夜のピクニック(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『夜のピクニック』とは、恩田陸の青春長編小説『夜のピクニック』を原作としたヒューマンドラマである。「みんなで夜歩く。ただそれだけなのに、どうしてこんなに特別なんだろう」をキャッチコピーにして、2006年9月30日に公開された。主人公の甲田貴子は、北高に通う高校3年生である。北高には、一昼夜かけて80㎞を歩く「歩行祭」という伝統行事があった。貴子は、高校生活最後の歩行祭で「同じクラスの西脇融と話をする」という1人だけの秘密の賭けをしていた。青春時代の輝きや、友人の大切さなどを感じる青春映画である。

『夜のピクニック』の概要

『夜のピクニック』とは、恩田陸の青春長編小説『夜のピクニック』を原作としたヒューマンドラマである。原作の『夜のピクニック』は、第2回本屋大賞、第26回吉川英治文学新人賞を受賞している。映画の監督は長澤雅彦、主演は多部未華子である。「みんなで夜歩く。ただそれだけなのに、どうしてこんなに特別なんだろう」をキャッチコピーにして、2006年9月30日に公開され、興行収入は1.4億円を記録した。『夜のピクニック』は、原作者の恩田陸の出身校である茨城県立水戸第一高等学校の歩く会をモデルにして書かれたものである。そのため、モデルとなった茨城県立水戸第一高等学校やそのほか水戸市内での撮影が行われた。
主人公の甲田貴子は、北高に通う高校3年生である。北高には、一昼夜かけて80㎞を歩く「歩行祭」という伝統行事があった。貴子は、高校生活最後の歩行祭で「同じクラスの西脇融と話をする」という1人だけの秘密の賭けをしていた。友人たちには黙っていたが、貴子と融は異母兄妹だった。貴子の母が、融の父と浮気をして出来たのが貴子であったため、これまで気まずくて話をする機会がなかったが、お互いに気にかけ合っていた。互いを気にする貴子と融の様子に、友人たちは「両思いなのでは」と勘違いして、貴子と融が話が出来る機会を作ってくれる。しかし、頑固な2人はなかなか話をすることが出来ない。歩行祭も2日目になり、このまま高校生活最後の歩行祭は終わってしまうのかと思ったが、友人の協力やハプニングのおかげで貴子と融は2人で話をすることが出来る。2度と戻らない青春時代の輝きや、友人の大切さなどを感じることの出来る青春映画である。

『夜のピクニック』のあらすじ・ストーリー

北高歩行祭の前日

歩行祭の練習をする貴子(左)と美和子(右)

主人公の甲田貴子は北高に通う高校三年生だ。北高には、年に一度、全生徒が一昼夜かけて80㎞を歩く「歩行祭」という伝統行事がある。高校三年生になる貴子にとっては、今年は最後の歩行祭になる。歩行祭は、1日目はクラスごとに列をなして歩き、2日目は自由歩行としてそれぞれが走ったり歩いたりしてゴールを目指す。運動部は順位を争って最後の力を振り絞り、ゴールまで走るのが伝統だった。歩行祭の時には、全員が上下白いジャージを着るというのも毎年の決まりだった。

貴子には遊佐美和子と榊杏奈という親友がいた。美和子とは、クラスが違うが歩行祭2日目には一緒に走る予定になっている。杏奈は帰国子女で、今年はアメリカへ帰ってしまっていて、一緒に走ることが出来ない。貴子は杏奈から歩行祭に向けたエールの手紙をもらっていた。歩行祭の前日、体育の時間は歩行祭の練習として、貴子たち3年生は学校の周辺を歩いていた。一緒に歩行祭の練習をしていた美和子と一緒に、貴子は杏奈からの手紙を読んだ。手紙には、「貴子と美和子の悩みが解決して、無事にゴールできるように去年おまじないをかけておいた。たぶん私も一緒に走っているよ」と書かれていた。不思議な内容に貴子と美和子は首をひねりながらも、明日の歩行祭本番に向けて気持ちを新たにするのだった。

