黒森町綺譚(Tales of the Black Forest)のネタバレ解説まとめ

『黒森町綺譚』とは中国のインディーズゲーム制作チーム・拾英工作室が開発したSteam配信のゲーム。ジャンルはホラー探索アドベンチャー。舞台は1998年日本。黒森町という田舎町に迷い込んだ幽霊や妖怪が見える女子高生・希原夏森が、様々な神や妖怪、あるいは都市伝説のバケモノとの触れ合いを通して自らの過去の空白へと迫っていく。ノスタルジックな趣に満ちた緻密なドット絵、美麗なビジュアル、ホラー演出よりもストーリー性を重視した泣ける物語が見所。

森の猫カフェに行った夏森は、猫カフェ店員の相沢 真(あいざわ まこと)と店主の木下 櫻子(きのした さくらこ)に歓迎される。猫カフェは廃車になった黒森町135列車を店舗にして営業していた。
櫻子は猫カフェの猫が2匹逃げて困っていた。真は店を見ていてやるから探しに行けと櫻子を急かすが、櫻子は「自分は人見知りだから遠出は荷が重い」と渋る。夏森は自分が猫さがしを代行するから、戻ってきたら泣雨路の雨を凌ぐ方法を教えてくれと交渉する。夏森も猫を飼っており、猫さがしには手慣れていたのだ。櫻子はそれを快諾し、夏森が猫と帰ってきたら雨から身を守る方法を教えると約束する。
櫻子は夏森を外に案内し、店の前の猫じるしの看板を見せる。夏森はその看板と同じ物を鹿鳴村で見かけていた。櫻子曰く、この看板は幻影列車の中継駅の道標になっているらしい。幻影列車とは明治初期、鉄道を敷く為に森林が伐採され、住処を追われた動物の怨念が汽車に祟ったものである。動物の怨霊は幻の汽車を生み出し夜の線路を走らせ、付近の住民を震え上がらせた。しかし歳月が経った今はその怨念も薄れ、ただ列車の幻だけが残り、特殊なネットワークを形成したのだ。いなくなった猫たちは中継駅の看板から、別所の看板にワープしたに違いないと櫻子は予測を立てる。

いなくなった猫たちの特徴を夏森に教える猫カフェ店員・真。

夏森は真から消えた白猫と茶虎猫の情報を聞く。白猫はスズといい映画が大好きで、小松菜々子という女優に心酔している。スズの歓心を買うには小松菜々子好きをアピールするといい。茶虎猫はモチといい、よく見るファンタジー映画の影響か厨二病のきらいがあり、鹿鳴村で変な骨を発見したと自慢していたらしい。2匹の情報を得た夏森は、早速猫さがしに出発する。

夜の黒森町を徘徊してスズとモチを捜す夏森。

黒森町のビデオ屋に行くと、ウインドウに貼られた小松菜々子主演の映画ポスターに、先程通った時はいなかった白猫が紛れ込んでいる。夏森が大袈裟に小松菜々子好きをアピールすると、白猫・スズが飛び出してくる。次に鹿鳴村に行くと、鹿骨の頭蓋骨がある橋の近くに茶虎猫・モチがいた。モチは突然現れた夏森を警戒するが、子鹿に事情を聞いたところ栄枯の恩人の夏森を絶賛した為、夏森を「希原師匠」と呼んで大人しく言う事を聞く。
無事仕事を果たして猫カフェに帰還した夏森に、櫻子がお礼のコーヒーを淹れる。櫻子は夏森が黒森町劇場に行きたがってる事情を聞く。夏森は自分の不思議な力のせいで黒森町に来たこと、元の世界に帰る為に黒森町劇場へ行きたいのだと素直に話す。
コーヒーを運んできた真が「気を付けてお召し上がりください」と、「気を付けて」の部分を何故か強調する。さらに夏森がカップをとると、コースターには真の手書き文字で「コーヒーを飲まないで」とあった。困惑する夏森に、櫻子は笑顔でコーヒーを勧める。自分に迫り来る櫻子に夏森が危険を感じた時、自動的に念写が発動する。

第三章「猫の列車」

猫カフェ内で念写が発動した夏森は1995年、毒ガス事件発生時の135列車内に飛ばされる。即座に戻ろうとするが、電車に大勢の人間が乗っているせいか念写が不安定になって発動しない。電車内のドアには血痕がこびり付いていた。トイレを覗くと中年男性の山田 隆(やまだ たかし)と女子高生の西村 清子(にしむら せいこ)がおり、後ろ暗い相談をしている。彼らは「ブツ」と呼ばれるものを捜していた。貯水タンクの裏を探った清子は小包を発見する。小包の中には毒ガスを封入したブリキ缶があった。それは山田が工作した毒ガス散布用装置であり、彼ら2人組は今からこれを車両で開栓し、毒ガステロを起こす予定なのだ。さらに山田は協力者として松山の名前を出す。
2人が消えたあとトイレに入った夏森は、山田が落としていった鍵束を入手する。それは車掌の松山が山田に渡した鍵だった。その鍵で封印されていた扉を開けると、車両は別世界に変貌していた。
どうやら電車内は、毒ガスで死んだ犠牲者の怨念と妖怪の妖術が入り混ざった異空間と化しているらしい。夏森が今いるのは幻影列車の中だと雪は告げる。幻影列車は人や動物の意識によって具現化した物であり、故に意識が違えば見える景色も異なる。夏森の念写が不安定になったせいで、1995年の毒ガステロ事件当時の135列車と、幻影列車の空間が重なり合ってしまったのだ。

