吾峠呼世晴短編集とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

依頼を受けて人を自殺に見せかけて殺す呪いをかけていた「呪殺屋」の男。依頼料は1人につき10万円。

「首を吊って死ね」など、呪いの力をこめて命令する「言霊」の能力を持っており、本人の意思とは無関係に行動を操ることができる。これにより、振袖の女性を殺そうとするが、間一髪でじぐざぐが駆け付けた。じぐざぐの攻撃で呪いの力を奪われ、ぼこぼこにされた。角丸の死にも関わっているのかは不明。

振袖の女性

結婚式に出席していた帰りの女性。振袖を着たことを後悔していた。

飼い犬のポンすけに水をあげたかどうかが曖昧であったため（ポンすけには水をあげていた）、心配で急いで家に帰ろうとしていたところを呪殺屋の男に襲われ、行動を操作されて自殺をしそうになる。しかし、間一髪でじぐざぐに助けられる。

朝にベランダで布団を叩く日課がある他、自宅での足音がうるさいらしく、彼女の下の部屋に住む男に殺害を依頼されていた。しかし、実際に自分を殺す依頼をした男と対面しても平然と話すなど図太い神経を持っている様子。

花婆やん（はなばあやん）

じぐざぐの知り合いの老婆。じぐざぐにお花をあげたりしており、仲が良い様子。

身寄りがおらず、同じアパート内の老人・角丸と「どっちかが死んだら残った方が弔う」という約束をしており、角丸が死んだため葬式を行った。角丸が呪い殺されたと聞いて、その呪った人に罰を与えてほしいと冗談めいた感じでじぐざぐに依頼する。

角丸（かどまる）

花婆やんと同じアパートに住んでいた老人。死因は首吊り自殺だが、亡くなった妻のぶんも精一杯生きると常々言っていたため、花婆やんはその自殺を不審に思っていた。じぐざぐは彼の遺体に残った呪いの痕跡から事件を追う。

女性殺害の依頼主

振袖の女性の下の部屋に住む男。呪殺屋の男に、女性の殺害を依頼した。

理由は、女性の布団を叩く音や足音などの騒音からくるストレスで病気になったため。じぐざぐに依頼したことがバレた際、最初はしらばっくれていたが、高いところから落とされそうになる尋問を受けて白状する。

蝿庭のジグザグのあらすじ・ストーリー

「はい でも人に頼む前に自分の力で精一杯頑張ってください これ物事の基本やないですかね」

花の世話をしながら携帯電話で誰かと話している青年・じぐざぐ。電話の相手はじぐざぐに何かを依頼していたようだが、じぐざぐの態度に腹を立てている。自分のことは自分でしてほしいと言うじぐざぐに、依頼主は「じゃあ病気になっても病院行かないのかお前は」と怒るが、じぐざぐは「当然潔く死にます 自分の力でどうにもならんから言うて人に頼るなんて死んだ方がマシや」は取り合わない。しかし、それに対して依頼主が「ハハハ！病院が怖いんだろ！ビビッてんだな！！」と言うと、じぐざぐは「ビビッてへんわ！！」と簡単に挑発に乗った。

全国で年間2万件ほど発生している首吊り自殺。単純計算で、1つの県につき1ヶ月で35件ほど首吊り自殺が起きていることになるが、某市では1ヶ月のうちに21件も首吊り自殺が発生していた。この異常な事態の真相を探るよう、じぐざぐに依頼が来たのであった。

依頼主との電話の中で、その「不審な首吊り自殺の遺体」について聞くじぐざぐ。しかし、依頼主はもうその遺体は火葬されてしまったと言う。「いくら俺でも何の痕跡もなく犯人捜すんは無理やで 『自分のことは自分で』って…当てはまらんやろソレ うまく言い返したとか違うから」と返すじぐざぐだったが、依頼主は相当イライラきていたのか罵声を浴びせて電話を切ってしまう。苛立つじぐざぐに、背後から声をかける者がいた。「花婆やん」とじぐざぐが呼んだその女性は、小柄で控えめな雰囲気の老婆であった。たくさんの荷物を持っている花婆やんに労いの言葉をかけるじぐざぐであったが、荷物を持ってあげることはせず、「しっかり手足使わんと年寄りはすぐ体が動かんようになってまうよ 人に甘えんで頑張りなさい」とご老人に対してもブレない姿勢を示した。

