無限の住人(漫画・アニメ・映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『無限の住人』とは、講談社・『月刊アフタヌーン』において1993年6月から2012年12月まで連載された沙村広明による漫画作品である。コミックスは全30巻が発売されており、新装版は全15巻となっている。アニメ化もされており、2017年には木村拓哉主演で実写映画化もされている。
江戸時代を舞台に、両親を殺された少女・浅野凛と、仇討ちのために雇われた不死身の肉体を持つ用心棒・万次は、その仇討ちの相手である剣士集団逸刀流・天津影久を追う中で、幕府を巻き込んだ戦いに身を投じていく。

『無限の住人』の概要

『無限の住人』とは、青年漫画雑誌・『月刊アフタヌーン』(講談社)において1993年6月から2012年12月まで連載された、作者・沙村広明によるアクション時代劇作品である。作品の元となっているのは、1993年にアフタヌーン誌上で行われた漫画賞・四季賞において大賞を受賞した読み切り作品となっている。
江戸時代を舞台に、両親を殺された少女・浅野凛と、仇討ちのために雇われた不死身の肉体を持つ用心棒・万次は、その仇討ちの相手である剣士集団逸刀流・天津影久を追う中で、幕府を巻き込んだ戦いに身を投じていく。
主人公は浅野凛と用心棒の万次であるが、凛の両親の仇である逸刀流の二代目統主・天津影久も主人公の一人と言える。江戸時代が舞台になっており、登場人物は奇抜な出で立ちの者が多く、使用される武器も特殊な物が多数登場する。体をバラバラにされるなどグロテスクな描写が多く、時代劇でありながら斬新な設定・ストーリーであることから、「ネオ時代劇」と称されることが多い。
鉛筆で濃淡を表現する独特のタッチと高度な描写力を基に描かれる時代劇は高い評価を受け、1997年には第1回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を、2000年には英語版がアメリカで最も権威ある漫画賞のひとつであるアイズナー賞の最優秀国際作品部門を受賞している。
2008年、アニメ専門チャンネル・アニメシアターXにおいてアニメ化された。2019年には『無限の住人ーIMMORTALー』というタイトルでWEBアニメ化もされている。Amazonプライムビデオで配信され、その後TOKYO MX、毎日放送でも放送された。
2017年4月には『岸和田少年愚連隊』の他、『クローズ』や『ヤッターマン』など漫画原作の映画化も数多く手掛ける三池崇史監督により実写映画化された。主演には木村拓哉を万次役で迎え、凛役には杉咲花、天津役に福士蒼汰、尸良役に市原隼人、乙橘槇絵役に戸田恵梨香など、豪華な顔ぶれで話題となった。北米をはじめ、イギリス、オーストラリア、ドイツでも公開され、第70回カンヌ国際映画祭ではアウト・オブ・コンペティション部門に選出された。
月刊アフタヌーン2019年7月号より、スピンオフ作品として『無限の住人~幕末ノ章~』が連載されている。原作は『テルミー』『超人間・岩村』で知られるライトノベル作家・滝川廉治、作画は2018年アフタヌーン四季賞において『百大兵器譜』で四季賞を受賞した陶延リュウ、沙村広明が協力で参加している。

『無限の住人』のあらすじ・ストーリー

凛と万次の出会い

時は江戸時代、「国中の剣という剣を滅ぼし、あらゆる流派の垣根を取り払う」という理想を掲げ、強さのみを至上とした剣士集団・逸刀流は、近隣・遠方の道場へ押し入り「服従か死か」の二択を迫っていた。2代目統主・天津影久(あのつかげひさ)は、祖父であり初代統主・天津三郎(あのつさぶろう)が過去に破門になり逸刀流を興すきっかけとなった無天一流・浅野道場を逸刀流剣士を引き連れて襲撃した。
父と母を目の前で逸刀流に殺された浅野道場の1人娘・浅野凛(あさのりん)は、道場襲撃から2年後、両親の仇である逸刀流統主・天津影久を討つことを父の墓前で誓う。そこで出会った800年生きているという老尼僧・八百比丘尼(やおびくに)に用心棒を雇うよう勧められる。

