東亰ザナドゥ(Tokyo Xanadu)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

「東亰ザナドゥ(Tokyo Xanadu)」とは、日本ファルコムより発売されたPlayStation Vita専用のアクションRPGである。主人公の高校生・時坂洸が、ヒロインの同級生・柊明日香と出会い、謎の世界「異界」に挑んでいく物語を描いている。日本ファルコムを代表とする人気ファンタジーRPG「イース」「空の軌跡」とは一風変わって、現代の日本を舞台にしたストーリーと世界観が大きな特徴となっており、ファルコムの新たな時代展開を象徴する一作として注目を集めている。

廃工場でひとり練習をしていた璃音。その歌声に、洸は息を呑むほど感嘆させられた。

璃音がアイドルを志すきっかけとなったのは、10年前の東亰冥災で瀕死の重傷を負い、動かなくなった体に絶望していた中でテレビで見た歌番組にあった。

突如として現れた天使型のエルダーグリード「オルターアンヘル」。璃音と同調しているかのようなその動きに、洸は戦いに集中できない。

しかし、そんな洸の窮地を救いに来たかのように、白装束の人物が姿を現した。

璃音はすぐに見つかった。BLAZE事件の際、彰宏たちが隠れ家に使っていた廃工場で、ひとりで歌の練習をしていた。練習をしていた所を洸に見られたことに璃音はひどく戸惑いながらも、自分の歌声をすごくいいと褒めてもらったことで落ち着きを取り戻し、洸に自分の過去をこう語り始める。璃音は10年前の東亰冥災で瀕死の重傷を負い、手術を受けて一命を取り留めたものの体が思うように動かなくなり、生きることを諦めかけていた。そんな中、病室のテレビに映っていたアイドルグループが一生懸命に歌う姿を見て、一瞬で勇気付けられ、目の前に希望の光が満ち溢れるのを感じた。そして璃音も、自分を勇気付けてくれたあのテレビのアイドルグループのように、自分も歌で多くの人々を勇気付けられる存在になりたいという夢を持つようになり、アイドルの道を歩き始めたのだ。「この杜宮の、東亰の、日本の……ううん、世界中の人たちを、SPiKAの歌で励ましてみせる。あたしたちならきっと、それができると信じてるから」空にゆっくりと手をかざし、自分の決意を静かに、だが力強く述べる璃音。そんな彼女に洸は胸を打たれながらも、若葉と晶から聞いた話と、さらに自分がX.R.Cを立ち上げたことを持ちかけ、力になるから話してみてはくれないかと言った。すると璃音は重苦しい表情になって、若葉や晶が言っていた、SPiKAの周りで起きている異変は自分のせいみたいだと切り出し、それらは自分がライブのソロパートで心を込めて歌っていた時に起きていたと言った。だからこそ、怜香に指摘されたように全力で歌うことができず、他に上手い歌い方がないかどうかひとりで練習していたが、いつも練習に使っている蓬莱町のカラオケボックスでも変なことが起きてしまい、最後にこの廃工場に流れ着いたそうだった。するとその時、璃音が突然胸を押さえて苦しみだし、体から異様な光が放たれ始める。洸が目を見張った瞬間、甲高い悲鳴をあげた璃音の背中から、金色に輝く天使の翼のようなものが現れ、さらにその背後に異形の天使のような姿をしたエルダーグリード「オルターアンヘル」までが現れた。意外な事態に驚きを隠せない洸は、咄嗟に呼び出せたレイジングギアを構えるが、璃音と同調しているかのようなそのオルターアンヘルの動きと力に戸惑い、戦いに集中できない。その時「下がるがいい」という、聞き慣れない声が割り込み、光の矢の雨がオルターアンヘル目掛けて降り注ぎ、洸への攻撃を中断させた。洸がさらに驚いて振り返ると、そこにあの白装束の人物が立っていた。白装束の人物がさらに光の矢で攻撃を仕掛けると、オルターアンヘルは苦しみながら背後に出現させた門をくぐり、異界へと逃げ込んでしまった。同時に璃音もその場に崩れ落ちてしまう。洸に抱き起こされる彼女を見て、「妙な気配がすると思えば……まさか天使などに取り憑かれていたとはな」と、白装束の人物は意味ありげな言葉を投げかける。洸が訳を聞こうとするが、その時、異変を察して明日香たちが駆けつけてきたのを見て、「あとはお仲間にでも聞くがいい」と言い残し、白装束の人物はその場から姿を消してしまった。

