デビルマン(DEVILMAN)の名言・名セリフ/名シーン・名場面まとめ

『デビルマン』とは、70年代にアニメの企画と並行して誕生した漫画作品で、原作者である永井豪の会心作の一つである。
悪魔を主人公にした斬新な設定と、ハードなアクション、そして後半のヨハネ黙示録を元にした終末観溢れるストーリーが話題を呼び、いくつもの派生作品が生まれた。
人、悪魔、そして神とは一体何か、本作の登場人物の言葉にその秘密が隠されている。

テレビで、明の正体を暴露したばかりか、人類をさらに追い詰めるような真似をした了を許すわけにはいかず、明は了を探し出した。了はデーモンとの戦いで焼け跡となった町に佇んでいた。「全人類を裏切った反省でもしているのか?」と尋ねる明に対し、了は「反省も後悔もない、あれはやって当然のことなんだ。」と言った。

明がデビルマンに変身する姿を映した映像と、了がテレビで言った「隣人を疑え。」という言葉により、人間は更なる疑心暗鬼に襲われ、人間は自分しか信じられない、あわれな獣に成り下がったのだ。そして了は、人類は自然に滅び、デーモンの世界が誕生するのだと言った。

さらに了は明に、「不動明、きみは何者だ?人間か?ちがうだろ、元の人格が人間のものであっても君はどっから見てもデーモンなんだよ、きみだけじゃない、ほかのデビルマンも人間社会で生きては生けない。」と言った。了が明をデビルマンにしたのは、明を他の人間といっしょに滅ぼしたくなかったからであり、デーモンの世界で生きていけるようにしたかったからなのだ。

「新しい世界がはじまる新しい歴史がはじまる!おれたちデーモンの新世界が…」了はそう言って、明に「新しい時代で生きるように」と伝え、とその場から立ち去った。

なぜ了は、明たちを追い詰めるような真似をしたのか。実は了はテレビに出演する前、デーモンの戦いに勝つための手がかりをつかむために、再び自分の自宅に戻り、父親の研究資料を探した。しかし父が残したはずのデーモンに関する研究資料は一切無かった。おまけに、かつて自分と明にデーモンのすべてを教えた、あの悪魔の被り物は、発行塗料を塗ったただの石膏像であったのだ。

了は父親の書斎にあったアルバムを見てみると、アルバムに写っているはずの自分の顔はまるで別人で、しかも自分・飛鳥了は交通事故ですでに亡くなっていたというのだ。ならば、自分は何者なのか。混乱する了のもとに大勢のデーモンたちが乱入する。

怯える了の前に、精神操作能力を持つデーモン・サイコジェニーが現れて、了に「おむかえにまいりました!」と言った。

飛鳥了の正体、それは、デーモン達の首領・悪魔王ゼノンの更なる上の存在「大魔神サタン」であった。サタンは人間を確実に滅ぼすために、サイコジェニーの能力で自らの記憶を書き換え、交通事故で死んだ飛鳥了という青年にに成りすましたのだ。そして人間の弱さを学んだ彼は、サイコジェニーに自分が不安や恐怖から思い描いた、人間の破滅的な末路を読み取らせて、ゼノンに実行させていたのだ。

だが了は、親友である不動明にだけは彼に新しい世界で生きられるような措置をとり、明にデーモンの世界で生きるようにと伝えた。彼は人間として過ごすうちに明に友情を抱くようになったのだ。しかし、後に起こる牧村家の悲劇が両者の袂を分かつ事になる。

デビルマン「人間が作り出した地獄だ! 悪魔からの恐怖から逃げるため…… 人間みんなが恐怖をあたえる側にまわろうとあがいている 被害者から加害者に…… ここだけのことではない 人間ぜんぶが自分より弱い者をたたこうとしている……」

了によって明の正体が世間に暴露され、悪魔狩りから逃れるために、牧村邸をはなれた明だが、その後、悪魔狩りの部隊が、牧村夫妻を逮捕したという知らせが入った。明を逮捕できなかった腹いせに、無実の人間である牧村夫妻を捕まえたのだ。