凛は八百比丘尼に用心棒を雇うよう勧められる

凛が用心棒として勧められた男・万次(まんじ)は、2年前、上司の旗本の不正に知らずに加担していたことを知り、その旗本を斬ったことでお尋ね者となり、追っ手百人を斬ったことから「百人斬り」の異名が付けられた剣士だった。チベットで生み出されたという究極の延命術・血仙蟲を八百比丘尼によって体に埋め込まれ、八百比丘尼と同様に不死の肉体を持つ万次は、妹の町の死をきっかけに「悪党1000人を斬る」ことを使命としていた。用心棒にと懇願する凛が町の顔と重なり、万次は用心棒を引き受けるのだった。

逸刀流剣士たちとの戦い

月夜の河原で歌を詠む黒衣鯖人(くろいさばと)のもとに、2年間に渡り黒衣から送られ続けた恋文を持った凛が現れる。凛の父親に実際に手を下したのはこの黒衣であり、凛が1番許せない相手である。しかし黒衣は2年前に凛に一目惚れしており、究極の愛とは死であるという持論から凛を殺し自分も後を追うことを提案する。万次は黒衣を斬ろうとするが、一瞬早く黒衣に足を分断され倒れてしまう。黒衣に詰め寄られた凛は、鍔のない短刀である匕首(あいくち)を指の間に挟み一斉に放つ技「殺陣黄金蟲」で黒衣の素顔と肩にあった謎のこぶを露わにした。黒衣の肩を見た凛と万次は驚愕する。その両肩には2人の女性の頭部のはく製が縫い付けられていたのだ。片方は黒衣の昔の妻で、もう片方は2年前のあの夜から行方知れずだった凛の母親の顔であった。凛は激昂し再び「殺陣黄金蟲」を繰り出すが、すべてかわされ黒衣に追い詰められてしまう。自分が死ねば黒衣も後を追って死ぬことを黒衣に説き伏せられた凛は絶望から自害しそうになるが、万次が後ろから黒衣を斬ったことで事なきを得る。

凛と万次は凛の父親・浅野虎厳(あさのたかよし)の幼少の頃からの知り合いである町絵師・宗理(そうり)のもとを訪れ、両親の仇討ちに加わってほしいと依頼する。宗理は西洋の絵画や銅版画を入手するために幕府の隠密になった男であり、父以上の剣術の持ち主であると父親から聞いていた凛は、宗理が万次とともに用心棒になってくれれば仇討ちも不可能ではないと考えたのだった。
宗理は一旦断るが、凛を狙って宗理邸を襲撃してきた逸刀流の剣士達の血の色が求めていた赤色だということが分かると、凛から逸刀流の剣士の死体すべてを30両で買い取り、凛たちへの資金援助とした。2~3年は野宿をしないで済む金額であった。

凛は万次の刀を研ぎ屋に持って行った時、かつて浅野道場に宝刀として祀られていた唐物の刀・クトネシリカがあることに気付く。その刀は2年前浅野道場に逸刀流がやってきた際に奪われ、現在は逸刀流剣士・凶戴斗(まがつたいと)の持ち物になっていた。

研ぎ屋でクトネシリカを見つけた凛(2コマ目)は凶戴斗(1コマ目)に遭遇する

凛は意を決して30両で譲ってほしいと凶に頼むが、凶に浅野道場の1人娘の居場所を教えれば考えると言われ諦める。その話を聞いた万次は、夜になると凛が聞いていた凶の居場所に1人で向かった。凶と対峙した万次は、凶の地の利を活かした戦術に苦戦を強いられ負けたかと思われたが、万次の不死の肉体を知らず背中を見せた凶は腹を貫かれ倒れる。凶はクトネシリカを置いて体を引きずりながら去っていき、万次は凛の部屋の前にクトネシリカを置くのだった。

凛と万次は天津影久を探す道中立ち寄った茶屋で、僧の格好をした逸刀流剣士・閑馬永空(しずまえいくう)に出会う。凶から万次の不死の肉体のことを聞いていた閑馬は、天津を消し、手を組んで逸刀流を乗っ取ろうと万次に持ち掛ける。自分以上に閑馬の体から漂う血の匂いに異常を感じた万次が提案を断ると、閑馬は匕首で万次を斬りつけた。同時に万次は閑馬の急所を貫き、閑馬は死んだと思われた。しかし閑馬は立ち上がり、自分も八百比丘尼に「血仙蟲」を埋め込まれ200年以上生きていると告げる。
その夜、万次はこれまでに負った傷口が次々開きもがき苦しんでいた。閑馬が万次を斬った刀には「血仙殺」という毒が塗られており、「血仙蟲」を体内に持つ者のあらゆる古傷が開くという効果があった。凛は母から教わって作った毒消しを万次に渡すと、医者を探しに行くが、閑馬に騙され捕らわれてしまう。凛の毒消しが辛うじて効き動けるようになった万次が駆け付け、閑馬の体を回復できないようにバラバラにすることで閑馬を倒すことに成功した。閑馬は天津影久が半月後に加賀へ発つことを凛に告げ、息を引き取った。

