新感染 ファイナル・エクスプレス(Train to Busan)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『新感染 ファイナル・エクスプレス』とは、韓国のゾンビ映画である。監督は、アニメーション監督であるヨン・サンホ。高速鉄道の中でゾンビのパンデミックが起き、そこに居合わせた人々の人間関係を描いた作品である。韓国では2016年、日本では2017年に公開され、数々の賞を受賞。車内という閉ざされた場所でパンデミックが起こる恐怖と、親しい人間がゾンビに感染することで変化していく感動的な人間関係が話題を呼んだ作品である。

『新感染 ファイナル・エクスプレス』の概要

『新感染 ファイナル・エクスプレス』とは、韓国で公開され、さまざまな映画賞を受賞した話題のゾンビ映画である。韓国での原題は『TRAIN TO BUSAN』、日本語にすると「釜山行き」という意味である。これに対して邦題は『新感染 ファイナル・エクスプレス』である。言うまでもなく、ファイナル・エクスプレスの「新幹線」と、ゾンビのパンデミック「感染」を掛けたもの。この邦題は日本であまり評判は良くないが、人々の記憶に鮮明に残った。
2016年に韓国で公開され、瞬く間にカンヌ国際映画祭での特別招待作品として出品、ファンタジア国際映画祭で最優秀作品賞受賞等、数々の映画賞を獲得。国際的に評価の高い作品である。
実は韓国では、ゾンビ映画の製作は今作が初めての試みであった。そのため、約100億ウォンもの製作費が掛けられ、大々的な規模で公開されることとなった。
ゾンビ映画というと、グロテスクで衝撃的な場面を思い浮かべる人も多い。しかし『新感染 ファイナル・エクスプレス』では、驚くほどに生々しいグロテスクな映像は出てこない。もちろんゾンビ映画なので、ゾンビに追いかけられることも噛みつかれることもあるが、ゾンビ映画に全く慣れていない人が見ても、しっかりと直視していられる程度のものである。その代わり本作には、家族愛・友情・恋愛・社会問題など、ゾンビ映画ではなかなか感じられないような要素がたくさん詰まっており、最終的に大きな感動を誘うストーリーとなっている。それが結果的にこれまでのゾンビ映画と違って新たな層を取り込むことに成功した。
この大ヒットを受けて、ハリウッド映画でのリメイクも予定されている。

『新感染 ファイナル・エクスプレス』のあらすじ・ストーリー

物語は、車に轢かれた血だらけの鹿が、白目を剝いて立ち上がる不吉なシーンから始まる。

所変わって、ソウル。冷血な仕事人間で家庭を顧みない主人公ソグには、一人娘のスアンがいる。夫婦は別居状態。誕生日を迎えるスアンは、遠く離れたプサンにいる母親に会いたいと願っていた。
部屋でこっそり隠れて母親に電話をしているスアンの姿を見かねて、ソグは誕生日プレゼントを渡す。しかしそのプレゼントは、こどもの日にあげたゲームソフトと同じものであり、余計にスアンを落胆させる。
誕生日プレゼントとして一人でもいいからプサンに行きたいというスアンに負け、2人は翌日プサンに向かうことになった。

5時30分、ソウルからプサン行きの列車・KTX101号に多くの人が乗り込んだ。そして出発直前にドアが閉まりかけた瞬間、全身に傷を負ったフラフラの女性までも乗り込んだ。これが全ての物語の始まりである。
指定席に座ったスアンが窓からホームを眺めていると、目の前で駅員が何者かに襲われる姿が。驚きのあまりソグに声をかけようとするが、ソグは就寝していた。
車内では、傷だらけの女性が乗務員に発見される。助けを求めた女性乗務員だったが、首元を噛みつかれてしまう。そして起き上がった女性乗務員は、同じように人を襲うゾンビと化した。ここからパンデミックによるパニックが巻き起こった。

