最強のふたり(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『最強のふたり』とは、2011年にフランスで公開された、実話をもとにコミカルに描くヒューマンヒストリー映画である。パラグライダーの事故で首から下が不自由になってしまった大富豪の男と、その介護人として雇われた、貧困層の黒人青年との交流を描いた物語。共通点のない2人が、それぞれの趣味を共有していく様子をユーモラスに描き、友情を育んでいく。第24回東京国際映画祭で最優秀作品賞と最優秀男優賞をダブル受賞した。監督・脚本は、フランスの2人組監督のエリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュが担当している。

ある日の午後、妹のミナを学校の外で待っていたドリスはミナを車に乗せ「元気か?学校はどうだ?」と尋ねた。「メールしたけど」と、ドリスの方を見もせずつっけんどんにミナは答えた。「卵は見つかったか?」とドリスはミナに聞く。ドリスは、母親にあげた卵の置物を探すようミナに頼んでいたようだった。「見つからなかった。あてにしないでよ」と不機嫌そうにミナは答えた。

麻薬の密売で警察に拘束された弟のアダマを迎えに行くドリス。アダマがギャングとの付き合いがあることにドリスは気付いていた。「俺が持ってたのは30グラムだ。ちょっと勾留してすぐバイバイだ」と言ってアダマは悪びれない。ドリスが「飯でも行くか」と誘い車に乗せようとするが「冗談じゃねえよ」と言って立ち去ろうとするアダマを捕まえて「どこ行くんだ。仲間は誰なんだ。言え」とドリスが怒鳴る。「離せ」と暴れて逃げようとするアダマを、ドリスは「勝手にしろ」と言って突き放す。仲間が乗ってるであろう黒い車に乗り込むアダマの姿を見てドリスは「馬鹿野郎」と呟いた。

文通相手について話すフィリップ(画像左)とドリス(画像右)

「その艷やかな瞳は魅惑の宝石。象徴的で不思議なその本性は汚れなき天使と古のスフィンクスの融合…」。フィリップがエレノアに出す手紙の文章を読み上げている。マガリーが書き取りながら綴りなどを確認していると、「つまんねんな。くどくど何言ってんだ?」と、合間にフィリップに水を飲ませていたドリスが口を挟む。そして「顔は知ってるの?」とフィリップに聞いた。「知らないし重要ではない。大切なのは知的かつ精神的なアプローチ。心と心のつながりだ」とフィリップが答えると、「もしもブスだったら?」とドリスが聞く。「趣味のいいコメントだ」とフィリップはドリスを相手にしない。半年前から文通をしているとマガリーが教えると「半年も手紙だけなのか?」と驚くドリス。「とんでもない女だったらどうする?詩の最後にところで体重は?って聞いたら?」と次々と茶々を入れるドリス。そして「電話しなきゃ」とドリスは言った。「手紙の方が多くを伝えられるんだ。まったく」と反論するフィリップ。「電話番号を探すよ」と言って、相手からの手紙に電話番号が書いてあるのを見つけるドリス。「手書きで書いてあるぞ。これは脈がある」とドリスは楽しそうに言い、エレノアに電話をかけ始める。フィリップは「やめろ。電話を切れ」とドリスに言い、半ばムキになって通話を断固拒否する。相手と繋がったドリスは「声は合格」と言ってフィリップの耳に携帯をあてる。しつこいドリスに根負けしたフィリップは戸惑いながら通話を始める。「もしもし。フィリップだ。どうしても君の声が聞きたくて電話した。”もしもし”だけでもう感激してる」とフィリップが話すと、「彼女に代わるわ」と相手側が言った。その隙にドリスが「もっとシンプルに」とアドバイスする。そしてようやくエレノア本人に代わり、「君に手紙を書いててふと思ったんだ。電話してみようと」とフィリップが話す。マガリーは微笑んで席を立った。それがきっかけでフィリップとエレノアの電話での交流が始まった。

