クロエのレクイエム(Chloe's Requiem)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『クロエのレクイエム』とはゲームサークル「ブリキの時計」が2013年10月2日に無料配布したフリーホラーゲーム。「ブリキの時計」は当時19歳のぬばりんと16歳のななしのちよによる女性2人のサークルであり、製作者の破格の若さとゲームの完成度の高さが話題となった。主人公のミシェルはバイオリンの演奏で脚光を浴びる早熟の天才少年。そんなミシェルは家族との確執が原因で飛び出した夜、迷い込んだ先の屋敷でピアノ好きな黒髪の少女クロエと出会い、この屋敷にかかった呪いを解いてくれるように頼まれる。

その後、屋敷で働くシャルロットはなにかとミシェルに声をかけてくるようになった。
後日ミシェルが屋敷を歩いていると、練習室からイラだったピアノ演奏が聞こえてくる。練習室へ行くと既にピエールがおり、ミシェルがくる3時間前から練習していたとぼやく。2人が練習を始めようとすると、シャルロットが掃除にやってくる。間が悪いシャルロットにあからさまな迷惑顔をするミシェルだが、ピエールは明るく仕切り直し、ミシェルはバイオリン、ピエールはピアノを弾きだす。
練習を終えるととっぷり夜が更けていた。ミシェルは練習をサボっていたにも拘わらずバイオリンを完璧に弾きこなし、ピエールはそんなミシェルを「さすがだね」と皮肉って退室する。シャルロットはミシェルの演奏に感動し、2人は世間話をする。シャルロットの年齢は13歳で、使用人としても若すぎた。それを聞いたミシェルは、吝嗇家の父親が給金をケチって小娘を雇い入れたのかと呆れる。
部屋に戻るとピエールが楽譜を読み込んでいた。ミシェルが勉強熱心だと感心すれば、ピエールはミシェルも練習しろと渋面を作る。ベッドに入ってしばらくするとシャルロットがミシェルを呼びに来る。なんでも父親がミシェルに用があるそうだ。ベッドから出たミシェルがピエールに「君も呼ばれたのか」と聞くと、ピエールは「もう話を済ませた」と告げる。「シャルロットは起こしてくれなかったよ」と呟くピエールを背に、ミシェルは父親に会いに行く。
父親はミシェルに伴奏者を有名ピアニストに代えないかと提案する。ピエールのピアノがミシェルのバイオリンに劣ると言うのだ。だがミシェルはピエール以外とは演奏しないと断る。父親の部屋を出るとシャルロットとピエールが待ち伏せていた。「旦那様と仲がよろしくないのですか」と質問されたミシェルは、父親は息子たちを金儲けの道具としか思ってないと説明する。ミシェルの父親は拝金主義の俗物で、シャルロットもろくに給金をもらえずこき使われているだろうとミシェルが言えば、シャルロットは1日に2個もパンが食べられるなんて自分は幸せ者だと反論し、ミシェルの父親に感謝していると告げる。シャルロットはこの屋敷で働けることを本当に幸せに思っているらしい。シャルロットが屋敷に働き口を得た事を喜んでいるのはミシェルへの恋心も関係するが、ミシェルはシェルロットに付き纏われて辟易する。
シャルロットの姿を見たピエールは、ミシェルに「あの子をなんとかしてあげられないのか」と耳打ちする。ピエールはシャルロットに片想いしていたが、シャルロットはミシェルに恋しており、彼女へのミシェルの態度にモヤモヤしていたのだ。
部屋に帰ったピエールは、ミシェルに「次の演奏会は伴奏者を代えてくれ」と頼む。ミシェルは父親がピエールに何か吹き込んだと勘付き、ピエールと一緒でなければ演奏会には絶対出ないと拒む。ミシェルにとってはバイオリンを楽しく弾くのが一番大事で、それには幼い頃から共奏してきたピエールの存在が不可欠だった。そんなミシェルに対し、弟離れができてないとピエールはあきれる。
その夜、ミシェルが目覚めると隣のベッドにピエールの姿がない。扉越しの足音に気付いたミシェルが廊下に出るとシェルロットがいた。シャルロットは寝付けなくて屋敷を徘徊していたらしい。練習室からはピアノの演奏が聞こえてくるが、ミシェルはその音に違和感を感じる。