実は、貴子は高校生活最後の歩行祭で自分だけの賭けをしていた。歩行祭の間に、同じクラスにいる西脇融と話をすることだった。美和子にも杏奈にも秘密にしているのだが、実は融と貴子は異母兄妹だった。融の父親が、貴子の母親と浮気をして出来た子どもが、貴子だったのだ。貴子の母は、シングルマザーとして貴子を育てていた。当時中学生だった貴子と融の父親が亡くなった時、その葬式の席で貴子と融は初めて顔を合わせたのだった。貴子は、偶然にも融と同じ高校に通うことになったが、すれ違ってもお互いに無視をする関係性だった。ずっと話さないまま1年、2年と過ぎて行ったが、貴子と融は高校3年生になって、初めて同じクラスになったのだ。しかし、貴子と融はやはり一言も口を利かないままだった。貴子は、「自分は融に嫌われている」と思い込んでいたが、「高校生活最後の歩行祭で話をしてみよう」と1人だけの賭けをすることにしたのだ。

歩行祭の幕開け

スタート地点の校庭で、挨拶をする校長(手前)と並んで話を聞く生徒たち

いよいよ貴子達3年生にとって最後の歩行祭の日がやって来た。貴子と美和子は一緒に高校まで登校した。もうすでに多くの生徒がスタート地点であるグラウンドに集合していた。グランドでは、歩行祭を運営するスタッフたちが慌ただしく最後の準備をし、2日目の自由歩行で走る運動部の生徒たちは、部活ごとに集まって最後の円陣を組むなどしていた。その様子を見ながら、貴子は美和子と別れ、1日目はクラスごとに歩くので、自分のクラスである7組の集合場所に向かう。そこには、クラスメイトの後藤梨香と梶谷千秋が待っていた。挨拶をしたあと、梨香は貴子に「明日の自由歩行はどうするのか」と尋ねる。貴子は「美和子と一緒に走る」と答えると、梨香と千秋は「西脇くんと一緒に歩けばよいのに」と貴子をからかう。貴子がいつも融の様子を気にしていたことから、周りからは貴子は融のことが好きだと勘違いされていたのだ。互いが異母兄妹であることは、貴子も融もクラスメイトに話していなかった。貴子たちが話をしていると、あっという間に出発の時刻になった。校長先生の掛け声で、歩行祭のスタートが切られた。

歩行祭が始まり、各クラスは2列になって歩き始めた。長い行列を作って高校生が歩く歩行祭は地元でも有名で、通りかかった人が応援の声をかけてくれる。融は親友の戸田忍と歩いていた。その少し前を貴子と梨香、千秋が歩いていた。異母兄妹であることから貴子を気にかけている融が、貴子のほうを見ていると、隣を歩いていた忍は「また甲田のことを見てる。甲田も融のこと見てるんだよな」と言って、融のことをからかった。融は「むしろ甲田は俺のことが嫌いだと思うよ。甲田とは何もない」と答えた。

歩を進めていると、最初の休憩の時間になり、生徒は一斉に歩道に腰をかけて休憩を始めた。歩行祭では、こまめに歩道に座って休憩をすることになっており、定期的に歩行祭スタッフが「休憩してください」と言い回って、生徒たちに休憩を促していた。そうした短い休憩以外にも、昼と夜に一度ずつ、食事をとる長めの休憩があり、深夜には2時間だけ仮眠をとる休憩もある。一列になって休憩する生徒の足元に、ずらっと並ぶ靴を見ながら、貴子と梨香、千秋は「今ゴジラが現れたら、この靴だけが残ってみんな一斉に逃げるのかな」など楽しい妄想をする。梨香は演劇部で、シナリオを考えるために色々な妄想をするのが得意だった。一人でちょっとした寸劇を行い、クラスメイトを笑わせる一面もある。

