TARI TARI(アニメ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『TARI TARI』とは、2012年にP.A.WORKS制作によって放送されたオリジナルテレビアニメ及びそれを原作とした漫画。神奈川県藤沢市や鎌倉市などの江ノ電沿線を舞台に、音楽科が有名な高校に通う男女5人の生徒が、それぞれ悩みを抱えながら自分の夢を叶えるために合唱部を発足し、高校生活最後の夏を笑って、悩んで、時には喧嘩をして、そして恋もしながら親友たちと共に成長していく物語である。彼らの青春に多くの感動や称賛を得て、発売されたBlu-rayは放送終了後の週間BDランキングの総合首位となった。

『TARI TARI』の概要

『TARI TARI』は、P.A.WORKSによって『true tears』、『花咲くいろは』に続く第3作目の青春作品として制作されたオリジナルテレビアニメ作品であり、2012年7月1日から9月23日までに全13話の構成で放送された。代表作に『レイトン教授と永遠の歌姫』、『劇場版クレヨンしんちゃんシリーズ』を持つ橋本昌和が、本作で初のテレビアニメ監督とシリーズ構成を務めた。また、キャラクター原案は『AKIBA'S TRIP』を代表作に持つtanuが、本作で初のテレビアニメのキャラクター原案を務めた。そしてキャラクターデザインと総作画監督を関口可奈味が、音楽を浜口史郎が担当するなど同制作会社の大人気作品である『花咲くいろは』のスタッフが数多く関わり制作された。舞台が、神奈川県藤沢市や鎌倉市の江の島および江ノ電沿線であり、作中では風景を忠実に再現されており、モデルとなった場所はファンの間で聖地として放送終了後も人気が高く、多くの観光客が訪れ地域の発展に貢献している。そのため、地元放送局であるtvkが先駆けて最速放送し、製作にあたっても江ノ島電鉄や湘南藤沢フィルムコミッションといった公的機関や地元の企業など、藤沢市や江ノ島地域各方面から多大な協力を受けた。
物語は、音楽科と普通科のある高校で、あるトラウマから音楽を離れ普通科へ転科した坂井和奏と、顧問から音楽の才能は無いから諦めるよう言われ声楽部を退部したが、どうしても歌うことを諦めきれない宮本来夏と、そんな親友のために心優しく力を貸し協力する沖田紗羽と、廃部寸前のたった1人のバトミントン部の田中大智と、帰国子女の転入生ウィーン(前田淳博)の5人全員を主人公として、高校生活最後の夏に合唱時々バドミントン部を発足する。それぞれの夢と叶えるために合唱を通して共に笑い合い、悩んだり、恋をしたり、時には喧嘩をしてぶつかり合いながら少しずつ成長していく感動の青春群像劇だ。作中の挿入歌で、作品の見所でもあるオリジナル合唱曲は非常に完成度が高く、今も尚世間一般でも多くの人に親しまれ実際の合唱祭等で合唱されている。

『TARI TARI』のあらすじ・ストーリー

合唱時々バドミントン部発足まで

物語の舞台は神奈川県の江の島周辺。そこには音楽科が有名な白浜坂高校(しらはまざかこうこう)があり、歌うことが大好きな宮本来夏(みやもと こなつ)は声楽部に所属している。
来夏は、本来は歌いたいと強く願っているが、昨年の発表会で緊張し過ぎて声が出なかったという失敗が原因で、ピアノの譜面捲りを担当していた。次のコンクールでは歌いたいことを教頭であり顧問の高倉直子(たかくら なおこ)へ直談判しに行くが、「あなたには人を動かす特別な何かがない。ステージで歌うことは諦めなさい。音楽を愛することは誰にでもできる。しかし音楽から愛されることは…」と言われ、憤りを感じた来夏は「じゃあ、辞めます!」と啖呵を切り退部する。

だが、歌への思いは諦めきれずに新たに合唱部を発足することを決めるも、部員が最低5人必要だった。
そこで、親友で弓道部に所属する沖田紗羽(おきた さわ)と、来夏の弟である誠(まこと)が入部してくれることになる。さらに、元音楽科だが母の死をきっかけに音楽に対してトラウマを感じ、普通科に転科していた坂井和奏(さかい わかな)も誘うが断られる。

