私の頭の中の消しゴム(韓国映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『私の頭の中の消しゴム』とは、イ・ジェハン監督・脚本の韓国の映画。日本では2005年に公開。
建築会社社長の娘キム・スジンと、スジンの父が経営する建築会社で現場監督として働くチェ・チョルス。2人は偶然に出会い恋愛を経てやがて結婚し幸せな生活を送っていた。そんな中スジンが若年性アルツハイマー病におかされていると判明する。症状が進みスジンはチョルスの事も忘れ始めるが、それでもなおチョルスはスジンを支えようとする。病という困難を抱えながらもお互いを愛し続ける男女のラブストーリーである。

『私の頭の中の消しゴム』の概要

『私の頭の中の消しゴム』とは、2005年に日本で公開された韓国の映画。日本では興行収入が劇場公開時4週連続で第1位となり累計では30億円に達した(興行通信社調べ)。原作は、2001年読売テレビで制作された日本のテレビドラマ『Pure Soul〜君が僕を忘れても〜』である(脚本は『ごくせん』で知られる江頭美智留)。

1本の缶コーラをめぐる勘違いから偶然出会ったスジンとチョルス。その後再び運命的な出会いを経て、愛し合うようになりやがて結婚する。スジンはチョルスと出会う以前から物忘れが多かったが、ガスコンロの火を止め忘れたり、チョルスが真横にいるのにチョルスを探し始めたりするなど、だんだんと物忘れの度合いがひどくなっていった。そこでスジンが自ら病院に赴き検査を受けたところ、若年性アルツハイマー病であることが発覚する。医師の説明に絶望するスジン。しかしチョルスはその診断結果を知ってもなおスジンを懸命に支えようとする。
若くしてアルツハイマー病が発覚したスジンと、自分のことさえ忘れてしまうかもしれない病だと分かってもなおスジンを愛し支え続けようとするチョルスの切ないラブストーリーである。

イ・ジェハン監督は、日本の原作ドラマの中でヒロインが言う「私の頭の中には消しゴムがあるの」が物語の中で重要な言葉だと考えていた。まるで消しゴムがスジンの頭の中にあるように、愛するチョルスさえ忘れていく様子がこの言葉に表れているのだ。その為この台詞を映画タイトルに決定し、映画の中でもソン・イェジンが演じるスジンの台詞に採用した。

『私の頭の中の消しゴム』のあらすじ・ストーリー

ソ・ヨンミン室長との別れからチェ・チョルスとの出会いまで

電話ボックスの中で泣くスジン

服飾の会社に勤める女性キム・スジンは、駅のホームのベンチで上司であるソ・ヨンミン室長が来るのを待っていた。不倫関係にあったスジンとヨンミンは、この日駆け落ちをする約束で待ち合わせをしていたのだが、電車の出発時刻15時半を過ぎても一向にヨンミンが現れる気配はなく、スジンは不安げな顔で辺りを見回していた。
ずっと同じベンチで待っていたが、時刻は16時半をまわりスジンはついに「ヨンミンは来ない」と悟って、帰ろうと立ち上がった。スジンは少し歩くも、ヨンミンが来なかった悲しさからそのまま歩くことが出来ず、ホームにあった電話ボックスに入り一人で声を殺して泣いた。そして握りしめていた2人分の電車の乗車券を公衆電話の上に残して、帰ろうと再び歩き出した。