貴子と千秋は、梨香の面白い妄想話を聞いて笑いながら歩いていると、あっという間にお昼ごはんを食べる休憩場所に着いた。歩行祭スタッフが昼食をとるように声を掛けて回っていた。貴子は、まずは美和子とトイレ休憩に行っていた。貴子は「結局、杏奈の好きだった人って誰だったんだろうね」と美和子に話しかける。杏奈はどうやら同じ学校に好きな人がいたようだが、誰にも好きな人を言わずにアメリカに行ってしまったのだ。美和子も杏奈の好きな人に心当たりがないようで、謎は解決しないまま、美和子と別れた貴子は7組の昼食場所へと戻った。梨香と千秋のもとへ戻ると、ちょうど忍が「一緒にお昼を食べよう」と融を連れて、梨香と千秋に声をかけているところだった。貴子と融は気まずく、お互いに一番離れた場所に腰掛けてお弁当を広げる。貴子の隣に座った忍は、貴子と融の様子を怪しく思い、貴子に「融とは同じ中学だったの?1年と2年は違うクラスだったよね」と融との関係を探る質問をしてくる。「付き合ってる同士って、逆に互いに無関心を装ったりするよね」と言う忍に、貴子は「西脇君とは何もない。むしろ西脇君は私のこと嫌いだと思うよ」と答える。融に貴子との関係を尋ねた時と、同じ返答だったため、忍はますます「貴子と融は何かある」と勘繰るのだった。

何事もなく進んでいく歩行祭

亮子の噂話をする美和子、千秋、梨香、貴子(左から)

昼休憩が終わり、貴子たちは再び歩き出した。歩行祭では、毎年必ず体調不良などで途中で歩けなくなる生徒が出てくる。そういった生徒は救護バスに乗せられる。歩く距離が長くなるにつれて、脱落して救護バスに乗る生徒も出始めた。引率の先生ですら、救護バスに救助されていた。梨香は疲れて「ここでバスが来るのを待つ」と冗談半分で言い始めるが、貴子と千秋に「頑張ろう」と声をかけられ、気を紛らわすために色々な話をして歩き続ける。話は去年現れたどこのクラスにも属さない謎の少年のことになった。歩行祭の後には、カメラマンが撮った記録写真が廊下に貼り出され、購入したい写真を選ぶことが出来る。昨年、その貼り出された写真の中に、誰も知らない少年が写っていて「幽霊ではないか」と話題になったのだ。貴子と千秋が怪談話として、謎の少年の話をして盛り上がっていると、「去年の歩行祭で白いジャージを着て歩いている少し幼い少年を見かけた」と貴子は言う。梨香が怖がり、千秋が「今年も現れたりして」と話していたところ、歩行祭スタッフの掛け声で休憩の時間に入った。また、生徒たちは歩道に一列に腰をかけて10分ほどの休憩をとる。貴子、梨香、千秋の少し後ろで、融と忍も同じく休憩をとっていた。すると、忍が一列に長く続く行列を見ながら「こんな風にさ、時間が目に見えることって滅多にないよな」と融に話しかける。忍は列の後方と前方を指さしながら「さっきまで歩いていた時間があそこ、これから何分後かにはあそこ」と言い、「こうやってさ、一瞬一瞬が過去になっていくっていうかさ、もう後戻りできないっていうかさ」と続けてつぶやく。融は忍の話を聞きながら、少し前方に座って休憩する貴子を見つめていた。

あっという間に夜になり、夜ご飯を食べる休憩場所に辿り着いた。そこでは、保護者達がテントを建てて、バナナや汁物など、歩き疲れた生徒たちの腹を満たすものを用意していた。忍の母親は、そこでおにぎりを配っている一人で、元気よく忍と融に「あんたたちも頑張りなよ」と声をかける。融と忍の後ろで、美和子と一緒におにぎりをもらう列に並んでいた貴子は融の後姿を見ていた。すると美和子が「今、西脇君に話し掛けるチャンスじゃん」と貴子に、融に話し掛けに行くように言う。貴子は「美和子まで何でそんなことを言うの」と言いながら「別に話したいわけじゃない」と否定する。貴子、美和子、梨香、千秋は4人で夜ご飯を食べた後、次々と色々な男子と付き合っている同じ学年の内堀亮子の噂話をしていた。サッカー部のキーパーや野球部のエースなど、これまで色々な男の子と付き合い、ほんの少し付き合っては別れて、男子を振り回している亮子だが、今は融のことを狙っているらしい。「西脇融は歩行祭2日目の明日が誕生日で、亮子は日付が変わったら融に告白するつもりらしい」と生徒たちの間では噂になっているらしい。「貴子が融のことを気になっている」と思っている美和子、梨香、千秋は「どうする?止める?協力するよ」と貴子に言うが、貴子は「融とは何もない」と言ってまた否定する。