練習室にてミシェル(右)に抑圧された鬱憤をぶちまけるピエール(左)。

練習室へ行くとピエールがおり、1人でピアノを練習していた。絶対音感のあるミシェルがピアノの不調を指摘すると、「何時間も練習してる僕が気付かないのに、お前にピアノの何がわかる!」と突如ピエールが激昂し鍵盤に両手を叩き付ける。
ピエールは今までずっとミシェルに不満をためこんでいた。ピエールが何時間も必死に練習する傍ら、ミシェルは楽しく弾ければいいと嘯き、ピエールと一緒でなければ演奏会に出ないと駄々をこねる。どんなに頑張っても周囲に認められず批判されるピエールは、兄への劣等感をこじらせていた。ピエールは「双子になんて産まれたくなかった、この屋敷に産まれるのは僕だけでよかったのさ、お前なんて死んじまえ!」と絶叫する。初めてピエールの本音を知ったミシェルは衝撃を受け、自分と絶縁したピエールに「僕だってお前なんか大嫌いだ、謝ったって許してやらないからな!」罵倒を返す。練習室を飛び出したミシェルは、ピエールと顔を合わせたくない一心で居間へ行く。そこへシャルロットがやってきて「ピエール坊ちゃまの言うことなど気にすることありません、あの人は僻みっぽいんです。私あの人は嫌いです」と断言する。だがシャルロットのフォローは、ピエールと喧嘩別れした直後で情緒不安定のミシェルに逆効果だった。しかもシャルロットはピエールがよくミシェルの悪口を言っていたと追い討ちをかけ、怒り狂ったミシェルはシャルロットを追い払い、バイオリンを床に叩き付ける。バイオリンさえなければ仲の良い兄弟のままでいられたのにと、ミシェルの憎しみは楽器に向かったのだった。
すると向こうから猫の鳴き声がし、1匹の黒猫がミシェルに寄ってくる。どうやら屋敷に迷い込んだ野良猫らしい。愛らしい黒猫にミシェルは慰められ、クロエと名付けて飼うことにする。
黒猫のクロエは屋敷の裏庭でこっそり飼育された。厳格な父親がペットを飼うなど許すはずもなく、クロエの存在は周囲に秘密だった。その後もミシェルとピエールは音楽の練習に励んだが、2人の間に会話はなく、ミシェルが声をかけても冷たく無視された。そんなある日、ミシェルの部屋にクロエがやってきたところをシャルロットに目撃される。ミシェルは父親にバレるかもしれないと焦るが、シャルロットは告げ口などしないと訴え、自分はミシェルの味方だと約束する。
以来クロエはシャルロットとミシェルの2人が面倒を見ることになった。シャルロットは朝食のパンを分け与えるなどしてクロエを可愛がったが、ある時クロエの姿が忽然と消える。何かあったのではないかと、慌ててクロエを探すミシェル。屋敷の廊下を歩いていたシャルロットを捕まえてクロエの行方を問えば、シャルロットは動揺を露わにし、ミシェルの父親の命令でクロエを裏山に捨てたと白状する。使用人のシャルロットは雇い主であるミシェルの父親に逆らえず、泣く泣く従うしかなかったのだ。