スジンは家に帰る途中でコンビニに立ち寄り、缶コーラを買うためレジでお金を払おうとした。しかし、お金を出すまでに少し時間がかかったり焦点が定まらずボーっとしたりするなど、ヨンミンが来なかったショックによってスジンには強いストレス反応が出ていた。すぐに飲むために缶の口を拭いたスジンだったが、おつりをもらったと同時に、飲もうとしていたことや缶コーラ自体も忘れてしまいそのままコンビニを出てしまった。
外へ出て少し歩いたところで缶コーラを持っていないことに気づきコンビニに引き返したスジンは、入り口で缶コーラを持ったチェ・チョルスと鉢合わせした。コンビニから出てきたチョルスが持っていたのはスジンが買った缶コーラと同じもので、店の奥レジを見ても缶コーラは無かったため、スジンはチョルスがコーラをとったと勘違いしチョルスの行く手を阻んだ。一方チョルスにとっては、スジンに無言でにらまれる理由も分からないしコンビニを出られない状態にさせられているので、あてつけでその場で缶コーラのふたを開けて飲み始めようとすると、スジンは缶コーラを奪い取りチョルスの目の前で一気に飲み干した。スジンは大きなゲップをした後、空の缶コーラをチョルスに押し付けその場を去った。
わけが分からないままコーラを飲まれたチョルスだったが、なぜかスジンが気になり、去っていく後ろ姿をずっと見つめていた。

その後スジンはバスに乗って帰ろうとしたが、鞄に財布が見当たらず料金が払えなかった。その時ようやく缶コーラだけでなく財布もコンビニに忘れていたことに気づき、もう一度コンビニに戻ると店員が「急いでたんですね」と保管していた缶コーラとスジンの財布を出してくれたのだった。
チョルスが自分のコーラをとったと思い込んだり、勝手に目の前で飲み干したことなどをスジンは申し訳なく思い、コンビニの外を探したがチョルスの姿は見当たらなかった。

スジンが家に帰ると、スジンの妹のチョンウンが「室長とは別れたってこと?そうなると思ったんだ。お父さんに怒られるよ、お姉ちゃん」と言ってちょっかいを出しに来た。自分の娘が不倫の末さらに駆け落ちまでしようとして結局相手に振られてしまうという結果になったことは、スジンの父親(男親)として黙ってはいられない出来事に違いなかった。一方スジンの母は駆け落ちに失敗したことを悟って、まずはスジンを優しく迎え入れようとしてくれた。
次の日の朝食時には、チョンウンが言ったとおりスジンの父は怒っていて、全員無言でご飯を食べ重い空気が漂っていた。

その後、スジンは会社内で異動になり紳士服の部門で働くことになった。スジンが新しいデスクで働く準備していると、ヨンミンとのことを噂で知った何人かの社員が自分の方を見てひそひそ話をしているのが分かった。中には優しく声をかけてくれる男性社員もいたのだが、アンナ・チョンという新しい女性同僚は「あなたのことは話にきいているわ、ヨンミン室長の奥さんからね。彼女は大学の同期なの。あ、でももう奥さんじゃないわね、離婚しちゃったし」とわざわざ挨拶の後に言ってきたりして、スジンは動揺した。

スジンは過去を忘れたいと思い、髪を切ろうと美容室に行った。ヨンミンとの話を聞いていた美容師は「そのうち自然に忘れるわ。時間が解決してくれる」と言って励ましながらスジンの髪を切っていった。

父の仕事の現場にて

秋が過ぎ冬が来て、そして春になった。スジンは父と一緒にご飯を食べに行くため車に乗っていた。運転していた父は「久しぶりに娘とデートだ」と言って上機嫌だったので、スジンは「お父さんは私が憎らしくないの?自分の同窓会に行けなくなったり、私のせいで警察に呼ばれたりして」と聞いた。すると父は「そんなことあったかな?忘れっぽいのも才能だな。過去の失敗は忘れて、良い人に出会いなさい」とスジンを励ます言葉をかけた。
スジンの父は建築会社の社長だったので、作業の様子を見るために少し建築現場に寄ってからご飯に行くことになっていた。現場に着くと作業のホコリがすごかったのでスジンは車の中で待つことにして、ラジオでかかっていたキューバの民族舞曲『La Paloma』を聴きながら父が作業着を着て現場に入るのを見守っていた。