幻影列車内には雨が降り、吉次郎が育てたスイカの芽が畑に出ていた。

幻影列車と繋がった車両にはしとしとと雨が降り、床には畑が出来ている。シートには帽子を被った2足歩行の猫が座っていた。猫は吉次郎と名乗り、夏森を1940年代の人気女優に似ているとベタ褒めするが、1990年代の女子高生の夏森が知る訳がない。さらに自分が育てているスイカの広告塔になる気はないかと夏森を勧誘するが、目立ちたくない夏森はやんわり辞退する。
次の車両は日がさす花畑になっており、シートを広々と独占して猫が寝ていた。壁には日本万博のシンボル、太陽の塔のポスターが貼られている。さらに夏森が奥の車両に進むと霜が張り、気温が急低下する。壁の操作盤をオフにして空調を正常にした夏森は、電車のシートに真とスズとモチが並んで座っているのに驚く。真自身も何故ここにいるのか当惑していた。夏森の念写が発動した時、近くにいた真とスズとモチも時間遡行に巻き込まれていた。彼女たちを連れてきたせいで念写が不安定になったのだと夏森は理解する。
真は夏森に警告した理由を話す。櫻子が淹れたコーヒーを飲んだ客は記憶を失い、櫻子にどこかへ連れて行かれる。櫻子は「彼らの為だ」とはぐらかすが、スズとモチを連れて来てくれた恩人である夏森まで騙されるのを見過ごせず、真はそっと密告したのだった。
さらに真は自分の知る限り、毒ガステロ事件後135列車は解体されており、唯一残った車両を櫻子が買い取ってカフェに改装したのだと夏森に明かす。カフェに戻る為には事件現場の車両で念写を使うしかないが、まだ毒ガスが残留していて危険だ。夏森たちは毒ガスを排出するため、ドア近くの換気装置を動かす決断をする。
いざ行ってみると、換気装置はロックされていた。社員証がないと開けられないと真は告げる。夏森は先程拾った鍵束に磁気カードがあったのを思い出し、それが社員証だと真は指摘するが、何故自分が電車に詳しいのか真自身もわからない。
夏森は松山の社員証で換気装置を作動させ毒ガスを排出するが、排気口が塞がれていて上手くいかない。そこでモチが自分が車内の排気口を通り、車両の外側の排気口を開いてくると言い出す。モチは自分が唯一のオスなので、他の面々を守らねばと気張っていた。排気口に潜入したモチは、途中で夏森に会うが、こんな狭くて暗い通気口に夏森がいるわけがない。モチが会った夏森は妖怪・蜘蛛婆が化けた偽物だった。モチは勇気を振り絞って襲い掛かる蜘蛛婆に立ち向かい、排気口を塞ぐ蜘蛛の巣を取り払う。任務を終えて夏森のもとに戻ったモチは安堵から気絶する。
夏森が吉次郎がいた車両の反対方向に向かうと、山田と清子が会話している。彼らが探していた松山の鍵束は夏森が着服していた為、計画に変更が加えられる。それはまず最初に清子が毒ガスを出して沿線の街に拡散し、列車が黒森町に停車した時に山田が車両で毒ガスを出すというものだった。清子はまだテロへの加担を迷っていたが山田の決意は固い。彼は真理天堂の教祖を崇拝し、今回のテロで殉死することを栄誉と考えていた。山田は清子の両親が失業したのも彼女が落第したのも愚かな庶民のせいだといい、そんな愚かな庶民をテロで殺すのは正義だと清子を説き伏せる。清子は仕方なく毒ガスを撒く。
夏森は清子が毒ガスを撒いて自死した車両に入る。夏森は釣りへ行く乗客が所有していたアイスピックを手に入れる。そこへ山田がやってきて、「死ねクズどもめ!」と、夏森に有無を言わさず襲いかかる。しかし瀕死の清子が身を挺して山田を止め、「幸福の門なんて嘘、どうして騙したの」と恨み言を吐く。山田はテロが成功すれば幸福の門が開くと清子を丸め込んだが、犯行後の清子はただただ毒ガスの激痛にのたうち回るのみで救いなど訪れない。夏森は山田に使い捨てにされた清子に同情する。
山田がいるので事件現場の車両には踏み込めないと、夏森は真に相談する。念写で戻るのは不可能だが、運転室へ行き、普通のルートで車両に黒森町に戻ってくれるように頼めばいいと真は述べる。幻影列車の車掌には森の猫カフェの常連も多く、彼らの多くは櫻子にご執心らしい。櫻子が喜ぶと言えば、連中はなんでも言う事を聞くとスズも乗り気だ。
運転室へ繋がる車両のドアには氷が張っていたが、夏森はアイスピックで氷を砕いて先へ進む。その車両にはしんしんと雪が積もり、雪だるまが点在していた。夏森がいる雪原の車両の次が運転室だが、ドアは固く閉ざされている。周囲を見回した夏森は、この車両にも先程の花畑の車両と同じ、太陽の塔のポスターがあるのに気付く。しかしこちらのポスターは半分破れていた。
仕方なく真がいる車両に戻った夏森は、片隅に座る猫の乗客から、鹿鳴村に古くから伝わるわらべ歌を聞く。なんでも数十年前の鹿鳴村はとても貧しく、村人は日々の食事にも事欠く有様だったそうだ。そんな時鹿鳴村に神様が現れ、作物を豊かに実らせた。夏森は乗客猫にその神様の名前を聞くが、乗客猫はド忘れして思い出せない。
夏森はスズの案内を受け、花畑の車両に戻る。やっぱりここの壁にも太陽の塔のポスターがある。霊力が強い猫霊(ねこだま)のスズ曰く、このポスターから霊力が溢れだしているのだそうだ。夏森はふと閃き、ポスターを剥がす。すると花畑の車両が途端に暗くなる。太陽の塔のポスターを剥がしたから陽射しが陰ったのだと推理する雪。このポスターはなんらかの巨大な意識が具現化した物らしい。
車両を引き返して吉次郎のところへ来た夏森は、「夏森が昔会った女の子に似ている」という彼の話を聞かされる。15年前、吉次郎が黒森町駅で見かけた女性は20代で、年頃を考えると夏森の母親の可能性が高い。その女性があんまり美しかったので思わずスケッチしてしまったのだと白状する吉次郎に、夏森は見せてくれと頼みこむ。吉次郎は家に帰ってさがすと約束する。親切な吉次郎に対し、今更ながら広告塔の件を断ったのが後ろめたい夏森だが、吉次郎が「もし広告塔になってくれたら絵も早く見付けられそうニャ」と揺さぶりをかけ、夏森も承諾する。吉次郎の店のポスターは全て手描きらしく、吉次郎はスケッチブックを開いて夏森の似顔絵を描く。これを元にポスターを作るのだ。