悪魔狩りで捕まえられた人間は「悪魔特捜本部」に連れてかれると知った明は、牧村夫妻を助けるために、デビルマンの軍勢を率いて悪魔特捜本部に強襲をかけた。そして明自身もデビルマンに変身して、牧村夫妻を助けるために、本部の建物に潜入した。しかし、デビルマンがそこで見たものは、悪魔狩りによってつれてこられ、惨たらしい拷問によって無残に殺された人間たちだった。その中には礼次郎の奥さんで美樹の母親もいた。彼女もまた他の人と同様、拷問にかけられた挙句に絶命してしまったのだ。
その光景は、まさにこの世の地獄そのものであり、デビルマンは思わず「人間が作り出した地獄だ!悪魔からの恐怖から逃げるため……人間みんなが恐怖をあたえる側にまわろうとあがいている、被害者から加害者に……ここだけのことではない、人間ぜんぶが自分より弱い者をたたこうとしている……」と呟いた。

元々疑心暗鬼に駆られていた人間たちは、了の「悪魔はどんな人間にも成りすますことができる」というテレビで言ったコメントを聞いたために、無実の人間を拷問して殺すという、取り返しのつかないところまで堕ちていった。
デビルマンの言葉から察するに、彼らはもはやデーモンを見つけるために拷問しているのではなく、自分が悪魔でないことを証明するために、拷問しているようだった。傷つける側にいれば、自分は悪魔ではないと思い込んで弱者をいたぶっているのだ。

いじめっ子の心理状態は、正義感の強い人間の心理と似ていると言われている。つまり弱者を叩いている人間と言うのは、自分が正しいと思っている人間であるといえる。虐待も同じで、子供を虐待している親は、自分が悪いことをしているという認識など無く、しつけの為に当然のことをしていると思っているのだ。本作で拷問している人間も、悪魔を見つける為にやっていることだと思っており、罪の意識など感じていないのかもしれない。

デビルマンのセリフにあるようなことをやっている人間はどこにでも存在し、デビルマンの見た光景は、現実のどこかにありえる光景なのかもしれない。

デビルマン「了きみはまさしくサタンだ!人間を堕落させる伝説の怪物だよ。」

悪魔特捜隊の本部にあった拷問部屋の凄惨な光景を見て、デビルマンは人間に失望し始めた。そして、人間達をここまで鬼畜に追い落とした飛鳥了を、否、大魔神サタンを激しく憎悪し、「了きみはまさしくサタンだ!人間を堕落させる伝説の怪物だよ」と言った。

悪魔は誘惑者という一面がある。本作でも言われているように、サタンの正体はルシファーと呼ばれる美しい天使であったが、神に反逆したために(反逆の理由ははっきりとしていない)悪魔に成り下がったといわれている。
ルシファーが悪魔になった経緯を、詳しく書いたミルトンの「失楽園」という本がある。ダンテの神曲同様、キリスト教文学の傑作といわれている失楽園には、独裁支配的な神に反感を覚えたルシファーが、自分と意見を同じにする天使達を率いて、神と戦う姿が記されている。しかし、ルシファーは神に敗北し、地獄に落とされて、悪魔に成り下がったというのがことの顛末である。

それでも、神に一矢報いたいルシファーは、地獄から這い上がり、神の造った楽園エデンの園に向かい、そこで暮らすアダムとエバを目の当たりにすると、ルシファーはエバを騙して楽園にある禁断の果実を食べさせたのだ。さらに、エバが果実を食べたのを見て釣られるように、アダムも禁断の果実を口にしてしまう。つまり、神の至高の創造物である人間を堕落させることが、ルシファーの神に対する復讐であった。興味深いことに、禁断の果実すなわち知恵の果実を食べたアダムとエバが、果実を食べた罪悪感と不安に襲われて、互いに罪を擦り付け合って、言い争いをしてしまう場面があり、デビルマンで、疑心暗鬼に囚われた人々が、殺し合いを始めてしまうのとどこか似ている。

長い歴史とともに、キリスト教では悪魔と言う概念はあやふやなものになっていった。概ねは「神と敵対するもの」言う意味合いがあり、キリスト教と敵対する異教の神を悪魔とする面があるが、人格を持つ超自然的な存在ではという意見もある。また本来は神の僕であり、神に変わって罪人を罰する下級天使であったとも言われている。