生徒たちが夜ご飯を食べ終わった後、それぞれクラスで集合写真を撮る時間になった。3年7組の番になり、7組の生徒は写真を撮るために3列ほどに並んでいた。貴子は2列目に、梨香と千秋と並んでいたが、その後ろに融と忍が来た。忍が融に「甲田さんの後ろが空いているから詰めろ」と言うと、融は嫌がって別なところへ行ってしまう。その様子を見ていた貴子は「やはり融に嫌われているのか」と思い、うつむいてしまった。

杏奈の弟・順弥の登場

一緒に歩く順弥(左)と貴子(右)

夜ご飯を食べる休憩時間が終わり、夜も更けた中、北高の生徒たちは再び歩き出していた。
歩きながら忍は、融に集合写真の時の貴子への態度について、「あれはないんじゃないのか。露骨に避けてただろ」と責める。「そんなことはない。単なるタイミングの問題だ」と言い張る融に、忍は怪訝な顔をしながらもそれ以上は何も言わない。

貴子と梨香、千秋も、融たちの少し前を歩いていたのだが、ふと歩道の脇を見ると、昼間に話していた知らない白いジャージを着た少年を見かける。怖がりの梨香は、少年を幽霊だと思い込み、「おばけー!」と言いながら後方に走って逃げようとし、忍に避けられて、田んぼの中に落ちてしまう。貴子が梨香を助けるため駆け寄ろうとしたところ、その少年に「貴子?」と声をかけられる。「そうだ」と貴子が答えると、少年は貴子と美和子、杏奈の写った写真を見せながら「僕、順弥。杏奈の妹。」と言う。貴子は驚きのあまり「えー!」と大きな声を出して驚く。幽霊だと噂になっていた少年の正体は、なんと杏奈の弟だったのだ。誰も知らない少年が幽霊ではないと分かり、再び歩き始めた貴子たちに、順弥も一緒に付いてきた。「どうして杏奈の弟がここに?」と貴子が尋ねると、順弥は「この先で友達とキャンプをする予定だ」と答える。田んぼに落ちて泥だらけになってしまった梨香は憤慨しながら「まさか去年の幽霊もあんたじゃないでしょうね?」と順弥に問いかける。すると順弥は「そうだよ。去年は姉ちゃんに内緒で来て、すげー怒られた」と言う。幽霊だとすっかり思い込んでいた梨香は、騙されていたことに怒り、八つ当たりで順弥のことを叩こうとする。順弥は「去年もこんな風に姉ちゃんに怒られた」と言いながら笑って、梨香の手をかわした。一方、融は忍が梨香のことを避けたことを「俺には甲田のことを責めておいて」と言って指摘していた。すると忍は「タイミングの問題だ。世の中、タイミングと順番だと思うんだよね」と答える。「なんだそれ」と言いながら、融は納得しない様子だった。

貴子は、順弥に「なぜ歩行祭に来たのか」と尋ねる。すると順弥は「杏奈が歩行祭、歩行祭ってうるさいから、どんなものかと思って来た」と言う。順弥は、去年参加してみて、ただ歩くだけでつまらなかったが、今でも杏奈が歩行祭の話をよくするので、今年も来たのだそうだ。順弥は唐突に「杏奈の好きだったやつって誰?」と貴子に聞く。貴子が「教えてくれなかった」と答えると、後ろから千秋が「知ってどうするの?メッセンジャーでもするの?」と順弥に尋ねる。順弥は「そんなことしたらぶっ殺されるよ」と言いながら、貴子に「貴子と美和子は兄弟はいるか」と質問する。貴子が「私はいない。美和子は妹がいる」と答えると、順弥は「杏奈の好きな人は、友達の兄弟だって言ってた」と言う。不思議に思った貴子が順弥に「そんなこと、いつ言っていたの」と問いかけると、「去年かな。勘違いかもしれない」と順弥は答え、「今度は美和子のところへ行く」と言って、美和子のクラスである3組のほうへ走って行ってしまった。残された貴子は、「もしや融のことでは」と心の片隅で思いつつも、「杏奈は貴子と融が異母兄妹であることを知らないはずだ」と考え、気を取り直して歩くのだった。