璃音の行きつけのカラオケボックスで、異界の門を発見した洸たち。

そして、異界の奥で、璃音の異変の元凶の「眷属」であるオルターアンヘルとの再戦に臨む。

そして一方、璃音は御厨によって、忘れかけていた恐るべき過去をフラッシュバックさせられていた。

璃音の精神の暴走によって、ついに顕現するグリムグリード。その神々しくも恐ろしい姿を見て、御厨は高笑った。

その後、美月の手回しによって、璃音は杜宮総合病院に搬送された。しかし璃音は目を覚まさないまま夜が明けてしまい、ついに記念ライブの当日を迎えてしまう。璃音の病室の前で、京香は彼女がかかっているのは「天使憑き」と呼ばれる異界関連の症状だと洸たちに切り出し、明日香と美月がさらにこう説明する。天使憑きとは、天使のような翼と共に人間が何らかの異能を宿し、その異能の宿主となると、宿主となった人間の意思に関係なく周囲に様々な異変や災厄を振りまくもの。しかもこれは普通の怪異ではできないものであり、その元凶についてはグリムグリード以外に考えられず、璃音はどこかでその元凶であるグリムグリードと接触し、天使憑きになってしまったのだと明日香と美月は語った。それに洸たちが途方にくれながら、このままだと璃音はどうなるのかと尋ねると、京香は天使憑きとはグリムグリードが人間を自らの眷属に変えるものだと答え、いずれは天使の形をした怪異に変異し、異界の住人となってしまう可能性もあると重苦しい表情で言った。
そして一方の白装束の人物については、彼は「刻印騎士団(クロノス=オルデン)」と呼ぶ、欧米圏を中心として活動する宗教組織「聖霊教会」が有する武装騎士団の一員だと明日香は語る。さらに刻印騎士団はネメシスの執行者やゾディアックの実働部隊を凌ぐほどの戦力を有しており、「異界の封印」を絶対目的と掲げる彼らは、異界はもちろん、異界を生み出す原因、または異界に関するものと見なせば何者であろうと容赦なく殲滅するという冷徹さで知られているという。そんな白装束の人物と、彼の背後にいる組織の恐ろしさに仲間たちが言葉を失う中、洸は「どうだっていい……あの白いのが何者で、何を狙ってようが知ったことか」と意気込み、自分は璃音の力になると約束した以上、何としても事件を解決して、璃音もSPiKAの一員として思いを込めていた記念ライブに絶対に出させると誓い、そして「それが俺たち(X.R.C)にとって最初の活動(ヤマ)なんじゃないか?」と、仲間たちに決起を促した。仲間たちも、洸の言葉に賛同し、璃音を助けるために天使憑きの元凶であるグリムグリードと、その眷属であるオルターアンヘルの捜索を開始するのだった。
それから璃音の現状を怜香たち他の4人のSPiKAメンバーに伝え、さらに彼女らからの聞き込みも含めて情報収集を行いつつ、グリムグリードの手掛かりを探っていた。そこで最後に、璃音が練習に使っていたカラオケボックスの一番奥の部屋に行き着いた洸たちは、その部屋で異界の門を発見する。そして、その門を潜った先の異界でオルターアンヘルを発見し、交戦に入る。しかし、撃破には至らずまたもオルターアンヘルは姿を消してしまったが、姿を消す前に明日香がサイフォンをかざし、光り輝く糸のようなものを放ち、発信機のように取り付けることで行方を追えるようにしておいた。