しかし、多くの文献を読むかぎり悪魔、もしくはサタンは一貫して誘惑者であるという認識がある。エバを誘惑して果実を食わせたり、荒野をさまよっているキリストを誘惑したというのもサタンの仕業であるとされている。(エバを誘惑したときは、蛇に変身していたと言われている。)

デビルマンが「了きみはまさしくサタンだ!」と言っているように、本作でも了はサタンの名に恥じず、明をデビルマンになるように導き、言葉巧みに人間を扇動して、不信と不和をもたらしたのである。

興味深いのは、飛鳥了が人間に不安と不信を煽るのに、マスメディアという媒体を使ったことである。マスメディアは時に人を混乱と恐怖、そして堕落を生み出しているということを暗示しているようである。

デビルマン 「おれはからだは悪魔になった…… だが 人間の心をうしなわなかった!きさまらは人間のからだをもちながら悪魔に!悪魔になったんだぞ!これが!これが!おれが身をすててまもろうとした人間の正体か!地獄へおちろ人間ども!

拷問部屋の中には美樹の父、礼次郎の姿があった。しかし、酷い拷問を受けて今にも死に掛かっており、辛うじて意識を保っているのがやっとであった。デビルマンが駆け寄ると、礼次郎はデビルマンに子供たちを託して、絶命してしまった。自分が牧村家に災いの種を持ち込んだことに対して、罪悪感に打ちのめされるデビルマンであったが、彼は物陰に隠れていた何人かの拷問官を発見した。

デビルマンを、デーモンの一味だと勘違いした拷問官達は、「自分はお前たちの仲間たちを殺していない、殺したのは人間だけだ」と言って命乞いをしはじめた。彼らは人間とわかっていながら拷問し、その果てに殺していたのだ。罪悪感も欠片もなく、ただ不安と恐怖から逃れるために無実の人間を苦しめ、挙句の果てに、「上からの命令でやっただけで、好きでやったわけではない」と言って責任転嫁しようとした。

その浅ましさと醜悪さに怒りを覚えたデビルマンは「外道!きさまらこそ悪魔だ!」そう言ってデビルマンは有り余る憎悪を拷問官達に向けた。

「おれはからだは悪魔になった……だが人間の心をうしなわなかった!きさまらは人間のからだをもちながら悪魔に!悪魔になったんだぞ!これが!これが!おれが身をすててまもろうとした人間の正体か!地獄へおちろ人間ども!」

そう叫んだデビルマンは、口から吐き出した炎で、その場にいた拷問官達全員を皆殺しにしてしまった。

拷問官達はなぜここまで残酷なことができたのか、彼らは狂っていたのか。そうではない、彼らの「上からの命令でやった」という言葉を鑑みるに、彼らは正気だったのだ。それは現実に行われた「ミルグラムの実験」で立証できる。

ミルグラムの実験とは、アメリカで行われた心理実験で、被験者を生徒と教師に分けて、それぞれ別の部屋に入れた。その部屋は、インターフォンでお互いの声でやりとりできるようになっており、インターフォンを通じて、教師役の人が選択問題を読み、生徒役が答えるというものだが、生徒役の人が間違えると、教師役の人が、生徒役の人に電気ショックを与えるスイッチを押さなければならないというものである。

実は生徒の役をやっている人は、あらかじめ実験の真意を知っている者で、正体は被験者のフリをしている役者である。被験者は教師役だけであった。電気ショックも生徒役の役者が苦しんでいるフリをしているだけで、実際には電気を食らってはいない。ただし、教師役の人には電気ショックがあることを信じさせるために、実験前に軽い電気ショックを体験させた。

さらに生徒役の人が1問間違うごとに、15ボルトずつ上げていくというルールがあり、最初は4ボルトで最大で450ボルトである。

そして、教師役の人が実験の続行を中止を申し出ると、白衣を着た博士らしき人物(実験に全責任を負う権威者として現れる)が現れて、次のように言うのである。(4回言ってくる)

1回目.続行してください。
2回目.この実験は、あなたに続行していただかなくてはいけません。
3回目.あなたに続行していただく事が絶対に必要なのです。
4回目.迷うことはありません、あなたは続けるべきです。

4回目でも中止を申し出た場合、実験はそこで終わらせることができるが、集められた被験者の65パーセントが450ボルトまで実験を続け、300ボルトに達する前に中止したものは誰もいなかった。

