私の少年(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『私の少年』とは、高野ひと深による青年漫画。30歳のOL・多和田聡子は、ある夜、自宅近くの公園でひとりボールを蹴る12歳の少年・早見真修と出会い、彼にサッカーを教えることになった。会社の上司で、元恋人でもある椎川文貴の言動に翻弄され、傷つく聡子は、真修との交流によってなぐさめられていく。一方、真修も家庭に問題を抱えていた。それぞれが抱える孤独に触れ、互いを必要なものと感じ交流を重ねる2人は、年齢差や立場の違いに悩みつつも、より深い関係へと変化していく。

『私の少年』の概要

高野ひと深による『私の少年』は『月刊アクション』(双葉社)で2016年2月号から20181年2月号まで掲載され、その後『週刊ヤングマガジン』(講談社)に移籍。2018年26号から月1回ペースで掲載されている。

30歳OL・多和田聡子は夜の公園でひとりボールを蹴る12歳の少年・早見真修と出会い、サッカーをきっかけに交流を始める。それぞれ孤独を抱えていた2人は、次第に心を通わせ合い、互いを必要なものと感じるようになる。立場や年齢の違いに悩みながら、2人の関係は少しずつ変化していく。

少年と成人女性を題材にした物語の特異性や、丁寧な心理描写とそれを伝える圧倒的な画力で、連載開始後から「漫画史上最も美しい第一話」と話題になり、「このマンガがすごい!2017<オトコ編>」第2位、「俺マン2016」第1位などを獲得。繊細なタッチで描かれた12歳の少年・真修の無垢で純粋な美しさや、30歳OL・聡子のリアルな感情の動きや生活感は、女性だけでなく男性読者からの評価も高く、今後のストーリー展開に注目が集まっている。作者の高野ひと深は、これまでBL作品を中心に活躍していたが、『私の少年』連載開始以降、幅広い層の読者から支持を得ている。

『私の少年』のあらすじ・ストーリー

東京のスポーツメーカーに勤務する30歳のOL・多和田聡子は、会社の上司であり、元恋人でもある椎川文貴に振り回され、心にモヤモヤしたものを感じていた。ある夜、会社帰りに立ち寄った公園で、ひとりボールを蹴る12歳の少年・早見真修と出会う。真修は、美少女と見紛うような美しい少年だった。所属するサッカークラブのレギュラーテストのために練習しているという。聡子は不審者に絡まれていた真修を放っておけず、自分がいるときだけという条件で、真修の夜間練習を許可し、リフティングを教えることになった。真修と聡子の特訓はレギュラーテスト前日まで続き、最後に真修へ応援の言葉を贈って別れる。
真修とのサッカー練習もなくなり、いつもの生活に戻った聡子だったが、元恋人・椎川に食事に誘われて待ち合わせた居酒屋で、椎川の婚約者を紹介され衝撃を受ける。自分と椎川が復縁する可能性を期待していたことを自覚した聡子は、虚しさから、気づけば真修と特訓をしていた公園へと足を向けていた。

公園には、レギュラーテストに落ちて、サッカーを辞めなければいけないと落ち込む真修の姿があった。真修の伸びきった髪や年齢に合っていない幼い服装、「この先開花するとは思えないサッカーをこれ以上続けても、意味がなく虚しいだけ」というまるで大人が子供に諦めを諭すような言葉の端に、育児放棄の気配を感じた聡子は、突発的に真修を自分の部屋へ招き入れてしまう。ふと元恋人・椎川との出来事を思い出して涙を流す聡子を、真修は優しく抱きしめ、サッカーを辞めたくないと涙を流す真修を、聡子がしっかりと抱きしめる。泣き疲れた2人はそのまま静かな朝を迎えた。

翌日、聡子が仕事から帰宅すると、サッカーを続けることを父親が許可してくれたことを報告するため、真修が部屋の前に立っていた。ただし、それは真修の父親が練習の送迎やユニフォームの洗濯などを何もしない、という条件付きでの許可だった。真修とは赤の他人である自分が、これ以上真修の生活に踏み込む必要があるのかと躊躇う聡子だったが、サッカーを続けることを純粋に喜ぶ真修の笑顔をみて心が動き、試合の送迎を買って出る。それ以降、聡子と真修はサッカーを口実に、親族でも恋人でも友人でもない関係の交流を続ける。それぞれが抱える孤独に触れた2人は互いを必要なものと感じていく。真修の子供らしい純粋さに触れ、聡子は2人で過ごす時間を幸せに思うようになっていた。