その後、現実世界に戻ってきた洸たちは、あとは逃げたオルターアンヘルの行方を辿れば元凶であるグリムグリードに辿り着けるという所まで漕ぎつけたことに、決戦の時は近いと意気を上げる。しかしその時、事前に美月の指示で璃音について調査をしていた京香から電話で報告が入る。その報告の内容はなんと、10年前から璃音は天使憑きであり、ゾディアックのデータベースにその情報は入っていたはずだが、そのデータベースのアクセス権限を持つ何者かが抹消したということだった。その何者かについて、美月が心当たりがありそうな顔を見せた時、サイフォンを操作していた祐騎がこう言った。「目標の進路を確認したよ……方角は『杜宮総合病院』だ」
その頃、昏睡し続けていた璃音がようやく目を覚ました。ベッドの上に身を起こし、病室の中を見回すと、そこには意味ありげな笑いを浮かべる御厨がいた。初めて見る御厨に首を傾げ、SPiKAのファンなのかと試しに尋ねてみると、「悪いが低俗な出し物に興味がなくてねぇ……ボクが認めているのは、あくまでキミの歌声……世界すら変えることのできる天からの贈り物(ギフト)だけさ」と、御厨は鼻で笑って一蹴する。SPiKAを低俗呼ばわりされたことにむっとなる璃音だが、記念ライブがあったことを思い出して表情を変える。だが御厨は行くにはもう手遅れだとさらに鼻で笑いながら、これから新たな存在に生まれ変わるこの日を喜ぶべきだと言い放つ。さらに困惑する璃音に、御厨は歩み寄りながら、こういった。「キミもとっくに気付いているんだろう? 全ては10年前……天使をその身に宿した時から、始まっていたことを!」その御厨の一言を聞いた途端、璃音の胸に鋭い痛みが走り、彼女の脳裏に忘れかけていた過去の記憶が一気にフラッシュバックした。動かない体のまま病室のベッドで死線をさまよっていた中、自分の前に巨大な6枚の翼を持った天使が舞い降りた光景。そして、ベッドや机などあらゆるものが破壊された病室に自分の足でしっかりと立ち、佇んでいる自分。それらが鮮烈に思い出された次の瞬間、璃音は頭を抱えて絹を裂くような悲鳴をあげた。それを見た御厨は不敵な笑みを浮かべ、さらに璃音に「その力は実に素晴らしい……キミにとっても、ボクに取ってもね! さあ、顕われたまえ……!!」と、迫る。御厨のその言葉が引き金になったのか、再び璃音の背中に光の翼が現れ、彼女の体が中に浮かび上がる。そして、璃音が虚ろな表情で歌を歌い上げた時、その背後に6枚の巨大な翼を抱えて蹲る天使のシルエットが現れた。それを目の当たりにした御厨は、心の底からこう喝采した。「さあ、見せてくれ! その翼の真なる輝きを……!!」

こうして、御厨がグリムグリードを顕現させたことで、杜宮総合病院も侵食によって異形の「神殿」に変貌した。

璃音に襲いかかろうとしていたオルターアンヘルを、洸が一撃で打ち倒す。

思い出した自らの過去と真実に絶望、慟哭する璃音に、洸が見せたひとつの動画。それは何があっても璃音が戻ってきてくれることを信じているSPiKAの他メンバー4人の温かな激励のメッセージだった。

