フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと(ゲーム)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』とは「Annapurna Interactive」から発売されたゲーム作品。変死や蒸発など、奇怪な事件に彩られたある一族の歴史を紐解いていく重層的なストーリーが高く評価され、数々の名誉ある賞を獲得している。主人公の少女エディス・フィンチはフィンチ家の末裔にして唯一の生き残りだ。彼女は6年前に去った、ワシントン州オルカス島の実家に再び足を運び、屋敷を探検する中で不審死を遂げた親族たちの秘密を知る事になる。

怪物たちに囲まれて一世一代の名演技を披露するバーバラ。

瞬間、クラッカーから紙吹雪が放たれバーバラは拍手喝采を受ける。バーバラを取り囲む怪物たちは「サプライズ!」と声を上げ、バーバラの演技力と悲鳴を絶賛する。怪物たちの顔を見回したバーバラは、彼らが自分を驚かせに来てくれたのだと確信する。一世一代の絶叫を上げるバーバラに、鋭い牙を剥きだした怪物たちが我先に群がった。
バーバラが消えたあと、警察は全ての罪をリックに擦り付けた。末弟のウォルターは自室のベッドの下に潜りこんで一部始終を見ていたが、想像を絶する恐怖のせいか、固く口を閉じて何も語らなかった。バーバラ自身は屋敷から蒸発したが、彼女の部屋のオルゴールに片耳だけが残されていた。

操作キャラクター・エディス

エディスは閉じた漫画をバーバラの肖像に手向ける。漫画の内容は馬鹿げていたが、生前のバーバラは何より人々に忘れ去られる事を恐れていた。衝撃的な事件の主役として人々の記憶に刻まれる事で、バーバラは望み通りのハッピーエンドを迎えたのかもしれないとエディスは回想する。イーディもまたそんなバーバラの願いを尊重し、彼女の死をフィクションとして昇華した漫画をとっておいたのだった。
バーバラの片耳が発見されたオルゴールは、彼女の部屋から1階廊下の戸棚に移されていた。エディスは何故自分がオルゴールで遊ぶのをドーンが嫌がったのか、その理由を漸く悟る。
『デッドフルストーリーズ』の描写を参考にしてバーバラのオルゴールのネジを巻くと、盤上に鍵が飛び出す。エディスはその鍵を使って地下室の扉を開ける。
地下室には『デッドフルストーリーズ』の描写通りビリヤード台や冷蔵庫があった。子供の頃のルイスは、地下室への立ち入りをドーンに固く禁じられていた。ドーンは「もし破ったら破傷風の注射をするわよ」と幼いエディスを脅すほどに、地下室を特別視していた。この地下室はもともとスヴェンの作業場で、作業机の上には未完成のドラゴンのすべり台の一部が放置されていた。エディスは1度イーディが荷物を持ってこそこそ地下室へ下りていくのを目撃していた。
エディスが地下室の片隅の冷蔵庫を開けると、中にもう1枚防音扉があり、その奥はシェルターになっていた。
ウォルターはイーディとスヴェンの末の息子だったが、バーバラの事件後に謎の失踪を遂げる。エディスはイーディにウォルターの行方を尋ねたが、曖昧にはぐらかされたことを覚えている。実はウォルターは蒸発したのではなく、地下室のそのまた奥のシェルターに隠れ住んでいたのだった。バーバラの事件にショックを受けたウォルターは、外界は危険だらけだと思い込み、シェルターに隠居する生き方を選んだ。シェルター内には大量の蔵書を詰めた本棚があり、遮光カーテンを掛けた窓は固く閉ざされている。戸棚にはイーディが運び込んだらしい大量の缶詰の在庫がある。
ウォルターが生前使っていた机には彼が家族にあてた置手紙が残されていた。エディスはそれを読み、ウォルターのシェルターでの生活を知る。

操作キャラクター・ウォルター

当初ウォルターは突然シェルターを襲う振動に寝付けず、ここでの暮らしが続くか不安がっていた。しかし1週間もすれば順応し、決まった時間に桃の缶詰をペンチで開けて食べるルーティンワークをこなしていく。スケジュール通りに日課を消化する事で、ウォルターはどうにか正気を維持していた。バーバラが怪物に襲われる現場を目撃したウォルターは、ドアの外には恐ろしい化物がいると思い込んだのだった。

