30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい(チェリまほ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい(チェリまほ)』とは、豊田悠のボーイズラブのラブコメディ漫画。スクエアエニックスpixivより単行本となった。2020年ドラマ化。地味で内気なサラリーマン安達は童貞のまま30歳になった日から、触った人の心の声が聞こえるようになる。偶然エレベーターの中でイケメン同期黒沢の心の声を聞くと、自分への恋心だった。安達はどう受けとめるのか。ピュアで一途な恋が感動を呼んだ。全ての人に優しい世界。ボーイズラブの枠を超えたと絶賛されたラブコメディである。

『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』の概要

『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』は、豊田悠のボーイズラブのウェブ漫画で、ドラマ化もされているラブコメディだ。スクウェア・エニックスpixivより2018年に漫画版が発売された。作者の豊田悠は、2010年花とゆめアテナ新人大賞でデビュー優秀賞を受賞して少女漫画家としてスタート。その後ボーイズラブ漫画も手がけるようになった。「もし人の心の声が読めたら、それに振りまわされてしまうな」というアイディアを思いつき、主人公は当初、恋のアプローチをする側の人間だった。そういう意味では柘植に近いキャラクターだった。「4ページのマンガを描くとなったら、主人公がアプローチされる側にしたほうがおもしろかった」と述べている。コミックは反響を呼び、「全国書店員が選んだおすすめBLコミック2019」で1位になった。2019年にドラマCDが発売され2020年に実写ドラマ化されている。
4ページが1話分のウェブコミックなので、思わず笑ってしまう展開が4ページごとにある。しかし、主人公安達と職場の同期黒沢の恋愛がすすむにつれて、シリアスな「続く」で終わることも増えた。繊細かつ丁寧に安達と黒沢の心境の変化が描かれている。スマホでも読めるようコマ割りなど、工夫されている。

ドラマ版も好評だった。主演の安達役は『仮面ライダービルド』の赤楚英二、黒沢役は『女子的生活』『ギルティ~この恋は罪ですか?~』の町田啓太。監督は『チア男子‼』の風間大樹。1回が30分で木曜深夜24時30分開始という時間帯ながら、ドラマ満足度連続1位を独走。固定観念や偏見のない世界観、純愛とコメディ、二つのバランスが見事にとれた脚本と演出、何より安達と黒沢の瑞々しく繊細な演技が話題となった。ドラマは回を追うごとに注目されるようになり、ギャラクシー賞テレビ部門第58回マイベストTV賞第15回グランプリをはじめ各賞を総なめにした。またYouTubeの無料第一話は、開始一か月足らずで再生回数200万回を突破した。視聴者の中には、初めてボーイズラブのドラマを見たという人も多い。そこまで魅了されるのは、人間成長ドラマとしての側面を持っているからである。
主人公安達は心の声を聞くことができるが、その能力を喜べない善良さ、誠実さを持つ。自分を見てくれる、認めてくれる黒沢の気持ちを知って嬉しい反面、戸惑う。恋愛にも、人生にも、自分から決して動こうとしなかったが、黒沢との交流で変わっていく。安達だけでなく、黒沢はじめ、親友の柘植、同僚の藤崎など、現代に生きる人々を反映したキャラクター設定に説得力がある。純粋な恋愛、誰かを幸せにする勇気、ハラスメントのない優しい世界など、ほっこりして、考えさせられる。漫画版、ドラマ版両方とも、自分の心を大切な人に伝えていこう、という隠れたメッセージをラブコメディの根幹に埋め込んだ名作。

『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』のあらすじ・ストーリー

漫画版

心の声が聴こえるようになった30歳の童貞・安達清(あだち きよし)

