NOIR(ノワール)のネタバレ解説まとめ

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『NOIR』とは、2001年にテレビ東京で放送されたテレビアニメ。孤高の暗殺者ミレイユ・ブーケと記憶を失った謎の少女夕叢霧香(ゆうむら きりか)の二人組による暗殺ユニット「ノワール」が殺しの依頼や襲い来る刺客と立ち向かう。最初は噛み合わなかった二人の関係性は依頼をこなすうち利害とは関係のない真のパートナーとなる。そんな二人に迫る数多の謎を精緻な描写で描いたダーク色の強いガンアクションアニメ。全26話。

『NOIR』の概要

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『NOIR』とは、2001年4月より同年9月までテレビ東京で放映されたアニメ。作品イメージとして「フィルム・ノワール」と呼ばれる映画のジャンルを目指したという。「美少女ピカレスクロマンの金字塔」と名高い。
「ノワール 其はいにしえよりのさだめの名 死を司る二人の処女(おとめ) 黒き御手は嬰児(みどりご)の 安らかなるを守りたまふ」という唱和と共に物語が始まる。この唱和は基本的には霧香が唱えているが、ミレイユやクロエが唱えているバージョンもある。
暗殺業を営むミレイユと過去の記憶を求める霧香が、さまざまな依頼をこなしながら絆を深めストーリーの核心に迫っていく。
ラストシーンでの二つの銃声が何を示唆しているのかファンの間で憶測が飛び交ったが、公式からの見解は示されていない。また、霧香、クロエ、アルテナの三名は、本名や国籍などが一切不明のまま物語は終了する。
監督である真下耕一は「NOIR」放送後、「MADLAX」(2004年)「エル・カザド」(2007年)を発表し、上記三作品を「美少女ガンアクション三部作」と位置付けている。
2010年11月、サム・ライミによる実写ドラマ化が噂されていたが、2013年には製作が進行していない旨が報じられた。

