ハンニバル(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ハンニバル』とは、2001年の米英伊合作によるサイコ・スリラー映画である。原作はトマス・ハリスの同名小説で、大ヒット作『羊たちの沈黙』の続編に当たる。監督はリドリー・スコットが務め、主人公レクター役は前作から引き続きアンソニー・ホプキンスが担当した。元精神科医で狂気の連続殺人鬼「ハンニバル・レクター博士」を巡る、極めて猟奇的な物語。FBI捜査官クラリスは彼を追うのだが、その先には身も凍る恐ろしい惨劇が待っていた。息を飲むスリリングな展開と、絵画のような映像によるコントラストは必見である。

ハンニバル・レクター(演:アンソニー・ホプキンス)

レクター博士はオシャレに気を遣う紳士だ。

吹き替え:石田太郎(ソフト版)、日下武史(テレビ朝日版)

かつて9人を殺害し、その肉を調理したうえ食した連続殺人犯として収監されていた元精神科医である。知識も教養もあり、上品な身のこなしと丁寧な言葉使いで、一見しただけではとても柔和で穏やかな人物に見える。しかし戦乱渦中の幼少期、溺愛していた妹を賊に殺害され、食料にされるという悲劇に見舞われる。さらに悲しいことに、極端に飢えていたレクター少年は止む無く自らの妹を食してしまうのだ。このおぞましい経験が、彼を複雑怪奇な怪物に変えてしまったのかもしれない。

レクターは収監中、当時世間を騒がせていた未解決殺人事件に協力する。その見返りとして、待遇の良い収監先へ移送される手はずだったが、その機会を捉えたレクターは3人を殺害し逃亡してしまう。その後7年間、彼の行方は不明であった。しかしイタリアのフィレンツェで潜伏中、ある事件で関わったレナルド・パッツィ刑事に正体を見抜かれてしまう。

レクターは学者の「フェル」と名乗り、フィレンツェの由緒ある名家に伝わる書庫を管理する職(司書)に就こうとしていた。前任者が失踪あるいは自殺したため、その職が空席となり後任者募集に応じたのだ。おそらく、その前任者の失踪はレクターの仕業であろう。
その失踪事件の担当刑事パッツィは、捜査の過程でフェル博士ことレクターと知り合う。そして、アメリカFBIの捜査に協力するため同僚がコピーしていた監視映像からひらめきを得て、フェルをレクターだと見抜く。
だが彼は通報することもレクター本人に指摘することもなく、懸けられた多額の賞金目当てに大富豪メイスン・ヴァージャーと接触する。ヴァージャーはレクターの犠牲者のひとりで、瀕死の重傷を負わされ不自由な生活を余儀なくされており、復讐のために莫大な私財を投じて情報を集めていた。パッツィの情報を元に、ヴァージャーは追っ手を差し向けるがレクターは早くから事態を察知して、これを待ち構えていた。手下のひとりとパッツィを殺害し、レクターは再び行方を晦ましたのだ。

業を煮やしたヴァージャーは、レクターをおびき出す餌を探した。それは、未解決事件の捜査協力をした際に関わり、レクターと奇妙な信頼関係を築いていたFBIのクラリス・スターリング捜査官であった。彼女を罠に掛け、苦しめればレクターは姿を見せると踏んだのだ。

アメリカに舞い戻ったレクターは、クラリスに接触するが彼女を監視していたヴァージャーに捕まってしまう。すぐにヴァージャーは、用意していた恐ろしい復讐計画を開始する。それは、獰猛(どうもう)な大型のイノシシ10頭にゆっくりと時間を掛け、生きたままのレクターを食わせるというものだ。だが、危ういところでクラリスに救われたレクターは、ヴァージャー本人とその手下を逆にイノシシに食わせて殺害する。
本来の目的はレクター逮捕であったが、結果として彼を救出したクラリスは、その際に生じた銃槍により気を失った。レクターは意識の無い彼女を抱きかかえ、そのままどこかへ消える。