この実験からわかることは、権威者が「続行してください」と言えば、どんな人でも、恐ろしい拷問を行ってしまうということである。その背景には責任転嫁と、力の強いものへの服従の心理が見え隠れしている。

悪魔特捜本部で拷問していた拷問官も、本来はごく平凡な人間で、彼らが自分で言っていた通り、あくまでも上からの指示に従って、拷問をし続けたのだろう、だが、その果てに数多くの無実の人間を苦しめて死なすこととなったのだ。その中には善良な牧村夫妻もいたのだ。

そして拷問官達は良心を痛めることも、罪悪感を感じることも無かった。彼らにあったのは保身のみであり、自分のしでかした事の愚かさを何一つ感じ取ろうともしなかった。

デビルマンは自分で言ったとおり、悪魔になっても、決して人間の心を無くそうとはしなかった、好戦的にはなったものの、彼の戦いは人間を守るためであり、そのために時に無茶な戦いをすることさえあった。それだけに、彼らの浅ましい性根が許せなかったのだ。デビルマンの叫んだ言葉には、人間への失望と怒り、卑小な本性を目の当たりにした悲しみが込められている。

だが、本当に恐ろしいのは誰もがこの拷問官のような人間になる可能性があるということである。

不動明 「おれはもうなにもない…… 生きる希望も幸福も…… 生きる意味さえも!まもるべきなにものもない! だが!飛鳥了いや大魔神サタン! おれはきさまと戦わずにはいられない!人間をまもるための戦いではないぞ!地球上に最後にいきのこる者がデーモンかデビルマンか 勝負だ!サタン!」

無実の罪で連行された牧村夫妻を救うべく、デビルマン軍団を率いて、悪魔特捜本部を襲撃した明であったが、牧村夫妻は数多くの無実の人間達とともに拷問の末殺され、彼らを拷問した人間達の浅ましさから、明は人間に失望しかかっていた。

しかし、明は、美樹がいる限りはデビルマンとして戦い続けると心に決め、彼女を救うべく、牧村邸へ急いで戻った。だが、美樹は幼い弟と共に惨殺されていた。悪魔狩りで牧村夫妻が連行されたことから、近隣の住人達は美樹達にまで疑惑の目を向けたのだ。そして、デーモンに抱いた恐怖心から、牧村家を根絶やしにしようと、暴徒となって牧村邸へ押しかけ、姉弟2人を殺し、五体をバラバラにしたのだ。

明は絶望的な叫び声をあげて、その場にいた人間達を皆殺しにし、美樹の生首を取り返した。

「おれはもうなにもない……生きる希望も幸福も……生きる意味さえも!まもるべきなにものもない!だが!飛鳥了いや大魔神サタン!おれはきさまと戦わずにはいられない!人間をまもるための戦いではないぞ!地球上に最後にいきのこる者がデーモンかデビルマンか勝負だ!サタン!」

そう言って明はサタンと最後の戦いをする決意を固めた。

漫画界屈指の絶望シーンである。明にとって、牧村家の人々は、最後に心を交わした人間らしい心や良心、そして愛情を持った人間達であった。明がデビルマンとしての正体が暴露されたとき、彼らは最初こそ疑惑の目を向けたが、後に明を信じ、娘の美樹は明を愛し続けた。そんな一家を殺したのは悪魔に成り果てた人間達であった。人間に対して失望どころか絶望し、人間としての全てを失った明は、美樹の生首を抱きかかえ、すすり泣くしかなかった。

もはや、明が命がけで守ろうとしたものは何も無かった。美樹の生首を抱きしめながら、明はすべての人間と袂を分かつ決意を固め、そして、人間達を悪魔仕立て上げたサタンへ怒りをたぎらせた。

明の「おれはもうなにもない……」のセリフをよく読んでみると、前半で人間への絶望を表わし、そしてセリフの後半でサタンへの怒りを表わしている。それはまるですべてに絶望して、心がくじけた明を支えているのが、デーモンの闘争本能であるというようにも見える。明がこの時点で人間と袂を分かつ決意をしていることがわかる。

