めがね(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『めがね』とは、都会からとある島にやって来た女性・タエコが、滞在する宿の主人・ユージや、島の高校教師・ハルナ、タエコを探しに島に来たヨモギ、そして毎年春に島に来ては、少し変わったかき氷屋をしているサクラとのふれあいの中で、固く閉ざしていた心を解きほぐしていくストーリーとなっている。「何が自由か、知っている」をキャッチコピーにして、2007年に公開。主演は小林聡美、監督は萩上直子が務めた。2008年のベルリン映画祭では、パノラマ部門に参加し、日本映画初のマンフリート・ザルツゲーバー賞を受賞した。

『めがね』の概要

『めがね』とは、都会からとある島にやって来た女性・タエコが、島で出会った人々とのふれあいを通して、心を解きほぐしていくヒューマンドラマである。「何が自由か、知っている」をキャッチコピーにして、2007年に公開された映画である。監督は萩上直子。本映画のスタッフは、萩上直子監督の前作である『かもめ食堂』(2006年公開)のスタッフが再集結し、主演も『かもめ食堂』と同じ小林聡美で撮影された。日本での興行収入は5.2億円、観客動員数34.3万人である。また、2008年2月のベルリン映画祭では、パノラマ部門に参加し、日本映画初のマンフリート・ザルツゲーバー賞を受賞している。マンフリート・ザルツゲーバー賞とは、パノラマ部門の元ディレクターであるマンフレート・ザルツゲーバー氏の功績を称え、2000年に設立された賞で、ヨーロッパで未配給の「既存の概念にとらわれない芸術表現をした」作品に授与される賞である。
物語は、ある春の日に、都会からある島にタエコという女性がやって来たところから始まる。タエコは、民宿ハマダに滞在しながら、宿の主人であるユージや、島で高校教師をしているハルナ、タエコを探しに島にやって来た青年・ヨモギ、そして毎年春に島に来ては、少し変わったかき氷屋を開いているサクラとのふれあいの中で、固く閉ざしていた心を解きほぐしていくストーリーとなっている。

『めがね』のあらすじ・ストーリー

タエコとサクラが島にやって来た日

島にやって来たタエコ

空を飛ぶプロペラ機を見て「来た」と言う男性がいた。とある島で民宿ハマダを営んでいる、眼鏡をかけた中年男性のユージだ。同じ頃、ユージと同じように空を見て、「来た」とつぶやいていたのは、島で高校教師をしているハルナだ。彼女も眼鏡をかけている。ユージとハルナが「来た」と言っていたのは、サクラという女性だった。サクラは、島に毎年春になると島にやって来て、民宿ハマダからほど近い海辺の小屋でかき氷屋をしている。サクラもまた眼鏡をかけていた。
同じ年の春の日、都会からやって来た、眼鏡をかけた女性・タエコがプロペラ機で島にやって来た。タエコは、重そうなキャリーケースを引きずりながら、民宿ハマダを目指して浜辺を歩いていた。ふと海を眺めていたところ、後ろから「氷ありますよ」と話し掛けられ、振り向いた。そこには、丸眼鏡の似合うサクラがかき氷屋の小屋の前に立って微笑んでいた。タエコは「結構です」と断り、颯爽と歩いて行ってしまった。タエコが宿泊予約を入れていた民宿ハマダに辿り着くと、そこには宿主のユージと飼い犬コージが待っていた。荷物は後でユージが運んでくれるということで、荷物を置いたまま、タエコは自分の部屋へと案内してもらった。途中、タエコが一般の家の表札と同じくらいの大きさしかない民宿の看板を見つけると、ユージは「お客さんが来すぎるといけないからこれくらいがちょうど良い」と言う。部屋へ着くと、ユージは窓際で指で方向を示しながら「こっちが町で、こっちが海。それだけ覚えていれば何とかなるから」とざっくりとした街案内をする。また、ユージは、この島では携帯電話が使えないため、電話を使うときには民宿のものを借りなければいけないこともタエコに説明した。その後、ユージは部屋を後にし、タエコは一人部屋で窓の外を眺めた。
しばらくして、タエコは食堂へ行った。民宿ハマダの食堂は、部屋がある建物のすぐ横に建っており、ドアや窓がほとんどないため、風がよく入る開放的な造りとなっている。タエコは、食事の準備をするユージを見ながら、椅子に座り、水を飲んでいた。どうやら、民宿ハマダの客はタエコだけのようだった。するとユージが「春先のお客さんは3年ぶりです。よく迷わずに来られましたね。」とタエコに話し掛ける。ユージの作った地図は分かりにくく、大抵のお客さんは道に迷ってしまうらしい。ユージは「ひどい人だと2時間くらいうろうろしていることもある」と言い、「これ以上お客さんが増えるといけないから、ちょうどいいんですけどね」と話す。そして「そういえば、迷わずに来られた人も3年ぶりです」と言い、ユージの地図で民宿ハマダに辿り着いたタエコに「ここにいる才能がある」と続ける。タエコは、この島にいる才能とは一体何なのか良く分からず、曖昧に笑って返事をするだけだった。ユージは、作り終えたお弁当を風呂敷で包みながら、「今日は大切な人が来たから夕食はみんなで外で食べる」と言う。想定していなかった展開にとまどったタエコは、「自分は遠慮しておく」と申し出る。するとユージはあっさりと「そうですか。じゃあ、冷蔵庫の中のものを適当に食べてください」と言って、出掛けてしまった。ユージが出て行った後、タエコは自分の荷物がそのまま外に置きっぱなしになっていることに気付く。仕方なく自分で部屋に荷物を運び、その後でバナナを食べながら一人過ごした。