次にレクターが姿を現したのは、ある別荘地だった。その別荘は司法省のポール・クレンドラーという男の所有で、彼はヴァージャーに買収され一連の陰謀に加担していた。クラリスを治療する傍ら、レクターはクレンドラーにも「手術」を施していた。ふたりは強い麻酔薬(モルヒネなど)を投与されており、正常な判断と行動を取れない状態に陥っていた。

クレンドラーは頭蓋骨の上部を切り取られ、脳をむき出しにされていた。レクターは、傲慢で人間性に問題のあるクレンドラーに対し「無礼なヤツは嫌いだ」と言う。そして、クラリスの目の前で彼の脳をソテーに調理して、それを本人に食べさせた。クレンドラーはそれを「美味い」と表現した。

クラリスはそれ以上の蛮行を止めさせようと、必死になって抵抗するが薬のせいで体が言うことを聞かない。レクターは「『愛しているなら止めて』と言ってみろ」と促すが、クラリスは応じない。それどころか、クラリスは隙を突いてレクターと自らを手錠で繋いでしまう。彼女はすでに通報しており、警官隊が到着するまで残り時間はわずかであった。

レクターもそれを承知しており、非常手段に打って出る。大きな肉切り包丁を手に取り、ふたりの手を台に乗せ「少し痛いぞ」と宣言し、一気に振り下ろす。クラリスは絶叫し、レクターは再び逃走してしまうのだった。

機上の人となったレクターは、左手首から先を失った不自由な姿で食事を取っていた。食通の彼は機内食が口に合わず、お手製の「ランチボックス」を持参して搭乗するのが常である。そこへアジア人少年が寄ってきて「少し食べさせて」と、おねだりをする。

レクターは「何でも食べなさいとお母さんに言われたんだね。私もそうだったよ。」と言って、少年が欲しそうに見つめるフォアグラのソテーに似た料理を食べさせてやる。そして「母はこうも言ったよ『特に新鮮な物を食べなさい』と。」そう言ってレクターは微笑んだ。彼が少年に食べさせたのは、クレンドラーから奪った「脳味噌ソテー」だったのである。

その後、飛行機がどこへ向かいレクターがどうなったのか。それは、誰ひとり知る由もなかった。

FBI・政府の人物

クラリス・スターリング(演:ジュリアン・ムーア)

クラリスは捜査官として逞しく成長した。

吹き替え:勝生真沙子(ソフト版)、塩田朋子(テレビ朝日版)

FBI(連邦捜査局)の特別捜査官で、ハンニバル・レクターと奇妙な信頼関係を構築しており、互いに心のどこかで認め合う存在である。もちろん、彼女自身はそれを公言しないしレクターに伝えることもない。優秀な捜査官として能力が高く容姿も美しい彼女だが、レクターが最も惹かれるのはそこではない。一点の曇りもない善悪の観念と、清廉潔白とも言える高い倫理観を兼ね備える、彼女の高潔な人格によるものだと思われる。
矛盾かもしれないが、皮肉にもレクターはそんな気高いクラリスが悲しみ苦しむ姿に魅力を感じているのだ。そして反面、彼女がどんな逆境からも立ち上がり、輝きを失わず活き活きと人生を謳歌する姿は苦難の対価あるいは対象物として必要なのである。それゆえ、レクターは彼女を殺害したり(物理的な意味で)傷付けたりする行為をこれまで全く行って来なかったのだ。一般的な人間の持つ恋愛感情とは違い、複雑で入り組んだ彼なりの愛情表現なのかもしれない。

レクターが連続殺人犯として収監されていた頃、クラリスはFBIアカデミーの実習生だった。ある未解決事件に関する調査の一環で、FBIから派遣されたクラリスはレクターの独房で初めて彼と対面する。そして、レクターから得られたヒントを元に連続殺人犯を倒し被害者のひとりを救い出すことに成功したのだ。
その過程でクラリスは、レクターの設問に答える形で自らのトラウマを告白し、それを乗り越え成長することができた。ある意味で、レクターが彼女を過去の呪縛から解放し、飛躍するきっかけを与えた存在となったのだ。
だが、レクターは事件解決に協力する見返りに待遇の良い収監先への移送を約束させ、その機会を捉えて脱走してしまう。(前作『羊たちの沈黙』より)