シャルロット(左)はピエールが父親に告げ口したとミシェル(右)に暴露する。

シャルロットの境遇に理解を示したミシェルは、飼える訳ないのに名前を付けて情を移した自分が一番悪い、自分がクロエを殺したのだと悔やむ。それにシャルロットは反論し、悪いのはピエールだと暴露する。ピエールはシャルロットとミシェルが裏庭でクロエを可愛がっている所を見て、父親に告げ口したのだ。ミシェルが自分の好きなシャルロットと同じ秘密を持って仲良くしているのが、ピエールは許せなかったのだ。
真実を知ったミシェルは、それでも自分が悪いと良心の呵責に苦しむ。元はといえばミシェルがピエールの気持ちを蔑ろにし、彼を追い詰めてしまったのだ。唯一の心の拠り所だったクロエを失ったミシェルは自暴自棄になる。部屋に戻るとピエールがおり、「双子なのにどうしてこんなに違うんだろうね」と寂しそうに呟く。ミシェルは部屋を出た足で父親に会いに行き、次の演奏会には出られないと告げるが、父親は断じて許さない。意見を翻さないミシェルを父親は「お前を家から放り出すこともできるんだぞ」と脅し、ミシェルは「では出て行きます」と啖呵を切る。廊下に出たミシェルは父親の独り言を盗み聞く。父親は「神童もはたち過ぎればただの人というし、今のうちに使っておかないと……」と呟き、それを聞いたミシェルは、父親が自分を利用価値のある道具としか思ってないと痛感する。父親に愛されてないのはミシェルもピエールも同じだった。
愕然とするミシェルのもとへシャルロットがやってきて彼の様子を心配する。シャルロットはミシェルと父親の間に何があったのか執拗に問い質し、ミシェルが最近スランプであることに言及した挙句、「ミシェル坊ちゃまの才能は絶対です、ピエール坊ちゃまが全部悪いんです、きっといっぱい練習すれば周囲の人もミシェル坊ちゃまの才能を認めてくれますよ」と地雷を踏む。
ミシェルには才能も周囲もどうでもよかった、ミシェルを利用する事しか考えてない父親にバイオリンを褒められた所で楽しかった日々は永遠に戻らない。ヒステリーに駆られたミシェルは、なおも言葉を続けようとするシャルロットを力一杯突き飛ばす。
次の瞬間、壁に衝突したシャルロットの上に古いシャンデリアが落下する。シャルロットはシャンデリアで圧死し、不慮の事故とはいえ間接的に人を殺してしまったミシェルはすっかり気が動転する。
後日、ミシェルの父親が手を回しシャルロットの死は事故として片付けられた。ミシェルは「僕は悪くない、シャルロットは目障りだったから死んで当然」と自己欺瞞を働かせて心を守り、ピエールとの仲は冷えきったまま、1年が経過した。
ミシェルが屋敷を飛び出して馬車に乗りこんだのは、1年間も家庭の不和に苛まれ続けた忍耐が、遂に弾けたからだった。
クロエの日記を読んだミシェルが涙を流して懺悔したのは、無自覚のうちに人間のクロエと黒猫のクロエを重ねていた為だ。ミシェルは少女クロエが黒猫クロエの生まれ変わりではないかと心のどこかで思い込み、彼女をペットの代わりにしていたのだった。
ミシェルは漸く黒猫クロエの死を受け止めて演奏を終える。ミシェルは「バイオリンは嫌いだけど、ここでの演奏はそんなに嫌じゃない」とクロエに告げる。クロエは「ミシェルの演奏を聴くと少し楽になる、それは上手だからではなくミシェルが弾いてるから」と呟く。バイオリンの演奏を通し、ミシェルとクロエの距離はさらに近付いた。ミシェルがピエールの事を話すと、クロエは「ミシェルなら大丈夫、きっと仲直りできる。素直な気持ちを伝えるの」と励ます。クロエの無邪気な信頼は、孤独に冷えたミシェルの心を温めてくれた。