「たそがれ」

朝食を食べるタエコ、ユージ、サクラ(右から)

翌日の朝、タエコは人の気配を感じて起きた。隣には、昨日海辺で「氷ありますよ」と声をかけてきたサクラが正座して座っており、タエコが起きると「朝です。今日も良い天気。」と言う。驚きのあまり「え?なに?」としか返せないタエコを残して、サクラは部屋を出て行ってしまった。タエコは、その後二度寝をしていたが、どこからともなく聞こえてくる音楽に気付いて目が覚めた。昨日はバナナしか食べていないタエコは、お腹がすき、食堂へと向かう。しかし、食堂には誰もいなかったため、音楽がする方へユージを探しに行った。ユージは、海辺で町の子どもたちやサクラと一緒に不思議な体操を行っていた。タエコに気付いたユージは、タエコの元へ駆け寄り、「きっと来ると思ってました」と言う。「何をしているんですか」と尋ねるタエコに、ユージは「メルシー体操です」と答える。タエコは、初めて聞く変な体操を「一緒にどうですか」と誘われるが、またも「私は結構です」と断るのだった。
食堂の外にあるベンチで一人ユージの帰りを待っていると、帰ってきたユージに「朝ご飯ですよ」と話し掛けられる。タエコは、食事は宿泊者だけが一人で食べるものと思っていたが、タエコの朝食は大きなテーブルの上にユージとサクラの分と一緒に置かれていた。どうやら、サクラは民宿ハマダに滞在しながらユージの手伝いもしているようだった。タエコは少しとまどいながらも、同じテーブルに腰掛ける。そして、今朝見掛けたメルシー体操について、サクラとユージに尋ねた。メルシー体操は、サクラのオリジナルの体操で、サクラがこの島に滞在している春先には、島の子どもたちも参加して毎朝行っているそうだ。話しながらタエコは梅干しを口にする。梅干しは、毎年ユージが手作りしているもののようだ。「梅はその日の難逃れ」という諺があることをユージは教えてくれ、朝食には毎日出しているのだそうだ。タエコは「今日は観光をしたいが、どこかおすすめの場所はあるか」とユージとサクラに尋ねる。すると2人は顔を見合わせて、「この島には観光するところなんてないよ」と言う。「じゃあ、この島に来た人は何をしているのか」と聞くタエコに、ユージは考えながら「たそがれる」と答える。朝食の後、「たそがれるねえ」と言いながら町を歩いていたタエコは、することがなく海を眺めていたが「無理」と言い立ち上がった。都会で暮らしていたタエコには、何もせずにたそがれることが退屈でしかなかったのだ。
一方、サクラは海辺の小屋で今日もかき氷屋を開いていた。かき氷屋には、島で高校教師をしているハルナと、もう一人島の住人の女性がいた。島の住人が氷を食べ終わると、お金を払う代わりに野菜をサクラに渡し、帰って行った。そこへ、たそがれに飽きたタエコがやって来た。サクラはいつものように「氷ありますよ」とタエコに声をかける。タエコは「かき氷ではなく、冷たい飲み物がほしい」と言うが、店にいたハルナに「ここには氷しかありませんよ」と言われてしまう。ハルナは氷を食べ終わり、「あー死にたい。今度のクラス、可愛い男子がいないのよ」と言いながら職場へと戻って行った。立ち去ろうとするタエコに、サクラはもう一度「氷ありますよ」と言うが「かき氷は苦手だから結構です」とタエコは断って行ってしまう。
タエコは仕方なく、町のお店で見つけた赤い毛糸を買い、民宿のベンチに腰掛け、夕方になるまで編み物をしていた。途中、心地の良い風が吹き、空を見上げていたところ、サクラに「夕ご飯ですよ」と話し掛けられる。タエコは「ここでは、みんなで食べないといけないのか」と言うと、「いいえ」とサクラは答える。タエコが「まだお腹が減っていないから後で食べる」と言うと、サクラはあっさりと行ってしまった。タエコが編み物を終えて、食堂へ向かうと、ユージとサクラ、そしてハルナも加わり、食堂前の庭先でバーベキューをしていた。ハルナは民宿ハマダの手伝いをしている訳ではないが、サクラのことが好きでサクラに会うため、春の間はしょっちゅう民宿ハマダへ遊びに来ていた。タエコは一緒にバーベキューのお肉を食べることにした。椅子に座るとサクラがタエコのグラスにビールを注いだ。タエコは「たそがれるというのは、ここの習慣か何かですか」と尋ねる。「そんなたいしたものではなく、癖みたいなものだ。たそがれが得意な人が集まっている。」とユージは答える。すると、ハルナはタエコに「たそがれるのが得意ではないのか」と聞き、「ここに来る人は大抵たそがれるのが得意な人だから」と言う。タエコは、「ここはたそがれる以外には何かないのか」と聞くと、ハルナが「たそがれないのに、何をしにここに来たのか」と逆に尋ねる。答えたくなかったタエコは「いろいろ」とだけ答える。