来夏は新しい合唱部で合同発表会に出場することを目標に、残り2人の部員を必死に探すがなかなか見つからない。そんなとき、親友の紗和が和奏に頼み込み、名前だけならと入部を承諾。
さらに和奏は、ピアノ伴奏という形で発表会へ参加することになり、なんとか合唱部が完成した。発表会当日、様々なトラブルや失敗のトラウマで、来夏は弱気になってしまう。だが、親友の紗和が叱責してくれて気合を入れ直すことで、ステージに立つことができた。

無事に発表会が終わると部員達も辞めてしまい、来夏・紗和・和奏の3人だけとなったため、合唱部として認めてもらうことができなかった。
ある日教頭に、来夏と現在部員が1人だけのバトミントン部の田中大智(たなか たいち)が呼び出された。このまま部員が5人以下ならどちらの部活も廃部と告げられて困惑する。だが諦めきれない来夏は合唱部に大智と、帰国子女の転入生ウィーンこと前田淳博(まえだ あつひろ)を勧誘する。大智もバトミントン部を諦めきれず、お互いの意見を尊重し「合唱時々バドミントン部」を発足した。

ワールドミュージックフェスティバルでの出会いと母の願い

合唱時々バトミントン部の最初の活動は、地元の商店街イベント「ワールドミュージックフェスティバル」への参加だった。
そこで、和奏の母まひるから音楽について様々なことを教えてもらったという、バンドのコンドルクインズと出会う。まひるが他界していることを伝えると彼らは驚き、悲しみ、まひるの墓地で追悼演奏を行った。母まひるの死がきっかけで、音楽から離れていた和奏に対して「音楽はやめられない。やるとかやめないとかじゃない。音楽はいつも共にあるもんだ」という、かつての母の言葉を伝えられる。また、母からコンドルクインズへ宛てた手紙も渡される。

和奏は、先日のイベントでコンドルクインズから渡された手紙を読み返す。そこには「私にとって歌とは、愛を伝える言葉だから。和奏と一緒に歌い、歌を聴くことができたら」と書かれており、母との記憶を思い出す。
それは、和奏が中学三年生の時に思春期と受験のストレスで、病気がちだった母へ強く当たってしまった記憶。「一緒にピアノで歌を作りたい」という母の願いに耳も貸さず、冷たく振る舞い、その願いは叶うことなく母は帰らぬ人となってしまった。

そんな母との思い出が詰まったピアノを見ることも辛くなり、後悔ばかりの和奏は母との思い出の品を全て捨てようと父に相談していた。
当時入院していた母はなぜ病気のことを詳しく教えてくれなかったのか、もし教えてくれていたらもっと母に優しくできて、一緒に歌を作るという約束も守ることができたと、母の考えが理解できなかった。

そんな和奏に、父は「一緒に歌を作るとね。自分を相手の心の中に残せる気がするの。だから悲しみじゃなくて、母親としての優しさとか強さとか…もし私がいなくなっても、その歌が私の代わりにずっとあの子と一緒にいてくれる。和奏が音楽を好きになってくれて、本当によかった。大事な大事な宝物だから。私、絶対あの子を独りにしない」という生前の母の言葉を伝えた。
もしも、和奏に病気のことを全て打ち明け、それを知った上での同情の優しさから一緒に歌を作ったとしても悲しい別れの歌になる。だから、和奏には病気のことを黙っていて欲しいというのが母の本心だった。

母の真意と自分への愛を知った和奏は号泣し、思い出を捨て、音楽から離れてしまっていたことを後悔した。
そんな和奏に父は「母と和奏が作った曲を聴きたいから、曲を和奏に作って欲しい」と頼み、和奏が捨てたはずだった母との思い出のキーホルダーを差し出した。そんな父の行動に驚いた和奏はふと我に返り、ピアノはどうなったかと尋ねると、「…捨てるわけないだろう。母さんが俺にプロポーズするときに使ったピアノなんだから」と父は言った。

和奏は泣きながら父と母に感謝し、もう一度音楽の道へと戻ることを選んだ。合唱時々バドミントン部の部員たちの優しさにも触れて、ゆっくりと立ち直り、初めて5人全員で「心の旋律」を合唱した。

