ARMS(アームズ)の名言・名セリフ/名シーン・名場面まとめ

『ARMS(アームズ)』とは、七月鏡一原案をもとに1997年から2002年にかけて少年サンデーで連載された、皆川亮二の大ヒットSF漫画である。
主人公は、右腕にナノテクノロジーで生み出された金属生命体「ARMS」を移植された少年「高槻涼」。彼が同じARMS移植者である3人の仲間と供に、ARMSを狙う謎の組織「エグリゴリ」の刺客と果てない戦いに身を投じていくという物語である。
本作は「人間とは一体何か?」をテーマとしたSF漫画作品でもあり、登場する名言は人間の心や成長にまつわるものが多い。

第12巻出典。 第四部のカリヨンタワーの地下で、ARMSの適合者にして、エグリゴリの最高幹部「キースシリーズ」の一人、キース・シルバーと涼が戦うエピソードで、シルバーが敗北して、死ぬ前に涼にかけた言葉である。

シルバーはキースシリーズの中でも好戦的な性格で、ARMSに宿った力も彼の性格にふさわしく、強力な荷電粒子砲を内臓した、「帽子屋(マッドハッター)」である。しかし彼の好戦的な性格は、少年時代にキースシリーズの長兄・キースブラックによって矯正されてできた性格で、本来は動物好きの優しい少年であった。
彼は戦いの因子を強く持つARMSを持たされたがために、エグリゴリに心ごと囚われ、本来の自分を心の奥底に引っ込めていた。彼は、マッドハッターに宿った戦いの因子に従うが如く生きてきたが、彼はギャローズ・ベルで、反物質を使ったジャバウォックに敗北したのだ。シルバーはそれまで自分が、「闘争の因子を持った戦闘生物」もしくは「戦いの神」を自認し、それをアイデンティティーにしていたが、ジャバウォックはそれを上回る破壊の力を持っていたために、シルバーのアイデンティティーは壊れてしまった。

シルバーはギャローズ・ベルでの雪辱を晴らすべく、カリヨンタワーの地下で、涼を待ち構えていた。涼との戦いの最中でシルバーは、涼を倒そうと荷電粒子のパワーをあげすぎて、マッドハッターの耐久力を超えてしまい、自身の肉体も融解させてしまっていた。それはまるで彼の暴走した心そのものの様であった。このままではメルトダウンを起こし、周囲が彼の巻き添えになってしまうと考えた涼は、ジャバウォックに熱を吸収させたのであった。

涼の強い意志を感じたシルバーは、敵対していた涼を、自分と同じARMSの適正者である兄弟と認め、「貴様は… 前進しろ… 貴様の心が… 今求めていることをなしに行け… オレに…できなかったことを…」と言い、最後まで運命に縛られていた自分の代わりに、彼が運命を打ち破ることを祈った。

キース・グリーンの名言・名セリフ

キース・グリーン
エグリゴリを統括する「キースシリーズ」の一人で、最年少のメンバー。柔和な雰囲気だが、残酷な一面を持っている。ARMSは、空間に断裂を作って瞬間移動をすることが出来る、「チェシャキャット」。名前の由来は「不思議の国のアリス」に登場する「チェシャ猫」である。

僕は…… 君達とまったく別の形でであっていたなら…

第12巻出典。 最後の力を振り絞って、空間転移を行い、涼をカツミの元に連れてきて、そのまま死んでいくときに本人が思い浮かべた言葉。

カリヨンタワーでのエピソードで、カツミに恋心を抱いてたキース・グリーンは、兄であるキース・ブラックを裏切る決意をした。カツミは、エグリゴリを支配する巨大コンピュータ・アリスの部屋にブラックと供に居た。
グリーンはカツミを助けるために、ブラックと戦ったが、ブラックのARMS「ハンプティダンプティ」の強大な力によって瀕死の重傷を負ってしまう。カツミを助けるために、グリーンは最後の手段で、自らのARMS「チェシャキャット」の空間転移の力で高槻涼を連れてくることにした。涼は自分の前に現れたグリーンに嫌悪の表情を浮かべた。カツミに横恋慕していたグリーンは、彼女の心を奪った涼に地獄をあたえるべく、グランドキャニオンで多くのチャペルの子供とその家族を虐殺したのだ。
しかし、涼は憎しみではなくカツミを救える希望を選び、グリーンと供にカツミとブラックのいるところへ瞬間移動をした。アリスの部屋に空間転移した涼はカツミと再会を果たす。そしてグリーンはブラックによってすでにARMSのコアチップを傷つけられていたために、力尽き、少しずつ体はボロボロになり、最後は「僕は…… 君達とまったく別の形でであっていたなら…」と思いを馳せ、灰になってしまった。

