窮鼠はチーズの夢を見る(漫画・映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『窮鼠はチーズの夢を見る』とは水城せとな原作の漫画である。2006年2月から2009年5月、大人の女性向けコミック誌『NIGHT judy』で連載される。大人の男同士の甘くない恋愛模様を描いたボーイズラブ作品である。本作は人を好きになることの喜びや痛み、そのリアルな恋愛描写が話題となり多くの女性から支持されている。ある日主人公・大伴恭一の元へ妻から浮気調査を依頼されたという調査会社の男が訪ねてきた。彼は大学の後輩今ヶ瀬だった。今ヶ瀬はずっと好きだったと恭一に告白し恭一はその言葉に翻弄されてゆく。

恭一と元カノの夏生と今ヶ瀬と元カレの高杉という組み合わせ。

恭一が夜街を歩いていると「…恭一?」と声をかけられる。振り返った恭一が見たのは大学時代一番長く続いた彼女「夏生(なつき)」だった。その後二人は飲みにいき夏生は共通の知り合いのことや恭一の離婚のことなどを話した。会話の最中で横から「あれ?もしかして夏生先輩?」と声がかかる。そこには男を連れている今ヶ瀬がいた。偶然同じ店に来ていたらしかった。焦る恭一をよそに今ヶ瀬と夏生は再会したことに盛り上がっていた。今ヶ瀬は「相席してもいいですか?」と言った。相席し一緒に食事をすることになった4人。今ヶ瀬の友達だという高杉(たかすぎ)は恭一の隣に座った。すると恭一の携帯に目の前の今ヶ瀬からメールが届いた。それには「今あなたの隣にいる男は俺の元カレです。何かヘンなことを言われても気にしないように」と書かれていた。そこで改めて恭一はこのメンツを見て修羅場のような状況を再認識した。夏生と今ヶ瀬が世間話をしている間に高杉は恭一に敵意剥き出しの言葉をかけ続けた。恭一のことは今ヶ瀬に散々聞いていたので知っているという高杉は、一方的に今ヶ瀬が荒れていた過去のことなど恭一が知らないであろうことを話す。恭一は内心むかつきながらも平静を装い高杉の言葉を聞き流す。
一方、世間話をしていた今ヶ瀬と夏生だが徐々に今ヶ瀬の言葉にトゲが刺さるようになってきた。そして夏生の心情に探りを入れるような質問した後、断りを入れてタバコに火をつけた。夏生は今ヶ瀬が持っているライターに目がいく。そのライターは大学時代に見たことのあるものだった。
今ヶ瀬と夏生の会話が気になっている恭一に高杉が「今ヶ瀬のこと好きですか?」と質問した。咄嗟に恭一は否定したが、高杉はそれならハッキリ諦めさせてくれと言った。高杉は今ヶ瀬にまた付き合ってくれと言ったが断られていた。理由は恭一のことしか考えられないということだった。自分なら上手くやれると高杉は恭一に言った。それを聞いた恭一は何も答えられなかった。
トイレに行った恭一は付いてきた今ヶ瀬に夏生といたことを責められた。一番まともな彼女だった夏生のことを今ヶ瀬は一番嫌いだった。そんなつもりはなかった恭一は元カレといた今ヶ瀬が自分のことを棚に上げていることに腹が立った。
今ヶ瀬は恭一にしか感じないと言って恭一にキスをする。絡み合い二人の息が上がってくるが、恭一はどうしても今ヶ瀬と高杉がどんなセックスをしているのかが気になって仕方なかった。今ヶ瀬は恭一が感じすぎるほど嫉妬していると言った。その言葉を恭一は拒絶し、うっかり高杉と今ヶ瀬は自分と違って「お仲間」で違う世界の人間だと言ってしまう。言った途端に恭一は言いすぎたことを謝ったが今ヶ瀬はその場を去って行ってしまった。テーブルに戻りすぐ今ヶ瀬は高杉を連れて店を出た。