オペラ鑑賞に来たフィリップとドリス。その少しの待ち時間でもフィリップはエレノアと電話で話していた。そんなフィリップを見てドリスは「めちゃくちゃ喋るじゃねえか」と笑っていた。
会場に入り席に着く2人。するとドリスが「女が求めるものは?」とフィリップに聞いた。「さあ。外見や品の良さかな」と答えるフィリップ。「違う。女が望むのは経済力だ。生活の保証さ。その点あんたは有利だな」とドリスが言うと、「できれば銀行口座以外の魅力で勝負したいんだがね」とユーモアを交えて言った。「あんたのクソつまらない詩を半年も喜んで受け入れてた変わり者だ。障害なんて気にしないよ」と熱を込めてドリスが言う。そしてドリスは「写真交換は先に進む1歩になる。車椅子がバッチリ写ってなくてもいい。同情を引くためじゃないんだから」と話し、「そうだな」とフィリップは答えた。
開演のブザーが鳴り舞台が開幕し、葉っぱを模したような緑色の衣装に身を包んだ男が歌い始めると、オペラを初めて観たドリスは大笑いした。「あの人どうしちゃったの?木のつもり?」と笑いが止まらないドリス。他の観客が注意するが、フィリップはドリスにつられてこらえ切れず笑っていた。

エレノアに送る写真を選ぶドリス。1枚の写真を取り出し「これがいい。写りが良くて車椅子も目立たないけど障害は分かる。これにしようか?」とフィリップに見せる。フィリップは抵抗があるようで、「さあね」とどっちつかずの返答をした。ドリスが「電話で話した時の印象は?」と聞くと「いいと思ったよ」と答えるフィリップ。「それだけ?」と問いかけるドリスにフィリップは「超好きだ」と言い、「だったら」と踏み切れないフィリップをドリスが後押しする。そして「マジでこの写真を送りつけちまおうぜ」とドリスの調子に合わせてフィリップが言うとドリスは嬉しそうに「よっしゃ。それでいいんだ。行動開始」と言って意気揚々と部屋を出た。フィリップはどこか不安そうな、複雑な表情を浮かべていた。

ドリスが自室で絵を描いていると、フィリップの娘エリザがノックもせず「タバコある?」と言って入ってきた。絵を描くドリスを見て「あんたが絵?字は読めるようになったの?」とバカにする。ドリスは「出て行け」と言ってエリザを追い払った。

「今入ってる写真別のと入れ替えて」と、イヴォンヌに頼むフィリップ。「君がポストに投函してくれ。内密にな。最初の写真はゴミ箱に」と、事故の前に撮った写真を送るように言いつけた。そこに突然ドリスが「くそったれ。頭に来る」と興奮した様子でフィリップとイヴォンヌのいる部屋に入ってきた。とっさに最初の写真を「風俗ファイル」に隠すイヴォンヌ。フィリップが「どうした?」と聞くと「あんたの娘だよ。絵を描いていたら…」とドリスが話し始めると「君が絵を描いていた?」と不思議がるフィリップ。ドリスはそれには答えず「あいつを躾けてくれ。さもなきゃ俺が頭をかち割ってやる」とまくし立てる。「まあ少し落ち着け」とフィリップがなだめる。「落ち着いてられっか。なあ。俺はあんたの手足だよな?」とドリスが言うと「それはそうだ」と答えるフィリップ。ドリスは「だろ?だからあんたの代わりにあいつを殴ってやる。なんなら車椅子で轢いてもいいぞ」と、頭に血が上っている様子だ。フィリップは「ドリス。そう大げさに言うな。どう思う?」とイヴォンヌに聞くと「まあ…確かにちょっと躾けが必要かもしれませんね」と少し言いにくそうにイヴォンヌは答えた。「ちょっと?16歳で趣味の悪い化粧をして、モップ頭の男といちゃついてる。まあそれはこの際どうでもいい。あいつの勝手だ。問題は人を見下す態度だ。あの言葉遣い。ありゃなんだ。失礼だぞ。俺は犬か?」と訴えるドリス。ドリスの話を聞きながらイヴォンヌは小さく何度も頷いた。「あいつの根性を叩き直す許可をくれ」と言うドリスに「よし。分かった。私から話すよ」と真剣にドリスの話を聞いていたフィリップは答えた。ようやく落ち着きを取り戻したドリスは納得いったのか「そうしてくれ。早くな。頼むぞ。躾け直してくれ」と言いながら部屋を出た。ドリスが部屋を出て行くと、「でも絵って、何の絵?」と1番気になるのはそこだとばかりにフィリップは言った。