『NOIR』のあらすじ・ストーリー

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第1話の霧香。斜め撃ちが特徴的なシーン。

パリで暗殺業を営んでいるミレイユ・ブーケのもとに一通のメールが届く。夕叢霧香と名乗る日本の女子高校生からということと「Make a Pilgrimage for the Past, with me」(私とあなたの過去への巡礼)という奇妙な文面にいたずらかと一笑に付すが、添付されていたオルゴールのメロディを聞き驚愕する。そのメロディは、かつて両親が殺された時に懐中時計から流れていた曲そのものであった。
ミレイユは日本へ飛び立ち霧香と会い、事情を問い詰めている最中に謎の男たちに襲撃される。次々と男たちを屠っていく霧香の、そのたぐいまれなる殺しの技術を目の当たりにするミレイユ。両親殺害の犯人をかねてより追っていたミレイユは、霧香が何かに絡んでいると判断するが、当の霧香は過去の記憶を失っていた。自分が何者なのかを知りたい霧香とあの襲撃犯の正体を突き止め、最終的には家族を殺された復讐を遂げると決意したミレイユの利害は一致し、二人はパリに拠点を構え、殺しのユニット「ノワール」を結成する。殺し屋である自分の正体を知られた以上は霧香を生かしておけないと決めたミレイユは、全てが片付いたら霧香を殺すと約束し、霧香もそれを了承している。
人を殺して生きている、なのになぜ悲しくないのかと苦悩する霧香に、それが分かればあんたを殺せるのにとミレイユはそっけなく告げる。自分の正体が分からない以上霧香は人を殺しても悲しくない理由が分からず苦悩し続ける、しかし霧香の正体が分かればおのずと襲撃犯の正体もつかめることになるためミレイユの目的は達成される。すべてが明らかになったその時は、ミレイユが霧香を殺すその時なのだ。
大人しい無口な少女である霧香と陽気なパリジェンヌであるミレイユはこのようにいまいち関係性がかみ合わないものの、送られてくる刺客の相手や殺しの依頼などを二人でこなしていくうちに、徐々にではあるが距離を縮めていく。
自分たちに襲い掛かる連中の正体を突き止めるためにミレイユは知り合いの情報屋であるヴァネルに調査を依頼するが、ヴァネルは一家もろとも殺害されてしまう。ミレイユが依頼した敵の情報を手に入れた矢先の出来事であった。ミレイユは落胆しながらもヴァネルが残していた手がかりをもとに霧香とサンギャン教会へ向かい、そこで謎の古文書のコピーを手にする。それには「ソルダ」という文字があった。立ち去ろうとしたミレイユはソルダの一員と名乗る男に襲撃されるも、霧香と共に男を逆に追い詰める。その男は「自分を殺せばソルダの情報を得られなくなる」とミレイユに告げるが、ミレイユはためらいなく男を射殺した。過去への扉は誰かに教わるのではなく自分の手で開くとミレイユたちは決めていたのだ。
ソルダとはどんな組織であるのか。全く情報が掴めないままであるミレイユはマフィアのグレオーネ・ファミリーとソルダとの契約書の存在を知り、二人はマフィアの幹部であるドン・ルシオの暗殺依頼を請け負う。無事ルシオ殺害の依頼を完遂する二人だが、彼を殺されたことによりノワールへ復讐心を燃やすグレオーネ・ファミリーの長老ドン・サルヴァトーレは孫である「イントッカービレ」(侵すべからざる者)の異名を持つシルヴァーナを呼び寄せる。シルヴァーナはマフィアの規律を大事にし、それを裏切るものは肉親であろうと容赦しない。5年前マフィアの戒律を破った父親を殺害したことによりシシリアに幽閉されていたのだ。己を幽閉したドン・サルヴァトーレをためらいなく殺害したシルヴァーナはノワール抹殺のための準備を始めた。情報提供者によりシルヴァーナはノワールと呼ばれる人物の正体、そしてノワールがグレオーネ・ファミリーとソルダが結んだ契約書を狙っていることを知り、契約書を用意しノワールをおびき寄せる作戦に出た。
ミレイユはかつてシルヴァーナと一度だけ会っていたが、その時の恐ろしさが未だに彼女の心を蝕んでいた。幼い頃ミレイユはシルヴァーナと一緒に遊んでいる最中、唐突に刃を向けられて髪を切られる。冷酷な瞳と鋭い短剣、ミレイユはそれ以来恐怖心がぬぐえないでいたのだ。
世界で最も凶暴な姫君、と呼ばれるシルヴァーナを一度は追いつめるが、ミレイユは昔の思い出がフラッシュバックして金縛り状態に陥り、引き金を引くことが出来ず、逃げられてしまう。一方の霧香はシルヴァーナの部下相手に苦戦を強いられ、負傷してしまう。
シルヴァーナを追いシシリアへ向かう二人。ミレイユは海辺の崖にて一人でいるところをシルヴァーナと再会する。明日の正午、リベオの寺院で契約書と共に待っていると、不敵に笑う彼女に対してミレイユは何も言えないでいた。
シルヴァーナと一騎打ちを迎えるミレイユ。シルヴァーナに襲われるその瞬間までミレイユはまたしても過去の恐怖がフラッシュバックして金縛り状態になってしまい、構えた銃を撃てないでいた。しかし途中、駆けつけた霧香が咄嗟にシルヴァーナの短剣を撃ち、その刀身を折る。折られた刃を拾いその勢いのままミレイユはシルヴァーナを刺した。倒れたシルヴァーナから受け取った契約書には、ソルダがマフィアの誕生にも干渉していた旨が書かれていた。
悪徳警官のルビックと汚職判事のデスタン両名の殺害依頼を請け負う二人。裁判所に忍び込むものの、ルビックはすでに何者かに殺害されていた。巷ではノワールの仕業であるという声があったが、ミレイユたちは一体何者なのかと困惑するばかり。もう一人のターゲットデスタンの元へ向かう二人、しかしデスタンは謎の暗殺者より忠告を受けて警備の手を厚くしていた。危機に陥るミレイユたちだが、当の暗殺者の登場により現場が混乱に陥る。その隙に二人は警官たちを全滅させ、デスタンを追いつめようとしたが既に彼は殺害されていた。疑問を抱く二人の前に、自分こそが真のノワールだと名乗る少女・クロエが姿を現す。真のノワールと何であるのか、新たな謎が生まれる。
困惑するミレイユたちのもとへ、ソルダが接触を求めてくる。ミレイユのアパルトマンに送られてきた謎のコピーは、サンギャン教会で見つけた古文書のコピーそのものであった。その送り主であるソルダの男は、古文書の原本にソルダ創設のすべての発端が記されていると語る。しかしその所在を聞く前に男は、ソルダ次期司祭長候補であるアルテナが送り込んだクロエによって殺害される。彼は反アルテナ派の一人であり、二人を味方に引き込もうとしていたのだ。手がかりをまたしても失った二人は事の真相を考えていたが、そんな二人のもとにクロエが突然訪れる。何をしに来たのかと、ミレイユは銃を向けるが、特に理由はないとクロエは笑う。霧香の提案により月夜の下で奇妙なお茶会を開く三人。帰り間際クロエは霧香が袖に隠し持っていたフォークを発見、記念にと持って帰っていった。