新たな目標「白祭(しろさい)」と新たな「将来」への壁

合唱部へ正式に入部してからの和奏は活動的になり、音楽の楽しさに気付き、みんなで充実した活動をしていた。
そんな合唱部の新しい目標が白浜坂高校の「白祭(しろさい)」という文化祭に決まるが、声楽部の顧問である教頭が責任者を務めるメインステージ選考会を通過しなければならなかった。

合唱部も無事にメインステージ選考会での発表権を獲得して、白祭に向け全校がますます活発になってきた頃、合唱部に対して嫌悪を示す集団があった。
それは以前に来夏が所属していて、合唱部が敵対視する声楽部だった。声楽部は将来を見据えて、顧問である教頭の日々の厳しい指導の下で活動している生徒が多く、合唱時々バドミントン部はお遊びにしか思えず、来夏に冷たく当たる。

そんな様子を見ていた和奏は、市民ミュージカルが白祭の参考になればと考え、来夏と紗羽を誘う。大喜びの来夏だったが、紗羽は何か悩んでいる様子で元気がなかった。
その理由は紗羽の家に届いた競馬学校のパンフレットにあった。紗羽は騎手になることを小さい頃から真剣に夢見ていた。だが父は猛反対して、紗羽も感情的に反抗して自分の意思を貫こうとする。結果父との間に深い溝が出来てしまった。そして、本格的に競馬学校の応募条件について調べていた紗羽は、体重制限があるという彼女にとって辛い条件を知ってしまう。

それ以降、紗羽は食事を抜くなどの過度なダイエットを始め、合唱部の練習中に倒れてしまうこともあった。
それでも幼い頃からの夢をどうしても諦めきれない紗羽は、志望する競馬学校へ自ら電話をかけて自分の熱意を伝えるなど、どうすれば夢に近づけるのか模索していた。

ある日の帰り道、紗羽は和奏と来夏の誘いを断り、一人で日課の流鏑馬の練習へ向かった。だが無理なダイエットが祟って軽い栄養失調となっていた紗羽は、落馬して怪我を負い、病院へと運ばれる。

メインステージ選考会まで

幸いにも怪我は大事には至らなかったものの、病院の帰り道に父から「他人様に迷惑をかけたんだ。頭を冷やしなさい」と言われる。そして、受験には体重制限や両親の面接、背が伸びそうだとダメだと落ち込む紗羽にも父は厳しく当たる。
帰宅後、紗羽は母親と話し合いこれまでの悩みを打ち明ける。母もまた、近頃娘の食欲がないことを心配していたのだ。幼い頃からずっと夢見ていた職業であり、真剣に目指しているからこそ、応募条件に沿わない自分がどうしようもなく惨めになった。精神的に疲弊していた紗羽は感情的になり絶叫した。

そしてそんな時に合唱部がこれまで使用していた部室が、白祭のメインステージ選考会で声楽部のために使用されることなり、合唱部は練習の場を失い困り果てていた。紗羽は家庭でのストレスを解消するかのように声楽部に対し声を荒げて憤怒した。

これ以上の部活同士での対立問題を回避するため、合唱部は練習場所をウィーンの家に変更する。近頃の情緒不安定な紗羽の様子を心配していた合唱部員たちは、紗羽は恋の悩みを抱えていると勘違いして話を聞こうとした。紗羽は初めて進路に対する本当の悩みを打ち明け、部員達は紗羽を必死に励ました。

だが、ただ1人和奏は「今の自分の気持ちが少し落ち着いてみえるまで、離れてみたら?」と伝えた。
その和奏の言葉を聞いた紗羽は「なに悟ったようなこと言ってんの。和奏はいいよ。音楽に戻ってきて、今続けているからそんなことが言えるんでしょ! 私は、今離れたらもうおしまいなの!」と強く言った。
和奏は「…うん、私、音楽に戻れてよかった。…約束だから。お母さんと一緒に歌を作るって。歌で今でもお母さんと繋がっている。…でも、もしもう一回だけお母さんに会えるなら、私音楽をやめてもいい。…けど、それはもう叶わないから」と切なく言った。その言葉には紗羽も何も言い返すことが出来なかった。