飯屋で小銭が無くなり両替に行く凛に飯屋の前で待たされた万次は、1人の夜鷹(江戸時代の娼婦)に出会う。女は夜鷹を装い、万次を殺すよう天津影久から依頼された剣士・乙橘槇絵(おとのたちばなまきえ)であった。槇絵は気の迷いから実力を出せず万次に1度は敗れるが、実は天津が「この世で私を倒すことのできる唯一の剣人」と言わしめるほどの剣の才能の持ち主であり、遊女をしていたが天津に身受けされていた。剣の才能がありながら人を斬ることを恐れ人並みの幸せを望むも、天津が求めるものは剣士としての自分であることを思い知り、天津のために万次を斬ることを決心した槇絵は本来の実力で万次を圧倒する。

圧倒的な強さを見せる槇絵

万次を終始圧倒し、止めを刺そうとした時、凛が間に入り万次を庇い、槇絵は凛に私怨のために人を斬ることの是非を問う。凛は「人を殺すのが正しいなんて思わない。大義名分を振りかざして残虐になるくらいなら、肉親のために手を汚すほうがよほど人間らしい」と答えると槇絵は万次に止めを刺さずに去り、天津の前からも去るのだった。

凛は万次と最初に出会った納屋で剣の稽古を付けてもらうことになった。休憩中、納屋の近くで偶然天津影久と遭遇する。あっさり天津に囚われてしまうが、天津は凛の父親を斬った理由と逸刀流の所以を話すと凛を解放した。凛は天津を殺そうとしている自分をなぜ殺さないのかと問うと、天津は「お前の目は父親と違う方向を見ている。その技(殺陣黄金蟲)は無天一流の教則では邪道で、それを編み出したお前はもう無天一流の人間ではない。半ば以上我々と同類の剣士なのだ」と言い去って行った。凛はその言葉に戸惑い、背中を見せた天津を攻撃することもできず、ただ泣くだけであった。

天津影久に出会って以来思い悩んでいた凛だったが、万次と縁日に出かけ気分転換をする。凛と別行動をとっていた万次は、独特な絵柄の面を売る男・川上新夜(かわかみあらや)に出会う。新夜は2年前浅野道場を襲った逸刀流剣士の1人であり、凛の母親を辱めた男であった。万次と新夜は一触即発であったが、新夜の息子・練造(れんぞう)が止めに入る。

万次は川上新夜と対峙するが、練造が止めに入った

新夜は練造の前では逸刀流だということや過去のことは隠しているため、万次とは戦わず練造と一緒に行ってしまう。この時凛は新夜を見つけ、心をかき乱していた。
翌日、凛は刀を持たずに新夜を探しに縁日が行われていた境内に行く。そこで侍の鼻緒を切って斬られそうになった練造を助けたことで、練造は凛をお礼に客人として家に招待し、新夜は凛が浅野道場の娘だとは知らずに息子の命の恩人として歓迎する。
新夜と2人きりになった凛は、平静に2年前の浅野道場での惨劇を話し、新夜は凛が浅野道場の娘であることに気付いた。凛は練造のことを考え新夜を殺しに来たわけではなく、手をついて謝ってほしいと言うが、新夜はそれを拒否し、練造に自分が逸刀流であることを知られるのを恐れ凛を殺そうとする。しかし、窓から侵入してきた万次によって阻止される。
新夜は万次の刀を次々奪い、最後の刀を奪い止めを刺そうとした時、万次は窓から侵入した時に使った刀で新夜の体を貫いた。万次が新夜に懇願され止めを刺した瞬間を練造に見られてしまい、万次は嘘を言って練造に自分を殺すよう仕向けた。練造は混乱しながらも燭台で万次を突き刺し、万次は練造にとっての仇である自分が死んだように見せかけたのだった。