グリーンはキースシリーズの中でも一番若く、まだ10代半ばであり、涼達とほぼ同じくらいの年齢であった。彼によって匿われていたカツミは、彼と友達になっていた。グリーンは当初、カツミはプログラム・ジャバウォック起させるための道具でしかないと思っていたが、彼女の明るく世話焼きな姿に惹かれ、恋愛感情を抱いていった。しかし、一方でカツミを愛しているのが涼と分かると、彼に嫉みの感情を抱いた。
グリーンはグランドキャニオンで、涼に対する嫉妬から、涼と行動を供にしていたチャペルの子供達を虐殺していった。しかし、ブラックがプログラム・ジャバウォックを引き起こすために、カツミを涼の目の前で殺させようとしていると知ると、グリーンは彼女を助けようとした。愛情とは人にとってなくてはならないものだが、その愛情が原因で人は残忍なことを平気ですることもある。

グリーンは許されないことをしたが、決して生来の悪人などではない。どこにでも居る普通の人間である。なぜなら、グリーンのように嫉妬心から人を傷つける人間は現実世界にもいるからだ。

ARMSとは、優しさも残酷さも誰もが心の中に持っているということを語っている作品でもある。彼の名言に込められているのは、もしかしたら出会い方さえ間違えなければ、涼と友達になれたかもしれないという思いである。しかし、彼の未熟さが、他者への認識の甘さが、彼の人生を凄惨なものに変えてしまったのだ。

キース・ヴァイオレットの名言・名セリフ

キース・バイオレット
エグリゴリを統括するキースシリーズの一人で、唯一の女性。ARMSは光学兵器「バロールの魔眼」を内蔵した「マーチ・ヘア」。名前の由来は「不思議の国のアリス」に登場する「三月兎」である(ヘアは野兎で、武士のラビットは穴兎を意味している)。

笑えるだろう、久留間恵… 私は今、生まれて初めて紅茶がうまいと感じている。

第14巻出典。 バンダースナッチとの決戦前に、茶会を開いたバイオレットの言葉。

カリヨンタワーでの戦いの終結後、日本で新たなる戦いが始まった。それはカツミの内部で目覚めたARMS「バンダースナッチ」の力を狙うキース・ホワイトと、涼達の戦いであった。バンダースナッチは、周囲を氷漬けに出来るほどの寒波を生み出すARMSで、その中には黒いアリスの意志が宿っていた。
キース・ホワイトはジャバウォックの代わりにバンダースナッチを使って世界を滅ぼし、エグリゴリが保管していた全ての「アザゼル」とバンダースナッチに地球と共振させようとした。ホワイトは地球と共振を果たしたアザゼルと、体ごと奪い取ったブラックのARMS、ハンプティ・ダンプティと同化させることで、地球と一体(ARMSは物語の設定に、地球を1つの生命とみなすガイア理論を入れている)となる願望を抱いていた。ホワイトは、究極の進化を果たし、地球そのものになること画策していたのであった。

涼達は、ニューヨークで、アリスの精神世界から現実に戻った時から、なぜかARMSを発動できなくなっていた。そんな涼達の頼みの綱は、涼の父親が、グランドキャニオンでジャバウォックが覚醒した後、ひそかに回収した、ARMS殺しの力を残した「ジャバウォックの爪」のみであった。そして、戦いを終わらすには、それでバンダースナッチもろとも、カツミを殺さなくてはならなかった。
決戦前に、涼やブルーメンと共闘することになったバイオレットはささやかな茶会を開き、涼に「ジャバウォックの爪を自分に渡せば、カツミを殺すのを引き受けてやる」と言った、しかし涼は「誰かがやらなければならないとしたら、それは自分だ」と言って拒み、涼は世界を救うためにカツミ殺す覚悟を決める。過酷な決断をして、がむしゃらに進もうとする涼達を見て、バイオレットは涼達に宿る強い意志を感じ取った。