それから7年の歳月が過ぎ、クラリスは経験豊富な捜査官として現場の指揮を任されるほどに成長していた。だが任務の傍ら、あらゆる意味でいつもレクターの影を追い続けていた。それは毎日、少なくとも30秒は彼のことを考えるといった習慣にも現れている。

レクターとの関係性に目を付けたのは、大富豪メイスン・ヴァージャーである。レクターに復讐を誓うヴァージャーは、クラリスを罠に掛けて苦しめることで彼をおびき出す。そして見事レクターを捕らえたヴァージャーだったが、復讐を果たす間際にクラリスに阻止され、結果的に命を落とした。その際、銃撃戦となりクラリスは負傷し気を失う。

目を覚ますと、クラリスは銃槍を治療されており麻酔薬を投与されていた。意識が朦朧(もうろう)とする中、彼女は自分がポール・クレンドラーの別荘に来ていることを知る。彼は、ヴァージャーに買収されクラリスを罠に掛けた張本人であり、傲慢で無礼な人物であった。
ダイニングルームに行くと、レクターがディナーの準備をしており、クレンドラーは椅子に縛り付けられ座っていた。何らかの薬による影響なのか、彼は様子がおかしかった。同じように、薬品のため行動する気力も判断力も奪われているクラリスは仕方なく、レクターに促されるまま着席する。
レクターはクレンドラーの被る野球帽を取り去り、予め切り込みを入れておいた彼の頭蓋骨をも取り去った。頭部の上半分を失ったクレンドラーは、脳味噌をむき出しにされたのだ。そしてレクターはクラリスの目の前で、クレンドラーの脳味噌を調理して本人に食べさせた。
あまりに惨たらしい光景を目にしたクラリスは、ついに堪えきれなくなって嘔吐し始める。その後、クレンドラーはキッチンに運ばれた。詳細は分からないが、レクターによってさらに残酷な行為をされているのだろう。クラリスは気力を振り絞り、レクターに立ち向かったが阻止するどころか拘束され動けなくなった。
レクターは「愛しているなら止めて」と言う様、クラリスに迫る。だが、彼女は「死んでも言わない」と、キッパリ答えた。その頬には、涙が伝いひと筋の美しい線を描いている。それを受けて彼は、威嚇するように歯をむいたが危害を加えることなく、熱い口づけをクラリスに与えたのだ。
しかし、その一瞬の隙を突いたクラリスは、レクターと自らを手錠で繋いでしまう。しかもクラリスは、ダイニングに来るより先に通報を済ませていた。警官隊が到着するまで、残された時間はわずかである。それは、レクターも承知していた。

レクターは迷うことなく、ふたりの手と手を台に乗せると大きな肉切り包丁を別の手に持った。そして「少し痛いぞ」と宣言するや、それを一気に振り下ろしたのだ。クラリスは絶叫し、レクターはそのまま逃走してしまった。

警官隊が着くと、クラリスは「両手」を挙げて名乗り、身分も告げた。レクターは自らの左手を切り落とし、クラリスを傷付けることなく逃げたのである。その後、レクターがどこへ行き何をしているのか、彼女はもちろん他の誰であれ知る由もないことであった。

ポール・クレンドラー(演:レイ・リオッタ)

クレンドラーは政治的野心を抱いていた。

吹き替え:大塚芳忠(ソフト版)、内田直哉(テレビ朝日版)