吉次郎が描いた夏森がモデルのポスター。

吉次郎が描いたポスターは素晴らしい出来だった。吉次郎は自分が黒森町で営む吉次郎果物店に来た時に、夏森の母親の絵を渡すと言った。夏森が交通事故に遭った時、母親と一緒に荷物も炎上してしまった為、彼女は母親の写真を1枚も持っていなかったのだ。だからこそ吉次郎が描いた母親の似顔絵にこだわった。

雪原の車両に太陽の塔のポスターを貼って雪を溶かす夏森。

吉次郎と別れて雪原の車両に戻った夏森が、花畑の車両から持ってきた太陽の塔のポスターを貼ると、途端に日の光がさして雪が溶けていく。念写の影響で幻影列車の時間軸は歪んでいたが、もともと花畑と雪原の車両は同じ物で、花畑の車両の過去の姿が雪原の車両だったのだ。そして雪原が花畑に変わったのは、念写で過去へ行った夏森が太陽の塔のポスターの力で積雪を溶かしたからだった。
ノブの氷を溶かして運転室へのドアを開けようとした夏森は、ドアの過去の記憶を読む。それは真の記憶とも繋がっていた。何故なら彼女はテロ事件が起きた135列車の乗務員であり、事件の瞬間に立ち会っていたのだった。
真は父親が話してくれた旅猫のおとぎ話が大好きだった。旅猫という生涯を列車の中で過ごす猫がいる。雨風を食べ列車の音を枕に眠る彼らは、死を迎えると石となって線路に落ちる。その石を透かして見ると、旅猫の旅の記憶が覗けるのだそうだ。しかし真の父親は早く死んだ。父親の死をまだ理解できない真に、母親は「パパは旅猫と一緒に旅に出たのよ」と話して聞かせる。
真は車掌の父に憧れて父と同じ道に進んだが、事件が起きた135列車に乗り合わせ、毒ガス散布を企む山田を身を挺して止めて死んだ。上司は真の働きを褒めたたえ、早すぎる死を悼む。
ドアの記憶を見終えた夏森は運転室のドアを開け、車掌に黒森町に戻ってくるように頼む。車掌は面倒だと渋ったが、櫻子の名前を出すところっと態度を変える。運転室を探索すると1冊の社会学の本を入手するが、それは松山の持ち物らしく、中には毒ガステロを指示する真理天堂のメモが挟まれていた。メモには「愚かな人々を浄化すれば幸福の門が開く」とあり、実行犯の山田はこれを盲信していたらしい。運転室の中には真理天堂の幹部が山田へ宛てた手紙もあり、山田の妻が山田の同僚と不倫したこと、山田が妻と離婚した事などが書かれている。山田は妻と同僚への憎悪、世間を見返したい思いから残忍な犯行に及んだ。その手紙の差出人は杉原広済といい、彼こそ真理天堂の教祖にして創立者だと手紙には書いてあった。
「旅は終わった」その言葉に夏森が顔を上げると、返り血を浴びた山田が不敵に笑っていた。幻影列車と135列車の交わりはますます進み、135列車を乗っ取った当時の山田の妄執が、現在の夏森に干渉してきたのだ。錯乱した山田から死に物狂いで逃げる夏森。
山田を巻いて車両を走り続けると、その先は葬儀場だった。葬儀場の椅子には真が腰掛け、乗務員の制服を着た自分の遺影を見詰めている。「やっとわかりました、この列車に乗っていると何故懐かしい気持ちになるのか」と述懐する真。彼女は自分が135列車で死んだ事を思い出したのだ。真もまた櫻子に記憶を失くすコーヒーを飲まされていた。夏森は櫻子が真に辛い体験を忘れさせようとしたのだと、櫻子の行為を擁護する。真は櫻子を恨んでないと言い、「列車こそが私の帰る場所なんです」と夏森に告げる。猫カフェへの未練より旅への憧れを選んだ真は、「あのカフェは私にとって終着駅ではありません。列車は別れをもたらしますが再会もまたもたらすものです」と夏森に微笑み、自分の形見として綺麗な石を渡して消えていった。
夏森が黒森町駅で降りると櫻子が待っていた。真が消えた事を話す夏森に、櫻子は優しく微笑んで真から聞いた旅猫の話をする。真も旅猫になったのだと、櫻子は少し寂しげに結ぶ。

