが安達にばれていた。優しい言葉をかけられ六角は安達とますます親しくなっていく。誰にでも素直で優しい安達は、いつのまにか黒沢を心理的に追い詰めていく。

六角はたこ焼きパーティーの夜、安達のアパートでぐっすり眠っていた。そして、黒沢は眠れない。安達の寝顔を見ているうちに、つい自分の手で安達の頬を触ってしまった。「どうしてそんなに自信がないんだよ」「安達は俺にとって特別なんだから」心の声を安達は、眠っているふりをして聞いていた。翌朝、黒沢は様子がおかしい。安達と六角を残し一人で会社へ行く。自分の気持ちが抑えきれない黒沢は、もう泊めてもらう必要はない、と安達に告げた。喜んでいたのに、と安達は不思議に思う。
ついに黒沢は告白してしまう。「おまえのこと、好きなんだ」優しい言葉遣いの黒沢が、初めて安達を「おまえ」と呼んだ瞬間だった。安達は固まって動けない。知ってはいたのに、すぐには言葉が浮かばない。黒沢はそんな安達を見て、なかったことにしよう、と提案する。ますます混乱する安達を置いて黒沢は立ち去って行った。途中立ち止まり、大きく息を吐いた。黒沢は完璧なエリートという仮面をかぶって生きてきた。その仮面の下には恋に苦しむ一人の人間としての複雑で繊細な一面があった。黙っていれば同期のままでいられた。安達はそれを望んでいたに違いない。安達が幸せなら、自分も満足できるはずだった。なぜか最近の安達は、自分に親しくしてくれる。以前より近づくことで、恋心を抑えきれなくなってしまった。

拾った猫(うどん)をきっかけにして出会った柘植と湊。柘植は湊の心の声を聞いてしまう。

柘植は宅配サービスの綿矢湊という青年に出会った。宅配サービスの配達員として、湊はやってきた。柘植は湊を苦手なタイプの若者だと、敬遠していた。学生時代から柘植は、本が好きで、社交的で遊び上手な大学生達が苦手だったのだ。小説家になってからも、そういう華やかな雰囲気の人達には近づかないようにしていた。30歳に、柘植は魔法使いになった。そして、湊の心の声を聞いてしまう。湊の心の中は、柘植が拾ってきた猫への優しい思いでいっぱいだった。
30歳になり、安達と同じように魔法使いになってしまったことも、湊の心の声がなぜか忘れられないことも、柘植はしっかりと受けとめられず、困惑していた。安達に相談するべきか、迷う。柘植は、安達が魔法や恋愛について相談してきたときに、先輩のようにアドバイスをしたのだ。柘植の妄想の中の安達は、「今までさんざん、俺に偉そうにしてきたくせに」と柘植を嘲笑する。柘植はすっかりいつもの冷静な自分を見失っていた。

告白と7年間の片思い

「俺、おまえのことが好きだ」安達の返事に思わず、黒沢は走り出して安達を抱きしめるのだった。

告白の翌日、黒沢は出張でオフィスにはいなかった。それでも安達は黒沢のことを考えてしまう。今までの黒沢との全てが、頭から離れない。一方で黒沢は7年前に安達の優しさに触れて恋に落ちた日のことを思い返していた。
まだ新入社員のころ。黒沢は接待で、上司と先輩から女性社長との会食に連れていかれた。黒沢はイケメン要員、安達はただの若い社員として参加させられた。女性社長からセクハラを受け、苦しむ黒沢を上司と先輩は、役立たずと話していた。そんなとき、黒沢を介抱し、救い上げてくれたのが安達だった。容姿に恵まれている黒沢は、外見だけで中身をみてもらえない経験があっても、人には言いにくい。しかし安達は、黒沢の容姿ではなく、努力している姿を知っていた。完璧ではない黒沢も「なんか、いいな」と、安達は優しく包み込むように語りかけた。「初めて心に触れられた気がした」と、黒沢はやっと自分を理解してくれる人に出会えた日を思いだしていた。
この日から、黒沢は安達の誠実さに惹かれていったのだ。しかし、男性であることも含めて、安達との恋愛に悲観的な黒沢だった。気持ちを隠したまま、同期として少しずつ好意を示してきたが、全く安達は気づかなかった。「いつかは、この恋を終わらせなきゃいけない」と黒沢は自分に言い聞かせる。
安達はその頃、自分が黒沢に惹かれていることにやっと気づいた。直接伝えなければ。勇気を振りしぼって黒沢に会いに行く。安達は「ごめん」とまず謝った。黒沢はもう、振られる覚悟をする。しかし結論は「俺、黒沢のことが、好きだ」だった。誠実で不器用な安達は、まず今まで傷つけたことをあやまってから、告白したのだ。このネガティブな言葉で始めてしまうトークは安達の個性とも言える。黒沢は感動して安達を抱きしめる。安達も最初は両手を浮かせていたが、ゆっくりと黒沢を抱きしめるのだった。「俺はこいつの声を聞くために魔法使いになったのかもしれない」と、安達は心の中でつぶやいた。やっと、魔法使いになって良かったと思えた。安達の初めての恋が始まった。

コンペとデートの練習

初デート、のはずが、安達は柘植の恋愛相談にのることになった。柘植も安達も、想いを行動に移すのに迷う。黒沢は、そんな二人を爽やかにサポートするのだった。

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