国木田独歩(文豪ストレイドッグス)とは【徹底解説・考察まとめ】

国木田独歩(くにきだ どっぽ)とは『ヤングエース』で連載中の漫画およびアニメ作品『文豪ストレイドッグス』の登場人物で、異能力集団「武装探偵社」の一員にして妥協を許さない堅物な男。いつも持ち歩いている手帳の表紙には"理想”と大きく書かれており、秒刻みのスケジュール管理をしている。このこだわり抜いた「人生の道標」ともいわれるスケジュールが狂うことを大いに嫌うが、奇妙奇天烈な言動をする探偵社員たちに振り回されている。

第40話 独り歩む

いつものように手帳に書かれた「予定」にそって、一分一秒を計画通りに過ごそうとする国木田。今回のスケジュールも一段と過密であり、軍警参謀本部の対テロ会議、凶悪殺人事件の証言録取、と重要な案件が立て続けに書かれている。
予定通りの時間に駅へ辿り着き、乗車予定の列車が到着する頃だというときに太宰から着信があった。なんと手帳職人のカーライルが探偵社に来ているというのだ。カーライルは国木田の手帳を造っている職人で、国木田が手帳を愛用しているという噂を聞きつけ欧州に戻る前に寄ってくれたらしい(実のところ、太宰が国木田の予定を乱すために、国木田が迷う人物に片っ端から電話をかけていた)。国木田は探偵社に戻りたい気持ちをこらえ、「巨匠(マスター)に……俺が敬愛していると伝えてくれ……!」と泣きながら電話を切った。
口惜しいという顔で列車に乗ると、入り口から見える光景に目がとまった。フードを深くかぶった黒ずくめの大人が、少女に大きな鞄を渡しているところだ。そのとき国木田は、今朝に谷崎が言っていた無差別爆弾魔の事件を思い出していた。その爆弾魔は爆弾の入った旅行鞄を通行人に渡して街中で起爆する、という話だった。列車の扉が閉まる直前で、国木田は走り出し列車を降りる。少女から旅行鞄を奪い、走りながら中身を確認すると案の定、爆弾が仕掛けられていた。エスカレーターを駆け上がり、旅行鞄を上へ投げ飛ばしたタイミングで鞄は爆発した。
すぐさま国木田は軍警に連絡を入れる。一方、鞄を渡された少女を按じるようにゆっくりと近づくが、少女は恐怖で震えるどころか「あんのスカポンタン許さへん!」と腹を立てていた。「文(あや)」と名乗る少女は国木田とともに、爆弾魔の追跡をするのだった。

同時刻、探偵社内の電話に応対する賢治が「探偵社で2番目に偉い人は誰か」と谷崎に問うていた。軍警に、福沢が不在時の代表者は誰かと訊かれているようだ。谷崎は経歴と成績がトップの乱歩ではないかと返すが、「僕は違うぞ! 偉さとか指揮なんて蟻ンコほども興味ないからな!」と乱歩に即答される。次に太宰を候補に挙げるが、太宰には聞こえておらず「どうすれば国木田君を血を吐くほど苦悩させられるか……」と代表者には程遠い発言をしていた。

場面は転換し、列車が通る地下道で国木田と文が歩いている。爆弾魔の後を追うことになり、朝からの予定が総崩れになった国木田は心底落ち込んでいた。その姿を見て文は「そんなに予定が大事なら、どうして列車を降りてまで自分を助けたのか?」と訊ねる。国木田は手帳を持ちながら「理想だ」と返答した。自分の眼前で人が死ぬ世界は「理想」ではない、その思いだけが国木田の体を動かした。
しばらく歩いていると、線路上に一定間隔で爆弾が設置されているのが見えた。爆弾は振動感知式で、この上を列車が通れば爆発と脱線で数百人が死傷するだろうと国木田は想定した。国木田は爆弾と手口に心当たりがあるらしく、解除用の無線装置が近くにあるはずだと周囲を見回す。そのとき、先ほどまで行動を共にしていた文が突如消えたことに気づく。国木田は拳銃を構えながら来た道を引き返す。カーブに差し掛かったところでようやく文の姿を確認できたが、彼女の首には爆弾が巻かれていた。国木田の背後から「銃を捨てて下さい」「それともこの起爆釦(ボタン)で、彼女の頭がどの位飛ぶか見せましょうか?」と声が聞こえ、爆弾魔が姿を現す。国木田は地面に銃を投げ落とし、それを確認した爆弾魔は国木田を鈍器で殴打した。頭部に強い衝撃を受けた国木田はそのまま気絶してしまう。

爆弾魔の正体は桂正作(かつら しょうさく)といい、2年前に違法爆薬を作り校舎を爆破しようとして国木田に逮捕された男だ。正作は国木田の「理想」を消すために2年も計画を練っており、探偵社に無差別爆弾魔の噂を流していた。正作は国木田に取り調べを受けたとき、「逆境に折れるな」「強くあれ」「己を律し、正しきを成せ」と何度も言われていた。正作にとって国木田の言葉は毒でしかなかった。柱に手首を拘束され、身動きの取れない国木田を「弱くて、弱すぎるから犯罪に走るしかないような人間を! 土足で蹴り落とすような言葉を何故云える!? 弱い人間が望んで弱いと思うのか!」と何度も殴り付ける。
設置した爆弾の上を列車が通るまであと3分しかなく、起爆停止信号は正作のパソコンからでないと送れない。手帳は正作に奪われており、このままでは国木田の「理想」も、探偵社員としての矜持も失ってしまう。
困憊しながら国木田は「お前の云う通りだ。89ページを開いてみろ」とつぶやいた。正作は言われたまま開くと、「音響手榴弾」と書かれたページがあった。その瞬間、異能力“独歩吟客”が発動し、駅の構内に音波が鳴り響いた。手首の縄を解いていた国木田は、同時に正作を叩き伏せ、体の後ろで腕を拘束した。国木田は文に駆け寄り、文の安全を確認する。文に促され正作のパソコンを操作しようとするが、ここで「線路上に設置した爆弾の停止周波数」と「文につけられた爆弾の起動周波数」が同一であることが判明する。正作は国木田に負けることを想定して、1人の少女と大勢の乗客どちらかを選ばせようとしていたのだ。「その子を殺し証明して下さい。"理想"など絵空事だと! 貴方も僕と同じ人間に過ぎないと!」と正作は吠える。
国木田は、自分が描く「理想」と、現実の世界が程遠いことは承知していた。
「……お前が正しい」
「血反吐を吐いて抗っても人は死ぬ」
「残酷で無慈悲で理想の欠片もない。それがこの世界だ」