スジンの父が建築現場の最上部に上がっていくと、現場監督のチョルスとその上司がセメントについて言い争いをしていた。全く上司と話がかみ合わないので立ち去ろうとしたチョルスに、スジンの父が事情を聞こうとするが「ちょっと、現場監督、名前は…なんだったかな?」と言い、何回か会っているチョルスの名前をスジンの父は覚えていない様子だった。
「社長、僕の名前はチェ・チョルスです。もう三十回目ですよ」とチョルスは答えた。そして、先週雨が降った影響もあるし骨組みが弱すぎるので今セメントを流せないということ、骨組みが完成するのに明日の朝までずっとやっても終わらないこと、上司の言うとおりに今セメントを流せば経験上必ず崩壊すると予見できるので、セメント業者には骨組みが完成した後の明後日に出直してもらったほうが良いということなどを一気に説明した。そしてチョルスは、先ほど上司と言い争っていた時に自分で投げたヘルメットを拾ってもう一度かぶり、スジンの父や上司にお情け程度で一礼してからその場を去っていった。

チョルスは階段を下りていって、スジンが乗っている車のすぐ横を歩いていった。車の窓越しに外を見ていたスジンは、歩いてくるチョルスに見覚えがあり、どこで会ったか思い出そうとしていた。そこへスジンの父が戻ってきて「根性があるやつだな」とチョルスのことについて独り言を言ったあと、ご飯を食べに行こうと車を出発させた。助手席のスジンは、後ろを振り返ってチョルスを見ながら誰だったか懸命に思い出そうとしていた。

スジンの仕事場であるスーツギャラリーにて

スジンは会社の紳士服部門で引き続き働いていた。ある時、同僚と一緒に計画していた新しいスーツギャラリー開業が、内装業者の倒産により頓挫してしまうという事態が起こった。そこでスジンは建築会社社長の父を頼って電話すると、快く引き受けてくれて作業員を一人派遣してくれることになったため、スジンは喜んで「お父さんは私のクリスマスよ」と言った。父が「ん?」と聞き返すとすぐに「サンタクロース」と笑いながら訂正した。

作業員が来てくれることになった当日、スジンは同僚の男性社員と一緒にエレベーターの前で作業員が来るのを待っていた。スジンの父から電話で「気性が荒い奴だから必ず男性社員と2人で対応しなさい」と言われていたからだ。エレベーターが上がってきて姿を見せたのは、工具を持ち作業服を着て頭がぼさぼさのままのチョルスだった。
スジンは、目の前の男性と、コンビニの入り口の扉で出会った男性、そして父の建築現場で思い出せなかった男性が頭の中で一致し、コンビニで自分が失礼なことをしてしまった男性だとようやく思い出した。コンビニでのことに申し訳なさがあったスジンは、同僚がチョルスに説明してくれるのを後ろから隠れて見ていた。
作業の見取り図などを倒産した業者が持っていってしまったことを同僚がチョルスに説明すると、チョルスは「どうして壁紙がところどころはがれているんだ。全部解体したほうがいい」と言い、中途半端に残っている壁紙をはがしたり工具で荒っぽく壁に穴を開けたりしていった。

チョルスへの説明が終わった後、スジンは気持ちを落ち着けようと自動販売機で缶コーラを買った。取り出し口に出てきたのを取ろうとすると、後ろからチョルスの手が伸びてきてスジンよりも先に缶コーラを取った。そしてチョルスは驚いたスジンの目の前で缶のふたを開けて一気に飲み干し、大きなゲップをした後に空の缶をスジンに渡して無言で去っていった。コンビニでスジンがしたことを、そっくりそのままチョルスもやったのだ。