友情を育むフィリップとドリス

改造した電動車椅子で滑走するフィリップ(画像中央)とドリス(画像中央上部)

絵を描くことに興味を持ったドリスは夜な夜な自室で楽しそうに絵を描いていた。
だいぶ慣れた手付きでテキパキと介護するドリス。マッサージもシャンプーも手際よく行う。あんなに嫌がっていた便の処理だったが、マルセルから渡されたゴム手袋も渋々受け取るドリスだった。フィリップと一緒に買い物をしたり時間が空けば絵を描いたりなどして、充実した日々を送っていた。
ある夜赤ちゃんモニターを通してフィリップがエリザを叱っている様子を聞いていたドリス。「使用人達に敬意を払わないなんてもってのほかだ。態度を改めなさい」とフィリップがエリザに注意する。「ダメだよもっと厳しく」とドリスが言う。「モップ頭の男は出入り禁止だ」とフィリップが言うと、エリザは「何よ。私の勝手じゃない」と言いながらも泣いていた。フィリップが畳み掛けるように「言うことを聞け。さもないと車椅子で轢くぞ」と言うと「そうだ。それでいい」と自室にいたドリスは満足そうに言った。

完成した絵をフィリップに見せるドリス。「幾らで売れると思う?」とドリスはフィリップに聞く。想像以上の出来栄えに真剣に鑑賞しながら「検討しよう」と答えたフィリップ。ドリスは「どう検討すりゃ高くなる?」とドリスは言った。

ある日公園を走りながらドリスは「なにノロノロ走ってんだよ。もっとスピード出しなよ」と電動車椅子でやって来るフィリップに言った。「これが最速だ」と答えるフィリップ。「それで?ボロい原チャリと一緒だ」と煽るドリス。2人は車椅子を改造するため業者に頼んだ。作業員が「時速12キロでいい?それが限界だ」と言うと、車で待つフィリップにドリスが「12キロだってさ」と言った。「最高で?それ以上は?」と聞くフィリップ。「無理だってさ」とドリスが答えると、「じゃあそれで」とフィリップは渋々承諾した。
ドリスも立ちながら乗れる高速に改造した電動車椅子で楽しそうに滑走するフィリップとドリス。2人は大はしゃぎで無邪気に走り回っていた。夜は2人で一緒にマッサージ店に行き、フィリップは耳をマッサージしてもらう。そんなふうにしてフィリップとドリスは色んなことを共に経験していくのだった。

ダンスを始めるドリス(画像中央)と見学するマルセル(画像右)