夏森から幻影列車内での話を聞いた櫻子は、真との別れを惜しむ。

森の猫カフェに戻った夏森は、櫻子から記憶を忘れさせるコーヒーの説明を受ける。このコーヒーには黒森町の全てを忘れさせる効果があり、忘却のコーヒーを飲んだ客を安全な場所まで送っていくのが櫻子の本当の仕事だった。毒ガステロ事件以降、黒森町劇場付近には犠牲者の怨霊や危険な妖怪が群がるようになった。櫻子は肝試しに来る物好きな人間が、怨霊や妖怪の犠牲になるのに心を痛め、コーヒーを飲ませていたのだった。
櫻子によると夏森が下校中の列車から鹿鳴村へ飛ばされたり、突然念写の力に目覚めたのも、彼女の身にかけられた呪いのせいらしい。それは鹿鳴村に伝わる豊神(ほうしん)という、みだりに名前を口にしてはいけない神の力だった。豊神は嵐を呼ぶことができ、100年以上前に祭られていた栄枯よりさらに強大な神とされた。豊神は人々の畏怖と信仰によって力を増す言霊神(げんれいしん)でもあり、話題にすることが神の増長に繋がるので、櫻子もあまり話したがらない。櫻子は夏森以外に念写を使える人間を知っていたが、その人物の事も教えたがらず、時がくれば自然とわかると濁す。
櫻子はスズとモチを連れ帰り、真の成仏を手伝ってくれた夏森に感謝し、約束通り泣雨路への行き方を教える。真が別れ際に夏森に贈った石は海螺石(つぶらいし)といい、これを身に付けていけば怨霊が降らす毒雨を無効化できる。毒ガステロ事件が起きて以来黒森町劇場は閉鎖され、中は妖怪の巣窟となっているらしい。
「気を付けて」と心配する櫻子に世話になった礼を述べ、夏森と雪はいよいよ黒森町劇場へ赴く。

第四章「妖怪劇場」

吉次郎の店に立ち寄った夏森は、在りし日の母の似顔絵を手に入れる。

劇場に行く途中、夏森は吉次郎の店で母親の似顔絵を入手する。夏森がモデルを務めたかき氷のポスターが妖怪仲間に好評を博し、ほくほく顔の吉次郎と別れた夏森は、泣雨路を徘徊する霊や妖怪を海螺石の力で退ける。黒森町劇場の周辺だけで降るこの雨は、人間の間では原因不明の酸性雨として恐れられ、黒森町劇場への立ち入りが禁じられていた。
劇場の扉を開けた夏森。ホールには映画のポスターが貼ってあり、売店にはポップコーンマシーンも置かれているが、人けはなく寂れている。階段を上って2階へ行くと、踊り場のポスターは血で汚れ、「全部お前のせいだ」とそこに書かれている。扉が開いていた映写室へ迷い込んだ夏森の手元で、羽が今までより強く光る。「呪いを解く鍵がこの部屋にあるのかもしれない」と雪は言い、夏森は探索を開始する。すると映写機の内部に白い羽があった。さっきの光はこの羽と夏森が持ってる羽が呼び合った為らしい。夏森が映写機を回すと念写が始まり、夏森の脳裏に何故か8歳時の交通事故の瞬間がフラッシュバックする。その後、夏森はベビーベッドがある部屋に飛ばされる。ベビーベッドを挟んで会話してるのは夏森の両親だ。どうやら夏森の生後間もない頃の記憶らしい。夏森の父・誠一は鹿鳴村に食品加工工場を建てる企業に投資分析を任されており、夏森の母・綾子は「どんなに忙しくてもちゃんと休んでちょうだいね」と誠一を労わる。
目が覚めた夏森は、映写機の電源を入れた途端に念写が発動し、自分が気を失ったことを雪に知らされる。雪は「私が悪いのよ、呪いを解く手がかりが欲しくてあせりすぎたから」と自分を責める。夏森はそんな雪を慰め、倒れている間に見た光景を話すが、両親が囲んでいたベビーベッドには黒いフィルムが寝かされているだけだった。あの黒いフィルムに自分と雪の呪いを解く鍵があるに違いないと夏森は確信する。

