歪みの国のアリス(歪アリ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『歪みの国のアリス』とは、携帯電話向けホラーゲームである。サンソフト内のGセクション部が「ナイトメア・プロジェクト」名義で開発。2006年に配信を開始し、2015年にスマホ向けリメイクされた『歪みの国のアリス~Encore(アンコール)』を配信。配信当時の携帯電話向けゲームの中でも有名なヒット作となった。主人公「葛木亜莉子(かつらぎありこ)」通称「アリス」は、目を覚ますと学校の教室にいて、フードを被った男「チェシャ猫」と共に「シロウサギ」を探す事になる。

母の婚約者・武村が刺されるという凄惨な亜莉子の記憶。

公園のバラ園は市が緑化計画の一環として作った物で、大した大きさではないはずだった。
しかしバラ園は広大な広さの迷路になっていたため、亜莉子は道に迷ってしまう。
チェシャ猫は迷宮だから必ず出口はあるという。
体感にして3時間ほど彷徨っていた時、こちらから遠ざかる足音を耳にする。
亜莉子がその足を音を追いかけていくと、茂みがガザガサと動いていた。
茂みに首を突っ込んでみると、そこには誰もいなかったが、亜莉子の家の裏庭に出た。
隣の家と亜莉子の家の生垣から亜莉子は出てきており、どういう事かとチェシャ猫に聞こうとすると、エプロンのチェシャ猫が入っていた場所にチェシャ猫が居なかった。
途中で落としてきてしまったのだと思い、亜莉子は再び生垣に体を突っ込むが、隣の家の庭に出てしまう。
バラ園のあった公園は家から徒歩でいける距離であったため、公園に戻ろうと亜莉子は表に周りこんだ。
玄関の前を通った時、玄関の扉がうっすら開いている事に気づく。
亜莉子は扉の中にシロウサギの姿を見るが、すぐさまドアは閉じてしまう。
公園に行かなければと思う亜莉子であるが、体は玄関のドアの方へ向かっていく。
「家には帰りたくない!」と心の中で叫ぶが、亜莉子は玄関のドアに手をかけた。
台所と居間の間にあるガラス戸が開く気配がし、亜莉子は思わずガラス戸を押さえつけた。
視線を感じ見上げると、ガラス戸には包帯の女が映っていた。
女は顔の包帯を解いていき、亜莉子は見たくないと目を瞑る。
その時聞こえてきたのは「おかえり、亜莉子」という、懐かしい母の声であった。
ガラス戸を押さえる手を思わず離してしまい、ガラス戸が勢い良く開き、亜莉子は目の前が真っ白になる。

亜莉子の足元には、母の婚約者・武村が背中を刺され床を血で濡らし倒れていた。
亜莉子の手には血が滴るカッターナイフが握られている。
背後から叫び声が聞こえ、振り返ると亜莉子の母が真っ青な顔をしており、武村に駆け寄って亜莉子に向かい何故こんな事をと言う。
亜莉子が近づくと母は後ずさる。
亜莉子は「そんな目で見ないで!」と叫び、カッターナイフを振り上げた。

気が付くと亜莉子は居間に座り込んでいた。
床には血がこびりついており、自分は武村と母を殺害したのだと理解した。
人を殺したら逮捕される、警察に行かなければ、と亜莉子は近くにある交番へ向かった。
交番には何処か見覚えのある巡査の男がいて、薄ら笑みを浮かべていた。
亜莉子は人を殺した事を打ち明けるが、巡査は亜莉子を逮捕しようとしない。
巡査の襟を掴んで訴えると、巡査の帽子が落ちる。
男は廃ビルで出会った若い男であり、自分は「トカゲのビル」と名乗った。
ビルは突然亜莉子に麻袋のような物を被せ、腕を縛り、「行きましょうアリス、裁判が始まります。」と言い、亜莉子を何処かへ運んで行った。