ステージの奥で、ミシェルは2階通路の鍵を手に入れる。屋敷にはまだ探索してない領域があるらしい。2階へ下りたミシェルは鍵を使って扉を開け、秘密の通路へと踏み込んでいく。そこは薄暗く荒廃した場所であり、陰惨な雰囲気が漂っている。ふと壁の鏡を見たミシェルの背後に、一瞬人影が映って消える。どうやらこの通路は物置代わりに使用されていたらしく、様々な調度や小物が木箱に詰められている。通路の奥の小部屋から電話のベルが鳴り響き、ミシェルがそこへ行くと床に地下1階東物置の鍵が落ちていた。テーブルには電話がのっており、ミシェルが受話器をとると何者かが「ペンは用意したか」と尋ねる。ミシェルがペンをとると、「6、3、2、1、1、7、2」と謎の数字を呟き、ミシェルはそれをメモする。メモを書き終えるとインクが尽き、ミシェルは羽ペンと共にインクを捨てる。
地下1階東物置へ行くと古いピアノがあった。ピアノの近くには紙が落ちており、「ドは1」と書かれている。奥の本棚には誰かの手記があった。手記には「醜い私は呪いと化してしまいました、気付いた時にはもう遅く私は自ら底なし沼に沈んでいいきました。闇の中から私と呪いは分離しました。黒い猫が私、白い猫が呪い。呪いを断ち切る為には白い猫を殺さなければなりません」と何者かの告白が綴られている。白い猫がブラン、黒い猫がノワールだとしたら、ノワールを殺さなければ屋敷の呪いは解けないことになる。
ミシェルがピアノの前に座ると画面上に「ドA レS ミD ファ← ソ↑ ラ↓ シ→」と表示が出る。
数字のメモ「6321172」と、ピアノ横の紙のヒント「ドは1」をあわせて考えると、「ラミレドドシレ」の順にキー入力でピアノを弾くのが正解となる。
演奏に成功するとピアノは奏者としてミシェルを認め、ミシェルに電話をかけたのは自分だと告白する。
ピアノはミシェルを気に入って地下1階東物置に閉じ込める。ミシェルが出してほしいと頼むと、ピアノは謎かけを持ちかけて、正解したら出してやると取引と持ちかける。それはピアノが鳴らした音をあてるというもので、ミシェルは「ファ」と答える。次の質問は「4/4て何?」というもので、ミシェルは「拍子」と答える。次の質問はどこからか響く楽器の音をあてるというもので、ミシェルは「木琴」と正解する。最後の質問は、この部屋のどこかにある楽譜をさがせというものだった。室内を見回してミシェルは床に不自然な横線が書かれ、所々造花の鉢植えが置かれているのに気付く。この部屋を俯瞰すると床の模様が五線譜の楽譜になる。ミシェルがそう指摘すると、ピアノは渋々負けを認める。部屋から出る前、ミシェルは「君はなんでここにいるの」とピアノに尋ねる。ピアノは元々クロエの所有物だったが、ある日クロエが間違えて蓋で手を挟み、捨てられてしまったのだそうだ。それを聞いたミシェルは楽器は悪くない、楽器に責任を押し付けるのは人間だと自戒する。
ピアノは餞別としてミシェルに地下1階南物置の鍵を渡す。東物置を出ると、周囲から色が消えて不吉な闇に包まれていた。呪いが深化している証拠だ。しかもクロエが目の前にいる。地下の呪いを解くには楽譜が要る為ミシェルは暗がりを捜し回るが、気付けばクロエの姿が消え、血塗れのシャルロットの亡霊が現れる。シャルロットは「また会えましたねミシェル坊ちゃま」と喜び、ミシェルに襲いかかる。なんとかシャルロットを振り切ったミシェルだが、振り向けばシャロットがあり、「私はずっと坊ちゃまに憑いていきます、知ってるんですよ坊ちゃまが何をしてきたか、坊ちゃまに殺されたあの日から……」と呪詛を吐く。そしてシャルロットは、ミシェルが家を飛び出した理由を話し始める。
クロエの屋敷を訪れる少し前、演奏会での無気力な態度を父親に叱責されたミシェルは、父親の寝室に忍び込んで就寝中の彼を殴打する。
父親の部屋を飛び出したミシェルは、その現場に居合わせたメイドも殴打し、通りがかりの馬車に飛び乗った。ミシェルを乗せた馬車の御者は、ミシェルが最近殺人事件の起きた貴族の屋敷へ歩いていくのを見たと証言したらしい。
