片倉優樹(ダブルブリッド)とは【徹底解説・考察まとめ】

第6回電撃ゲーム小説大賞僅金賞受賞作品である、電撃文庫の名作、ダブルブリッド。その主人公である片倉優樹は人間と「怪(アヤカシ)」と呼ばれる生き物のハーフだった。超常的な能力を持ちながら、その出生ゆえ人間たちに疎まれていた彼女。刑事としての職務についていたが、なんの変化もない単調な生活を何年も続けていた。しかし、一人の人間の青年が彼女の生活に変化をもたらした。それと同時に彼女の平穏な日々が終わりを告げる事件が起きる。数奇な人生を生き抜いた片倉優樹という人物とそれと取り巻く人々の解説。

『ダブルブリッド』とは

『ダブルブリッド』とは、1996年の第6回電撃ゲーム小説大賞金賞を受賞したライトノベルである。著者は中村恵里加で、この作品でデビューした。原作小説は本編全10巻と外伝短編集1巻が刊行されており、その他に書下ろし短編小説が同梱されたイメージCDアルバム「ダブルブリッド Depth Break」も発売された。漫画版も全2巻発売されており、小説1巻の内容をベースに作られている。
イラストは1~2巻が藤倉和音、3巻以降はたけひとが担当している。イラストレーターの交代は、藤倉が交通事故で逝去したためだと思われがちだが、実際に藤倉が事故に遭ったのは、交代が決まった後の出来事である。

ジャンルは主人公の片倉優樹が警察官のためポリスストーリーに分類されることもあるが、比較的過激な描写も多いためホラーという人もいる。
ストーリーは「怪(アヤカシ)」と呼ばれる人間でも動物でもない生き物たちを中心に描かれている。
主人公の片倉優樹は、アヤカシと人間のハーフであり、警察官である。見た目は人間と変わらない姿を持っているが、人間では到底適わない身体能力と化け物じみた強さを持っており、人間たちに疎まれ恐れられてきた。そんな中、特異遺伝子保持生物緊急捕縛部隊(アヤカシを捕まえる警察の部隊。通称EAT)と、優樹の所属する警視庁刑事部捜査第六課の相互理解を深めるために、EATの隊員を捜査六課に出向させるよう警察庁から命令が下る。捜査六課にやってきたのはEATの新人隊員、山崎太一朗という青年であった。

怪(アヤカシ)とは

ダブルブリッドに多数登場する、人間でも動物でもない生き物。怪(以下アヤカシ)というのは日本固有の呼び方で、国際的な正式名称は「特異遺伝因子保持生物」という。人間や動物とは全く異なるDNAを保持しているためにこう呼ばれる。
20世紀初頭にヨーロッパで初めて発見され、その後世界中で捜索が行われ50体以上が発見された。世界の分布には偏りが見られ、ヨーロッパ・中国・オーストラリア・日本ではそれなりの数が生息しているが、なぜかアメリカではほとんど発見されていない。
アヤカシは、「甲種」と「乙種」に分類される。甲種は一見人間と区別がつかず、知性も高い。乙種は獣などの様々な姿しており、知性も低いものが多いが、中には人間同様の知性と言葉を操る者もいる。
甲種・乙種ともに人間を遥かに凌ぐ身体能力・頑丈な体を持ち、高い再生能力もある。拳銃で撃たれた程度では、よほど至近距離でない限り傷もつかない。撃たれたところも時間をかければ再生する。
病原体などへの強い耐性も併せ持っているため病気ならず、また一度使った薬には抗体ができてしまうため二度と使えない。その病原体への強さゆえ、保菌した状態で知らず知らずのうちに周囲の人間に感染させてしまう場合もある。
日本では教科書にも載るほどアヤカシは一般市民にも知られているが、一般市民がアヤカシと聞いてイメージするのは乙種の方である。
日本は世界で唯一甲種のアヤカシに人権を認めている国であり、日本国憲法の「特異遺伝因子保持生物に関する法律(通称:特異法)」には、内閣府に存在を公認された甲種は国民の権利を有するとともに、納税などの義務も生じる。その分、就職してお金を稼ぐことができ、公職に就くことも許されているが自分がアヤカシであることを隠してはならない。ちなみに上記の病原体を運んでしまう可能性から、定期的な健康診断も義務づけられているなどの記述がある。
公認以外のアヤカシには、特異生物管理委員会という政府の機関に登録し、自分の存在を政府に教えておく者もいる。その場合でも人間社会では生活できるが、自分がアヤカシであることを周囲に知られてはいけない決まりになっている。公認も委員会登録もしていないアヤカシももちろん存在する。
昔は人間を捕食する甲種のアヤカシもいたようだが「人間は不味い」という意識が定着してからは、人間を食べるアヤカシは少数派となった。