今ヶ瀬の想いに揺さぶられる夜

恭一の家から当然のように現れた今ヶ瀬に凍りつく夏生。

残された恭一と夏生は今ヶ瀬の話をする。夏生は恭一に今ヶ瀬が大学時代ゲイで恭一のこと好きだったんじゃないかと思っていたことを打ち明けた。するどい夏生の読みに恭一は内心ドキッとする。
夏生はさっき見た今ヶ瀬のジッポライターのことを話した。恭一は忘れていたが、猫のマークのついたライターは恭一が夏生と付き合ってる時恭一がその前の元カノに貰ったライターだった。当時の彼女だった夏生に捨ててと迫られ、恭一はちょうどその話を聞いていた今ヶ瀬にライターをあげたのだった。それをいまだに持っていると知った夏生は「情念みたいなものを感じてゾッとした…」と言った。
夏生は恭一は相手に好意を示されると断れないということを指摘した。それで夏生と付き合っている時何度も恭一に浮気をされたことがあった。でも夏生が恭一と別れたのは、恭一に愛想を尽かせたわけではなく、恭一が本当は自分のことを好きじゃないと知っていたからだった。
食事を終え店を後にした二人、夏生は大学当時恭一を好きだったことは本当だと言い「もう少し付き合って」ともう一件飲みに行く。
完全に酔っ払った恭一は夏生に支えられ自宅に送ってもらった。酔って鍵が見つからない恭一、もたもたしてると部屋の玄関の扉が内側から開いた。「お帰りなさい 先輩」と中からさっき帰ったはずの今ヶ瀬が出てきた。夏生はそのことに驚きを言葉を失った。恭一は酔っていたので夏生の前でも平気で今ヶ瀬と話す。今ヶ瀬は酩酊状態の恭一を夏生から引き取った。今ヶ瀬は恭一を抱き抱えながら夏生に嫌味ったらしくお礼を言い、玄関を閉めた。何も言えずに玄関前に立ち尽くした夏生は、驚愕の事実に足をふらつかせながらその場を走り去った。

必死に恭一に縋る今ヶ瀬。

酔ったのは変なことが起きないようにわざと飲んだからだと恭一は言った。恭一は今ヶ瀬が持っていたライターのことを本人に聞いてみる。懐かしむ恭一に対して今ヶ瀬は急にライターを床に投げつける。今ヶ瀬は恭一が女に貰ったものが欲しかったわけではなかった。想いを伝えられなかった当時、それをきっかけに恭一の指に触れたかっただけだったと言った。今ヶ瀬の想いを知るたびに恭一の頭に高杉の「諦めさせてください」という言葉が思い浮かぶ。恭一は素直に今ヶ瀬に対して自分が期待に応えられないことを謝った。いつもと違う恭一の様子に今ヶ瀬は焦る。今ヶ瀬は捨てられそうなことを察知し必死で恭一に縋り付く。「正論なんか欲しくない 衝動的でいいから」と必死で関係を切らないで欲しいと恭一に求める。今ヶ瀬の痛いほどの想いを目の当たりにした恭一は自ら今ヶ瀬を組み敷き、激しくキスをして愛撫する。酔っているときにされることに傷つきながらも今ヶ瀬は激しく感じていた。最後までしなかったものの、恭一は途中まで今ヶ瀬に身体を許した。
次の日恭一は今ヶ瀬が投げ捨てたライターを拾い今ヶ瀬に「いらないかもしれないけど一応…」と手渡す。そんな優しい恭一に今ヶ瀬はライターを受け取り切ない顔で恭一に抱きつく。