そして、洸やSPiKAの激励に、アイドルとして人間として生きて戦うことを誓った璃音の思いに応え、璃音の中に眠る適格者の力が覚醒した。

洸たちが杜宮総合病院へ急行した時には、杜宮総合病院は、白や青の妖しげな光に包まれた巨大な神殿のような構造物へと変貌しており、入り口のところには杜宮学園に現れた魔女の城と同じ赤い門があった。洸たちはこれを見て、どうやら前の時と同じようにグリムグリードによる現実世界への侵食が起きてしまったと悟った。そして、一足先に現場に到着し、他のゾディアックの関係者たちと共に状況の確認を行っていた京香の話によると、御厨によって無理やり自分の中力を目覚めさせられた璃音が中心となる形で異界化が引き起こされ、多くの入院患者や医師、看護師たちが巻き込まれてしまったということだった。御厨の名前を聞いて洸たちは驚き、同じゾディアックの一員ではないのかと尋ねるが、京香はゾディアックは一枚岩とは言えない組織で仲間意識や協力関係というものはなく、これは恐らく御厨の独断だとしか考えられないと答えた。これに美月が「なんて愚かな……いえ、私の責任ですね。智明さんのことも、どこか様子がおかしいと気づいてしかるべきだったのに……」と、胸を痛める。しかし志緒は、「だったら力付くで止めりゃあいい。俺たち自身の手でな」と、落ち込んでる場合じゃないとばかりに言い、洸も「苦しんでいた玖我山を利用するつもりなら許さねえ!」、明日香は「『X.R.C』の最初の仕事、今こそ果たすべきでしょう」と、それぞれ美月の背を押すかのように言った。そして美月も「私も、腹を括ります……!」と、御厨と戦う覚悟を固め、京香に外のことを任せると、洸たちと共に異形の神殿の中へと突入した。
神殿の中間地帯まで進んでいった洸たちは、倒れている入院患者や看護師たちと、オルターアンヘルを前にして床に座り込んでいる璃音の姿を見つけた。「天使……あたしを迎えに来たの……? あの日、みたいに……」と、ぼんやりしながら胸の中でそう呟く璃音だったが、不意に脳裏に廃工場で洸と話した時のことがフラッシュバックする。自分の夢を聞いた後、洸は胸を打たれ、素直にすごいと褒めてくれた。それが何より嬉しかったことも思い出し、笑ってしまった璃音だが、その瞬間にオルターアンヘルがおぞましい咆哮を挙げて猛り狂いだす。眼前に迫る死の恐怖に怯え、震えるあまり、璃音は自分の体を抱きしめ、洸の名前を叫んだ。「時坂くん……助けてっ!!!」直後、その悲痛な叫びに答えるかのように、洸が現れてオルターアンヘルを一撃で打ち倒した。「大丈夫か、玖我山?」涼しげにそう笑いかけてくる洸に、璃音は「時坂、くん……? なんなの、カッコつけすぎだよ、バカ……!」と、憎まれ口を叩きながらも嬉し涙を流した。そして、洸たちが倒れている患者や看護師たちを調べてみたところ、彼らに怪我はなく、命に別状はなさそうだが、明日香曰く「グリムグリードに魂を奪われた」状態で、元凶であるグリムグリードを倒さない限りは目を覚まさず、このまま放っておけば死んでしまう可能性が高いという。その明日香の言葉を聞いて、璃音は愕然となり、「アレは……あたしから出てきたんだから……あたしそのものだからっ!!」と、激しく取り乱したように叫ぶ。