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お茶会をする三人。まるでマッドティーパーティだわ、とミレイユは呆れた様子。

ある日、ミレイユは幼い頃に別れたきりの叔父・フェデ―と再会する。当時故郷であるコルシカ島を離れて落ち込んでいたミレイユは、よく叔父に連れられて湖へ行っていた。その思い出の湖でミレイユはフェデ―に「ノワールについて何か知っているか」と問いかけられる。何故叔父がその質問をしたのか分からないまま数日が過ぎ、フェデ―によって屋敷へ呼び出しを受けたミレイユは、そこで彼が霧香を暗殺しようとしている事実を知る。その依頼人は、ソルダだった。
フェデ―はソルダに忠誠を誓った身であり、だからこそ生きてコルシカ島を出られたのだとミレイユに説明し、父であるローランと同じようにソルダに逆らうことはならない、もし逆らえば両親同様始末されると強く説得する。ミレイユはここで初めて、ソルダが両親殺害に関与していることを知る。しかし何故父はソルダに逆らったのか、疑問が残る。
相棒である霧香を選ぶのか、肉親であるフェデ―の忠告を聞きソルダに従うべきか、ミレイユは悩み、霧香を連れて行くという約束通り屋敷を訪れた。しかしそれはフェデ―の説得に応じたのではなく、彼と決別するためであった。ミレイユは自らの手で、残された肉親であったフェデ―を撃った。
やりきれない気持ちを抱えたミレイユのもとに、ソルダから台湾での仕事を依頼する封書が届く。ソルダの思惑通りに動くのは危険だという霧香の意見を無視して台湾に飛んだ二人は、ソルダの協力者が待つという寺院に来たが、そこで殺し屋たちと銃撃戦となる。逃走したソルダの男をミレイユは追うが、「冷眼殺手」の異名を持つ殺し屋シャオリーにより捕らえられてしまう。一方、殺し屋の一人に銃を頭に突き付けられて絶体絶命の危機に陥っていたところへクロエが現れ難を逃れる霧香。ミレイユを救出するために共闘する二人の姿を見て、ミレイユは疎外感を覚える。
ソルダと家族の関係性を知るため、ミレイユは一人故郷コルシカ島へ旅立つ。マフィアの有力者であったブーケ一家が牛耳っていたその場所は、現在ベルトニエという男が権力を持っていた。ベルトニエからブーケ一家殺害の仇について情報を得たミレイユは、唯一の生き証人であるかつて父ローランの右腕であったマドランと接触する。そしてマドランはミレイユに衝撃の事実を伝えた。
ミレイユの両親は叔父のフェデ―と同じくソルダに忠誠を誓った身であり、代々ブーケ家はソルダに属していたからこそコルシカでの権力を得ていたというものであった。しかし、両親がソルダの一員であったならば、なぜ仲間であるソルダによって処分されたのかミレイユは理解が出来ない。それを聞く前にマドランは突如殺害されてしまう。その犯人を倒したミレイユに近づいてきたのはクロエであった。
あなたもソルダの子。クロエはそう告げた。ミレイユはショックを隠し切れないままパリへ戻る。泣き崩れるミレイユに、霧香はかける言葉すらなかった。
傷ついたミレイユは感情のまま霧香に「消えて。あたしの前から」と告げる。ミレイユはアパルトマンで一人考え事をしていたが、ふとした拍子に霧香が置いて行ったままの上着から学生証を発見する。霧香と会う前に霧香のことを調査していたミレイユは、その学生証が偽造されたものであることを知っていた。しかし偽造された学生証ではあるが、霧香は大切に持ち続けていた。記憶を失った霧香にとってその学生証は、自分の存在そのものを証明するものであったのだ。
行くあてを失った霧香は、街を彷徨う内にソルダに接触する。反アルテナ派と名乗る男は、クロエを従えているアルテナに対抗するため、霧香を味方に付けるつもりなのだという。霧香はこのことをミレイユに伝えようと電話を掛けるが、感情の整理が出来ていないミレイユは一方的に電話を切ってしまう。霧香は指示された場所へ向かうが、そこで出会う予定だったはずの人間は、すでに何者かに殺されていたあとだった。その手にはいつかの古文書のコピーが握られており、その原本のありかを求めるために霧香は午後の8時に再び男と会う約束をする。しかし霧香はクロエによって、ミレイユがソルダに狙われており、その暗殺予定時刻が午後8時だと知る。霧香は走り出し、間一髪でミレイユを救うことに成功した。古文書よりも自分のことを優先した霧香の姿にミレイユは己を恥じ、霧香の忘れ物である学生証を返す。