亜莉子はすり鉢状になったホールに運ばれた。
中央に亜莉子が座らされ、それを仮面をつけた聴衆達が見ている。
亜莉子の目の前には高い机があり、向かい合うようにして大理石の台座と椅子があった。
椅子の上には仮面をつけた女王と、その後ろに仮面を付けた給食着の男が居た。
亜莉子と女王の間は2メートルほどあり、その間に透明なガラスで出来た箱が置いてあった。しかし不思議と箱の中は見えない。
女王は鎌の柄で足元を叩き、「静粛に」という。
トランプに足が生えた兵隊がやってきて「被告人アリスには重大な容疑がかかっている、よってこれより裁判を執り行う」と巻物を読み上げた。
亜莉子は自分の罪を武村と母を殺した事だと思うが、ビルは「アリスは偽証罪だ」という。
そんなわけはないと亜莉子は反論するが、では何故殺したのかという問いに答えることが出来ない。
ビルは「アリスはオカアサンが憎いから殺した」と言うが、亜莉子は否定する。
するとビルは亜莉子に向かって手を挙げ、亜莉子は反射的に叩かれると思いごめんなさいと謝った。
しかしビルは亜莉子を叩かず、「何故謝るのです?」と言う。
ビルは女王に向かって「ご覧のようにアリスはアリスは叩かれるのが怖いのです。それはオカアサンがたくさん叩いたからです。だから被告人はたくさん痛かった。」と言い、「憎んで当然かと」と付け足した。
亜莉子はその言葉を否定しようと思ったが否定できなかった。
「わたくし達のアリスになんて事を!殺しても仕方ないわ!悪いのはオカアサンですもの!!」と女王は叫ぶ。
亜莉子は「お母さんは悪くない、私が…」と弁解し、女王は「私が?」と返す。
いつの間にかビルは腕に焦げた子犬の人形を抱えており、亜莉子の脳裏に真っ赤な景色が蘇る。
「わたしが…おとうさんを…ころしたから…」と亜莉子が告白すると、ビルは「どうやって」と聞く。
目の前にあったガラスの箱に大きなヒビが入る。

子犬のぬいぐるみは亜莉子が四歳の時に、父・寿生から貰ったものであった。
ぬいぐるみを大事にしてた亜莉子は、火事の家の中にぬいぐるみを忘れてしまった事に気づき、取りに行ってしまう。
怖くて動けなくなっていたところに父が現れ、亜莉子を励ました。
しかし二人の頭上から何かが降ってきて、亜莉子は父に突き飛ばされた。
亜莉子を庇った父は、降って来たものに押し潰されて死んでしまう。
父の葬式が終わった後、母は亜莉子からぬいぐるみを取り上げ、庭で燃やした。
母に最初に叩かれたのはその時からだった。
だから母は悪くない、この痛みは自分に与えられた罰なのだと思う亜莉子。
ガラスの箱にさらにヒビが入った。
「耐え切れなくなってオカアサンを殺したのか」と問うビルに、亜莉子は否定の言葉を繰り返した。
その時「異議あり」という聞きなれた声がホールに響き、ガラスの箱の上にチェシャ猫の首が落ちてきた。
「被告人はまだ嘘を吐いている」とチェシャ猫は言う。
亜莉子が否定すると「君が殺していなければまずい理由があるんだね」とチェシャ猫が返し、亜莉子は凍りつく。
ガラスの箱にさらにヒビが入る。
「アリス、おなかは大丈夫?」とチェシャ猫に言われ、亜莉子は自分がお腹から血を出し足元に血溜まりを作っていた事に気づく。
亜莉子はお腹を抱えて蹲る。
「さあ、真実の箱を開こう」チェシャ猫がそういうと、ガラスの箱が粉々に砕け散り、中から出てきた光で法廷は真っ白になった。

階段下から物音がして、亜莉子が様子を見に行くと、そこには母の婚約者・武村が血を流して倒れていた。
そしてその前には母が包丁を持って佇んでいる。
亜莉子は武村に駆け寄り救急車を呼ぼうとするが、肩に衝動と痛みを感じた。
振り返ると母が包丁をこちらに向けており、亜莉子は包丁をかわして尻餅をつく。
「もう…だめなの。亜莉子…ねえどうして?」「どうしてこうなってしまうの?どうして私は…」と、うわ言のように言う母は包丁を向けて近づいてくる。
転んだ際に落ちたのか、床にはカッターナイフが落ちていた。
亜莉子はカッターを手にとって母に制止を呼びかけるが、母は止まらなかった。
このままでは殺されてしまう、そう思った亜莉子は母が包丁を振り下ろすより前にカッターを自分の腹に突き刺した。
「殺されるくらいなら自分で」と亜莉子は思い、余計なものを見てしまう前に早く死んでしまうように願った。
母の叫ぶ声がし、白い手が差し伸べられるのを見た。

亜莉子は気が付くと、家の居間に居た。
畳は血で汚れており、ここで凄惨な事件が起こった事を物語っている。
テーブルの上にはチェシャ猫がいて、「君は自ら命を絶とうとした。母親に殺される自分を見たくなかったんだね。」という。
亜莉子は「私は自殺した、母に殺されてなんかいない。そんな惨めな子供なんかじゃない…!」と言うと意識を失った。