後日、和奏と来夏は白祭のメインステージ選考会の件で教頭から呼び出されていた。
合唱部に出場辞退を勧める教頭に対し、来夏は歌いたいと必死に訴えた。だが、そんな真っ直ぐな来夏の思いに苛立ちを感じた教頭は、和奏に「普通科への転科を認めたのは、こんな半端なことをするためじゃない」と問い質した。

その言葉を聞いた和奏は「私、合唱部に入るまで、音楽は孤独で、一人で技術を磨くものだと思っていました。でも、それだけじゃダメだったんです。色んな人がいて、気持ちがぶつかったり、すれ違ったり…楽しかったり苦しかったりして…うまく言えないけど、本当に綺麗なハーモニーを奏でるには―」と言いかけた。
そこで、教頭の中で高校時代の思い出が蘇り、当時同じ合唱部の仲間であり、親友だった和奏の母まひるが言っていた「本当に綺麗なハーモニーを奏でるには、私一人じゃできないもん。楽しいでしょ?人がいるっていいよね」という言葉を思い出し、和奏の言葉と繋がったのだった。

この言葉は、過去に母まひるが教頭にも同じように言った言葉で、同じことを親子に言われて動揺を隠せなかった。教頭は常に自分に厳しく、生真面目に真っ直ぐ音楽と向き合ってきた。その逆に、まひるは音楽や周囲の人から本当に愛され、音楽を楽しんでいた。対照的な性格がコンプレックスとなり、教頭は生徒にも厳しく当たっていたのだ。

そんな教頭の姿を見て来夏は「教頭先生、私、音楽から愛されてます。…ほんのちょっとだけど。覚えてますか?私には人の心を動かす特別な何かがないって言ったことを。一人じゃ無理だけど、みんなの力を借りれば、ほんのちょっとだけ人の心を動かせるようになったと思います。だからステージに立たせてください!」と真剣に自分の感情を伝え、和奏と懸命に頭を下げた。

そんな2人の熱意に教頭も心を動かされ「…じゃあ、それを証明してみせなさい。成長したことが口だけじゃないということを証明しなさい」と伝えた。やっとの思いで選考会への参加が決まり喜んでいた合唱部だったが、そこに紗羽の姿は無く、学校も休んでいて連絡も音信不通だった。

その頃、紗羽の家では進路について父が予想外の行動を起こしていた。それは、紗羽の志望校である競馬学校に父が自ら電話をし、応募条件について怒鳴り声を上げて反論していた。
その姿を黙って後ろから見ていた紗羽に対し、紗羽の母は「なんだかんだ言って、お父さんは紗羽が大切で仕方ないのよ。相変わらず気持ちを伝えるのが下手すぎるけどね」と優しく声をかけた。今まで計り知れなかった父の本心を知り、進路について悩み続けて憂鬱だった気分が晴れた。

頃合い良く鳴った合唱部の仲間からの着信に応じ「今から行くから待ってなさいよ!」といつもの紗羽の口調で言い、愛馬のサブレに乗り学校へと急いだ。ギリギリで白祭のメインステージ選考会に間に合うことができ、無事に5人全員で合唱することができた。

無事に白祭でメインステージへの出場が決まった合唱部は、音楽劇を披露することになった。
それぞれ各分担に分かれ、作曲担当となった和奏はどのように曲を完成すべきか悩んだ。母まひると高校時代に同じ合唱部で後輩だった紗羽の母志保(しほ)を訪ねるが、和奏が求めている回答は得られなかった。
頭を抱える和奏の様子を見て、紗羽の母志保は、和奏の母まひると教頭が2人で作曲をしていたという事実を教えてくれる。

他の合唱部員たちもそれぞれ準備を進めていたが、より本格的なものを作るにはお金が必要だった。学校から支給されている資金では到底足りずに悩んでいたところ、紗羽の母志保から商店街のイベントでご当地ヒーローショーのアルバイトを勧められる。収入も良く、楽しそうという理由で来夏とウィーンは二つ返事で全員での参加を引き受け、すぐにウィーンの家で合唱部全員でのヒーローショーの練習が始まった。