タエコにさりげなく寄り添うサクラ

サクラの漕ぐ自転車の後ろに乗るタエコ

翌朝、タエコはまたサクラに起こされた。タエコが「ここでは毎朝起こされないといけないのでしょうか」と少し怒ったように言うと、「いいえ」とサクラは答える。「では、少しほっといてください」と言うタエコに、サクラはにこにこ笑いながら「はい」と言って部屋を出て行った。まだ寝ていたいタエコだったが、メルシー体操の音が聞こえてきて、眠ることが出来ない。「無理」とつぶやいたタエコは、民宿を出る荷造りをしていた。タエコは、ユージやサクラの都会とは違う人と人との距離感になじめなかったのだ。朝ごはんを食べていたユージ、サクラ、ハルナの元に、タエコは荷造りした荷物を携え、「島にもうひとつある宿マリンパレスに行く」と言い出す。しかし、3人は「マリンパレスはたそがれには向かない」と行くことを止めるが、タエコは「行く」と言って聞かなかった。
タエコは、ハルナが運転する軽トラに乗せてもらうことになった。ユージとサクラは民宿の入り口でタエコを見送った。ハルナは「大きな荷物ですね」とタエコのキャリーケースを見て言う。「必要なものだけ持ってきた」と答えるタエコに、ハルナは「サクラさんは毎年、ちょっとその辺に買い物でも行くような感じで、鞄ひとつでこの島に来る」と話す。この何もない島に毎年来るということに驚いたタエコは、ユージとサクラが特別な関係なのかと思い、ハルナに尋ねるが、「ものすごい関係」と良く分からない返答をされてしまう。毎年春になるやって来るというサクラがどこから来ているのかについてもタエコは尋ねたが、ハルナは「知らない」と答える。そこで、道が不安になってきたハルナは、ユージが書いた地図をタエコに渡し、案内してほしいと頼む。ユージの書いた地図には、ハマダとマリンパレスが1本の線でつないであり、「なんとなく不安になってきて、それでも我慢して2分くらい走ったらそこを右です」と書いてあるだけだった。とても曖昧で感覚的な地図だったが、道が分かり、マリンパレスに辿り着いた。ハルナに車から降ろしてもらったタエコは一人マリンパレスへ向かった。マリンパレスにタエコが着くと、すぐに女主人がやって来て、タエコを畑へと案内した。女主人はここでは午前中に畑仕事、午後に勉強会をすることを説明し「みんなで協力し合い、自然に感謝して過ごすことがコンセプトだ」と話す。自分には向かない宿だと気付いたタエコは、足早にマリンパレスを後にした。タエコは歩いてハマダに戻ろうとするが、携帯電話が通じないため、道を調べることが出来ない。タエコは仕方なく、重いキャリーケースを引っ張りながら、あてもなく歩いた。歩き疲れて途方に暮れていたところ、サクラが後ろに荷台のある自転車に乗ってやって来た。タエコが心配になったため、迎えに来てくれたのだった。サクラは、タエコの前に黙って自転車を止めると、何も言わずにタエコが自転車に乗るのを待った。タエコはキャリーケースを持って自転車に乗ろうとするが、重いので思いとどまって、カバンひとつで自転車の乗ることに決めた。サクラの漕ぐ自転車の荷台に乗って、タエコはまた民宿ハマダへ向かうのだった。
タエコは、翌朝目が覚めて、歯を磨きながら気分転換に外へ出た。気分が良くなったタエコは、メルシー体操を踊りながら歯を磨いていたところを、ハルナに目撃されて気まずい思いをする。その後、朝食の時間になり、タエコ、ユージ、サクラ、ハルナの4人は一緒に食卓を囲む。メルシー体操を踊っているところを目撃したハルナは、タエコに「明日から一緒に踊ってはどうか」と言うが、タエコは恥ずかしさからメルシー体操を踊っていたことを認めない。話をそらそうとしたタエコは「ハルナさんは宿泊客ではないのに、どうして一緒に朝食を?」と聞く。ハルナはそれには答えず、「昨日サクラさんの自転車の後ろに乗っていたのを見ました」と言う。ユージも「それは僕も出来ることなら乗ってみたいな」と続ける。予想外にうらやましがられたタエコは不思議そうな顔をする。すると、ハルナは、タエコに「春先に、この島にたそがれが得意でもない人が来るのは理由があるんでしょう」とこの島に来た理由を尋ねる。タエコは「私は、携帯電話が通じないところへ行きたかったんです」と答える。「それだけってことはないでしょう」と食い下がるハルナに、タエコは「いけませんか、それだけの理由じゃ」と言う。そこで、ユージが「そう、ここはね、携帯電話が通じないんですよ。いいでしょう。」と笑いながら会話を和らげる。タエコは、ユージが前に言っていた「梅はその日の難逃れ」という諺を思い出しながら、梅干を口にした。すると、そこでハルナが「また遅刻する」と言って、職場である高校に向かう準備を始めた。その日、タエコは海を眺めながら赤い毛糸で編み物の続きを編んで過ごした。

タエコの初めての笑顔

かき氷を食べるヨモギ、タエコ、サクラ、ハルナ、ユージ(左から)