司法省のスポークスマンを務めている。詳細は不明だが、監察官や監督官のような役回りと思われる。日本でいうところの、事務次官といったイメージであろう。本作においては、各省庁間の調整などを職務とする立場である。クラリス・スターリング捜査官が所属するFBI(連邦捜査局)は司法省の下部組織であるため、彼ら捜査官の「目の上のこぶ」と言えるかもしれない。
ちなみにアメリカ合衆国司法省とは、日本における法務省に当たる行政機関である。誤解されがちだが、司法制度(裁判所)などに対する指揮命令権は持たない。あくまでも行政として法を執行する機関であり、その専門部署としてFBIなどがある。

クレンドラーは、7年前に起きたある連続殺人事件でクラリスと出会った。そのため、間接的にではあるがハンニバル・レクターとの関係もそこから始まったと言える。当時クレンドラーは監査次官補という役職だったが、政界進出の野心を強く抱いていた。そこで、被害者の母親が上院議員だったこともあり、捜査に介入して便宜を図ろうと画策する。
その時、クラリスはFBIアカデミーの実習生として事件に関わっていたが、そんな彼の行動に疑問と不信感を持っていた。しかもクレンドラーは若く美しいクラリスに対し、性的な欲望をむき出しにした誘い方でしつこく迫っていた。何度も無下に断られた挙句、事件に対する向き合い方で対立するのに至り、クレンドラーは彼女を恨むようになった。(前作『羊たちの沈黙』より。クレンドラーは未登場)

そのため、成長しFBI捜査官として活躍する彼女を罠に掛けて追い落とすことに、何の躊躇(ちゅうちょ)もなかった。クレンドラーは、レクターの復讐に燃える大富豪メイスン・ヴァージャーに買収され、彼のために架空の証拠をでっち上げてクラリスを停職処分にし向けた。彼女を苦しめれば、必ずレクターは現れるとヴァージャーは確信していたのだ。

策略は成功し、レクターはクラリスを監視していたヴァージャーの配下に捕らえられた。しかし、突入したクラリスによって復讐は阻止され、結果的にヴァージャーは命を落とした。その際ヴァージャー配下と銃撃戦になり、負傷したクラリスは気を失う。そしてレクターは意識のない彼女を抱え、その場を脱する。

一方のクレンドラーは、独立記念日の休暇を別荘で過ごす計画を立てていた。ヴァージャーが命を落としたことも、レクターが逃走したことも知らぬまま、ひとり別荘を訪れていたのだ。「余ほどのことが無い限り電話を取り次ぐな」と秘書に厳命していたので、報道される前の事件など知りようも無かったのだ。

ワインとつまみを買いに出かけ、別荘に戻ったところをレクターに襲われクレンドラーは捕らわれる。そして、強力な麻酔薬を打たれ何らかの手術を施された。次に目覚めた時には椅子に縛り付けられ、ダイニングテーブルを前にして座らされていた。傍らでは、レクターがディナーの準備をしている。
しばらくすると、クラリスがセクシーなイブニングドレスを着て現れる。彼女は銃で受けた傷を治療され、やはり強い麻酔薬を投与されて足元はおぼつかない様子である。それを見たクレンドラーは、クラリスに対し下品なジョークをまくし立て彼女を侮辱し続けた。

どうやら彼は極端にハイになっており、考えたことをそのまま口にするようだ。もしかすると、自白剤のような特殊な薬品なのだろうか。そんなクレンドラーに対し、レクターは「無礼なヤツは嫌いだ」と、きつくたしなめる。そして「大人しくスープを飲め」と促す。
クレンドラーが素直にそれを口にすると、とてもひどい味がした。顔をしかめ不平を漏らしたが、そのスープには別の薬が入っており、彼の意識はさらにどこかへ飛んでいった。

次にレクターは、白目をむいて虚空を見つめるクレンドラーの被る野球帽を取り払う。すると、彼の髪の毛は短く刈られ額を横切るような赤い線が頭部を一周して付けられているようだった。レクターは片手でクレンドラーの頭頂部を押さえながら、その赤い線に沿って丁寧にメスの先を入れてゆく。すると、クレンドラーの頭部は丸い器を逆に被せたような形で切り取られた。そして、レクターがその「逆さの器」を持ち上げると、クレンドラーは頭蓋骨の上部を完全に失い、脳の上半分がむき出しとなってしまう。しかし、そのような状態であるにもかかわらずクレンドラーは薬剤の効果なのか、全く意に介していない様子だ。