今ヶ瀬と夏生の対立

今ヶ瀬をドブだと言い放つ夏生。

再び夏生に呼び出された恭一は「また付き合わない?」と夏生に言われた。恭一は少し驚いたが返事はしなかった。夏生は恭一に「今すぐ返事しなくていいよ」と言いその後小声で「今ヶ瀬渉とやっちゃってるの?」と聞いた。
恭一は酔った当時のことを覚えていなかったので、自分たちが一緒に住んでることを夏生が知っていることに驚いた。自分の失態を今ヶ瀬から聞き青ざめる恭一。自宅では恭一は当たり前のように今ヶ瀬と一緒に風呂に入り一緒の布団で寝ることが日常になっていた。
夏生から呼び出されたことを知っている今ヶ瀬は何の要件だったか恭一に聞く。恭一が一瞬黙って誤魔化したことに今ヶ瀬は何となくロクな話題ではなかったんだと悟る。そうして恭一にキスをし押し倒そうとする。恭一はそれをやんわり抵抗しながらも受け入れていた。その感覚を感じているとふと隣に置いてあった鏡に写った自分の姿が目に入る。自分の欲情した顔を見て慌てた恭一は咄嗟に今ヶ瀬を押し退ける。今ヶ瀬は勢いで後ろの家具で後頭部をぶつけてキョトンとしていた。謝る恭一に今ヶ瀬は「ゲイのくせに分をわきまえない俺が悪い」と言った。
別の日、夏生は今ヶ瀬に呼び出されていた。お互い笑顔を作って臨戦態勢になる。学生時代夏生は今ヶ瀬に恭一の恋愛相談を聞いてもらっていた。しかし夏生は実際は今ヶ瀬は相談に乗ってるフリをして必死に恭一と夏生を別れさせようとしていたんじゃないかと言った。今ヶ瀬はあっさりそれを認める。
今ヶ瀬は「退いてください 恭一先輩に今更近づくのはやめてください」と夏生に言った。ノンケ(異性愛者)の人相手にやっとここまで来た今ヶ瀬は夏生相手では勝てないと悟り夏生に「消えてください」とお願いする。
夏生は10年恭一を想っている今ヶ瀬に「お疲れ様」と顔を歪める。夏生は昔からフラフラしている恭一をハメルンの笛吹についていくネズミに例え、今でも好きな恭一を「ドブに溺れさせるわけにはいかない」と言った。ドブと例えられた今ヶ瀬はその言葉を繰り返す。重ねて夏生は「ドブよ」と言い切る。
そこに恭一がやってきた。呼び出された夏生が恭一も呼び出していたのだ。この状況が飲み込めない恭一は二人を見て慌てていた。
そこで夏生が今ここで恭一が夏生と今ヶ瀬どっちを持ち帰るかで決めようと提案した。恭一は意味不明な提案に驚いたが今ヶ瀬はそれに乗った。恭一はゲイの今ヶ瀬と夏生を目の前にして「選べるわけないだろ!?」と動揺する。悩むと思っていなかった夏生はその時点でショックを受ける。夏生は恭一がもし今ヶ瀬を選んだ時のリスクをわかってるのかと問い詰める。容赦無く追い詰める夏生に横か今ヶ瀬が口を挟み二人は恭一を放って口論になる。今ヶ瀬は、夏生にとって恭一が初めての男だからこだわってるのだと際どいことを言った。それに対して夏生も負けじと今ヶ瀬の初体験のことをわざと聞き出す。今ヶ瀬は男との初体験のエピソードを話し始めるが、生々しい話に恭一はたまらず声を荒げて制止する。
夏生と今ヶ瀬は口を閉ざす。恭一は静かに話し始めた。恭一は今ヶ瀬に「…俺はお前を選ぶわけにはいかないよ」と言った。今ヶ瀬はその言葉に大人しく同意する。「結論は出たみたいね」と夏生は恭一を連れて店を出た。

愛おしいほど臆病になる

店を出た恭一は夏生に連れられてホテルに行く。
ホテルの一室で恭一はペラペラと独り言のように今ヶ瀬の愚痴をこぼしていた。今ヶ瀬を受け入れないでいる言い訳をタラタラ溢していた。二人は裸でベッドにいたが夏生は恭一に背を向けてその言葉を聞いていた。恭一も夏生に背を向けてベッドに腰掛け、もし勇気を振り絞って今ヶ瀬の元へ行ってもだめになって捨てられたら女に捨てられる比じゃ無いとぼやく。どう聞いても恭一の今ヶ瀬に対する愛の告白を聞いて「そんなことウジウジ考えてるから勃たないのよ 恥ずかしい男」と吐き捨てた。恭一は無言で俯いた。
恭一は家に帰ると風呂場でぐったりしている今ヶ瀬を発見した。恭一は慌てて今ヶ瀬の元へ駆け込む。ぼんやり起きた今ヶ瀬はお風呂に浸かりながら寝てただけだと言った。慌てた恭一の表情を見て今ヶ瀬は「貴方にフラれたくらいで死ぬわけないじゃないですか」と微笑む。今ヶ瀬は夏生とどうなったのかやんわり聞いたが「そんなのどうだっていい!!」と恭一に遮られる。シャツが濡れることを気にせず恭一は今ヶ瀬の身体を抱きしめた。その様子に胸がいっぱいになった今ヶ瀬は「もう限界です 俺と寝てください」と哀願し、断られたら二度と触れないと恭一に言った。しかし「やだ」とも答えることのできない恭一は今ヶ瀬を見つめるだけだった。その答えがわかってたように今ヶ瀬は納得して静かに恭一を抱きしめた。