片倉優樹(かたくらゆうき)とは

片倉優樹の特徴

片倉優樹とは、ダブルブリッドの主人公。
警視庁刑事部捜査第六課所属(通称:六課。かつてはアヤカシのみで構成されていた部署で、1巻の時点では優樹1人しか所属していない)の警察官で、階級は巡査部長。25歳の女性(作品途中で26歳になる)であるが、外見上の成長は16、7歳ほどで止まっており、150センチ強のあまり高くない身長と幼さの残る顔立ちが相まって見た目は10代半ばの少女である。
作中で2人しか登場しない人間とアヤカシのハーフであり、ダブルブリッドと呼ばれる。ダブルブリッドとはダブル(二重)とハイブリッド(雑種)を合わせた造語であり、本編では二重雑種と表記され、ダブルブリッドとルビを振られることが多い。優樹は最初に見つけられたダブルブリッドであるため、ダブルブリッドファーストと呼ばれることもある。
日本国内閣府総理大臣公認甲種指定生物、公認番号010018であり、いわゆる内閣公認のアヤカシでもある。そのため、警察官という職業に就くことができている。
無類の酒好きであり、朝から缶ビールを飲むこともよくある。それを注意されることもあるが「アヤカシは酒を飲まないと生きていけない」と意に介さない。常にミニボトルにウイスキーを携帯していたり、大けがをした時に業務用のアルコールを飲んだりすることもあるため、本当に生命維持に必要なものと思われる。ちなみに体内に入ったアルコールは自分で無害化できるため酔うことはない。
最大の特徴は、年齢にそぐわない鮮やかな白髪。そのため人間には白髪頭や白髪犬と呼ばれることもある。小説1巻ではロングヘアーだったが、2巻からは頭をケガをした時に血がついて手入れが大変だからという理由でショートカットになっている。

片倉優樹の能力

小柄な体からは想像できない身体能力と、孤独に耐えられる強い精神力を併せ持っている。500キロほどもある乙種のアヤカシを持ち上げたり、跳躍すれば助走なしで5メートルほど飛ぶことができる。助走をつければ10メートルほどの高さまで到達する。また、皮膚の厚さも人間よりはるかに厚く、人間の蹴りを受けても蹴った人間の足のほうが痛む。
視覚・聴覚・嗅覚にも優れている。暗闇でも周囲を見通すことができる、20メートル離れた人間同士の会話を聞くことができる、匂いで人を追う、などおおよそ人間では不可能なことをやってのける。他者の心拍数や呼吸音、体温の上下までも感じ取ることができるため、それを手掛かりに相手の心情を読み取ることも得意としている。優れた嗅覚によって匂いを追う様子は、はたから見れば犬のように見えるため、彼女が「白髪犬」と呼ばれる要因になっている。
身体能力の他にも、感覚や内臓などを自分の意のままにコントロールできる能力を持っており、他のアヤカシよりも長けている。例を挙げれば、怪我をした部分の痛覚を遮断したり、出血を止めたりすることができるということだ。それ以外にも、発汗・体温・果ては心臓の動きまで自分の意思で自由に操ることが可能。
身体の再生力も高く、切り傷程度なら30分で完治する。目や指、内臓も時間をかければ再生することができる。
戦闘時の能力として神経融合(ブレイク)と筋力増幅(ブースト)という2大能力がある。
神経融合(ブレイク)は、中枢神経から末梢神経を一体化させ、反応速度・移動速度を超常的に高める能力。そのため優樹からは周囲の動きがスローモーションに見え、飛んでくる銃弾さえも視認できる上、それら全てを叩き落とすことも可能。持続時間は最大1分。
筋力増幅(ブースト)は、体の一部の筋肉組織の一時的に膨らませて筋力を増幅させる能力。見た目にもその部分は太くなる。パワーも上がるため、一撃の攻撃力も増す。
2つの能力とも、体への負担が大きいため乱用はできない。加えて同時に使用することもできない。痛覚遮断との併用も不可能。
最終手段として、人の皮を破り「鬼」のような姿になることができる。身長は2メートル程まで伸び、筋肉や骨格が拡大化して黒く硬い皮膚が現れる。手足、爪も鋭く長く伸びる。目は赤く輝き、大きく裂けた口からは鋭い犬歯が飛び出す。例え怪我をしていたとしても、この状態になれば全回復する。額には一本角が生える。唯一銀髪だけが、優樹の特徴を残すのみである。人間が見れば、たちまち恐怖で叫びだすような容姿をしており、作中でも敵はもちろん、味方まで恐怖を隠し切れなかった。この姿は優樹のトラウマになっており、優樹が白髪になったのは以前この姿になった自分を鏡で見てしまい恐怖した結果である。それ以来、優樹は元の自分の姿でさえも鏡に映すことをしなくなった。
作中で完全にこの姿になったのは1巻のみであり、以降はこの姿は登場しない(2巻で腕だけを変異させることはあった)。

