富江(漫画・映画・ドラマ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『富江』(とみえ)とは、不死の少女「富江」と彼女に人生を狂わされる男たちの恐怖を描いた、伊藤潤二が『月刊ハロウィン』・『ネムキ』に連載した連作短編漫画。『うずまき』に並ぶ伊藤潤二の代表作で、映画化・ドラマ化も果たしている。
傲慢で身勝手、暴君気質の美少女「富江」。彼女は殺しても蘇り、血の一滴からでも再生して増殖する異常な存在だった。その美貌に惹かれて富江に関わった男たちはことごとく人生を狂わされ、やがて彼女に尋常ならざる殺意を抱いて破滅していく。

『富江』の概要

『富江』とは、ホラー漫画家伊藤潤二が、1987年から発表した、魔性の美少女「富江」を中心に展開する一連の怪奇譚である。本作が『うずまき』と並び、伊藤潤二の代表作と目されるのは、「富江」の造詣があまりに秀逸であるからだ(詳細は、『富江』の登場人物・キャラクターの項目に記載)。絶世の美少女・魔性の女としての側面、醜悪な性格、誘惑した男に殺されるという悲劇性、そして何度殺されてもおぞましい過程を経て復活するという怪奇性、これらが組み合わさり、唯一無二の怪奇譚が誕生したのである。

『富江』は何度も映像化されている。映画としては、1999年、及川中監督による『富江』。2000年、光石冨士朗監督による『富江 replay』。2001年、清水崇監督による『富江 re-birth』。2002年、中原俊監督による『富江 最終章 -禁断の果実-』。2005年、及川中監督による『富江 BEGINNING』。同年、同監督による『富江 REVENGE』。2007年、久保朝洋監督による『富江 vs 富江』。2011年、井口昇監督による『富江 アンリミテッド』。また、テレビドラマとして1999年に『富江 恐怖の美少女』、2018年にTVアニメ『伊藤潤二「コレクション」』の中で、「画家」「富江」Part1「富江」Part2が映像化された。

『富江』のあらすじ・ストーリー

富江

高校生の礼子の幼馴染の富江がバラバラ死体になって見つかった。夢なら覚めてと願う礼子の前に、死んだはずの富江が現れる。生前と同じように接してくる富江に礼子は困惑を隠せない。そんな中、富江と接触した担任教師・高木が正気を失った状態で発見される。富江は死んでいなかったのか、あるいは幽霊なのか、自分が何故死んだのか本当に覚えていないのか。橋の上で佇んでいる富江を見て、恐怖を隠し切れなくなった礼子は、クラスメイトの山本と接触し、自首しようとする。
富江が死んだ日。礼子のクラスはいなり山に地学の授業のために訪れていた。そこで富江は高木に自分が高木の子を妊娠していることを伝え、妻と別れることを強要する。その話を聞いていた富江の恋人の一人、山本は富江に掴みかかり、誤って崖から落としてしまう。動かなくなった富江を見て後悔する山本に、高木は全員で口裏を合わせ、この事故を無かったことにすることを提案。富江はクラスで嫌われていたので意見は通り、男子たちの手によって富江はバラバラにされる。途中、富江は息を吹き返すが、高木が再びとどめをさし、バラバラになった富江の体はクラスメイトに一つずつ手渡され、それぞれ別の場所に捨てることを指示される。礼子は心臓を手渡され、橋から投げ捨てる。
上記のことを山本と共に自首しようとする礼子。しかし、他のクラスメイトに囲まれ、口封じに殺されそうになる。そこに富江が現れ、礼子とクラスメイトは散り散りに逃げる。一人取り残された山本は、後日正気を失って発見された。
三日後、礼子は海の近くの街に引っ越しする。そこでかつて自分が捨てた心臓が入っていた包みを見つける。中の心臓はどうなったのか。駆け出した礼子は崖の裏で心臓から顔と腕が生えた富江を発見する。

富江 PART2 森田病院編

元教員・高木が病院から脱走する所から物語は始まる。森田病院の入院患者、三尾雪子は腎臓移植のドナーを待っている。雪子はクラスメイトの北山正に片思いしているが、最近彼の様子が空々しいと感じていた。病院の窓から正が知らない女を連れて歩く姿を見つけ、ショックを受ける。二日後、雪子の病室へ、例の女が訪れる。女は水谷麗子と名乗り、正とはもう会うなと雪子に迫る。麗子は、雪子の顔は正のガールフレンドに相応しくない、正は雪子のことを迷惑で早く死んでほしいと麗子に話している、と雪子を詰る。ショックを受けた雪子は憔悴し、見舞いに訪れた正に麗子が来たことを示唆し、もう来なくていいと別れを告げる。生きる気力を失った雪子は症状が悪化し、尿毒症になりかかる。正は嘘ばかりつく麗子を怪しいと感じ、高級品ばかりせがむ麗子に呆れるが、彼女の魅力に抗えないものを感じている。麗子が二年前のバラバラ殺人の犠牲者に瓜二つだと気づき、自分がおかしくなっていると理解しているが、麗子の魅力に溺れ、“独占したい”という想いを抑えられなくなり、とうとう彼女を殺害する。麗子の遺体は病院に運ばれ、そこに現れた麗子の父と名乗る男、高木は麗子の身体をドナーとして使うことを承諾する。麗子の腎臓は雪子に移植され、雪子は回復する。回復した雪子はどれだけ食事をとっても空腹が収まらず、急激な腹痛に襲われる。レントゲンには移植した腎臓から生えた、手足や頭部が映っていた。手術によってそれらを取り出すと、腎臓は自らを富江と名乗る。

