岳(漫画・映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『岳』とは2003年より『ビッグコミックオリジナル』にて連載が開始された石塚真一による漫画、および原作を基にして作られた映画のことである。山岳遭難救助隊の新人として配属された女性警察官と山を愛する山岳救助隊員との交流を中心として、山を愛する人々の想いや成長過程が細やかに描かれている。美しさだけではなく、時には人間に容赦なく襲い掛かる自然の驚異を体感させてくれる山愛に満ち溢れた作品だ。

かつてシェルンドに滑落して三歩に命を救われた青年・小田草介(おだそうすけ)は、勤めていた会社を退職して、エベレスト登頂ツアーに参加していた。
エベレストへ向かう玄関口となるネパールのルクラに到着した草介は、ローツェに挑戦する三歩と偶然再会する。驚きながらも嬉しそうに話していた草介と三歩の元にガイドツアーの責任者であるオスカーが話しかけてくる。オスカーは三歩の旧友であり、様々な山に挑戦したベテランクライマーだった。
ローツェへの道中暫く行動を共にしていた三歩と別れ、草介はいよいよエベレストに挑む。まずはトレーニングがてら近くの山を登ることになったが、ツアーメンバーの一人ビルは登山中にビールを飲むなど問題行動を起こしていた。

クレバスの中へ

ビルの行動に不安感を覚えながらも、一行はエベレストを登り始める。しかし体調がすぐれないことを隠したまま登山を開始したビルは、安全確保を怠りクレバスへと落下してしまった。急いで救助に向かうオスカーとガイドのテンジンだったが、責任を感じた草介も救助に同行する。そしてクレバスの中で動けなくなっているビルを救うため、担架を持って自らクレバスに入ることを志願した。
草介はビルを助け出すと、「自分も一度シェルンドに落ちて三歩さんに命を救われた。その時よく頑張ったって言われたんだ。また山に行こう」と呼びかけ握手を交わす。こうしてビルは下山することになり、草介は新たな約束を胸にエベレスト登山を続けた。

登頂

草介達はいよいよ頂上へのアタックを開始する。ツアーメンバーの一人でベテラン女性クライマーのアンジェラと共にアタックした草介は、多少トラブルに見舞われた者の無事登頂に成功する。体調に不安があったメンバーの一人であるマイクは辿りつけなかったが、天候不安を考慮して下山を開始した。
ところが非常に狭い崖の上で、翌日のアタックを公言していたインド隊が登頂してくる。足止めを食らうことになった草介たちは空気の薄い頂上付近で吹雪に巻き込まれてしまうのだった。

救助

吹雪の中体調が悪かったマイクは酸欠を起こして動けなくなってしまう。オスカーはマイクに付き添って、ツアー会社のメンバーであるピートに酸素ボンベを持ってきてもらう様頼んだ。草介とアンジェラは比較的体力が残っていた為先にキャンプ地に戻ることになったが、途中強風と寒さでアンジェラが動けなくなってしまう。ロープを取りに草介一人で足を踏み出すが、途端に強風にあおられて転落しかけた。そこに三歩が現れて草介を掴み引き戻す。エベレストの天候が崩れることを予測した三歩は、ローツェ登頂を断念してエベレストに救助にやって来たのだった。

三歩は草介やガイドのテンジンから事情を聞くと、酸素ボンベも持たず全員の救助に向かう。頂上付近で動けなくなっていたオスカーも危ういところで救助することに成功した三歩だが、下山間際で頂上付近のインド隊の生き残りの無線を聞き、救助に向かってしまった。

草介は必死に三歩に向かって無線で呼びかけ続けるが、無酸素で長時間頂上付近にいた三歩は高度障害を起こして意識が朦朧としていた。草介の呼びかけにも支離滅裂な言葉しか返せなかった三歩は、一瞬蜘蛛が吹き飛んで晴れ渡ったエベレスト頂上からの景色を眺め、「さ、帰るか」と一言だけ呟いたのだった。

みんなの山

三歩が日本を去ってから五年後、久美は山岳救助隊を続けて三歩や正人に託された山を護っていた。ザックはアメリカへと帰国し、問題を抱える子供たちの為にガイドツアーとして働く。そしてザックと入れ替わるように三歩に救われた草介が、自ら志願して救助隊に加わっていた。
救助要請を受けた久美は手際よく草介と共に出動し、滑落者に対して三歩がいつも言っていた「よく頑張った」という言葉を掛ける。三歩の残していったものは着実に久美や草介へと受け継がれていったのだった。