璃音は震える声で、洸たちに思い出した過去のことを全て話した。そして、明日香や美月は、当時の璃音は「生きたい」という強い思いを持っていたが為に、その思いに引き寄せられてグリムグリードがやってきてしまい、全快するのと引き換えにグリムグリードと融合して天使憑きとなってしまったと推測。そして、今までは璃音の中に潜むだけで表には出てこなかったが、何らかの切っ掛けで顕在化することになり、それを御厨が璃音を精神的に追い込んで暴走させたのだという結論に至った。璃音は、失意と悲しみの涙を流し、辺りに倒れている人々を見て「……バカみたい……」と、零した。一生懸命に歌うアイドルの姿を見て勇気付けられ、彼女たちみたいになりたいという夢を持って「生きたい」と願ったことが、グリムグリードという災厄を呼び寄せ、自分の中に取り込むようなことになってしまった。その結果、何の罪のない人々を傷つけ、苦しめ、こうして命の危機にまで晒している。「生きたい」と願った結果がこれなのかと璃音は慟哭し、「こんなことなら夢なんか持つんじゃなかった……っ!こんなことなら、あの時死んじゃえばよかったんだ!!」と、血を吐くような叫びをあげる。それに明日香たちがかける言葉が見つからず、表情を陰らせる中、洸はひとり璃音に寄り添い、優しく諭すようにこう言った。「ただひたむきに歌が好きで、世界中を歌で励ますなんて大それたことを本気で言えてしまう……それがお前が俺に見せた『玖我山リオン』の在り方なんだろ?」そう言った後、洸はこうも続けた。璃音の生き方は璃音自身が決めることで、自分も含めた他の誰にも決められることじゃない。しかし、璃音を応援している、信じている人間はいくらでもいる。そういう人間は自分たちや、SPiKAの他のメンバーたちもだ、と。その言葉に、璃音が涙に濡れた顔をゆっくりと上げると、洸はサイフォンを取り出し、ある動画のメッセージを璃音に見せた。その動画はなんと、SPiKAの他のメンバーたちからのメッセージだった。璃音が戻ってこないまま記念ライブを始めることになった彼女たちは、それぞれ思いや言葉こそ異なるが4人とも璃音のことを本心配しており、そして戻ってきてくれることを信じているとを伝えてきた。そんな彼女たちの言葉と思いに璃音が胸を打たれると、洸が、「ライブもまだ始まったばかりだろう……こんな所でヘコたれてる場合かよ?」と、優しく背を押すように言った。そして璃音は「まったく……カッコ悪すぎだわ、あたし」と、涙を拭ってゆっくりと自分の足で立ち上がる。洸たちやSPiKAの仲間たち、大勢のファンという、自分を信じて待ってくれてる人たちがいる。そして何より、これから自分たちの歌を聞いてくれるかもしれない人たちもいる。だからこそ、こんなところで立ち止まっている訳にはいかない。そう決意した璃音の瞳に、強い闘志と希望の光が宿った。「何が立ちはだかったって、絶対にステージに立ってみせるわ! あたしの、『SPiKA』の歌を……たくさんの人たちに届けるためにもっ!!!」璃音がそう叫んだ時、彼女の体から金色の光が溢れ出てきた。洸たちが目を見張った次の瞬間、「響いて……『セラフィム・レイヤー』!!」その璃音の叫びと共に、彼女の背中に銀色に輝く6枚の翼の形をしたソウルデヴァイスが顕現した。璃音も、洸たちと同じように適格者として覚醒を果たし、戦う力を手に入れたのだ。