だが、アルバイトは校則で何らかの事情がある場合を除いて、原則禁止となっていた。そこで駄目元でアルバイトの許可を貰うため、教頭の元へ全員で訪れると、教頭が校長と揉めていた。
揉めていた内容は、理事長が進めている事業計画についてであり、伝統ある音楽科が無くなる主旨の話だった。理事長に言われるがまま行動し、自分の意思を示さない校長に対し、教頭は憤りを感じ声を荒げていた。

そのような雰囲気の中、合唱部が現れたため教頭は深く考える余裕もなく容易にアルバイト許可申請書にサインしてくれて、すぐに正式許可を得ることができた。
その後、和奏は紗羽の母志保の助言通りに作曲について教頭に聞いてみると、教頭は和奏の母まひると一緒に過ごした青春時代の記憶を辿る。明るく前向きに楽しむために音楽をやっていたまひるとは対照的に、生真面目に自分に厳しく音楽をしていた教頭は和奏に対し、「…楽しんでいないからです。作らねばならぬと思っている内は無理です。それは作業です。歌というものは、心の奥から自然と溢れてくるものでしょう」というアドバイスを送った。

白祭中止の絶望と開催への希望

アルバイトで費用を無事に稼ぐことができ、白祭も間近に迫ってきた。
其々が本格的に準備に没頭する中、作曲担当の和奏は教頭からのアドバイスを受けてから、大切なことに気付いたかのように作曲が大幅に捗っていた。

一方で、大道具担当の大智は自分の絵に自信がなく、必死に断るも来夏の説得により引き受けてしまう。悩んでいるとクラスメイトで美術部員の浜田徹(はまだ とおる)が、自分が絵を描いてあげると大智に声をかけてきた。思わぬ救いの手に、助かったと喜んだのも束の間、浜田は条件を出してきた。その条件とは、紗羽の写真が欲しいという内容だった。

大智が部室へ戻ると、そこでは紗羽が1人きりで振付の練習をしていた。写真を撮るなら今がチャンスだと考え、カメラを構える大智だったが目の前で踊っていた紗羽に見とれてしまった。それは大智の中で紗羽に対して不思議な感覚が芽生えた瞬間だった。

白祭に向けて生徒は皆浮かれつつあった中で、学校側では臨時職員会議が開かれ、ある問題が起きていた。
それは校内の敷地に高所得退職者向けのマンションを建設するという事業計画だった。工事がすぐに始まるため校舎も覆う形になるため、在校生が卒業後に廃校となり、今年の白祭も中止と決定される。

その事実を知った教頭は、自分が生徒としても教員としても多くの時間を過ごし、高校時代に和奏の母でありかつて親友だった今は亡きまひるとのたくさんの思い出があるこの校舎が壊されてしまうことに深く傷付き悲しんでいた。さらにこの認めたくない事実を、自分から生徒に伝えなければならないという辛さが余計に足取りを重くしていた。顧問を務める声楽部の部室へ行き「今年の文化祭は中止になりました」と生徒たちに伝えた。

そしてすぐに全校生徒や保護者にも知れ渡り、合唱部も最近までの気合いが薄れその後数日は各自で過ごしていた。
久しぶりに部室に集まる合唱部4人だったが、目標を突然失い、気まずい雰囲気だった。紗羽がもう帰ろうと切り出すと、そこに元気よく和奏がやって来て「できたよ!歌!」と笑顔で言った。

「私、お母さんと作った歌をみんなで歌いたい!学校がなくなっちゃうのは私たちの力ではどうしようもないけど、それで私たちが終わっちゃうわけじゃないでしょ!やろうよ!白祭!」と明るく話す。
その言葉に合唱部員たちはすぐに承諾し、和奏によって5人の心はもう再度繋がり1つになった。そしてどのように白祭を開催すべきかを完成した歌を聞きながら話し合った。

これまで笑ったり怒ったり、喧嘩をしたり戦ったり、様々なことがあったが全てが良い思い出で大切なものだった。だからこそ、この歌を最後にみんなで歌いたい、そして自分たちの歌を少しでも多くの人に聞いてもらいたいという前向きな意気込みに繋がった。
そして和奏は「もしこの歌をたくさんの人が聞きに来てくれて、楽しい思いを共有できたら、いつかまた苦しいことに出会った時、たくさんの人に応援してもらったことを思い出して、頑張れるような気がする」と言った。改めて大切な良い仲間に出会えたということを全員で確信し、絶対に全員で歌いたいと強く決意し、もう一度白祭開催に向けて動き出す。