富江・地下室

森田病院では、妙な噂が流れていた。ある夜、奇妙な手術が行われ、患者の体内から、頭と手足の生えた腎臓を摘出したという。森田病院の入院患者・佐藤文仁は、噂の真偽を確かめるため看護師を追うと、怪しげな地下室に辿り着く。聞き耳をたてる佐藤。中では雪子から摘出された腎臓が水槽に浮かび、徐々に再生していた。雪子という名前を聞きとった佐藤は、同じ名前の入院患者が居たことを思い出し、彼女の病室を訪れる。雪子の体内に腎臓の細胞が残っていることを危惧した森田病院の院長と、医師の一人である田村は、「このままでは雪子が富江に体を乗っ取られる」と判断。雪子を救うため、摘出した腎臓に放射線を加えて富江の細胞を焼き殺せないかどうか実験を行う。実験の結果、腎臓は更に成長し、言葉を話すまで進化。自らを富江と名乗り、田村を誘惑する。その後、完全な人間の姿まで成長した富江は、水槽から出て、雪子の病室を訪れる。富江は北山に殺されたのは雪子の差し金かと迫り、騒いだ雪子の口を塞ぐ。騒ぎに気づいた田村が病室へ行き、富江が例の腎臓が成長したものだと気づき、その美しさに誘惑され、自分の部屋に連れ帰る。日が経つにつれ、雪子の姿は徐々に富江に似ていく。美しくなった雪子は、佐藤を誘惑しに行くが、前の雪子がよかったと冷めた対応をとられ、激高する。一方、富江は再び地下室に戻り、残っていた富江の細胞を焼却するが、その後彼女の異常性に恐怖した田村に殺される。そこにかつて富江の教師だった高木が現れ、火を広げた結果、病院は炎上する。佐藤は雪子と一緒に避難しようとするが、病室にいたのは完全に身体を乗っ取られ、富江そのものになった雪子だった。呆然とする佐藤をよそに富江は病院から脱出する。

富江・写真

泉沢月子は片思いしている男子がいる女子に、意中の相手の写真を撮っては売りつけることを趣味にしていた。他の女子に頼まれたという名目で憧れの先輩、山崎の写真を撮り、コレクションもしている。ある日、友人に写真を売ろうとしている所を、風紀委員の川上富江に見つかり、写真を没収されてしまう。月子は富江への怒りを募らせるが、よりにもよって、山崎に富江の写真を要求される。言われた通りに富江の写真を撮っていると、写真部顧問の谷に見つかり、月子は停学処分となる。富江の陰謀だったのかと疑いながらも、撮ったフィルムを現像した月子は、映った富江の顔から醜悪な顔が生えていることに気づく。月子は富江への復讐のために写真を学校中にばらまく。恥をかかされた富江は自分に心酔している風紀委員に月子を殺せと命令する。山崎から富江と仲間が命を狙っていると教えられ、月子は山崎を頼るが、山崎もまた富江のために月子を殺そうと背後から首を絞める。咄嗟に現像液をかけることで難を逃れるが、月子は山崎に裏切られたことでひどく傷つき、自室に引きこもる。そこに富江が訪れ、月子の母に友人と嘘をついて部屋の中に侵入する。富江は月子を殺そうとしていることは勘違いだと言い、月子に同情的な言動をとる。しかし、富江の白々しい言動や、虚言としか思えない自慢話に月子は心を許せず、写真に写った醜悪な顔を揶揄して大うそつきの化け物と詰る。富江は激高するが、同時に激しい頭痛を訴える。富江の叫びを聞きつけ、外に待機していた風紀委員の二人は月子の部屋に侵入する。そこで見たのは、写真と同じように顔の側面から醜悪な顔を生やした富江の姿だった。富江は二人に、もう一つの顔を切り落とせと命令する。二人は命令に従うが、気づいたら、顔ではなく、富江の首を切ってしまっていた。動揺する二人だが、殺人現場を月子に見られたことに気づき、月子を殺そうと迫る。二人の凶刃が月子に振り下ろさる寸前、醜悪な方の富江の顔が叫びだし、横の顔を切れと二人に命令する。二人は富江の首をスーパーの袋に入れると、部屋から立ち去る。月子は目の前で起きたことは全て夢だと思い、意識を手放す。再び月子が目覚めたとき、富江の胴体が起き上がり、首の断面から新たに顔が生え始めていた。胴体は笑いながら部屋から飛び出す。月子は部屋中に飛び散った血を拭おうとするが、いくら拭いてもきれいにはとれなかった。