右がばっく、左で障子を開けているのがゆっめ。

1階へ行ってから2階へ行き、再び映写室の扉を開けると、そこには別世界が広がっていた。静の隠れ家がポストの中にあったのを思い出した夏森は、黒森町劇場も妖怪の妖術で空間が歪んでいると当たりを付ける。映写室には達磨や提灯で飾り立てた、ピンクの獏の形の屋台があった。突如としてその屋台が喋りはじめる。屋台はばっくと名乗り、自分は人間の夢を食べる獏だと夏森に述べる。しかし近年の人間が見る夢が酷すぎて消化不良を起こし、夢を食うのをやめてしまったのだそうだ。「どうしてあそこまで恐ろしい悪夢が見れるんだ」と嘆くばっく。悪夢に毒されて人間自体がトラウマになったばっくは夏森との会話を避け、「詳しい事はゆっめに聞け」と逃げる。
次に夏森の前に現れたのは、ばっくの相棒の赤い獏・ゆっめだった。夏森が「先程までは映写室だったはず」と部屋の変貌を問えば、ゆっめはあそこに入れるはずがない、あそこは数年前に強力な結界によって消し去られた為、ドアを開けてもばっくの屋台にしか辿り着けないと返す。
ゆっめは夏森を結界を破る事ができる特別な能力者と誤解し、劇場へ来た目的を尋ねる。夏森が自分にかけられた呪いを解きたいのだと話してフィルムの在処を問えば、屋根裏部屋に保管してあるとゆっめは言うが、屋根裏部屋にはとんでもなく強い悪霊が巣食っていて危険らしい。毒ガステロ事件以降劇場は封鎖されたが、こっそり付近の妖怪がもぐりこみ、営業を再開した。以降妖怪の妖怪による妖怪のための映画が掛けられていたのだが、屋根裏の悪霊のせいで新しいフィルムを入手できず、最近は客足も引いてしまったのだそうだ。
悪霊に手を焼いた妖怪たちは、劇場を再興するために祭を計画していた。祭りで豊神のご機嫌をとり、屋根裏の悪霊を退治してもらおうと企んだのだ。豊神祭が開催されるのは11年ぶりだとゆっめは言う。11年の祭りは人間が行っていたが、豊神への信仰が薄れたのと、毒ガス事件以降劇場に立ち入りできないので今は中止されているそうだ。
1階の映写ホールで開催されるその祭りに夏森が参加したいと言えば、ゆっめは1階の小道具部屋の妖怪面を付けて行けば、他の妖怪に人間だとバレないと夏森に教える。さらには夏森が求める黒いフィルムが手に入れば、ばっくに食べさせて上映すればいいと言い出す。ばっくは食べた夢を人間に見せることができる為、その力を使えば夏森はフィルムの内容を体験できるのだ。