バイオレットは最初にARMSを発動させた時に人を殺してしまい、それがトラウマで、何を食べても飲んでも不味いとしか感じることしかできなくなっていた。しかし、彼女は涼達と和解し、彼らの仲間となって、はじめておいしいお茶を味わうことが出来たのだ。その時のバイオレットは今までに見せたことのない、穏やかな笑顔を浮かべて「笑えるだろう、久留間恵… 私は今、生まれて初めて紅茶がうまいと感じている。」と言ったのだ。

キース・ブラックの名言・名セリフ

キース・ブラック
エグリゴリを統括するキースシリーズの長兄。全てのARMSの力をコピーすることが出来るARMS、「ハンプティ・ダンプティ」を宿している。名前の由来は、「鏡の国のアリス」に登場する卵の形をしたキャラクター「ハンプティ・ダンプティ」から。

ギリシャ神話で災厄がいっぱい詰まったパンドラの箱に、どうして一緒に希望が入っていたと思います!? 希望こそ………ヒトにとって最も恐ろしい災厄だからですよ…

第12巻出典。カリヨンタワーで、ホログラムを使って、恵達にメッセージを伝えに来たブラックが、去り際に、恵達と行動を供にしていたティリングハースト博士に言った言葉。

カリヨンタワーでの戦いで、ブラックの策略によって恵・ユーゴー・アルの三人と、カツミとの人質交換のために同席していた、エグリゴリ科学部門最高責任者ティリングハースト博士は涼・隼人と分断されてしまった。

恵達は、カリヨンタワーに潜んでいたエグリゴリの刺客に襲われるものの、博士の協力もあって、力を合わせて窮地を乗り切った。そこへブラックが、ホログラム映像で現れ、恵達にカリヨンタワーの地下にある「アリスの間」で待っていると伝えた。ホログラムが消える前にティリングハースト博士がブラックに、「お前のやっていることはアリスの意志なのか?」と聞いた。するとブラックは「ギリシャ神話で災厄がいっぱい詰まったパンドラの箱に、どうして一緒に希望が入っていたと思います!? 希望こそ………ヒトにとって最も恐ろしい災厄だからですよ…」と言った。

第三部、第四部では時折、パンドラの箱の隠喩が出てくるのが特徴のひとつである。パンドラの箱とは、ギリシャ神話の一つで、神々から「開けてはならぬ」と言われている箱(壺であったとも言われている)である。それをパンドラという女性が好奇心に負けて開けてしまうと、中から災厄が飛び出した。しかし、最後に「希望」だけは箱の中にあったという。この「希望」というのはギリシャ語で「エルピス」と呼ばれるものだが、希望以外にも予兆などの意味もある。

一般的にパンドラの箱の物語の意味は、世界は災いだらけとなったが、希望だけは手元に残った。という意味で捉えられているが、その一方で、希望によって人はつき動かされるが、最後は絶望を味わうという意味から、希望こそが恐ろしい災厄とする説がある。

ブラックは希望こそが恐ろしい災厄であると言った。ブラックは子供時代、「アリス」からARMSを託され、キースシリーズの中で、最初のARMSの適合者となったのである。その力で己を実験体扱いしたキース・ホワイトを殺害しようとしたが、その瞬間、ブラックのARMSであるハンプティ・ダンプティの力によって、ホワイトの精神を吸収してしまい、ブラックはホワイトに少しずつ心を侵食されるようになってしまった。

ARMSという「希望」を手に入れた瞬間、ブラックはホワイトという「絶望」を手に入れてしまったのだ。ARMSという物語は、希望につき動かされたあげく、絶望を味わったものと、あきらめずに希望を探し続けるものの戦いを描いた作品でもあるのだ。

キース・ホワイトの名言・名セリフ

キース・ホワイト
物語の全ての元凶となった人物。金属生命体「アザゼル」を使って、人間と金属生命体のハイブリット種「ARMS」を作ろうと考えた張本人。

サミュエル、人類の歴史上最も多くの人間を殺した科学者は誰だと思う!?ダイナマイトを開発したノーベルでも原子爆弾を造ったアインシュタインでもない、答えは進化論のダーウィンだ!!