スジンが買ったコーラを横取りするチョルス

帰り道、スジンはニヤニヤしながら歩いていた。チョルスが自分のことを覚えていてくれたのが嬉しかったし、その上自分がしたのと同じことをやってきたというのが面白かったのだ。
そこへ、自分の車の方へ向かっていたチョルスが「歩き?」とスジンに声をかけた。突然だったのでスジンはびっくりして思わず「タクシーで帰ろうかと」と言い、近くで信号待ちをしてとまっていたタクシーに来てもらうために手を挙げた。その時、青信号になる直前にタクシーの背後からバイクに乗った全身黒い服の男が猛スピードで飛び出してきて、スジンが手を挙げながら持っていたショルダーバッグを奪い取っていった。その様子を、停めてあった自分の車に乗ってサイドミラーからみていたチョルスは、とっさの判断で運転席側のドアを開けバイクの男にわざとぶつかるようにした。ドアにぶつかった男は、バイクと共に大きくはねあがり、道路にたたきつけられた。
チョルスが落ちていたスジンのショルダーバッグのところに行くと、中に入っていた大量のボールペンが散らばった状態だったので拾い始めた。一緒にボールペンを拾い始めたスジンに「ボールペンの行商?」とチョルスがふざけて聞くと「ボールペンをなくしては買うから」とスジンは答えた。そして、ボールペンを拾い終わったチョルスが、倒れていた全身黒い服の男の元へ歩いていくと、男は一目散に逃げ出した。

すでにあたりは夕暮れ時になっていた。スジンのショルダーバッグは盗られた時の衝撃で肩ひもの金具の部分が壊れてしまっていたので、チョルスが工具ですぐに直した。一方チョルスの車は、バイクに当てた衝撃でドアは外れてしまいフロントガラスにはひびが入っていたため前が見にくい状態だった。そこでチョルスはドアのない運転席側から乗り込み、車に載せていた金属バットで残っていたフロントガラスを荒々しく割って、枠だけの何もない状態にした。チョルスの様子を見ていたスジンが「ドアを直すのにお金がかかるわね?」と聞くとチョルスは「車に乗って」とだけ答えた。もう日が暮れたのでスジンを送ろうとしてくれたのだ。
助手席側からはドアが開かない位、車の中にはあらゆるところに工具や木材が乗っていたので、スジンは運転席側から乗り込んだ。とても乗り心地が良いとはいえない状態だったが、チョルスはスジンの近くにシャベルをあてがって手すり代わりにし「楽にして」と言って車は走り始めた。

走り出したチョルスの車はフロントガラスも運転席側のドアもないので、風が直接中に入ってくる状態だった。その風で長い髪が舞い上がたり、スカートがめくれ上がりそうになった。チョルスはまずめくれ上がるスカートを見ないようにするために仕事用のゴーグルをはめた。スジンは思わず笑ってしまった。それからチョルスは溶接用の顔全体を覆う大きなマスクをスジンに渡して、髪の毛が舞い上がらずに前が見やすくなるようにした。
チョルスに興味を持ちはじめたスジンだったが、とりあえず当たり障りのない質問をしようと、溶接用マスクの前の部分を開けなぜ金属バットを車に持っているのか、人を殴るためか、などとチョルスに聞いた。それにはチョルスは無言だったので、スジンはコンビニでのことを謝ろうと「ごめんなさい」と言った。チョルスは「何が?」と言った。スジンは「コーラの横取り」と言い、自分は昔から健忘症がひどいことを話した。しかしその"健忘症"という言葉でさえすぐには出てこない状態だった。
そしてスジンが、最も聞きたかった「あなたはなぜ私を覚えてたの?」という質問をしたが、チョルスは「この道を抜けよう」とだけ言い車線変更してスピードを上げ走り始めた。

スジンの作戦

チョルスのことが気になっていたし、車のドアのことも心配だったので、後日スジンは退勤後にチョルスの作業現場に行った。チョルスのものと思われる車は既に運転席のドアもフロントガラスも修理されていた。驚くほど何事もなかったかのように元通りになっていたので、本当にチョルスの車かどうか確認するためにスジンが中を覗き込んでいると、チョルスの部下に何をしているのかと声をかけられた。驚いたスジンは取り繕ってその場を去ろうとしたが、自分が行く方向の先から退勤後のチョルスが歩いてきて、チョルスのことが気になってわざわざ来たということがばれると思い、きびすを返して急いでその場を立ち去った。