片倉優樹の生い立ちと性格

人間の母親と、アヤカシの父の間に産まれた。母とは幼少期は同居していたようだが、現在は優樹が六課の分署に住んでいるため離れ離れになっている。3年ほど会っていないと1巻の時点で語っていた。それは優樹がアヤカシであるため、母と同居すると近隣住民が嫌がるという理由からである。
父のことはよく知らず、4巻で相対するまで会ったこともなかった。
5歳の頃、特異研というアヤカシの研究機関に、医学の発展のための研究材料として心臓を摘出される経験をしている。このことが原因で他人に触られることに拒否反応を示すようになった。今の優樹の心臓は再生したものである。
父の側近であるアヤカシとは親しく、母共々幼いころから世話になっており、本編でもその付き合いは続いている。
幼少期は人間と同じ小学校に通っていた。すでに髪が白かったため「若白髪」と呼ばれていた。体育の授業は見学で済ませたり、学芸会や運動会には一回も出たことがない。自らクラスメイトに話しかけることはなく、また話しかけられることもなかった。優樹がアヤカシであることは伏せられていたが、生徒たちの間では「若白髪は人間じゃない」という噂が広がっていた。表情はほとんど変えず、笑いも泣きもしない優樹は浮いた存在だった。超人的な身体能力はこの頃から顕在しており、学校に侵入してきたナイフを持った通り魔を素手で打ちのめしたことがある。
学校では無表情の子どもだったが、親しい間柄の母や父の側近であるアヤカシの前では子どもらしい笑顔を見せていた。
基本的な性格としては、気ままでのんびりな性格だが、警察として職務はきちんと行うなどまじめな部分もある。その鷹揚で飾らない性格から一種のカリスマ性を持ち合わせており、かつての捜査六課には自分より何倍も年上のアヤカシもいたものの、物事を決定するリーダー的な役割は優樹が担っていた。
一方で、自分の本心を他人に見せることはなく、常に自分の中に内包している。気分がどれだけ落ち込んでいても、他人にそのような表情を見せることは決してなく、普段通りの表情を作ることができる。また、自己犠牲的な部分もあり、他人のことは全力で助けるが自分が傷つくことを厭わない。
人間とアヤカシのハーフであるため、人間の考え方とアヤカシの考え方の両方を理解できる。だが、仲間を殺されたら殺し返す、人間を殺したり食べたりすることことをなんとも思わないなどのアヤカシの考え方と人間としての常識の間で仲間のアヤカシと考え方が食い違い、思い悩むこともある。

