タクシー運転手 約束は海を越えて(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『タクシー運転手 約束は海を越えて』とは、1980年の光州事件時の実話を基にした、韓国発の社会派映画である。楽観的で明るい性格のマンソプ(ソン・ガンホ)はタクシードライバーをしながら、男手一つで娘を育て奮闘していた。ある日、同僚からの高額なお客の依頼を聞きつけ、生計に困っていた彼は、この機会を逃すまいと同僚からそのお客を奪取した。しかし、そのお客とは、ドイツ人記者、ピーター(トーマス・クレッチマン)であった。この二人の出会いが韓国の運命を大きく変えることとなる。

『タクシー運転手~約束は海を越えて~』の概要

物語の主人公の二人(左からピーター、マンソプ)

『タクシー運転手 約束は海を越えて』は韓国で製作された、実際にあった光州事件を基に描いた映画。韓国国内では動員数が1200万人突破し、興行収入は958億ウォンという大ヒット映画となった。国内の情勢に無関心なマンソプと、韓国情勢を取材し、世界に事実を伝えたいドイツ人記者のピーター。マンソプが国内の真実を知っていけばいくほど、心身共に傷つき、そして、ピーターの使命がどれだけ大切なものなのかも理解していく様も見物である。
監督は、チャン・フン。代表作に 『義兄弟 SECRET REUNION』、『高地戦』、『映画は映画だ』、 があり韓国映画評論家協会賞の新人監督賞や韓国映画評論家協会賞の監督賞など数々の受賞歴を持つ。
また、主人公のマンソプには、話題になった『パラサイト』にも出演した、韓国を代表する実力派俳優ソン・ガンホ。ドイツ人記者のピーターを演じるのは『戦場のピアニスト』、『キングコング』など数々のハリウッド映画にも出演するトーマス・クレッチマンという豪華キャストである。

時は、1980年の韓国。当時の韓国は、軍が政治の中枢を担っている、いわゆる独裁政権であった。戒厳令の夜間外出禁止やメディアの情報操作といった、自由を制限された生活を余儀なくされ、民衆の不満は爆発寸前であった。
そんな中、ソウルでタクシードライバー業を営むマンソプは、愛娘のウンジョンと二人暮らしをしている。マンソプは、日々の生活に追われる生活を送っており、情報統制も相まって国内の情勢など無関心であった。ある日、マンソプは、「ある外国人を光州に連れていくだけで、10万ウォン貰える」という話を聞きつけ、早速現場へ急行した。すると、そこにはドイツ人記者のピーターが居り、彼を言葉巧みに車に乗せ、見事もともとリザーブのあったドライバーからお客を強奪したのであった。光州に入ろうとすると、軍の検問が待ち構えていた。
検問で、軍に立ち入り禁止と言われるが、どうにか方便を使い、検問を突破したのであった。光州に入ると、街は閑散としていた。するとそこに、一台のトラックがやって来て、そのトラックには、学生のデモ隊たちが乗っていた。デモ隊の中には、ジェシクという青年がおり、彼は英語を話せるようであった。なのだと判学生のデモ隊たちは、ピーターが記者だとわかると大喜び。ピーターは彼らについていくので、マンソプにも付いてくるようにと言う。しかし、危険な目に遭うのはご免だとマンソプはその場から逃げるように立ち去った。
ソウルに向け、光州市内で車を走らせている道中、おばあさんに出会った。おばあさんは、「息子がけがをしているので病院に連れて行ってもらえないか」と言う。光州の病院の道中、おばあさんはマンソプに、「軍が無抵抗な民衆にも暴力をふるっており、病院は怪我人だらけ」だという。マンソプは、そんな酷い話があるものかとどこか信じられずにいた。病院に着き、院内は怪我人で溢れていた。更に病院には、ピーターやジェシクも居たのだ。
その場から立ち去ったことをピーターら、更にはその場に偶然居合わせた光州のタクシードライバー等からも責め立てられたマンソプ。渋々、ピーターと通訳としてジェシクの二人を乗せ、光州のデモの中心地へと向かった。中心地に着くと、溢れんばかりの人が居た。ピーターは、光州の人々や、デモを抑えようとする軍人の様子を撮影し始めた。軍人とデモ隊の激しい激突が始まり、辺りは混乱状態に陥った。すると、その撮影を私服軍人に見つかったピーターらは、追跡される。しかし、間一髪のところを逃げ切り、マンソプとピーターは、ソウルへ戻ろうとするが、マンソプのタクシーが故障してしまった。途方に暮れていると、病院でマンソプに怒鳴りつけた光州のタクシードライバーのファンがやって来た。「車の修理には随分と時間がかかる。今日で直すのは厳しいので、ウチに泊っていきなさい。」と言う。
ファンの家で、テレビを見ると、事実とはかけ離れた報道をされていた。ジェシクは、「真実を世界に伝えると約束してください。」とピーターに言い、彼はそれを約束したのであった。一同が、団らんしている最中、突然外から爆発音がした。テレビ局の方面で爆発があったようで、マンソプ達は、テレビ局方面へ向かった。テレビ局に着くと、軍人や軍用車が次々とやって来た。その様子もすかさずピーターは撮影していたが、それもまた私服見つかり、追跡されてしまう。マンソプとピーターは、私服軍人に追い詰められてしまうが、ジェシクが身を挺して二人を逃がした。
マンソプは、身に起こったショックな出来事に、ウンジョンのためには死ぬわけにはいかないと考え、光州を後にしようとする。光州の隣町まで着いて、食堂に入ると、新聞が目に入った。記事にも偽りの情報が。食堂内の人々の話声が聞こえてくる。それもまた、偽りの情報を信じた人達の会話であった。マンソプは、ウンジョンに電話し、「必ず帰るからもう少し待っていなさい」と伝えると、光州に向かい車を走らせた。