スジンはやはりチョルスのことが気になっていた。そこで女友達に協力してもらい、退勤後のチョルスが部下たちと道端の居酒屋で酒を飲んでいるところに"友達と出かける予定で偶然居酒屋の横を通りかかった体"で声をかけようと計画し実行した。
チョルスは持っていた小さな木材を削りながら部下たちに話をしていたが、部下たちは歩いていくスジンやその友達に見とれていた。そしてスジンは偶然気づいた設定で急に立ち止まり、わざとらしくチョルスの方を振り返ってじっと見た。ずっと木材を見て作業をしていたチョルスは、部下に話しかけながら顔を上げたところようやくスジンがいることに気づいた。チョルスが「ボールペンの行商の調子はどう?」とふざけて聞くと、スジンは少し笑い、偶然を装って「あなたがここにいるなんて」と答え驚いた表情を見せた。チョルスは部下たちに目配せをしてスジンや女友達のために席を空けさせた。そして持っていた小さな木材を大切に鞄にしまった。
隣同士で座ったスジンとチョルスは、チョルスの部下たちやスジンの女友達があきれるほど完全に2人の世界に入っていて、ずっと黙ったまま机の下でお互いの手をつないでいた。部下や女友達が先に帰った後もスジンとチョルスは残っていた。そしてチョルスが、スジンが持っていた小さなグラスに焼酎をあふれるほど注ぎ「これを飲んだら恋人になる」と言うと、スジンが「飲まなかったら?」と聞いた。チョルスが「死ぬまで会うことはない」と答えたのでスジンが一気に焼酎を飲み干すと、チョルスはスジンを抱き寄せキスをした。こうして2人は恋人同士になったのだった。

付き合い始めたスジンとチョルス

付き合い始めたスジンとチョルスは、退勤後に一緒にバッティングセンターへ行ったり、休日に会ったりしてデートを楽しんだ。チョルスは、服装が作業着のままのことが多かったが、顔だけはデートの前にヒゲを剃り男性用の化粧水をつけて、スジンに会うために気合を入れていた。
ある日スジンはチョルスの家にいた時、横で寝ていたチョルスの顔から懐かしい良いにおいがすることに気がついた。「お父さんのにおいだったかな、叔父さんかな?」とスジンが思い出そうとしていると、チョルスは少し笑いながら「理髪店の化粧水だよ」と答えた。スジンも笑って起き上がろうとした時、小さな木の彫り物が落ちているのを見つけて「これは何?」とチョルスに聞いた。しかしチョルスはすぐにそれを取り上げ「なんでもない」と言ってゴミ箱に投げ入れてしまったので、スジンには何か分からなかった。
実はそれはスジンの顔を彫った小さな彫刻作品だった。部下たちと居酒屋で飲んでいた時に木材に彫っていたのはこの作品だった。スジンと付き合い始める以前から、チョルスはスジンのことを思い大切に彫っていたのだ。

チョルスの家には図面や本、工具など様々なものが置いてあった。その一つ一つを興味深げに見ていたスジンは「試験でも受けるの?」とチョルスに質問したが、チョルスは本を読んだまま返事をしなかった。聞いていないように見えたチョルスだったが、スジンが机の引き出しを開けようとした瞬間「引き出しは開けるな」と硬い表情で注意した。続いてスジンは、チョルスと一人のおじいさんが写っている写真を見て「誰?あなたのおじいさん?」と聞いた。本を見たまま「寺の大工で、俺の昔の師匠だ」とチョルスが答えると、スジンは矢継ぎ早に「アルバムはある?子どもの頃の写真はないの?」と聞いた。ずっとスジンが質問ばかりしてくるので、チョルスは本を閉じ「質問ばかりだな」とあきれながらスジンの方へ近づいていったが、それでもスジンは「子どもの頃の写真が見たいわ。アルバムはないの?」と興味津々だった。
そこでチョルスは「アルバムはないよ。子どもの頃から大人だったんだ」と答えて、話題を変えるため「ヤバウィ」というお金をかけたゲームを始めた。3枚のトランプのエースを裏向きで混ぜた後、ハートのエースがどれかを当てるものだった。チョルスが早口で掛け声を出しながら混ぜた後「さあ当たりはどれ?」とスジンに聞いたが、スジンが指差したのはハートのエースではなかった。負けてしまったスジンはポケットからお金を出すふりをしてチョルスに渡したが、チョルスはもっとくれ、という手つきをした。スジンは身を乗り出しチョルスの頬にキスをすると「さあ、儲けたお金でもうひと勝負」と言いながら、またヤバウィを始めた。