編み物を切り上げてタエコが民宿ハマダへ戻ると、そこにはビールを飲みながらタエコを待っていた青年・ヨモギがいた。驚く様子のタエコにヨモギは「先生!」と声をかける。「よくここが分かったね」と言うタエコに、「何よりもかによりも先生を思っていますから」と冗談を言うヨモギ。どうやらヨモギも、タエコと同じくユージの地図でも迷わずに民宿ハマダへ辿り着けたようだった。その日の昼ごはんは、ユージが「近所の人からもらった」と言う大きなエビをタエコ、ユージ、サクラ、ハルナ、そしてヨモギの5人で食べた。ハルナがタエコにヨモギのことを誰なのか尋ねるが、タエコは「さあ?」ととぼける。みんあでエビを食べた後、タエコとヨモギは海辺で2人話をする。「帰らないのか」と尋ねるタエコに、ヨモギは「ここで飲むビールは最高だし、たそがれるのも良いから飽きるまで帰らない」とビールを飲みながら答えた。
翌日、タエコはユージに「たそがれ」のコツを尋ねる。ユージによれば、昔のことを思い出してみたり、誰かのことをじっくり考えてみたりすることがコツであるらしい。「ユージさんも誰かのことを考えるのか」と尋ねるタエコに、ユージは「私はただ、ここで時が過ぎていくのを待つだけですから」と冗談交じりに答える。そして、この島に移住することになったきっかけは、サクラのかき氷であることを話す。続けて、「愛犬のコージは大切なものを隠してしまうくせがあって、しかも隠しているうちに何をしようとしていたか忘れてしまう。そこがコージの良いところだ」と話す。そして、タエコに「サクラさんのかき氷、食べてみると良いですよ」と勧める。タエコはサクラのかき氷屋へ向かった。そこには、今日も島の住人たちが来ていて、氷を食べた代わりに何か物を渡していた。サクラは、タエコの姿を見つけると、いつものように「氷ありますよ」と声を掛ける。いつもは「苦手だ」と断っていたタエコだったが、「いただきます」と答えた。すると、同時に後ろからやって来たヨモギも「いただきます」と返事をした。サクラは笑ってうなずき、さっそくかき氷を作り始めた。まずは、器の底に煮詰めた粒あんを敷き詰める。その上に、手作業で氷を削る機械を使って、氷をのせ、最後に特製のシロップをかければ出来上がりだ。その様子を、タエコとヨモギは座りながらじっと見ていた。出来上がったかき氷を、サクラはそれぞれタエコとヨモギに手渡す。タエコは最初の一口を、海を眺めながらじっくりと味わう。これまでかき氷は苦手だったタエコだが、自然と2口、3口とスプーンが進むのだった。そこへ、仕事の休憩中であるハルナがやって来た。「高校は良いんですか」と尋ねるタエコに、ハルナは「いくら真面目にやっていても休憩は必要」と言って、サクラの作ったかき氷を食べ始めた。そこへ、ユージがかき氷屋の前を通りかかる。