裁判の場で亜莉子が忘れようとしていた真実が解き明かされていく。

亜莉子が目を覚ますと石造りの通路に立っていた。
夢か現実か分からない場所を亜莉子が歩いていると、足元でぴちゃりと音がする。
亜莉子の腹から血が流れ出していた。
しかし痛みは感じなかったため、亜莉子は歩き続ける。
歪みの国の住人たちの囁き声が聞こえてくる。
「お母さんに叩かれた小さなアリスが逃げ込むために作った不思議の世界」
「不思議の世界は君の歪みを吸い上げる」
「君が歪まないように」
「けれどオカアサンは不思議の国を嫌った」
「小さなアリスは俺達を心から締め出した」
空中に浮かび上がる、亜莉子に手を上げる母と、謝り泣きじゃくる亜莉子。
母は消え、泣きじゃくる亜莉子の前にシロウサギが現れた。
シロウサギは亜莉子の頭を撫でた。
しかし亜莉子はそっぽを向き「しろいウサギなんていないの おかあさんがなくからいたらだめなの」と言う。
幻想は消え、亜莉子はまた歩き続ける。
するとまた住人達の声が聞こえてくる。
「不思議の国は閉じられ、私達は忘れられた」
「けれどシロウサギだけは人に紛れてアリスの傍に」
「シロウサギはアリスの歪みを吸い上げ続けた。あの夜、自分が歪んでしまうまで」
「歪んだシロウサギは何を願う?」
亜莉子が歩みを進めると道が途切れ、亜莉子は淵を覗き込む。
「それでも思うのは あなたのこと」と、女王の声が近くで聞こえた。
亜莉子が振り向くが女王はおらず、代わりにシロウサギが立っていた。
シロウサギの腕に抱かれた人形は緋色のエプロンドレスを着た亜莉子そっくりの人形であった。
「ウデ ウデ ウデ♪ウデはどこだろ♪ウデがなくっちゃ♪僕にふれてもらえない♪」
「アシ アシ アシ♪アシはどこだろ♪アシがなくっちゃ♪僕と一緒に歩けない♪」
「クビ クビ クビ♪クビはどこだろ♪クビがなくっちゃ♪僕を見つめてもらえない♪」
「イノチ イノチ♪イノチはどこだろ♪イノチがなくっちゃ…」
シロウサギはそう歌って、「大丈夫だよ 迎えに来たんだ さぁ…」と優しい声で亜莉子に言う。
亜莉子がその手を取ろうとすると、獣の威嚇声が頭上からして何かが振ってきた。
シロウサギは消え、「アトハ命ダケ」という声だけが残った。

シロウサギの抱えていた人形は完成に近づいていた。

第7章 まどろみの現し世

廃ビルまで追いかけてきた謎の男性。亜莉子の「叔父」だと名乗る。

亜莉子が目を開けると、そこは病院のベッドの上で、亜莉子は病院着を着ていた。
起き上がるとお腹に痛みを感じ、亜莉子が自分の腹を刺し自殺を図った事を思い出す。
母は自分の事を本当は嫌いじゃないはず、いつか好きになってくれるかも、そう信じていた亜莉子であったが、実際には殺したい程に憎まれていた。
その事実を知りたくなかった亜莉子は自ら自殺を図ったが、生き残ってしまった。
亜莉子は自嘲しながら病室を出た。
当ても無く歩き辿り着いたのは屋上であった。
街並みを見ていると、聞きなれたチェシャ猫の声がして、振り返るとチェシャ猫の首がいた。
亜莉子はシロウサギが言った「あとは命だけ」の意味をチェシャ猫に問う。
チェシャ猫は「シロウサギはアリスをここから連れ出したいんだ。肉の器に包まれた、その命を引きずり出して」と答えた。
「素敵」と亜莉子は笑い、何か言おうとしたチェシャ猫を黙らせるように言葉を続ける。
父が自分のせいで死に、そのせいで母は苦しみ、それなのに自分は母の愛を求めていた。
自分が生き残ってしまったことで何かが歪み、惨劇が起こった。
【エンディング分岐あり。選択肢で「わたしなんかいなければよかったのに」を選ぶとEND7 「黒こげの天使」へ】