順弥はあっという間に3組の歩く列に追いつき、美和子を見つけて声をかけていた。しかし、美和子にも幽霊と勘違いされて逃げられてしまう。「杏奈の弟だ」と言いながら美和子を追いかけ、美和子がやっと立ち止まったときには、もうだいぶ行列の前方に来てしまっていた。走り疲れた美和子と順弥は、歩道脇の芝生に腰掛け、話をする。順弥は、美和子にも杏奈の好きな人について尋ねていたが、貴子と同じく「知らない」という答えでがっかりしていた。順弥が「歩行祭って告白する人、多いの?杏奈も今年歩いていたら、そいつに告白してたのかな」と言うと、美和子は「そういう力ってあると思う。歩行祭って。言えないことが言えちゃう力っていうかさ。口にしてほしいこととかさ、口にしたほうがいいことって、あるよ」とつぶやく。

貴子と融の初めての会話

融の誕生日を祝い、缶コーヒーなどで乾杯する7組の生徒たち

また10分の休憩時間となり、北高の生徒たちは歩道に腰掛けて休憩をしていた。その頃には、夜の0時を回っていた。
貴子と梨香、千秋は眠気も襲ってきて、歩道に寝転がって休憩していたところ、忍とクラスメイトの高見光一郎が缶コーヒーを持って3人の元へやって来る。光一郎は昼間はゾンビのように静かなのだが、夜になると大好きなロック音楽を聴いてハイテンションになる少し変わったクラスメイトだ。光一郎は一人で音楽を聴きながら気ままに歩いていたが、缶コーヒーを自動販売機で買う忍と一緒になり、そこから忍に付いてきたのだった。梨香は缶コーヒーを受け取り「ありがとう、なんで?」と聞くと、光一郎が「誕生日パーティー!イエーイ!」と叫ぶ。0時になったので、融が誕生日を迎えたため、忍が融を祝おうと缶コーヒーを持って誘いに来たのだった。貴子が梨香と千秋に「私はいい。行ってらっしゃい」と言うと、忍が貴子の手を取り「行くぞ」と言って引っ張って行ってしまった。梨香と千秋は疲れ切っていたが、頑張って起き上がり、貴子と忍、光一郎に付いていく。

貴子、忍、梨香、千秋、光一郎が融の元へ戻ると、融の隣には亮子がいた。噂のとおり、亮子は融のことを狙っていて、この歩行祭で告白しようと考えていた。融は興味なさげな様子だったが、亮子は告白する気満々で融にまとわりついて離れない。少し遠くからその様子を見ていた貴子、忍、梨香、千秋、光一郎は、融と亮子がいい感じであると勘違いし、声をかけられず、休憩時間が終わって融と亮子の少し先を歩くことにした。缶コーヒーを飲みたがる梨香を光一郎が「もう少し待って」となだめながら、5人は融と亮子の様子を気にしながら歩いていた。

貴子は忍の隣を歩いていた。忍は貴子に「もうすぐ告白タイムじゃない」と言うと、貴子は「あの二人、お似合いだと思うよ」と融と亮子について答える。しかし、忍は「あの二人が一緒にいると違うんだよ。最近、融を見ているとイライラするんだよね。あいつには足りないんだよ、青春のゆらぎっていうか、ぎらつきっていうか。つまり、臭くてみじめで恥ずかしくてみっともないもの。愛だよ、愛!あいつに足りないのは」と言う。貴子は笑いながら「戸田君って熱い人だったんだね。でも彼、今まさに愛を語らってるよ」と言うと、忍は「だめだめ。もっと戦う愛じゃないと、ぶつかり合う愛」と答える。貴子が「内堀さんじゃだめ?付き合ってみないと分からないよ」と言うと、忍は「だから俺には分かるの」とうっかり答えてしまう。実は、忍も亮子と付き合ったことがあったのだ。知らなかった貴子は「いつ付き合ってたの?」と大きな声を出してしまい、梨香、千秋、光一郎も「まさか戸田君まで付き合っていたとは…」と亮子の元彼氏の多さに驚く。