家出の理由を暴かれたミシェルが「お前は何者だ」とシャルロットを詰問すれば、シャルロットは「私はミシェル坊ちゃまの呪いですわ」と断言する。シャルロットを間接的に殺し、父親とメイドも手にかけたミシェルの罪悪感がシャルロットの亡霊を生み出したのだ。シャルロットの亡霊が消えた後、ミシェルはクロエに自身の罪を告白する。クロエは「知ってたわ、ミシェルはクロエと同じ匂いがするもの」と彼を許す。クロエにもまた死と呪いの匂いが濃く纏わり付いていた。ミシェルはクロエの言葉を聞き、クロエが自分を虐待する両親を殺した事実を知り、彼女の残酷な運命に涙を流す。
地下から通路を経て庭へ出たミシェルは、フレデリック・ショパン作曲の『夜想曲第20番 嬰ハ短調』の楽譜を手に入れる。夜想曲とは夜が明けて宴が終わる時に、楽しかった夜を偲ぶ曲である。屋敷での奇妙な一夜をしめくくるにはふさわしい曲に思えた。
ミシェルが『夜想曲第20番 嬰ハ短調』を奏でると、過去の記憶が鮮明に甦る。
1年前、ピエールと仲違いしたミシェルは別のピアノ伴奏者と組む事になった。そのピアノ奏者こそ、幼いながらピアニストとして優秀なクロエだった。演奏会場はクロエの屋敷の3階ホールで、その為ミシェルは内装に見覚えがあったのだ。3階楽屋で初めてクロエと引き合わされたミシェルは、彼女の名前を聞いて裏山に捨てられた猫のクロエを思い出し、「大違いだな」と独りごちる。人懐こく愛らしい黒猫のクロエと違い、少女のクロエは暗く沈んだ顔で、おどおどした態度が妙にひっかかった。
その時、楽屋にアランが入ってくる。アランはクロエを部屋へ呼ぶが、ミシェルが間に割って入り、「これから彼女と練習があるんです」と断る。アランが去った後、クロエがどうして自分を庇ってくれたのかミシェルに聞けば、ミシェルは「君あきらかに嫌がってたじゃないか。我慢しすぎないほうがいいよ」とそっけなく助言する。クロエにとってミシェルはアランから助けてくれた最初で最後の人間であり、故にミシェルの存在が辛い日々の心の支え、唯一の希望となったのだ。演奏会を終えたミシェルが去っていくのを見送り、「また会いたいな」と呟くクロエだが、そこへアランがやってきてクロエを殴り倒す。
暫くのち、アランは自分の部屋にクロエを呼び、新しく完成した曲を披露する。クロエは傍らに立ち、虚ろな表情でアランの演奏を聴く。アランは「この曲はお前の為に作ったんだ」と悦に入り、『クロエのレクイエム』という新曲のタイトルを明かす。レクイエムとは本来死者を悼む曲であり、生者に捧げるのは存在の否定に繋がる。クロエは今まで抑えていた憎しみと哀しみが弾け、「お父様、クロエは生きています!」と絶叫し、壁に飾られた長剣でアランを殺害する。アランの血を浴びたクロエはその足で母親のもとへ行き、彼女も斬り殺す。『クロエのレクイエム』の完成と同時にクロエは呪いに呑みこまれ、屋敷に閉じ込められてしまったのだ。
演奏を終えたミシェルは、1年前に出会った時とクロエの性格が変わっているのに驚く。ミシェルが知るおどおどした少女と、今の天真爛漫なクロエはまるで別人だった。ミシェルがそう指摘すると、「今ミシェルの目の前にいるのはクロエの残骸、本当のクロエは呪いに乗っ取られちゃったの」と話す。実はミシェルが目撃した白髪の少女こそ、肉体を備えた本物のクロエだったのだ。呪いを抱えたまま死ねば、本物のクロエもまた悪霊化する。そうなれば屋敷は呪いに呑みこまれ、沢山の人に迷惑をかける。クロエはそれを拒み、ミシェルに本体の自分を殺して最後の呪いを解いてくれと頼む。衝撃的な発言にミシェルは動揺するが、クロエは安らかに微笑み、「どうかあなたの呪いが愛に変わり浄化されますように」とミシェルに想いを託す。このクロエは本体の在りし日の残留思念に過ぎず、どのみち消えゆく運命だった。