同じころ、グランドティートンの登山受付所に、三歩がいつも持っていた「岳」の文字が書かれた帽子を被ったナオタが現れる。そしてどこかの山の頂上ではナオタの作ったコーヒーカップから、一筋の湯気が立ちのぼっていた。

『岳』の登場人物・キャラクター

山岳救助隊員

島崎三歩(しまざきさんぽ)

演:小栗旬
長野県出身。小学5年生の夏休みに初めて浅間山に登ったことで登山の楽しさを覚え、高校時代に山岳部に入部してからはさらに山にのめりこむようになった。長野県警の山岳遭難救助隊チーフを務める野田正人は幼馴染であり、山岳部の仲間でもある。コーヒーが大好物で山の頂上や崖の途中など、どこでも楽しむ。ナオタから「安全」と書かれたコーヒーカップを貰い、以降は様々な山でナオタのコーヒーカップを使ってコーヒーを飲んでいる。
高校3年生のころ三歩は卒業後に海外の山を登ることを夢見ていたが、リンゴ農家だった父親が家業を継がないことにショックを受けている様子を見て迷い山岳部顧問に相談する。「人はいつか死ぬ。それまでのルートは自分が決めるものだ」という顧問の言葉に後押しされた三歩は海外に出ることを決め、卒業以降は南米やヨーロッパなど数々の名峰に一人で挑む生活を送ってきた。

世界各地を巡りアメリカのグランドティートンにたどり着いた三歩はかつて別の山ですれ違ったスコットと偶然再会し、スコットと共にティートンでレスキューの仕事を始める。2か月間でそれぞれチームリーダーに選ばれるほどの実力だった三歩とスコットは、お金がたまったころレスキューの仕事を辞めレーニアを目指して旅に出る。しかし高度障害を発症したスコットはレーニアから2か月後の冬山で消息を絶ってしまい、三歩は故郷の長野に戻る。北アルプスの山にテントを張りボランティアの山岳救助を行うという生活をしている。
救助の際にはヨセミテのクライマー仲間からもらった、形見の「岳」と書かれた帽子をかぶっており、左頬に傷があるのが特徴。長期間にわたって海外で生活していたため英語は堪能であり、コミュニケーション能力が非常に高い。初めて会った子供たちともあっという間に打ち解け、まったく言語が通じないクライマーと一緒に山を登ったことがある。
ティートンで登山をしていたころパートナーが滑落死し、両親に謝罪に行った際罵倒どころか暖かな歓迎をされたという経験をしたため、理不尽に罵倒されたり殴られても決して手を出さない。山と山に来る人々を愛しており、遭難者を責めることはせず「よく頑張った」「また山においでよ」と伝えている。
高い救助技術で北アルプスに来る人々を数多く救ってきたが、目の前で阿久津が落石事故に巻き込まれた際には膝をつき茫然自失状態に陥っていた。阿久津が目覚めたことや正人が異動になったことを聞いて自分を見つめなおし、ザックに「クライマーとして自分だけのために山を登ったのはいつだ」と問われたことでローツェ南壁の単独登頂を決意する。長期間にわたって北アルプスの雪崩を記録したノートを残し、ナオタに「岳」の帽子を託してローツェへと旅立った。

エベレスト登頂のためにネパールにやって来た小田草介、かつての山仲間のオスカーと再会した三歩はつかの間の同行を楽しんだ後、ローツェ南壁へのアタックを行った。雪崩や落石の難所を乗り越えて頂上まであと僅かの場所まで辿りついたが、エベレストの天候が荒れることを察知し登頂を断念してエベレストへと向かう。
猛烈なブリザードの中無酸素でオスカー隊の救助を行ったが、インド隊の一人が頂上付近にいるという無線を聞き体力の限界を推して頂上へ戻る。現場へ到着した時点で救助を要請したインド隊はすでに息絶えている描写があったが、酸素不足も伴って意識が朦朧とした三歩は空のコーヒーカップを口にする。その後つかの間ブリザードが止んで澄み渡る頂上に立った三歩は「帰るか」とつぶやいた。しかしその後草介の無線に答えることはなく、三歩の消息は不明となっている。

椎名久美(しいなくみ)

演:長澤まさみ
長野県山岳遭難救助隊の新人として配属された女性警察官。登山経験は無く、三歩から岩登りの技術訓練や雪面での滑落停止訓練などの指導を受けている。大怪我や死亡のリスクがある山になぜ人が登りに来るのか理解できず、救助に間に合わずに助からなかった人達を見て自信を無くしていた。