真修の所属するサッカークラブのコーチの娘で、真修と同級生の小片菜緒は、登校中の真修を見かけて、サッカーチームで配布されたプリントを真修に渡し損ねていたことを思い出し、真修の後を追いかけてうさぎ小屋を訪ねた。そこでは、真修が一人でうさぎ当番をこなしていた。男女2人ペアのはずのうさぎ当番をサボるパートナーに対して、文句も言わずにひとりで当番をこなす真修に、菜緒は当番の手伝いを申し出る。菜緒は、真修から「やさしいね」と言われ、とっさに「普通だよ」返している自分に困惑してしまう。誰かが困っていても見ていないふりをして、クラスの友人たちの顔色を伺い、彼らの言う「普通」の価値観に合わせて過ごす自分にとっての「普通」とは何なのか。そんな思いがずっと頭を巡り思い詰めた菜緒は、ストレスから昼食中にクラスメートの前で吐いてしまう。友人たちが敬遠して動こうとしない中、真修は周囲を押しのけてためらいもなく菜緒に駆け寄り、吐瀉物を片付けはじめた。他人を疑わず誰にでも真摯に向き合う真修の、無垢な優しさに惹かれた菜緒は、真修のことを気にかけるようになる。菜緒は以前、サッカーの試合で真修と一緒にいる聡子を見かけたことがあった。真修を連れてプールに遊びに来ていた聡子とその日たまたまプールに来ていた菜緒が女子更衣室で会った際、菜緒に真修との関係を問われた聡子は自分は真修のご近所さんだと伝えたため、2年後に聡子と菜緒が再会した時も、菜緒は聡子を「真修のご近所さん」だと認識している。

聡子の部屋で真修と勉強会をした日の夜、自宅に帰ったはずの真修が、「弟が家に帰ってこない」と動揺した様子で聡子の部屋を再び訪ねてきた。
一緒に向かった真修の家は、ゴミや衣類が散乱するひどい有様だった。聡子はこれまでも、母親がいなく複雑な真修の家庭環境に憂慮を募らせていた。しかし家の様子を見てしまったことでその疑念は決定的になり、他人である立場に葛藤しながらも「真修のために何かできないか」と真修のそばにいる決意をする。

春から始まり、夏休みになっても続いていた聡子と真修の交流だったが、とうとう真修の父親に知られてしまう。サッカーを教えるに至った経緯を説明するため、聡子と真修の父親は2人で話し合うことに。赤の他人の聡子に不信感をあらわにする真修の父親だったが、真修の父親が勤める会社と聡子の勤務するスポーツメーカーは取引先の関係だったことがわかった。聡子の説明と真修の懇願の甲斐あって、毎週金曜日のサッカーの練習を認めてもらった聡子は、これからも真修に会えることに安堵する。しかし後日、聡子は上司の椎川から、真修の父親が腹を立てており、会社として聡子の処罰を求めていることを聞かされる。聡子が真修を部屋に入れたり、プールや食事に連れ出したことを真修が父親に話してしまい、それに対する聡子の説明がなかったことで、真修の父親の怒りを買ってしまったのだった。

聡子は、椎川の計らいで地元・仙台へと異動が決まった。送別会で、聡子は椎川に「色々与えようとしたつもりが、真修からたくさんのものをもらってしまった。もらいすぎたから全部無くなったんだろう」とこぼす。翌日、真修には告げないまま聡子は東京を後にした。一方、真修は聡子の部屋を訪ね、隣人から聡子が今日引っ越すと告げられる。慌てて聡子を探すが、見つけ出すことはできず、聡子の携帯電話に留守電メッセージを残す。仙台に到着した聡子は、母親からの留守電の後に、真修からの留守電が入っていることに気が付いた。留守電に残されていた「もう何ももらったりしない」「いなくならないで」とすすり泣く真修の声を聞いた聡子は、涙が溢れ、駅のホームから動けなかった。

聡子の転勤という形で迎えた、真修との別れから2年が経ち、聡子は仙台の実家で暮らしながら会社勤めを続けていた。聡子33歳の誕生日、修学旅行で仙台を訪れていた真修と、偶然の再会を果たす。真修は14歳・中学2年生になっていた。真修は別れ際に連絡先を聡子に渡し、東京に帰っていった。仙台と東京の遠距離で2人の交流が再び始まり、真修は聡子のことが頭から離れず落ち着かない。真修が何かを待つように、画面が真っ暗なスマホをじっと眺めていることに気が付いた菜緒は、真修の相談にのる。「遠距離の女友達とのLINEで、緊張して会話が思いつかずうまく話が進められない」という真修の相談に、菜緒は真修が恋をしていることを察した。その女友達(聡子のこと)を思って寂しそうな表情をする真修を見て笑顔で応援する菜緒だが、真修をこんな表情にさせる誰かの存在に胸を痛めた。菜緒の応援に触発され、連日の電話やメッセージのやり取りで距離を縮めようとする真修に対し、大人としての距離感に悩む聡子。そんな時、椎川から東京でのプロジェクトに誘われたが、真修と深く関わってはいけないと感じている聡子は東京へ戻るつもりはなく、誘いは辞退しようとしていた。だが、東京出張を理由に真修と会った聡子は、真修を一目見た途端に強い衝動に突き動かされ、真修のために東京へ戻る決心をしていた。