クロエにキスされて照れるミシェル。

消える間際、クロエは「お祈り」と囁いてミシェルにキスをする。クロエは「ミシェルの優しい演奏が大好き、どうかバイオリンと自分のことを嫌いにならないで」と告げる。
本物のクロエは庭の赤い実の木の後ろにいるらしい。ミシェルが赤い実の木の後ろに回り込むと、下へ続く階段があった。階段から地下1階へミシェルが戻ると、棚の上の頭蓋骨が「チェロ……」と呟いて大きく口を開ける。頭蓋骨はチェロを食べたがっているらしい。本物のチェロは破壊されてしまったが、チェロの絵が描かれたステージの見取り図を持っていた為、ミシェルはそれを頭蓋骨に食べさせる。次に頭蓋骨は「ピアノの……」と言い、ミシェルは電話口でとったメモを食べさせる。本物のピアノは重くて持ってこれないが、ピアノが告げた数字のメモが代わりを果たしたのだ。それでもまだ口を開け続けるので北使用人部屋で拾ったメイドのメモを食べさせ、さらにミシェルが手を噛ませると、頭蓋骨は漸く満足し隠し部屋の鍵を吐きだした。
隠し部屋に入ると、そばの本棚に呪いを解説した本がある。その本によれば、憎しみが強くなりすぎると呪いも成長し、やがては人間の自我を食い尽くすとある。呪いの元凶となった何かがその人物の心に住み着く場合もあるが、その人物を愛する誰かの行動次第では奇跡を起こせるのだそうだ。隠し部屋にはピアノもあり、ひとりでに演奏を始める。ミシェルが驚くと、アランの姿を借りたクロエの呪いが現れる。それはクロエのアランへの憎しみと恐怖が具現化したものだった。クロエの呪いはミシェルを追いかけ回す。
隠し部屋の右側の扉は施錠されているため、逃げるには左側の扉しかないが、ミシェルはクロエの呪いに立ち向かって打破する事に決める。ミシェルは機転を利かせ、予め所持していたアイテムの金槌でピアノを叩き壊す。金槌を連続3回ピアノに叩き下ろすと、遂にピアノの破壊に成功した。するとアランの姿をとったクロエの呪いも消滅する。クロエはピアノに執着していたため、彼女の恐怖の元凶であるアランの呪いがピアノが結び付いていたのだ。
クロエの呪いを倒したミシェルが扉を開けると、発狂したクロエ本体が待ち構えていた。

エンディング

『クロエのレクイエム』には全部で5種のエンディングが存在する。
2013年版では3種だったが、2014年11月21日に公開されたver.1.20で2種類の新エンディングが追加された。
種類はノーマル2種、バッド2種、トゥルーエンド1種。ここでは全5種の内容と分岐条件を解説する。

ノーマルエンド1

飢えと狂気で変わり果てたクロエ本体。

ラストでクロエ本体と対峙すると「武器を振り下ろす・振り下ろさない」の選択肢が出る。こちらは「武器を振り下ろす」を選択した場合のエンディング。

両親の殺害後、屋敷に閉じこもったクロエ本体は飢えと狂気に苛まれ衰弱しきっていた。
美しい黒髪はみすぼらしい白髪となりはて、ミシェルへも殺意を剥き出しにする。ミシェルはクロエの残骸との約束を守り、クロエ本体をナイフで刺す。クロエは倒れ、ミシェルは「クロエ……君は救われた……?」と哀しげに尋ねる。しかしクロエは何も答えず息を引き取る。ミシェルは物言わぬクロエに「君と会えてよかった、本当だからね」と語りかけ、クロエの死体を抱いて表へ出る。クロエの屋敷の場所は丘の上にあり、荘厳な朝日が望めた。ミシェルは「ゆっくりお休み。僕は少ししたら家へ帰るよ、さよならクロエ」と告げ、クロエの亡骸を優しく横たえるのだった。