毎年行われるフィリップの誕生日会が今年も開かれようとしていた。イヴォンヌが毎年張り切って企画をする。「親戚が集まる堅苦しい会だよ。みんなが私がまだ生きてるか見に来るんだ。確認にね。退屈な集まりだ」とフィリップはドリスにこぼしていた。
フィリップの邸宅の大広間でクラシック演奏会が開かれる。大勢の人がコンサート会場さながらに並んで座っている。ドリスはマガリーの隣に無理やり座り声をかける。スーツを着たドリスに「服でずいぶん変わるもんね。すごく似合ってる。ちょっとオバマみたい」とマガリーがドリスに言うとドリスは嬉しそうに笑い、隣に座っている男性に「俺に気がある」とすっかり舞い上がって言った。
ドリスが廊下を歩いていると、エリザの部屋の方から泣き声が聞こえてきた。エリザの部屋へ向かうドリス。ドアを開け「何してんだ?コンサート聴きに来いよ」と言った。ベッドに横たわっていたエリザは「ほっといて」と泣きながらドリスに言う。「なんだ生理痛か」と言ってドリスはエリザの部屋の中に入って行った。エリザは「出て行って」と言うが、泣き続けるに加え苦しそうなエリザの様子に心配になったドリスは「どうしたんだ。おいエリザ。何した?」と、エリザの体を揺する。するとドリスは、そばにあるテーブルの上に置いてある薬を目にする。ドリスは「下痢止め?これで何すんだ?自殺か?3ヶ月便秘になるだけだ」と呆れて笑った。「もうほっといて」と泣くエリザ。薬が複数あることに気付いたドリスは「おい。頭痛薬もか?死んじまうぞ。大変だ。救急車でも呼ぼうか?」とからかうように言った後、「何があった?」と聞いた。エリザは渋々「バスティアンのせい。もう終わり。私を振ったの。アバズレって言われた」と答える。そして「私が死ねばみんな喜ぶ」と言ってまた泣き出した。「馬鹿言ってんじゃねえよ。さあ下へ行こう」と言うドリスにエリザは「彼と会ってよ。話をして。お金払うから」とドリスに頼んだ。ドリスは憤慨し、「俺に?本気で言ってんのか?ガキの喧嘩に関わってる暇はねえんだ」と言うが「お願いだから」と懇願するエリザ。「話をしろ?金を払う?俺を見損なうな」と言い捨てドリスは部屋を出た。エリザが「ドリスお願い」と叫ぶと、初めて名前を呼ばれたドリスは笑顔で「じゃあいくら払う?」とドアの隙間から顔を覗かせた。エリザは泣き笑いの顔で「馬鹿」と呟いた。

フィリップは友人のアントニーにドリスが描いた絵を見せていた。アントニーは感心しながら「独特のスタイルがある。しかし無名の画家に1万1千ユーロはな。でももし買わずにいて3倍の値段がついたら悔しいな」と言って、フィリップの顔を見て笑う。アントニーが「ロンドンで個展を?」と聞くと「ベルリンでも」と答えるフィリップ。「そうか。どうしたものかな。安くはない買い物だ」と真剣に考えを巡らせているアントニーを見てフィリップはおかしそうに微笑んでいた。

パーティー会場ではドリスがイヴォンヌに、マガリーには相手がいるのかどうか聞いていた。イヴォンヌは「いるけど、くっついたり離れたりしてる」と答え、「今は揉めてるみたいよ」と付け足した。「それ俺のせいかな。間違いなく彼女は俺に気がある」と確信めいたように話すドリス。「夢は大事ね」と言って意味ありげに笑うイヴォンヌだった。

フィリップは演奏者に何曲かリクエストしてドリスに聴かせた。独特な解説を始めるドリスに、面白くて仕方ないといったふうにフィリップは笑っていた。
「今度は俺の番。俺のお勧めを聴いてくれよ」と言ってドリスがiPodをスピーカーに差して持ってきた。「アース・ウィンド&ファイアー。最高だ」と言って、流れ出す前奏の小気味良いリズムに乗って踊り始めるドリス。「誕生日だぞ。みんなも踊って」とドリスが言うとイヴォンヌもマルセルも自然と踊り始め、普段穏やかな庭師のアルベールは人が変わったように見事なダンスを披露した。みんなの楽しそうな様子を、フィリップは満面の笑みで見つめていた。