チョルスが受ける建築士の製図試験日に合わせて、スジンは女友達と一緒に自分たちでスーツを作ることにした。既成の服を買えばいいじゃないかと言う友達もいたが、スジンは「楽しいし共同作業で友情も深まるし良いじゃない」と言って聞かず、チョルスの試験合格のため懸命に応援しようとしていた。
チョルスの試験当日スジンは、作ったスーツを着ているチョルスに見とれながら満足そうに微笑んでいた。「待ってなくていいぞ」と言ってチョルスは試験会場に入っていったが、結局スジンは試験が終わるまで会場の外でチョルスを待って2人で帰っていった。

結婚をしたいスジンと、責任を怖れるチョルス

ある日、スジンは父と一緒に自宅の庭で寛いでいた。スジンがずっとニコニコしていたので、父が「最近恋人ができたな?」と聞いた。突然聞かれたのでスジンはわざとらしく否定してしまったが、すぐに友達のユナが父に言ったのではと察知し「ユナでしょ?」と父に聞いた。すると父もわざとらしく否定したが「どこかの工事現場の作業員だとか?」と言い当てたので、スジンはユナが父に言ったのだと確信した。スジンは、チョルスが自分の父の会社で働いていることや、父も知っている部下であることから、父に説明がしづらかった。そこでスジンはとっさに「作業員ではない」と否定すると「じゃあ何をしている人なんだ?」と父は質問した。困ったスジンは「建築家」と答えると、父は感心して「一度会いたいな」と言った。もし父に自分の恋人だとチョルスを紹介したら、一体どういう反応をするのかと不安になり、スジンは更に困ってしまった。

後日スジンは、チョルスとバッティングセンターに行ったときに父が会いたがっていることを伝えた。しかしチョルスは「交際に親が口出しすることじゃないだろう」と言って、会うことに反対した。そこでスジンが「親に紹介すれば、結婚できるじゃない」と答えるとチョルスは黙り込んでしまった。

その後も結婚についてスジンとチョルスの意見は対立し、小さなケンカが続いた。スジンは仕事中の作業現場にまで行ってチョルスを説得しようとしていた。スジンが「一人で生きていけるの?」と聞くと、チョルスは「一緒に生きたとして、死ぬときも一緒に死ねるのか?一人で生まれて一人で死んでいくのが人生だ、違うか?」と答えた。チョルスは、結婚したとしても死ぬ時は結局一人で死んでいくのだから結婚しなくてもいいという考えのようだった。チョルスの意見を聞いてスジンは泣き出してしまったので「お前は泣き虫だな。親か国でも失ったのか?」とチョルスは言い放った。
デートで一緒に歩いている時にもスジンは懸命にチョルスを説得しようとした。「『愛してる』の一言が言えないの?」とスジンが聞くと、チョルスは「意味分からないこと言うんじゃない。お前は(社長令嬢の)お嬢様で、俺はただの労働者だ」と答えた。そして「じゃあお前は俺のどこが好きなんだ?」とチョルスは続けて聞いた。スジンはすぐに答えられなかったが、ちょうど2人が最初に出会ったコンビニの前に居たので「ここ、覚えてる?」と聞くと、チョルスは「いや、覚えていない」と話をはぐらかして逃げてしまった。