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古文書よりもミレイユを優先した霧香。この件で二人は一度和解する。

ついに原本のありかを突き止めた二人はウィーンへ飛ぶが、そこはすでに火事ですべてが焼失した後だった。そこへクロエが現れ、真のノワールとは何であるのかを語る。
ノワールは本来ソルダに属する乙女であり、その中でも真のノワールと呼ばれる者は、激戦から生還を果たし張り巡らされた罠をかいくぐり、すべての試練を乗り越えなければならない。つまり真のノワールとは、度重なる生死をかけた戦いに勝ち残った二人の乙女を意味している。アルテナはこの任命の儀式の意を込めて、ミレイユと霧香に刺客を送り続けていたのだ。
今まで遭遇してきたソルダよりの刺客はアルテナによる指示だったと知り驚愕するミレイユたち。また、真のノワールとなる存在は二人一組であることをクロエは告げる。そこへ反アルテナ派による刺客が襲い掛かり銃撃戦となる。そこでミレイユが見たのは、背中合わせで抜群のコンビネーションを誇る霧香とクロエの姿だった。戦闘後、クロエは霧香に語りかける。「私とあなたは真のノワール」ソルダは霧香の敵などではない、ソルダこそ霧香のふるさとである、と。霧香はソルダで育ち、アサシンとしての最高の資質を備えた逸材なのだと語る。衝撃を受ける霧香の前でクロエが「ノワール、其はいにしえよりのさだめの名、死を司る二人の処女(おとめ)、黒き御霊は迷い子を業火の淵に誘いたまふ」と唱和を始めると、それに呼応するように霧香も唱和を始める。「ノワール、其はいにしえよりのさだめの名、死を司る二人の処女(おとめ)、黒き御手は嬰児(みどりご)の安らかなるを守りたまふ」と。ミレイユの呼びかけに我に返った霧香は、自分の行動を理解できていなかった。クロエは「また来ます」と去っていく。二人は無言でパリへ戻っていった。
霧香はかつての学生時代を回顧する。自分が普通の人間ではないことはとうに分かっていた、しかしどこかに普通の自分がいると思いたかった、と霧香は苦悶する。けれどその夢は打ち破られ、今はミレイユが冷たい視線を送るばかりであった。
クロエとの一件以来二人の間に埋まらない溝ができる。クロエが言っていた真のノワール、クロエと霧香は特別な存在、ならば自分は何なのかとミレイユは自嘲気味に呟く。クロエと霧香が真のノワールとして選ばれたのならばミレイユが存在する意味は何だったのだろうか、その答えを霧香は持っていなかった。
一方で、クロエはアルテナのところへ戻りつかの間の平和な時を甘受している。その水面下で反アルテナ派のソルダ最高評議会は焦りを見せる。このままアルテナの望むままに時代錯誤であるソルダの原点回帰、その象徴ともいうべき真のノワールの復活が遂行されればアルテナは次期司祭長として最高の権力を得る。
アルテナは時代と共に変わっていったソルダの姿、私欲によって戦火を引き起こすという様を快く思っておらず、ソルダが結成された頃の姿、悪の力を持って悪を制す本来の姿を取り戻そうと目論んでいた。
アルテナを阻止するためにはミレイユと霧香を処分しなければならない。評議会が用意したえり抜きの戦士たちがパリに送り込まれる。激しい銃撃戦の中、霧香の目にはいつもと違う光が宿っていた。それは、冷たく暗い殺人者の目だった。