国木田は意を決したように、「……だが目指す先が、苦痛と渇きの砂漠でしかなくとも、俺は理想を求める」と、パソコンのエンターキーを押した。
ゆっくりと国木田は文に歩み寄り、文を守るように抱き留める。
文の首に巻かれた爆弾は起動し、一面が爆風に包まれた。列車は停止した爆弾をすり抜け、通過していく。
粉塵が収まり視界が開けると、死んだはずの国木田と文が無傷で立っていた。2人の背後には探偵社員の与謝野がいる。与謝野は駅で買い物をしており、聞き慣れた音響弾の音を頼りに、国木田たちの元へ駆け付けたのである。与謝野の異能力“君死給勿(きみしにたもうことなかれ)”は瀕死の怪我を治癒する異能で、国木田は与謝野が近くにいることを事前に手帳に記し、把握していた。正作は軍警に包囲され、そのまま逮捕された。
地上に出た文は国木田に訊ねる。「理想莫迦のあんたじゃ、どうせ嫁さんもカノジョもおらへんやろ?」「その……どうしても云うんやったら、ウチが……」
国木田はしゃがんで文に目線を合わせて言った。
「お前は配偶者計画の条件58項目中31項を満たさんので、却下だ」

爆弾魔の連続事件が終息し、場面は探偵社内に切り替わる。太宰は谷崎に改めて「探偵の次期社長は誰か」と問われ、「既に決まっている」と話す。
「彼は"旗を掲げる者"。揺るがず、翻らず、弱きを知る、人の上に立つ器」「次期社長は、国木田君しかいない」

第41話 Addict

花袋の借家に乗り込む国木田。強引な国木田に敦が慌てて付いていく。

国木田と敦は、元探偵社員である田山花袋(たやま かたい)の元へ向かっていた。国木田の手にはある端末が握られている。フィッツジェラルドとの決戦の際に入手した、空中戦闘要塞“白鯨(モビー・ディック)”の制御端末だ。
端末の裏には遠隔干渉チップが貼られており、このチップを仕掛けた者が白鯨の制御を奪い、横浜に墜落させようとしていたようだ。チップの所有者が組合すら利用し、横浜の壊滅を目論んでいる。手がかりは少ないが、電網潜り(ハッカー)であり情報屋でもある花袋にチップの調査を頼もうとしていた。
花袋の自宅に国木田は強引に踏み入り、室の襖を開ける。そこには蒲団にくるまれるようにしてうつ伏せに寝ている花袋の姿があった。部屋には衣類やゴミが散乱しており、使用済みの食器は流し台に積まれたままだ。花袋は謂わば引きこもりであった。
そんな花袋も異能力者であり、視界内にある電子機器を触れずに操る“蒲団”という異能を持っている。情報処理速度は常人の数十倍もあり、軍の電脳戦部隊に匹敵するのだが、最も心の安らぐ場所でしか能力を発揮することはできず、「よしこ」と名付けられた蒲団の中でしか発動できない。花袋の寝ている周辺には何台もの電子機器が置かれている。
加えて、花袋は恋煩いにかかっており心が乱れている今、異能は使えないと話す。3日前、蒲団の打ち直しに呉服屋へ行った帰りでとある女性と出会ったらしく、花袋は「黒髪の撫子」と呼称づけた。花袋はこっそりと撫子の写真を撮影しており(敦は「犯罪では?」とはっきり述べている)、敦と国木田も女性の姿を確認した。
そこで敦は「撫子を捜して、想いを伝えるのはどうか」と提案する。はじめ花袋は動揺していたが、やがて蒲団から体を起こし、「探偵社に黒髪の撫子捜しを依頼する」と強く決心したのだった。

夜、ポートマフィアの構成員である樋口一葉が、走らせていた車を街中で止める。上司と部下に挟まれて疲弊しているようで、気分が重くなっていた。街を横目に見ると、同じく構成員である芥川を発見する。芥川は樋口の直属の上司であり、憧れの存在でもあり、密かに想いを寄せていた。芥川の帰り道だと予想した樋口は「自宅まで送ると誘えば特定できる上に、家にあげてもらえるかも知れない」と思案する。しかし、樋口が次に見たのは、先ほど国木田たちが写真で確認した「黒髪の撫子」と待ち合わせをしている芥川の姿だった。撫子と芥川が会うのは久しぶりのようで、2人は親密そうに肩を並べて歩いて行った。

次の日、花袋がしたためた恋文を持って敦たちは街中を歩く。花袋から正式に「撫子を捜して恋文を代わりに渡してほしい」と依頼を受けたのだ。女性と会話をするのが極端に苦手な花袋が、なぜ急に依頼をしたのか思案にふける敦たち。一方、樋口が街中で双眼鏡を手に持ち撫子を捜索していた。樋口は撫子の正体を突き止めて芥川を守らなければと身を引き締める。双眼鏡をのぞきながら下を見ると、同じく撫子を捜している敦たちを発見してしまい、敦が撫子の写真を持っていることに気づく。樋口にとって敦は、芥川を何度も殴り飛ばしている憎き相手なのだが、今ポートマフィア全体には「当面の間は探偵社との敵対を禁止する」と指示が下りていた。敦の持っている写真に夢中になっていると、いつの間にか背後にいた国木田に「俺達に何か用か?」「お前達との衝突は極力避けろとの社長指示だが……」と話しかけられる。樋口は身構えるが、芥川のためにと「写真の女性について教えて貰いましょう」「教えて下さい!!」と勢い良く頭を地面につけて懇願した。
国木田たちが拍子抜けしたあと、敦は樋口に「自分たちにも女性の素性が分からない」「恋文を渡すために捜している」と話した。ここで樋口は「敦がしたためた恋文を撫子に渡す」と勘違いする。樋口が敦に「前髪はきちんと切るべき」「服も新調しなさい」「あとついでに目付きを鋭くして近寄りがたい雰囲気を出せば完璧」と助言しているところに、依頼者である花袋が「恋文を渡すのは彼ではないぞ」と姿を現した。恋文が撫子の手に渡るのか、どうしても自分の目で見届けたかったらしい。
そのとき、敦が洗濯屋から出てきた撫子を目撃した。撫子は衣服であろう荷物を持っている。目の前に撫子が現れて、花袋と樋口は激しく動揺した。恋文作戦などあてにならないと樋口が撫子に銃口を向けると、異変に気づいたのか撫子がこちらを振り向く。いきなり銃を突き付けられ、撫子は狼狽しながら逃げ出した。樋口も感情にまかせて後を追う。
撫子の命が危ないと察知した花袋は、かぶっていた蒲団を放り出して駆ける。異能力“蒲団”を発動させ、広範囲の信号機をすべて赤に変えた。たくさんの自動車が撫子を守る壁となり、樋口との距離が開く。撫子は軽々しくフェンスを飛び越え、狭い路地へと逃げ込んだ。
しかし、撫子が行く先は行き止まりであることを樋口は知っていた。花袋に遅れて路地へ入ると、ポートマフィアの構成員・銀が慌てた様子で髪を結っていた。撫子が着ていた白いワンピースと、上に無造作に束ねられた長髪、そして顔を隠すためのマスクはあまりにアンバランスである。