『富江』の登場人物・キャラクター

富江(とみえ)

分裂した富江は、誘惑した男を使って殺し合う。恐ろしいが、どこか滑稽だ。

『富江』の中心人物。主人公であり、ヒロインであり、怪物である。『富江』シリーズ最大の特徴は、富江のキャラクター性にある。
まず、富江は美少女である。作中、富江より美しいキャラクターは登場しない。男達で富江の魅力に抗えた男は極々一部であり、殆どの者が一目ぼれし、それまで愛していたはずの恋人のことを忘れてしまう。そして、富江の性格は歪んでいる。彼女は多くの男を虜にし、他の女から恋人を奪うことは日常茶飯事だが、実のところ、本人は誰かを愛するということはない。富江は自分自身を愛している。自分をもっと愛するために、自分に尽くす恋人を際限なく増やそうとするのだ。そのため、自分の魅力に屈しない者がいると酷く不機嫌になり、どんな手段を使っても篭絡しようとする。
富江は、我儘である。周囲の人間を奴隷のように扱い、自分に尽くすよう働きかける。その上、息を吸うように嘘をつき、周囲の人間関係を拗れさせ、他者を不幸に陥れようとする。キャビアやフォアグラが食べたいと駄々をこね、叶わないとやはり周囲に当たり散らす。悪知恵に長け、絶世の美貌だが、性格はひどく幼稚であり、説教をされると殺意を見せるほど怒り狂う。
・殺される富江
『富江』シリーズは富江が死ぬシリーズである。富江は周囲の人間を虜にするが、虜になった者は富江を愛するがあまり、彼女をバラバラにして殺してしまう。これは衝動的なものであり、男たちは気が付いたら既に富江を解体している。作中では、自分が狂い始めていることを察する者も多いが、結局、富江を殺す魅力に抗えない。なお、この性質は富江本人も厄介に感じているようで、殺される前は必死に抵抗し、やめてくれと泣き叫ぶ。
・不死の富江
富江は、不死である。第一話では1クラスの人数分にバラバラにされたが、一つ一つのパーツから、バラバラにされる前と同じ状態にまで蘇った。どれだけバラバラに切り裂いても次第に成長し、元と同じサイズにまで急速に成長する。作中では、焼却炉にて高温で燃やせば再生しないと富江本人が口にしているため、これが富江を殺す唯一の手段である。ただ、炎で燃やした指が、焦げ付いたまま人間サイズに成長し、元と同じ美しさまで回復した例もある。
また、富江は殺さなくても増える事例がある。富江の感情が乱れると、側頭部に新たな顔が腫瘍のように出現し、放置するとそのまま分裂する。『富江』で画像検索すると現れる顔が二つあるコスプレは、これを表したものである。富江を写真で撮ると、この状態がフィルムに現れる。また、富江の美しさに魅了された画家が富江の美しさの本質を捉えたと言って書いた絵は、この顔が二つあるものだった。これ以外にも、顔を切り裂かれると、その顔から無数の富江が出現した例もある。作中で富江は際限なく増え続けており、そのことに解決策は見せないまま、物語は終わりを迎える。
・殺し合う富江
富江は増殖する。しかし、富江本人は自己が増えることに嫌悪感を持っている。『富江』シリーズには、三人の富江が殺し合うという内容のものもある。そもそも富江は殺されることも不本意である。『富江』シリーズは富江に人生を狂わされる者たちの話だが、富江本人も自分の殺されてしまうほどの魅力と不死性に翻弄されている。このことから、富江もまた被害者の一人であり、本作の独自性を確立させている。

『富江』の用語

美しい顔と、醜いもう一つの顔。富江の外見と内面を表している。

富江(とみえ)

上述。シリーズを代表する怪物。分裂した富江は基本的に自分を富江と名乗るが、まったく別名で登場する話もある。どの富江にも共通するのは美少女であり、不死であり、増殖する。富江の正体が何であるのかは、最後まで明らかにされることはない。第一話に登場する富江がオリジナルであるのかすら不明である。

森田病院(もりたびょういん)

富江の遺体が運び込まれ、雪子が入院していた病院。雪子から摘出された富江の腎臓は、しばらくの間、病院の地下室で保管されていた。後に火事により全焼する。

『富江』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

富江「キャビアとかフォアグラとかないの?」

富江の性格を端的に表す名台詞。

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