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銃撃戦のさなかの霧香。いつもとは別人のようだ。

戦闘が終わった二人の前にクロエが姿を見せる。クロエはアルテナに指示され、霧香に荘園への最後の道しるべを渡しに来たのだという。霧香はうつろな目をしたまま、指示通りにクロエへ銃を渡す。驚くミレイユの前で、クロエは霧香を撃った。
倒れる霧香の脳内に過去の記憶の一部がフラッシュバックする。幼少期の、銃を誰かに構えるシーンだった。
撃たれた霧香に駆け寄り脈を確認するミレイユ。死んではない、外傷もなく生きている。何のつもりだと憤るミレイユにクロエは淡々と、ミレイユの家族を殺した犯人の名前を告げた。
夕叢霧香。それこそが、ミレイユの両親と兄を殺した犯人なのだと。
愕然とするミレイユ、そんなのは嘘だと声を荒げるが事実だとクロエは冷静なまま。証拠はないが、この目でその瞬間を見ていたのだとクロエは笑う。
ミレイユもまたソルダの司祭長の祝福を受けた身、数多の試練を乗り越え真のノワールとなりうる資格は充分にあった。しかし両親は、ミレイユをソルダに引き渡すことによってミレイユが暗闇の世界でのみ生きる存在となる、真のノワールになることを危惧し引き渡しをを拒絶、そのためにソルダによって始末されたのだ。事実を知ったミレイユは、ただ呆然とするしかなかった。両親が殺されたのは、すべてミレイユを守るためだったのだ。
その場を霧香が走って飛び出す。霧香もまた、その事実を思い出していたのだ。雨の中をさまよう霧香にソルダの刺客が襲い掛かる。彼らを迎撃する霧香の目は狂気に光っていた。追ってきたミレイユに霧香は「私には償えない」と言う。
約束があった。すべてが分かったら、ミレイユが霧香を殺すと。
ソルダがミレイユたちを襲っていたのはアルテナの指示によるもので、ミレイユたちを真のノワールとするために試練を乗り越えさせるという儀式を遂行していたのだ。
これで襲い来る刺客の正体もミレイユの家族を殺した犯人も判明した、今が自分を殺す時なのだと霧香はまっすぐにミレイユを見つめる。ミレイユは銃を構えた。
しかしどうしても引き金が引けない。自分でもどうしていいのか分からないまま霧香に背を向けるミレイユ。その背に霧香は「私を殺して!」と叫ぶがミレイユは去って行ってしまう。
一人残された霧香は、銃を片手に朝靄の中をさまようのだった。