「黒髪の撫子」の正体は銀であり、銀は芥川の妹であった。銀は仕事を終えて数日ぶりの帰宅だったようで、仕事衣装を洗濯屋に預けたのち、兄である芥川と待ち合わせをしていたと話す。撫子の正体を知って、樋口は安心して涙ぐんだ。その反面、国木田は花袋に「マフィアの類は嫌いだろう」と問いかける。それでも花袋は撫子の前で膝を下り、震える手で恋文を差し出した。
結局、花袋の恋は破れてしまった。自宅に戻って蒲団をかぶり、大声で花袋は泣き続ける。国木田は「……そう云う事か、莫迦な奴め」と花袋の家を後にした。花袋を心配する敦だが、国木田には花袋が恋文を用意したことや、探偵社に依頼をしたことの真意が分かっていた。花袋には好きになった女性に想いを伝える度胸は元々ないのだが、いつまでも片思いのままではチップの調査ができないため進んで玉砕したのだと言う。
国木田は溜め息をつきながら「奴が探偵社に戻れば、少しは楽になるんだがな……」と呟くのだった。

仮面の異能者殺し/共喰い

武装探偵社社長・福沢が横浜の夜道を歩いていると、足元に落ちている血痕を見つける。血痕は狭い路地に入るようにして続いており、不自然に途切れていた。血溜まりを見ていると背後から大振りの鎌を持った人物が襲ってくる。福沢は後ろを振り返ることなく刃先を指で挟み、軽い動作で牽制した。奇襲を防がれ、鎌を簡単に奪われた人物は後退し、「異能者に死を」と呟いた。その人物は布を深くかぶり仮面で顔を隠している。続いて、福沢の後頭部を狙うように何かが飛来してくる。
福沢は間一髪で攻撃を避け、飛来物は首をかすめた。致命傷ではないはずなのに、福沢の視界は途端に霞んでいき、苦しみながら地面に倒れてしまう。
仮面の人物は「抗えぬ死は至る所にあります。例えば銃、病、孤独、そして毒」と言い残し、空中を走るようにして逃走した。

次の日、敦は血相を抱えて出社した。探偵社員には既に「福沢が襲われ、謎の症状で意識不明になっている」と通達されており、与謝野の異能をもってしても症状は改善されないようだ。聞き込みを終えた太宰は、手口が似た暗殺事件が頻発しているという情報を持ち帰ってきた。正体不明の異能を操る仮面の男が、路地裏で異能者に夜襲をかけているという。さらに太宰は「街で"異能者殺し"が活躍し、一番困る組織はポートマフィアだ」と話した。夜を管理する組織であり、異能者所帯であるポートマフィアの鼻先で暗殺事件を起こされることは屈辱行為にも値する。ポートマフィア首相の森は"常に先手が勝つ"と構成員に何度も説いてきた。太宰は、ポートマフィアは被害が出る前から必ず動くだろうし、暗殺者が隠れ家にしそうな場所にも通じていると話した。
太宰の読み通り、同時刻にポートマフィアの構成員は古アパートの一室を襲撃していたが、そこに人が住んでいた痕跡は残っておらずもぬけの殻となっていた。森はエリスとともに街へ買い物をしに出かけながら、構成員と連絡を取り合っている。「奴は必ず次の殺しをする。そこを狙おう」と話しながら、エリスと車に乗り込んだところで突如その車が爆発した。立ち上る黒煙を仮面の暗殺者は上空で見つめていた。
森はエリスに助けられて車から脱出するが、騒ぎを聞いて駆け付けた警察官に、至近距離で腹部を刺されてしまう。警察官を装ったフョードル・ドストエフスキーが仮面の暗殺者と手を組み、森の暗殺を企んだのだった。
ドストエフスキーは《死の家の鼠》と呼ばれる組織の一員で、空中戦闘要塞“白鯨”のコントロールを奪った張本人であった。

ドストエフスキーが路地裏に逃げ込み、自分が身に着けている帽子を隠した場所をのぞく。置いてあったはずの帽子はなく、不思議に思っていると、ドストエフスキーの逃走経路に先回りしていた太宰が、帽子をかぶって姿を現した。
太宰にはドストエフスキーの目的は「一冊の小説」であることが分かっている。頁に書いたことが真実となる白紙の文学書だ。この「本」を手に入れるためには横浜の異能者を根絶やしにする必要があり、ドストエフスキーたち《死の家の鼠》には組合のように町ごと焼き払うような兵力がないため、暗殺で探偵社とポートマフィアの頭を落とそうとした。
ここまで推察されたドストエフスキーは「何故そう思うのです?」と太宰に問うと、太宰は薄く笑みを浮かべて「私ならそうするからさ」と返した。
ドストエフスキーは太宰を「似たもの同士」と称し、福沢の体を蝕む毒の正体を話し始める。毒の正体は「共喰い」とも呼ばれるウイルス型の異能力で、傷口から体内へ侵入した異能生物が48時間かけて成長し、宿主の体を食い破るというものだった。この異能は森の体にも作用しており、48時間が経過する前に福沢か森かどちらかが死ねば異能は停止する。ドストエフスキーは二組織を潰すのは自分ではなく探偵社とポートマフィアだとも言い放った。太宰の異能力“人間失格”を発動して、異能無効化を試みたとしても、臓器の中に隠れたウイルスに触れることは不可能に近く、リスクが高すぎた。
「人は罪深く愚かです」「誰かがその罪を浄化せねばなりません」「故にぼくは“本”を求めるのです」とドストエフスキーが言うと、高所から放たれた銃弾が太宰の腹部を貫いた。
血を吐きながら太宰は「君と私は同類だと云ったね、確かに同類だが一点だけ違う」と呟く。続けて、「確かに人は皆、罪深く愚かだ」「だからいいんじゃあないか」と傷口を抑えて弱々しく立ち上がった。ドストエフスキーは太宰が逃走経路に先回りしていることを見抜いており、そこに狙撃手を配置していた。一方の太宰も狙撃手の存在を予想はしていたが、その上で「伝令役にするために自分が急所を外して狙撃される」ことまで看破していた。“同類”である2人は、互いに相手の意図や狙いを理解した上でこの場に臨んでいたのだ。

ドストエフスキーの目的とは「本」の力を使って、異能力者のいない世界を創ることだ。
このとき国木田は太宰の下に駆けつけようとすぐ近くにまで迫っており、「太宰! 何処だ!?」という彼の声が対峙する2人の耳にも聞こえてくる。「ではいずれ、“約定の地”にて」と言い残し、ドストエフスキーはその場を去った。
探偵社は福沢を守るため、ポートマフィアは森を守るために、長らく禁止としていた全面抗争を開始したのだった。