スジンとチョルス2人で店でディナーを楽しんでいる間も、話題は結婚についてだった。スジンが「愛する人との結婚を夢見るのは悪いこと?」と尋ねても、チョルスはうまいと言ってただ蟹を食べ続けるだった。怒ったスジンは、鞄からチョルスが大切にしていたスジンの彫刻を取り出してチョルスの前に出した。そしてスジンは自分を無視して蟹の殻をハンマーで割っていたチョルスに「これで割れば?大嫌いなものでしょ?」と泣きながら言った。観念し蟹を割る手を止めたチョルスが発したのは「俺は責任はとれない。いやとりたくない」という言葉だった。スジンがなぜかと聞くと「怖いからだ」とチョルスは答えた。全く意味が分からないスジンは更になぜかと聞くと、チョルスは真剣な表情をして「お前は自信過剰だ。人生がどれだけ怖いものか分かっているか?結婚したとして、それだけで本当に幸せになれるのか?」と言った。

スジンが不満げな表情をして少し横を向くと、父や母、妹が店に入ってきたのが見えた。実はチョルスには内緒で父たちを呼んで、チョルスに会わせてしまおうとスジンが計画していたのだ。父はスジンに呼ばれて喜んで来ていたが、相手がチョルスだと分かると一気に表情が曇った。チョルスも、父と会うつもりはなかった上に、会社でも知っている間柄なので気まずく、さらに表情が硬くなり立ち上がってその場を立ち去ろうとした。しかしスジンがこの場に残るようチョルスを引き止めた。

目が覚めたスジンはチョルスを抱きしめた

スジンとその家族四人対チョルス一人で囲んだテーブルは、重い空気に包まれていた。スジンはストレスが溜まり、コンビニの時と同じように次第にぼーっとし始めていたので、顔を洗おうと一人トイレに立った。トイレで顔を洗ったスジンは席まで戻ろうとしたが、めまいがしてぼーっとしたまま歩いていたので、自分でも分からず店の外へ出る階段まで行ってしまっていた。
スジンが席をはずしたタイミングで、父は「ご両親は?」「家はあるのか?」などとチョルスに厳しい表情で詰問していた。父にとって、現場で会っていた部下が娘と付き合っていたことの上に、以前現場に行った時にヘルメットを投げるなどして荒っぽく話していたチョルスの印象があまり良くなかったからであった。居心地が悪いチョルスは席を立とうとすると、父は「明日からもう来るな」と言った。母は場をなだめようと「せめてスジンが戻ってくるまで居てください」と言ったが、お詫びを言ってチョルスはそのまま去ろうとした。

その時、店の外で何かがあった様で、中に居た人たちが外に出て見ようとして人だかりが出来ていた。それが気になった妹のチョンウンが出て行くと、雨が降りしきる中で倒れているスジンを見つけた。そして店の中まで聞こえるほど大きな声で「お姉ちゃん!」と叫んだ。チョルスは急いで外へ行き、スジンが倒れているのを見て病院へ連れて行こうとスジンを抱きかかえて走り出した。父も駆けつけたが、病院へスジンを抱きかかえて走っていくチョルスの背中をじっと見つめていた。
病院の先生の話では、スジンはストレスで気を失ったがすでに目は覚ましており、貧血の症状も休めば良くなるとのことだった。チョルスが横になっているスジンの元へ行くと、スジンは涙を流しながら安心した顔でチョルスを抱きしめた。スジンとチョルスが抱き合っているのを見た父は、2人の固く結ばれた愛情を認めざるを得なかった。こうしてスジンとチョルスは、人生を共に歩んでいくことをスジンの父に認められたのである。

幸せな新婚生活の中、スジンの症状が進行していく

スジンとチョルスはついに結婚し、幸せな新婚生活を送っていた。チョルスは無事建築士試験に合格し、現場監督の仕事も今まで以上に頑張っていたところ、スジンの父を介して家を設計してほしいと会社のファン会長じきじきに依頼され仕事に好機が訪れていた。一方スジンも、紳士服部門のスーツのカタログ作りに取り組んで順調に働いていた。