加賀編

凶戴斗は逸刀流の総本山である向島の天邦道場へ向かう途中、駕籠(かご)屋の2人組に襲われる。凶が返り討ちにした際、駕籠屋は雇い主を「アカギ」と言い残した。
その頃天邦道場では、幕府の新番頭(警備の責任者)である吐鉤群(はばきかぎむら)が天津影久と面会していた。吐は幕府の講剣所を創設するにあたって、逸刀流の剣士数名を師範代として迎え入れることを申し出る。これは半ば強制で、吐にこれまでの逸刀流の他流派への狼藉を咎めなかった意味を考えろと忠告された天津は、この申し入れを受け入れる。そして天津は数日後に加賀へ赴くため留守中は代理人が対応すると伝え、吐は天邦道場を後にした。
同時に天邦道場に着いた凶は、天津からひと月後に逸刀流が幕府お抱えの一門になることを聞く。幼い頃参勤交代の侍に妹を殺された為、幕府と侍に憎しみを持つ凶は、幕府側には付けないと逸刀流を抜けると宣言する。それを受け入れた天津は、凶が寝泊まりしていた逸刀流昵懇の廓「雪待」の部屋は好きに使って良いと言うが、凶は妹のように親しくしていた雪待の遊女・恋(れん)にも別れを告げ、雪待の部屋から荷物をまとめて出て行った。
凶が出て行った直後、恋は客としてやってきた男に斬殺される。男は「無骸流」の剣士・尸良(しら)という男で、同じ頃、天邦道場に統主代行として呼ばれていた逸刀流剣士2人も無骸流の百琳(ひゃくりん)と真理路(しんりじ)、偽一(ぎいち)によって殺されていた。
一方、凛と万次のねぐらでは、天津を殺そうと覚悟を決めた凛のために万次は稽古を付けていた。そこに無骸流の尸良が現れる。尸良は無骸流が逸刀流を狙っていること、ここ数日で逸刀流剣士を数名殺しているため天津が加賀へ出る時には用心され人出が必要になると言い、手を組むことを提案する。凛と万次は詳しい話を聞きに無骸流のねぐらに向かうことにした。

凛と万次は、尸良に連れられやってきた無骸流のねぐらの湯屋で、百琳、真理路、偽一に会う。逸刀流に内通者として潜入している無骸流の真琴(まこと)から得た情報には、天津が通行手形を3枚申請し、女物の着物を購入し、さらに加賀へ赴く目的はとある道場を併合するためだと書かれていた。万次は最近できたばかりのゴロツキによる流派が湯屋を1軒借り上げ、上等な酒を振舞うことに、大きな組織の後ろ盾を察するが、百琳はそれを明かさなかった。凛と万次は無骸流と組み、加賀へ続く甲州道と他2街道で3手に分かれて天津を狙うことにした。

真琴の情報から、天津が女装をして小仏の関所まで行くと考えた凛と万次、尸良の3人は、内藤新宿の宿から街道を見張っていた。

万次(2コマ目)と凛(3コマ目)と尸良(4コマ目)は、天津が女装をしていると予想し、街道を見張ることにした

街道で浪士同士の喧嘩が始まり、1人が自分が天津影久であると名乗り周りは騒然とする。その騒ぎに目もくれず立ち去る女に目を付けた尸良は、女の荷物が天津の武器の形に似ているという凛の証言から、この女の後を追うことにした。

女は天津ではなく雪待の女郎であり、女郎の役目は、逸刀流剣士が来るまでのおとりであった。女が天津ではなく、他の二街道にいる百琳と偽一に手柄を持っていかれると思い激昂した尸良は、やってきた逸刀流剣士2人の手足を切り落とし嬲り殺し始めた。その尸良の異常性に呆然とする凛は、最後に女郎の足を切断し辱めようとした尸良を止めに入る。尸良が凛に刀を向けた瞬間、駆け付けた万次によって右手を腕ごと切り落とされてしまう。右手を切断され混乱した尸良は、通行人がやって来たのを見計らい万次を睨みつけ逃げて行った。凛は女郎が助かることを願い万次と共にその場から去った。
同じ頃、他の2街道にも天津は現れなかったが、偽一は天津役の女郎から天津の行き先が心形唐流・伊羽指南所であることを突き止めていた。