無辜の民の死

横浜市内の病室で福沢は眠っている。太宰は別の病院で手術を受けており、太宰の頭脳なしにポートマフィアと戦うことはあまりに不利であった。意気消沈しているところに、「大変です! マフィアに建物を包囲されています!」と敦が飛び込んでくる。福沢の療養している病院を探り当てたポートマフィアの構成員は、既に正門や裏口を封鎖していた。ポートマフィアも「福沢を殺せば森は助かる」という共喰いの異能の情報を掴んでいたのだ。焦る国木田に乱歩が「それでも社長の弟子か」と声を掛ける。先ほどまで乱歩は福沢のそばを離れず、目を泣き腫らしていた。それでも「指示を出せ、社長代理」「必要な情報は、僕が凡て読み切ってやる」という乱歩の言葉に、国木田は奮い立った。

「探偵社員のほぼ全主力が病室を防衛している」という見張りの情報を受けた中也は、同じく主力で対抗すべく芥川たちを呼び付けた。しかし、見張り役の構成員や中也たちが見ていたものは、谷崎の異能力“細雪”で描かれた幻影であり、病室の手前に立っているのは谷崎1人だけであった。他の社員は福沢とともに病院を脱出して、谷崎は取引のための人質としてポートマフィアに捕まった。
ポートマフィアとの正面衝突をなんとしても避けたい探偵社は、「福沢と森のどちらかを殺す」というルールそのものを無視して「ウイルスの異能力者を捕まえて、太宰の異能力“人間失格”を使って異能を無効化させる」という作戦を立案したのだった。
横浜にいる犯罪者は異能特務課とポートマフィアに逃亡経路を抑えられているために横浜から出られない。したがって「共喰い」を実行するときには必ず近くに現れると乱歩は推理した。逃亡経路を抑えている異能特務課か、軍警の異能犯罪対策課から資料を提供してもらえば、乱歩はさらに綿密な作戦を練ることができる。

資料によれば、ウイルスの異能を持つ犯罪者はプシュキンという男で、故郷である横浜のスラム街に潜伏していると乱歩は推理した。国木田と敦はプシュキンを捕まえるためスラム街へ赴き、寂れた階段を下る。ドストエフスキーからの連絡を受けたプシュキンは居住地から逃走しようと地下トンネルに続くはしごを下りて、物音に気づいた国木田が扉を蹴破った。同じようにはしごを下りるとトンネルの向こうへ走り去るプシュキンを発見した。トンネルが一本道であれば追いつけると想定した敦は、手足を虎に変化させて走り出すが、何者かの銃弾が眼前に迫っていた。衝撃で敦は後ろへ吹っ飛ばされるが、命中はしておらず、歯で銃弾を受け止めていた。国木田たちに攻撃をしたのはプシュキンの幼い弟妹であり、短機関銃で武装をしていた。自分たちが反撃してしまえば子どもたちを殺しかねないと考え、国木田は異能力“独歩吟客”で催涙弾を具現化させる。殆どの弟妹は咳き込んで立ち上がることもできなくなっていたが、マスクをしていた1人だけが敦に銃口を向けていた。しかし、銃を構えた子どもの肩を銃弾がかすめる。国木田がやむなく撃ったものだった。感じたことのないような痛みに子どもは泣き叫んでいる。
煙を吸わないように弟妹の防衛を突破するが、国木田は悲痛な表情を浮かべて壁を殴る。与謝野の異能力で子どもの傷は回復させられるものの、「地獄か、此処は」と眉間に皺を寄せていた。敦は、プシュキンの潜伏先で敵異能者との対戦があると思っていた。国木田もそれには同意しており、敵異能者の迎撃の代わりに銃で武装した子どもがいたこと、国木田たちの到来を予測していたにしては警報装置も鍵付の扉もなかったこと、逃走経路も一本道で適していなかったこと、これらの要素には違和感があった。
突然、国木田が「敦、動くな」と一点を見つめながら言った。敦が見た先には、迎撃してきた弟妹と比べて遥かに幼い少女がいた。おそらく、最も年下のプシュキンの妹だ。首には3つの手榴弾が巻かれていて、手榴弾のピンには紐が括られており、少女が強い力で握りしめていた。このトンネルを爆発で崩落させて、自分たちの足止めをしようとしていると敦は考えた。国木田は敦に別のルートからプシュキンを追走するように指示して、少女の前に片膝を突いて「君の兄さんは死なない。俺が殺させない」と語りかける。

ドストエフスキーはある一室でチェロを独奏している。同じ部屋には《死の家の鼠》に拉致された桂正作が、椅子に拘束されて座らされていた。ドストエフスキーは正作が起こした過去の事件と、それを国木田が命をかけて解決したことについて尋ねた。
正作は「それを知って如何する」「あの人の理想は本物だ。あの人の魂は誰にも折れない」と芯のある目で言い返す。

手榴弾を手放させるために、国木田は「手品を見ないか?」と手帳を取り出した。警戒を解こうとした国木田だったが、少女はドストエフスキーからの電話を前もって受けており、襲撃してきた男が手帳を見せたときに手榴弾のピンを抜くよう仕向けられていた。
手榴弾は爆発し、トンネルの一部は崩落した。積まれた瓦礫の隙間から、少女の腕が血まみれになって下敷きになっているのが見えた。国木田は膝から崩れ落ち、悲痛な叫び声をあげた。

敦は船で逃げようとしているプシュキンに飛びかかり、うつ伏せにして取り押さえた。しかしプシュキンは「そうまでして事件を闇に葬りたいのか」と顔を強張らせている。プシュキンは「親切な見知らぬ人が、昔に目撃した轢き逃げ事件の証人を消している連中がいると教えてくれた」と話し、殺し屋を迎え撃つための銃や手榴弾をもらったようだった。プシュキンの反応に敦はたまらずウイルスの異能力について尋ねるが、プシュキンは異能力なんて持っていないと返した。
敦とプシュキンが、車を止めていた乱歩たちと合流する。プシュキンは「これを見せれば命だけは助かるかも」と男に言われて持っていた紙切れを敦に渡した。それは軍警のウイルス異能者の資料であり、捕らえたプシュキンと資料に載っている男は別人だった。資料を見た乱歩は「この資料も偽物(ダミー)だろうな」と呟く。資料を信じて捕まえても別の真犯人が浮かび上がるだけで、延々たらい回しにされ、本物に辿り着く頃には48時間が過ぎてしまう、という敵の作戦に翻弄される手前だったのだ。もはやプシュキンとは呼べなくなった男は、銃をくれた男から「規則(ルール)の変更はできません」という言づてを預かっていると言った。
乱歩の推理力さえ利用した敵の作戦は、まるで太宰が考えたような周到さがあった。プシュキンを捕まえられなかった探偵社は、ポートマフィアとの交渉材料が消えたために谷崎の身が一層危険になったと焦りを加速させた。