ノーマルエンド2

ラストでクロエ本体と対峙すると「武器を振り下ろす・振り下ろさない」の選択肢が出る。こちらは「武器を振り下ろさない」を選択した場合のエンディング。

クロエとの一夜のふれあいを通し彼女の哀しみを知ったミシェルは、どうしてもナイフを振り下ろすことができなかった。そんなミシェルにクロエ本体が襲いかかり、彼を剣で刺し貫く。ミシェルは血を吐いて苦悶するが、クロエの手にかかり呪いに取りこまれる運命を従容と受け入れる。バイオリンを続ける意義と意欲を失い最愛の弟と決裂したミシェルは、クロエと心中する道を選んだのだった。

バッドエンド1

ラストでクロエ本体と対峙すると「武器を振り下ろす・振り下ろさない」の選択肢が出る。こちらは「武器を振り下ろさない」を選択し、その次の「クロエを突き飛ばす・抱き締める」の選択肢で「抱き締める」を選択した場合のエンディング。

ミシェルはどうしてもクロエを殺せず、変わり果てた彼女を体当たりで抱き締める。「クロエ怖くないよ、僕は君を傷付けたりしないから。呪いだってなんだって君がクロエであることに変わりないんだから」とミシェルは優しく微笑み、ありのままのクロエを受け入れ、ずっと一緒にいると約束する。クロエの剣に貫かれて命を落とす瞬間も、ミシェルは幸せそうに見えた。そんなミシェルの死を看取り、呪われた屋敷に独り残されたクロエは「ミ……シェ……」と彼の名前を呟くのだった。

バッドエンド2

ラストでクロエ本体と対峙すると「武器を振り下ろす・振り下ろさない」の選択肢が出る。こちらは「武器を振り下ろさない」を選択し、その次の「クロエを突き飛ばす・抱き締める」の選択肢で、「クロエを突き飛ばす」を選択した場合のエンディング。

ミシェルはクロエへナイフを振り下ろさず、襲いかかる彼女を突き飛ばす。その拍子にクロエはよろけ、床に落下したシャンデリアの燭台へ倒れ込む。釣り針のように尖った燭台に背中から貫かれ、クロエは血塗れで息を引き取る。クロエの最期がシャルロットの死に際と重なったミシェルは、「僕はまた殺してしまったんだ……」と自責の念に苛まれる。

死んだと思ったクロエが目を開けてミシェルに襲いかかる。

クロエの死体を前に呆然と立ち竦むミシェルの耳に、「呪いは……解け……」とか細い声が届く。ふと顔を上げると、死んだはずのクロエがミシェルを見上げ、ニタリと不気味に笑む。クロエはミシェルを道連れにし、彼もまた屋敷の呪いに飲みこまれる運命を辿ってしまった。

トゥルーエンド・クロエ

クロエの部屋を調べた際に右手と左手に汚れた人形2体を装備し、彼女の部屋のソファーに座らせると鈴が手に入る。この鈴をクロエが飼っている黒猫ノワールに付けてから、中庭でクロエの残骸の消滅を見守った後に外しにいくとノワールにくすんだ鈴を貰えるので、これをクロエの部屋の暖炉で浄めてからブランに付ける。
ラストでクロエ本体と対峙した時、クロエから貰ったお守り(クロエが描いたミシェルの絵と、そこに貼り合わせたクロエ自身の絵)を右手か左手どちらかに装備しておく。
中庭でクロエの残骸が消滅した後クロエの部屋に戻りクロエの日記を入手。その後『愛しい娘の成長記録』をアランの部屋に取りに行き、クロエの部屋の暖炉でクロエの日記と共に燃やす。
上記の条件を満たした上で「武器を振り下ろさない」「クロエを抱き締める」を選択した場合のエンディング。ミシェルがクロエを抱いて丘の上の墓所に赴くまでは同じだが、朝日を見ながらのミシェルとクロエの会話、及び同時刻のピエールの述懐が追加され、エンドロール後のスタート画面にPVの項目が追加されるのが相違点。
クロエの名前がクレジットされた、実質上のトゥルーエンド。