ユージはタエコ、ヨモギ、ハルナがかき氷を食べているのを見て、「ずるい」と言いかき氷をサクラに注文する。サクラは、ユージのかき氷と一緒に自分の分も作り、かき氷をユージに手渡した後、ハルナの隣に座って自分もかき氷を食べ始めた。ヨモギは、あっという間に食べ終えてしまい、「人生で一番のかき氷でした」と言う。タエコはサクラに「これ、おいくらですか。」とかき氷の値段を尋ねる。すると、サクラは「先ほど来ていた氷屋さんには、氷をいただきました」と答える。「さっきの女の子は?」とタエコが聞くと、サクラはポケットから、その女の子からもらった折り紙で折ったブタを取り出して、嬉しそうに笑った。自分は何を渡せばよいのかとタエコが考えていたところ、ヨモギが「ユージさんとハルナさんは何を?」と尋ねる。ハルナは「私とユージさんはマンドリン」と答える。だんだんと日も暮れて、夕焼け空になってきた頃、ユージとハルナはかき氷屋の前でマンドリンを弾く。その音色を聞きながら、タエコ、サクラ、ヨモギは黙って海を眺めながら「たそがれ」をするのだった。
翌朝、タエコがハマダの食堂へ向かうと、そこではサクラが一人で小豆を煮ていた。真剣そうな顔をしているサクラに、タエコが話しかけると、サクラは「しーっ」と指を口元に立てる。タエコがそっとサクラの近くに寄って、サクラの様子を見ていると、サクラは「大切なのは焦らないこと。焦らなければそのうちきっと」と言って、出来上がった小豆を小皿によそい、タエコに手渡した。タエコは出来立ての小豆を食べて、美味しそうに頷いた。その後、タエコはまた海辺で赤い毛糸で編み物を進めていた。そこへハルナがやって来て、タエコの後ろに腰掛けた。そして、「タエコさんはいったい何者ですか」と唐突に尋ねる。「何者でもない」と答えるタエコに、「いつまで島にしるのか」とハルナが聞く。タエコは「飽きるまで」と答える。出来立ての小豆をサクラからもらう様子を陰で見ていたハルナは、ヤキモチから「早く飽きてください」と言う。そして、タエコの編み物を見て「何を作っているんですか」と尋ねる。何を作るか決めないで編んでいるタエコは、ハルナに「何かほしいものはあるか」と聞くが、「何もいらない」と言われる。ハルナは「ずいぶん綺麗に編みますね。編み物って空気も一緒に編むって言いますよね。きれいにそろった網目ですね。」と言う。すると、タエコは「やっぱりそうか。いつも編み目が揃っちゃうんだよあ。つまらないんだよなあ」と独り言のようにつぶやき、編み目をほどき始めた。ハルナは自分の一言でタエコが編み物をほどいてしまったと思い、「つまらないなんて言ってない、綺麗で良いじゃないですか」と言いながら焦る。その様子を見て、タエコはこの島に来て初めて、声を出して笑うのだった。