地味で冴えないサラリーマン・安達清。童貞のまま30歳になった彼は、「30歳まで童貞だと魔法使いになれる」という都市伝説通り、魔法使いになってしまう。自身が触った相手の心の声が聞こえるという魔法を得た安達。それにより彼は、同期のイケメン・黒沢優一(くろさわ ゆういち)が自分に惚れている事を知ってしまう。最初は驚く安達だったが、聞こえてくる心の声を通じて黒沢が自分を大事に思っている事を知り、好感を持ち始める。その反面、心の声を利用するような接し方をする自分が卑怯者にも見えるようになる。そこで安達は魔法の事も含め、自分が抱えている悩みを親友・柘植将人(つげ まさと)に相談する。柘植は安達に「黒沢への安達の気持ちはどうなのか」と訊ねる。言われた事について考える安達。だがその時、心の声を通して柘植が自分と同じ童貞だという事を知ってしまう。恋愛小説家として活躍する柘植が実は童貞だと知った安達は驚く。
翌日、安達は魔法を使って仕事のピンチを乗り切る。機嫌が悪かった取引先の社長の心を読んで、彼の機嫌を見事に直したのだ。お手柄から、開かれた宴会に参加する事になった安達。しかしそこで他の社員達の悪ノリで行われた王様ゲームにて、黒沢が安達の頬にキスをする事態となる。恋愛経験のない安達は黒沢からのキスに驚き、思わず怖がってしまう。そんな安達に黒沢は「自分とのキスを嫌がっている」と勘違い。心の中で安達に謝罪し、宴会を抜ける。安達は彼の後を追って「キスが嫌だったわけじゃない」という事を素直に話す。それを聞いた黒沢は、「それがどういう意味かわかっているのか」と安達を問い詰めキスをしようとする。結局社員達が2人を探しにやってきた為、キスは未遂で終わる。だがこの件を通して安達は黒沢の事を今まで以上に意識し始める。

黒沢が安達に惚れた理由

一方で黒沢の方は安達に惚れた理由を思い返していた。今の会社に入社してからしばらくが経ったある日、黒沢は上司からイケメン要員として、女社長の接待に連れていかれる。そこでセクハラに近い事を受けるも、黒沢は上手く立ち回れずに困ってしまう。さらに一緒に居た安達を庇う為にお酒を飲みすぎてしまう。そんな彼を安達は介抱。面倒くさがるどころか弱っている黒沢の姿を受け入れてくれた安達に、黒沢は衝撃を受ける。この件以降、黒沢は安達に惹かれていくようになる。そうして自分の恋を自覚すると共に、同性という問題を前にこれが前途多難な恋である事を実感する。

揺れ動く安達の想い

会社の社員旅行に参加する事になった安達。そこで彼は新入社員の六角祐太(ろっかく ゆうた)と親しくなる。するとそれに嫉妬をした黒沢が安達にべったりになってしまう。安達は魔法を利用しないように気をつけるが、その中でとある女性社員が黒沢に気がある事を知り、改めて彼がモテる事を認識する。さらに同旅行中、同僚が別の団体客に目をつけられ困っているところに遭遇し、安達は助けに入ろうとする。が、上手く立ち回れず、最後は黒沢に助けて貰う。再び彼の男としてのカッコよさを認識する安達だったが、その時魔法で彼が心の中では安達の事を心配し、悩んだり焦ったりしていた事を知る。黒沢の人間らしい姿を見た安達は、黒沢の事を「可愛い」と感じるようになる。
旅行を終えてしばらくしたある日、安達は柘植と飲んだ帰り道で、黒沢が美女と歩いてるところを目撃する。その光景にショックを受けた安達は、体調を崩して翌日の会社を休む。すると安達の事を心配した黒沢が安達のアパートにやってくる。看護をしてくれる黒沢の姿に、安達はどうして彼はここまで優しくしてくれるのだろうかと考える。その時、改めて魔法を通して聞こえてきた黒沢の純粋な自分への好意の声に、安達は自分が黒沢に惹かれている事を自覚する。
するとそこへ例の美女がやってくる。驚く安達だったが、美女が黒沢の姉であった事が発覚する。安達の姉は黒沢のマンションにしばらく宿泊するという理由で、家主である弟を安達のアパートに押し付ける。突然の状況に混乱する安達。そこで彼は逃げるように、六角からやってきたたこ焼きパーティーの誘いに乗ってしまう。