地下シェルターにひきこもったウォルターは、白桃のシロップ漬けの缶詰を毎日食べていた。

モリ―やバーバラ、それにカルビンを殺した何者かが明日には自分を殺しにくるかもしれない強迫観念に憑かれたウォルターは、その何者かに怯え続ける日々を30年も過ごした。ウォルターの妄想を補強したのは定期的にシェルターを襲う揺れで、彼はそれが怪物の仕業に違いないと結論付ける。
だが30年が経過したある日、ぱたりとその揺れが止む。怪物がいなくなった今こそ外へ出るチャンスだ。ウォルターはさらに1週間待ち、怪物の気配が完全に去ったのを確認後に床のハッチを開けて地下道へ下りる。あるいはこれは罠で、モリ―やバーバラ、カルビンを殺した怪物は地下道の先で自分を待ち構えているのかもしれない。だがウォルターは外への憧れを禁じ得ず、鶴嘴で行き止まりの壁を突き崩し、30年ぶりに太陽の光を浴びる。
壁が崩れた先は線路が敷かれたトンネルだった。トンネルを出たウォルターは30年ぶりに見る世界の美しさに感動するが、直後列車に轢き殺される。

操作キャラクター・エディス

ウォルターのシェルターを定期的に襲った揺れの正体は、トンネルから伝わる走行列車の振動だった。ウォルターが列車に轢き殺されたのを知ったエディスは、母親ドーンと曾祖母イーディが共謀しウォルターの存在を隠していたと推理する。フィンチ一族は総じて薄命な上に不吉な歴史に彩られていた。もしシェルターの存在を知れば、フィンチ家の末裔であるエディスたちもまた居もしない怪物を恐れて引きこもる羽目になるかもしれないと、ドーンとイーディは危惧したのだった。
床のハッチを開けて地下道へ下りたエディスは、母親の気持ちに理解を示しながらも、「ウォルターの事を隠していたのなら他にどんな重大な秘密を持っていたかわからない」と疑念を膨らませる。エディスは子供に秘密を持って遠ざけた母親と同じあやまちは繰り返したくないと決意する。
地下道を歩いてトンネルから外へ出たエディスは、線路をぐるりと回りこみ、フィンチ家の庭先へもぐりこむ。

フィンチ一族の墓所はイーディが設計した墓石で埋め尽くされていた。

フィンチ家の庭には一族の墓が建てられていた。墓の間を練り歩きながら、エディスはフィンチ一族が自分たちにかかった呪いを本物だと信じ込むあまり、身を滅ぼしたのではないかと空想する。エディスが日記や手紙を通して追体験した記憶の持ち主たちは、それぞれ自らの身に起きた出来事を信じ込んでいた。それが到底現実には起こり得ないような荒唐無稽な現象でも、彼らは本物だと思い込み、自分が主役となる生と死の物語を作りあげた。
墓地には歴代のペットも葬られていた。フィンチ一族にとって、死は常に身近にあった。フィンチ家の屋敷はスヴェンが設計したが墓をデザインしたのはイーディで、カルビンの墓にはロケット、スヴェンの墓には鋸、モリ―の墓には猫など、それぞれにゆかりの物が彫られている。オーディンの墓は断崖の上で、そこには彼を模した石像が堂々と佇んでいた。オーディンの石像の視線の先には、高波に呑まれて座礁した初代の屋敷があり、潮が引くと顔を出すのだった。
イーディは死体が見付かってないバーバラやミルトンの墓も造った。ドーンの1人目の弟ガスと2人目の弟グレゴリーの墓もあった。
エディスはイーディが墓を建てる事で過去に寄り添おうとし、反対にドーンは前へ進もうとしていたと感慨を抱く。イーディもドーンも両方兄弟を亡くし、自分の子供たちが同じ運命を辿らないか怯えていた。エディスは今になって母親に聞きたい事が沢山あると述懐し、エディスが屋敷に戻ってくる事を母親が待ち望んでいたような気さえしてくる。
エディスは現在妊娠22週目だった。エディスが屋敷に帰ってきたのは、一族の身に起きた出来事を知り、やがて生まれてくる我が子にそれを伝える為だった。
庭の梯子を上ってコテージへ行ったエディスは、そこからさらにキャットウォークを伝い、再び窓から屋敷内へと戻る。エディスが新たに足を踏み入れたのはドーンの父にしてイーディの息子、サムの部屋だった。
サムの部屋には彼が狩猟で獲得したトロフィーや表彰状が沢山掲げられていた。壁や棚には動物の剥製が飾られ、床には熊の毛皮が敷かれている。サムは薄命な一族の歴史に逆らうかの如く危険に挑む、勇敢な人物だった。

