魔女の心臓(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『魔女の心臓』とは、『ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。』などの代表作を持つmatobaによる日本のファンタジー漫画作品である。スクウェア・エニックスのウェブコミック配信サイト『ガンガンONLINE』にて、2012年から2016年まで月刊連載し、コミックス全8巻で完結済み。美しく儚い雰囲気の作画と、ゴシックファンタジーなストーリーが作品の魅力。心臓を失くして不老不死となってしまった少女ミカが、魔女として自分の心臓と死を求めて旅をする物語が描かれている。

『魔女の心臓』の概要

『魔女の心臓』とは、アニメ化もされた『ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。』などで有名な漫画家のmatobaによる日本のファンタジー漫画作品。スクウェア・エニックスのウェブコミック配信サイト『ガンガンONLINE』にて、2012年3月から2016年1月まで月刊連載した。コミックス全8巻。2012年の『月刊少年ガンガン』11月号と2014年の『月刊Gファンタジー』9月号に外伝が掲載されるなど人気を博した。美しく儚い印象の作画とゴシックファンタジーなストーリーが魅力的な作品。

「境界(あわい)の魔女」と呼ばれる不老不死の少女ミカが、失くしてしまった自分自身の心臓を探す旅路が描かれる。言葉を話せるランタンのルミエールや、魔法でネズミの姿になってしまった魔法使いの弟子・リツカが旅の仲間に加わり、様々な人々との出会いや別れを繰り返しながら旅を続ける。長い旅の最後にはミカの正体や、心臓を失ってしまった経緯などが明かされていく。
物語は転変集のような形式になっており、ミカやその他の主要キャラクターたちのまわりで起きた出来事などが描かれている。柔らかく可愛らしい作画だが、人の生死や恋愛、幸福とは何かなど、哲学的なテーマが多く、時にはもの悲しさや残酷さが印象的なエピソードも描かれている。不老不死の体で旅をし続ける少女ミカが主人公だからこそ、生と死にについて考えさせられる物語となっている。

『魔女の心臓』のあらすじ・ストーリー

前編:1人と1匹の旅路

喋るランタンのルミエールと共に旅をする少女ミカは、吹雪を避けて立ち寄った教会で「心臓のない境界(あわい)の魔女」の噂を聞く。噂の内容は、悪魔に心臓を売って不死になった魔女が、新しい心臓を求めて夜な夜な森を通る人間の心臓を狩るというものだった。
しかし実際に心臓を狩っていたのは魔女などではなく、森の教会でシスターのふりをして宿泊者を襲う夜盗だった。そして魔女の噂の元になっていたのは、実の妹に心臓を奪われて不死になり、妹と自分の心臓を求めて500年間も旅を続けているミカ自身の話であった。

ミカは心臓がなくなった代わりに得た力で襲ってきた夜盗を返り討ちにしたが、共に宿泊していた心優しい少女は亡くなってしまった。ミカが教会の墓地に少女を埋める姿を見て、ルミエールは「彼女の事かわいそうって思いました?」「それとも……羨ましいって思った?」と問いかける。ミカは「どちらも思わないわ」と答えるが、その涙には少女を思って涙が浮かんでいた。ミカが自分の心臓を求めて旅をする本当の目的は、再び死ぬことができる体に戻り、いつか死を迎えること。そのために妹を探して終わりの見えない旅を続けているのだった。

中編:旅のお供と過去の話

ルミエールとの出会い編

近くの村々で村人を脅しては月に一度生け贄の女性を要求するという銀の竜がいた。その竜退治を頼まれたミカは生贄のふりをしてその竜の元へ向かう。そうして銀色の月の下で「魔女」ミカが出会ったのは、自分と同じく、悠久の時を生きてきた「竜」ルミエールだった。