もう一つ、注目してもらいたい箇所がある。本作第1巻で明がデビルマンになろうとしていた場面を思い出してもらいたい。人間がデーモンと合体するには理性を無くさなけらばならない。その為に明は、ヒッピーたちが狂気の騒ぎを繰り広げているサバトに参加し、理性を無くそうとしていた。

一方、美樹を殺した近隣の住民達も美樹を殺した後、彼女の体をバラバラにして、各部位を杭にさし、それをさらし者にして、狂気の騒ぎを起こしていた。つまり彼らは完全に理性を無くしてしまい、デーモンと合体できる精神状態になっているのだ。

デーモンを恐れ嫌うあまり、美樹を殺した人間達が、悪魔になってしまうと言う恐ろしい皮肉。まさにデビルマンという作品を象徴する場面である。

本作のヒロイン美樹の体をバラバラにし、狂気の宴をおこなう近隣の住人達、もはや彼らにデーモンが嫌った人間の「理性」など無かった。

悪魔王ゼノン 「この作戦のただひとつの誤算は あなたが……人間不動明を愛したこと! 勇者アモンを犠牲にしてまで不動明をデーモンの世界で生きられることをねがったこと!」

悪魔王ゼノン。コウモリの翼に、4つの顔を持った、巨大なデーモン。画像は自身の幻影を使って、人間達に宣戦布告している場面。

ヒマラヤ山脈において、悪魔王ゼノンは飛鳥了と話をしていた。了は6対の翼を持つ、両性具有の美しい堕天使サタンの姿に戻っていた。すべてはサタンの策略であった。2年前、氷の中からよみがえったサタンは、人間の弱さを探るために、サイコジェニーの精神操作能力で、自分の記憶を交通事故で死んだ飛鳥了の記憶に書き換え人間になりすましたのだ。

しかし、両性具有であるサタンは、人間として暮らしていた2年の間に明と接していたことで、彼に愛情を抱いてしまう。ゼノンは「この作戦のただひとつの誤算はあなたが……人間不動明を愛したこと!勇者アモンを犠牲にしてまで不動明をデーモンの世界で生きられることをねがったこと!」と批難した。サタンが明をデビルマンにしたために多くの部下を無くしてしまったからである。

ゼノンのデザインは、神曲に記されている地獄に落とされたルシファーの姿をモデルにしている。失楽園の挿絵を描いた、ギュスターヴ・ドレが表現したルシファーの姿は、蝙蝠のような巨大な羽に、三つの顔を持った身の丈何10メートルもあろうかと言う巨体である。ルシファーは元々美しい姿をしていたが、地獄に落とされ、このような恐ろしい姿に変えられてしまったのだ。

『激マン!』によると、永井は、美しいほうのルシファーをサタンのキャラクターモデルにして、恐ろしい姿のほうをゼノンのキャラクターモデルにしたと述べている。

ゼノンのセリフから分るのは、凶暴なデーモン族の首領でありながら、しゃべり方が知性的かつ理性的であり、部下の命を惜しむような心を持っていることがわかる。また、「この作戦のただひとつの誤算はあなたが……」のセリフの後、ゼノンは、「不動明と戦わずにすむ方法は無いのですか?」と言ってサタンへ意見するなど、基本的に無駄な犠牲を出さない主義なのだろう。

もっとも、ゼノンはデーモンと人間の無差別合体で部下を犠牲する作戦を実行したが、無差別合体の目的は人間の恐怖を煽り、人間同士を殺し合いさせて、自滅させるためである。ゼノンがこの作戦を実行したのは、そのほうが、単純な武力で人間と戦うよりは、犠牲が少なくてすむと判断したからだ。又、作戦そのものを思いついたのはサタンである。

出番こそ少なかったが、ゼノンが優秀なデーモンの統制者であることが、彼のセリフでわかる。

他に、ゼノンとサタンの会話で分かるのは、サタンが明に抱いていた感情は友情より、愛情に近かったということである。これはサタンが、両性具有であったために明に恋愛感情を抱いてしまったのである。(伝承では悪魔や天使は本来、両性具有であると言われている)

ゼノンのモデルとなった、ダンテの神曲のルシファー。

大魔神サタン 「わたしは人間をほろぼすことにした…… だがそれは神がデーモンを滅ぼそうとしたことと同じ行為だった…… 力の強い者が強いからといって弱者の生命を権利をうばっていいはずはないのにな…… ゆるしてくれ明…… わたしはおろかだった」

