BEAST COMPLEX(ビーコン)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『BEAST COMPLEX(ビースト コンプレックス)』とは、擬人化した肉食獣と草食獣が織り成す社会模様を描いた、板垣巴留(いたがき ぱる)による漫画作品。
スマホなども存在する現代風の世界。そこでは二足歩行する能力と高い知性を持った動物たちが、文明的な生活を謳歌していた。それでいて彼らは獣としての本能を捨て切れず、肉食獣は隣人たる草食獣の肉を欲してやまず、潜在的にそれを理解している草食獣は肉食獣を恐れている。危うい均衡で成立する社会の中、苦悩しながらも歩み続ける獣たちを描いた短編集。

雷嫌いのオオワシのライカは、敏腕OLとして働くスナネズミのフィーナにヒモとして養ってもらう生活を満喫していた。フィーナを背に乗せて職場とアパートを行き来することだけが、彼の仕事らしい仕事だった。これこそまさに世界で一番賢い生き方だと満足していたライカだったが、ある日唐突にその生活は脅かされる。フィーナが同僚のスナネズミと結婚すると言い出したのだ。

自身のヒモ生活の維持のため、なんとかフィーナを翻意させようとするライカ。苦手な雷雨の日にも送迎に勤しむが、目の前に稲光が走った時、彼は生まれた時のことを思い出す。「安全で安心な卵の中にずっと閉じこもっていたい」と願うライカの前で卵に亀裂が入り、外の光が差し込んでくる。その時のジグザグの光を想起させるからこそ、ライカは雷を苦手としていたのだ。

自分が生来の怠け者だったことを知って愕然とするライカ。この先1匹でやっていけるのだろうかと不安がる彼に、フィーナは大丈夫だと言い切り、「アンタのフライトはいつも最高だった」と太鼓判を押すのだった。

第11話「シマリスと(ユキウサギ)」

シマリスのキムは、樹獣社に務める新獣女性編集者。ある日会社が出している文芸誌の看板作家、イチジクの原稿が間に合いそうにないと編集部が騒ぎになる。困り果てた先輩編集たちはキムにイチジクの様子を見てくるよう命じる。
困惑するキムだったが、一方でイチジクに会えることを楽しみにも感じていた。イチジクは草食獣の繊細な心情を書かせたら右に出る者はいないとまで言われる小説家で、キム自身大ファンだったのである。世間ではイチジクはその細やかでナイーブな作風から女性かつ草食の小動物、それこそユキウサギか何かだろうと言われており、キムもそれを信じ込んでいた。

しかし、実際のイチジクはツキノワグマの大男だった。重度のスランプに陥っていたイチジクに振り回され、散々に困惑し恐怖に身を竦ませて、最後には原稿を預かるキム。新獣には荷の重い仕事だったと嘆息しながら、彼女は編集部へと向かうのだった。

第12話「オオカミとウサギ」

『BEASTARS』の主人公であるオオカミのレゴシは、様々な事件を乗り越えた末に、想い獣だったウサギのハルと結婚前提の交際を始めていた。
ある日、1つ年上のハルが成獣式を迎えることとなり、レゴシにも一緒に出てほしい旨を伝えてくる。成獣式と並行して牙落式という儀式が行われており、これにレゴシと参加したいというのだった。

牙落式とは、「肉食獣によって傷つけられた草食獣と、その傷をつけた肉食獣」が、この傷を清めることで和解し厄を払うという儀式である。レゴシはこれを承諾し、牙落式の会場に自分たち以外にも多くの獣たちがいるのを見て、再出発を願う草食獣と肉食獣の絆に感嘆する。
無事儀式を追えるレゴシとハルだが、実はハルの目的は「2人で着物を着ることで結婚式気分を味わう」ことにあった。ハルにそこまで想われていることに感激したレゴシは、彼女の手に口づけするのだった。

第13話「エゾシカとユキヒョウ」

肉食獣と草食獣の禁断の愛を描いた映画「ディナー」は、その衝撃的な内容と迫真の演技で高い評価を受け、その年の映画大賞で主演男優でユキヒョウのルークと主演女優でエゾシカのロゼが同時に受賞するという快挙を達成した。
しかし、実はルークは主役の重責に耐えかねて事故死したスタッフの草食獣の肉を密かに食べるという重罪を犯しており、映画大賞授賞式の控室でロゼにそれを告白。己の行いを恥じて自首する旨を打ち明ける。