親に捨てられた卵だったルミエールは、自分が人間の姿にも変化できる高位な血族の出身だということもよくわからず、幼い頃から人間に育てられてきた。しかし人間は竜に比べて非常に寿命が短いため、親代わりだった人物は先に亡くなってしまう。それから孤独を紛らわすために人里を脅かしては、一晩ダンスの相手をして人恋しさを紛らわせてくれる女性を生贄と呼び、村人から募っていたのだ。
そんなルミエールの不遇な生い立ちと長寿ゆえの孤独に同情を覚えながらも、ミカは「人恋しいと思うなら、人を脅かすことなく交わる術を学びなさい」と諭す。会話で問題を解決しようとしていたミカだったが、村人はしびれを切らしてルミエールに奇襲を仕掛ける。驚くルミエールをかばうように、ミカは魔女の力を使ってその場を沈静化させた。その姿を目の当たりにしたルミエールは、ミカが不死の魔女だということを知る。そして、「この人は 俺を置いて逝かない」とミカに希望を見出し、一緒についていきたいと申し出るのだった。
ミカは半ば押し切られるような形でルミエールとの旅を承諾し、その条件として仕方なく主従の契約を結ぶ。この結果、ルミエールはミカのキスによってランタンの姿に変化することができるようになった。

ルミエールと出会うまで、誰かを失うことが怖くて一人旅をしていたミカ。しかしある日、ルミエールと旅をするうちに、一人ではないことを受け入れている自分に気が付く。ミカは寿命があるルミエールのために「お前にはお前の生が、寿命があるある。もう連れてはいけない」と言う。しかし旅の中で少し成長したルミエールは、「ねえ姐さん、一緒に行きましょう。やっぱり独りはさみしいよ。俺、もう最初みたいに連れてってなんて言いませんから」と説得するのだった。ミカはその言葉に頷いて、再び共に旅を続けることを決めた。

大魔法使いローリスの塔編

とある街の中央にそびえ立つ巨大な塔には、かつて偉大な魔法使いローリスが住んでいたという。しかし、突然その魔法使いが行方不明となり、塔は不思議な茨に覆われてしまった。茨のせいで、誰も塔の中に入ることはできなかった。興味を持ったミカは子供たちの度胸試しについていき、そのまま魔女の力で中に入っていった。建物の中まで茨に覆われていたが、その中でティーポットに閉じ込められていた鼠と出会う。その鼠の正体は魔法で姿を変えられていたローリスの弟子のリツカであり、彼は月光を浴びると元の人間の姿に戻ることができた。

リツカの話によれば、ローリスの寝室にあったいわくつきの鏡から人の心を惑わす女性が現れ、死の淵にあったローリスの「死にたくない」という苦悩に取り入って塔を乗っ取ってしまったという。その際にリツカも鼠の姿に変えられて閉じ込められてしまったようだ。リツカにとってそれはたった3日前の話だったが、塔の中の時間が外とは異なっており、実際には200年もの年月が経過していた。
リツカは師匠をたぶらかした女性を倒そうと向かうが、女性は「ローリスはね、あなたの為に使った時間が惜しくなっちゃったの。だから死にたくないって思ったのね」と囁く。心が折れそうになるリツカにミカは「しゃんとなさい!!」と声をかける。そしてミカとルミエール、そしてリツカは協力してなんとか魔性の女を討伐するが、それは同時にローリスの死亡を意味していた。敬愛する師匠を失ったリツカは、まだ未熟な自分もミカの旅に同行しながら人を救える魔法使いを目指したいと願い出る。ミカはそれを受け入れ、ミカ、ルミエール、リツカの3人での旅路が始まるのだった。

後編:旅の果て

遠い昔、魔女のジュリアは森の中で血塗れで倒れていたミカと出会った。その時のミカは自らの記憶も行く当てもなく、そして不思議なことに心臓が止まっているのに生きているかのように動いていた。謎に包まれた少女ミカにジュリアは「魔女になれ」と言い、彼女がいつか望む場所に帰れるようにと様々な知識を授ける。魔女ジュリアとの出会いが、幼き頃のミカの運命を変えることになった。