その日の夜、フィリップをベッドに寝かしていたドリスは「じゃあ。最後に俺からちょっとしたプレゼント。ブスだと落胆するといけないから夜まで取っといた。何にせよ彼女からの返事だ」と言ってエレノアから来た手紙を開封し、フィリップにエレノアの写真を見せた。「どう?」と聞くドリスに「ブスじゃない」と笑顔で言うフィリップ。ドリスは写真を見て「ほんとだ。ダンケルクの女にしては珍しい」と言い、メモ書きが入っていることに気付く。「来週パリに少し寄る予定です。電話くれたら…」とドリスが読み上げる。そして「…(点3つ)の意味は?」とドリスがフィリップに聞くと「いい意味?」と聞き返すフィリップ。「そりゃいい意味に決まってるだろ」と嬉しそうにドリスは答えた。笑顔になるフィリップに「おやすみ。いい夢を」とドリスは言って、明かりを消してからフィリップの部屋を後にした。

エレノアを待つフィリップ(画像右)とイヴォンヌ(画像左)

フィリップとエレノアが会う約束をしたその日ドリスは1人で外出し、バスティアンの元へ向かった。バスティアンが友達と歩いている時、突然ドリスが現れバスティアンの胸ぐらを掴み「ちょっと来い」と言って道の脇に寄せた。「俺のこと覚えてるか?」と聞くドリス。怯えて頷くバスティアンにドリスは「エリザを傷つけたろ。ひでえな」と言った。バスティアンは「何もしてない」と否定するが、「心を入れ替えて謝れ」とドリスは言った。「ごめんなさい」と謝るバスティアンに「俺にじゃない。エリザにだ。分かったか?毎朝クロワッサンを届けろ。分かったら失せろ」と凄む。逃げるように走り去って行ったバスティアンにドリスは「髪を留めろ。バレッタで」と投げかけた。

エレノアとの待ち合わせ場所にいるフィリップとイヴォンヌ。フィリップはしきりに「今何時?」とイヴォンヌに聞いていた。
その間ドリスは、母親の職場の前まで来ていた。清掃の仕事をしている母親を車の中から眺めているドリス。するとフィリップから電話がかかってきた。「ドリス。今何をしてる?」とフィリップが聞くと「ジムにいる。そっちは?」とドリスは嘘を言った。「なあ。遠くに行かないか?」と言うフィリップ。ドリスは「質問なしで?」と聞いた。フィリップは「そう。なしで」と答える。「逃げ出したい?」とドリスが聞く。「そういうこと」とフィリップが言い「どこへ?」とドリスが聞くとフィリップは「息を吸いたい」と答えた。ドリスは「息をね。行くよ」と言って車を走らせた。
障害を知られることに怖気づいてしまったフィリップはエレノアが来る前にカフェから出てしまった。するとちょうど、すれ違うようにエレノアがカフェの中へ入って行ったのだった。

パラグライダーを眺めるフィリップ(画像右)とドリス(画像左)

自家用ジェットに乗り込むフィリップとドリス。「2人だけ?他の乗客はいないの?」と嬉しそうに話すドリスを見て微笑むフィリップ。するとフィリップが接客係のスタッフに「例の包を頼む」と言った。スタッフがプレゼントのような包みをドリスに渡すと、ドリスは「ありがとう」と受け取って包を開けた。そこには札束があった。「すげえ」と言って驚くドリス。「君の絵は1万1千ユーロで売れた。続けたまえ。才能がある」とフィリップは言った。ドリスは上機嫌になり「インスピレーションを感じて描いたんだ。突然どこかから音楽が聴こえてきて閃いた」と興奮気味に話す。「調子に乗るなよ」と言ってフィリップは笑った。

やがて夜が明け朝になると、フィリップとドリスは丘の頂上でパラグライダーを眺めていた。「こんなことするのはイカれた奴だけだ」とドリスが言う。一足先にフィリップとアントニーがインストラクターと共に空中を舞う中、「俺は絶対にやらない」と頑なに拒否するドリスだったが、半ば無理やり飛ばされてしまう。悲鳴を上げるドリスだったが次第に爽快感に包まれ楽しそうにはしゃいでいた。フィリップとドリスは笑顔で顔を見合わせながら、大空を飛び回っていた。