去った今ヶ瀬を悪く言う恭一に夏生が冷静に意見した。

翌朝目が覚めた恭一は今ヶ瀬の姿が見当たらないことに気づき部屋を探すが本人は愚か今ヶ瀬の荷物が全て消えていた。残っているのは今ヶ瀬の残したタバコの吸い殻だけだった。恭一は携帯にかけてみるが解約され繋がらなくなっていた。恭一は昨夜「もう限界」と言っていた今ヶ瀬の言葉を思い出していた。
その後恭一は夏生と会って、あれから何の連絡もないことを報告していた。恭一は自分に都合の良いように、今ヶ瀬は今頃他の男といるんだろうと思おうとしていた。それを黙って聞いている夏生は「今ヶ瀬はそんな子じゃないよ」と言った。恭一は夏生に図星を突かれ両手で顔を覆い俯く。夏生は傷ついている恭一の姿を見て何も言えなかった。
二ヶ月後、恭一は夏生と次の連休に旅行の計画を立てていた。今ヶ瀬に去られて落ち込んでいる恭一を気遣ってのことだった。部屋にはまだ今ヶ瀬が残したタバコの吸い殻が残っていた。
旅行前日、恭一は急な雨に降られタクシーの列に駆け込んでいた。列の一番前に目を向けるとそこにはタクシーに乗り込もうとしている今ヶ瀬の姿があった。恭一は走り出し今ヶ瀬が乗っているタクシーに滑り込む。
何も考えずにただ乗り込んできた恭一に今ヶ瀬は「用が済んだら適当なところで降りてくださいね これから男のトコ行くんで」と冷たく言った。特に話すことを決めてなかった恭一は今ヶ瀬の適当な質問に相槌を打つ。要件を聞かれた恭一が答えに詰まりようやく絞り出した言葉は「…吸い殻を……」だった。意味がわからない今ヶ瀬は「それは失礼しました」とそっけなく言ったが顔を背けている恭一の横顔を見て「…まさか 捨ててないんですか……?」と気付く。自分の女々しさに今ヶ瀬の顔を見れない恭一は車を降りようとする。恭一の気持ちを知った今ヶ瀬は何で連絡をくれなかったのか恭一に詰め寄った。本当は連絡を待っていた今ヶ瀬はあらゆる手段を使って連絡してこなかった恭一を責める。しかしすでに男がいる今ヶ瀬に恭一は投げやりになった。今ヶ瀬は恭一が夏生と付き合っていると思い、離れている二ヶ月間いかに辛かったのか恭一に説明した。それでも恭一は他の男と寝ている今ヶ瀬が許せず「もういい 終わりでいい!!」と言う。今ヶ瀬は今まさに今夜他の男とやるつもりだったと言った。それまでは男はいなかった、それは本当に嘘じゃないと必死に訴えた。その言葉に恭一は落ち着きを取り戻して今ヶ瀬を見つめる。今ヶ瀬はそんな恭一を見つめ「本当に先輩なんですか?」と恭一の頬を触りキスをしようとする。恭一は今ヶ瀬の手を握り「他の男がいる奴とキスなんか死んでもしない!!別れろよ!!今すぐそいつと別れろ!!ここで!!それからだ……!」と叫ぶ。今ヶ瀬は黙って携帯を取り出し電話をかけた。恭一は今ヶ瀬が男と話している間落ち着かずに頭の中はいろんな雑念がぐるぐる巡っていた。なかなか話が終わらない今ヶ瀬に耐えられず握っていた今ヶ瀬の手をさらに強く握りしめる。今ヶ瀬が「…切るよ急ぐから じゃぁねさよなら」と言った瞬間二人は抱き合い車内で熱くキスを交わした。