そしてミカたちが旅の末に辿り着いたその街は、過去にミカが訪れたことがあった街だった。500年かけた旅が再び振り出しに戻ってしまった事実に戸惑うミカ。一方で妹のニナは密かにルミエールに接触し、ミカの旅をやめさせるように訴えていた。旅が終わってミカが死を迎えることを、ニナは恐れていたのだ。ミカが死んでしまうことを同じく恐れるルミエールだったが、最終的にはミカ自身の意思を尊重して旅に同行し続ける。遂に500年前に妹のニナと別れた湖に辿り着いたミカは、過去から未来までを見通すという湖の精ロルロージュに出会う。ロルロージュはミカに対して、全てのきっかけと真相を語り出した。
双子のミカとニナの母親は、代々湖を祀り街の神事を執り行ってきた家系に生まれた先読みの巫女リサだった。彼女は湖の妖精に安産祈願をするが、その時片方の心臓は母親の胎内で既に止まってしまっていた。湖の妖精ロルロージュはリサを悲しませたくないと思い、自身が湖を卵として永遠に生まれ変わり続ける性質を利用することを決める。そして湖の代わりに心臓が止まっていた胎児の体を卵とすることでその命を永らえさせ、ロルロージュ自身の精神はその体の中で眠りについていた。
その後、ミカとニナは無事に育つが、ニナの方にだけ先読みの力が受け継がれていた。やがてリサのように神事の巫女を引き継いだニナだったが、お祭りの前日に先読みで自分が神事の最中に大怪我を負う様子を垣間見てしまう。神事をすることを恐れたニナを見て、ミカは巫女の入れ替わりを提案する。その結果、ニナではなくミカが大怪我を負うことになってしまった。なんとしてでもミカを生かしたいと願ったニナは、再び覚醒したロルロージュに彼女の時間を巻き戻して欲しいと願うのだった。

ミカが旅をしてきた500年間は、実際にはミカが生まれるよりも過去の時間だった。ロルロージュが時間に干渉する力を発揮できるのは一生の内に3度だけであり、1度目は死んでいた胎児に宿るために使い、2度目はニナがミカの時間を巻き戻すために使用していた。最後の1度をミカの願い事を叶えるために使いたいと申し出るロルロージュに対し、ミカは自分の死を願い出る。動揺し反対するルミエールとリツカだったが、ミカは既に十分な時間を過ごせたことに満足しており、また双子で生まれてしまえば同じ悲劇を繰り返してしまうからと二人を説得する。そしてミカはロルロージュに「母親の胎内にいる自分を殺してほしい」と願うのだった。
こうしてミカの長かった生と死の狭間の旅路は終わりを迎えたが、実は最初にリサの胎の中で心停止していたのはニナの方だった。ニナはロルロージュに対して、ミカが死んでいたのだと嘘を伝えるように事前に頼み込んでいた。最後の入れ替わりを果たしたニナもまた願いを叶えて消えていった。

それから14年後、ルミエールとリツカはミカとの最後の約束を叶えるために、お祭りの日に合わせて湖の街へと戻ってきた。それはリサの一人娘として生まれたミカが祭りの最中に事故で死なないように守ること。見事に約束を果たした二人だったが、ミカが見たことのない笑顔でお礼を言う姿を見て、彼女が二人の知るミカとは別人なのだと再認識するのだった。

『魔女の心臓』の登場人物・キャラクター

学生服姿で描かれたミカ(手前右側)、ルミエール(中央)、リツカ(奥左側)。

主人公

ミカ

コミックス1巻の冒頭で自分の心臓を探して旅をする魔女のミカ。

この物語の主人公。「境界(あわい)の魔女」と呼ばれている。自らの心臓とそれを持ち去った双子の妹を探し500年もの間旅を続ける、不老不死の少女。アルコールに非常に弱い。本来の魔女としての薬草学などに関する知識も持っているが、それだけではなく空の胸の中から血液のような液体を自由自在に操って戦うこともできる。実際には血液ではなくロルロージュのいる湖の水と同質のもの。心優しく面倒見がよい性格だが、同時に不死であるために大切な存在ができても死別する未来を恐れ、あまり懐に人を入れたがらない一面もある。

旅の仲間

ルミエール

第3話でミカの寂しさを埋めるために旅に同行させて欲しいと申し出るルミエール。

ミカとともに旅を続ける、言葉を話すことのできるランタン。本来の姿は白銀の鱗を持つ竜だが、時には人間の姿を取ることもある。ミカを姐さんと慕う。
元々は人間に変化できる高位な竜の血族だったようだが、卵の内に親から捨てられてしまい、人間に育てられた。そのため人懐っこい性格で竜のことはあまりよく知らない。ランタンの姿になるようになったのは、ミカのお供として使い魔になる契約をしたため。お喋りで気さくな一方で、大切な人が自分よりも先にいなくなってしまうことに対して大きな恐怖心を抱えている。

リツカ

コミックス4巻で鼠の姿に変えられてしまっていたリツカ。

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