忍と貴子の会話を聞いて、貴子が融のことを好きだと勘違いした光一郎は「俺に任せろ!」と言いながら、融と亮子のところへ向かう。そして、光一郎はハイテンションに「誕生日おめでとう!」と言いながら融の肩に手を回す。すると周りにいた他の生徒たちも「おめでとう」と言いながら融を囲み、7組は融の誕生日を祝うムードになった。光一郎は亮子と融を引き離すことに成功した。亮子は、融と二人きりになるのは難しいと判断し、自分のクラスのほうへ戻って行ってしまった。亮子が行ってしまうと、亮子の分かりやすいアピールに困っていた融は「助かったよ、高見、ありがとうな」と光一郎に礼を言う。光一郎は「任せろって。この俺が責任もって素敵なナイトにしてみせますぜ。プロミス!」とハイテンションに答え、忍が融に缶コーヒーを渡した。光一郎は「かんぱーい!」と大きな声で言うと、梨香、千秋、忍、そして他の生徒も同じように飲み物をもって融の元に駆け寄るのだった。貴子も後ろのほうから付いていき、融を囲む生徒たちの輪の外で様子を見ていると、偶然振り向いた融の缶コーヒーと貴子の缶コーヒーが当たり、乾杯したかのようになった。貴子はそのタイミングで「誕生日おめでとう」と融に初めて話しかけることが出来た。融は「ありがとう」と答え、またすぐ他の生徒たちの輪の中に戻って行ってしまった。

動き出す貴子と融の友人たち

高校2年生の時の歩行祭で、休憩しながら寝転ぶ貴子、杏奈、美和子(左から)

さらに夜も更け、生徒たちはひたすら歩き続けていた。
忍はまた融に「なんで甲田のこと避けるの」と聞いていた。融が「なんでくっつけたいの」と聞くと、忍は「もうすぐ歩行祭も終わりだし。それに世の中、タイミングと順番なわけ」とまた昼間と同じことを言う。そして、忍はポケットから写真を取り出す。その写真は、3年3組の古川悦子が歩行祭の間に、みんなに回覧していた西高の女の子の写真だった。写真の女の子は悦子のいとこで、悦子によれば、北高の男の子と付き合っていたが妊娠してしまったらしく、それに怒った悦子が相手を探すために回覧していたのだ。忍にも、その写真が回覧されてきたが、忍はその写真を回覧せずにポケットに入れておいたのだ。忍は、融にその女の子との出来事を話し始めた。忍はその女の子の彼氏と友人で、友人の彼女として相談に乗っていたが、女の子は忍のことを異性として意識するようになってしまった。そのため、忍がその女の子に会わないようにしていたところ、何カ月後に呼び出され「子どもを堕ろした」という話をされたのだ。忍は「俺への当てつけだと思う」と話す。その経験から「友達の彼女として会ってなかったら」と考えることがあり、人との関係は「タイミングと順番が大事である」と思うようになったのだ。人に言いにくい大事な話をしてくれた忍に応えるように、融は「俺、自由歩行、お前と走る」と言う。実は融はテニス部の練習で膝を痛めていたため、自由歩行で走るかどうかを迷っていたのだ。忍は「走れるの」と笑いながら尋ねると、融は「走る」と力強く答えた。

一方、貴子は再度千秋に「西脇君、何にもないの?」と聞かれていた。貴子は「何もないよ。もう言われすぎて呪文のように聞こえる。疲れすぎて嘘つけないよ」と答える。梨香は「疲れすぎて何も話せない」と言いながら、千秋と貴子の話を聞いていた。ずっと歩いていて疲れがピークに達していた貴子が「なんで歩いてるんだろう。梨香は?」と言うと、同じくほとんどしゃべれないほど疲れ切った梨香は「歩いてるから、貴子も千秋も」と答えた。貴子は梨香と千秋と話をしながら、去年、杏奈と美和子と一緒に歩いた時の、歩行祭の夜の会話を思い出していた。去年の夜も、歩き続けた疲労から、貴子、杏奈、美和子はおかしなテンションになっていて、白いジャージを着て夜通し歩いていること自体が何だか面白くなってしまい、休憩しながら笑い転げていた。「一人でなら絶対歩かない」と言う杏奈に、貴子は「夜歩く、それだけ」とつぶやいた。すると杏奈も「並んで一緒に歩く。ただそれだけなのに、どうしてこんなに特別なんだろうね」と言ったのだ。その会話を思い出しながら、今年の歩行祭の夜も、貴子はひたすら歩いていた。