無骸流との作戦が失敗し、万次はお尋ね者で関所を通れないため、凛はひとりで天津を追って加賀へ行く決心をする。ひとり宿を出たところで会った偽一は、凛の様子にすべてを悟り、天津の加賀での行き先を凛に教えた。凛は偽一の背中に一礼して小仏の関所へ向かった。
関所を目指していた凛は、道行く人々が自分の顔をジロジロ見ていることに気付く。立て札にお尋ね者として凛と万次の姿が描かれているのを見つけた凛は驚愕する。必死の思いで先日まで泊っていた内藤新宿の宿の飯盛り女に匿ってもらい、凛は以前この飯盛り女から聞いていた「1つ間違えば命はないが、どんな人間でも関所を通れる方法」を試したいと申し入れる。

万次は凛がひとりで天津を追って加賀へ行く気だと確信し、百琳に天津の行き先を問い詰める。百琳は天津の行き先こそ教えなかったが、以前、強くなりたいと考えていた凛に「男に守られてて強くなれるわけない」と言ってしまったことが1人で行ってしまった一因であると考え百琳は責任を感じ、万次に通行手形を逸刀流剣士から奪えるようお膳立てする。剣士を1人加賀へ寄こすよう書かれた書簡を真琴が天津からの物だと偽造し、その剣士から通行手形を奪うという計画だったが、書簡を疑った逸刀流統主代行・阿葉山宗介(あばやまそうすけ)が1人ではなく3人の剣士を送ったことにより、万次は苦戦を強いられる。万次は手を切り落とされながらも逸刀流2人を倒すが、最後の1人である火瓦(ひが)に両足を切断され倒れてしまう。しかし駆け付けた百琳と真理路によって九死に一生を得る。そこに町絵師の宗理が偶然通りがかり、百琳の懇願により万次の付き添いを買って出た。

その頃凛は、飯盛り女から聞いた上長房村に来ていた。宿屋を訪ねた凛は、久しぶりの客だと思い込み喜ぶ宿の主人・中屋(なかや)夫妻に自分を養女にして欲しいと頼む。
小仏の関所には上長房村の村人が下番役に何人かついており、上長房村の人間に限っては関を通るのに手形の一切が不要であり、その縁者・養子まで同じ待遇を受けれることから、関を通りたい罪人を縁者と偽って金をとり手引きをする村人がいるという話を飯盛り女から聞いていた凛は、この村にやって来たのである。
中屋は最後に手引きした凛と同じ年頃の廓抜けをしてきた女郎が失敗して打ち首になって以来、この手引きの商売はやめたと言い断るが、凛の覚悟に負け、引き受けることにした。
凛は中屋夫妻の妻の妹・佐和(さわ)になりすまし関所を通ろうとするが、立て札の娘に思うところがあった奉行に引き留められ詰問を受けることになる。奉行は凛に敢えて間違った佐和の身辺を問うが、佐和の家庭まわりを一晩ですべて暗記していた凛は引っかかることなく答えていく。最後に奉行は佐和の体にあるはずの帝王切開の跡を確認するため、改め婆を呼ぶよう指示するが、凛は奉行の前で腹を晒し腹の傷を帝王切開の跡であると言い切った。これにより奉行は凛を佐和と認め、凛は関を通ることができた。
凛の腹の傷は昨夜、中屋夫妻の妻・佐登(さと)がもしもの時のために付けたものだった。関を抜けてから食べるようにと佐登に持たされた包みを開けると、中屋に渡したはずの21両の半分が入っていた。

万次は宗理の家で養生していた。そこで実は宗理と知り合いだった百琳と無骸流の正体を聞く。無骸流とは幕府に命綱を握られた死罪人の集まりで、百琳は宗理の朋友であった夫を殺したことで無骸流に入ったという。そして交通手形は宗理が用意できると知り、今までの戦いは何だったのかと脱力する万次であった。
数日前に宗理と知り合ったという凶戴斗と宗理邸で遭遇する。凶は逸刀流を抜けた後、恋を殺した尸良を探しており、ひょんなことから出会った宗理に雪待の女郎が憶えていた尸良の着物の柄が描かれた紙を見せると、知っている雰囲気だったため、宗理に雇われ家にやって来たところで万次と遭遇した。万次は凶の仇相手が尸良だと分かると、一緒に加賀へ行くことを提案する。凛に一刻も早く追いつくため時間が惜しい万次は、尸良が右手を奪った万次に加賀への道中で復讐してくることを予想し、凶に尸良の相手をしてもらう作戦だった。