頭を抱えるロゼだったが、「自首はしなくてもいいのではないか」と言い出す。売れない女優だったロゼにとって、今回の受賞は役者獣生を一変させるチャンスであり、それをルークの犯罪によって台無しにされたくないのが本音だった。
自首するかどうかで散々に揉めた末に、ルークはロゼたちスタッフにも多大な迷惑をかけることを重ねて詫びて、せめてロゼの受けるダメージが少なくなるよう“自分は何も知らなかった”という演技をすることを提案。ロゼはこれを受け入れるも、肝心なところでバレバレの演技をしてしまい、ルークの配慮を台無しにしてしまうのだった。

第14話「トラとアルパカ」

トラのアイシャの密かな趣味は、仕事で溜まりに溜まったストレスを、整体で一気に解消することだった。しかし行きつけの店のマリリンというアルパカの整体師は、「体勢を変えてくれないと十分に解せない」と、アイシャに腹を向けて寝そべるよう要求してくる。
それはネコ科の獣にとっては“降参”を意味する姿勢であり、おいそれとは了承できない。そう説明して断るアイシャに、マリリンは「では私に降参してください」と驚くような言葉を告げる。

この時はなんとか要求を退けたアイシャだが、仕事のストレスは溜まる一方で、定期的にマリリンの整体を受けることを止められない。マリリンはアイシャの体の様子からその仕事ぶりを言い当て、巧みに彼女を篭絡し、ついに屈服させて“降参”の体勢を取らせてしまう。
2か月後、アイシャはたまたま街中でマリリンと擦れ違う。アイシャの体調が改善したことを喜びつつ、マリリンは最後に小さく彼女のことを「子ネコちゃん」呼ばわりしながら去っていく。慌ててそれを振り返り、小さくなる背中を見詰めながら、アイシャは「嫌な整体師」だと複雑な想いでつぶやくのだった。

第15話「ニシキヘビとハイエナ」

ある朝、ニシキヘビのカメジは、クラスメイトでハイエナのムロウが中学校の教室で首吊り自殺をしているところを発見する。慌ててこれを助けるカメジだったがすでにムロウの脈は無く、「イジメられていた自分が首を絞めて殺したと思われるのでは」との恐怖から咄嗟に彼を丸呑みにしてしまう。
なぜムロウが自殺したのか調べ始めたカメジは、彼の所持品や過去の言動に“ムロウ自身の個性”を示すものがまるで見つからないことに気付く。

もしかしたらムロウは、周囲の獣が“ハイエナ”に抱くイメージを一生懸命演じていただけで、それに疲れ果てて自ら命を断ったのかもしれない。そう感じたカメジは、自分かわいさにムロウの死体を隠したことを恥じ、彼を吐き出して死体を丸呑みしたことを教師たちに打ち明けようと決意する。
しかしムロウはまだギリギリで息があったらしく、カメジの腹の中で動き出す。大急ぎでこれを吐き出したカメジは、憮然とした面持ちで「よりによってお前かよ」とぼやくムロウに抱き着き、クラスメイトの生還を喜ぶのだった。

第16話「アザラシとオオカミ」

オオカミのレゴシとアザラシのサグワンは、「陸の獣にさらわれた娘を探してほしい」とタコの母親に頼まれる。しかし彼女はすでに殺された上にタコの串焼きにされて売られており、レゴシは愕然とする。一方でこれを知ったサグワンは、「死んでしまったものは仕方がない」と割り切って、これを購入して全部食べてしまう。
驚くレゴシに、サグワンは「これが海の生き物の流儀」だと語り、陸に生きる獣たちとはまるで異なる海生生物の死生観を説明する。実際タコの母親は娘の死を悲しむ一方で、それを食べてくれたサグワンに感謝し、葬式にも参加してほしいと頼んでくる。

サグワンと共にタコの娘の葬式に参加したレゴシは、海の生き物たちが“1つ1つの死はその獣だけに留まるものではなく、大きな循環の要素の1つである”と捉えていることに気付き、その奥深い思想に感嘆する。
偶然知り合い友となったサグワンから、もっとたくさん海の生き物たちのことを学びたいと、レゴシは改めて感じるのだった。

第17話「カメとヤギ」

学級委員でヤギのキヨスミは、前の席に座るカメのアブの甲羅に彫られた“地獄”という刺青をいつも眺めながら過ごしていた。ある日不良たちに絡まれたところを助けてもらったキヨスミが彼にお礼を言うと、アブは「君の角に刺青を彫らせてほしい」と言い出す。
アブは彫り師を目指しており、その体中にある刺青もほとんどが自分で彫ったものだった。アブもまたキヨスミのことを気にかけ、彼女の角が“このまま伸び続ければ自分の頭に突き刺さる”状態であることを案じていた。