男と別れた今ヶ瀬にキスされ自分の気持ちを打ち明ける恭一。

まだ強い雨が降り頻る中、恭一の家に帰った今ヶ瀬と恭一はキスをしながら向かい合う。今ヶ瀬にされるまま恭一は身を委ねる。恭一は初めての感覚に耐えながら今ヶ瀬との情事に溺れてゆく。ことが終わり息が乱れている恭一が目を開けると鏡があり、恍惚とした表情の自分と目が合う。その瞬間今ヶ瀬が手で恭一の目を押さえる。そのまま今ヶ瀬に犯されるように再び抱かれる。
翌朝、今ヶ瀬はタバコの吸い殻を捨てて新たに吸っているタバコの灰を灰皿に押し付ける。恭一の携帯に夏生から着信があった。今日は夏生と約束した温泉の予定だったが、恭一はベッドから起き上がることもできない。待ち合わせの時間からもう45分ほど過ぎていた。
恭一は今ヶ瀬にキスされながら「やっちゃたなあ…」とぼんやり思った。まだ外は雨が続いている。連休は二人でベッドで過ごした。

順調すぎる日々とたまきの淡い想い

たまきにワインのことを聞いた恭一。

会社のトイレで女子社員たちが噂話をしていた。OLの一人、岡村たまき(おかむらたまき)は課長に昇進した大伴恭一のことがかっこいいと言って憧れていた。それを聞いたたまきの同僚・野上美奈子(のがみみなこ)は「あの人には絶対女がいるよ」と言った。「愛されて生きてる男の余裕みたいのがあるもん」と得意げに言った。
恭一がまだ幼い頃、両親が喧嘩するといつも父は母親と姉から完全に無視されていた。父をかわいそうだと思った恭一はそのことが心の中に深く刻みこまれた。そしてそれを教訓にして、女の人の言うことは大人しく聞いて優しくしよう、そして俺のことを好きになってくれた人と付き合おうと思って生きてきた。比較的女性に恵まれた人生だったが、今の状況は男と裸で抱き合っているのが現実だった。今ヶ瀬と寝てから半年の月日が経って恭一はそれなりに満たされていた。恭一は抱かれることに快感を覚え今ヶ瀬に大事にされている実感も日々感じていた。恭一は反面あまりにも平和で順調な毎日に不安も感じていた。次の土曜日は今ヶ瀬の29歳の誕生日だ。
会社で仕事をしながら今ヶ瀬のことを考えていると目の前に女性社員の身体が視界に入った。恭一はぼんやり最近すっかりご無沙汰な女性の身体を見てホッとする気持ちがあった。そして気づくとセクハラ紛いに女性の身体を凝視していた。恭一は我に帰り慌ててデスクのお茶をこぼしてしまう。女子社員が慌ててハンカチを差し出しお茶を拭う。その女子社員は以前トイレで噂話していた岡村たまきだった。たまきは恭一がずっと見ていたため間にか用件があるのかと聞いた。特にそんなつもりで見ていたわけじゃない恭一は咄嗟に「岡村さんワイン詳しい?」と聞く。恭一は今ヶ瀬の誕生日に生まれ年のワインを送るつもりでいた。たまきはワインに詳しい友人がいると言ってワインのリストアップを引き受けた。予算は5〜6万円だというのを聞いてたまきは憧れの恭一にそれほど大事にしている彼女がいるものだと思いショックを受ける。恭一が彼女の存在を否定するとたまきの表情は明るくなった。