クラリスは「もうやめて」と哀願するが、レクターは「脳には神経が無いから痛みを感じない」などと言って、気にせず作業を進めている。やがてバターの溶けたフライパンに、白い脳の切り身が投じられ、音を立てて熱せられる。立ち上る香りを嗅いだクレンドラーが「うまそうな匂いがする」と言う。彼が物欲しそうな表情を見せたタイミングでレクターは、たった今調理したばかりの彼自身の脳味噌ソテーを彼の口に運んでやった。美味しそうに咀嚼するクレンドラーの様を見て、クラリスはついに嘔吐し始める。

その後、クレンドラーはキッチンへ運ばれ、レクターによってさらに脳を解体された。もしかすると、奪われたのは脳だけではないかもしれない。いずれにせよクレンドラーはレクターの「旅のお供」として調理され、箱詰めにされたのだ。そのような状態ではとても生きながらえるとも思えないが、クレンドラーにとってはその方が幸せかもしれなかった。

ピアソールFBI特別捜査官(演:デヴィッド・アンドリュース)

ピアソールはクラリスの力になろうと努めた。

吹き替え:水野龍司(ソフト版)

FBI特別捜査官であり、クラリス・スターリングの同僚・先輩に当たる。上司と思われがちだが、FBI捜査官は階級を持たないため建前上は全員同じ立場である。ネットのレビューなどで、クラリスがピアソールに対等の物言いをしているのを「おかしい」と指摘する向きもあるが、階級の上下が無いのだからそれはFBIの中では至極当然なことである。
クラリスが犯人の事を熟知しているという理由で、麻薬密売組織の首領イヴェルダ・ドラムゴ摘発の指揮を任されたのと同様に、ピアソールも調整役としての手腕を買われて仕事を与えられているのに過ぎない。

そのイヴェルダ摘発の際、組織間の行き違いあるいは政治的な思惑からクラリスの下した命令が無視され、死傷者を出す惨事となり彼女は責任を問われる苦しい立場に陥る。一方、ハンニバル・レクターに瀕死の重傷を負わされた大富豪メイスン・ヴァージャーは、復讐の目的を果たすためクラリスを手駒に加えたいと考えた。そこで、政府要人や役人に手を回し、条件付きでクラリスの処分を保留するよう計らう。
その条件はレクターを最重要国際指名手配犯に「格上げ」し、その担当捜査官としてクラリスを異動させるというものだった。初め拒んでいたクラリスだったが、ピアソールに説得されて条件を受け入れ、調査の一環でヴァージャーと面談する。だが、これら全てがヴァージャーに飼い慣らされた役人たちの策略であることを、クラリスは見抜いていた。

ヴァージャーは容易にクラリスが取り込めない人物と知り、別の方法でレクターを捜索したが失敗する。業を煮やしたヴァージャーは、レクターをおびき出す餌としてクラリスを利用することを思い付く。
彼女は、数年前のある事件がきっかけでレクターと奇妙な信頼関係を築いていた。(前作『羊たちの沈黙』参照)彼女を罠に掛け、苦しめればレクターは姿を見せると踏んだのだ。

そこで、子飼いの役人を使って証拠を捏造し、クラリスとレクターが恋愛関係にあるとの話をでっち上げた。たとえそれが疑惑であったとしても、そのまま職務を続けさせるわけに行かず、彼女は停職処分となった。
その際ピアソールは、憤懣(ふんまん)やるかたない様子のクラリスをなだめ「証拠の分析結果が出て、疑惑が晴れればすぐに復帰させてやる。今は大人しくしていろ」と告げて銃とIDを取り上げた。そして「停職中の行動は慎むように」と、重ねて念を押す。