救助隊員は身内の不幸など特別な事情がない限りは山での救助が優先されるため、特に怪我もないのに連絡をしてきた要救助者や、「よく頑張った」と対応した三歩を甘いと感じ一方的に注意したことがある。その後久美は雨宿りのために歩いていた途中でがけから転落し、骨折を負ったうえ無線が壊れて連絡が取れない等状況に陥る。誰にも発見してもらえないのではないかという不安や落石の恐怖を味わいながら、久美は遭難者が心細さを感じ必死に救助を要請していたのだと実感した。夜間の救助中にたまたま久美の救難信号を見た三歩から連絡を受けた正人たちに翌朝救助された久美は、搬送中のヘリの中で三歩に感謝した。

挫折と葛藤を経て徐々に救助隊員としての自覚を身に着けていった久美だが、阿久津の落石事故の際には自分に責任があると思い詰め辞表を提出した。正人からは救助を続けるよう言われるが、事故をきっかけに阿久津や正人だけでなく三歩までも北アルプスを去ることを知り久美はザックに不安を打ち明ける。ザックから「自分が側にいるから心配いらない」と言われたことと、スズからの励まし、三歩からの手紙などを支えに救助を続ける。

三歩が北アルプスを去った5年後も救助を続けており、要救助者に「よく頑張った」と声をかけている。私生活では燕レスキューのパイロットである青木誠と結婚し、一児をもうけた。

野田正人(のだまさと)

野田正人(画面右)

演:佐々木蔵之介
長野県山岳遭難救助隊の隊長。三歩の幼馴染で高校の時は三歩とともに山岳部に所属していた。仕事に対する姿勢は厳格で、要救助者の捜索打ち切りを決定した際にも冷静に対応するため阿久津や久美からはクールな人物だと思われていた。一方正人と長年の付き合いがある三歩による評価は真逆で、休日に打ち切りになった要救助者の捜索を三歩とともに自主的に行うなど「熱いねぇ」と言われている。

山岳部に所属してすぐのころ、体力的に辛かったために思い悩んで退部を決意したことがある。退部届を書いて辞めたいことを三歩に打ち明けたところ、読まずに燃やされてしまい卒業まで山岳部を続けた。阿久津の事故に思い悩んで辞表を書いた久美に対して「危険は自分たちのすぐそばにあるものだが、それでも救助隊員という生き方が好きだ」と伝え、久美に救助を続けるよう諭す。
そして阿久津の事故の責任を取って伊那の町の警官として異動になったことを三歩に伝え、「山を頼む」と三歩と握手を交わし山から離れていった。

阿久津敏夫(あくつとしお)

演:石田卓也
長野県山岳遭難救助隊の新人隊員で久美の後輩にあたる。登山経験はなく高所恐怖症のため、入隊二年目となる時点でもロープを使っての垂直下降ができず頻繁に注意を受けていたために自信を無くしていた。人と違うことがしてみたいという動機で山岳救助隊に入隊したため除隊されてもかまわないという気持ちで過ごしていたが、ある時父親が仕事場である卸市場で事故死したとの知らせを受け上司である正人とともに実家へと戻る。
通夜の場で父親の仕事仲間から「山で命を懸けて命を救う仕事をしている息子が、自分の誇りだ」とよく話していたと聞かされた阿久津は、復帰後の救助現場で父の言葉を思い出しながら意を決し、自らロープでの垂直下降に挑む。

その後、三歩や久美の後押しもあり2年間一目惚れをしていたスーパー店員のスズと恋仲になる。山岳救助のために度々デートがキャンセルされることはあったが、スズの理解のおかげで恋は順調に進み救助隊員としての自覚を身に着けていった。スズの妊娠、出産を経て久美や三歩、ザックなどの山仲間に見守られながら山で結婚式を行う。長男の誕生後は積極的に育児に参加しつつ、「山で死なないため」に訓練に加え三歩から個人的にトレーニングを受けていた。

順調にトレーニングを重ねて自信をつけてきたころ、車のトラブルで山の現場に行けず立ち往生していた久美に代わり阿久津が山の救助へ向かうこととなった。正人や他の隊員が驚くほどトレーニングの成果を発揮していく阿久津。ところが三歩が要救助者を発見し下山途中、自ら志願してサポートのため三歩のもとに向かっていた阿久津に車大の落石が直撃し意識不明の重体に陥る。落石事故から20日後、意識が回復するも損傷は大きく二度と歩くことはできないと宣告される。それでも阿久津はトレーニング中に三歩が言っていた「山も救助もやってみなければわからない」という言葉を支えにリハビリに励み、三歩が北アルプスを離れてから5年後には車いすに乗り町の警官として復帰している。

ザック・ウェザース

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