亜莉子は脱力感に襲われ「もう、どうでもいい」「シロウサギが殺してくれるなら」と口にする。
チェシャ猫はいつも通り「…僕らのアリス、君がそれを望むなら」と答えた。
その台詞を聞き亜莉子は思わず感情が爆発した。
チェシャ猫はそればかり、チェシャ猫さえいなければ自分は何も知らずに居られたのに、と言葉が抑えられなかった。
歪みの国の「彼ら」を自分が生み出したのなら、自分の生き死に無関係なわけはない。
そしてチェシャ猫はいつも側にいて守ってくれた。
そう分かっていても、亜莉子は言葉を止められず、やがて言葉を詰まらせ俯いた。
チェシャ猫は「猫は『導く者』と決められている」と不意に口を開いた。
「アリスの意思は僕らの意思、アリスの意思を僕らは越えられない、全てアリスの望むまま」という。
チェシャ猫は事件が起こった夜、真実へアリスを導くように命令されたという。
誰に命令されたのかと聞くと、アリスだと答える。
亜莉子は否定するが、アリスの本当の意思を汲み取ったのだという。
壊れそうになった亜莉子は、賭けで全て受け入れる事に決めたのだ。
しかしこの賭けは亜莉子が壊れてしまう可能性が高く、女王や蛙たちは反対した。
そしてチェシャ猫はシロウサギを追わせることで亜莉子を真実へ導いたのであった。
「自分がどんなに傷つくか分かっていても、それでも…アリスは生きたいと願ったんだよ」
「僕らのアリス、君が僕らを作り出した。現実がどんなに君をを傷つけても君は生きようともがいて僕らを作り出した」
「僕らはそのために在るのだと思う」とチェシャ猫は言う。
亜莉子は言葉が出ずチェシャ猫を抱きしめ、大声を上げて泣いた。

泣き止んだ亜莉子の心はすっきりともポッカリともどちらとも言えないものだった。
チェシャ猫に今どんな顔かと聞くと、いつもと変わらないと絶妙に失礼な答えが返ってきた。
そしてこのやり取りは独り言なのかと聞くと、歪みの国の住人たちは亜莉子が創ったものだが、亜莉子そのものではないという。
さらに亜莉子は絶対的な存在だが、絶対的な支配者では無いのだという。
亜莉子が理解しかねて首を傾げると「みんなアリスが好きってことさ」とチェシャ猫は言う。
シロウサギもそうなのかと尋ねると、勿論そうだという。
しかし亜莉子にはシロウサギの記憶が無かった。
チェシャ猫曰く、それはシロウサギが亜莉子の歪みをシロウサギとの記憶と一緒に吸い上げてしまっているからだという。
今まで見ていたシロウサギは亜莉子の記憶の断片であって、本物ではないのだという。
亜莉子は「けれどシロウサギだけは人に紛れてアリスの傍に」という歪みの国の住人の言った言葉を思い出した。
すると腹部が痛みだし、ガーゼに血が滲む。
とりあえず病室に戻る事にした。
亜莉子は屋上に干し残されていたタオルを一枚取りチェシャ猫の首を包み、傍から見たらメロンか何かに見えるはず、という希望的観測を持ち屋上を後にした。

亜莉子は病室のある廊下まで戻ったが自分の部屋がどこか分からなかった。
困って歩いていると、目の前の病室のドアが開き中年男性が出てきた。
その男性は街でこちらを見ていたあの男性だった。
「シロウサギは人に紛れてアリスの傍に」という住人の言葉を思い出し、亜莉子は身を翻して逃げようとするが、階段前で腕を捕まれた。
亜莉子が悲鳴を上げると看護婦が駆け寄ってきて、亜莉子は男を指差した。
すると看護婦は不思議そうな顔で「叔父さんがどうかしたの?」と言った。
病室に戻ると、男は申し訳無さそうに自己紹介をした。
男の名前は「和田康平」、亜莉子の母・由里の弟で、亜莉子の叔父だという。
亜莉子は母に兄弟が居る事も知らなかったし、和田とも会った事がない。
亜莉子は正直に和田にシロウサギかと尋ねると、和田は意味が分からなさそうな声を上げた。
和田は以前亜莉子と由里と一緒に住んでたことがあると亜莉子に話す。
亜莉子の父が亡くなり、亜莉子が母と共に母の実家に帰った時の事だと言う。
しかし亜莉子は事件前後の記憶が断片的にしか思い出せなかった。
亜莉子は何故街で自分を追いかけてきたのかと尋ねると、和田は脱走した姪を見つけたら普通追いかけるだろうと言う。
「病院を脱走した」という記憶が無い亜莉子。
和田は亜莉子の様子を見て、話を切り替えるようにその白い包みは何かと問い手を伸ばす。
亜莉子は思わず大声を上げたため、和田は驚いて手を引っ込め、気まずい雰囲気になった。