車内を逃げ惑う乗客たち。次々に感染は広がっていき、ゾンビ達は新しい獲物を求めて集団で走り続ける。そして人間が目に入ると、すぐさま噛みついていく。そのスピード感と途中下車ができない密室空間の特急列車に、乗客たちは恐怖心が募っていく。
車内は大パニックで次々と逃げ惑う人で大喧噪が起こる。その中に、ソグとスアンもいた。

逃げ惑う中、ソグはサンファと出会う。剛腕な労働者であるサンファはゾンビ相手に素手で何度も何度も戦い、最愛の妻とお腹の中にいる子どもを守っていく。
そんな中、ソグの携帯電話に同居している母親から着信があった。娘のスアンのことを守ってやりなさいというメッセージのあと、突如会話が途切れる。電話の向こうでゾンビに襲われたことを確信し、茫然とするソグ。ゾンビの感染は車内だけでなく、ソウルの街中にも広まっていたのだった。

特急電車がスピードを落とし、次の駅に近付く。しかしそこには、血だらけのホームと、襲い掛かるゾンビの群れ、逃げ惑う人々が。もはや車内にいる者たちに逃げ場はなかった。
車内のテレビでは大々的に暴力事件のデモが起こっていると報道されていた。政府は素早い対応を取り、もうすぐ収束に向かうであろうと話す。
しかし事態はどんどん悪くなる一方であった。

ソグはそんな中でも、老人に席を譲ったスアンの優しさに対し、こんな事態では自分を優先しろと叱る。そして、ソグはコネを使って自分たちが生き延びる方法を模索する。

ようやくソグ達の乗った特急電車は、軍隊が出動しており安全だと言われた停車駅に到着する。しかし、ホームには誰の姿も見当たらない。
怖々とホームに降りる乗客たち。エスカレーターを上がって駅構内にたどり着いても、やはりそこには誰もいなかった。皆が中央広場に避難する中、ソグはスアンを連れて違う方向へと歩いていく。ソグが自分たちだけ助かろうとしていることを知ったスアンは、激しく落胆の表情を見せた。
中央広場にやっとたどり着いた人々は、大勢の軍隊の姿を見つけて安心する。それも束の間、なんと軍隊は全員ゾンビになっていた。
大急ぎで来た道を引き返す人々だが、あまりの大群に次々と襲われていく。
サンファや野球部員達の助けがあり、何とか無事に車内に戻ったソグとスアン。しかし生存者たちは慌てて列車に飛び込んだため、ソグとスアンの二人は離れ離れになってしまった。電車は再び動き出す。まだ被害のない、プサンへ向かって。

スアンとソンギョン(サンファの妻)は13号車のトイレに逃げ込み、孤立していた。彼女たちを救い出すため、ソグとサンファは協力する。襲い掛かるゾンビに自ら立ち向かい、倒していく彼ら。
その途中で、トンネルに入るとゾンビの動きが止まることに気が付く。暗闇になり、物音でしか人間を判断できなくなったのだ。それを巧みに利用し、無事にスアン達のいる場所まで辿り着いた。

トンネルを利用し、ゾンビ達の中を逃げ回っていくソグ達。危機一髪の状況を助け合いながら乗り越え、何とか他の生存者が隠れている車両まで辿り着く。しかしそこは、完全に封鎖されていた。感染を恐れた他の乗客が、ソグ達を乗せまいと封鎖したのであった。
無理やりバリケードを破り突破したソグとサンファ。しかし無情にも、ゾンビを止め続けていたサンファが腕を噛まれてしまった。
感染を悟ったサンファは、ソグにソンギョンを託した。最後に愛娘を名付けて。サンファはゾンビに感染されながらも強靭な意思で妻と友人を最期まで守り切った。

辿り着いた先に待っていたのは、冷酷な人々からの隔離。ゾンビよりも人間の冷酷さを恐れた老姉妹の姉は、自ら襲われる道を選んだ。そんな姉の姿を見た妹は、姉の優しさを思い、自らゾンビのいる扉を開けた。乗客同士の信頼のなさ、思いやりのなさが招いた結果であった。