家族の元へ帰るドリス

上機嫌の2人は冗談を言い合いながらフィリップ宅に帰宅すると、トラブルに巻き込まれ怪我を負ったドリスの弟アダマが訪ねてきていた。ドリス宛の職安からの手紙で居場所を知ったと言うアダマ。アダマの目の上の傷に気付いたドリスは「その怪我はどうした?」と聞いた。慌てて傷を隠し「別に。スクーターで」と答えるアダマ。「ウソつけ。こっちへ来い」と言って、ドリスはアダマを自室へ連れて行った。「本当は何があったんだ?正直に言え」と聞くドリス。「関係ないだろ」と強がるアダマに「何かあったからここへ逃げて来たんだろ?」と大声を出すドリス。「ちょっとマズっただけだ。心配ない」とアダマが言うと「何もできないくせに生意気なこと言うな。待ってろ。何も触るなよ」と言ってドリスは部屋を出て行った。
外で妹のミナに電話をかけるドリス。「今は俺と一緒にいる。ミナ泣くな。大怪我じゃない。ただのかすれ傷だ。俺には仕事があるから何も出来ない。母さんには言うな」とアダマのことを話している様子を、部屋の中からじっと見つめるフィリップだった。
フィリップがいる部屋に入るドリス。「よく似てるな。もし道ですれ違っても君の弟だと気付くよ」とフィリップが言った。「変だな。弟じゃないのに」と答えるドリス。フィリップは不思議そうに「まあでも、弟なんだろ?」と聞く。ドリスはゆっくりと話し始めた。「俺の親は実の親じゃない。本当は叔父と叔母だ。8歳の頃養子になった。子供がいなかったから、兄の子を養子にもらったって訳さ。長男をね。それが俺だ。俺はバカリっていうんだ。それが本名。そのあとたまたま母さん…叔母に、子供が2人出来た。叔父が死んで、再婚してまた子供。だから複雑なんだ」と胸中を吐露する。フィリップが「君を頼ってきたんだろ?」と言うと、涙ぐむドリス。フィリップはドリスを気遣い、「ドリス。もう終わりにしよう。一生車椅子を押す訳じゃないだろう。これだけ働けば失業手当をもらってもいい」と言い、ドリスに家族の元へ帰るよう勧める。ドリスは涙をこらえながら、何も言わずフィリップを見つめていた。

外で待っていたアマダ(画像中央)を連れ、去って行くドリス(画像左)を眺めているフィリップ(画像右)

バスティアンがクロワッサンを持ってフィリップの家にやって来た。対応したイヴォンヌに「エリザによろしく」と言い立ち去ろうとすると、「ようバスティアンじゃねえか。上がれよ」と言うドリスの声が聞こえ、バスティアンは一目散に走って帰って行った。
「ほんとなんだ。やめるって」と、荷造りをしているドリスの部屋にマガリーがやって来た。ドリスが「ああ。でも君の番号は知ってる。寂しいと思うけど我慢してよ。また連絡する」と言うと、「残念。今度は私がこの部屋に移ることになったの。もう1人いるけど。紹介する。こちらフレデリック」とマガリーは言って、1人の女性をドリスに紹介した。驚きを隠せないドリスだったが、やがてすべてを察して「そうなの?つまり君は…」と言うと、マガリーは「そうよ」と微笑んだ。「じゃあお別れのキスはやめておくよ。じゃあな。野郎ども」とドリスはマガリーの肩を叩き、笑顔で別れた。廊下へ出ると、すでに新しい介護人の面接者で溢れかえっていた。
玄関には、イヴォンヌが待っていた。「マガリーのこと怒ってる?」と聞くイヴォンヌにドリスは「いや。あんたの勝ち。1杯食わされた。全然なびかないからおかしいと思ってたんだ」と言い、笑い合うドリスとイヴォンヌ。そして名残惜しそうに「イヴォンヌ。色々と楽しかったよ」とドリスがイヴォンヌに抱きついた。笑顔で見送るイヴォンヌが何かを思い出し「ああ。待って」とドリスを呼び止める。「もう必要ないから」と言ってイヴォンヌがドリスに渡したのは、ドリスが作った風俗ファイルだった。
ドリスが出ていく様子を部屋から眺めていたフィリップは、深い溜め息をついていた。