医師の診断が終わると、警察が来た。
和田は亜莉子に警察が話を聞きたいと言っているが話せるか、と聞く。
警察と言う言葉に、亜莉子は事件の事を思い出し武村の事を尋ねる。
武村は背中を刺されていたが無事で、亜莉子と同じ病院に入院しているらしい。
亜莉子の母は現在行方不明だという。
もし見つかったら母は逮捕されるのかと亜莉子が聞くと、和田は首をひねる。
由里の姿はなかったが、由里のものと思われる大量の血液が残されていたということと、由里が刺したことは間違いないのに武村が黙秘を続けていることを話す。
亜莉子は武村に面会したいというが、二人とも怪我人なんだからと言われ引き下がった。
警察の面会は明日になり、和田は一端帰る事にし、また明日来ると言って席を立つ。
和田の事を信用していいのかと悩む亜莉子。
すると病室のドアを開けた和田が振り返り、「おやすみ、アリス」と言った。
シロウサギは人間に紛れて亜莉子の傍にいる。
和田は本当に叔父なのか、疑問に思いながら亜莉子は眠りに付いた。

翌日亜莉子が目を覚ますと、布団に入れていたチェシャ猫がいなくなっていた。
棚に白いタオルの包みがあり自分で棚に入ったのかと思い、包みを手にとって開けるとそこには立派なマスクメロンがあった。
誰かがお見舞いに置いて言ったのだろうと思い込む事にして、メロンを棚に戻した。
するとトランプのハートのクイーンのカードが一枚落ちてきて、そこには赤字で「気付き損ねている もう一つの真実は 目の前に」と書いてあった。
不思議に思っていると、文字は消えて行った。

昼食後、亜莉子がうたたねをしていると夢を見る。
どこか懐かしい白木蓮のような香りがする。昔、白木蓮の香りが好きでよく連れて行って貰った。
誰にどこへ連れて行って貰ったのだろう、あの人は誰だっただろう、と亜莉子は思う。

目を覚ますと、雪乃が居て花瓶に白い花を生けていた。
亜莉子は雪乃と他愛の無い話をし、亜莉子はそれに安堵感を覚える。
するとドアのノックする音が聞こえ、ドアを開けると武村が来ていた。
思わぬ来客に亜莉子が慌てていると、雪乃は帰るそぶりをする。
亜莉子は雪乃を引き止めるが、ドアが開いて武村が部屋に入ってくるのと入れ違いで雪乃は出て行ってしまった。
怪我をしている武村に亜莉子は頭を下げるが、武村は「君は悪くない」という。
亜莉子が事件の晩の事を尋ねると、武村は微笑むだけで何も答えなかった。
武村と話していると再びドアのノックする音が聞こえ、和田が入ってきた。
和田は武村を見ると怪訝そうな顔をし、お互いに自己紹介をしあった。
和田は亜莉子に警察が来ていることを話すと、武村は病室を出て行った。
「武村は何しにきたんだ」と和田は亜莉子に尋ね、亜莉子は「お見舞いだ」と素直に答えるが、和田は釈然としない態度であった。
男女二人組み警察感がドアをノックして現われ、女性警官が亜莉子に事情を尋ねる。
事件の事を話すことで亜莉子は自分の知らなかったことをいくつか知る。
亜莉子は事件の晩に意識不明で病院に運ばれ昏睡状態に陥っていたが、そのまま失踪したらしい。
亜莉子の記憶では事件の晩とチェシャ猫に出会ったところが繋がっており、自分で病院を脱走したのかチェシャ猫に連れ出されたのかは分からなかった。
警察にはその時の記憶が無いということで押し通した。
最後に男の刑事が質問をし、事件のあった場所にウサギの白い毛が落ちていたという。
亜莉子の家でウサギは飼っているかと尋ねた。
刑事が帰った後、亜莉子は気を失う寸前に白い手が差し伸べられたことをぼんやりと思い出し、頭痛がして眠りに付いた。