尸良は逸刀流に無骸流のアジトの湯屋を教え、見返りに通行手形を入手していた。
湯屋は百琳が殺し損ねた逸刀流剣士を含む数人によって襲撃され真理路は殺されてしまう。百琳は無骸流の雇い主を吐かせるため拉致され、深川の人気のない場所にある小屋で拷問を受けていた。腕を折られるなどの拷問を受けながらも、百琳は真理路と出会った頃のことを思い出し何とか堪えていた。そこに真理路の遺体が指し示していた方向で深川に百琳が拉致されたと予想しやってきた偽一が現れ、逸刀流剣士を次々と斬り殺し百琳を救出した。

宗理に手形を用意してもらった万次は、凶と共に加賀へやって来た。そこへ予想通り尸良が現れる。尸良は自分の右手の肉を削ぎ、骨を削り武器としていた。その想像を絶する過程で尸良の髪は白くなっていた。尸良と戦うと見せかけ林の中へ尸良を誘導した万次は、その環境での戦いが得意な凶に尸良の相手を任せた。
凶は尸良を相手に苦戦し重傷を負いながらも、尸良を滝つぼに落とし、岩にしがみついていた尸良の左手を切り落として勝利した。その間万次は尸良が雇っていた足止め役の男たちから、尸良が男たちに払っていた金を奪い、凶の治療費と自分の駕籠代に充てた。

一方、天津は加賀の心形唐流・伊羽指南所に到着し、2代目師範・伊羽研水(いばねけんすい)に謁見していた。研水は、天津が逸刀流で掲げている思想が研水の師で先代・伊羽軒秋(いばねけんしゅう)の思想と通じるものがあるとして、心形唐流を逸刀流傘下へ組み入れることを申し入れていた。研水はその条件として、軒秋の孫娘で研水の養女である密花(ひそか)を妻として迎え入れることを天津に提示した。
江戸では吐鉤群が逸刀流を幕府に迎え入れるにあたって酒宴を計画しており、それを伝えに来た馬絽(ばろ)に天津は10日後には江戸に戻ることを阿葉山に伝えるよう頼み、その道中で飛騨のどこかにいるはずの乙橘槇絵を探してほしいと頼む。
天津は心形唐流を組み入れることに合意し、密花を妻にすることを決心した。江戸に一旦戻る前夜、天津と密花は祝言を挙げるが、その最中公儀の使いが伊羽指南所を訪れ研水に逸刀流と手を切り天津の首を奪えという幕命を伝える。密花の命を暗に脅されての幕命であった。
祝言の翌朝、江戸へ向かうため伊羽指南所を発った天津は行き倒れていた凛と遭遇する。凛は天津に自分を逸刀流に入れるよう提案するが、次に会った時にはこのような案を練ってくるだろうと予想していた天津にあっさり断られる。そこへ黒頭巾を被った男たちが天津と凛を取り囲んだ。凛は小仏の関所を通るために刀を宿に預けて丸腰だったため狙われずに済んだが、天津は男たちを返り討ちにした後、死体の黒頭巾を外すと、それは心形唐流の人間であった。同門となった剣士に狙われた天津は驚き伊羽指南所へ急いで引き返した。凛も天津の後を追った。
天津が伊羽指南所に着き、研水の部屋へ行くと、研水が今まさに切腹をしている最中であった。天津は研水から公儀が自分の首を狙っていることを聞き呆然とする。密花の命を盾に取られ大義を見誤った研水を責めることはできないと、天津は研水を介錯した。途中から話を聞いていた密花は、天津の妻として主人を守るため道場の人間に見つからないよう裏道を天津に教え、天津が去った後に研水の側で自害した。

天津は自身が公儀に命を狙われたため江戸の逸刀流剣士たちも危ないと思い、心形唐流の門下生から逃げつつ江戸へ向かう。凛は天津と共に行動し、隙をみて天津を討とうと考えるが天津が隙を見せることはなかった。しかし天津は最初に心形唐流の人間に襲われた際に受けた傷口から破傷風を発症していた。途中立ち寄った白川郷で馬絽に捜索させていた乙橘槇絵に再会した天津は、剣士になり斬るはずだった、唯一の目標の父が病死したことで廃人同然になっていた槇絵を説き伏せ、白川郷を後にするが、破傷風の症状が進み倒れてしまう。
そこに心形唐流たちがやってくるが、凛と協力して何とか切り抜けた。凛は弱った天津を見かねて討てないでいた。
諏訪で民家に食べものを買いに行った凛は心形唐流の門下生に見つかり、天津の居場所へ案内させられる。破傷風によって既に立つことすらやっとの状態の天津を大勢で斬ろうとする門下生たちに怒り罵声を浴びせ羽交い絞めにされる凛の前に万次が現れる。凛はこの場にいる全員斬り殺してと万次に叫び、万次はそれに応え門下生たちと戦うことになったが、苦戦する。