探偵社からの連絡を待っていたポートマフィアの武闘組織《黒蜥蜴》だったが、約束の時間になっても連絡は来ない。ウイルス異能者を捕まえることができなかったのではないかと、《黒蜥蜴》の百人長・広津柳浪は谷崎にポートマフィアの諜報員にならないかと提案をする。谷崎は、連絡が来ないのは乱歩たちの最善の判断ゆえだから何も問題はないと断るが、広津は谷崎の妹の名前を出した。十人長・立原道造に銃口を突き付けられていながらも「ナオミには手を出すな」と谷崎はすさまじい殺気を放ち、黒蜥蜴の面々は萎縮してしまう。
谷崎の気迫を感じ取り、埠頭で待機していた国木田は“独歩吟客”を発動する。谷崎の手には国木田の手帳から切り取ったページが握られていた。ページには折りたたみナイフに姿を変えて、縛られていた縄を切って拘束から逃れた。立原の銃弾を避けた谷崎は異能力“細雪”で姿を隠し、森が眠っている最上階の部屋へ駆け出した。
谷崎は容易に森の部屋へ侵入し、眠っている森に目掛けて刀を振り下ろそうとしたが、ポートマフィア幹部の紅葉に背後から攻撃を受けてしまう。紅葉の異能力“金色夜叉”による斬撃に、谷崎は死を覚悟するが、そこへ“夜叉白雪”を従えた鏡花が頭上から現れて“金色夜叉”を迎撃した。元ポートマフィアの構成員である鏡花は、建物内の裏口や侵入経路を把握しており、乱歩の作戦で通気口から潜入していた。鏡花は負傷した谷崎を連れて脱出し、探偵社員が動かす車に合流した。

森を地下避難室に移送させているという情報を入手した乱歩は更なる作戦を練ろうと考えにふけっている。地下避難室へ続く侵入経路はなく、鏡花も「彼処には忍び込めない」と言った。しかし、探偵社員には福沢から「マフィアとは戦うな」という命令が下っていた。福沢はモンゴメリの異能力“深淵の赤毛のアン(通称“アンの部屋”)”で療養しており、モンゴメリを伝って敦に連絡が行っていたのだ。福沢に従うべきだと思っている敦だったが、プシュキンを捕まえる作戦は失敗に終わり、《死の家の鼠》が準備した罠を時間内に覆すのは不可能だと乱歩は判断する。「無理だ」と乱歩は冷たい目で言い放った。
命令違反であることは乱歩であっても承知しており、「だから参加するか否か自分で決めろ」と探偵社員に投げかける。谷崎、与謝野、鏡花、賢治、乱歩はポートマフィアと戦うことを決め、車を降りる準備をした。

「国木田、お前は如何する?」と乱歩は問うが、国木田の表情は曇ったままだ。どうしても国木田は社長の意思に従いたいと思っているが、ドストエフスキーの言う「規則」を破れば無関係な人々が死んでいくのが耐えられなかった。目の前で少女が死んでしまった光景を忘れることができずに、どうすればいいのか分からないでいた。
戦意を喪失してしまっている国木田に、乱歩は「お前は探偵社で最も高潔で毅(つよ)い。だから敵は最初にお前を壊そうとした。それを忘れるな」と、国木田の肩に手を置いて、与謝野たちとともに車を降りた。
敦も国木田と同じように選択に悩んでおり、車から降りて乱歩たちの背中を見つめている。作戦はこれから考えると言う敦に、見かねた乱歩は「端末のチップと、それに描かれた《死の家の鼠》のマークを調査している花袋なら、ドストエフスキーの居場所を掴んでいるかも知れない」と助言をした。敦は国木田とともに花袋の家へ向かうのだった。

花袋の調査と隠しメッセージ

「共喰い」発動まで17時間を切った。与謝野、谷崎、賢治はポートマフィアの下級構成員と正面から衝突し、乱歩は中也と、鏡花は芥川と対戦している。
敦と国木田は花袋の家に辿り着く。室の襖を開けるが、蒲団から出るはずのない花袋の姿はなく、敦の後ろから部屋に入った国木田が壁の一点を目がけて拳を振るった。有事があると自室の映像を記録する花袋の行動を知っていたからだ。空いた壁の穴から国木田は隠しカメラを取り出し、映像を確認しようと花袋の電子機器を操作する。起動させる間、敦は「国木田さんはマフィア戦に行くと思ってました」と明かす。敦の言葉に国木田は、
「……あぁ、規則(ルール)を破って黒幕を追えば、また少女が死ぬ」
「だが何をしてもあの子を救えんのなら、社長も、街も、次の犠牲者も救う。それ以外に弔いの方法が思い付かん」
と答えた。
モニターに隠しカメラの映像が映った。蒲団に潜った花袋が電子機器に向かって作業をしているところだ。「此処が奴等の……」と花袋が言いかけると、いつの間にか侵入していたドストエフスキーに蒲団越しから銃弾を受けた。それを見た国木田は蒲団を剥がす。敷き蒲団には花袋が流したであろう血の跡が広がっていた。

国木田と敦は花袋の家を出る。花袋が国木田の十年来の旧友であることを敦は知っていたため、国木田を心配するが、国木田は「花袋は……昔から困った男でな」と話し始める。
国木田は花袋を自室から引きずり出して探偵社に入社させたが、花袋は事務所に蒲団を敷いて生活し始めるようになった。ある長期休業の際、新人の事務員が花袋に気づかず外から鍵を閉めた。1週間後にようやく国木田が気づいて、閉じ込められている花袋を救出したとき花袋はけろっとした顔で「何しに来た?」と言ったという。花袋は鍵の製造業者から情報をハッキングで盗んだ後、合鍵を造って中華料理店に郵送した。中華料理店に出前を頼んで探偵社屋に届けさせながら、そのまま生活していたそうだ。
「出不精もあそこまで行けば才能だ」と、国木田は花袋の家から持ち出した鍵を見て寂しそうに笑う。
「それは……その時の鍵ですか?」と敦が問うと、国木田は「いいや」と返した。
「同型だが見付けたのはつい先刻……花袋の家の戸棚でだ。鍵番号は閉じ込め事件の日付」
「つまりこれは、俺にだけ伝わる隠し伝言(メッセージ)だ」
「“扶けが来るから大丈夫”」
国木田は花袋が生きていると確信しており、撮影された映像も周囲を欺くためのものだと分かった。しかし、あの状況からどのように助かって、ドストエフスキーでさえ欺いたのは誰なのか、国木田も敦もこのときはまだ分からなかった。