大魔神サタン。飛鳥了の正体で、本作の黒幕。12枚の羽を持つ美しい堕天使で両性具有である。

最終回。

20年の時が経ち、人類はすべて滅び去り、地球にいるのはデーモンと、デビルマンだけであった。そして広大な中国大陸で明が率いるデビルマンの軍勢と、サタンが率いるデーモンの軍勢が対峙した。

そして最終戦争(アーマゲドン)が始まる。

デーモンとデビルマン、互いの超能力を駆使した戦いゆえに、周囲には天変地異が起こった。そして明は七首竜(ヨハネ黙示録に記されている七つの首を持つ竜をモデルにしていると思われる)に乗るサタンと戦った。

戦いが終わり、岩のうえに並んで横たわり、月を眺める明とサタン。

かつて、サタンの親で神と呼ばれる存在は、この地球に生命を与えた。いつしか地球にあらゆる生物が満ち溢れ、育っていった。しかし数億年経って、神々が地球の様子を見に行くと、そこにいたのはデーモンと言う恐ろしい生物であった。

デーモンを忌み嫌った神々は、地球を無にすることに決めた。しかし、その身勝手な考え方にサタンは反発した。「自分たちが生み出した生命だからって勝手に殺していいのかと、地球上の生命は生まれたくて生まれたんじゃない、だが自分の意思で必死に生きている」と言って、デーモンと共に神々と戦い、そして、地球を守りぬいた。

次なる神の攻撃に備え、サタンとデーモン達は氷付けとなって、眠りについた。しかし眠りから覚めた、サタンは美しかった地球が人間と言う新しい種族のために、地球が汚されていることに気付いた。そしてサタンは命を懸けて守った地球を汚されたことに怒ったのであった。

サタンは明に己の過去を語った後、最後に明にこう言った。

「わたしは人間をほろぼすことにした……だがそれは神がデーモンを滅ぼそうとしたことと同じ行為だった……力の強い者が強いからといって弱者の生命を権利をうばっていいはずはないのにな……ゆるしてくれ明……わたしはおろかだった」

神の傲慢さに募りをあげた堕天使サタンは、いつの間にか神と同じ傲慢さを抱いていたのだ。

しかし、サタンが明に詫びた時、明がすでに絶命していることに気付いた。明はサタン達の戦いで下半身を切り落とされていたのだ。明の死に顔はようやく全ての戦いから開放されたかのように、安らかな表情であった。

己の最愛の存在を無くしたことで悲しみに暮れるサタンの背後から、天使の軍勢が迫りつつあった。

サタンとは元々ヘブライ語で、「敵対者」を意味しており、キリスト教では神や人類の敵対者を意味している。本作のサタンもまた、その名にふさわしく、神や人間と敵対し続けていた。

黙示録や神曲、そして失楽園ではサタンもしくはルシファーは、神との戦いに敗れ、地の底に封印され、氷漬けにされたとあるが、本作においてサタンは神に敗北したのではなく、神の手から、地球を守りぬいた後、自ら氷漬けになって眠りについたのだ。

サタンとルシファーは同じ存在としてみなされることが多いが、キリスト教の七つの大罪では、サタンが憤怒を象徴し、ルシファーが傲慢を象徴する悪魔となっている。同じ存在であったルシファーとサタンを分けた理由は不明であるが、本作のサタンが神の傲慢さや、人間の環境破壊に怒りを覚えるその姿は憤怒そのものである。

ルシファーが傲慢を象徴しているのは、ルシファーが神に反逆したのは自分が神に等しい存在と思い上がったためである。本作のサタンは、神の傲慢さに怒りを覚えたにもかかわらず、自分自身が神になったつもりで、地球を汚した人間を滅ぼしそうとした、つまりサタンはいつの間にか神と同じ傲慢さを宿してしまったのだ。

悪魔とはそもそも何なのか、神学者達の間では、神や人間の敵対者、人間を堕落させる誘惑者等、人格を持つ超自然的な存在など様々な説が述べられている。本作では、サタンは神と敵対し、人間を堕落させた存在として描かれ、そして、人格を持つ超自然的な存在はデーモンとして表されているが、ここでもう一つ、あまり一般的に知られていない側面が悪魔にはある。それは「人間の断罪者」ということである。