サムの机の祭壇には、彼の写真やキャンドルが手向けられていた。

サムの机には封筒がおかれてる。エディスが開封すると、中から数枚の写真が出てくる。そこには死亡日のサムの身に起きた出来事が記録されていた。

操作キャラクター・サム

サムは幼いドーンを連れ、オーディン・フィンチ国立公園に狩りに来ていた。この公園はオルカス島に最初に上陸したオーディンの名前が付けられており、広大な森林に野生の鹿やウサギが生息する、絶好の狩猟スポットだった。
今週末は忘れ難い体験になると浮かれるサムとは対照的に、車の中で本を読むドーンは気が重そうだ。ドーンはまだ生き物を撃った経験がなく、上手く狩りができるか不安だった。
そんな娘の気も知らずはしゃぐサムは、ムッツリしたドーンの写真を撮っていく。ドーンは自分も撮りたいとせがみ、サムから借りた古いカメラで森の景色や湖上の流木、囀る鳥を映す。コーヒーを飲み過ぎたサムが木の根元に小便する決定的瞬間をこっそり盗み撮りし、最初は狩りへの同行を渋っていたドーンも、次第に機嫌を良くしていく。
サムは切り株に地図を広げ、獲物が出る地点をマッピングしながらドーンにサバイバルの極意を伝授する。サムは「大事なのはずっと一緒にはいられないってことだ、生き延びたいなら肝に銘じておかねばならん」とドーンに教え諭し、ドーンは「私は大丈夫よ父さん」と明るく答える。
サムはカルビンと一緒に行った最初の狩りや、スヴェンが釣りや火熾しを教えてくれた思い出話をする。その時、サムとドーンがいるのとは反対方向の崖の上に牡鹿が迷い出る。ドーンは絶好の射撃ポイントに移動し、傍らのサムの助言に従って、崖の上で草を食む牡鹿にライフルで狙い定める。ドーンはまだ引鉄を引くのを躊躇っていたが、「生き延びたいなら強くあらねばならん」とサムに後押しされ牡鹿を撃ち抜く。

カメラのタイマーをセットして記念撮影を試みるサム。

ドーンが初めて獲物を仕留めた事をスヴェンは喜び、カメラのタイマーをセットして崖の上に行く。死んだ牡鹿をドーンと挟んで記念撮影しようとしたのだ。生き物を殺してしまった罪悪感に啜り泣くドーンをよそに、サムは牡鹿の角を掴んでポーズをとる。しかし牡鹿はまだ死んでおらず、頭を大きく振りかぶってサムを崖から突き落とす。

操作キャラクター・エディス

最後の写真には牡鹿がサムを突き落とす、まさにその瞬間がとらえられていた。エディスは写真の束を封筒におさめてサムの部屋を出る。サムの死がきっかけで、残されたドーンとイーディの絆は強まったらしい。
次にエディスが訪れたのはガス、グレゴリー、ドーンが使っていた子供部屋だった。他2つのベッドはからっぽだったが、グレゴリーのベビーベッドは当時のまま、クジラのぬいぐるみやガラガラが残されている。枕元には医師の死亡診断書とサムがドーンたちの母親、ケイにあてた手紙が立てかけられていた。サムの手紙にはグレゴリーの身に起きた顛末が綴られており、エディスはそれに目を通す。

操作キャラクター・グレゴリー

グレゴリーはケイに風呂に入れてもらっていた。グレゴリーは風呂が大好きで、特にゴム製のカエルのおもちゃで遊ぶのがお気に入りだった。
グレゴリーの前ではカエルのおもちゃは生きてるみたいにぴょんぴょん跳びはねるのだが、ケイが見ている前ではちっとも動かない。ケイがグレゴリーを風呂から上がらせようとした時、電話のベルが鳴り響く。ケイは「ちょっと待っててね」とグレゴリーに言い置いて浴室を出る。電話の相手はサムで、仕事の途中にかけてきたらしい。「今は話したくないの」と夫に受け答えするケイをよそに、浴槽に1人残されたグレゴリーはお湯をはねちらかして遊ぶ。カエルやアヒルのおもちゃもひとりでに動き出し、グレゴリーは楽しそうな笑い声をあげる。カエルが一際高くジャンプし、浴槽の縁にのっかっていた洗剤の容器を蹴り落とす。
そこへケイが一旦戻ってきて、浴槽の栓を抜く。

グレゴリーはケイが電話で外した少しの間に浴槽で溺れ死んだ。

もう少しで排水を終える頃、ケイは電話口で待たせた夫のもとへ戻っていくが、すると再びカエルがジャンプして蛇口を回す。洗剤が混入した湯はどんどん水位を上げ、グレゴリーは溺れてしまうのだが、ふと目を開けると彼の手はカエルの手となり、浴槽の中はカラフルな珊瑚や海藻が揺らめく海の世界に変わっていた。大好きなカエルに変身したグレゴリーは、広い海をどこまでもスイスイ泳いでいく。

i08171215
i08171215
@i08171215

目次 - Contents