御厨の本性と野望を知り、そして彼にアイドルを「くだらない」と小馬鹿にされたことで、璃音の怒りと闘志が一気に燃え上がる。

璃音の怒りと闘志に満ちた言葉に、洸たちも鼓舞され、彼女と共に新たなる最大の強敵に挑む決意を固めた。

一度は璃音の闘志と怒りに気圧されかけた御厨だったが、すぐに自身の優位と完璧を信じ、絶架ノ熾天使に璃音と洸たちの抹殺命令を下す。この瞬間、新たなるグリムグリードとの決戦が幕を開けた。

こうして璃音を仲間に迎え入れた洸たちは、並み居る強力な怪異たちを蹴散らして、ついに神殿の最奥に辿り着く。「フッ……よく来たね。ようこそ、我が玉座へ。歓迎させてもらうよ」洸たちをそう出迎えた御厨のそばには、巨大な6枚の翼を持った天使の姿を持ったグリムグリード「絶架ノ熾天使(セラフィム=アウラ)」がいた。美月がどうしてこのような暴挙に及んだのかを尋ねると、御厨は全ては不可能を可能にする究極の術式である「グリムグリードの制御」の完成計画を完遂させるためだと不敵な笑いを浮かべて言い放つ。そして怪異の持つ力には無限の可能性が秘められており、「異界の利用」を目的とするゾディアックの一派においては密かに研究が続けられていたとも御厨は語り、そんな中で人と結びついた怪異ならば意のままに制御できるという可能性に至ったという。そこでゾディアックのデータベース内で、グリムグリードと融合して天使憑きになった璃音の資料を見つけて彼女こそが最高の実験台だと踏んで、計画の実行へと踏み切ったのだ。さらに御厨はその計画の一環として、先の霧の事件の発端となり、杜宮学園の異界化の原因となった童話の本を持ち込み、制御の参考となるデータを集めるために実験を行ったということも大胆不敵に明かしてのけたことに、洸たちは言葉を失った。美月は婚約者であり同じ組織の一員の本性に愕然となりながらも、どうしてそんな恐ろしい野望を抱いたのかと問いただすと、「それはキミが一番よくわかっているはずだろう」と、御厨は一蹴する。多くの企業が名を連ねることで形作られた巨大な組織であるゾディアックにおいて、自分が身を置く企業である御厨グループなど弱小企業に等しい。しかも、美月との縁談も、彼女の実家であり、ゾディアックを束ねる「12企業」のひとつである北都グループで繰り広げられている跡目争いの一環でしかなく、御厨はそんな縁談をただの茶番だと言い捨てる。しかし「グリムグリードの制御」という技術を完成させた今、その茶番と言い捨てる縁談も最早必要なく、御厨は今後のゾディアックにおける自分の地位は揺るぎないものとなり、さらに御厨グループが十二企業入りすることも決して夢ではないと豪語した。
全ては、大きな地位と権力を手に入れるため。ただそれだけのためにここまでの暴挙に及んだ御厨に、美月も洸たちも愕然となる中、璃音が静かにこう言い放った。「そんな事のために、あたしを利用したの?」そう言った璃音の様子が変わったことに洸たちが思わず振り返る中、璃音はこう続けた。自分にはゾディアックの詳しい事はよく分からないが、その大きな地位と権力を手に入れることのために自分を利用したのか、と。だが、その璃音の言葉を、御厨は馬鹿馬鹿しいとばかりに一笑に付した。「アイドルなど……文字通り、偶像でしかない。そんな、何も実を結ぶことのない下らないものとは訳が違うのだよ。むしろ誇ってほしいくらいさ……ボクの大望の糧となれたことをねぇ?」璃音の思いをこれでもかとばかりに嘲ってくる御厨に、洸たちはついに怒りを露わにするが、璃音は動じることなく、そしてはっきりと「よくわかった。あなたが……可哀想な人だってことが」と、言い放った。それに御厨の顔から笑いが消え、驚きに引き攣る中、璃音は言った。アイドルは下らない存在ではなく、「何も実を結ばない」なんて一度もアイドルというものを観たことがないから言えることなのだ、と。「だから、教えてあげるわ。アイドルの想いが、どれだけ強いかをねっ……!!」強い闘志をたぎらせた表情で、御厨を見据えて勢いよく啖呵を切る璃音。その彼女の勇姿に鼓舞された洸たちも、臨戦態勢に入る。そして、「そ、揃いも揃ってコケにしてくれるじゃないか……! いいだろう!! お喋りはここまでだっ!!」と、完全に見返された御厨もついに感情を露わにし始め、絶架ノ熾天使を振り返ってこう叫んだ。「キミたちにはボクの大望の最初の糧となってもらう……! 『絶架ノ熾天使』よ!! 力を見せつけてやるがいい!!!」御厨の命令を受けた絶架ノ熾天使は、耳を劈く咆哮を挙げた後に翼を羽ばたかせ、璃音と洸たちに襲いかかった。