小道具部屋で妖怪面をさがす夏森。

小道具部屋で妖怪面を付けた夏森は、1階映写ホールへ行く。そこには色んな妖怪が集まり、豊神祭の支度で賑わっていた。夏森は大きなマスクをかけた眼鏡の女性・安藤 恵(あんどう めぐみ)に新しい従業員と間違われる。恵は一見普通の人間だが、豊神祭の主催を任されているので人外だとわかる。夏森は恵の勘違いにのっかり、従業員を装って情報収集を始める。豊水祭には祭祀・祭楽・豊水が欠かせないらしく、祭祀とは豊水への祈りの呪文、祭楽は祭りで奏でる音楽、豊水は鹿鳴村でとれる豊饒の水をさす。この3つが揃って、初めて豊水祭は成功するのだ。夏森は黒森町劇場に常駐する鬼のバンド・三昧(ざんまい)、人間の文化や宗教を調べる人類民俗学者の妖怪・泉八雲(いずみ やくも)と接触する。三昧は祭楽を奏でる為に重要な楽譜が1階の音楽室にあるのだが、ピアノに取り憑いた幽霊に邪魔されて取りにいけないとぼやき、八雲は豊神への祈りの呪文が解読できずに悩んでいた。夏森は自分が代わりに楽譜をとってくると三昧に約束し、さらに八雲が解読しようとしている呪文が鹿鳴駅のラジオから流れてきた真理天堂の布教の文言と同じなので、念写で過去の豊神祭へ戻れば手に入れられそうだと請け負った。あと1羽、鴉見(からすみ)というカラスの妖怪が鹿鳴村へ豊水をとりにいってるらしい。
音楽室へ向かった夏森はこっそりとピアノを弾く幽霊に忍び寄り、楽譜を手に入れる。その時幽霊が夏森に気付くが、彼は夏森を毒ガステロ事件の犠牲者の愛花という人物と勘違いし、愛花が好きだったピアノを毎日手入れしているのだと誇る。この幽霊は黒森町劇場のピアニストの愛花に恋し、帰らぬ人となった彼女を待ってピアノを弾き続けていたのだ。夏森は幽霊がピアノを弾いている間に音楽室を去る。
映写ホールに戻った夏森は三昧に楽譜を渡す。三昧は夏森に感謝する。1階ホールに出た夏森は鹿鳴村から帰還した鴉見に会うが、彼は豊水が手に入らず悩んでいた。豊水の井戸は既に枯れていたのだ。豊水はずっと豊水神社にあったのだが、鹿鳴村になってからは誰も管理しておらず、付近の動物に飲まれてしまった可能性が高いらしい。
1階事務室へ行った夏森は、そこで豊神に感謝を捧げる信者の手紙を読む。手紙の主は豊神のおかげでこれから儲かる会社がわかり、株を買い占めて成功したらしい。手紙の主が株を買い占めた会社は、夏森の父親の誠一が、8年前の事故が起きるまで勤めていた食品会社だった。
事務室のスピーカーに触れて念写を発動した夏森は11年前の豊神祭に飛ぶ。11年前の豊神祭は普通の人間が開催する祭りだった。毒ガステロ事件前までは、黒森町と鹿鳴村の人間が黒森町劇場に集って豊神を祭っていた。夏森はこっそり映写ホールへ行き、祭壇に捧げられていた豊水と、祭祀の呪文を書いた巻物を入手する。
豊水と祭祀の呪文を手に入れた夏森は、物陰で背広の男と劇場管理員の男が話しているのを目撃する。背広の男の名前は寺島英誠といい黒森町劇場の支配人だったらしい。劇場管理員は豊神祭の人出が少ないのを嘆くが、英誠はある食品加工会社が豊水を原料にし、もっと優れた農作物の成長促進剤を開発したから仕方ないと呟く。作物を実らせる豊水のご利益めあてに豊神は信仰されていたので、それに代わる成長促進剤ができたら信仰対象がよそに移るのが当たり前だというのが英誠の解釈だ。
小道具部屋の時計に触って念写を発動しようとした夏森は、小道具部屋でデートする男女を目撃する。それは11年前の豊神祭へ夫婦で来ていた綾子と誠一だった。綾子は知り合いの女の子に豊神祭への参加を勧められたらしいが、その名前は口にしなかった。
若い両親が消えたあと、夏森が時計に触れて念写を発動すると奇妙な空間へ飛ばされる。また念写が不安定になっているらしい。夏森が強制的に転移させられたのは、憎悪に歪んだ形相のお面が沢山飾られた小部屋で、「お前のせいでこんな目にあったんだ、お前を許さない」と夏森に呪詛を吐く。
夏森が再び目を開けると、今度こそ1998年に戻っていた。雪曰く、夏森が見たお面のバケモノは毒ガステロ事件の犠牲者の怨霊で、過去に執着する夏森と、過去に縛られた彼らの魂が共鳴したのだそうだ。事務室のデスクを調べた夏森は、机上の写真立てを持ち上げる。写真には誠一が写っており、他3名は松山正男、渡辺勝男、寺島英誠だった。渡辺は鹿鳴村の村長であり、彼ら4人は豊神を通して繋がっていたのだった。
夏森は両親が豊神に関わりがあったと知って悩む。豊神祭が成功して豊神が降臨に成功すれば、全てがわかるかもしれない。
映写ホールに行った夏森は、屋根裏部屋の悪霊が暴走した事を三昧に知らされる。凄まじい奇声を発して暴れる幽霊を恐れ、三昧と恵、鴉見を除いた妖怪は小道具部屋に隠れてしまった。夏森はどうして外へ逃げないのか不思議がるが、泣雨路の怨霊の集合体が降らす雨は劇場内の妖怪や霊にとって猛毒で、それに比べたら音楽室の幽霊のほうがまだマシらしい。退路を断たれた三昧・恵・鴉見は相談し、夏森を巫女に仕立てて豊神祭の強行を決める。豊神祭には祈りを捧げる巫女が不可欠だが、それは異形の妖怪より人に近い姿をした者のほうがよりふさわしいのだった。不思議な力で祭楽の楽譜と祭祀の呪文を持ち帰った夏森には巫女の資格が十分だと恵は述べる。