近付く夏の訪れ

ビールを飲みながら海を見つめるサクラ、ユージ、ハルナ、タエコ、ヨモギ(手前から)

翌朝、海辺でいつものようにメルシー体操を踊るサクラ、ユージ、ハルナと島の子どもたちがいた。そこには、これまで参加していなかったタエコと、ヨモギの姿もあった。タエコは、ノリノリでメルシー体操を踊る。メルシー体操を踊った後、民宿ハマダの草花の世話をするハルナに、タエコは話し掛ける。「春以外のサクラが何をしているのか」とハルナに尋ねるが、ハルナは「分かったとしてもだからってどうなんでしょう。自転車の後ろ乗ったくせに」と言う。たまたま通りかかったヨモギが「先生、サクラさんの自転車の後ろ乗ったんですか。僕も乗りたい」と言うと、タエコは嬉しそうに笑いながら、歩いて行ってしまった。
その後、海で釣りをするヨモギのもとに、ハルナがやって来て、自分も釣りを始めた。そこで、今授業で教えているプラナリアの話をする。プラナリアは、切っても分裂するか再生するかで死ぬことがない生き物なのだそうだ。「すごいでしょう」と言うハルナに、ヨモギは「すごいけど、僕はいいや」と死なない生き物に興味を示さない。一方、タエコはふらふらと一人で散歩をしていた。そこへサクラを荷台に乗せて、自転車を漕ぐユージがやって来た。ユージは「ビール飲みませんか」と誘い、タエコは「はい」と答える。ハルナとヨモギも加わって、5人で海辺でビールを飲む。そこでヨモギが唐突に「先生、旅は思い付きで始まりますが、永遠には続かないものですよ」とタエコに言う。タエコは「知ってる」と答える。そして、ヨモギは「先生、僕はそろそろ帰ります。先生は?」と言うと、タエコは「うん」とだけ答えた。ヨモギは、ドイツ語で詩を暗唱し始めた。タエコは黙ってそれを聞いていた。
翌朝、タエコは一人でサクラのかき氷屋に来ていた。かき氷屋には島の女の子が来ていて、またサクラに折り紙で作った動物を渡しているところだった。タエコに気付いたサクラは、ベンチに腰掛ける。「地球なんてなくなってしまえばいいのにって思ってました。ここに来るまでは。何があるんでしょうか、ここの海には」と言う。サクラは「さあ、なんでしょう」と答え、タエコは「何もないからいいのかなあ」とつぶやく。「何か欲しいものがあるんですか」とサクラが尋ねると、タエコは驚いた顔をして「えっ?」とサクラを見る。サクラは黙って中に入って、かき氷を作り始めた。
民宿ハマダの厨房で、サクラが大きな魚をさばこうとしていた。脇にはハルナがいて、その様子を見ていた。ハルナは「人は死んだらどうなるんですか」と尋ねると、サクラは「このお魚と一緒です。人は死んだら二度は死なない」と言いながら、魚に包丁を入れる。ハルナは黙って、その魚を見つめていた。その後、サクラとハルナが座って、野菜の下ごしらえをしているところへ、タエコがやって来た。「かき氷のお礼に」と言い、紙袋をサクラの隣に置いて、行ってしまう。中身はタエコがいつも海辺で編んでいた赤い毛糸の編み物だった。「もうすぐ夏なのに」とハルナが言うと、空からぽつぽつと雨が降って来ていた。