花袋は夏目漱石という異能力者に助けられ、撃たれた傷も回復していた。夏目は武装探偵社設立の後盾となった伝説の人物で、福沢と森でさえ「先生」と敬う最強の異能者であった。福沢と森は一対一で戦うことで敗者の死をもって共喰いを終わらせようとしていたが、夏目に止められ「2人の長が生死不明のときのみ、ドストエフスキーは状況確認のためアジトに留まる。チャンスは今だ」と説き伏せられた。

ポートマフィアとの連携作戦

花袋の調査により《死の家の鼠》の潜伏先が判明し、太宰は戦線に復帰した。太宰の考えた作戦を実行するため、敦と芥川は探偵社の車へ乗り込んでいる。太宰の作戦は、敦と芥川でタッグを組み、敵アジトに潜ってプシュキンとドストエフスキーを捕縛するというものだった。敵のアジトは全長数100キロメートルの炭鉱跡の中にあり、内部は侵入対策の感知器や罠で埋め尽くされているはずだと太宰は言う。炭鉱跡が見える場所で車を止めると、大勢の人が入り口を見張っていた。全員が音声無線を持っており、バイタルを1分ごとに本部に送信しているようだ。入り口には感知器が設置されていて、幻像異能を使う谷崎にさえ反応するものだった。1つでも反応すればプシュキンやドストエフスキーは逃走し、“人間失格”による異能無効化は不可能となってしまう。見張りを倒すことも気づかれることも許されない状況だが、芥川は“羅生門”で自分の体を持ち上げて見張りの上を突破し、敦は“月下獣”で脚力を加速させて見張りのすぐ横を通り抜け、侵入に成功した。知らぬ間に異能をコントロールしている敦を見て、国木田は感心していた。

アジト内で敦と芥川はアレクサンドル・プシュキンを発見するが、構成員であるイワン・ゴンチャロフによる攻撃や、プシュキンの放った銃弾で負傷し、ウイルスの異能力“黒死病の時代の饗宴”によって体力を根こそぎ奪い取られてしまう。身動きが取れないままゴンチャロフの異能力“断崖”で、敦と芥川の体は地面の下へゆっくりと沈んでいく。
芥川は「解決法」と称して“羅生門”を敦の体に巻き付け“月下獣”との連携異能力“月下獣羅生門 黒虎絶爪”を発動した。敦は地面ごと空間を削り取ってその場から脱出し、ゴンチャロフへ向かって猛追した。ゴンチャロフは敦によって倒され、拘束された。プシュキンは炭鉱を脱出したが、逃走経路を予測していた探偵社員とポートマフィア構成員の主力メンバーが待ち構えており、福沢と森の鉄拳によって倒された。

敦と芥川の戦闘中、国木田たちは炭鉱を離れる武装兵、逃走者、戦車、ヘリコプターを捕捉・拘束するが、どこにもドストエフスキーはいなかった。炭鉱内には外への回線がなく、携帯電話通信は花袋の能力で監視しているため、内部からでないと《死の家の鼠》構成員への指揮は不可能なはずだった。
ゴンチャロフは芥川に拘束されていながらも、ドストエフスキーは炭鉱内に一度も訪れず、初めからこの場所にはいないことを明かした。ドストエフスキーはありふれたラジオ番組への楽曲リクエストを行うことで《死の家の鼠》構成員への指揮を執っていたのだ。
ドストエフスキーは座っていたカフェテリアの席を立ち、その場から去ろうとするが、別の席に太宰が座っているのを発見する。太宰はドストエフスキーの方を見て「やァ。善い喫茶処(カッフェ)だね」と笑って見せた。太宰はかつて争った《組合》団長のフィッツジェラルドと協力して、街中の監視映像を網羅できるシステム「神の目(アイズ・オブ・ゴッド)」を用いてドストエフスキーの居場所を暴いていた。ドストエフスキーは異能特務課に包囲され、逮捕された。

作戦終了後

国木田は「貧民街の少女を殺した」という殺人容疑で横浜市警に留置されていた。少女は手榴弾を自ら起爆させたのだが、目撃者はおらず、証拠は抹消され、手榴弾は探偵社の採用型番と一致していた。
国木田の冤罪を晴らすため行動を開始した乱歩は、好敵手のエドガー・アラン・ポオと遭遇する。頼まれると嫌とは言えないポオを巻き込みつつ、乱歩は国木田救出のカギを握る《死の家の鼠》の「隠滅屋」を探すのだった。

隠滅屋と呼ばれた男は小栗虫太郎という犯罪者で、犯罪の証拠を消滅させる異能力“完全犯罪”の持ち主だった。“完全犯罪”により乱歩の推理は一時的に滞るが、ドストエフスキーの操心術を記憶して自分の新たな武器として取り込んでいた。乱歩はポオとともに虫太郎を問い詰め、“完全犯罪”を解除させた。
虫太郎は自首をして逮捕され、探偵社が採用している手榴弾が流通中に盗まれた証拠が見つかった。この手榴弾が少女の爆殺に使われたことも裏が取れ、国木田は放免されることとなった。

殺人結社《天人五衰》/探偵社相続の危機

「共喰い」より1ヶ月後、国木田は敦に頼まれて体術の稽古をつけていた。正面から突っ込んでくる敦を国木田は簡単に投げ飛ばし、「直線で攻撃するな、反撃を貰いに行くようなものだ」とため息をつく。「此迄(これまで)もお前は虎の力に溺れた時に負けている。一言で云うなら、虎は強いがお前は弱い」と、国木田は腕を組んで言った。
稽古を切り上げ、2人は探偵社の会議室に足を運ぶ。探偵社は政府からの緊急要請を受けて、殺人結社《天人五衰(てんにんのごすい)》の捜査を始めようとしていた。《天人五衰》は4件もの連続猟奇殺人を起こしており、犠牲となったのは若手議員や国防省の人間たちだった。5つの衰のうち「不楽本座」に見立てた殺人がまだ起こっておらず、福沢はこれを阻止するように指示を出した。しかし乱歩は「友人」と称した小栗虫太郎から「もうじき大きな仕事が来る。依頼を受ければ探偵社は滅ぶ」と忠告されており、《天人五衰》の捜査に反対した。乱歩は会議室を出て行ってしまうが、探偵社は殺人犯を、乱歩は探偵社滅亡の真相を、同時に調査することが最適であると福沢は分かっていた。