巫女の装束に着替えて祭壇に立った夏森に、雪は「豊神祭になんの意味もないの、豊神はもう死んでいるの」と衝撃的な告白をする。実は雪は鹿鳴村出身で元豊神の信者であり、豊神の禁忌に触れて声を奪われたのだそうだ。自分も知らない間に豊神のルールを犯していたのかと不安がる夏森に、雪は「あなたは豊神の犠牲者なの」と謎めいた発言をする。
それを聞いた恵はプランを変更し、夏森が念写で過去に戻って毒ガステロを防げば劇場の怨霊も消えると提案する。しかし雪は念写でも死者を助けることはできないと反論する。夏森は迷うも長く旅を一緒にした雪を選び、「私は私の心のままに桐谷さんを信じる」と恵の誘惑をはねのける。恵はならば念写の力をよこせ、自分が過去へ行ってテロを止めると夏森へ迫るが、雪は念写は自分にしか使えないと断った。夏森は折衷案として、念写で過去へ戻って怨霊を祓う方法をさがしてくると言った。そんな彼女を信用し、恵は正体を明かす。実は彼女は黒森町劇場に出没すると噂される口裂け女で、大きなマスクは裂けた口を隠す為だったのだ。
恵と共に2階の映写室のドアを開け、ゆっめ・ばっくと会った夏森。恵は自分と夏森で怨霊を退治するとゆっめに話し、彼に以前預けた腕時計を返却してもらい、それを介して夏森に念写を使わせる。恵の腕時計は3年前の黒森町劇場毒ガステロ事件の日時で止まっていた。
念写を発動させた夏森は、何故か自身の子供の頃の記憶を見る。夏森は体育館の舞台袖でかくれんぼをしていた。他の子供は夏森に鬼を命じ、直後に「誰がアイツと遊ぶかよ」「バケモノが見えるなんて気持ち悪い」と去ってしまっていた。
次に見たのは恵の過去の記憶だ。恵は嘗て芸能界を引退し、青い鳥劇団という劇団に鞍替えした。演劇界に転身した恵は、青い鳥劇団の脚本家との密会をマスコミと取り沙汰され、芸能界を引退したのは彼との交際が原因かと質問攻めにする。しかし恵はファンの期待には必ずこたえると約束し、堂々とマスコミの前から去っていく。
再び夏森の記憶が目の前に広がる。
小学生の夏森は多忙な誠一に構ってもらえず寂しい思いをしていた。父親は夏森の運動会にも来てくれず、彼女が妖怪や幽霊が見えると相談しても、「そんなものはいないんだよ」の一点張りでまるで取り合ってくれない。父親に理解してもらえず孤独を深める夏森。
再び恵の記憶が目の前に広がる。
黒森町劇場の経営者の英誠は、自身が主催も務める青い鳥劇団での恵の活躍を喜ぶが、彼女は銀幕への復帰が決まっていた。恵が劇団から去るのを惜しむ英誠に、恵は青い鳥劇団で過ごした経験は一生忘れないと感謝を伝える。
今度は夏森の記憶が広がる。父親をはじめとした周囲に妖怪の話を嘘だと決め付けられて落ち込む夏森を、体育館で出会った妖怪は「あなたがどんなに仲良くしようと微笑んでも冷たく背を向ける人がいる。そして同じように、あなたのことを温かく抱きしめ生涯の友となる人もいる」と励ます。夏森の子供時代は孤独だったが、優しい妖怪たちが支えてくれたので救われたのだ。
今度は恵の記憶が広がる。
銀幕への復帰を決めた恵は、ステージでファンを自称する不審な男性に追い詰められる。男性は恵と脚本家の仲を勘繰り、「一番愛しているのは僕なのに裏切った」と逆恨みし、彼女にナイフを振り上げる。恵はナイフで口を裂かれ顔に醜い傷痕を負った。傷が深すぎて整形手術も無理と診断された恵を、芸能界の友人知人、そしてファンは「これからもずっと応援しますよ」「どんなふうになったってみんな安藤さんのことが好きなんですから」と口先だけで励ますが、彼らは美貌を損なった恵のもとを1人残らず離れていった。挙句恵には口裂け女という不名誉なあだ名が付けられた。
目が覚めた夏森は恵の謝罪を受ける。夏森が念写に使った恵の腕時計は、長い間ゆっめとばっくに預けていた為、彼らの妖力が移ってしまっていた。それ故人間に夢を見せるばっくの力が2人に干渉し、夏森と恵の記憶が入り混じったのだ。
劇場の支配人室へ行った夏森と恵は、そこで英誠の暗号カードを入手する。カードには所々穴が穿たれ、その穴を所定の本の記号に合わすと机の抽斗が開く。抽斗の中には屋根裏部屋の鍵と、杉原広済が書いた本がしまわれていた。本に挟まれた手紙には裏切り者の松山が真理天堂の信者の名簿を警察に持ち込もうとしていた事、英誠も真理天堂の信者であり、松山の始末を杉原に命じられたことが書かれていた。雪の解説によると、豊神を信仰する豊神教が廃れたあと、経済成長期に急激に信者を増やしたのが真理天堂であり、内部の体制は厳格で裏切り者はリンチで消されたらしい。即ち松山が豊神教の信者である鹿鳴村の村人に吊り殺されたというのは妻の誤解で、実際には豊神教に罪を着せて真理天堂の信者が殺したのだ。そして松山殺害の主犯こそ英誠だった。
屋上へのぼった夏森たちは、3年前の毒ガステロ事件の犯人を目撃するが、それはなんと恵本人だった。恵の隣には英誠がおり、毒ガスを撒くのを躊躇う恵を言葉巧みに唆す。