『タクシー運転手 約束は海を越えて』のあらすじ・ストーリー

左からファン、マンソプ、ピーター、ジェシク

マンソプとピーターの出会い

マンソプと愛娘ウンジョン

1980年、5月、韓国では独裁政権が続き、戒厳令が行使されていた。自由化を求め、学生中心の民主化運動が各地で勃発。学生と軍の衝突も日常茶飯事であった。
そんな中、ソウルでタクシードライバーで生計を立てているマンソプは、妻を病により亡くし、11歳の娘ウンジョンと暮らしていた。しかし、生活は厳しいものであった。家賃の滞納が続き、大家からも再三催促されている上に、ウンジョンの小さくなった靴も新調できずにもいたほどであった。

ある日、マンソプはタクシー運転手の同僚から「外国人のお客が英語が話せるドライバーを探しており、報酬はかなり弾む」という情報を聞きつける。マンソプは、すぐさまその外国人がいるという現場に急行し、そこに居たのは、ドイツ人記者ピーターであった。彼は、「通行禁止時間までに光州に行きたい、10万ウォン支払う」とのことで、マンソプは、片言の英語でそれを了承し、まんまと同僚から仕事を横取りしたのであった。

所変わり、ドイツ人記者であるピーターは、韓国での国内情勢が悪化し緊迫状態にあるということを東京で知り、すぐにデモの中心である韓国の光州に向かう。韓国へ着いたピーターは、宣教師と偽り、国内での内情を探る。
すると、民主化を進めていた金大中や金泳三が逮捕、軟禁されていた。韓国での情報統制をされていることを知ったピーターは、民主化運動の中心地である南部の都市・光州に向かい世界に韓国の情勢を伝えると決断したのであった。

デモの中心地光州へ

光州入り口での軍の検閲

簡単な英語もできないマンソプは、ピーターと意思疎通できずにいたので、マンソプは、ピーターが何者なのか、何の目的で光州に向かっているのか分からなかったが、弾む報酬に心も弾んでいた。ピーターは、それに呆れていたが、光州に連れて行ってくれるというのは、確かなようなのでその身を任せるしかなかった。
しばらくすると、光州の入り口にたどり着いた。しかし、軍の検問中で通行止めになっていた。マンソプは、諦めてソウルに引き返そうとするが、ピーターに、「光州に行かなければ代金は支払わない」と言われる。どうしても10万ウォン手に入れたいマンソプは、検問をどうにかかいくぐることに成功し、見事二人は光州入りしたのであった。

光州に着くと町は閑散としており、どうも街として機能していないような感じであった。街には軍に抗議する横断幕などがそこかしこにあった。マンソプは、街の異様な様子に驚くばかりであった。それもそのはず、マンソプはその日の暮らしもままならず、それどころではなかったために国内の様子には無頓着であったからである。
そして、ピーターは、光州入りと同時にカメラを回し始めた。しばらくすると、トラックに乗った学生のデモ隊が現れた。ピーターは、タクシーを停めるように伝えると、タクシーから降り、取材を試みようとトラックに乗る学生達に近づいて行った。

ジェシクとの出会い

ピーターや光州のタクシードライバーに責め立てられるマンソプ

トラックに乗っているデモ隊の学生の中に、英語を話せる青年のジェシクがいた。ピーターが、ドイツから来た記者だと知ると、彼らは大喜びし、喜んで取材を受けるという。ピーターは、彼らのトラックに乗り込み、同行した。マンソプは、そこでピーターが記者だという事が判った。学生たちのトラックに、マンソプも随行するように促されたが、危険を伴うことを避けたいので、ソウルに戻ると言い、逃げるようにその場から立ち去った。