去年のことを思い出しているうちに、貴子たちは少しだけ仮眠をとるための休憩所に着いた。休憩所として学校を借りているため、体育館や教室などの床に寝ながら2時間ほど仮眠をとって、その後2日目の自由歩行になる。休憩所では、北高の生徒たちが口々に「疲れた」「足に豆ができた」などと言いながら、思い思いに休んでいた。貴子は、梨香と千秋と別れ、美和子と合流して仮眠をとることにした。皆が寝静まった頃、貴子は眠れずに隣で横になる美和子に話しかけた。「杏奈の弟に、杏奈の好きな人は親友の兄弟だという話をされたか」と美和子に聞くと、美和子は頷く。融と異母兄妹であることは杏奈や美和子には秘密にしていた貴子は、「杏奈の弟、勘違いしてたね」と美和子に言う。すると美和子は「勘違いじゃないでしょう。貴子と西脇君、兄妹じゃん」と答えた。驚いた貴子は、美和子の顔をじっと見つめた。

貴子がはっと気が付くと、仮眠をとっていた体育館の明かりが付いていて、美和子に「3時だよ」と起こされていた。貴子は、昨日の会話の途中で寝てしまったようだった。美和子がなぜ融と貴子の関係を知っているのかは分からず仕舞いだったが、貴子は美和子になぜ知っているのかを聞くことが出来なかった。

自由歩行の始まり

自由歩行スタートの合図を待つ忍と融(左から)

いよいよ自由歩行の時間になった。歩行祭スタッフのスタートの掛け声とともに北高の生徒たちは一斉に自由歩行をスタートする。
融は忍と一緒に「スタートから飛ばしていこう」と話しながら、先頭集団の中を走っていた。貴子と美和子は、先頭集団より少し後方を走り、梨香と千秋は全体の後方を歩いていた。スタートしてすぐ、長い下り坂に差し掛かった。貴子と美和子はスタートから走り続けてきたが、下り坂のつらさと、昨日からの疲れもあり、貴子は足を止めてしまう。「走るのが無理なら頑張って早歩きしよう」と言う美和子に、貴子は「もう無理、動けない」と答える。しかし、美和子に「あきらめちゃだめだよ」と諭され、再び前に進みだす。

一方、融と忍は順調に走って進んでいたが、もともと膝を痛めていた融が足首を捻挫してしまう。「先に行っていい」と言う融に、忍は融に足首を冷やすスプレーを渡しながら、横に腰掛ける。忍を足止めしてしまうことを気にかける融に、忍は「もう一生こんなところに座って、こんなアングルでこの景色眺めることなんてないからさ」と、融と一緒にゴールするつもりであることを暗に言う。

貴子と美和子は走るのをやめて、歩いて歩を進めていた。貴子が昨夜の会話の続きを美和子に聞くことが出来ず、沈黙が続く中、美和子は「本当に頑固だなあ」と言いながら、なぜ融と貴子が兄妹だと知っているのかを話し始めた。
昨年のゴールデンウィークに貴子の家に泊まりに行った時に、貴子の母親が杏奈と美和子に話をしたのだ。貴子が杏奈と美和子のケーキを買いに家を出た際、「貴子は自分から言わないと思うから」と前置きをした貴子の母は、融と貴子が異母兄妹であることを杏奈と美和子に告白した。そして、貴子の母は「貴子はたぶん、西脇融くんに罪の意識を持っている。あなたたち二人には貴子のことを分かっていてほしくて。貴子のことをよろしくね」と杏奈と美和子に話していたのだった。
貴子と融が兄妹であることを知った経緯を話し終わった美和子は「西脇融と兄妹だなんて、素敵じゃない。戸田君はこのこと知らないんでしょう」と貴子に言う。貴子は「それこそ、西脇融は絶対に誰にもこのこと言わないよ」と答えると、美和子は「このまま卒業しちゃうの?西脇君と話しないまま」と貴子に尋ねる。貴子は「あとは受験だけだし、卒業しちゃったら、もう顔も見ないと思う。それでいいんだと思う」と答える。美和子は「貴子たちの悩みが解決して、無事ゴールできることをニューヨークから祈ってます」と杏奈の手紙を復唱した後、「卒業したって、その先だって、西脇君と血がつながってることに変わりはないんだから」と言う。