聡子の部屋探しのため東京を訪れたとき、街中で真修と偶然出会う。聡子は妹・真友子と一緒に来ており、真修の存在を真友子に知られてしまった。洞察力の鋭い真友子は、聡子と真修の間に何かがあり、お互いを特別に思っていることを見抜く。2人の行く先に興味を抱いた真友子は、聡子と東京で同居することに決めた。2年前は恋愛でも友情でもなく名前の付かない関係の聡子と真修だったが、真修の聡子に対する気持ちは次第に恋愛感情へと変化していく。真修を子供と捉えて大人の立場で接しようとする聡子は、自身に対して恋心を抱く真修の気持ちに応えられず、聡子が東京に戻ってからも2人の気持ちはすれ違う。
離れていた2年の間に、真修の父親は単身赴任で家を離れており、真修の祖母が一緒に暮らすようになっていた。だが、改善された真修の暮らしをみても聡子は手放しで喜べない。ようやく聡子は、「かわいそうな真修を助けるために、自分は真修に関わっている」という気持ちが根底にあり、真修が今はきちんとした生活ができているのを認めたくなかったことを自覚した。そして、これまでは真修に会うことを許される理由や立場、周りからの視線ばかりを気にして、真修に向き合ってこなかったと気が付く。真修に会いたい気持ちは理屈じゃないと強く感じた聡子は、自分が真修にしてあげたいことは何かを見つめ直す。聡子も真修も、2人だけで過ごすことだけがただ幸せで、お互いのことしか見えていない閉じられた世界にいる。真修のことを好きな菜緒や真修を大切に思う人たちに、真修がきちんと目を向けられるように「真修の世界を開いていきたい」と、聡子は新たな気持ちで、今度こそ真修にきちんと向き合うことを決めた。

『私の少年』の登場人物・キャラクター

多和田聡子(たわだ さとこ)

東京のスポーツメーカー「ヨネサス」に勤める30歳OL。宮城県仙台市出身。大学進学を機に上京し、大学時代はフットサルサークルに所属しており、当時同じサークルだった椎川と付き合っていたが1年の交際の後、破局。会社の上司である椎川に振り回されて、ストレス発散のため公園で酒を飲んでいたときに真修に出会い、真修にサッカーを教え始める。起きてすぐに体温を測ることを日課にしている。母親との間に確執があるが、聡子が仙台に転勤になった際には、実家で母親と妹・真友子と一緒に暮らしていた。

早見真修(はやみ ましゅう)

聡子の家の近所に住む12歳・小学6年生。サッカークラブに所属しており、レギュラーテストに向けて、夜の公園でひとり練習をしていたときに聡子と知り合った。父親と弟と3人で暮らしている。サッカーを続けることを父親から良く思われておらず、サッカークラブを辞めるが、その後も聡子とはサッカーを口実に交流を続けるようになる。美少女のような美しい容姿をしており、性別を間違えられることに慣れている。回転寿しに顔を輝かせたり、鉛筆の握り方が独特だったりと、子供らしい一面もある。小学校で飼育しているうさぎに「まくら」「ふとん」という名前をつけて可愛がっている。

椎川文貴(しいかわ ふみたか)

スポーツメーカー「ヨネサス」の会社員で、聡子の上司。大学時代に、同じフットサルサークルに所属していた聡子と1年間交際していた。部下である聡子をからかい、馴れ馴れしく絡むため、聡子には鬱陶しく思われているが、聡子が真修の父親から処罰を求められた際には聡子を仙台支社へ推薦したり、2年後には聡子の手腕を買って東京へ呼び戻したりと、上司として聡子を気にかけている。

小片菜緒(おがた なお)

真修の所属しているサッカークラブのコーチの娘で、小学校では真修と同じクラス。しっかり者だが、友人の顔色を伺いすぎるところがある。真修に助けられたことで、真修を気にかけるようになる。中学2年では、真修と同じ進学塾にも通っている。友人からは悩み相談に応えるのが得意だと評価されている。放送部に所属しており、放送部が強豪の高校への進学を希望している。クリスマスには、聡子に買い物に付き合ってもらい、真修に手作りのブレスレットを贈った。

多和田真友子(たわだ まゆこ)

聡子の妹。一人称は「まゆ」で、聡子からもそう呼ばれている。洞察力が鋭くよく気がつく。専門学校を卒業後、仙台の実家で暮らしていた。仙台に転勤になっていた聡子が再び東京に戻ることが決まり、東京での部屋探しに同行した際に真修の存在を知る。聡子と真修の行く先を見守るべく、聡子と一緒に東京に上京することを決める。昔は、真友子への隠しごとが多く何かと除け者にしようとする聡子に反抗心を抱いていたが、それは母親の不貞を真友子に隠すためだったと知ってからは、聡子を慕っている。

『私の少年』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

真修が傷ついた聡子をなぐさめようとする

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