キース・ホワイト(上のコマ)

第10巻出典。 ブラックに殺される直前に、ホワイトがティリングハースト博士に電話で言った言葉。

1946年の若い頃のティリングハースト博士は、ミスカトニック大学に勤めていた。ある日、ミスカトニック大学の地質学研究チームが、アリゾナで5万年前に地球に落下した隕石を発見した。それは人が触れると形が変わる不思議な石だった。ティリングハースト博士が綿密は分析をした結果、これが金属生命体であることに気がついた。これが、後のARMSの原型になったアザゼルである。
その後、大学は謎の組織によって立ち入られ、アザゼルとその研究資料を押収されてしまう。そして、ティリングハースト博士はとある男の下に連れてかれた。その男こそ、ナチスドイツや旧日本軍の資料を元に様々な実験を行う組織「エグリゴリ」の御用学者「キース・ホワイト」であった。

やがて、エグリゴリを巧みな政治手腕で乗っ取ったホワイトにより、ARMSの移植者はホワイトのクローンであるキースシリーズが担う事になった。やがて、数多くの実験体の犠牲の果てに、一人目のARMSの適合者が誕生した。それがキース・ブラックである。しかし、ブラックの目的は、自分達を実験体として扱い支配してきたホワイトを殺すことだった。

ブラックの凶行に及ぶ前、ホワイトはティリングハースト博士に電話をかけ、「サミュエル、人類の歴史上最も多くの人間を殺した科学者は誰だと思う!?ダイナマイトを開発したノーベルでも原子爆弾を造ったアインシュタインでもない、答えは進化論のダーウィンだ!!」と言った。

ホワイトの過去は本作では語られていないが、かつてヒットラーの唱えたアーリア人優位説(インドからヨーロッパを渡って来た種族を、至高の民族とする説)の信望者であったと言っている場面があり、彼がナチスに傾倒していた過去があることだけは確かなようである。しかし、ヒットラーの死と供にその信念は崩され、いかなる経緯か定かではないが、ホワイトはエグリゴリに入った。
そんな彼が、アーリア人優位説の替わりに飛びついたのは、人類と金属生命体のハイブリット「ARMS」であった。彼は自分自身を神に等しい存在にしたいがために、自分のクローンを使ってARMSの適合者を造り出そうとしたのだ。

20世紀初頭の植民地主義の時代では、ダーウィンの「種の起源」を悪用して人種差別を正当化することが行われた。ナチスの「アーリア人優位説」も同じで、白人こそ最も進化した種族であるという、白人至上主義説を唱えた。(ナチスは白人とアーリア人を同じものと考えていた。)

時代が進むに連れ、白人至上主義も、アーリア人優位説も、進化論的な根拠は無く、非科学的な考え方であると判明した。そして、アーリア人優位説がもたらしたのは、人種差別を世界中に撒き散らしただけであった。しかし、キース・ホワイトは悪いのは悪用した人間ではなく、悪用されるものを造った人間の方と考え、人種差別と虐殺が行われるようになったのは、ダーウィンのせいだと言い放った。彼は自分の実験はすべてダーウィンのせいだと言いたいのかもしれない。

ホワイトはいつも理論的な言葉を吐いているが、良心や共感性が著しく欠けており、大儀や正論を振りかざして、他人に責任を押し付けて、人を思い通りに動かすというやり方をやっていた。そんな彼の末期の言葉は自分のやったことを全てダーウィンに押し付けて、自己弁護を図るというものであった。

第三部でウインドが恵に言った、リーダーとしての認識は、キース・ホワイトの特徴と当てはまっている箇所がある。第四部のティリングハースト博士の回想シーンで現れた、ホワイトの言動を見てみると、人をおだててコントロールし、基本安全なところにいて、勝利した際は名乗り出て手柄を奪い去るようなことをしていた。確かに彼はリーダーとして優秀な資質の持ち主で、後にエグリゴリのトップとなるほどの男だったが、一方で、彼はリーダーの負の一面である、マキャベリストを暗示したような男であることがわかる。

ホワイトは、己のクローンであるブラックに殺されたかに思えたが、彼は想像以上にしぶとい男であることが、第四部の最後で明らかになる。彼はハンプティ・ダンプティの力によりブラックの精神内で魂のみで生き続けて、徐々にブラックを支配していったのだ。

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