しかしその後、クラリスはレクターがヴァージャーに捕らわれたことを知り、捜査への復帰を希望するがピアソールは「本部命令で却下された」と伝える。そして「あとは我々に任せて、君は家に帰っていろ」と同僚らしい一言を添えた。

ピアソールは、クラリスと親しい間柄では無かったが、彼女の捜査官としての能力を認めていた。もっと言えば、汚職や権力欲にまみれた役人や上層部の人間と違い、クラリスの人格や清廉潔白な倫理観をも認めていたようである。そのため、クラリスもピアソールとは本質的には対立していない。職務上の伝達役として、彼を通して上層部に対して不満をぶつけていたのである。

ジョン・ブリガムATF捜査官(演:ピーター・ショウ)

ジョンはクラリスを援護した。

ATF(アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局)の捜査官である。ATFとは、司法省の管轄下にある専門の法執行および取締機関である。その名の通り、酒類やタバコ、武器弾薬などの法律違反を取り締まっている。FBIのクラリス・スターリングとは旧知の間柄であり、広い意味では同じ司法省内の同僚と言えるだろう。
本作の冒頭、クラリスが麻薬ディーラーのイヴェルダ・ドラムゴを摘発する場面にのみ、ジョン・ブリガムは登場する。

ATFの部隊を指揮するジョンは、クラリスにとってその場に居る誰よりも頼りになる存在であった。しかし、想定外の事態が重なったうえ、別の法執行機関による命令違反もあり、現場は思いがけず激しい銃撃戦となってしまう。
ほどなくして、ジョンとクラリスら捜査官の部隊はイヴェルダを含めたギャング団を銃殺し、彼らの脅威を排除することに成功する。だが、不幸にもジョンひとりがギャングによって殺害され、殉職してしまう。ATFと、その他の機関全体の指揮を任されていたクラリスは責任を追及され、窮地に追い込まれるのであった。

ヌーナン(演:フランシス・ガイナン)

吹き替え:西村知道(ソフト版)

FBI副長官である。フィッシュマーケットでのイヴェルダ・ドラムゴ摘発作戦の失敗を受け、合同チームの指揮官であったクラリス・スターリング捜査官とATF及びDEAの責任者を招集した。会議の目的はクラリスに責任を認めさせ、彼女を弾劾するものであった。しかし、政界に影響力のある大富豪メイスン・ヴァージャーの「鶴のひと声」で会議は急遽中止となり、部署の異動という条件付きでクラリスは捜査官として仕事を続けることになる。

ボブ・スニード(演:テッド・コッホ)

吹き替え:楠見尚己(テレビ朝日版)

ATF捜査官である。イヴェルダ・ドラムゴ摘発作戦においてATFの指揮を執ったのはジョン・ブリガム捜査官で、捜査局側で唯一の犠牲者となった。スニードはこの作戦の失敗を受け、FBI副長官のヌーナンが招集した会議にATFの代表として参加した。

フィレンツェの人物

レナルド・パッツィ(演:ジャンカルロ・ジャンニーニ)

パッツィは非業の死を遂げる。

吹き替え:菅生隆之(ソフト版)、勝部演之(テレビ朝日版)

イタリア共和国トスカーナ州フィレンツェ警察の刑事である。役職については本作のクレジットでInspector(英語表記)とあり、役柄上おそらく警部補であろう。Inspectorの意味は「監察官」や「警部」などもあるが、パッツィにはあてはまらない。なぜなら、警部や監察官は捜査現場で(しかも単独で)聞き込みを行うことなど、まず無いからである。

パッツィは、経験豊富で優秀な刑事であり大きな事件の捜査を任されるほどの人材であった。しかし、ある連続殺人事件に関わる中で失態を犯し、面目を失してしまう。詳細は語られないが、彼は若く美しい妻アレグラを娶り「金がかかって困る」と、日頃から同僚にこぼしている。おそらくこの辺りの事情、つまり金銭授受などの規則違反ではないかと思われる。