安達の自覚と告白

開催されたたこ焼きパーティーで、安達は六角が大学時代にダンスをしていた事を知る。魔法を通じて、今も彼がダンスに未練を持っている事にも気づいた安達は「たまにはダンスをやってもいいじゃないか」と六角に言葉をかける。その言葉に心を楽にする六角。だがその光景を見ていた黒沢は、2人のやり取りに嫉妬をしてしまう。魔法を通してそれに気付いた安達は改めて黒沢の思いの本気度を知り、自分は彼の気持ちに応えられるのかと不安になる。
そんなある日安達は、魔法を通して藤崎が自分に向けて「好き」と言ってくるのを聞いてしまう。実は藤崎は腐女子で、黒沢と安達の恋を密かに応援していた。だが安達は、彼女の「好き」を恋愛的な意味に捉えてしまう。そこで藤崎のような女性と付き合う未来について考える。一方黒沢の方は、募りに募った恋心が限界に達しかけていた。そうしてついにある日、黒沢は安達への想いが溢れ、告白をしてしまう。黒沢の告白に戸惑う安達。結局その場で答えは返さないまま、黒沢と別れる。しかし黒沢の心の声が頭から離れてくれない安達は、同性で交際する事の大変さよりも黒沢の心にもっと触れたい、大切にしたいと思っている事を自覚する。安達は出張に出ていた黒沢がいる空港に向かって走り出す。そして再会した黒沢に自分の思いを伝え、彼と結ばれる。

魔法を打ち明けるタイミング

黒沢と付き合う事になった安達は、後日早速彼とデートをする事になる。だがその最中、2人の姿を見た若い女性達から「恋人みたい」「釣り合っていない」と言われ、ショックを受ける。一方黒沢の方は、デートを盛り上げようと奮闘し過ぎた結果、サプライズとしてヘリコプターでの東京ナイトクルージングを準備する。だが実はヘリコプターが苦手だった安達は、乗っている最中に気分を悪くしてしまう。落ち込む黒沢。そこで安達は、今度は自分から彼をデートに誘う。後日改めてデートをする2人。黒沢も一緒に楽しめるようにとデートを企画してくれた安達の姿に黒沢は、魔法使いみたいだ、と感じる。
その帰り道、黒沢と手を繋いだ安達は、彼が心の中で「月がきれいですね」と有名な告白文を述べてるのを聞く。思わずそれに返事をしてしまうも、なんとか誤魔化し危機を脱する。だがその時黒沢が「もしも心を読まれていたら、」と考え始めている事に気づき、これ以上魔法を使ってしまうのが怖くなって彼の手を離してしまう。幸せな空気は霧散し、代わりに微妙な空気が2人の間に生まれてしまう。

柘植と湊

安達が新たな悩みを抱え始めていた頃、柘植の方でも問題が発生していた。安達同様に童貞のまま30歳を迎えてしまった彼は、宅配サービスの青年・綿矢湊(わたや みなと)と話している内に自分が魔法使いになった事に気づく。さらに魔法を使って湊が、冷たそうな外見とは裏腹に実はとても心優しい青年だった事を知り、そのギャップから彼に惹かれてしまう。だが恋心と断定する事はできず、困惑する。そんな時、柘植の新刊を読んだ安達からヒロイン像が変わっている事を指摘される。湊そっくりのヒロインになっている事に気付いた柘植は、そこで湊への気持ちが恋であると自覚する。
後日、柘植は書店で湊と出会う。以来、宅配員とお客とは異なるプライベートな関係で湊と交流を図るようになる。湊の心の声に振り回されながらも、ダンサーになりたいという夢を諦めようとする湊を励ましたり、湊のダンスを見る為に取材に向かったりと、自分なりに頑張って彼との距離を縮めようとする柘植。そんな柘植の姿に湊も少しずつ彼に心を許していくようになる。
ある日、湊があるダンスのオーディションの敗者復活戦に参加する事になる。だが当日、足に使う予定だった湊のバイクがエンストする事件が発生。柘植は自分のバイクを使って、彼を会場まで送り届ける。どうにかオーディションに間に合い、結果湊はオーディションに合格する。そこで自分の為に色々してくれる柘植の言動に疑問を抱いた湊は、柘植にその事を尋ねる。それを聞いた柘植は、自分の思いを打ち明ける覚悟を決める。

ついに打ち明けた「魔法使い」としての秘密

一方安達の方は、黒沢の誕生日プレゼントに悩んでいた。そこで魔法を使って、黒沢の欲しい物を探る。結果、黒沢がイヤフォンを無くして困っている事を知った安達は、新しいイヤフォンをプレゼントする。黒沢は喜んでくれるが、安達は魔法の事を告げずにいる自分に複雑な気持ちになってしまう。魔法について打ち明けるべきかと悩む安達。またその頃黒沢の方も、安達が何かを隠している事に気付いていた。
それからしばらくしたある日、会社で開かれた筋トレグッズのモニター体験イベントに柘植と湊がやってくる。柘植はそこで安達に自分と湊が付き合っている事を話す。それを盗み聴きした黒沢は、湊への思いを語る柘植の言葉が安達に向けられているものだと勘違いしてしまう。嫉妬した黒沢は安達に隠している事や柘植との関係について問い詰める。これ以上隠すのは限界だと察した安達は、自分が魔法使いであると明かす。それを知った黒沢は、触れるだけで自分の想いが伝わる事を喜び、安達にキスをする。