クロエの残骸の消滅を見送ったミシェルが地下へ下りると、鈴を鳴らしてブランとノワールが近付いてきた。2匹に顔をなめられてミシェルがくすぐったがっていると、突然鈴が光り、クロエの過去の記憶がミシェルの脳裏に投影される。
ミシェルの精神が飛ばされたのはクロエの部屋だった。
そこにはたった今消えたはずのクロエの残骸がおり、火の消えた暖炉の前で1人、「これでいいはずなのにどうして心がぽっかりしてるの……」と嘆いていた。屋敷の呪いを解くには自分がミシェルに殺されるのが最善と理解していながら、彼女はまだ現世に未練があった。
そんなクロエを見かねたミシェルはここから出ようと言うが、クロエはもう痛い思いや辛い思いはしたくないと救いの手を拒む。ミシェルはめげず、「最初はわがままで面倒くさいと思ってた、けれど君のことを知って助けたいと思った、僕も頑張るから君も最後まで頑張って」と切実にクロエに説く。ミシェルの説得を受け入れたクロエの残骸は彼の手をとり、再びこの世に戻ってくる。
クロエの残骸は本体に近い地下1階だけならある程度自由に動けると言い、ミシェルと2人で本体を止めに行く。
クロエ本体と対峙したミシェルはクロエ本体を抱き締め、正気に戻ってほしいと促す。クロエ本体は狂ったように暴れるが、しがみ付いたミシェルの懐からお守りの絵が落ち、その絵を見た瞬間正気を取り戻す。ミシェルがクロエに渡したお守りには笑顔で手を繋ぐクロエとミシェルが描かれており、クロエ本体もミシェルが大事な人であると思い出す。
悲痛な絶叫を上げて倒れ伏したクロエ本体をミシェルが抱き上げると、同時に猫の断末魔が聞こえ、入口でブランが死んでいた。近くにはノワールがおり、ミシェルとクロエの方を見詰めている。ノワールは傷だらけであり、ブランと激しく戦っていたことがわかる。「闇の中から私と呪いは分離しました。黒い猫が私、白い猫が呪い」というクロエの記述を思い出したミシェルは、呪いの本体が白猫のブランであり、黒猫のノワールがクロエの善性の分身だったことに気付く。
床に倒れたクロエ本体の向こうに薄く透けるクロエの残骸が立ち、「逃げちゃだめなの。立ち向かうの」と微笑む。クロエの残骸はクロエ本体に吸い込まれ、再び同化して目覚める。
「ずっと待っていたの、この時を。ねえミシェル、クロエ朝日が見たいな」と目尻に涙を光らせるクロエの頼みを聞き、ミシェルは彼女を抱いて丘の上に行く。ノワールもクロエの肩に抱き付き2人と一緒に朝日を見に行く。

瀕死のクロエ(左)を抱いて夜明けの丘へと向かうミシェル(右)。

荘厳な朝日に照らされたクロエは、「クロエ今とっても幸せなの、この景色が見れて、ミシェルと会えてとっても幸せ……」と至福の微笑みを浮かべ、ミシェルの腕の中で安らかに息を引き取る。クロエの最期を看取ったミシェルは、彼女の亡骸を墓所に横たえ「おやすみクロエ」と囁く。クロエと出会って初めてミシェルはバイオリンをやっていてよかったと思えた。ミシェルは実家へ帰り、自分の過ちを償うと決める。

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