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霧香に銃を向けるミレイユ。その胸中は複雑だ。

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幼少期の霧香。その銃口はミレイユの家族に向けられてる。

一人荒野をさまよう霧香は、とある村で倒れているところを介抱される。そこはアルテナの待つ荘園の入り口にある、小さな村だった。無意識のうちに荘園へ向かおうとしていたのだと、霧香を発見したトリスタンと名乗る男は穏やかに告げる。彼に勧められるがままに村の中を散策する霧香は、まだ幼い少年少女たちの姿を見てミレイユのことを思い返す。
家に戻った霧香の前で、村人全員が跪く。老若男女問わず、全ての村人が。驚く霧香にトリスタンは「私たちは全員、ソルダです」と衝撃の言葉を口にする。
全員がソルダであるこの村の役目は、荘園へと侵入してくる者たちを拒むというものだった。そのためだけに存在している村人たちは、霧香を追ってきた反アルテナ派の刺客との銃撃戦にも顔色一つ変えず応戦する。霧香を介抱してくれたトリスタンもまた、ソルダの一員でありこの村で荘園を守っていたのだ。
トリスタンの妻であるマルグリットの案内によって、銃撃戦によって焼かれる村を後にする霧香。しかし追っ手によってマルグリットは射殺される。その瞬間霧香の表情が変わる。一瞬で追っ手を全滅させた霧香の表情は、パリで一瞬見せたあの殺人者の目であった。
霧香は村を後にし、ついに荘園へとたどり着く。そこで霧香を迎えたのは、無邪気な笑顔を見せるクロエと慈愛の笑みを見せるアルテナだった。
「おかえりなさい」とアルテナに抱き締められた霧香は静かに「ただいま」と呟いた。

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反アルテナ派の襲撃に対し、防具も身に着けず死ぬ覚悟で応戦する村人たち。

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炎に包まれた村を見下ろす霧香。その表情にあの心優しい少女の面影はない。

一方、霧香を撃てなかったことに一人思い悩むミレイユのもとへ、ソルダのメンバーだと名乗るブレフォールという男が接触してくる。彼はミレイユがソルダへ入る条件として、荘園へ赴き霧香かクロエのどちらかを始末し、ミレイユ自身が真のノワールとなることを提示する。ミレイユは家族の仇であるソルダに入るつもりはないとすげなく返答するが、ブレフォールと話をしている公園周辺の人間全てがソルダであること、ミレイユの言動次第ではすぐにでも襲い掛かろうとする気配を察する。選択の余地はないと思ってくれとブレフォールは去っていった。
部屋に戻ったミレイユは、いつかの銃撃戦で壊れかけた植木鉢を処分しようとし、その際に偶然手紙を発見する。
そこには、霧香がミレイユへ残した感謝の言葉がつたなくもはっきりと書かれていた。
『私は一人じゃなかった。私にはあなたがいた。大好きなミレイユ。』
バカじゃないの、と呟いたミレイユの頬に涙が伝う。
後日ミレイユはブレフォールのもとへ向かう。荘園に行く、と決めて。
しかしそれは、真のノワールになるためなどとは関係なく、あくまでも自分のため、自分の家族や相棒を苦しめた人間の正体を確かめるためだった。

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手紙を読むミレイユ。

荘園にて霧香はクロエ、アルテナと共に時を過ごす。ここで霧香はアサシンとして育てられ、真のノワールとして最高の戦士となったのだ。
「愛で人が殺せるなら、憎しみで人を救えもするだろう」アルテナはそう霧香に囁く。
クロエは霧香と訓練で剣を交え入浴を共にし、霧香とこうして同じ時を過ごせるのが夢のようだと笑いかける。その手には、かつてお茶会でクロエが持ち帰ったフォークが大事そうに握られている。
ノワール継承の儀式が進められる中、アルテナはクロエが霧香から借りた銃を返す。その時霧香の脳内に、過去の記憶がフラッシュバックする。
その記憶はアルテナが霧香に銃を手渡すシーン。あの時、ミレイユの家族を殺した時もこうやって銃を受け取ったのだ。
苦悶する霧香はアルテナへ銃を向ける。驚愕するクロエを尻目にアルテナは静かに「撃ちなさい」と告げる。
真のノワールとなるためにアルテナを撃つことが必要な事柄であるならば、それを果たさなければならない。
そう諭された霧香はその場に崩れ落ち、アルテナが優しく抱き締める。
霧香の心情をよそに、儀式の準備は着々と進んでいく。
アルテナの部下たちの前に姿を見せた霧香とクロエ、その姿はまさに、ノワールと呼ぶにふさわしい美しさであった。
一方のミレイユが運転する車は、荘園へと差し掛かるところまで来ていた。

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霧香とクロエ。アルテナの部下であるシスターたちも思わず「美しい」とこぼした。