凛を助けに来た万次

そこへ天津を心配して追って来ていた凶戴斗も登場し応戦する。門下生たちは凶を囲み天津を斬ろうとするが、天津の破傷風の様子に気付いて駆け付けた槇絵によって阻止される。槇絵は天津が畏怖の感情すら抱く圧倒的な剣舞で門下生を次々斬り殺し、分散させていた門下生たちも万次と凶が全員倒し、心形唐流は終焉を迎えた。
凛は天津に、幕府に裏切られた逸刀流の行く末を見届け、抗うのか滅びるのか結論が出た時に天津を殺しに来ると告げ、それぞれ加賀を後にした。

不死実験編

吐鉤群が主催した逸刀流との酒宴は、太平の世に剣の復興を目指す逸刀流を公儀に害なすものと判断した吐が仕組んだ罠であった。無骸流とは吐によって発足した組織であり、逸刀流の壊滅を目的としたものだった。酒宴で集まった逸刀流幹部たちに毒を盛り、偽一と共に阿葉山以外を皆殺しにした吐は逸刀流の勢力低下に成功し、万事の際に必要になるはずである剣術の形骸化を憂い、公儀にその必要性を示そうとしていた天津影久と逸刀流は、この公儀の裏切りにより、天邦道場を焼き払い冬の決起まで地下に潜ることとなった。

江戸に戻った凛と万次のもとに偽一が現れた。偽一は自身の上司が公儀であり吐鉤群であることを明かし、幕命として無骸流に入るよう万次に話し、万次は吐の邸宅に出向いた。
吐は万次の不死の肉体のことを知っており、無骸流への加入の誘いは口実で真の目的は万次の不死の肉体の研究であった。万次は剣の達人である吐と大勢の番士によって捕らわれてしまう。
凛はいなくなった万次を探しつつ、安全に寝泊まりできる生家である無天一流・浅野道場に戻ってきていた。そこに空き家だと思いやって来た逸刀流の吉野瞳阿(よしのどうあ)と八苑狼夷作(やそのおおかみいさく)が居ついてしまう。凛は2人が逸刀流だとは知らずにしばしの間居候をさせることになった。
凛は百琳と一緒に万次の行方を知っているであろう偽一を探した。偽一は逸刀流を狩ることで得ていた金を病気の息子の薬代に充てていたが、息子が亡くなり生きる理由を見失い廃人のような生活をしていた。偽一は自身が無骸流から抜け罪状放免される以上の金額を稼いでおり、その金で百琳の放免を吐に頼むが、吐はその条件として万次を連れてくるよう命令していたのだった。偽一は凛に吐を見張るように言い、凛は吐の行動を観察することになった。
同心の前で抜刀したことで目を付けられていた瞳阿は、凛と夷作と3人でいるところを同心たちに見つかり捕らえられそうになるが、夷作が凛と瞳阿を逃がし自身は捕らえられてしまう。
凛は万次を、瞳阿は夷作を助けるため、吐の行動や捕らえられた人間が収容される場所を見張るが、夷作は連行されてはこなかった。凛は江戸城の典医と親しい逸刀流在籍の薬屋・果心居士(かしんこじ)から、江戸城で「不死の実験」が行われているという噂を聞く。凛と瞳阿は江戸城周辺を捜索し、おぞましい程の死体の山を発見する。そこで夷作の籠手を身に着けた浮浪者・ナンダ郎を見つけた瞳阿は一瞬斬りかかるが、凛に諭され、籠手を入手した経緯を聞きだした。
ナンダ郎は、竹林の奥に「貒穴(まみあな)」と呼ばれる狸のねぐらのような横穴があり、その穴が日に2、3度開き、役人によって死体が運び出されてくると言い、その死体を運ぶ仕事をしているナンダ郎は役人から夷作の籠手を10日ほど前に貰ったという。
横穴は江戸城からの抜け道で、城のどこかで万次を使った「不死の実験」が行われ、夷作もその中にいると確信した凛と瞳阿は、天津影久から頼まれ果心居士が作っていた江戸城の地図と火薬を果心居士が留守中に拝借し、万次と夷作を救出するため横穴に向かった。