すると、ちょうどそこに、怪我をして腰をかけている融と忍を見つけた。美和子は融と忍のもとに駆け寄り、「大丈夫?」と声をかけ「西脇君のリュックを交代で持つ」と提案する。すると忍も「リュック降ろせよ」と、荷物を貴子と美和子に持ってもらうことを融に勧める。貴子と美和子は、融のリュックを交代で持ちながら、融と忍と一緒に歩くことになった。まずは美和子が融のリュックを持ち、融と並んで歩いた。その後ろを貴子と忍が付いて歩いていく。すると、忍が貴子に「ほら、最後のチャンスかもよ」と融と話すように促す。貴子は「君も相当しつこいね」と冗談を言いながら「人のことばかり言ってないで、戸田君の告白相手はどこ?」と聞く。すると、忍は「ここだよ」と貴子のことが気になっていると暗に告白するが、すぐに「ほら、俺はだれでもウェルカムだからさ」と冗談を言ってはぐらかす。貴子も忍の告白に驚いた顔をしながら、笑ってごまかすのだった。一方、美和子は融にさりげなく「貴子と融が兄妹であることを知っている」と話していた。そして、美和子は、貴子のことを「人のことばかり気にするくせに、自分のことは何も話さないところが西脇君と一緒だ。でも親友としては寂しいよ」と言う。貴子も融も、親友にすらお互いが兄妹であることを話しておらず、自分たちだけで問題を抱え込んでいたため、美和子は暗に「もっと頼ってほしい」ということを伝えたのだった。

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スウィングガールズ(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

スウィングガールズ(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『スウィングガールズ』とは、2004年に公開された「ジャズやるべ!」をキャッチフレーズに掲げた青春コメディ映画である。監督・脚本は『ウォーターボーイズ』で一躍有名になった矢口史靖が手掛け、主演には上野樹里を迎えた。山形の田舎を舞台に、ジャズや音楽とは無縁だった田舎の女子高生達は、ひょんな事からビッグバンドを組みある日突然ジャズの世界へ。落ちこぼれ高校生達が、ビッグバンドをきっかけに次第にジャズに魅了されていく様が描かれている。

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新聞記者(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

新聞記者(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『新聞記者』とは2019年に公開された日本の社会派サスペンス映画である。中日新聞社の記者である望月衣塑子による同名の著書を原案とし、監督は藤井直人が務め、韓国の実力派女優であるシム・ウンギョンと松坂桃李がダブル主演として起用された。若手女性新聞記者とエリート官僚の二人が、官邸が絡んだ大学新設計画にひそむ謎に迫っていく姿を描く。2020年の第43回日本アカデミー賞では主な賞を総なめにした作品である。

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【世間の裏話】前科・逮捕歴のある芸能人・有名人一覧【まさかの前歴】

【世間の裏話】前科・逮捕歴のある芸能人・有名人一覧【まさかの前歴】

芸能界に華々しいイメージを抱く者は多いが、一方で「闇の深い世界」との印象を持っている人も少なくない。実際のところ、"前科・逮捕歴"のある芸能人は決して珍しくないのだ。 麻薬の所持から詐欺、恐喝、軽微な物から重罪まで、彼らの犯した行為も様々である。ここではそんな"前科・逮捕歴"のある芸能人をまとめて紹介していく。

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【まるで別人】新婚ほやほやの多部未華子が「さらにかわいくなった」と評判【恋のおかげ?】

【まるで別人】新婚ほやほやの多部未華子が「さらにかわいくなった」と評判【恋のおかげ?】

2013年、人気女優多部未華子の熱愛報道が飛び出した。しかしお相手となる窪田正孝が奥手で有名だったこともあり、「お似合いだと思う」、「応援したい」といった声が少なからずファンから上がるという珍しい事態となった。 多部はこの恋愛報道を機に女優として成長を遂げ、「さらにかわいくなった」とファンから好意的に受け止められている。そんな多部の画像を紹介する。

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