キヨスミは子供の頃から「言われたことはできる限り実行するが、自発的に行動を起こせない」という性格で、角のことも気になってはいたが誰からも何も言われないのでそのままにしていた。そんな彼女に、アブは「自分で決めて自分で動くなんて簡単だ」と言いながらその角に刺青を施す。
アブの生き方に感銘を受け、また彼なりに励ましてくれたのだと感じたキヨスミは、意を決して己の命を危うくしていた角の切除手術を受ける。アブはそれに対して何も言わなかったが、その甲羅に新しく花模様の刺青が追加されているのを見て、キヨスミは「自分の決断をアブくんも祝福してくれている」と確信するのだった。

第18話「ライオンとウサギ」

ライオンのエアドは、かつてウサギのアコとある種のファッションとして異種恋愛を楽しんでいた。しかしある時、肉食獣の本能を刺激されて彼女に噛みついて大怪我させるという事件を起こしてしまう。
数か月後、エアドはアコが大学に復学していることを知る。事件は示談で解決したものの、アコのことが気になっていたエアドは、何を話せばいいのか悩みながらも彼女に会いに向かう。

アコは最初はエアドとの再会を喜ぶものの、周囲に誰もいなくなると「なぜもっと感動的な再会を演出しないのか」と彼をなじる。顔についた傷をも自分の評判に利用しようとするしたたかなアコの様子に面食らうエアドだったが、やがてその裏に深い絶望があることを知る。

美貌を自慢にしていたアコが、生涯消えない傷を負った今の自分をどれほど悲観しているか。その上でなお立ち上がろうとしている彼女の心の強さがどれほどのものか。
そんな彼女に改めて惹かれたエアドは、思わずその手を取って「もう一度付き合おう」と告げる。「この傷を治せるくらいの医者になってから出直してこい」と不敵に笑うアコに、エアドは冷や汗混じりに「待ってろ」と答えるのだった。

第19話「ウシとワニ」

学生でワニのナグモは、下校中突然雨に見舞われ、たまたま居合わせたクラスメイトでウシのハイゼに誘われて彼の家に向かう。彼の家が非常に裕福なことを知って驚くナグモだったが、ハイゼの母親に勧められて風呂に入った際、直前にハイゼが浸かった湯船を見て動揺する。
この世界において、肉食獣が草食獣を食べることは禁忌である。しかし「肉を食べたい」という本能を完全に抑えることは簡単ではなく、肉を売る裏市という場所が存在しており、以前そこで兄が手に入れてきたウシのブイヨンをナグモは飲んだことがあった。それとほぼ同じものが、今目の前にあるのだ。

ナグモが思わず湯船のお湯を飲んでしまったちょうどその時、ハイゼが新しい石鹸を持って浴室にやってくる。自分のダシの出たお湯をナグモが飲んでいることを見ておきながら、ハイゼは何も見なかった風に振る舞う。それは「貧しき友には施す側でいろ」という、ハイゼの家の家訓から来る行動だった。
しかし落ち度が自分にあることを理解しつつも、ナグモには受け入れられない話だった。プール掃除で2匹だけになった際、ナグモは湯舟の湯を「美味しい」と思ったことをハイゼに打ち明ける。それは自分の罪の意識に相応の罰を与えてほしいと、クラスメイトにただ哀れまれるなんて受け入れられないというナグモの無言の訴えだった。

「最低だ」と言い切る一方、仲良くなるきっかけを得られて嬉しいと思ったのも本当だと語るハイゼ。それを聞いたナグモは、「そもそもあの時言うべきだった」と謝罪の言葉を口にしようとするが、それはハイゼに止められる。その謝罪を聞いてしまったら、今度はハイゼが悪者になる。どちらか一方が悪者になるくらいなら、きっと今のままでいるのが一番いい。
ハイゼは「君の代わりに僕が謝る」と、何に対するものなのかは曖昧にしたまま謝罪の言葉を口にする。昨日に続いてびしょ濡れになってしまったことに気付いた二匹は、どこかすっきりした様子で互いに呆れ、プール掃除を再開するのだった。

『BEAST COMPLEX』の登場人物・キャラクター

第1話

ラウル

ライオンの少年。十七歳。百獣の王たるライオンに生まれたことに誇りを持っており、エリートへの道を邁進している。学校では生徒会長を務め、教師たちからの覚えも良い一方、本人も気付いていないが傲慢かつ尊大な自我を内に抱えていた。
アズモとの交流の中で自身のそういった欠点を理解し、少しずつでもこれを直していくことを望むようになる。アズモが唐突に「街を出る」と言い出した際は、戸惑いながらもこれを受け入れ、後事を引き受けた上で彼を送り出す。

YAMAKUZIRA
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@YAMAKUZIRA

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