激闘の末、ダメージの蓄積によって暴走する絶架ノ熾天使の前に進み出て、璃音が歌を歌う。その子守唄のように優しく美しい彼女の歌を聴いて、絶架ノ熾天使は暴走を止めた。

自身の敗北と挫折が認められず、最後まで悪あがきをしようとする御厨に、その場に颯爽と現れた京香が一撃を与えて取り押さえ、さらに征十郎も容赦のない言葉を浴びせる。

そして璃音も無事に他のメンバーとの合流を果たし、彼女たちと共に記念ライブを有終の美へと導いた。

大激闘の末、ついに璃音と洸たちは絶架ノ熾天使の撃破に成功する。片膝をつかされ、力つきる絶架ノ熾天使を見て御厨が絶叫する中、洸たちと共に顔を輝かせながら、「どう……!? アイドルの力、捨てたもんじゃないでしょ!?」と、璃音が勝利を叫ぶ。敗北を認められない御厨は、絶架ノ熾天使に戦闘続行を命令する。すると、再び耳を劈く咆哮を挙げて立ち上がった絶架ノ熾天使は、御厨を攻撃し、吹き飛ばしてしまう。御厨と洸たちが思わぬ事態に驚く中、絶架ノ熾天使は身を捩り、悶え、叫び続ける。どうやらダメージによって御厨の制御を外れ、暴走しているようだ。
そんな中、璃音がゆっくりと絶架ノ熾天使に近づく。洸たちがさらに驚く中、璃音は絶架ノ熾天使を見上げ、「怖がらなくていいよ………ゆっくりお休み」と、優しく語りかけた後、歌を歌い始める。まるで子守唄のように優しく美しい璃音の歌声がその場に静かに響く中、絶架ノ熾天使は徐々に動きを止めていき、淡い光の粒子となってそのまま璃音の中へと入り込んでいくようにして消滅していき、同時に神殿も、元の病院へと姿を戻していった。そうして現実世界へと戻ると、璃音が力尽きたのか片膝をついていた。彼女によると、絶架ノ熾天使は消滅したが、その力そのものは自分の中に戻ってきたという。しかし、前に比べるとだいぶ落ち着いており、明日香によると完全に力を制御できているからもう心配はいらないだろうということだった。「……ありがと。時坂君、それにキミたちも」立ち上がり、微笑みながら璃音たちが洸にそう言った時、先ほどまで茫然自失となっていた御厨が、我に返ったらしくゆっくりと立ち上がった。「馬鹿な……ボクの夢が、ボクの大望が……こんなはずはない、全て上手くいっていたんだ!!」逆上するあまり、洸たちに向かってくる御厨。するとそこへ、「そこまでです」という落ち着いた声と共に京香が現れ、御厨に容赦のない蹴りの一撃を浴びせ、その場に押さえつけた。さらに「それ以上無様な姿を見せるものではない」と、威厳のある声が割り込んできて、白いスーツを着込んだ、堂々とした大柄な老人が現れた。その老人の名は北都征十郎。京香からの連絡を受けてこの場へやってきた美月の祖父で、北都グループの現会長である彼は、洸たちに身内の不祥事を詫びた後、御厨へと向き直る。震え上がる御厨に、征十郎は、今回の一件以外にも御厨が犯したとされるさまざまな背任行為が明らかになったと告げた。そして「愚かなことをしたな……事態が収まり次第、じっくり話を聞かせてもらおうか」と、征十郎にとどめの一言を投げかけられた御厨は、完全に戦意を喪失してしまい、ただただその場に項垂れるだけだった。
その一方、記念ライブではSPiKAの他メンバー4人が懸命に場を盛り上げていたが、璃音がまだ戻ってこないことに胸を痛め、最後までやり遂げられるのか迷いを見せ始めていた。しかしその時、美月が手配した車に乗って一気に駆けつけてきた璃音が、ステージ衣装に身を包んで元気な姿で現れたことに、4人は一斉に顔を輝かせ、璃音と共に記念ライブを一気に盛り上げ、有終の美を飾ったのだった。

コウ編〜エピローグ(第7話・最終話)

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@yuri_rryp5

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