新しい季節の始まり

ハルナの運転する車の助手席で外を見るタエコ

翌朝、タエコが目を覚ますと雨が降っていた。食堂へ向かうと、ユージが一人で食事の準備をしていた。タエコは「サクラさんは?」と尋ねると、ユージは黙って外を見つめる。タエコは急いでサクラのかき氷屋の小屋まで走っていくと、小屋は木の板で固く戸締りがされていた。サクラが帰ってしまったことを悟ったタエコは、民宿ハマダに戻って、ユージと二人で朝食を食べた。どことなく寂しく黙って食事をしていると、ユージが「来年もきっと良い梅が出来ます」と言って梅干を食べる。タエコも「梅はその日の難逃れ、ですよね」と言いながら、梅干しを食べた。その後、タエコは民宿ハマダを出発し、帰ることにした。ハルナが軽トラで空港まで送っていく。ハルナは運転中「右に曲がるはずなんだけど、曲がるべき道がない」と言いながら、ユージの書いた地図をタエコに手渡す。読むと、「なんとなく不安になってきて、そこから80mくらい走ったらそこを右」という、ユージ独特の地図が書いてあった。「慣れればけっこうわかるもんですね」と言うタエコに「でもやっぱり普通の人には難しい」と言うハルナ。ハルナは「初めてハマダに来た時、ユージさんの地図で迷いました?」と聞くと、「いえ」とタエコが答えた。「それ、私以来の快挙ですよ」とハルナは言った。さらにハルナは、ユージに「才能あるって言われませんでした?」とタエコに尋ねる。「ここにいる才能がある」と言われたことを話しながら、「喜ぶべきなんですかね」と言うタエコに「さあ」とハルナはとぼける。タエコは、窓から顔を出して、外を眺めようと眼鏡を取る。すると、掛けていた眼鏡が風で飛んで行ってしまった。タエコは「あっ」と言うが、すぐに「まあいいか」というような顔をして空を眺めるのだった。一方、ユージは一人海で釣りをしていた。釣り上げたのは、なんとタエコが風で飛ばしてしまった眼鏡だった。
翌年、ユージの愛犬・コージはお母さんになっていた。ユージが海辺でマンドリンを弾いていると、春の気配を感じたユージは「来た」と言う。同じ頃、やはりハルナも春とサクラの来る気配を感じ取っていた。ユージとハルナは、毎年のようにサクラのかき氷屋の小屋を開ける準備を始める。そこには、新しい眼鏡をかけたタエコの姿もあった。ユージやハルナの思った通り、小屋を掃除している途中、サクラがやって来た。サクラは、昨年にタエコが渡した赤い毛糸の長すぎる編み物を、首に巻いて現れた。サクラの後ろにはヨモギの姿もあった。タエコ、サクラ、ユージ、ハルナ、ヨモギの5人は、綺麗な海の前で顔を見合わせるのだった。

『めがね』の登場人物・キャラクター

タエコ(演:小林聡美)

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