翌日、この日は亜莉子の誕生日である。
母の事、叔父の事、ウサギの毛のこと、亜莉子は雪乃が生けた花の匂いがする病室でぼんやり考え事をしていると、ドアがノックされ大きな花束を持った武村が入ってきた。
「誕生日おめでとう」と言って花束を渡され、亜莉子は戸惑いながらも喜んだ。
けれどこんなに沢山の花を入れる花瓶が無いというと、武村は昨日雪乃が花を生けていた花瓶を指差す。
その花瓶は雪乃の花が入っているからと言おうとすると、花瓶は空っぽだった。
雪乃の生けた花があったはずだと主張する亜莉子に、武村は困った顔をする。
武村が入ってくる時に入れ違いで出て行った子だと話すが、武村は「あの時、君は一人だったじゃないか」と言う。
しかし亜莉子には今もあの白い花の匂いがする。
亜莉子は呼吸が苦しくなり蹲ると、武村は慌ててナースコールを押すが反応せず、悪態を付きながら看護婦を呼びに廊下へ出て行った。
亜莉子が視線を上げると鏡があり、その鏡の中には雪乃の生けたあの白い花がある。
花と雪乃は武村に見えていなかった、その事実に亜莉子が気づく。
その時、破裂音がし、鏡にヒビが入り赤い字で「キタ」と浮かびあがる。
亜莉子は立ち上がり窓の外を見ると、雪乃がリボンのついた大きなプレゼンを持って病院に向かってきていた。
亜莉子は病室を飛び出した。

雪乃が置いていった白い花。

【NORMAL END】END7 「黒こげの天使」

直前の選択肢で「私なんかいなければ良かった」を選ぶとなるルート。

亜莉子は自分なんていなければ良かったと思うと、一つの考えに思い至った。
亜莉子はチェシャ猫を動かなくなるまで抱きしめて窒息死させ「ごめんね」と呟くと、チェシャ猫を抱きしめたまま屋上から飛び降りた。
場面は由里が出産した過去の病院に移る。
由里は死産であった。
しかもその子供はまるで母体の中で焼けたように黒こげだったという。
静まり返るロビーで途方にくれている寿生の前に、黒い喪服ドレスを着た少女が現われ「これで良かったの」と言う。
腕には黒焦げになった赤子を抱えていて「私達も行くわ、アリスと一緒に」と言って闇に消えていった。

最終章 狂宴のはて

病室から出た時点で亜莉子は異変に気づいた。
学校の時のようにいつも通りの風景の中に人だけがいなかったのだ。
静寂の中廊下の端から足音が聞こえてきた。
【ルート分岐あり。「給湯室へ隠れる」とNORMAL END「暗闇の歌」「ヒトガタ」のどちらかで確定。「音の反対側へ逃げる」とさらに分岐。】

亜莉子は足音のする方向と逆方向に逃げ、階段を下っていく。
亜莉子は腹部の痛みが強くなって行く。
正面玄関に辿り付くが扉が開かなかった。
痛みで亜莉子は蹲りながら、エレベーターホールの向こう側に夜間の出入り口があった事を思い出す。
腹部の痛みで亜莉子はノロノロとやっとの思いで歩きながらエレベーターに辿り付くが、エレベーターは亜莉子の病室の階からこちらへ下がってきていた。
このままでは追いつかれてしまうと思った亜莉子は階段を下った。
その背後でエレベーターの開く音がした。
亜莉子は激痛に耐え、お腹を押さえながらどこか隠れる場所はないかと、地下の扉を開けようとするがどの扉も開かない。
意識が遠くなりもたれる様にドアノブを捻ると一つの扉が開き、その病室へ入った。
亜莉子が蹲りながら病室を見渡すと、どうやらここは解剖室のようであった。
すると背後から声がし、振り返ると雪乃がいつものように微笑みプレゼントを持って立っていた。
亜莉子の戦慄を他所に、雪乃は「気に入ってもらえるかな」と笑う。
雪乃はプレゼントの包みに手を入れて中の物を取り出し、亜莉子に差し出す。
雪乃が手にしていたのは、亜莉子の母・由里の首だった。
「誕生日おめでとう」と、雪乃は笑顔で言う。
亜莉子の思考が止まり、亜莉子が雪乃を見つめると雪乃の顔は徐々に変化していく。
白い肌はより白く、目は赤く、服には返り血が付き、声が低くなり、顔がぐにゃりと歪んで雪乃とシロウサギ半々の顔になる。
「アアアアアリアアリス」「アリスボクラノアリアリス」「タンジョウビトビッキリキズツケルセカイナラ」「ゼンブケシテヨクナイモノアリスクダサイコエヲ」とシロウサギは言う。
手からはごろりと由里の首が地面に落ち、右手には血で濡れた包丁が握られていた。
亜莉子が後ずさると解剖台に背が当たる。
「急がナきゃ、アリスを連レテ、行カなくちゃ」「オいでアリス、僕ノアリス」と言ってシロウサギは壊れた人形のような動きで亜莉子に近づいてきた。
亜莉子が手を振り払おうとすると「きミを傷ツるダけの世界なラ、捨ててしまっテ」とシロウサギが言葉を続ける。
亜莉子はその言葉に、そして床に転がった首に、母に愛されることはもう二度と無いのだと叶わぬ願いを知る。
「オ、いデ」と言ってシロウサギは亜莉子に手を差し伸べた。
【エンディング分岐あり。シロウサギの手を取るとEND10 「ご褒美」へ】