来夏はクラブ会議に出席し、白祭の中止の中止を提案する。既に決まった学校の事情は自分たちでどうすることもできない。だが全校生徒が楽しみに準備に力を入れてきた白祭を前触れもなく中止とされ、努力を無駄にされ、本当に納得しているのかと訴えた。結果的には多数決でも来夏に賛同する生徒は少なく、否決となったがそこで諦める程の軽い感情ではなかった。

一方で和奏は、母の墓参りに行くとそこには教頭の姿があった。
教頭は母まひると過ごした思い出の母校が、廃校となることをまひるに伝えていた様子で「結局、私一人では何も形にすることができなかった。あなたと作った歌、あなたと作った合唱部以上のものは…。あの学校が私にとって最後の音楽との繋がりだったのに、それさえも…」と暗い表情で語っていた。

そんな姿に躊躇った和奏だったが教頭に声をかけ、完成したばかりの母と作った歌を聞いてもらうことにした。
教頭は歌を聞き、多少の癖はあるがまひるを感じると感想を述べてくれた。和奏は「音を楽しむ」というアドバイスをくれたお礼を言うと、教頭は「それはまひるの言葉よ。私にはアドバイスする資格はない」と悲観的に答えた。

その言葉を聞いた和奏は少し戸惑いながら、「私には楽しむことと同じくらい、友人の力が必要でした。苦しいときも声をかけてくれて、みんな自分とは全然違うんだけど、一生懸命で、率直で、喧嘩したり、力を合わせたり…母にもそういう友人がいたんじゃないでしょうか。一緒に楽しんで、悩んでくれた人が」という和奏の言葉に教頭は涙を流した。
和奏は母の墓石の前に行くと、「お母さん、約束の歌できたよ。ちょっと遅くなっちゃったけど。お母さんと、それから友達と一緒に作った歌なんだよ。この歌が全部繋げてくれた。私の宝物だよ。お母さん、ありがとう」と和奏は母に伝えた。

その頃紗羽は商店街の会合に参加し、集まっていた全員を前に白祭の開催を訴え、自分たちの歌を少しでも多くの人に聞いてほしいと力強く頼み込んだ。そんな紗羽の熱意に、最初は驚き躊躇っていた大人たちだった。しかし周囲に白浜坂高校卒業生も多くいることから、廃校になってしまうのであれば最後にもう1度だけ見ておきたいと、各店舗にポスターを貼ることを了承してもらう。

また、先日のクラブ会議で白祭中止の中止を提案し否決となっていた来夏は、声楽部の1人に和奏が作った歌と楽譜を渡し伴奏の依頼をしていた。
それを見ていた声楽部長で、今まで何度も対立していた広畑(ひろはた)が「学校が大変な時に、自分勝手な満足に周りを巻き込まないで」とまたもや反抗的な態度で拒否してきた。

そんな広畑に対し、来夏は「広畑さんは、何で歌ってるの?私、広畑さんのこと好きじゃないけど、歌うのが大好きなのは知ってるよ。だから、一緒に歌おうよ!」と自分の気持ちを真っ直ぐに伝えた。そんな素直に自分を表現できる来夏の真摯な思いに広畑も圧倒され、合唱部と声楽部は共同で動き出すことになった。

そして文化祭前日、大雨の中で明日に控えた開催を心配する合唱部員たちだった。これまでの努力が自信となり、どれだけお客さんが少なくてかっこ悪くても、楽しもうという気持ちに全員がなっていた。

待ち望んだ文化祭から卒業まで

ついに白祭当日。前日に引き続き雨が降っていた。全員が期待を胸に登校すると、理事長の妨害により校門や駐輪場は封鎖され、体育館には鍵が掛けられ警備員が配置されていた。
この状況に憤りを感じていた合唱部の前に理事長が現れ、合唱部一同は校門の中に入れてもらおうと一生懸命に訴えるが、理事長は首を立てには振らない。