花婆やんはそれに優しい笑顔ではいはいと応えつつ、「最近、花壇を荒らしていた子供たちが白髪の男に鬼の形相で追いかけ回されたらしい」と世間話を振る。その白髪の男が自分のことだと気が付いていないじぐざぐは「俺がパトロールして子供たちを守るしかあらへんねぇ」と首吊り自殺の依頼の調査に向かおうとするが、花婆やんがそれを引き留める。じぐざぐが欲しがっていた花旗竿（はなはたざお）の種が届いたとのこと。瞬間、じぐざぐは手のひらを返して「うちまで送るわ花婆」と満面の笑顔で荷物を持ってあげ、おんぶして家まで送ったのだった。

花婆やんの住むアパートに着いたじぐざぐであったが、自分の部屋とは違う部屋に入ろうとする花婆やんに「ボケんといて 切ないわ」と声をかけるが、花婆やんはこの部屋に用があったのだ。この部屋に住んでいるのは、角丸という老人。正確には「住んでいた」であり、突然首吊り自殺をしてしまったために花婆やんが弔いにきたのであった。曰く、お互い身寄りがいなかった花婆やんと角丸は、先に死んだ方の葬式を残った方がやると約束していたとのこと。しかし、花婆やんは角丸が自殺をするとは思えないと話す。

「これ呪いかもしれんで」とつぶやくじぐざぐ。期せずして、追っていた不審な首吊り自殺の遺体に対面することができたのだった。その言葉にしばし黙った花婆やんは、「じゃあ 角丸さんを呪った人に罰を与えてちょうだいな」と冗談めいた口調で話すが、それを「依頼」と受け取ったじぐざぐは「ええよ 特別に半額で依頼受けたるわ」と返す。

それでどうするのか、と話半分で聞き返す花婆やんに、「まずは吸い取り種を植える」と説明しながら角丸の遺体に植物の種のようなものを植えるじぐざぐ。すると種はみるみるうちに成長し、小さな木になった。吸い取り種は「呪力」という力を吸って成長するものであり、これが成長するということは、角丸の死には何かしら呪いの力が関わっていることを表していた。吸い取り種の木からはいくつかの「辿り種」という種が生まれ、その辿り種を握りしめると1つの大きな種になった。その種から芽がみるみるうちに伸びてきて、口のような形をした花を咲かせる。この花が呪いの主のところまで案内してくれると説明したじぐざぐは、「じゃあちょっとどつきに行ってくるわ」という言葉を残して窓から出ていった。

「あっちあっち」と、呪いの主の居場所を声に出して教える辿り種の花。じぐざぐはそれを聞きつつ、手のひらに力を込める。手のひらには「槌」という文字が浮かび上がり、そこからぐねぐねと持ち手がうねった木製の大槌（ハンマー）が現れた。その大槌を手に、じぐざぐは人間離れした跳躍力で屋根を飛び移っていく。

一方、ある通りでは振袖姿の女性がはぁはぁと息を切らして走っていた。女性は結婚式に出席した帰りで、飼い犬に水をちゃんとあげたかが心配で急いでいたところだった。あわてて曲がり角を曲がった女性は、男にぶつかってしまう。謝る女性に対して、男は「首を吊って死ね」と囁いた。男からバッと距離をとった女性は「へっ…変質者…？」とつぶやきながら慌ててその場を離れる。残された男は「訂正してほしいな 僕は変質者じゃなくて 殺人者だ」とつぶやいた。

慌てて逃げてきた女性は、男が追ってこないことにホッとしていた。早く家に帰って飼い犬のポンすけに水をあげないと、早く家に…そう考えていたはずの女性は、気が付いたらホームセンターで縄を買い、ビルの屋上へと上っていた。自分の行動に驚く女性であったが、本人の意識とは無関係に手は動いて縄を手すりに結び、輪っか状にした縄を首にかけ、手すりに座ってしまう。見るからに、これから首吊り自殺をする人間の行動であった。