サタンは、「敵対者」の他に、「誹謗するもの」「訴えるもの」を意味している。イタリア語で悪魔を意味しているディアボロスは、元々「告発者」と言う意味であり、悪魔とは古くは、人間を告発し、神に変わって罪を与えるものであったと言うのだ。

絵画の研究で有名なドイツ文学者・中野京子が書いた美術書「新怖い絵」によると、ドローネーが描いた「ローマのペスト」という絵画には、天使が悪魔を従えて、ローマに死をもたらす様が描かれている。つまり、古代において悪魔は神や天使の僕であったのだ。一般的に、悪魔は災厄をもたらすもののイメージが強いが、この絵画では悪魔は天使にこき使われているだけで、実行させているのは天使である。そもそも聖書や神話において、災厄を与えるのは悪魔より神であるパターンが多いのだ。

デビルマンでも、シレ-ヌやゼノンは自然を破壊し、地球を汚した人間たちへの怒りから、人間達に敵意を抱いていた。彼らはまさに人間達を地獄に引きずりこんで罰を与える悪魔そのものであった。(70年代当時は公害や環境破壊が問題になっていた。)サタンが堕天使であるのは、もともとが神の僕であることが由来となっているのかもしれない。

そしてサタンと戦い、死んでいった不動明。彼の死体をよく見てみると、姿は元の人間に戻り、下半身は切断されていた。(設定によるとサタンが乗っていた七首竜に食いちぎられたとある。)デーモンの力と肉体、性愛の象徴である下半身、サタンが明に与えた力や愛を明が拒絶しているようでもあり、サタンが明から受ける罰とも取れる。

サタンやデーモンが、人間を罰する者なら、サタンとデーモンを罰する者は何か。それは、神ではなく、悪魔の力を持ち人の心を持った者・デビルマンに他ならないのである。

物語は、デーモンとデビルマンのどちらの陣営が勝利したのか分からないまま、不動明の死と言う形で終了したが、永井の構想によれば、この後、神々の手によってサタンと明の遺体は消滅させられ、創世記の「光あれ」と言う言葉の反対の行為が行われて、すべてが闇に包まれて幕を引く予定であったと言うが、ページ数や最終回までの日数との折り合いがつかず、あのようなあいまいな結末に落ち着いたと『激マン!』で述べている。しかし、いざ出来上がってみると、これ以上の最終回は無いと思い、結果的に永井自身はデビルマンの結末に満足していると言う。

その後、デビルマンは永井の『バイオレンスジャック』など他作品でつながりを見せるなど、終了後も原作者本人が強い思い入れを持ち、また他の作家たちにも強い影響を与えていた。アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の監督・庵野秀明は、デビルマンの影響を受けたと公言しており、『新世紀エヴァンゲリオン』にもデビルマンを髣髴する設定や映像が出てくる。

わずか5巻という短命に終わった本作は、まるで弾丸のごとく突き抜けた性急さと、爆発するような激しさを持っている。だが、作品自体は短命に終わったものの、数十年の時をえて、再び様々な派生作品が誕生し、実写映画化されるほどの影響を与え続けている。それはまるでデビルマンが、幾度も姿形を変えて、生まれ変わり、悪魔と戦っているかのようでもある。

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ここでは「クソ映画」の金字塔とも言うべき傑作(?)実写版『デビルマン』についてまとめた。永井豪の漫画『デビルマン』は日本の漫画史に残る傑作として名高いが、その実写映画はB級映画の顔ともいうべき作品に仕上がっている。そのクオリティは、実写版『デビルマン』を観れば大抵のB級作品は普通に観られる、とまで言われるほどだ。

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【ガラダK7】徹底解説!マジンガーZに登場する機械獣一覧!【ダブラスM2】

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スーパーロボットアニメの元祖として語り継がれる伝説的名作『マジンガーZ』。作中で主役ロボットマジンガーZが戦うのが、世界征服を目指すDr.ヘルに率いられた“機械獣”である。そのデザインは千差万別にして自由奔放、狙撃兵を模したようなものから機械に人体風のパーツがついたようなものまで様々である。 ここでは、『マジンガーZ』に登場した機械獣たちを紹介する。

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