ストーカーの襲撃を受けた後、被害者のはずの恵は「口裂け女」とマスコミに叩かれ、ファンや友人は全て離れて行った。その時恵を支えていたのは青い鳥劇団の仲間だったが、実は劇団は真理天堂の信者の隠れ蓑で、英誠は恵を毒ガステロの主犯に仕立て上げ、浄化と名付けたテロを起こそうと画策していた。
黒森町劇場の毒ガステロ事件の主犯は恵と英誠の2人だった。
毒ガステロの実行犯の恵は、死後も劇場を離れられずにいた。恵は英誠の言うなりになって毒ガスを撒いた事を激しく後悔し、3年前の自分を止めに走るが、彼女は何故か3年前の自分をすり抜ける。雪は念写の力は豊神の呪いであり、豊神は天候を司る神で輪廻転生の因果律には無関係であるからして、人間の死をどうこうする権能はないと恵に告げる。
恵は雪の言葉に絶望し、泣雨路の怨霊も劇場内の悪霊も、全部自分が犯した過ちの犠牲者だと泣き崩れる。そんな恵を見た夏森は、怨霊を祓うアイディアを閃く。それには恵の協力が不可欠であり、夏森は恵に怨霊を引き付ける囮になって欲しいと頼む。恵は顔に傷を負ってから深刻な人間不信になっていたが、同じく周囲から孤立していた夏森の過去を夢で共有し、彼女なら信頼できるとして協力を承諾する。
念写で元の時代に戻った恵は夏森と別行動し、1人で1階へおりて怨霊を引き付ける。1階は赤黒く空気が淀み、壁には「全部お前のせいだ」「苦しみ嘆け」「口裂け女ブス、死ね」など、恵への精神攻撃が殴り書きされている。その時、映写ホールから凄まじい奇声が響く。怨霊による恵への精神攻撃はまだまだ続き、青い鳥劇団の団員たちが恵に叩いていた数々の陰口が再現される。「演技を磨くために芸能界を引退したなんて旬が過ぎたのを隠すための口実だろ」「お前はファンを騙した、ファンへの愛などすべて偽りだ」と渦巻く呪詛を振り切って映写ホールへとびこめば、三昧が怨霊に襲われていた。恵は「あなたの狙いは私でしょ」と怨霊を挑発し、怨霊にわざと自分を追わせて映写ホールを離れる。どうにか時間稼ぎをして夏森との合流場所の小道具部屋に行く。
夏森が立てた計画とは、怨霊を屋上に誘き出し、怨霊にも毒な泣雨を浴びせることだった。3年前の屋上に夏森は静の腕時計を置いておいた。これでもし屋上に追い詰められても、腕時計にさわれば3年前に飛べる。怨霊を屋上へ連れ出した夏森はすぐさま腕時計に触れた。3年前に飛んでからまた戻れば、怨霊は泣雨をまともに浴びて蒸発し、すっかり元気になった妖怪たちが夏森の働きを褒める。
しかし恵の姿がどこにも見当たらない。一抹の不安が夏森の脳裏を過る。妖怪たちの話だと、恵も怨霊を追って屋上に来て、夏森に襲い掛かろうとする怨霊を身体を張って止めたのだ。
屋上からおりた夏森を踊り場で迎えたゆっめは、恵は消えたと告げる。実はあの怨霊の正体は、恵の魂が化けたものだった。3年前の毒ガス事件の直後、恵は後悔に苛まれて自殺したが、自責の念が強すぎて怨霊化してしまった。しかし恵は完全に怨霊になりきる前に自分の魂の一部を腕時計に移し、それをばっくが食べ、恵の幻影を呼び出したのだ。
夏森たちが今まで行動を共にしていたのは、ばっくが投影していた在りし日の恵の幻だった。夏森は恵の形見の腕時計を握り締め、彼女を悼む。そしてゆっめが発掘した黒いフィルムを渡される。
夏森は八雲から豊神と豊神教の説明を聞く。八雲の話によると、豊神とは正しい名前を「豊饒森羅万象を司る神」といい、明治期までは鹿鳴村でも然程有名な神ではなかった。
当時当時鹿鳴村は石炭産業で栄え、人々は栄枯を信仰していた。現在から遡ること100年ほど前、鹿鳴村のある夫婦の間にできた女の子に豊神が転生した。豊神の転生体の女の子は不思議な力を持っていたが、栄枯への信仰が主流の鹿鳴村では、幽霊、妖怪、炭や無機物の声さえ聞くその特殊体質故に彼女は忌み嫌われた。ところが、第二次世界大戦中に状況が変わる。第二次世界大戦で男手をとられた鹿鳴村は衰退したが、豊神を信仰していた一部の兵士だけが無事生還し、以降鹿鳴村の人々は栄枯から豊神に乗り換えた。さらに豊神のご利益を得た豊水は農作物を豊かに実らせた。豊神の転生体は神が宿る肉体を意味する神宮と呼ばれ、豊神教の教祖として崇められたが、数年前に103歳で他界し、真理天堂の台頭と相俟って今は廃れてしまっていた。
黒いフィルムを持った夏森が映写室へ行くと封印の結界が解除されている。映写室を封印していたのは豊神であった。夏森の念写の呪いは豊神に関係するので、呪いを解きたいなら映写室の映写機で黒いフィルムを再生すべきだが、記憶を全て取り戻したいならばっくに投影を頼んだ方がいい。実際ばっくを介して念写を使った夏森は、恵の過去をも垣間見ていた。
雪はどちらを選んでも夏森の意志を尊重するといい、映写機とばっく、どちらで黒いフィルムを再生するか夏森に託す。
ここで「呪いを解く」「真実を観る」の選択肢が出てエンディングが分岐する。

終章

エンディングは全2種。
黒いフィルムを手にして映写室へ行ったときに「呪いを解く」「真実を観る」の選択肢が出る。
「呪いを解く」を選んで映写室の左の扉を開ければEND1「帰途」、「真実を観る」を選んで映写室の右の扉を開ければEND2「夏花冬雪」に分岐する。

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