ハンニバル・レクターとの関係は、第一線の捜査から外されたパッツィが、ある人物の失踪事件を調べる中で始まった。その人物の後継者候補としてフィレンツェにやって来た、学者の「フェル博士」と名乗る男に話を聞くのだが、彼こそが国際指名手配犯のレクターだったのだ。だが、何年も前に外国で起きた事件のことなど、ここイタリアでは刑事であっても覚えているはずも無く、当初パッツィはレクターの正体を知らないまま接していた。
また、彼はフィレンツェの古い貴族の末裔とされ「コメンダトーレ(爵位所持者)」でもある。これはイタリア社会ではそれほど珍しいことではなく、特権階級でも無い。そのため、「フェル」ことレクターに祖先の犯した罪を指摘され「フィレンツェでパッツィを名乗るのは、気が引けるのでは?」と問われてもピンと来なかった。なぜなら、そんなことをパッツィに告げてくる者は皆無であったからだ。

その後、アメリカFBIのクラリス・スターリング捜査官から、高級化粧品店などの監視映像をコピーして送って欲しいとの依頼がフィレンツェ警察にあった。その際、同僚のフランコ・ベネッティ刑事がコピー作業をする様を何気なく見ていたパッツィは、あることに気付く。監視映像の中に、例のフェル博士が映っていたのだ。
ベテラン刑事らしい、直感のようなものが働いたのだろうか。何か怪しいと感じたが、ベネッティにはそのひらめきを伝えず、うまく言いくるめてその映像の収まったビデオテープを手に入れた。そして、独自に調べを進めるうちに潜伏中の逃亡犯レクターの正体を突き止めたのだ。

パッツィは、この事実を利用して大金を稼ぐ方法も見つけていた。それは、レクターの情報に懸けられた賞金つまり懸賞金を手に入れることだった。FBIの懸賞金25万ドルに対し、あるサイトでは300万ドル(約3億3700万円)という破格の提示が為されており、パッツィはすぐに行動を起こした。

しかし、パッツィの目論見はレクターに見抜かれることになる。フィレンツェのヴェッキオ宮殿で、ある講義を終えたレクターがひとりになるところを待っていたパッツィだったが、逆に捕らわれてしまう。気絶した後、目覚めたパッツィは台車に拘束され、口はテープで塞がれていた。しかも、階上のバルコニーのそばまで移動していたのだ。
「腹を割かれて内臓を出すか出さないか、どっちがいいか」とレクターは問う。パッツィが目を見開いて抗議の意を示すと「自分じゃ答えられないな」と言って、レクターはパッツィの腹部を鋭い医療用のメスで切り裂き、彼の首にロープを巻き付けてバルコニーから突き落とす。すると、パッツィの身体は首吊り状態でぶら下がり、内臓は飛び出して一部は地上に落ちた。この様子は夜の街を散歩していた観光客などの目に触れ、各所から悲鳴が上がることになる。

皮肉なことにパッツィは、先祖のひとりと全く同じ格好で死ぬことになってしまったのだ。その先祖は、ライバルの貴族を謀殺しようとした罪により絞首刑に掛けられた。そして、同じように内臓を垂らし、ヴェッキオ宮殿の同じ窓から吊られて死んでいったのだ。

レクターは、その日の講義で「中世において強欲の罰は首くくりと決められていました」と語った。そして、そんな運命を辿った人物の言葉として「私は我が家を絞首台にしてしまった」と、彼の悔恨の念を紹介していた。
レクターからすれば、パッツィを強欲の罪で殺害したのだと言いたいのだろうが、犯罪には違いないし人道にもとる行為だ。しかしそれは一般人としての考え方であり、レクターが追求する芸術性など到底、我々には理解の及ばない領域である。