ある雨の日、出勤前のスジンにチョルスがお茶を入れていた。口紅を塗ったスジンが、チョルスが寝ている隙に顔いっぱいにキスマークをつけておいたのだが、自分の顔の変化にチョルスはまだ気づいておらず「雨降りの日は俺は仕事は休みなんだ」と普通に話しながらお茶を入れているのを、スジンはニコニコしながら見ていた。お茶を淹れた後、歯磨きをしようと洗面台に行ったチョルスはようやく顔にいたずらされたことに気づいてスジンを呼んだが、スジンは知らぬふりをして出かけていった。

スジンは女友達と話している時までチョルスのキスマークいっぱいの顔を思い出してニヤニヤしっぱなしだったので、ユナに「結婚がそんなに嬉しいのか」とからかわれてしまった。そう言われて気を取り直したスジンは「あ、こんな経験ある?いつも歩いている道で迷うこと」と突然聞いた。「自分も方向音痴だけど、さすがに会社に行く道は迷わないわ。まだ若いしそこまでボケてないわ」とユナが答えると、スジンが真剣な顔つきで「最近家に帰る道が分からなくなるの。変だわ」と言った。スジンは真剣に悩んでいたが友達は皆笑い、ユナには「夜の生活に疲れているのね」と言われてしまった。

退勤後、スジンはまた帰る道が分からなくなったが、いつも見る景色をたどりながら家に着いた。しかし今度は帰ってきた家が本当に自分の家かどうか確信が持てず、玄関先に立ち止まって辺りを何度も見回した。ゆっくりと鍵をあけ、中に入ってみてようやく自分の家だと分かったのでスジンは安心した。

スジンが少し中へ入っていくと、キッチンの内装が変わっているのではないかと感じたが、これも確信が持てなかった。家に入るまで自分の家だと分からなかった後だったのでスジンが困っていると、そこへ風呂上りのチョルスがやってきた。スジンが「何か変だわ。変わった気がする。変わったよね?」と聞いて視線をおろすと、たくさんの工具が入った鞄が置いてあるのが見えて、チョルスがキッチンを変えてくれたのだと分かった。以前スジンがガスコンロの火を消し忘れて鍋を焦がしてしまったことがあったので、危なくないようIHのコンロに替えた上に内装もきれいに変えてくれたのだった。スジンは自分の物忘れのためにここまでしてくれたチョルスに感動し「愛してる」と言うと、チョルスはスジンを抱き寄せ2人はキスをした。

その後チョルスと一緒にベッドで横になっていたスジンは、既に寝てしまったチョルスの頭をなでながら、ひどくなってきている自分の物忘れのことについて考えていた。

スジンは病院へ行くことを決意した

スジンは考えた末に病院へ行くことを決心した。スジンが看護師に通された部屋には誰も居ないように見えたが、机の下でプラグをコンセントにさすのにまごついている手が見え、その後一人の男性医師が机の下から出てくるのが見えた。医学博士のイ先生だった。机から出てくるときに頭をぶつけてしまったり、診察の準備に手間取ったりと、少し頼りなさそうなイ先生だったが、落ち着いた静かな口調でスジンに今までについての質問を始めた。

「過去数年間に耐えがたいストレスや、精神的な苦痛でめまいを覚えたり気を失って倒れたことはあるかね?」とイ先生が聞いたので、スジンは「貧血で倒れたことがあります」と答えていたが、イ先生が録音をしていることに気づき「録音しないといけないんですか?」と聞いた。これに対しイ先生は「後で役に立つものだ。気にせずに私の質問に答えてほしい」と答えた。スジンはそれを聞き、妻が居る人を愛し駆け落ちしようとしたが、その人は結局来なかったので死ぬほどつらかったこと、駆け落ちしようとした日の数日前、その人の奥さんに責められて髪を引っ張られごっそり抜かれたことを続けて話した。スジンの話を聞き終わったイ先生は「ストレスに対する反応は人それぞれで違うし過度のストレスなので心配は要らないが、念のため来週MRI検査とCT検査を受けよう」と話した。

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