「行かない…私、ここで生きていくって決めたの…」亜莉子はそうキッパリ断るが、シロウサギに声は届かなかった。
「イッショニイコウ」と近づき包丁を振りかざすシロウサギ。
亜莉子が目を瞑ると何かが覆いかぶさってきて亜莉子を庇った。
それはチェシャ猫の胴体であった。
シロウサギはチェシャ猫の胴体に何度も包丁を振り下ろし、やがてチェシャ猫の胴体は動かなくなり亜莉子の横に倒れた。
シロウサギはチェシャ猫の胴体から包丁を取ろうとするが、その顔はぐにゃりと歪み、元の顔はなく既にただの「歪み」になっていた。
この「歪み」は元々はシロウサギが亜莉子を守るために亜莉子のストレス(歪み)を吸い取ったものである。
しかし「歪み」を蓄積させたシロウサギは徐々に「歪み」に体を侵食され、自身が「亜莉子のため」と思う異常行動を取るようになってしまった。
亜莉子は自分のストレスをシロウサギに背負わせたせいでシロウサギはこうなってしまったのだと気づき、絶望する。
シロウサギは包丁を諦めて亜莉子の首に手をまわすが、亜莉子はそれを拒めなかった。
首を締める手が強くなり、亜莉子の意識は赤く染まって行く。
すると「亜莉子」という声がどこからか聞こえてきた。
【ルート分岐あり。誰の声だったかという選択肢が出て、それによってエンディングが変化。】

その声に動かされるように亜莉子はチェシャ猫の胴体から包丁を引き抜き、シロウサギの胸に突き刺した。
ごめんなさいと泣きながら謝る亜莉子に、シロウサギは亜莉子の頭を撫でた。
亜莉子が顔を上げると歪んだ状態のシロウサギではなく、幼い亜莉子をあやしてくれた頃の本来のシロウサギがいて、「泣かないで、アリスは何も悪くないんだよ」という。
亜莉子はシロウサギがいつもこうやって自分を慰めてくれたことを思い出す。
シロウサギが守ってくれたから自分は生きてこられた、だからこそ一緒にはいけない、と亜莉子は思う。
「私、大丈夫だからね」と言って、亜莉子は包丁をより深く刺す。
亜莉子はこの感触を、この痛みを、匂いを、二度と忘れないと心に刻んだ。
シロウサギは力が抜けチェシャ猫の胴体の上に倒れこみ、二人の体は砕け散って消えていった。
気が付くと病院には人の気配が戻っていた。
亜莉子は病室に戻ろうとするが、倒れて意識を失った。

最終選択肢。誰を選ぶかでエンディングが変わる。

【NORMAL END】END8 「暗闇の歌」

給湯室に隠れ、その後の選択肢で「雪乃を信じる」を選ぶとなるルート。

亜莉子は咄嗟に給湯室へ隠れた。
扉の向こうからは亜莉子の病室のドアをノックする雪乃の声が聞こえた。
亜莉子が居ないと分かると軽く悪態を付き、その姿はいつもの雪乃だった。

亜莉子は急に馬鹿馬鹿しくなり、自分が勝手に疑っているだけだと雪乃を信じた。
給湯室から出て雪乃に声を掛けると、雪乃は誰も人がいなくて吃驚したといつものように言う。
すると突然「バチン」という音と共に全ての電気が消えた。
雪乃は不安そうに亜莉子の手を握った。
亜莉子は雪乃を守らなきゃいけないと思い、雪乃の手を握り外を目指した。
しばらく歩いた頃、亜莉子は雪乃が言葉を発していない事に気づく。
心配になって声をかけると、雪乃は鼻歌を歌っていた。
亜莉子は「何を呑気な」と思うが、そのメロディには聞き覚えがあった。
「アシ アシ アシ♪アシはどこだろ♪アシがなくっちゃ♪僕と一緒に歩けない♪」
「クビ クビ クビ♪クビはどこだろ♪クビがなくっちゃ♪僕を見つめてもらえない♪」
亜莉子は咄嗟に雪乃の手を離そうとするが、物凄い力で握られ、そのまま抱きしめられた。
逃れようともがく亜莉子であるが、雪乃の腕は全く動かない。
耳元で「イい、イノち」「いノちがナクっちゃ」と声がする。雪乃の声ではないもっと低い声だった。
そして亜莉子の背骨は大きく軋み、亜莉子の意識は闇の中へ消えていった。