イヴォンヌから受け取ったファイルを帰り道にドリスが開けると、送ったと思っていた車椅子に乗ったフィリップの写真が入っていた。イヴォンヌが処分するのを忘れていたらしかった。ドリスはその写真をじっと見つめていた。
夜、プラットホームの近くで母親が乗る電車を待っているドリスとアダマ。駅から出て来た母親を出迎えると、ドリスは母親の持っていた荷物を預かり、3人で並んで歩き始めた。

ドリスが去ってからというもの、フィリップは退屈な日々を過ごしていた。ドリスの後釜として採用された新しい介護人の男性と、テーブルの前で並んで座っているフィリップ。食事を運んできたイヴォンヌは何も話そうとしない2人の雰囲気が心配になり「外出するのやめましょうか?」と言った。「そんな必要はない。楽しんできたまえ」とフィリップが答えると、スーツを着たアルベールがやって来て「イヴォンヌ。行こうか」と声をかけた。イヴォンヌは介護人に「すべて揃ってるわ。後はお願いね。問題があれば電話して。いいわね?」と念を押してアルベールと共に部屋を出て行った。介護人は「それじゃあ食事を始めます」と言い食器を手に取る。「白衣は脱げ。病院にいる気分になる」とフィリップは不機嫌そうに言う。「タバコをくれ」と言うフィリップに介護人が「タバコは吸いません。あなたも禁物ですよ」と言うと、フィリップは聞きたくないと言わんばかりにさっさと電動車椅子で部屋を出るのだった。

ドリスは、以前アダマが乗り込む姿を見かけた、アダマのトラブルの原因であろう男達の所へ行っていた。車に乗っている男達に穏やかじゃない様子で何やら話をしている。決着がついたのか、男達は車で走り去っていった。その様子をアダマは遠くから見つめていた。

フィリップの介護人は早くも2人目になっていた。剃らせないのか、ヒゲは伸びたままで放置し終始苛立っているような様子だ。フィリップの部屋へ入ってきた1人の男性を見て「彼は誰だ?」とフィリップが介護人に聞くと、「マッサージ師です。頭のマッサージをご希望だったでしょう」と言った。そっぽを向いて「出て行け」と言うフィリップに戸惑うマッサージ師と介護人。そんな2人に対し「いいから1人にしてくれ。早く」とフィリップが怒鳴る。介護人は慌ててマッサージ師に「気にしないで。朝から機嫌が悪くて」と言いながら、2人はそそくさと出て行った。1人になったフィリップは「機嫌が悪い?ふざけるな。馬鹿め」と顔を曇らせ呟いた。

就職活動を始めたドリスはある会社の面接に来ていた。ドリスの履歴書を見ながら女性が「履歴書を見ると自己評価欄にあるのはたった一言、’’実用的’’」と言った。「はい」と頷くドリス。「重要なことね。ただここで求められる資質はもう1つあるんですけどね」と女性が言った。「そうなの?」とドリスが言うと、「スローガン。じっくり読んで熟考を」と女性が言った。ドリスが「今の標語みたいだ」と笑うと女性は「たまたま」と微笑む。ドリスが「ダリの絵も飾ってあるんだね。芸術は好き?」と聞くと、女性は少し感心したように腕を組み「まあね」と答えた。そして「特にゴヤ」と続けると、「悪くない。シャンタル・ゴヤの歌はなかなか」だとドリスが冗談を言い、2人は笑い合った。