どうすることもできなく悔しがっていると、今まで理事長の言いなりになっていた校長が理事長に反発し、白祭を許可してくれる。そして、今まで何もしてあげられなかった自分を許してほしいと、合唱部に謝罪をした。
その姿に理事長は憤怒し、校長の教育が間違っていると指摘すると、校長は「何が教育だ。人の弱さも、その弱さを癒やす歌の素晴らしさも知らないくせに…!あんたにとってここはただの資産でも、生徒にとっては大切な場所なんだ!集まって歌くらい歌ったっていいじゃねぇか!」と声を荒げた。その態度に理事長はさらに激怒し、校長に解雇を告げた。

校長のように身を挺して生徒を守ろうとする姿を見て、教頭も心情が変化して協力的になり、続けて「宮本さん、あなたが動かしてきたこのステージを私に指揮をさせてもらえませんか」と来夏に伝えた。
しかし体育館が使えないのでステージがないと来夏が混乱していると、これまでずっと降り続いていた雨は上がり、晴れ間が出来ると紗羽の呼びかけによって一般来場者が次々とやって来た。
その後、声楽部も協力的になり打ち合わせをし、徐々に屋外の舞台も完成し、ついに音楽劇が開始。順調に劇が進んでいき、終盤でついに和奏の作曲した歌を全員で合唱し、ステージは無事に終了した。

その後、季節は流れ卒業間近。来夏は受験勉強に勤しみ、和奏は音楽の勉強をするため芸大へ進むことになった。大智はスポーツ推薦で既に大学に合格し、ウィーンは故郷のオーストリアの友人と再会した。
紗羽は諦めきれない騎手という夢のために、海外留学をすることになり卒業前に日本を発つことになった。

卒業式では紗羽以外の4人で動画を撮り、紗羽へ送信する。離れていても、歌があればみんなが繋がり、歌があれば辛いことがあっても自分たちは大丈夫だと語り合う。「それでは、白浜坂高校合唱時々バドミントン部、最後に一曲歌いまーす!」という来夏の言葉を合図に、4人で合唱して物語は幕を閉じた。

『TARI TARI』の登場人物・キャラクター

合唱時々バドミントン部

宮本 来夏(みやもと こなつ)

CV:瀬戸麻沙美
合唱時々バドミントン部の部長であり、常に明るく歌うことが大好きで前向きで猪突猛進な性格。誠という弟が同じ学校の生徒会役員にいる。今は亡き祖父との思い出があるコンドルクインズの熱狂的なファン。物語当初は声楽部員だったが、前年度の発表会で緊張のあまり声が出なくなってしまった失敗が原因で歌うことが許されず、顧問から「あなたには人を動かす特別な何かがない」と言われたことに憤りを感じて退部し合唱部を設立、その後バトミントン部と合併して合唱時々バドミントン部の部長となる。物語後半で目標としていた白祭での発表の機会を失い、一時は脱力するが自らが中心となって周囲を巻き込み、他部の生徒とも協力しながら開催を訴え続け、多くの人が来夏の熱い思いに動かされ無事に開催し、全員で合唱することができる。卒業後は大学に進学する。

坂井 和奏(さかい わかな)

CV:高垣彩陽
江の島の土産物店の一人娘で、父と猫のドラと暮らしている。ケーキと野菜ジュースが好物で、面倒見の良い優しい性格。入学当初は音楽科だったが、母を病気で亡くしたことがトラウマとなり音楽から離れて普通科へ転科している。母が病気について自分には詳しく話してくれなかったことをずっと悩み、一時は母との思い出の品を全て捨てようとしていたが、父からなぜ母が自分だけには病気について話さなかったのかという真相を聞かされ、本当の母の思いの丈を知り号泣。その後は音楽の道へ戻ることができた。合唱部に入部した当初はピアノ担当だったが、悩みを解決し「母と和奏で一緒に歌を作る」という亡き母の願いを叶えるため、作曲の勉強を始めてからは積極的に練習を指導するようになった。目標としていた白祭が中止となり他の合唱部員達が脱力し、バラバラになりかけた時、母との歌を完成させ合唱部員達の心を繋ぎ止め、和奏が中心となり再度開催へ向けて動き出す。そして無事に白祭を開催し、全員で合唱をすることができる。高校卒業後は、音楽を勉強するため芸大へ進学した。

沖田 紗羽(おきた さわ)

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