湊と六角

安達の会社のモニター体験にやってきた湊は、そこでかつて同じダンスサークルに所属していた六角と再会する。すでにダンスをやめていた六角は複雑な気持ちになるも、本当は趣味としてダンスをしたり、かつての仲間に会いたいという思いを抱えていた。魔法を通して六角の気持ちに気付いた安達は彼の背を押す。それにより六角は、仲間の練習を応援しに行くようになる。
一方湊の方はバイトをしながらダンスを続けていたが、立派な社会人として働く六角の姿に引け目を感じてしまう。それを察した六角は、湊の負担にならないように友人として話をしたいと思うようになる。また柘植の方も湊の元気がない事に気付いていた。さらに魔法を通して、湊と六角がお互いに自分に自信が持てずにいる事を知る。そこで柘植は湊に、過去自分が小説家を目指していたがうまくいかず、就職した友人たちを避けていた経験を語る。それに励まされた湊は六角と話をする。そうして彼と友人として無事打ち解ける。

長崎への転勤

体験モニターからしばらくが経ったある日、安達は部長から長崎への転勤を打診される。それは昇格とも言える話だったが、黒沢と離れる事を考えると、簡単に承諾できなかった。黒沢にも言えず迷う安達だったが、そうしている間に先輩社員の朝比奈が黒沢に安達の転勤の事を話してしまう。何も知らされなかった事にショックを受ける黒沢。その夜、2人は転勤の話をするが、黒沢の怒りと悲しみの心の声を前に安達は何も言えなくなる。そんな安達の様子に黒沢は「言葉にしてくれないとわからない」と怒って帰ってしまう。
困った安達は柘植に相談する。結果安達は柘植の言葉により、互いに相手の事を本気で思っているから上手く話せないのだと気付く。そこで安達は黒沢に自分の気持を伝える為の手紙を書く。そうして転勤先の見学も兼ねた出張に行く前に、それを黒沢のデスクの引き出しに入れておいた。手紙に気付いた黒沢は、安達が抱えている不安や自分の事を本気で思ってくれている事を知る。感極まった黒沢は勢いで長崎へ向かう。一方安達の方も、改めて自分がどれだけ黒沢に力を貰っていたかを気づく。目の前にあるチャンスと真剣に向き合いたいと思った安達は、長崎への転勤を決める。その後、黒沢と再会した安達は改めて自分の言葉で黒沢への思いを告げる。しかしそれだけでは足りないと気づき、自ら黒沢にキスをする。そうして動揺する黒沢に「好きにしていい」と告げ、安達は彼と恋人としてまた一歩深い関係になる。

遠距離恋愛との向き合い

恋人としてさらに関係を深めた安達と黒沢。翌日、安達は自分が魔法を失っている事に気づく。戸惑うも「魔法がなくても黒沢となら大丈夫」と考える。出張から帰宅した後、安達は黒沢に改めて転勤する決意を告げる。黒沢もそれに賛成し、「帰ってきたら一緒に住まないか」と安達に尋ねる。「プロポーズみたいだ」と返す安達。その後、安達は黒沢とお揃いの指輪をプレゼントされる。お互いの薬指にそれをはめた2人は改めて愛を誓い合う。
後日、安達は柘植に手伝って貰う形で引っ越しの作業をする。黒沢と付き合い成長した安達を見た柘植は、自分も恋愛に向き合っていこうと決意する。
そうして長崎に旅立った安達。しかしリーダーという役割の重たさから、元来の暗い性格が顔を出し始める。そんなある日、黒沢が突然長崎にやってくる。久しぶりの再会に、お互いの愛を確かめ合う2人。遠距離恋愛になっても2人の気持ちは変わらなかったが、どこか漠然とした不安を感じていた。確かなものが欲しいと思った安達は、自分達が何を求めているのか考える。
一方安達の実家では、長崎から送られてきた安達の写真を家族が見ていた。息子が指輪をはめている事に気付いた母は、「大切な人がいるならいつか紹介して欲しい」と呟く。

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