来年も誕生日に一緒にいることを想像して嬉しくなる今ヶ瀬。

深夜0時を超えて今ヶ瀬の誕生日に日付が変わった頃、恭一は購入したワインを今ヶ瀬に手渡す。その値段が大体想像できた今ヶ瀬は驚いて声をあげる。今ヶ瀬はもったいないからワインは開けないと言った。ワインだから飲まなきゃと思う恭一は「また来年あげるから」とサラッと言った。その言葉に今ヶ瀬は赤面して俯いてしまった。
翌朝、まだ眠っている恭一の顔を今ヶ瀬は眺めていた。恭一は寝ぼけながら今ヶ瀬に軽くキスをする。今ヶ瀬は嬉し過ぎて困ったように赤面した。その時玄関のチャイムが鳴る。今ヶ瀬が出るとそこにはたまきの姿があった。今ヶ瀬は礼儀正しく今ヶ瀬に挨拶をし、恭一が会社に忘れていった書類を届けに来たと言った。今ヶ瀬はそんなたまきに嫌味を言うが素直なたまきには全然通用しなかった。「付き合ってるの?」としつこく聞く今ヶ瀬にたまきは赤面しながら否定する。そしてたまきが「大伴さん恋人はいないってご自分でおっしゃってましたよ!」と言うと今ヶ瀬は口を閉ざし、無言でたまきから書類をひったくり部屋に戻った。
今ヶ瀬は起きた恭一に「たまきちゃん」が書類を届けに来たことを伝えた。それを聞いて飛び起きた恭一はバタバタ支度をしてたまきを追いかけ家を飛び出した。
今ヶ瀬は誕生日に恭一にお願いした北京ダックを恭一と食べに来ていた。今ヶ瀬は落ち込んだ様子でたまきに嫌味を言ったことを恭一に謝った。恭一は「気にすんな」と言った。しかし今ヶ瀬はたまきが恭一に気があり恭一をそれに気づいていて満更でもないことに気がついていた。今ヶ瀬はそれを認めるようなことや自虐的なことをボソボソと恭一に溢す。恭一は今ヶ瀬が何が言いたいのかを察し「俺が好きでお前と飯食ってるんだ ガタガタ言うなよ」と言った。その言葉に今ヶ瀬は胸を高鳴らせ赤面する。今ヶ瀬は優しくしてくれる恭一に「俺に恋愛感情があるんですか?」それとも「俺の気持ちへの埋め合わせとして恋人ごっこをしてくれてるんですか…?」と聞いた。恭一は何も答えることができず二人は無言になった。

貴方はいつか女のものになる

自分の気持ちと恭一との現実に苦しむ今ヶ瀬。

恭一が夜の街を歩いていると向かいの歩道でたまきが恭一の会社の柳田(やなぎだ)常務と腕を組んでるのを見かけた。恭一はそのことに激しくショックを受け、たまきに対するわずかな気持ちが急激に冷めたのを感じた。
今ヶ瀬が帰宅すると恭一は風呂から上がりベットに突っ伏していた。今ヶ瀬が声を掛けると恭一はたまきのことを話した。女のことで傷ついて落ち込み、ベッドに寝っ転がって今ヶ瀬に抱いてもらうのを待っているような身勝手な恭一に今ヶ瀬はイラついた。今ヶ瀬は恭一の上に跨り「…男に掘られてストレス発散したいならハッテン場にでも言ってくれば?」と冷たく言い放ち家を出ようとする。すぐに今ヶ瀬は一杯一杯な自分の気持ちを認め立ち止まる。恭一はいずれ女のものになる、今ヶ瀬はその時は空気を読んで消えるということは変わらないと言う。今ヶ瀬の痛いほど献身的な気持ちに恭一はなんとか対等になれたらと思っていた。今ヶ瀬はゲイではない恭一は絶対自分のものにはならないのはわかっていたが、恭一に優しくされるたびにますます気持ちは募り学生時代と比べようもないほど惚れてしまった。今ヶ瀬は「こんな関係 俺が欲しいと言うのをやめたら今すぐ終わってしまうのに……!」と両手で顔を覆い嘆き叫んだ。今ヶ瀬の覆った手から涙が溢れる。恭一は「…対等って言うのは…同じ重さの気持ちを持ちたいって意味だよ」と優しく声をかけ「今ヶ瀬 おいで」とベッドに誘った。
恭一はその晩両手首をネクタイで縛られ今ヶ瀬に抱かれた。一心不乱に今ヶ瀬に突かれている恭一の頭には「俺はこの関係に 責任をとらなくていいのかな」と言う言葉が浮かんだ。
翌朝、なんてことなかったように二人は晴れやかに朝の時間を過ごす。今ヶ瀬はなんだかんだ自分と恭一の相性がいいと言った。そして今ヶ瀬は少し悲しげに「貴方とはきっと うまくやっていけますよ…もうしばらくは」と言った。今ヶ瀬はいつものようにいってらっしゃいのキスをする。恭一はそれを受けてさらに深くキスをした。「いってきます」と玄関の向こうに恭一が消えると今ヶ瀬はしゃがみ込み蹲った。
出社した恭一はたまきに「おはようございます!」と挨拶される。恭一はいつもの笑顔と違い、たまきを一瞥し「おはよう」と静かに返した。それを見たたまきは赤面し「いつもの100倍カッコよかった」と美奈子に呟いた。

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