東テグに到着し、ソグ達は逃げ道を探す。しかし車庫にある電車はどれも、感染者でいっぱいであった。
やっと見つけたゾンビの乗っていない電車を見つけたソグ達。
特急電車の車掌は、一人で新たな電車の操縦を試みる。
大量のゾンビに襲われながらも何とか走り出した新たな電車。ここに乗車できたのはたった3人。ソグとスアンとソンギョンのみであった。
スアン達を助けるために戦っている間に、ソグは手を噛みつかれてしまう。ソグは最後にスアンへ愛の言葉を贈る。
自分のために命をはった父親の姿を見て、今までの態度を謝るスアン。やっと娘の大切さに気付くことができたソグ。愛娘との別れに涙を堪えられず、その場を抜け出す。
ソグはスアンが生まれてからのことを思い返し、最後に今まで見せたことのない優しい笑顔を見せ、ゾンビに感染する直前に自ら身を投げて娘を守った。

電車はトンネルで停車する。トンネルの先には、プサンの軍隊が待ち受けていた。
暗さ故にスアンとソンギョンは肉眼では人間か感染者か判断できず、射撃準備に入る軍隊であったが、そこで軍隊はある歌を耳にし生存者であると判断する。それは、スアンがかつて学芸会で最後まで歌うことができなかった、愛と別れの歌であった。

『新感染 ファイナル・エクスプレス』の登場人物・キャラクター

ソグ(演:コン・ユ)

仕事人間で家庭を顧みない父親。ファンドマネージャー。娘を別居状態の妻に会わせるため、プサン行きの急行列車に乗る。

スアン(演:キム・スアン)

ソグの娘。父と母の別居状態を悲しんでおり、冷酷な父親の態度に落胆している。思いやりの心に溢れた少女。

サンファ(演:マ・ドンソク)

画像中央がサンファ。

ソギョンの夫。ソグと力を合わせてゾンビと対抗していく。力強くて正義感のある、妻を愛する男。

ソギョン(演:チョン・ユミ)

サンファの妻。妊婦。最後までスアンを守り続ける。

『新感染 ファイナル・エクスプレス』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

ソグの心境変化

冷酷仕事人間で家庭を顧みないソグが、ゾンビからスアンを守っていくことにより、しっかりと娘と向き合うことができるようになる。
彼は最初、娘への誕生日プレゼントにゲームを贈る。しかしそれは、娘が既に持っているものだった。学芸会で歌を歌ったことも、彼は録画したビデオで見た。ソグは仕事の忙しさを理由に、娘を見ることを忘れていたのである。
そんなソグがやっと娘を見ることができるようになった時、無情にも彼はゾンビに噛みつかれて感染してしまう。意識がある最後の瞬間に思い返したのは、スアンが生まれて間もない頃。しっかり娘を見ていた頃のことであった。
最期の最期、ソグは娘を守るためにゾンビに意識を支配されつつも自分で身を投げた。
冷酷人間のソグが周囲の人の優しさに触れて、親としての感情を取り戻していく。この映画の最大の見どころは、ソグの感情の変化にある。

さまざまな形の愛情

ゾンビ映画のお決まりとして、それぞれの最愛の人が感染してしまうという感動シーンが必ずある。そして、本作も例外ではない。
本作では、ソグとスアンの親子愛を始め、夫婦愛、姉妹愛、恋人との恋愛など、さまざまな形の愛情が描かれており、どこかしらに感情移入して号泣することが必至である。

そしてその愛情の結末も人それぞれであり、面白い。
自分の感染を悟ったソグは、スアンを守り切るために自ら身を投げる。同じく感染を悟ったサンファは、妻であるソギョンとお腹の子どもを守るために、感染しても意識を保とうとし、ゾンビに立ち向かっていく。二人とも愛する人を想って意識を支配されないようにしている姿がとても感動的である。
一方で、姉が感染してしまった姿を見た妹は、自ら感染への道を選んだ。また、恋人が目の前で感染してしまった学生は、恋人に噛みつかれることを選んだ。
それぞれが最愛の人を想い、究極の場面で選択をしていく場面は、どんな結末を選んだとしても愛情に溢れている。この映画の見どころである。

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