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『キングスマン:ゴールデン・サークル』とは、2017年に制作されたアクション映画。 『キングスマン』の続編であり、前作と同じくマシュー・ヴォーンが監督を務め、タロン・エガートン、コリン・ファースが出演する。 日本では2018年に公開され興行収入17億円を超えるヒット作となった。 イギリスのスパイ機関キングスマンの拠点が、謎の組織ゴールデン・サークルの攻撃を受けて壊滅してしまい、キングスマンのエージェントであるエグジーは同盟を結んでいるアメリカスパイ機関ステイツマンに協力を求める。

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オデッセイ(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『オデッセイ』は、2015年にリドリー・スコットが監督を務めたアメリカ映画。原作は2011年に出版されたアンデイ・ウィアーのヒット小説『火星の人』。 過酷な状況に置かれながらも人間性を失わず、生存の危機に立ち向かう宇宙飛行士。そして、彼を助けようと奮闘する人々を描いた。NASAが全面的に協力し、惑星科学部門の責任者、ジェームズ・グリーンが科学技術面のアドバイザーとして雇用されている。

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フライト・ゲーム(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『フライト・ゲーム』とは、2014年に公開されたアメリカのサスペンスアクション映画である。航空保安官としての任務でニューヨーク発ロンドン行きの飛行機に搭乗したビルは、何者かから機内で20分後に人を殺すというメッセージを携帯電話に受信する。ビルは周囲の協力を得ながら事件解決に向けて動くが、徐々に彼自身がハイジャック犯なのではないかと周囲から疑われてしまう。監督はジャウマ・コレット=セラが務め、主演したリーアム・ニーソンとは2度目のタッグとなった。共演はジュリアン・ムーアら。

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テルマ&ルイーズ(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『テルマ&ルイーズ』(Thelma and Louise)とは、1991年5月にアメリカで公開されたロードムービーである。平凡な主婦テルマが、友人のウェイトレス、ルイーズと共にドライブに出かけた。途中のドライブインで、テルマが見知らぬ男たちにレイプされそうになった時、ルイーズは男たちを射殺してしまう。二人はそのまま銀行強盗をして逃避劇を繰り広げる。二人の女性の日常から転落していく様を描いたバイオレンス作品。

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ジョー・ブラックをよろしく(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ジョー・ブラックをよろしく』とは、1998年にアメリカで公開されたファンタスティック・ラブストーリーである。事故死した人間の姿を借りて地上に舞い降りた死神は、死期が迫っている大富豪のビル・パリッシュの元に現れた。ビルは自分の命の延長と引き換えに人間界の案内役を引き受ける。ビルの家族に友人だと紹介された死神は、ビルの娘であるスーザンに惹かれ、次第にスーザンも死神に恋をしてしまうのだった。死神と人間の切ない恋模様と家族愛が描かれている。監督は、マーティン・ブレストが担当している。

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秘密への招待状(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『秘密への招待状』とは、2019年アメリカにて公開されたヒューマンドラマである。インドで孤児院を経営するイザベルに、ニューヨークのメディア会社で長年辣腕を振るってきたテレサという実業家から大口の寄付の話が舞い込む。イザベルはテレサの強引な要請で、契約をまとめるためにニューヨークに飛ぶ。そこでイザベルを待ち受けていたのは、心の奥底に封じ込んでいた自らの過去だった。18歳で訳あって別れた元恋人オスカーと、2人の間に生まれた娘グレイスとの突然の対面に揺れるイザベルの心を、テレサの愛情が溶かしていく。

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『ドリフターズ』と史実や他メディアでの同名キャラとを比べてみた!

『ドリフターズ』とは、『ヘルシング』でもお馴染み平野耕太先生の作品。それぞれ異なった時代の人物たちが登場し、世界を壊さんとする「廃棄物」側と、それを阻止せんとする「漂流者」側とに別れ戦う、史実ごっちゃ混ぜ気味なマンガなのです。今回こちらでは、作中に登場する人物と、史実やマンガ及びゲームなどの人物像とを比べつつ、簡単な解説と共にまとめさせて頂きました。

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