【NORMAL END】END9 「ヒトガタ」

給湯室に隠れ、その後の選択肢で「雪乃を信じない」を選ぶとなるルート。

亜莉子は咄嗟に給湯室へ隠れた。
扉の向こうからは亜莉子の病室のドアをノックする雪乃の声が聞こえた。
亜莉子が居ないと分かると軽く悪態を付き、その姿はいつもの雪乃だった。

しかしやはり雪乃は何かおかしい。
武村には見えなかったし、亜莉子以外誰も居ない病院に存在している。
亜莉子はそのまま身を潜めていると、雪乃は階段の方へ向かった。
亜莉子は階段とは逆のエレベーターへ向かうと、エレベーターが丁度付いた所でドアが開いた。
中には赤いエプロンドレスを着た人形が置かれていた。
亜莉子の背後から「迎エにキたよ」と声がした。
振り向く前に亜莉子は背中に強い衝撃が走り、意識を失った。

病院の職員・瑞枝は、両手にゴミを持ってゴミ捨て場に捨てに来た。
するとゴミの上に灰色の猫がおり、ゴミを引っかいていた。
猫は何かを引っ張り出そうとしているようで、瑞枝は猫を手伝ってあげることにした。
猫が引っ張り出そうとしていたのは赤いエプロンドレスを着た人形であった。
人形を摘み上げると、猫は瑞枝の足にまとわり付いてきた。
瑞枝は猫を踏まないように足を動かしたが猫の首に当ってしまい、猫の首がボトリと落ちた。
瑞枝は悲鳴を上げ病院に一目散に逃げて行った。
猫の胴体は力付きて横倒しになるが、首は人形に向かって這い寄って行く。
そして人形の頬を舐めると、猫の首も力尽き静に目を閉じた。

【NORMAL END】END10 「ご褒美」

亜莉子が迫り来るシロウサギの手を取るとなるルート。

亜莉子はシロウサギの手を取った。
するとシロウサギの手は熱を帯び、亜莉子の歪みを吸い取る。
シロウサギの歪みは強くなり、顔が大きく歪んだ。
こうやってずっと自分の歪みを引き受け守ってくれていたんだ、と亜莉子は思う。
自分が歪んでも亜莉子が幸福であるように、シロウサギはずっと亜莉子の歪みを取り除いて来た結果、シロウサギが歪んでしまったのだ。
亜莉子は立ち上がってシロウサギを抱きしめた。
「アリス 僕のアリス 君の腕を 足を 声を 命を 僕に下さい」とシロウサギは亜莉子の耳元で言う。
亜莉子は頷き、「あなたが守った私、あなたがいなければ歪んでいた私。ならばこれはご褒美。私の血と肉は、あなただけのもの」と答えた。

患者の少女が一人行方不明になり、病院はバタバタとしていた。
看護婦の真由子は用事があり地下を歩いていると、解剖室から何か音がした。
真由子が不思議に思い解剖室を覗いてみると、そこにはセーラー服の少女が座り込み肉塊に包丁を何度も突き立てていた。
真由子は叫ぶと、少女はこちらを向いた。
少女の目は赤く白目がなかった。
真由子は叫んでその場から逃げ出す。
階段に辿り着いた真由子の前に、先ほどの赤い目をしたセーラー服の少女が現れた。
少女は硬直する真由子の口を掴み、顎が軋む音がする。
「アナタノ…ウデヲ、アシヲ、クダサイ」
「ア、アリスア、リスアリアリアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

TRUE END(後日談)

母・由里の墓。

「最終章 狂宴のはて」の一番最後に出てくる選択肢「耳元で声がした。それは…」の選択肢によってトゥルーエンドが分岐。

「チェシャ猫の声だった」を選ぶと、END11「猫を連れて」。
「雪乃の声だった」を選ぶと、END12「ウサギのお守り」。
「お母さんの声だった」を選ぶと、END13「真実の横顔」。
「叔父さんの声だった」を選ぶと、END14「思い出の匂い」。
「誰の声かわからなかった」を選ぶとEND15 「微笑む男」。

END11~15は話が繋がっており、全てのルートを読むと後日談を描いた一本のストーリーになる。
時系列は番号順ではなく、ウサギのお守り(前半)・思い出の匂い・微笑む男・真実の横顔・猫をつれて・ウサギのお守り(後半)。

0tRoom373
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