片倉優樹の各巻での活躍など

1巻

捜査六課の分署でたった一人で何年も過ごしてきた優樹。大型乙種ヨーウィーの捕縛を機に、捜査六課とEATの親睦を深めるために、警察庁からEATの隊員を六課に出向させるよう命令が下った。六課にやってきたのは、山崎太一朗という新人の隊員だった。人間に嫌われ続けてきた優樹は、自分を嫌わない太一朗との日々に喜びを感じていた。
そんな中、3年前に殺人事件で六課によって捕縛され、現在は特遺研に収容されているはずの高橋幸児が一般人を襲ったという知らせが浦木から入る。高橋を捕縛するため、捜索を開始する優樹。高橋は特遺研の所員と組み、優樹を捕獲するために世に出されたのであった。重傷を負いながらも、太一朗の助力もあり高橋との勝負に勝利した優樹。だが、その際に何のためらいもなく高橋を銃で撃つ太一朗に優樹は恐怖を覚える。
高橋との勝負がついたのも束の間、今度はヨーウィーが特異研で暴れだし、優樹に特異研から出動要請が下った。高橋と組んでいた特異研を怪しく思いながらも、優樹は太一朗と共に現場へ向かった。研究所に着いた二人は、警備員の先導でヨーウィーが暴れている場所まで案内される。しかし、優樹の悪い予感は当たり、太一朗が人質に取られてしまう。特異研は優樹を捕獲し、用済みの高橋の代わりに実験材料にしようとしていた。高橋との戦闘で消耗していた優樹は、1人でヨーウィーが暴れている部屋に残されてしまう。ボロボロになりながらもなんとかヨーウィーを沈黙させる優樹。立っているのがやっとの優樹は、太一朗を救うために本来の鬼の姿に変異する。圧倒的な力で研究員たちをなぎ倒した優樹。しかし変異した姿を見た太一朗は、悲鳴とともに気を失ってしまう。太一朗が自分の本来の姿を見れば、恐怖を感じることはわかっていたもののショックを受ける優樹。太一朗とはもう会えないと思っていた。
事件解決後、再び六課で一人になった優樹。しかし、予想を裏切り太一朗は優樹の前に現れた。太一朗が自分を裏切らないと言ったことに、優樹は涙を流すのであった。

2巻

太一朗の要望もあり、二人で居酒屋に出かけた二人。そこで優樹は、太一朗が酔うと説教じみてきて面倒になるということを知った。酔いつぶれて寝てしまった太一朗を背負い六課へ帰る優樹。その道中、優樹の鼻が微かな血のにおいを嗅ぎ取る。周囲に気を配りながら歩いていると、一人の女性が道端で寝ていた。声をかけた優樹は、その女性が血のにおいを発している元だと気づく。外傷などはなく、声をかけるとすぐに起きてくれたが、首元に微量の血がこびりついていた。女性はなぜ自分がこんなところで寝ているのか記憶がないという。気になった優樹ではあったが、そのまま女性と別れて六課へ帰宅した。
翌日、浦木からの呼び出しがあり、優樹は一人で特異生物管理委員会へ向かおうとする。昨夜酔って寝てしまったため、六課へ連れてきていた太一朗が目を覚まし、昨夜自分が何をしたか優樹に尋ねる。優樹は反省させる意味でわざと突き放した態度を取った。その態度に慌てた太一朗は、思わず優樹の腕をつかんだ。その瞬間、優樹は反射的に太一朗を突き飛ばしてしまう。太一朗はもちろん、優樹自身もその行動に驚き狼狽えた。逃げるように六課を去る優樹。
とにもかくにも特異生物管理委員会にやってきた優樹。一旦太一朗のことは頭の片隅に置き、浦木の話に耳を傾けた。
聖堂騎士団という欧州に本拠地を置く過激なキリスト教団体が、日本政府に手紙を送りつけてきたというのだ。内容は、聖堂騎士団が追っている吸血鬼が日本に逃げたため、捕縛し引き渡せというものだった。その吸血鬼の名は、フレデリック・アシュトン・クロフォードというらしい。

ダブルブリッドの登場人物たち

山崎太一朗(やまざきたいちろう)

特異遺伝子保持生物緊急捕縛部隊、通称EATに配属された20歳の新人隊員。小説1巻から登場。階級は巡査。正義感が強く、実直で気が短い。その性格ゆえか、自分が正しいと思えば命令違反でも行動に移す。EATと捜査第六課の相互理解を深めるための施策として、六課に出向してきた。射撃の精度は非常に高く、本人も自信を持っている。
出向前はアヤカシに対して敵対心のようなものを持っていた。だが優樹と過ごす日々の中で、優樹の孤独や過去、そして優しさを知ることになり、次第に彼女が人間に嫌われていること自体に疑問を持つようになる。
1巻の終盤で、優樹の真の姿を見て悲鳴を上げてしまうが、その後も優樹に変わらぬ態度で接した初めての人間となった。徐々に自分が優樹に対して恋愛感情を持っていることを自覚し始める。

赤川大介(あかがわだいすけ)

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