ついに儀式の日が来た。禊を終えた二人の表情は対照的だ。クロエは終始笑顔を見せているが霧香の表情は硬いまま。
そんな二人の前にミレイユが到着する。明らかに様子が違う霧香にミレイユは戸惑いを隠せない。
「ここはあなたの来るところではない」と霧香は冷たく銃を向ける。クロエは戸惑いながら霧香とミレイユを交互に見つめていた。
荘園での銃撃戦が始まる。両者はほぼ互角のまま撃ち合うが、ミレイユが投げた懐中時計からあのメロディが流れたその瞬間、霧香は凍り付いた。
銃を落とし、体を震わせる霧香。その脳内では、ミレイユの母オデットが霧香を見据えている。
「ミレイユを、お願いね」オデットは静かにそう言った。自分が殺されようとしてもなお娘の身を案じる母の姿がそこにはあった。
「確かに愛が人を殺すこともある、しかし憎しみは決して人を救いはしない。」オデットのその言葉が、霧香を暗黒の呪縛から救い出した。あの狂気の光が目から消えた霧香は、ミレイユに襲い掛かるクロエのナイフを撃った。
クロエは儀式の邪魔をしようとするミレイユを今まさに手にかけようとしていたのだ。
どうして、とクロエは悲しそうに霧香を見る。答えない霧香に、自分ではなくミレイユが選ばれたのだと悟ったクロエは激昂して霧香に襲い掛かる。
霧香はクロエと戦うつもりなどなく防戦一方で止めるようにクロエに訴える。やがてクロエはあのフォークを取り出して投げ捨てた。
霧香に背を向けたクロエは次の瞬間、ミレイユを仕留めようと走り出した。
呆然とするミレイユの前に、霧香が回り込む。そのクロエの胸を、霧香が咄嗟に拾ったフォークが突き刺していた。
「ノワール……」最期にそう呟いてクロエは絶命した。
その亡骸を横たえ、傍らにフォークを置く霧香。
「クロエは、もう一人の私だった」ミレイユにそう言う霧香の目からは涙が止まらなかった。

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全てを悟ったクロエ。次の瞬間からの展開はまさに一瞬の出来事。

アルテナの待つ地下宮殿へ急ぐ霧香とミレイユ。アルテナはこの状況でなお儀式を遂行せんと二人を待ち構えていた。
地下宮殿の祭壇にてアルテナを殺すことによって霧香たちは深い闇を受け入れた真のノワールとなる。アルテナは「お撃ちなさい」と微笑みかける。
ノワール復活を心より望むアルテナは、最後に己の身を祭壇への贄として差し出したのだ。
穏やかな表情のまま語りかけるアルテナに、ミレイユは「あんたなんか殺される価値もない」と憤る。銃を下ろしたミレイユをアルテナは撃った。銃を構える霧香に「お撃ちなさい、でないとお友達が死んでしまいますよ」とけしかける。
なお迷う霧香をよそにアルテナはミレイユを狙ってもう一度銃を撃つが、ミレイユを守ろうと咄嗟に庇う霧香。腹部を撃たれた霧香は苦しみながらもアルテナに飛び掛かり、祭壇に備えられていた火の海へとアルテナごと落ちていく。
ミレイユがその入り口を覗き込むと、片手でかろうじて己を支えているアルテナと、その腰にしがみついている霧香がいた。
霧香を救おうとミレイユが手を伸ばしたのと、アルテナが霧香を引き上げミレイユに託したのとはほぼ同時のタイミングだった。
アルテナは二人が深い絆で結ばれた真のノワールになった瞬間を見届けて、火の海へ消えていった。
霧香はここで死ぬつもりだったが、ミレイユの涙を見て生きようと決心、ミレイユの手を取った。
満身創痍でお互いに支え合いながら荘園を出ていく二人。ブレフォールを含むソルダ最高評議会の男たちが二人を見て「ノワール……」と呟くが「違うわ」と霧香は否定した。
「道を開けなさい、闇の暗さを怖れるなら」毅然としたミレイユの態度に黙って男たちは道を開ける。我々の住む世界は暗黒なのだと諭すブレフォールに「だから、明かりを求めるのよ」とミレイユは言い残して去っていく。
これからどうするか、パリへ帰って熱いお茶が飲みたいと穏やかに話しながら、ミレイユたちは暗闇へ消えていくのだった。

樋口ヤサト
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