会議に参加していなかった太宰は競馬場で盲目の青年と出会う。青年は太宰に手錠をかけ、犯罪容疑で逮捕してしまった。この青年は《猟犬》部隊と呼ばれる軍警であり、太宰でも振り切れないような相手であった。今頃の逮捕に太宰は疑問を投げかけるが、青年も「奇妙なことに、あるとき急に証拠が復活した」と不思議そうに返答する。太宰がマフィア時代に起こした詐欺や恐喝などの犯罪は、虫太郎の異能力“完全犯罪”で消滅していたが、先の事件で“完全犯罪”を解除した際に浮かび上がったものだった。
武装探偵社は凶悪犯罪者のプシュキンとドストエフスキーを逮捕したとして、安全貢献の最高勲章「祓魔梓弓章(ふつましきゅうしょう)」を受賞したばかりだ。しかし司法省では、司法次官の斗南(となん)を筆頭に会議が開かれており、探偵社の名誉を剥奪するべく秘密裏に動いていた。斗南は探偵社に祓魔梓弓章を叙して「国の誇りだ」と賞賛した反面、暗殺された父の仇をとるために探偵社の有罪性のある情報を集めていた。斗南たちは「35人殺し」の庇護、マフィアとの癒着、女医の患者殺害容疑など、有力な情報は入手したもの、提供した人物や入手経緯は不明であり、そろそろ直接会うべきだと話す。すると、斗南に仕えている秘書が「情報提供者との面談は既に設定している」と言い、斗南に銃口を向けた。放たれた銃弾は斗南の脚に命中し、秘書は変装を解いて《天人五衰》の1人・ゴーゴリに姿を変えたのだった。

ゴーゴリは探偵社のパソコンと映像をつないで「不楽本座」に見立てた殺人を行うことを伝えた。映像では政府の人間が拘束されているのが確認でき、胴体にチェーンソーが巻かれていた。後ろには銃で武装した人物が4人控えており、白い頭巾をかぶって顔を隠している。探偵社以外の人間が現場に踏み込んだ場合と、30分後の18時になった場合に、白頭巾の人物たちがチェーンソーを起動させて拘束されている政府の人間を真っ二つに体を切断する。軍警や市警との連絡・連携を禁止されてしまった探偵社は急いで現場へ向かい、国木田は敦を先行潜入させて、まずはチェーンソーの時限装置を止めるように指示した。敦は地下から潜入するが、現れたゴーゴリとの戦闘の末に脚を地面に埋められて身動きが取れなくなってしまう。
敦をのぞいた探偵社員が辿り着いたとき、既に軍警も《天人五衰》が動いたという情報を入手しており、国木田は賢治に軍警を足止めするよう頼んだ。軍警は狙撃犯や電戦班などいくつものグループに分かれて人質の救出を試みていたが、賢治に救出班の装甲車をひっくり返されたことで手こずっていた。

人質部屋の扉の前で、国木田は“独歩吟客”を発動し音響手榴弾を具現化する。囮として扉を破り、音響手榴弾を犯人の前に投げ入れると同時に、鏡花の異能力“夜叉白雪”で後方の壁を切断して侵入する作戦を提案した。正面からの異能戦になれば人質が死ぬリスクが高まるため、後方から犯人全員の首をはねるしか方法はないと国木田は言った。
戻ってきたゴーゴリは国木田たちの存在に気づき、白頭巾をかぶる人物にチェーンソーを起動するよう呼びかけ、さらに「全員頭巾を脱げ」と指示した。チェーンソーは起動し、人質から鮮血がほとばしる。室内に響く悲鳴を聞き、慌てて国木田は突入の合図を出した。

別行動の乱歩は、異能特務課の種田山頭火(たねだ さんとうか)が血まみれになって倒れているのを発見した。種田は乱歩に《天人五衰》の狙いが分かったと絶え絶えに伝える。《天人五衰》は5人の犯罪者で構成された組織であり、内1人は「自分が一番知りたいことと相手が一番知りたい情報を交換する能力」を持っていた。犯人は種田の記憶を利用して、書いた内容が現実になる白紙の小説の「頁(ページ)」を1枚盗み出した。そして「本」とその「頁」には書かれた内容が物語としての因果整合性を持たないといけないという制約があった。種田は横たわり「連中は探偵社を、破滅の呼び水にする気……」と言いかけて気を失ってしまう。
乱歩は端末に向かって「不楽本座とは探偵社の席のことだ」と叫ぶが、国木田は気付けずにいた。

頭巾を脱いで正体を見せたのは、国木田、与謝野、谷崎、鏡花の4人だった。
国木田たちの目の前で人質が切断されていく。扉を破る前に部屋の中にいる現状が信じられず、国木田たちは混乱した。
武装探偵社への嫌疑の浮上、それを告発するための秘密会議、これらと、「白頭巾の正体は探偵社員」と頁に書き込まれた一文が「物語的整合性」を持ったために現実が上書きされてしまったのだ。《天人五衰》は政府に近しい存在であるという噂は逆であり、「勲章」により政府中枢に食い込んだからこそ犯行を開始したという動機と、「《天人五衰》の正体は武装探偵社である」という事実が「頁」の力で生まれてしまった。

理想の終着点

国木田は異能力を発動する前に、《猟犬》鐵腸に手帳ごと斬り伏せられる。

チェーンソーで切断された遺体を前に呆然としていた国木田、与謝野、谷崎、鏡花の4人は、「彼らこそ人質を殺めた《天人五衰》のメンバーである」という形に認識を上書きされた軍警による狙撃を受けてしまう。谷崎の異能“細雪”で姿を隠してこれを凌ぐと、国木田たちは賢治の用意した一室へと移動し、しばしそこに身を潜める。無実を主張して投降しようと谷崎は提案するが、「無駄だ」という乱歩の声が国木田の携帯端末から聞こえてきた。国木田たちには人質を拉致して殺した記憶が存在していた。虫太郎の現実改変異能は記憶の改ざんまではできなかったが「本」の力ではそれが可能であることから、「本」は異能力をも超越する物質であると乱歩は断定した。国木田たちと同じように乱歩も軍警に襲撃されて、そのまま音信不通となってしまう。
国木田たちの潜伏していた部屋の中に、軍警の用意した昏睡ガスが噴射される。軍警は谷崎の幻像異能対策で感温眼鏡(サーマルゴーグル)を装備し、探偵社員に作戦通信を傍受されないように軍用暗号機を配備していた。昏睡ガスは吸えば十数秒で意識が失われるものであり、注入してから1分が過ぎたころに隊員の1人が心音検知器で心拍を確認した。すると、1名の心音は微弱で、残り4名は心停止と見なされ、突入班は予想外の事態に驚いている。突入班が部屋に入ると、探偵社員の全員が血を流して倒れていた。
班員が大尉から心音微弱の1人を蘇生させるように指示を受けていると、昏睡しているはずの与謝野が立ち上がり「人間は心臓が止まっていても2分程度ならまだ生きている」「そして探偵社じゃ、瀕死は無傷だ」と言って“君死給勿”を発動する。蘇生した国木田たちは突入班を倒し、部隊の装備を着て脱出の準備をした。
探偵社員が一度死んだのはガスを吸わないようにするためであり、与謝野もガスの浸透を遅らせるために大量に出血することで血圧を下げていた。国木田は暗号通信機を手帳で具現化させて、暗号通信機は軍警との共同作戦で何度も使っているため、通信の傍受をして作戦の全容を把握していた。
部屋を出ていく直前に意識のあった兵士に銃口を向けられるが、撃たれる前に兵士を倒して外へ脱出した。