ドリスからフィリップへのサプライズ

フィリップ(画像左)のヒゲで遊ぶドリス(画像右)

フィリップの3人目の介護人は、赤ちゃん用モニターから聞こえてきたフィリップの苦しそうな息遣いに気付き、「今行きます」と飛び起きた。フィリップの部屋に駆けつけた介護人は「大丈夫ですか?」と聞くが、フィリップは苦しそうに「あっちへ行け」と言った。「お水か湿布でも?」と様子を伺う介護人に「出て行け」と言うフィリップ。「しかし…」と戸惑う介護人だったが、そのまま部屋を出て行った。
イヴォンヌから連絡を受けたドリスはフィリップの元へ向かう。「どうしたの?」と聞くドリスに「調子が悪くなって」と答えるイヴォンヌ。ドリスは「今どこに?」と聞き「さっきまで庭に」とイヴォンヌが言った。ドリスが庭へ向かうと部屋にいるフィリップを窓越しに見つけ、両手を広げ笑いかける。フィリップも窓に近づきドリスを見つめた。「やあ。調子はどう?」とドリスは言い、フィリップのヒゲを見て「すごいヒゲだな」と笑った。「汚らしいから剃った方がいい。俺が来てよかった。待ってて」と言って庭を出た。フィリップは何も言わず黙ったままだったが、安心したような表情を浮かべていた。

オープニングシーンの続きが始まる

ドライブをするフィリップ(画像左)とドリス(画像右)

ここで冒頭の、フィリップとドリスが夜のドライブでパトカーに追い回されるシーンになる。フィリップの演技で病院まで先導された2人は警察の姿が見えなくなると「これからどうする?」と聞くフィリップにドリスは「まあ任せて」と答えた。

ドリスは夜通し運転し、朝方にイギリス海峡に到着する。砂浜にある建物の2階にフィリップを連れて行くと、そこには視界いっぱいに広がる海があった。「最高だろ?」と言うドリスを見上げ、フィリップは目に涙を浮かべ微笑んだ。
ドリスはフィリップのヒゲを剃り始めるが、ヒゲの形で遊び始める。調子を取り戻したフィリップはドリスのお遊びに付き合いながら終始楽しそうに笑っていた。

エレノア(画像右)と初めて顔を合わせるフィリップ(画像左)

フィリップを連れ、海辺にあるレストランにやって来たドリス。ドリスは店のスタッフに「バサリの名で13時に予約を」と言った。海が見える席に案内されたフィリップとドリス。するとドリスが「フィリップ。俺は席を外す」と言った。「どうして?」と驚くフィリップ。「安心して。もうすぐデートの相手が来るから」とドリスが言うと「デート?なんだそれ」とフィリップが顔をしかめる。ドリスは席を立ち、「大丈夫。上手くいくよ。今度は逃げられないからな。ああそうだ。遅くなったけど見つけたよ」と言って、ファベルジェの卵をテーブルの上に置いた。そして「彼女にもよろしくな」とドリスはフィリップの耳元で囁き、そのまま去って行った。「ドリス。ドリス」と何度も呼び止めるフィリップ。「なんなんだ」と落ち着かない様子で独り言を漏らす。するとフィリップが座る席の元に1人の女性がやって来て、「フィリップね」と微笑んだ。エレノアだった。フィリップは感極まりふと外を見ると優しい笑顔で見つめるドリスの姿があった。言葉を交わさず見つめ合うフィリップとドリス。2人の姿を確認すると、ドリスは手を上げてその場から立ち去る。フィリップとエレノアは会話が弾んでいるようで、楽しそうに話している。ドリスはそのまま海岸沿いを歩いて行った。

keeper
keeper
@keeper

目次 - Contents