一方、吐に捕らえられた万次は、江戸城地下にある牢に鎖でつながれ、囚人を万次と同じ不死の体にするよう命令された異国帰りの医者・綾目歩蘭人(あやめぶらんど)が、万次の手足を囚人の手足と交換し、血仙蟲を囚人の体に移した後手足を元に戻すという手術を繰り返していた。歩蘭人は手術が立て続けに失敗し多くの囚人を死なせたことで医者としての論理感から精神を病み、吐に一時暇を出されたが、囚人たちを人間と思わないようにすることで不死の実験に邁進するようになる。

凛と瞳阿は横穴への侵入に成功し、罠にはまり凛は役人から折檻を受けるが、城の地図を瞳阿が盗んだと気付いた果心居士が逸刀流の怖畔(おずはん)を応援に寄こしたことで凛は助けられる。
吹上門まで来た凛たちは城の人間に追われ、火薬を使い凛の殺陣黄金蟲で爆発を起こし、実験が行われている場所に続く洞窟に入ることに成功する。そこで凛と瞳阿は、実験によって不死になったもののおよそ人間とは呼べない多くの者たち、実験の失敗作として無残に体を両断された幾つもの死体を目撃する。その中に夷作の上半身を発見した瞳阿は、この先は凛1人で行ってほしいと頼む。
洞窟を抜け、地上に出たところで不死の実験に関わる歩蘭人の助手に出会った凛は、実験にうんざりしていた助手の協力を得て、万次が幽閉されている牢にたどり着き鎖につながれた万次を遂に発見する。居合わせた歩蘭人をボコボコにした凛だが、万次の鎖を外す前に吐に見つかってしまう。万次が体内に隠し持っていた麻酔漬けのかんざしを吐の目に刺し、吐の動きを封じることに成功するが、手術で四肢の切断を請け負っていた首切り浅右衛門(あさえもん)と弟子の弁鬼(べんき)が駆け付け、腕を鎖につながれたままの万次は窮地に陥る。そこに瞳阿と死んでいたはずの夷作が助けにやって来た。夷作は実験の作用と巨体故の血液の多さから体を分断されても心臓はしばらく動いており、それに気づいた瞳阿が下半身とつなげることに成功し、一時的ではあるが万次と同じ体になっていたのだった。
道灌濠の水が漏れだし大量の水が押し寄せる中、首切り浅右衛門と弁鬼、加えて歩蘭人が密かに実験の証として生み出していた不死の肉体を持つ人間兵器鵺一號(ぬえいちごう)も万次たちに襲い掛かるが、四人で力を合わせなんとか撃破した。
直後に大量の水が押し寄せ、首切り浅右衛門に切り落とされていた万次の左腕が流されてしまう。凛は左腕を見つけたところを誰かに拾われてしまう。それは川上新夜の息子・練造であった。
練造は凶に左手を切り落とされ滝つぼに落とされながらも生き延びていた尸良の世話係をさせられており、尸良と共に幽閉されていたが、この洪水により脱出していた。
練造は凛に万次の左腕を一瞬返そうとするが、凛の後ろに万次の姿を発見し呆然とする。そこに尸良が現れ、練造のもとへ戻る練造を凛は止めるが崩落が起こり姿が見えなくなってしまう。

歩蘭人の助手が実験のため収監されていた囚人を解放したため、城門はそれを迎える女たちと役人で混乱していた。その混乱を高台から眺めていた天津影久は、瞳阿・夷作と共に凛がこの光景を生み出したと知ると、先を越されたと笑うのであった。
その混乱の中、凛から女たちの揺動を頼まれていた百琳と偽一は「貒穴」の入り口で凛と万次を無事発見する。水に流された瞳阿とそれを追った夷作とも再会した。
万次たち同様水に流された歩蘭人は、典医であり兄の蔵多に救出されていた。その後歩蘭人は実験の記録を燃やし、実験で死んでいった囚人たちの家々を行脚する雲水となるのであった。

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