国木田は兵士を殴り倒してしまったことに罪悪感を覚え落胆していた。あの兵士の目は、いつも鏡に向かったときに映る自分の目と同じだったと思い、「危険を顧みない、正義だけが持つ輝いた目」を自分に向けられて、もう自分は正義側ではなくなってしまったのではないかと打ち沈んでいた。落ち込む国木田だったが、ここで賢治が「10年目の果樹園」の話を一同に聞かせた。
賢治が生まれ育った村で10年かけて育てた果樹園の木が、一度も収穫していないうちに一晩の嵐ですべて倒れてしまった。しかし村民たちは10年を最初からやり直すため、もう一度木の苗を植え直したと言う。一から作り直した果樹園のように探偵社も一からやり直さなければいけないと国木田は考え直し、探偵社を再建すると誓った。
まずは遠くへ逃げるために、列車と車の2つを移動手段の候補に挙げた。軍警と戦闘になった場合、列車が脱線して大事故に発展するおそれがあるため探偵社員は車での逃走を選択した。多くの人命が失われる可能性がある以上、国木田はそれを許さなかった。
鏡花は敦を救出するため建物へ戻り、国木田たちは車を確保するため幹線道路へ移動した。走っている車を賢治に止めさせて、国木田は運転手に「車両盗難保険に加入しているか」と尋ねた。「入っている」と答えた一般人の車を強奪し、軍警に目立たないように法定速度で走行する。

遠方まで逃げたあとはどこかへ潜伏し、情報収集に徹する予定を立てようとするが、知らぬ間に《猟犬》の条野採菊(じょうの さいぎく)が車に乗り込んでいた。《猟犬》は軍警最強の特殊部隊で、全身に異能技師による生体手術が施された人物のみで構成された部隊だった。隊員は5名おり、常人の数倍の身体能力を持っている。捕捉されれば車を破壊されて逮捕されることは明瞭であった。一度は条野を振り切ったが、合流した《猟犬》末広鐵腸(すえひろ てっちょう)の異能力“雪中梅”で車を真っ二つに切断され、国木田たちは道路に放り出されてしまった。鐵腸の斬撃により探偵社員が次々と倒され、国木田は一時しのぎで音響手榴弾を具現化させようとするが、“独歩吟客”を発動する前に手帳ごと体を斬られて倒れてしまう。鐵腸の抜刀の瞬間を国木田はかろうじて捉えており、鐵腸の“雪中梅”は軍刀を伸長させたり屈曲させたりする能力であると理解した。
条野が鐵腸に与謝野の首をはねるように指示を出したところで、国木田は投降すると傷を庇いながら叫んだ。そんな国木田の心音を聞いた条野は「今 ホッとしていますね?」と問いかける。条野は国木田の「理想」を「高く飛ぶ大きな気球」と表現し、「気球はいつか必ず燃料が尽きて地に墜ちる。理想が墜落する日に怯えて生きていた」と言う。
その言葉に国木田の血の気が引いた。

与謝野が斬られる一歩手前で、上空からポートマフィアの運用ヘリが飛んでくる。中にはポートマフィア五大幹部の中也が乗っており、重力操作をして威力の増した弾丸を条野たちに向けて乱射した。国木田たちはポートマフィアのヘリに乗り、逃走した。
福沢は軍警に逮捕される直前、ポートマフィア首長の森と取引をしており、探偵社員を救助して匿う代わりに社員1人をマフィアに移籍させるという約束をしていた。納得のいかない取引ではあるが、ポートマフィアの救助がなければ全員逮捕されて与謝野が殺されていたことを思えば、今は助けられて正解だった。国木田でさえ「理想論ばかりでは命は救えん。現実的にならねば」と、らしからぬ発言をして探偵社員を「頭でも打ったか」「本体(手帳)が斬られたからおかしくなったか」と困惑させた。国木田は条野に言われた内容を気掛かりにしており、仲間が死ぬことで理想が潰え、自由になれることを心のどこかで待っていたのではないかと自問していた。
そんなとき、鐵腸の刀身がヘリの装壁と賢治の体を貫通し、刃先を曲げて固定させ接近してきた。機体まで登ってきた鐵腸はヘリの回転翼を切断しようとして“雪中梅”を発動する。国木田は谷崎に「必ず真犯人を暴け、頼んだぞ」と言いながらヘリの扉を開け、自分ごと鐵腸を蹴り落とした。機体から離れた鐵腸は空中に投げ出されながら、この高度でも俺は死なないと国木田に言い放つが、国木田は仕込んでいた手帳のページを取り出し、手榴弾を具現化させた。
「我が理想は墜ちぬ! この“生命(いのち)”を燃料として、永遠に飛び続ける!」
国木田は鐵腸を巻き込んだ形で自爆し、生死不明となってしまう。

一度の墜落、再浮上

鐵腸を巻き込んで自爆した国木田は《猟犬》の異能技師によって一命を取り留めていたが、両手を失っていた。手帳の力を発揮できないことを材料に、国木田は条野から猟犬に入らないかと提案される。この提案を受け入れて治癒手術を受けなければ手帳に書き込むことは不可能のままであり、仲間を護るための「理想」を失うと問い詰められ、2つに切り裂かれた手帳を無造作に投げ捨てられてしまう。為す術がなくなったと絶望しかけていた国木田だが、《天人五衰》の長「神威(かむい)」の暗殺計画を乗っ取った乱歩に救出され、同じく乱歩に救出された与謝野の異能力“君死給勿”で完全復活を遂げた。

探偵社員で会議をするために、ポオは乱歩に頼まれて小説空間の中に探偵社屋を創りだした。会議室に探偵社員が集まったことで安堵する敦へ「重要な会議だぞ、涙ぐんでいる場合か」と国木田は話しかける。敦は「国木田さんは冷静ですね」と感服するが、国木田は「2時間程泣いた後だからな」と眼鏡を直しながら言っていた。
《天人五衰》の真の狙いは《大指令(ワンオーダー)》という封印された精神支配の異能兵器だ。《大指令》を使用することで《天人五衰》は世界征服を成してしまう。それを阻止するため、国木田たちは乱歩の作戦を実行するのだった。

国木田独歩の関連人物・キャラクター

中島敦(なかじま あつし)

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