ソウルに戻るため、車を走らせていると、困っている様子のおばあさんを見かける。見かねたマンソプが、声をかけるとどうやら息子を探しているらしく、その息子は病院にいるのだという。マンソプは、どうにも放っておけず、おばあさんを病人連れていく道中で、おばあさんは、「軍が、暴行を行い怪我人が大勢いる。息子もその一人かもしれない」という。マンソプは、その話が信じられずにいた。しかし、病院には、大勢の怪我人が居り、マンソプは驚愕する。また、そこには、先ほどのデモ隊の学生らジェシクとピーターが居た。ジェシクからは、ソウルへ逃げ帰ろうとしたことを咎められた。更に、事情を知ったその場にいた光州のタクシードライバーからも責められ、マンソプは後に引けない状況になってしまった。マンソプは、再びタクシーにピーターを乗せ、今度はジェシクも乗せ、デモの集会があるという光州の市街地へ向かった。

集会場所に着くと、マンソプ達は、高いビルの屋上へ行き、ピーターがカメラを回し街の様子を撮影していた。

ファンとの再会

デモ隊と軍の激突

撮影をしていると、軍人が民衆に暴行しており、そこから大きな激突になった。道を埋め尽くすほどのデモ隊と軍人。催涙ガスなども撒かれ、混乱した状況の中でも、ピーターは、撮影を止めなかった。しかし、その様子を私服軍人に目撃され、追いかけられてしまうが、間一髪のところで追跡から逃れたマンソプとピーター。ジェシクとも合流。すると彼はピーターに、「この韓国の現状を必ず世界に知らせてくれ」と言う。ピーターは、それを約束し、ソウルに戻ろうとするが、マンソプのタクシーが故障をしてしまった。

そこへ偶然通りかかった光州のドライバーのファンに助けてもらう。なんとファンは、病院にてマンソプに怒ったタクシードライバーの一人であった。ファンは仲間たちと共にマンソプのタクシーの修理を試みる。しかし、修理は可能ではあるが、その日のうちにはソウルに戻ることは叶わないという。
行き場を無くしたマンソプ一行をファンは自宅に招き入れ、マンソプ達は一晩お世話になることになった。光州では、戒厳令のために電話をかけることが出来なかった。マンソプは、娘に一報も入れられない不安と心配と不安が募り、ピーターに怒りをぶつけてしまった。二人は少し気まずくなるが、ファン一家やジェシク達と一晩過ごすうちに二人の間の緊張は解けていった。団らんの最中、テレビを見ているとメディアは、事実とはかけ離れた報道をしていた。その報道に憤りを隠せないファン。ピーターは、その様子を察すると、ファンにも正しい事実を世界に伝えることを約束する。マンソプも、ピーターの覚悟と決意を受け、ソウルまで無事帰ろうと約束したのであった。

しばらくすると、突如外から爆音が聞こえてきた。

約束

軍人に囚われるジェシク

驚いた一行が窓の外を見ると、どうやらテレビ局のほうから火があがっているようであった。すると、ファンの同僚ドライバーたちがやって来て、「テレビ局前にみんなが集まっている」という。マンソプ達も、すぐさまテレビ局前にかけつけてみると、テレビ局が燃え上がっていた。そして、次々と軍人とその車両がやってきて、たちまち、道路を埋め尽くした。ピーターは、その一連の様子もカメラを回し、捉えていた。

すると、その様子を見ていた私服軍人に発見され、マンソプ、ピーター、ジェシクは、必死に逃げる。マンソプは、私服軍人に捕まってしまい、”国の反逆者”として酷い暴行を受けるが、ジェシクに助けられる。だがその代わりにジェシクが私服軍人によって囚われてしまった。私服軍人は、ジェシクが酷い目に遭わされたくなければ、ピーターのカメラを寄越せと脅してきた。しかし、ジェシクは、「自分はどうなっても構わない。そのカメラは絶対に渡さないで。世界に真実を伝えると約束してくれないか。」とピーターに言う。ピーターは、それを再度約束し、ジェシクの機転により、隙を見計らい二人は逃げ延び、ファンの家に戻った。

別れ

凄惨な出来事に思わず家族への想いを吐露する

「娘には自分しかいない。」マンソプは、ピーターに通じないとは判りつつも、韓国語でぽつりぽつりと自身のことを語りだす。
かつて、サウジアラビアで稼いだお金は、妻の勧めでタクシーを購入した。しかし、その妻が病気になり、治療費もまともに払えなかったこと。ついには、妻を病で失い、父子で生きていくと決めたこと。マンソプは、涙を流し、そう言った。ピーターは、言葉は判らずともその心情を察し、自分のせいでマンソプをこれ以上危険な目に遭わせられないと悟った。

翌朝、マンソプはファンの家からそっと出た。ピーターは、それに気づいていながらも、マンソプを引き留めるようなことをしなかった。ソウルに帰ることを決意し、車に向かうと、ファンが足早にやって来た。ファンは、「ソウルナンバーで帰るのは危険だ」といい、マンソプに光州のナンバープレートと抜け道の記載があるファンの手書きの地図を渡した。そして、ピーターからだというタクシー代金も渡したのであった。マンソプは、罪悪感もあり、そのタクシー代を受け取れないとしていたが、ファンに説得されようやく受け取った。様々な思いを抱えながら、マンソプは、光州をあとにした。

別の世界

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